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原子力平和利用と核不拡散の両立をめざして


昭和52年8月15日
原子力委員会委員長談話

 我が国が、平和国家としての再出発を決意した昭和20年8月より、すでに32年の歳月が経った。

 この秋にあたり、原子力委員会は、原子力の平和利用の推進とその軍事利用廃絶への希求につき、思いを新たにするとともに、そのことに関し、今後も全力を傾注することを表明したい。

 核エネルギーの利用は、人類の英知の所産であるが、それは一には人類の繁栄をもたらし、一にはその滅亡につながる両刃の劒というべきである。

 昭和31年制定された我が国の原子力基本法が、原子力の開発利用は平和目的に限ることを基本として、その開発には、民主、自主、公開の三原則が必要であることをうたっているのも、我が国が世界唯一の被爆国であるという体験と、それを二度と繰り返させまいとする決意より出でたものであることを、茲に改めて想起すべきである。

 現にその後、我が国は、平和憲法の下、核兵器を持たず、作らず、持ちこませずの非核三原則を国是として堅持してきた。また昨年6月、核兵器不拡散条約を批准したが、これらはいずれも核兵器廃絶という我が国民の願いとともに、原子力平和利用促進への期待をこめたものであった。

 我が国は、このような不動の決意の下に、原子力の平和利用による国民福祉の向上と、人類の幸福への貢献に力を尽してきたが、近年、国外における原子力の軍事転用への危惧がたかまりつつあることから、その平和利用、とくに使用済燃料の再処理や高速増殖炉の開発などに対しても、国際政治の観点から新たなる問題が提起されるに至っている。

 当委員会は、核兵器不拡散へのこうした問題提起を重要視し、それに対するより効果的な方途を探求するため、将来に向っても世界にさきがけて不断の努力を積み重ねることを強調したい。

 同時に、また、核不拡散それ自体が原子力の平和利用を妨げるものであってはならないことも、国際的には約束されたところであり、原子力の平和利用は人類共通の課題である資源有限性に備えるものとして、今後もますます必要であることを確信するものである。

 特に、資源小国の我が国としては、石油に替わる新エネルギーの開発を急がねばならず、なかでも、ウラン濃縮、使用済燃料の再処理、高速増殖炉の開発等を中心とする核燃料サイクルの確立こそは準国産エネルギーを創造するものとして、焦眉の急といわねばならない。

 むろんそのためには、原子力平和利用に対する国民のより深い理解と、より広い協力を得ねばならないが、開発とともに、原子力の平和利用における安全性の確立とその国際的保障措置の強化が肝要であることはいうまでもない。

 すなわち、恒久平和の理念と、それを達するためのあらゆる努力を前提とするならば、核兵器の不拡散及び将来におけるその廃絶と、原子力平和利用は両立可能である。

 しかもそれは、人類の英知と理性によって実現されるものであり、そのため世界各国がそれぞれの立場において努力することは勿論、更には、国際的にも人種、思想、信仰などの違いを超えた真の連帯と協調がより一層強く進められてこそはじめて可能なものであることも、また、深く認識されなければならない。

 当委員会は、この考え方が、すべての国民、すべての国に広く理解されることを衷心より望むとともに、委員会自らも新たなる決意のもとに、その本分を全うせんとするものである。


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