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発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被ばく線量評価について


昭和52年6月
原子炉安全専門審査会
被ばく線量評価検討会

Ⅰ 目的


 原子炉施設に起因する一般公衆の被ばくは、原子炉施設から環境に放出される気体廃棄物及び液体廃棄物中に含まれる放射性物質に起因する放射線並びに原子炉施設から直接放出させる放射線によるものである。

 これらによる被ばく線量は、放出放射性物質の種類、量等の放出条件、拡散希釈等に寄与する自然条件、食品流通等の社会条件及び食生活等の生活条件によって変化し、また、被ばくする人体の年齢、臓器組織によっても異なるので慎重な取り扱いが必要である。

 ここでは、環境に放出された放射線又は放射性物質が環境要因との関連において種々様々な挙動をとりながら、人体に被ばくをもたらすことを考慮し、発電用軽水型原子炉施設の安全審査に際し行われる平常運転時の一般公衆に対する被ばく線量評価の基本的考え方を検討した。


Ⅱ 気体廃棄物及び液体廃棄物中の放射性物質による被ばく形態と被ばく線量


1 原子炉施設から放出される放射性物質は、環境中に広く分布し、多くの環境要因との関連において種々様々な挙動をとるので、一般公衆はいろいろな形態によって被ばくするという特徴がある。(付録1参照)

 しかしながら、原子炉施設から放出される放射性物質の種類と量が明らかな場合には、放射性物質の環境及び人体内での挙動の特性によって人体組織の被ばく線量を推定できるので、この結果をもとに、さらに人体組織の機能上の重要性に着目すると、一般公衆の被ばくに対して最も重要な被ばく形態をいくつか選び出すことができる。

2 このため、現在の原子炉施設の設計及び運転経験から推定される放射性物質の放出をもとに一般公衆の代表的個人の被ばく線量に関するケーススタディを実施した。

 ケーススタディは、電気出力110万kWクラスの沸騰水型原子炉施設(BWR)及び80万kWクラスの加圧水型原子炉施設(PWR)から放出される1ユニット当たりの放射性物質の量をもとに既設のサイトの拡散条件を用いて算出した環境中の濃度分布を前提として行った。

 気体廃棄物中の放射性物質による被ばく経路は、放射性プルーム(放射性雲)からの放射線による外部被ばく、地表に沈着した放射性物質からの放射線による外部被ばく並びに呼吸及び葉菜、牛乳の摂取により体内に取り込まれる放射性物質による内部被ばくを対象とし、また、液体廃棄物中の放射性物質による被ばく経路は、海洋及び海浜中に拡散した放射性物質から放出される放射線による外部被ばく並びに海産物の摂取により体内に取り込まれる放射性物質による内部被ばくを対象とした。

 人体組織については、全身(生殖腺又は造血臓器)、皮膚、甲状腺、骨、大腸に着目して行なった。

 ケーススタディの結果は、第1表及び第2表に示すとおりであり、この詳細な内容は付録Ⅱに示すとおりである。

 なお、付録Ⅱで示すケーススタディは、現実的なモデルと平均的なパラメータの値を用いて行っているが、調査データが不十分な場合には、控え目な仮定を用いている部分もある。とくに、液体廃棄物中の放射性物質による被ばく線量は、放水口濃度等の仮定を用いて計算しているが、海洋での拡散効果等を考慮すれば、ケーススタディの結果は、さらに小さくなるものと考えられる。

3 ケーススタディの結果では、被ばく線量は、被ばくの形態によって大きく異なっているが、さらに一般公衆の被ばくに対して最も重要な被ばく形態を明らかにするため、このケーススタディの結果をもとに、人体の各組織の被ばく線量及び被ばく経路による被ばく線量とICRPが勧告した一般公衆の線量限度をそれぞれ対比してみると、第3表、第4表及び第5表に示すとおりとなる。

 このことから、原子炉施設周辺の一般公衆の被ばくは、放射性希ガスのγ線による外部全身被ばく、海産物を介して摂取した放射性物質による内部全身被ばく及び放射性よう素の摂取による内部甲状腺被ばくが最も重要な被ばく形態であると考える。

第1表 気体廃棄物及び液体廃棄物に含まれる放射性物質の放射線による外部被ばく線量

第2表 気体廃棄物及び液体廃棄物に含まれる放射性物質の放射線による内部被ばく線量

第3表 一般公衆の線量限度と被ばく経路による被ばく線量(外部被ばく)

第4表 一般公衆の線量限度と被ばく経路による被ばく線量(内部被ばく)

第5表 一般公衆の線量限度と人体組織の被ばく線量

Ⅲ 原子炉施設から直接放出される放射線による被ばく線量


 原子炉施設周辺の一般公衆は、放射性気体廃棄物及び液体廃棄物による被ばくのほか、原子炉施設から直接放出される放射線によって被ばくすることがある。

 この放射線は、通常、原子炉建屋、タービン建屋等の主要施設及び固体廃棄物貯蔵庫に内蔵されている放射性物質が放出する透過力の強いγ線であり、これが直接的に又は、空気中で散乱されて施設周辺に到達してくるもので、直接γ線、スカイシャインγ線と呼ばれるものである。

 これらの線量は、γ線の発生源である原子炉施設自身が固定されているので、敷地から距離が離れるにしたがって急速に減弱する。

 このように直接γ線、スカイシャインγ線による被ばくは、気体廃棄物及び液体廃棄物中の放射性物質による被ばくとは異なって、被ばくをもたらす範囲が限定されるので、施設周辺に対しては、無視できる水準になると考えられる。

 原子炉建屋、タービン建屋等の主要施設を起因する直接線量及びスカイシャイン線量は、施設の位置、しゃへい構造、地形条件等によって異なるが、大きい場合でも年間2ミリレントゲン程度と試算されている。

 固体廃棄物貯蔵庫からの線量は、固体廃棄物の蓄積によって増大することが予測されるものの、設計上の配慮と固体廃棄物の適切な配置、しゃへい材の使用等によって線量を十分低く管理することは可能である。

 したがって、直接線量とスカイシャイン線量については、人の居住の可能性のある整地境界外において被ばく線量の基準にくらべ、十分小さな値になるように施設を設計し、管理することを原子炉設置許可申請書等において明記するならば、とくに審査に際しその線量を評価することは必要ないと考える。

* ここでは、後述する線量目標値との関連において年間5ミリレントゲン程度を考える。


Ⅳ 被ばく線量の基準


1 現行法令に定める一般公衆の被ばく線量の基準は、ICRPの勧告にもとづき、原子炉施設については、周辺監視区域外の人の許容被ばく線量として、1年間につき500ミリレムを定めている。

 また、呼吸する空気中又は飲用する水中の放射性物質については、許容濃度の値を核種ごとに与え、それに基づく被ばく線量の計算方法を定めている。

2 現行法令に定める被ばく線量の基準のほか、発電用軽水型原子炉施設に対しては、原子力委員会が定めた「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」(以下「線量目標値に関する指針」という)がある。

 この指針は、発電用軽水型原子炉施設周辺の被ばく線量を容易に達成できる限り低く保つための設計及び運転管理の努力目標として線量目標値を与えたものであり、その目標値は上述の被ばく線量の基準に比べ十分小さな値に定められている。

 また、原子力委員会は、「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」(以下「評価指針」という)を定め、線量目標値に対する被ばく線量評価の標準的な計算方法を示している。

 「線量目標値に関する指針」では、線量目標値は人体組織のうち、全身(生殖腺、造血臓器)及び甲状腺について定めており、また、「評価指針」では、被ばく線量評価に際して着目すべき放射性物質の種類と被ばく経路を定めている。

 Ⅱ章で述べたケーススタディの結果が示すように「評価指針」で定められた被ばく形態は、一般公衆の受ける被ばく形態のうち主要なものを網羅していると考えられる。

※ 「評価指針」では、放射性プルーム中の希ガスから放出されるガンマ線による外部全身被ばく線量、放射性物質を含む海産物の摂取による内部全身被ばく線量並びに呼吸、葉菜、牛乳及び海産物を介して摂取する放射性よう素による甲状腺被ばく線量を対象としている。


Ⅴ 安全審査における被ばく線量評価の基本的考え方


 安全審査において、一般公衆の被ばく線量を評価する目的は、原子炉施設による被ばく線量が一般公衆に係る被ばく線量の基準を十分満足し、かつ「線量目標値に関する指針」に適合していることをあらかじめ確認することにあるので、その確認にあたっては、空気中及び水中の放射性物質濃度に着目するほか被ばく線量を評価することが必要である。

 一般公衆の被ばく線量は、原子炉施設に直接起因する放射線の強さ、環境に放出される放射性物質の種類、量、及び物理的化学的形態、環境のもつ拡散希釈能力、放射性物質の農畜水産食品への移行割合、居住様式、食生活慣習等にもとづいて行なわれるが、その評価にあたっては、人体の各組織に対するICRPの線量限度を勘案し、重要と思われる被ばくの形態に着目して被ばく線量評価を行うことが必要である。

 しかしながら、Ⅱ章で示したケーススタディの結果からわかるとおり、「評価指針」で定めている被ばく形態による線量にくらべ、その他の被ばく形態による線量は、同等もしくは小さく、また、全ての被ばく形態による各組織の被ばく線量もICRPの線量限度にくらべて100分の1以下である。

 したがって、「評価指針」によって評価した被ばく線量が、線量目標値に適合するならば「評価指針」に定める線量計算の諸条件の変動を考慮に入れても、全ての被ばく形態による被ばく線量は、被ばく線量の基準を十分下まわるものである。

 したがって、安全審査に付託された原子炉施設の設計及び管理方法が既設のものと顕著な相違がない場合には、原則として「評価指針」によって行った被ばく線量評価の結果は、現行法令に定める被ばく線量の基準に対する適合性を判断するうえに十分なものと考える。


付 記

 本検討は、原子炉施設から放出される放射性物質についてそれによる一般公衆の被ばく線量評価を中心に述べている。しかしながら、本検討の直接の対象としなかったC-14、I-129等の長半減期核種については、文献等から推定すると現在とくに問題になることはないが、その性質上比較的半減期の短かい核種と異なった挙動を示すことが考えられるので、線量評価方法等について検討することが必要である。

 また、本検討の対象とした放射性物質の放出条件等についても原子炉施設の運転経験の蓄積によって新しい変化が生じないとはいえないので、本検討の結果について適宜見直すことが必要であると考える。


検討の経緯

 原子炉安全専門審査会は、昭和51年11月26日の第153回審査会において、一般公衆の被ばく線量評価に際し、種々の被ばくについての位置付けを明らかにすることを検討するため、次の委員からなる被ばく線量評価検討会を設置した。

主査渡辺 博信 審査委員

石原 豊秀 審査委員

浜田 達二 審査委員

伊藤 直次 調査委員

今井 和彦 調査委員

阪田 貞弘 調査委員

高嶺 泰夫 調査委員

福田 整司 調査委員

森内 和之 調査委員

吉田 芳和 調査委員
部外協力者飯島 敏哲 日本原子力研究所東海研究所安全解析部環境調査解析室長代理

 検討会は、各種の文献調査及び代表的な原子炉施設について一般公衆の被ばく線量に関するケーススタディを実施し、本報告書を作成した。

 なお、ケーススタディについては、日本原子力研究所東海研究所安全解析部環境調査解析室の協力を頂いた。


付録Ⅰ

原子炉施設周辺における一般公衆の放射線被ばく

1 放射線被ばくについて

 原子炉施設周辺の場合、放射線源は原子炉施設から放出される放射性物質及び原子炉施設に内蔵されている放射性物質であり、それらの線源から放出される放射線は、通常γ線及びβ線である。

 γ線及びβ線は、互いに物理的性質が異なるので、放射線被ばくを考える場合には、その物理的性質の差異に注目しなければならない。

(1)γ線による外部被ばく

 原子炉施設から環境に放出される放射性物質は、β崩壊に伴ってγ線を放出する放射性核種が大部分であるが、なかにはγ線のみを放出する放射性核種も含まれる。また、原子核のエネルギを当該各種の軌道電子に与えて内部転換電子を放出したり、内部転換電子を放出されたあと、他の軌道電子がこの空位を満たすときに放出する特性X線あるいはオージェ電子もある。

 原子炉施設に内蔵されている放射性物質が放出する放射線のうち、実際に施設周辺で問題となるのはγ線である。

 γ線は、励起状態にある原子核が基底状態に向かって遷移するとき、その励起エネルギが電磁波(光子ともいう)として放出されるものである。

 γ線(特性X線を含む)は、電荷をもたない短波長の電磁波であるので、物質との相互作用によるエネルギ損失率は少ない。したがって、β線のような荷電粒子と異なり物質に対する透過力は極めて強い性質をもっている。

 γ線が物質を通過するとき、その物質の分子、原子と相互作用し、光電効果、コンプトン効果、電子対生成等の効果を生じ、その効果によって自身は消滅するか、エネルギの一部を失う。

 このように、γ線は、物質に対する透過力が極めて強いので、人体が放射線源よりかなり離れていても、人体内部の各組織にほぼ一様にわたって影響を与える。

 したがって、外部被ばくを考える場合、このような特徴を有するγ線は、被ばく線量評価上最も注目しなければならない放射線である。

(2)β線による外部被ばく

 β線は、放射性核種の原子核がβ崩壊する際に放出される高速度の電子であり、原子炉施設から放出される放射性物質は殆んどβ放射体である。

 β線は、荷電粒子であるので物質を通過する際、物質を構成する原子、分子を励起又は電離し、自身はそのエネルギを次第に消耗する。また、β線は、物質の原子核の近くを通過するとき、原子核の強いクーロン場によって曲げられ減速し、エネルギの一部を制動放射線として放出する。

 β線による被ばく線量評価を行うに際しては、β線のみならず制動放射線についても注目しなければならない。しかし、制動放射線の放出割合は、β線のエネルギが高く吸収物質の原子番号が大きい場合においてもさほど大きくないので、原子炉施設周辺の被ばく線量評価に際しては、γ線にくらべて一般に重要となるものではない。

 β線は、物質を励起又は電離させながらすすむが、物質中での飛程は、β線のもつエネルギの大きさによって異なる。

 たとえば、大気中で数10m、水中や生体組織中で1㎝程度の飛程を示す高エネルギβ線もみられるが、比較的エネルギの低いβ線は、物質に入射した直後からエネルギを多く損失するので、物質中での飛程はさらに短かい。

 原子炉施設から放出される放射性物質については、高いエネルギ成分をもつβ線を放出するものは少ない。したがって、β線による外部被ばくは、γ線による外部被ばくにくらべ皮膚等の表面組織を除いては、人体組織に与える影響は極めて少い。

(3)放射線による内部被ばく

 内部被ばくは、主として空気、水又は農畜水産食品を介して人体に摂取された放射性物質が放出する放射線により、人体組織が被ばくすることである。

 人体にとり込まれた放射性物質は、一般に人体組織に密着して存在するので、外部被ばくの場合と異なりγ線、β線に双方について注目しなければならない。また、人体組織内にとり込まれた放射性物質の減衰又は代謝は、その物理的、化学的性質と生物学的性質によって異なるので、人体組織の被ばく線量は、人体内での放射性物質の挙動と大きく関係する。

 したがって、内部被ばくを考える場合には、放射線の物理的性質ばかりでなく、人体内における放射性物質の挙動にも注目しなければならない。


2 放射線源について

(1)気体廃棄物中に含まれる放射性物質

 原子炉施設の平常運転時に排気筒から放出される放射性物質は、原子炉施設の種類によって放出放射性物質の量及び種類が異なるが、おおむね次の様に分類することができる。

① 気体状放射性物質

 気体状放射性物質は、気体として挙動する放射性物質であり、主として空気を構成している窒素、酸素、アルゴンが原子炉内及びその近傍で中性子に照射されて生ずるN-13、N-16、C-14、Ar-41などの放射化生成物及び原子炉内の燃料の核分裂によって発生したKr-85、Xe-133等の核分裂生成物である。

 これらの放射性物質は、その発生機構、原子炉から環境に排出されるまでの放出経路、放射性物質の物理的化学的性質等によって環境への放出量が大きく異なる。通常、問題となる放射性物質は、Ar-41、Kr-85、Xe-133等の放射性希ガスである。

 発電用軽水型原子炉施設の場合には、燃料の損傷の程度によって核分裂生成物であるKr-85、Xe-133等の放射性希ガスが最も重要な放射性核種となるが、ガス冷却型原子炉施設や研究用原子施設の場合には、燃料が損傷したまま運転されることは極めて少ないので、放射化生成物であるAr-41が最も重要な放射性核種となることが多い。

② 揮発性放射性物質

 揮発性放射性物質は、常温、常圧では液体状又は固体状であるが、高温では揮発して気体状の挙動を示すもので、ハロゲン核種と呼ばれるものがこれにあたる。

 この放射性物質は、燃料の核分裂によって生成するが、このうち放射性よう素(Ⅰ-131及びⅠ-133)は、生成量が多く、また他のハロゲン核種にくらべて物理的半減期も長いので、とくに注目しなければならない。

 Ⅰ-131及びⅠ-133は、燃料の損傷があれば放出されるので発電用軽水型原子炉施設の場合にはとくにこの点を重視しなければならない。

③ 粒子状放射性物質

 粒子状放射性物質は、塵埃等に付着して挙動するので、気体状放射性物質や揮発性放射性物質と異なり環境に放出され易いものではない。

 環境に放出される粒子状放射性物質は、原子炉の冷却材中に含まれている微量の不純物が原子炉内の中性子の照射によって生成した放射化生成物及び燃料から冷却材中に漏洩した微量の核分裂生成物であり、原子炉施設内で挙動しているうちに塵埃などとともに原子炉建屋の換気等に伴って放出される。

 これらの中にはMn-54、Co-58、Co-60、Cs-137等の放射性核種が含まれるが、その発生機構と物理・化学的性質から気体状放射性物質及び揮発性放射性物質にくらべ環境への放出量は一般に少ない。

(2)液体廃棄物中に含まれる放射性物質

 液体廃棄物中に含まれる放射性物質は、粒子状放射性物質と同様の発生機構によって生成するので、そこに含まれる放射性核種もほぼ同じである。

 原子炉施設に設けられる液体廃棄物処理施設は、一般にリサイクルの処理システムを有しており、処理が不十分な場合にはくり返して処理を行えるので、環境に放出される放射性物質の量はトリチウムを除いて比較的管理し易い。

(3)原子炉施設に直接起因する放射線

 原子炉施設に直接起因する放射線は、原子炉内の燃料が核分裂する際に発生する放射線と原子炉施設内に内蔵されている放射性物質が放出する放射線であるが、通常原子炉施設周辺で問題となるのはγ線である。

 しかし、このγ線は、原子炉容器、原子炉格納施設、使用済燃料プール、固体廃棄物貯蔵庫等において十分しゃへいされるので、原子炉施設周辺に及ぼす影響は一般に小さい。さらにこのγ線は、気体廃棄物及び液体廃棄物中の放射性物質の様に放射線源が移動しないため、敷地境界から離れるに従って距離とともに急速に減衰するので、原子炉施設周辺に対する寄与は無視できる水準になる。


3 被ばく経路について

 一般公衆は、放射線源の状態及びそれが環境のどの位置にあるかに従って種々様々の被ばく経路によって被ばくする。

 人体の被ばくを考える場合、放射線もしくは放射性物質がどのような経路によって人体にもたらされるものであるかを検討することが大切である。

(1)外部被ばくの被ばく経路

 外部被ばくの主要な被ばく経路は、次のものが考えられる。

 第1の被ばく経路は、原子炉施設の排気筒から放射性物質が放出された場合、その風下方向において放射性物質を含むプルーム(放射性雲)から放出される放射線によって地上の人体が被ばくする経路である。

 第2は、排気筒から放出された放射性物質が空気中を拡散したあと地上に沈着し、その放射性物質から放出される放射線によって人体が被ばくする経路である。

 第3は、液体廃棄物中の放射性物質が海洋中に拡散し、その海域において水泳、漁業活動等する場合、その放射性物質が放出する放射線によって被ばくする経路である。

 第4は、液体廃棄物中の放射性物質が海洋中に拡散したのち海岸の砂等に沈着し、その海岸において海浜作業等を行う場合、その放射性物質が放出する放射線によって被ばくする経路である。

 第5は、原子炉格納容器、固体廃棄物貯蔵庫等の施設に内蔵されている放射性物質が放出するγ線が直接的に又は散乱されて到達する直接線量又はスカイシャイン線量による被ばく経路である。しかし、この経路による被ばくは、第2節で述べたような性質があるので、一般にしゃへい設計が十分であれば問題になることはない。

 このように、外部被ばくによる被ばく経路は数多くあるが、これらの経路のうち何が重要な経路であるかは、主として環境に放出される放射性物質の種類と量によって決まると考えられる。

 原子炉施設周辺の環境中に最も多く放出される放射性物質は、放射性希ガスであるので、この場合には第1の被ばく経路が重要な経路になる。

(2)内部被ばくの被ばく経路

 内部被ばくの被ばく経路は、放射性物質が人体組織にとり込まれるまでの過程が無数にある食物連鎖に依存するので複雑かつ多岐である。

 したがって、その経路は放射性物質が環境に放出された段階からそれが最終的に人体組織にとり込まれるまでに幾つもの段階を経ることになるが、最終段階からみた主要な被ばく経路をあげれば次のとおりである。

 第1は、空気中及び水中の放射性物質が呼吸又は飲用によって人体組織にとり込まれる経路である。

 第2は、農作物、畜産物、海産物等に移行した放射性物質が食生活によって人体組織にとり込まれる経路である。

 これらの被ばく経路のうち、何が重要な経路となるかは環境への放射性物質の放出量、環境生物が放射性物質を濃縮する割合、放射性物質が空気中、水中または地中から食生活に供される環境生物までに移行する時間等によって決まるものと考えられる。このような観点からみた場合、一般公衆の内部被ばくについては、放射性よう素を空気、葉菜及び牛乳を介して摂取する被ばく経路並びに放射性物質を海産生物を介して摂取する被ばく経路が重要な経路になる。


4 人体組織の被ばくについて

 放射線による人体組織の生物学的効果は、人体組織に吸収された放射線のエネルギ量と線質係数をもとに評価される。

 人体組織が放射線に被ばくする場合、それが外部被ばくによってもたらされるものであっても、内部被ばくによってもたらされる場合であっても、人体組織の被ばく線量は、多くの場合、人体組織が吸収した放射線のエネルギ量と線質係数の積が同じであれば同等である。しかし、人体組織が放射線エネルギを吸収する様相は、放射線源の人体組織に対する位置の関係によって異なるので、外部被ばくと内部被ばくと区別して取り扱わなければならない。

(1)外部γ線による人体組織の被ばく

 第1節で述べたようにγ線は物質に対して極めて強い透過力を示すので、放射線源が人体よりかなり離れていても、人体に影響を及ぼすのみならず、人体に入射したときにも人体組織にほぼ一様に影響を与える。

 原子炉施設から放出される放射性物質は、大気中を拡散しながら風下に流れて行き、その流れの近傍にγ線を放出する場合や、放射性物質が地表に沈着して地上からγ線を放出する場合などがあるので、原子炉施設周辺の一般公衆は、これらのγ線によって全身がほぼ均等に照射されると考えられる。

 ICRPは、このように全身が均等に照射される場合には、赤色骨髄(造血臓器)と生殖腺の被ばく線量に着目することが必要であるとしている。

 したがってこの場合の外部γ線による人体組織の被ばくは、生殖腺又は造血臓器に着目して、これらの組織が吸収するγ線のエネルギから被ばく線量を求めればよいといえる。

(2)外部β線による人体組織の被ばく

 β線は、物質に対する透過力がγ線に比して小さく、したがって放射線源が人体からかなり離れて存在する場合には、人体に殆んど影響を与えることはなく、また、人体に入射した場合でも人体組織に影響を与える範囲は、人体の極く表面に限られる。

 ところで、ICRPは、放射性希ガスの最大許容濃度を定めるに当って、放射性希ガスの体内での滞留による内部被ばく線量は小さいとして、人体が放射性希ガスの無限に広い半球状の雲のなかに立っているときに受ける外部放射線量を基準に最大許容濃度を定めている。

 その際の仮定は、放射線がγ線かβ線でかつβ線の最大エネルギが0.1MeVに等しいかそれより大きいとき、決定臓器は、全身とし、放射線がβ線でかつβ線の最大エネルギが0.1MeV以下のときには、決定臓器を皮膚としている。

 β線が体外から照射されるとき、β線の到達する人体組織の深さは、β線のエネルギが最大0.5MeV程度の場合にも高々2㎜程度であり、その平均の深さは、0.2㎜とされている。

 それにもかかわらず最大0.1MeV以上のエネルギを持つβ線は、全身(生殖腺または造血臓器)に線量を与えるとするICRPの仮定は、不当に過大な評価を導くものと考えられる。

 したがって、ここで考えている外部β線による人体組織の被ばくは、人体の表面組織とくに皮膚組織が吸収するβ線のエネルギから被ばく線量を求めればよいといえる。

(3)人体組織の内部被ばく

 人体組織の内部被ばくは、放射性物質が人体組織にとり込まれたときに起こるものであるので、放射線そのものに着目した外部被ばくの場合と異なり、放射性物質の挙動にとくに注目しなければならない。

 放射性物質が人体組織にとり込まれた場合に、人体組織が吸収する放射線のエネルギは、人体組織中の放射性物質の核種、量と滞留時間によって定まるが、それらの要因を支配するものは、放射性物質の物理的性質、化学形態、人体の生物学的作用(代謝)などである。放射性物質が人体にとり込まれた場合、人体組織の幾つかは、放射性物質を選択的に取り込むことがあるが、このような場合この組織は決定臓器とみなされる。

 原子炉施設から放出される放射性物質は、気体廃棄物中の放射性物質については放射性希ガスと放射性よう素が主体であり、液体廃棄物中の放射性物質については、Co-60、Fe-59、Mn-54、Cs-137等のβ、γ放射核種が主体である。

 放射性希ガスについては、内部被ばくに寄与することはないが、放射性よう素は甲状腺に選択的に取り込まれるので、この場合は甲状腺が決定臓器となる。

 また、Fe-59、Co-60、Cs-137等の核種は、その化学的な状態などによって決定臓器の種類が異なるが、原子炉施設から放出される核種では、通常、全身や胃腸管が注目される。


付録Ⅱ 発電用軽水型原子炉施設から放出される気体廃棄物及び液体廃棄物中の放射性物質による一般公衆の被ばく線量の推定

(一般公衆の被ばく線量に関するケーススタディ)

1 はじめに

 原子炉施設周辺の一般公衆は、原子炉施設から放出される放射性物質の挙動に従って、いろいろな被ばく形態によって被ばくする可能性があるので、被ばく線量評価にあっては、重要な被ばく形態が明らかにされていることが必要である。

 このため、現在の発電用軽水型原子炉施設(以下原子炉施設という。)の設計及び運転経験から推定される放射性物質の環境への放出量を基礎に、一般公衆の代表的な個人の被ばく線量に関するケーススタディを実施した。

 ケーススタディは、現在、運転中、建設中及び設置許可申請中の原子炉施設とそのサイト条件を代表するように考慮することとし、原子炉施設の構造及び規模については、110万kWクラスの沸騰水型原子炉施設(BWR)及び80万kWクラスの加圧水型原子炉施設(PWR)をそれぞれ一ユニット選らび、サイト条件及び気象条件については、既存の全サイトの平均的な条件を使用することを前提とした。

 また、被ばく線量は、気体廃棄物中の放射性物質を放射性希ガス、放射性よう素、粒子状放射性物質に区分し、これに液体廃棄物中の放射性物質を加えて4区分とし、各区分に応じた被ばく経路をもとに主要な人体組織について計算した。


2 気体廃棄物中の放射性物質による被ばく線量計算

 放射性希ガス、放射性よう素(Ⅰ-131及びⅠ-133)、粒子状放射性物質(放射化生成物および核分裂生成物)による被ばく線量は、次の前提条件及び計算方法を用いて行った。

2-1 放射性物質の年間平均放出率
(1)放射性希ガス

 放射性希ガスの年間平均放出率(Ci-MeV/h)は、「評価指針」1)にしたがって求めた年間放出量及び実効エネルギーを使用した。この場合、BWRについては、燃料からの希ガスの漏洩率を0.4Ci/s(30分減衰換算値)、PWRについては燃料損傷率を1%と想定し、原子炉施設の稼動率は80%とした。

(2)放射性よう素

 放射性希ガスの場合と同様に求めた。なお、放出されるよう素はすべて無機よう素と仮定した。

(3)粒子状放射性物質

 NUREG--0016(BWR)2)及びNUREG--0017(PWR)3)に示される核種組成及び放出量を参考にして次のように推定した。

BWR:燃料漏洩率(0.4Ci/s)をNUREGの値(0.006Ci/s)の約10倍に想定したので、FPについてはその10倍にした。にお、廃棄物処理系から放出されるものは、HEPAフィルタにより99%捕捉されるものとした。

PWR:燃料損傷率(1%)がNUREGの値(0.12%)の約10倍であるので、FPの放出量についてはその10倍にした。なお、排気全系統の除去効率は、99%とした。

 以上の前提条件により求めた各核種の年間放出量を第1表に示す。

2-2 被ばく経路

被ばく経路は次のものを対象とした。

(1)放射性雲中の希ガス、よう素、粒子状物質による外部被ばく
(2)地表に沈着蓄積したよう素および粒子状物質による外部被ばく
(3)呼吸、葉菜及び牛乳を介して摂取するよう素及び粒子状物質による内部被ばく
2-3 被ばく線量の計算方法

(1)放射性雲中の放射性物質のγ線による外部全身被ばく「評価指針」にもとづいて次により線量も求めた。


Aj:被ばく点を含む方位及び両隣り方位に拡散する放射性雲による年間被ばく線量(mrem/y)
Dj:方位j内の風向変動を考慮した平均被ばく線量(mrem/y)
Ui:時刻iのときの風速(m/s)
Q:放射性物質の放出率(Ci/s)
E:γ線実効エネルギ(MeV/dis)
μα,μ:空気のγの線エネルギ、吸収係数及び減弱係数(m-1)
K:全身被ばく線量への換算係数(付録Ⅲ参照)
γ:放射性雲中の任意の点(x、y、z)から被ばく点までの距離(m)
χ0k:Q/Ui=1、大気安定度kのときの放射性物質の大気中濃度(Ci/m3)
σyk,σzk:拡散パラメータ(m)
h:放出源の有効高さ(m)

(4)式中のμa、μはγ線エネルギEの関数であるが、(4)式のD0kは、0.1~2MeV程度の範囲では、Eにほとんど比例するので、μa、μとして放射性希ガスの平均エネルギにちかい0.5MeVに対する値を用いて(4)式を計算し、その結果を放射性希ガスの実効エネルギで補正することとした。

 以上の計算手順から理解されるように、放射性物質の放出量が等しくとも、その放出条件やサイトの気象条件、地形条件などにより周辺公衆の年間被ばく線量は異なる。

 ここでは、原子炉施設の放射性物質の周辺環境への標準的な影響を推定することを目的としているが、放出条件、サイト条件などについては、標準的な条件を設定することは困難である。このため、安全審査等においてすでに行なわれた線量計算結果から、DAj(mrem/y)の最大値と放出量QE(Ci-MeV/y)との比(DA/QE)を求め、これらの平均値から線量を求めることとした。したがって、放射性雲中の放射性物質のγ線による外部全身被ばく線量は次のように求められる。

各サイトについて求めた(DA/QE)とその平均を第2-1表に示す。

 また、放射性希ガス及び放射性よう素の実効エネルギは、引用文献(13)により、また、粒子状の放射性物質の実効エネルギは、第4表に示した値を用いた。

(2)放射性雲中の放射性物質のβ線による皮膚被ばく

 β線の空気中飛程を考慮すると、被ばく地点を中心とする半径10m程度以内に存在する放射性物質のみが被ばく線量に寄与すると考えてよい。一方、この範囲では、放射性物質の濃度は一様と考えてさしつかえないので、β線被ばく線量は、その地点における放射性物質の濃度及びβ線の実効エネルギに比例する。

 したがって、β線被ばく線量は基本的には次式で推定される。

Kβ:空気吸収線量(mrad)から表皮下7㎎/㎝2の皮膚被ばく線量(mrem)への換算係数(付録Ⅲ参照)

Aj:年間皮ふ被ばく線量(mrem/y)
χAj:被ばく点における年間平均濃度(Ci/m3又はμCi/㎝3)
χj:方位j内の風向変動を考慮した年間平均濃度(Ci/m3又はμCi/㎝3)

E:放射性物質のβ線実効エネルギ(MeV/dis)その他のパラメータは、前項と同様とした。

 ただし、被ばく点の年間平均濃度(xAj)は、前項と同様な考えにより全サイトの(xA/Q)の平均値を使用した。

 したがって、放射性雲中の放射性物質のβ線による皮膚被ばく量は次のように求められる。

 各サイトについて求めた(χA/Q)とその平均を第2-2表に示した。放射性希ガス及び放射性よう素の実効エネルギは、引用文献(13)の値を用い、粒子状放射性物質の実効エネルギは、第4表に示した値を用いた。

(3)地表に沈着蓄積する放射性よう素及び粒子状物質のγ線による外部全身被ばく

 フォールアウトの調査から理解されるように、地表に沈着した放射性物質は、長期間には地表から流失したり、地中へ浸透する。ここでは、このような現象を考慮して、次のように被ばく線量を推定した。

ただし、
A:年間全身被ばく線量(mrem/y)

0.8(mrem/mrad)は、空気吸収線量から全身被ばく線量への換算係数(付録Ⅲ参照)
μa:空気のエネルギ吸収係数(㎝2/g)
E:γ線実効エネルギ(MeV/dis)
0:地表附近の土じょう中における放射性物質濃度(μCi/㎝3)
B:空気、土じょうの2層γ線ビルドアップ係数

μ1μ2:空気及び土壌のγ線減弱係数(㎝-1)、土壌はA1で代用、ただし、密度は1.5g/㎝3とした。

r:土壌中の任意点(ρ、θ、z)から被ばく点までの距離(m)

f(z):放射性物質の土壌中鉛直分布r1、r2、r、ρ、θ、zは第1図に示すとおりである。

2=(h-z)2+ρ2=(r1+r2)2h:被ばく点の地上高(100㎝)

 被ばく点が1m程度であれば、これに寄与する放射性物質の範囲は、被ばく点から10m以内である。このため通常はCo=一定と考える。

したがって、(12)式は、

第1図 (12)式に用いる座標



(i)ビルドアップ係数(B)
 空気、土壌2層のγ線ビルドアップ係数については、実用的なものはまだない。このため、ここでは単層のビルドアップ係数を組合せて使用した。(αi、βi、γiは文献(9)の値を使用)

(ii)放射性物質の土壌中鉛直分布(C=Cof(z))について

 フォールアウト調査や実験から放射性物質の土壌中における鉛直分布は、指数関数で近似できる。

C=Coeαz……(15)

 ただし、深さのzの符号は下方を負とする。浸透係数α(㎝-1)は、核種により異るが10)線量計算に影響する程度はつぎに示すようなものである。

 ここでは、HASLの試算11)を参考にしてα=0.33を使用した。

(iii)地表附近濃度Coの推定

(15)式中のCoはつぎのように推定した。

ただし、
Vg:沈着速度(㎝/s)
λr:物理的減衰定数(s-1)
To:放射性物質の放出期間(原子炉寿命の半期(20年)を想定)
fl:沈着した放射性物質のうち残存する割合
So:放射性物質の地表濃度(μCi/㎝2)

 残存割合flについては、フォールアウトの調査結果12)があり、平均0.5程度なので、fl=0.5とした。

(4)地表に沈着蓄積する放射性物質及び放射性よう素のβ線による皮ふ被ばく

 γ線の場合と同様に計算した。ただし、β線の空気中散乱の効果は無視し、(12)式中のBは1、μとしてはβ線の見掛けの吸収係数μaを使用し、Eとしては、引用文献(13)及び第4表の値を使用した。

 また、線量換算係数Kとしては、次の値を使用した。

β(空気吸収線量(mrad)から皮膚被ばく線量(mrem)への換算係数)
(付録Ⅲ参照)
(5)呼吸、葉菜及び牛乳を介して摂取するよう素及び粒子状物質による内部被ばく

 放射性よう素の摂取に関しては、「評価指針」と同様の計算方法を用いた。

 粒子状物質については、ほとんどが長寿命核種であるため、地表蓄積後の葉菜や牧草への経根移行を考える必要があるので、USNRCのRegu-latory Guide 1.1094)(以下、R,Gという)を参考にして、粒子状物質の葉菜、牛乳移行量を推定した。

(i)葉菜摂取経路

v:放射性物質の摂取量(μCi/d)
Vg:粒子状物質の葉菜への沈着速度(㎝/s)
λeff:粒子状物質の葉菜上実効減衰定数(s-1)
λeff=λr+λ
λr:粒子状物質の物理的減衰定数(s-1)
λw:Weathering効果による減少定数(s-1)
ρ:葉菜の栽培密度(g/㎝2)
1:葉菜の栽培期間(s)
V′g:葉菜を含む土壌への粒子状物質の沈着速度(㎝/s)
P:経根移行に寄与する土壌の有効密度(g/㎝2)
B:土じょう1g中に含まれる粒子状物質が葉菜に移行する割合
o:粒子状物質の蓄積期間(s)(20年を考える)
t:葉菜の栽培期間年間比
α:調理前洗浄による粒子状物質の残留比
Mv:葉菜摂収量(g/d)

Vg・V′gの決定は実験によらなければならないが、得られている実験値には幅があり、両者を有意に区別することはできない。したがって、ここでは両者とも1㎝/sとした。λeffについては、λwのもとになるWeathering half life(Tw)が、多種類の核種についてⅠ-131と同様の値(約14日)となっているので5)この値から求めた。ρについては「評価指針」の値(0.2g/㎝2)を使用し、t1は60日とし、PはR・Gの値(24g/㎝2)を用いた。

 Bについては、R・Gが示した値を各核種について使用した。

 ft、Mvについては、「評価指針」の示す値を使用した。

 fαについては「評価指針」では、よう素に関する実験値(0.5)を採用しているが、粒子状物質については明らかでないので、ここでは、fα=1とした。

(ii)牛乳摂取経路

m:放射性物質の摂取量(μCi/d)
f:乳牛の牧草摂取量(g/d)
m:牛が摂取した放射性物質が牛乳に移行する割合(μCi/l/μCi/d)
t:放牧期間年間比
m:牛乳摂取量(l/d)

 Qfには、R・Gの値(5×104gwet/d)を使用し、Fmについては、R・Gに示された値を使用した。

 ft=Mmは、「評価指針」に示す値と同じ

 体内摂取後の線量計算は、ICRP Pub2の値6)によった。

 なお、地表に沈着し長期間にわたり蓄積している放射性物質が地表附近のwind pick upその他の作用により再浮遊(resuspension)することは知られている。そして放射性物質の地表蓄積量S(μCi/㎝2)と再浮遊濃度χres(μCi/㎝3)との関係はつぎのように定義される再浮遊係数fr(㎝-1)を用いて表わされる。

χres=fr・S

 ここでは、いくつかの調査、実験データを参考に、fr=1×10-8-1と考える。

 この値を使うと、再浮遊効果による呼吸経路の内部被ばく線量は、10-2mrem/y程度である。


3 液体廃棄物中の放射性物質による被ばく線量計算

 液体廃棄物中の放射性物質による被ばく線量は、次の前提条件及び計算方法を用いて推定した。

3-1 年間平均放出率
 トリチウム以外の核種の合計年間放出量は、1Ci/yとした。トリチウムは、BWRについては100Ci/y,PWRについては1,000Ci/yとした。(第3表)
3-2 放出条件及び海水中濃度

 上記の年間放出量で放出される放射性物質が、年間の復水器冷却水量2×109m3/y(約60m3/sに相当)で希釈され、年間を通じて連続に放出されるものとし、また海水中濃度は放水口における濃度と等しいと仮定した。

3-3 被ばく経路

 被ばく経路は、次のものを対象とした。

(1)海上作業における外部被ばく
(2)遊泳における外部被ばく
(3)海浜作業における外部被ばく
(4)漁網操作における外部被ばく
(5)海産物摂取による内部被ばく
3-4 被ばく線量の計算方法
(1)海上作業時におけるγ線による外部全身被ばく

 海洋上で漁業など行うとき、海水中に分布する放射性物質からγ線あるいはβ線によって被ばくするが、これらの寄与する範囲は、水平方向で数10m、鉛直方向では、水の遮蔽により、1m程度までと考えられるので放射性物質の濃度分布は、海面上1~2mの被ばく点に対しては、一様とみることができる。

 したがって、モデル的には、土じょう中に分布する放射性物質からのγ線被ばく線量の場合と同様に、(12)式が使用できる。ただし、同式中のC0には、放射性物質の海水中濃度を用い、また、分布関数f(z)は1とした。

o:海域上における年間実働作業日数(=120日)
(2)海上作業時におけるβ線による皮膚被ばく

(18)式でB=1、μ2を水のβ線吸収係数にかえて、年間線量を計算した。

(Kβは付録Ⅲ参照)
(3)遊泳におけるγ線による外部全身被ばく

 遊泳の状態を考えると身体周辺の海水中放射性物質濃度は、一様とみることができ、被ばく線量はいわゆるSubmersion-modelを用いて求めることができる。

D=KEX……(19)
D:全身被ばく線量率(mrem/dr)
E:γ線実効エネルギ(MeV/dis)
χ:放射性物質の海水中濃度(μCi/㎝3)
K:全身被ばく線量への換算係数

 ただし、ρ(海水密度)は1g/㎝3、また、表面組織吸収線量(mrad)から全身被ばく線量(mrem)への換算を1(mrem/mrad)とした。

 したがって、年間被ばく線量は次式で求められる。

A=ToD……(20)
o:年間実働遊泳日数(4日)
(4)遊泳におけるβ線による皮膚被ばく

(19)式、(20)式と同様に求められる。

a=ToD……(22)
o:年間実働遊泳日数(4日)

 ただし、Eはβ線の実効エネルギである。

(5)海浜作業におけるγ線による外部全身被ばく

 液体廃棄物の放出源近傍には、放射性物質の沈着する地域が生じる。海洋放出を考えると、満潮時に放射性物質が沈着し、干潮時に海浜が露出して放射線源となる。したがって2-3-(3)に示す被ばく経路と同様に考えられ、(12)式により被ばく線量を計算することができる。

(i)放射性物質の鉛直分布について

 2-3-(3)では大気中から地表に沈着した放射性物質の鉛直分布をフォールアウトの調査結果から類推した。一方、海水から海浜への放射性物質移行過程は海水の干満作用によるため、鉛直分布は2-3-(3)の場合と異なると考えられる。イギリスのウインズケール再処理施設周辺の調査結果15)では、第2図の様な鉛直分布となっている。すなわち、地表から2~5㎝の深さまでは一様に分布し、それ以深では指数関数的分布に近い。この調査結果を参考にして、ここでは鉛直分布をつぎのように考えた。

(ii)放射性物質の海浜表面附近濃度について

 放射性物質の海浜表面附近濃度と海水中濃度との関係はつぎのように考えた。

0=ρ・(CF)・χ……(23)
(CF):放射性物質の海水から海浜への移行比(μCi/g/μCi/㎝3)
ρ:海浜砂の密度(g/㎝3)
χ:放射性物質の海水中濃度(μCi/㎝3)

(CF)は核種によって異なる。ここではCSに対して1×102、Srに対して10、その他の核種に対して1×103を使用し、7)また、密度ρは1.5g/㎝3を使用した。

(iii)年間被ばく日数

 沿岸漁業の実態調査から、文献(7)では海浜作業の実働時間数の最大値をつぎのように見積っている。

日光浴 100時間/年
海浜作業 500〃
汐干狩 10〃

ここでは、このうちの500時間を採用した。

第2図 放射性物質のシルト中鉛直分布

(6)海浜作業におけるβ線による皮膚被ばく

 海浜作業又は日光浴などを考えると、皮膚が海浜に接する状態を対象にする必要がある。この場合には、(21)式と同様に計算できる。

E:β線実効エネルギ(MeV/dis)
χ:放射性物質の海水中濃度(μCi/㎝3)
0:年間実働海浜作業日数(20日)
K:(21)式と同様
(7)漁網操作時におけるγ線による外部全身被ばく

 海域で使用する漁網には、放射性物質が付着するので、漁業終了後船上に積載する漁網は、ある程度の放射線源になりうる。しかし、その標準的な被ばく形態は、不明な点もあり、ここではその程度をみるための近似計算を試みた。

 漁網は、有限体積なので(18)式を有限範囲で積分する。

(CF):放射性物質の海水から漁網への移行比(μCi/g/μCi/㎝3)
 核種毎の値は十分明らかでないが、英国Dounreay発電所周辺モニタリング結果や、我が国の室内実験結果をもとにして、ここでは1×103を用いた。7)

pnet:漁網の密度(g/㎝3)1g/㎝3とした。

μ2:漁網のγ線減弱係数(㎝-1)、水の値を使用した。

χ:放射性物質の海水中濃度(μCi/㎝3)
d:漁網と被ばく点の距離(500㎝)

ただし、積載網の体積は約1m3と考え、その実効半径Rは50㎝、厚さZは100㎝とした。したがって年間被ばく線量は次式で求められる。

A=T0D……(27)
0:出漁の年間実働日数(80日)

(8)漁網操作時におけるβ線による手の被ばく漁網を使う漁業では、漁網を素手で扱うので、手の皮膚のβ線被ばくに注目する必要がある。

 漁網を握る状態を考えると、漁網中のβ線の飛程は、1MeV程度のものでも1㎝以下となるので、手の皮膚の被ばくに寄与するものは、手表面から半径1㎝程度の範囲にある漁網中のものだけになる。したがって、手の皮膚の受ける線量は、(21)、(24)式と同様に計算できる。

E:β線実効エネルギ
C:放射性物質の漁網中濃度(μCi/g)
χ:放射性物質の海水濃度(μCi/㎝3)
D:手の皮膚被ばく線量率(mrem/d)

(29)式による線量率は、Dounreay発電所周辺環境モニタリングにより得られた実測データ14)と良く一致する。したがって年間被ばく線量は、次式で求められる。

A=T0D……(29)
0:前項と同様(80日)
(9)海産物摂取による内部被ばく線量

 「評価指針」により被ばく線量を推定した。


4 被ばく線量計算結果

 以上の計算方法によって求めた各被ばく経路による被ばく線量は、第6表及び第7表に示めすとおりである。

第1表 放射性気体廃棄物の想定年間放出量

第2-1表 各サイトのDA/QE

第2-2表 各サイトのZA/Q

第3表 放射性液体廃棄物中の放射性物質の想定年間放出量

想定年間排水量 2×109 m3/y
放水口平均濃度 5×10-10μCi/㎝3指数(H-3以外の全放射能)
5×10-8 〃 (BWRからのH-3)
5×10-7 〃 (PWRからのH-3)

第4表 粒子状放射性物質のγ線実効エネルギー等

第5表 粒子状放射性物質のβ線実効エネルギ等

第6表 気体廃棄物及び液体廃棄物に含まれる放射性物質の放射線による外部被ばく線量

第7表 気体廃棄物及び液体廃棄物に含まれる放射性物質の放射線による内部被ばく線量

(表値は成人に対するものである。ただし甲状腺の欄で( )内値は小児に対する値である。)

引用文献
1)原子力委員会:「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」(昭和51年3月、同年9月一部補正)
2)USNRC:Calculation of Releases of Radioactive Materials in Gaseous and Liquid Effluents from Boiling Water Reactors,NUREG--0016(1976)
3)USNRC:Calculation of Releases of Radioactive Materials in Gaseous and Liquid Effluents from Pressurized Water Reactors,NUREG--0017(1976)
4)USNRC:Calculation of Annual Doses to Man from Routine Releases of Reactor Effluents for the Purpose of Evaluating Compiance with 10 CFR Part 50,Appendix I,Regulatory Guide 1,109(1976)
5)Thompson,S.E.:Effective Half-Life of Fallout Radionuclides on Plant with Special Emphasis on Iodine--131,UCRL--12388(1965)
6)ICRP:Report of ICRP Committee II on Permissible Dose for Internal Radiation,International Commission on Radiological Protection,ICRP Pub.2,Pergamon Press(1959)
7)原子力安全研究協会:放射性廃棄物の海洋放出による外部被ばく線量の試算、海洋放出調査特別委員会試算分科会報告書(Ⅲ)(1968)
8)飯嶋、市川:放射性汚染海浜における全身被ばく線量および汚染漁網の操作によるβ線被ばく線量の評価近似式の検討(原子力学会1973年度年会発表)
9)Chabot Jr.,G.E.etal:Notes on Buildup Factors and Utilization of a Power Function,Analytical Representation of the Buildup Factor,Health Phys.,21P.471--474(1971)
10)山崎文男他:土壌中の放射性降下物、とくにセシウムの分布と地形、地質、土質との関係に関する研究、昭和40年度文部省特定研究報告集録(放射線影響編)P.42
11)Beck,H.L.:Environmental Gamma Radiation from Deposited Fission Products,1960--1964,Health Phys.,12 P.313--322(1966)
12)竹内柾他:土壌中の放射性セシウムに関する研究、昭和39年度文部省特定研究報告集録(放射線影響編)P.17
13)原子炉安全専門審査会:被ばく計算に用いる放射線エネルギ等について(1975)
14)MAFF,Fisheries Radiobiological Laboratory:Redioactivity in Surface and Coastal Water at the British Isles,Technical Report FRL--1(1967)
15)D.F.Jefferies:Helgolander Wiss Meeresunters 17 P.280--290(1968)

付録Ⅲ 外部被ばくにおける全身被ばく線量および皮膚被ばく線量の換算係数

 付録Ⅱで用いた外部被ばくにおける全身被ばく線量及び皮膚被ばく線量の換算係数は、次により求めた。

1 全身被ばく線量

(1)放射線雲のγ線による全身被ばく線量の換算係数は、「評価指針」に示されている換算係数、0.7(mrem/mR)を使用した。

(2)その他の被ばく経路におけるγ線による全身被ばく線量の換算係数は、0.8(mrem/mrad)を使用した。

「評価指針」に示されている換算係数(0.7mrem/mR)は、照射線量から空気吸収線量への換算係数(0.87mrad/mR)と空気吸収線量から全身被ばく線量への換算係数(0.8mrem/mrad)の積である。ケーススタディでは、空気吸収線量を求めているので、換算係数として、0.8(mrem/mrad)を使用したものである。

2 皮膚被ばく線量

 皮膚被ばく線量は、表皮下7mg/㎝2の皮膚に対して求めるものとし、その値は空気吸収線量から、次により求めた皮膚被ばく線量への換算係数(Kβ)を用いて計算することとした。

 Bergerは、半無限空間に均一に分布する放射性物質から放出されるβ線による平板状組織の吸収線量を組織から空間への電子の逃散を考慮し、代表的核種について組織表面からの深さの関数として求めている。1)

 また、USNRC Regulatory Guide 1,109(R.G.)では、Bergerの方法を用いて核種ごとに単位濃度当たりの皮膚被ばく線量への換算係数(DFSi)を定めている。

 ケーススタディでは、β線の空気吸収線量から皮膚被ばく線量への換算係数Kβを上述のR.G.の値をもとに次のように求めた。

 第1図はR.G.に定められているDFSiとβ線実効エネルギとの関係を示したものである。ここで、β線実効エネルギは、原子炉安全専門審査会「被ばく計算に用いる放射線エネルギ等について」の第3表に示されている(β線+転換電子)の実効エネルギ(Eβ+Ee)effである。

 第1図をもとに、核種の単位濃度当たりの皮膚被ばく線量と核種のβ線の空気吸収線量との比を実効エネルギの関数として求めると、第2図に示す結果が得られるので、この関係を用いてKβをβ線実効エネルギの関数として求めた。

引用文献
1)M.J.Berger,“Beta-Ray Dose in Tissue-Equivalent Material Immersed in a Radioactive Cloud,” Health Physics,26.P.1--12(1974)

第1図 単位濃度当たりのβ線皮膚被ばく線量(DFSi)とβ線実効エネルギとの関係

第2図 皮膚被ばく線量と空気吸収線量との比(Kβ)とβ線実効エネルギとの関係



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