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「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」について


昭和52年6月14日
原子力委員会

 当委員会は、昭和52年5月25日付けをもって、原子炉安全技術専門部会から「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」について、報告を受けた。

 当委員会は、同報告書の内容を検討のうえ、次のとおり「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」を定める。

 なお、昭和45年4月23日当委員会が定めた「軽水炉についての安全設計に関する審査指針について」はこれを廃止する。


発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針

Ⅰ まえがき


 本指針は、原子炉設置許可申請に際して、安全設計の審査を行うにあたって、その設計方針の妥当性を評価するための審査上の指針としてとりまとめたものである。

 現行の「軽水炉についての安全設計に関する審査指針について」は、米国原子力委員会が1967年7月に発表した「原子力発電所一般設計指針(General Design Criteria for Nuclear Power Plants)」等を参考にして当委員会が昭和45年4月に策定したものである。

 しかし、現行審査指針の策定以来約7年の歳月を経た今日、その後において得られた数々の知識や経験の蓄積を背景とするとき、安全性の評価をする上で、より適切、かつ妥当であると考えられる指針を提案できる点が少なからず見られるにいたった。

 このような観点から、当委員会は、原子炉安全技術専門部会を設置し、現行指針の全面的な見直しを行ったものである。


Ⅱ 適用範囲


 本指針が適用される範囲は、発電用軽水型原子炉の設置許可申請(変更許可申請を含む)に際して、安全設計に関する基本方針について、審査を行うに際しての評価の指針に限定される。

 本指針は、このような意図のもとに作成されたものであるので、一般的な原子炉の設計のための基準を指向したものではない。

 本指針に示されている全規定は、発電用軽水炉の安全審査上重要と考えられる安全設計の基本事項について集約されているので、原子炉設置許可申請に際しての安全審査の段階においては、少なくとも本指針は十分に満足されなければならない。しかし、許可申請の内容が本指針に適合しない場合があったとしても、それが技術的な改良、進歩等を反映して、本指針が満足される場合と同等の安全性を確保し得ると判断される場合、これを排除しようとするものではない。

 なお、本指針は、発電用軽水炉に適用されるものと限定しているが、軽水炉特有の規定を除外すれば、他の原子炉施設の安全設計審査指針としても参考となり得ると考える。


Ⅲ 用語の定義


 本指針において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

(1)「安全上重要な構築物、系統および機器」とは、その機能喪失により、一般公衆および従事者に過度の放射線被曝を及ぼすおそれのある構築物、系統および機器ならびに事故時に一般公衆および従事者に及ぼすおそれのある過度の放射線被曝を緩和するために設けられた構築物、系統および機器をいう。

(2)「格納容器バウンダリ」とは、冷却材喪失事故時に、圧力障壁となり、かつ、放射性物質の放散に対する障壁を形成するよう設計された範囲の施設をいう。

(3)「原子炉冷却材圧力バウンダリ」とは、原子炉の通常運転時に、原子炉冷却材を内包して原子炉と同じ圧力条件となり、運転時の異常な過渡変化時および事故時の苛酷な条件下で圧力障壁を形成するもので、それが破壊すると冷却材喪失事故となる範囲の施設をいう。

(4)「原子炉停止系」とは、原子炉の臨界または臨界超過の状態から原子炉に負の反応度を挿入することにより、原子炉を臨界未満にし、高温停止から低温停止にいたらしめ、かつ、停止状態を維持するための機能を備えるよう設計された設備をいう。

(5)「反応度制御系」とは、原子炉炉心の反応度を制御することにより、原子炉の出力、燃焼および核分裂生成物等の変化による反応度変化を制御するよう設計された設備をいう。

(6)「安全保護系」とは、異常状態を検知し、それを防止または抑制するために、安全保護動作を起こさせるよう設計された設備および事故状態を検知し、必要な工学的安全施設の作動を開始させるよう設計された設備をいう。

(7)「工学的安全施設」とは、原子炉施設の破損、故障等に起因して原子炉内の燃料の破損等による多量の放射性物質の放散の可能性がある場合に、これらを抑制または防止するための機能を備えるよう設計された施設をいう。

(8)「単一故障」とは、単一の事象に起因して1つの機器が所定の安全上の機能を失うことをいい、単一の事象に起因して必然的に起こる多重故障を含む。

(9)「動的機器」とは、外部からの動力の供給を受けて、それを含む系が本来の機能を果たす必要があるとき、機械的に動作する部分を有する機器をいう。

(10)「多重性」とは、同一の機能を有する系が2つ以上あることをいう。

(11)「独立性」とは、多重に設けた機器または系統が設計上考慮する環境条件および運転状態に対して共通要因または従属要因によって同時に故障状態にならないことをいう。

(12)「燃料の許容設計限界」とは、原子炉の設計と関連して、燃料の損傷が安全設計上許容される程度であり、かつ、継続して原子炉施設の運転をすることができる限界をいう。

(13)「通常運転時」とは、原子力発電所の起動、停止、出力運転、高温待機、および燃料取替等が、計画的または頻繁に行われた場合、運転条件が所定の制限値以内にある運転状態をいう。

(14)「運転時の異常な過渡変化時」とは、原子炉の運転状態において、原子炉施設の寿命期間中に予想される機器の単一故障もしくは誤動作または運転員の単一誤操作によって外乱が加えられた状態およびこれらと類似の頻度で発生し、原子炉施設の運転状態が計画されていない状態にいたる場合をいう。

(15)「事故時」とは、「運転時の異常な過渡変化時」を超える異常状態であって、発生する頻度は稀であるが、原子炉施設の安全性を評価する観点から想定される事故事象が発生した状態をいう。


Ⅳ 原子炉施設全般


指針1 準拠規格および基準

 安全上重要な構築物、系統および機器の設計、材料の選定、製作および検査については、安全上適切と認められる規格および基準によるものであること。


指針2 自然現象に対する設計上の考慮

1 安全上重要な構築物、系統および機器は、地震により機能の喪失や破損を起こした場合の安全上の影響を考慮して、重要度により耐震設計上の区分がなされるとともに、敷地および周辺地域における過去の記録、現地調査等を参照して、最も適切と考えられる設計地震動に十分耐える設計であること。

2 安全上重要な構築物、系統および機器は、地震以外の自然現象に対して、寿命期間を通じてそれらの安全機能を失うことなく、自然現象の影響に耐えるように、敷地および周辺地域において過去の記録、現地調査等を参照して予想される自然現象のうち最も苛酷と考えられる自然力およびこれに事故荷重を適切に加えた力を考慮した設計であること。


指針3 人為事象に対する設計上の考慮

 原子力発電所は、安全上重要な構築物、系統および機器に対する第三者の不法な接近等の人為事象に対し、これを防護するための適切な措置を講じた設計であること。


指針4 環境条件に対する設計上の考慮

 安全上重要な構築物、系統および機器は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時および事故時において、それらの環境条件に適合できる設計であること。


指針5 飛来物等に対する設計上の考慮

 安全上重要な構築物、系統および機器は、想定される飛来物、配管のむち打ちまたは流出流体の影響等から生じるおそれのある動的影響、熱的影響または溢水によって原子炉の安全を損うことのない設計であること。


指針6 火災に対する設計上の考慮

 安全上重要な構築物、系統および機器は、適切な配置、防火壁の設置をする等、火災に対する防護上の配慮がなされるとともに、これらは実用上可能な限り不燃性または難燃性材料を使用する設計であること。

 また、これらの構築物、系統および機器に対して、適切な火災検出装置および消火装置を設置し、これらの装置の破損または不測の作動があっても、構築物、系統および機器は、それらの安全機能を失うことのない設計であること。


指針7 共用の禁止

 安全上重要な構築物、系統および機器は、共用によって安全機能を失うおそれのある場合、原子炉施設間で共用しない設計であること。


指針8 系統の単一故障

 安全上重要な系統は、非常用所内電源系のみの運転下または外部電源系のみの運転下で、単一故障を仮定しても、その系統の安全機能を失うことのない設計であること。


指針9 電源喪失に対する設計上の考慮

 原子力発電所は、短時間の全動力電源喪失に対して、原子炉を安全に停止し、かつ、停止後の冷却を確保できる設計であること。

 ただし、高度の信頼度が期待できる電源設備の機能喪失を同時に考慮する必要はない。


指針10 試験可能性に対する設計上の考慮

 安全上重要な構築物、系統および機器は、それらの健全性および能力を確認するために、その重要度に応じ、原子炉の運転中に試験および検査ができるか、または原子炉の定期点検停止時もしくは燃料取替停止中に適切な方法により試験および検査ができる設計であること。


指針11 避難通路に対する設計上の考慮

 原子力発電所は、通常の照明用電源喪失時においても、その機能を失うことのない照明を設備し、かつ、単純、明確、永続性のある標識のついた安全避難通路を有する設計であること。


指針12 通信連絡設備に対する設計上の考慮

 原子力発電所は、適切な警報系統および通信連絡設備を備え、事故時に発電所内にいるすべての人々に対し、少なくとも1つの中央位置から指示ができるとともに、発電所と所外必要箇所との通信連絡設備は、多重性を有する設計であること。


Ⅴ 電子炉および計測制御系


指針13 原子炉設計

 原子炉の炉心およびそれに関連する原子炉冷却系、計測制御系ならびに安全保護系は、通常運転時および運転時の異常な過渡変化時において、燃料の許容設計限界を超えることなく、それぞれの機能を果たし得る設計であること。


指針14 燃料設計

1 燃料集合体は、原子炉内における使用期間中を通じ、他の炉心構造物との関係を含め、その健全性を失うことがなく、炉心の性能を十分に発揮し得る設計であること。

2 燃料集合体は、燃料棒の内外圧差、燃料および他の材料の照射、負荷の変化により起こる圧力・温度の変化、化学的効果、静的および動的荷重、変形または化学的変化の結果起こり得る熱伝達挙動の変化等を考慮した設計であること。

3 燃料集合体は、輸送および取扱い中に燃料棒の変形等による過度の寸法変化を生じない設計であること。


指針15 原子炉の固有な特性

 原子炉の炉心およびそれに関連する原子炉冷却系は、すべての運転範囲で急速な固有の負の反応度フィードバック特性を有する設計であること。


指針16 出力振動の抑制

 原子炉の炉心およびそれに関連する原子炉冷却系、計測制御系ならびに安全保護系は、燃料の許容設計限界を超える状態となる出力振動が生じないように十分な減衰特性を持たせる設計であるか、またはたとえ出力振動が生じてもそれを確実に、かつ、容易に検出して抑制できる設計であること。


指針17 計測制御系

1 計測制御系は、通常運転時および運転時の異常な過渡変化時において、次の事項を十分考慮した設計であること。

(1)原子炉の炉心、原子炉冷却材圧力バウンダリおよび格納容器バウンダリならびにそれらの関連する系統の健全性を確保するために必要なパラメータは、適切な予想範囲に維持制御されること。

(2)上記のパラメータについては、予想変動範囲内での監視が可能であること。

2 計測制御系は、事故時において、事故の状態を知り対策を講じるのに必要なパラメータを監視できる設計であること。


指針18 電気系統

1 安全上重要な構築物、系統および機器の安全機能を確保するために電源を必要とする場合には、必要な電源として外部電源系および非常用所内電源系を有する設計であること。

2 外部電源系は、2回線以上の送電線により電力系統に接続される設計であること。

3 非常用所内電源系は、十分独立な系統とし、外部電源系の機能喪失時に、1つの系統が作動しないと仮定しても、次の事項を確実に行うのに十分な容量および機能を有する設計であること。

(1)運転時の異常な過渡変化時において、燃料の許容設計限界および原子炉冷却材圧力バウンダリの設計条件を超えることなく原子炉を停止し冷却すること。

(2)冷却材喪失等の事故時の炉心冷却を行い、かつ、格納容器の健全性ならびにその他の安全上重要な系統および機器の機能を確保すること。

4 安全上重要な電気系統は、系統の重要な部分の適切な定期的試験および検査ができる設計であること。


指針19 制御室

 制御室は、事故時にも、従事者が制御室に接近し、または留まり、事故対策操作が可能であるように不燃設計、遮蔽設計および換気設計がされ、かつ、事故によって放出することがあり得る有毒ガスに対し適切な防護がなされた設計であること。


指針20 制御室外からの停止機能

 原子炉は、制御室外の適切な場所から停止することができるように、次の機能を有する設計であること。

(1)原子炉施設を安全な状態に維持するために必要な計測制御機能を含め、原子炉の急速な高温停止ができること。

(2)適切な手順を用いて原子炉を引続き低温停止できること。


Ⅵ 原子炉停止系、反応度制御系および安全保護系


指針21 原子炉停止系の独立性

 原子炉停止系は、高温待機状態または高温運転状態から、燃料の許容設計限界を超えることなく炉心を臨界未満にでき、かつ、高温状態で臨界未満を維持できる少なくとも2つの独立した系を有する設計であること。


指針22 原子炉停止能力

1 原子炉停止系の少なくとも1つは、通常運転時および運転時の異常な過渡変化時において、燃料の許容設計限界を超えることなく高温状態で炉心を臨界未満にでき、かつ、高温状態で臨界未満を維持できる設計であること。

2 原子炉停止系の少なくとも1つは、低温状態で炉心を臨界未満にでき、かつ、低温状態で臨界未満を維持できる設計であること。


指針23 原子炉停止系の反応度停止余裕

 制御棒による原子炉停止系は、高温状態および低温状態において、反応度効果の最も大きな制御棒が完全に炉心の外に引抜かれ固着して挿入できない時でも、炉心を臨界未満にできる設計であること。


指針24 原子炉停止系の事故時の維持能力

 原子炉停止系の少なくとも1つは、事故時において、炉心を臨界未満にでき、また、原子炉停止系の少なくとも1つは、炉心を臨界未満に維持できる設計であること。


指針25 制御棒の最大反応度価値

 制御棒の最大反応度価値および反応度添加率は、想定される反応度事故に対して原子炉冷却材圧力バウンダリを破損せず、また炉心冷却を損うような炉心、炉心支持構造物および圧力容器内部構造物の破壊を生じない設計であること。


指針26 反応度制御系の安全機能

 反応度制御系は、負荷変動、キセノン濃度変化、高温から低温までの温度変化、燃料の燃焼等によって生じることが予想される反応度変化を調整し、所要の運転状態に維持し得る設計であること。


指針27 安全保護系の過渡時の機能

1 安全保護系は、運転時の異常な過渡変化時に、その異常状態を検知し、原子炉停止系を含む適切な系の作動を自動的に開始させ、燃料の許容設計限界を超えないように考慮した設計であること。

2 安全保護系は、偶発的な制御棒の引抜きのような原子炉停止系のいかなる単一の誤動作に対しても、燃料の許容設計限界を超えないように考慮した設計であること。


指針28 安全保護系の事故時の機能

 安全保護系は、事故時にあっては、直ちにこれを検知し、原子炉停止系および工学的安全施設の作動を自動的に開始させる設計であること。


指針29 安全保護系の多重性

 安全保護系は、その系を構成するいかなる機器またはチャンネルの単一故障が起こっても、あるいは使用状態からの単一の取り外しを行っても、安全保護機能を失うことにならないような多重性を有する設計であること。


指針30 安全保護系の独立性

 安全保護系は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時、保修時、試験時および事故時において、その保護機能が喪失しないように、その系を構成するチャンネル相互を分離し、重複したそれぞれのチャンネル間の独立性を実用上可能な限り考慮した設計であること。


指針31 安全保護系の故障時の機能

 安全保護系は、駆動源の喪失、系の遮断およびその他の不利な状況になっても、最終的に安全な状態に落着くような設計であること。


指針32 安全保護系と計測制御系との分離

 安全保護系は、計測制御系との部分的共用によって、安全保護系の機能を失わないように、計測制御系から分離されている設計であること。


指針33 安全保護系の試験可能性

 安全保護系は、原則としてその機能を原子炉の運転中に、定期的に試験できるとともに、その健全性および多重性の維持を確認するため、各チャンネルが独立に試験できる設計であること。


Ⅶ 原子炉冷却系


指針34 原子炉冷却材圧力バウンダリの機能

 原子炉冷却材圧力バウンダリは、異常な冷却材の漏洩、または破損の発生する可能性が極めて小さくなるよう考慮された設計であること。


指針35 原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性

 原子炉冷却系およびその関連補助系、計測制御系ならびに安全保護系は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時および事故時において、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性を確保できる設計であること。


指針36 原子炉冷却材圧力バウンダリの漏洩検出

 原子炉冷却材圧力バウンダリは、冷却材の漏洩があった場合、その漏洩を速やかに、かつ、確実に検出できる設計であること。


指針37 原子炉冷却材圧力バウンダリの破壊防止

 原子炉冷却材圧力バウンダリは、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時、保修時、試験時および事故時において、脆性的挙動を示さず、かつ、急速な伝播型破断を生じない設計であること。


指針38 原子炉冷却材補給系

 原子炉冷却材補給系は、原子炉冷却材圧力バウンダリからの冷却材の漏洩および原子炉冷却材圧力バウンダリに接続する小さな配管の破断または小さな機器の損傷による冷却材の漏洩があった場合でも、燃料の許容設計限界を超えないように、十分に給水できる能力を有する設計であること。


指針39 残留熱除去系

 残留熱除去系は、原子炉の停止時に、燃料の許容設計限界および原子炉冷却材圧力バウンダリの設計条件を超えないように、原子炉の炉心からの核分裂生成物の崩壊熱および他の残留熱を除去できる設計であること。


指針40 非常用炉心冷却系

1 非常用炉心冷却系は、想定される配管破断による冷却材喪失事故に対して、燃料および燃料被覆の重大な損傷を防止でき、かつ、燃料被覆の金属と水との反応を十分小さな量に制御できる設計であること。

2 非常用炉心冷却系は、非常用所内電源系のみの運転下で単一故障を仮定しても、系統の安全機能が達成できるように、独立性を有する設計であること。

3 非常用炉心冷却系は、定期的に試験および検査ができるとともに、その健全性および多重性の維持を確認するため、独立に各系統の試験および検査ができる設計であること。


指針41 冷却水系

 冷却水系は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時および事故時において、安全上重要な構築物、系統および機器の全熱負荷を最終的な熱の逃がし場に確実に伝達できる設計であること。


Ⅷ 原子炉格納容器


指針42 格納容器の機能

1 格納容器は、想定される配管破断による冷却材喪失事故に際して、事故後の想定される最大エネルギー放出によって生じる圧力と温度に耐え、かつ、出入口および貫通部を含めて所定の漏洩率を超えることがないような設計であること。

2 格納容器は、定期的に所定の圧力で格納容器全体の漏洩率試験ができる設計であること。

3 格納容器は、電線、配管等の貫通部および出入口の重要な部分の漏洩率試験および検査ができる設計であること。


指針43 格納容器熱除去系

 格納容器熱除去系は、想定される配管破断による冷却材喪失事故に際して、事故後の想定される最大エネルギー放出によって生じる格納容器内の圧力および温度を低下させるために十分な機能を有する設計であること。


指針44 格納施設雰囲気浄化系

 格納施設雰囲気浄化系は、冷却材喪失事故時等において、環境に放出される核分裂生成物およびその他の物質の濃度を減少させる機能を有する設計であること。


指針45 可燃性ガス濃度制御系

 可燃性ガス濃度制御系は、格納施設の健全性を維持するため、冷却材喪失事故後の格納施設内に存在する水素または酸素の濃度を抑制することができる機能を有する設計であること。


指針46 格納容器バウンダリの破壊防止

 格納容器バウンダリは、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時、保修時、試験時および事故時において、脆性的挙動を示さず、かつ、急速な伝播型破断を生じない設計であること。


指針47 格納容器を貫通する配管系

1 格納容器を貫通する配管系は、格納容器の機能を確保するために必要な隔離能力を有するとともに、ベローを有する配管貫通部は、漏洩検出または漏洩試験ができる設計であること。

2 格納容器を貫通する配管系に設けられる隔離弁は、定期的な動作試験が可能であり、かつ、弁の漏洩率が許容限界内にあることを確認できる設計であること。


指針48 格納容器を貫通する系および閉じた系の隔離弁

1 原子炉冷却材圧力バウンダリに連絡するか、または格納容器内に開口し、原子炉格納容器を貫通している各配管は、冷却材喪失事故時に必要とする配管および計測配管のような特殊な細管を除いて、次の事項を満足する隔離弁を有する設計であること。

(1)原則として格納容器の内側に1個、外側に1個の自動隔離弁を設けること。

(2)格納容器の自動隔離弁は、実用上可能な限り格納容器に接近して設けること。

(3)上記の自動隔離弁の駆動動力源は、その多重性を十分考慮し、駆動動力源の単一故障によって上記の自動隔離弁が同時に隔離機能を喪失することのないこと。

2 格納容器内側または外側において閉じた系は、少なくとも1個の自動隔離弁を実用上可能な限り格納容器に接近して設ける設計であること。


Ⅸ 燃料取扱いおよび廃棄物処理系


指針49 核燃料の貯蔵および取扱い

1 新燃料および使用済燃料の貯蔵設備および取扱い設備は、次の事項を満足する設計であること。

(1)安全上重要な機器の適切な定期的試験および検査ができること。

(2)貯蔵設備は、適切な格納系および空気浄化系を有すること。

(3)貯蔵設備は、適切な貯蔵容量を有すること。

(4)取扱い設備は、移送操作中の燃料集合体の落下を防止できること。

2 使用済燃料の貯蔵設備および取扱い設備は、前項の事項のほか、次の事項を満足する設計であること。

(1)放射線防護のための適切な遮蔽を有すること。

(2)貯蔵設備は、残留熱を十分に除去できる冷却水系およびその浄化系を有すること。

(3)貯蔵設備の冷却水有量が著しく減少することを防止し、適切な漏洩検知を行うことができること。

(4)貯蔵設備は、燃料集合体の取扱い中の想定される落下時にも、損傷するおそれがないこと。


指針50 核燃料の臨界防止

 核燃料の貯蔵設備および取扱い設備は、幾何学的な安全配置、または他の適切な手段により、想定されるいかなる場合でも、臨界を防止する設計であること。


指針51 核燃料取扱い場所のモニタリング

 核燃料の取扱い場所は、残留熱の除去能力の喪失に至る状態および過度の放射線レベルが検出できるとともに、その事態を適切に従事者に伝えるか、または自動的に対処できる設計であること。


指針52 放射性気体廃棄物の処理

 原子力発電所の運転に伴い発生する放射性気体廃棄物の処理施設は、適切な濾過、貯留、減衰および管理等を行うことにより、周辺環境に対して、放出放射性物質の濃度および量を実用可能な限り低減できる設計であること。


指針53 放射性液体廃棄物の処理

 原子力発電所の運転に伴い発生する放射性液体廃棄物の処理施設は、適切な濾過、蒸発処理、イオン交換、貯留、減衰および管理等を行うことにより、周辺環境に対して、放出放射性物質の濃度および量を実用可能な限り低減できる設計であること。


指針54 放射性固体廃棄物の処理

 原子力発電所の運転に伴い発生する放射性固体廃棄物の処理施設は、遮蔽、遠隔操作等によって、従事者の被曝線量を実用可能な限り低減できる設計であること。


指針55 固体廃棄物貯蔵施設

 固体廃棄物貯蔵施設は、原子力発電所の運転に伴い発生する固体廃棄物を貯蔵する容量が十分であるとともに、固体廃棄物の貯蔵による敷地周辺の空間線量率を実用可能な限り低減できる設計であること。


指針56 放射線防護

 原子力発電所は、従事者の作業性等を考慮して、従事者が立入場所において不必要な放射線被曝を受けないように、遮蔽、機器の配置、放射性物質の漏洩防止、換気等所要の放射線防護上の措置を講じた設計であること。


指針57 放射線管理施設

 原子力発電所は、従事者を放射線から防護するために、放射線被曝を十分に監視および管理するための放射線管理施設を設けた設計であること。

 また、これらの管理施設は必要な情報を制御室または適当な管理場所に、通報できる設計であること。


指針58 放射線監視

 原子力発電所は、敷地周辺の放射線を監視するため、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時および事故時において、少なくとも次の場所を適切にモニタリングできる設計であること。

(1)格納容器雰囲気
(2)放射性物質の放出経路
(3)原子力発電所の周辺

解説

 本指針を適用するにあたって、なお、運用上の注意を必要とし、または指針そのものの意義、解釈をより明確にしておく必要があると考えられる事項がいくつか見られたので、次にその解説を掲げることとした。


Ⅲ 用語の定義


(1)「安全上重要な構築物、系統および機器」

 「安全上重要な構築物、系統および機器」には、原子炉冷却材圧力バウンダリ、非常用炉心冷却系、格納施設(格納容器バウンダリ、BWRでは原子炉建家およびPWRではアニュラス部)、格納容器熱除去系、格納施設雰囲気浄化系、可燃性ガス濃度制御系、安全保護系、原子炉停止系、反応度制御系、制御室および制御室換気空調設備、補助給水設備(PWRのみ)、残留熱除去系、外部電源系、非常用所内電源系、使用済燃料貯蔵設備、排気筒、炉心支持構造物、燃料集合体、高放射性の気体を内包する機器等ならびにその他上記設備の運転に必要な計測制御系、冷却水系等が含まれる。

 なお、安全上重要な構築物、系統および機器は、その果たすべき機能について安全上の重要度に応じて各指針においてそれぞれ適切に考慮される必要がある。

(3)「原子炉冷却材圧力バウンダリ」

 「原子炉冷却材圧力バウンダリ」は、次の範囲の機器、配管が対象となる。

① 原子炉圧力容器およびその付属物(本体に直接つけられるもの、制御棒駆動機構アダプタ、ハウジング等)

② 原子炉冷却系を構成する機器、配管(冷却材ポンプ、蒸気発生器の水室、管板および管、加圧器、配管、弁等)。

 ただし、直接サイクルBWRの主蒸気管および給水管の原子炉側から見て第2隔離弁を含みそこまでとする。

③ 接続配管

(a)通常開、事故時閉のものは、原子炉側から見て、第2隔離弁を含みそこまでとする。

(b)通常閉、事故時閉のものは、原子炉側から見て、第1隔離弁を含みそこまでとする。

(c)通常閉、冷却材喪失事故時開の非常用炉心冷却系統等も(a)に準ずる。

 上記において「隔離弁」とは、遠隔操作の可能な弁および自動作動の電動弁、空気動作弁、逆止弁等をいう。

(6)「安全保護系」

 安全保護系には、原子炉停止系を緊急作動するための信号回路と工学的安全施設の作動を行わせるための信号回路があり、いずれの設備も検出器から動作装置入力端子までをいう。

(7)「工学的安全施設」

 「工学的安全施設」の具体例は、非常用炉心冷却系、格納容器(隔離弁を含む)および格納容器雰囲気浄化系等をいう。

(9)「動的機器」

 「動的機器」の具体例は、弁、ポンプ、遮断器、リレー、電気ヒーター等をいう。

(11)「独立性」

 「共通要因」とは、機器または系統に対する共通の外的要因、例えば環境の温度、湿度、圧力、放射線等による影響因子および機器または系統に供給される電源、空気、油、冷却水等による影響因子をいう。

 「従属要因」とは、共通要因によって発生した事象に起因して必然的に発生する要因をいう。

(12)「燃料の許容設計限界」

 燃料の許容設計限界のめやすとしては、燃料ペレットおよび被覆の最高温度、最大熱流束、最小限界熱流束比、最小限界出力比、最大エンタルピ、最大変形量、一次冷却材放射能濃度等が判断の基準となる。

(15)「事故時」

 「想定される」とは、原子炉施設の設計の妥当性を評価する観点から、原子炉施設で生じ得る各種の事故事象を包絡し、代表する事象が、安全評価上考慮すべき頻度で発生すると考えることをいう。

 本指針にいう「想定される飛来物等」、「想定される静的機器の単一故障」等は、上記の考え方に準じて解釈する。


Ⅳ 原子炉施設全般


指針1 準拠規格および基準

 安全上重要な構築物、系統および機器の設計、材料の選定、製作および検査にあたっては、原則として現行国内法規に基づく規格基準によるものとする。

 ただし、外国の基準による場合または規格基準で一般的でないものを適用する場合には、それらの規格基準の適用の根拠、国内法規に基づく規格基準との対比、適用の妥当性等を明らかにする必要がある。

 「規格および基準によるものである」とは、対象となる設備について設計、材料の選定、製作および検査に関して準拠する規格、基準を明らかにしておくことを意味する。


指針2 自然現象に対する設計上の考慮

 2項でいう「安全機能を失うことなく、自然現象の影響に耐える」とは、設計上の考慮を要する自然現象またはその組合せに遭遇した場合において、その設備が有する安全機能を達成する能力が維持されることをいう。

 「予想される自然現象」とは、敷地の自然環境をもとに、洪水、津波、風(または台風)、凍結、積雪、地すべり等のうちから適用されるものをいう。

 「自然現象のうち最も苛酷と考えられる自然力」とは、対象となる自然現象に対応して、過去の記録の信頼性を考慮のうえ、少なくともこれを下まわらない苛酷なものであって、かつ、統計的に妥当とみなされるものを選定して設計基礎とすることをいう。

 なお、過去の記録、現地調査の結果等を参考にして必要のある場合には、異種の自然現象を重畳して設計基礎とすること。

 「事故荷重を適切に加えた力」とは、最も苛酷と考えられる自然力と事故時の最大荷重とを単純に加算することを必らずしも要求するものではなく、それぞれの経時的変化を考慮して適切に組合せられた荷重であることを意味する。


指針4 環境条件に対する設計上の考慮

 「それらの環境条件に適合できる」とは、予想される圧力、温度、湿度、放射線等の環境条件下においても、これらの機能を達成する能力が失われないよう考慮された設計であることをいう。


指針5 飛来物等に対する設計上の考慮

 「飛来物、配管のむち打ちまたは流出流体の影響」とは、発電所の敷地周辺における大爆発や、これに起因する飛来物、航空機墜落、タービン発電機やフライホイル等の回転機器の損壊による飛来物、高エネルギー流体の配管の損傷に伴うむち打ち、流出流体のジェット力、ジェット反力および溢水等を意味する。

 「生じるおそれのある動的影響」とは、飛来物、ジェット力、ジェット反力等による影響のうち、飛来物の衝突、ジェットの流出等の過渡的な動的現象を十分考慮に入れたものをいう。


指針6 火災に対する設計上の考慮

 「実用上可能な限り」とは、実用性能上、不燃性、難燃性とみなされる材料を、実際に適用できる範囲で使用することを意味する。

 「不燃性」とは、火災により燃焼せず、著しい変形、亀裂、破壊を生じない性能をいう。

 「難燃性」とは、火災により著しい燃焼をせず、また、単独ではその燃焼部が広がらずに、自己消火する性能をいう。

 「不測の作動」とは、誤動作、誤操作、電源遮断等による予期しない消火系の作動を意味する。


指針7 共用の禁止

 「安全機能を失うおそれのある場合、原子炉施設間で共用しない」とは、二つ以上の原子炉施設で併用しないことであるが、安全上重要な構築物、系統および機器がその能力、構造等から判断して原子炉の安全性に支障を及ぼすことがないと認められない限り共用してはならない。


指針8 系統の単一故障

 「単一故障」は、動的機器の単一故障と静的機器の単一故障に分けられる。安全上重要な系統は、短期間では動的機器の単一故障のみを仮定して、長期間では動的機器の単一故障または想定される静的機器の単一故障のいずれかを仮定しても、所定の安全機能を達成できるように設計されていることが必要である。

 非常用炉心冷却系および格納容器熱除去系の場合、短期間とは事故発生から注入モードまでをいい、長期間とは再循環モードをいう。

 電気系統については、任意の箇所の単一故障を仮定しても、非常用電源設備を含む系統全体で所定の機能を達成できるように設計されていることが必要である。

 上記の動的機器の単一故障または想定される静的機器の単一故障のいずれかを仮定すべき長期間の機能の評価にあたっては、その単一故障が安全上支障がない期間内に除去または修復できることが確実であれば、その単一故障を想定しなくてよい。


指針9 電源喪失に対する設計上の考慮

 長期間にわたる電源喪失は、送電系統の復旧または非常用ディーゼル発電機の修復が期待できるので考慮する必要はない。

 「高度の信頼度が期待できる」とは、非常用電源設備を常に稼動状態にしておいて、待機設備の起動不良の問題を回避するか、または信頼度の高い多数ユニットの独立電源設備が構内で運転されている場合等を意味する。


指針10 試験可能性に対する設計上の考慮

 「適切な方法」とは、安全上重要な構築物、系統および機器の主要な部分を含む試験および検査の場合、必らずしも実系統全体を用いた試験、検査である必要はなく、主要な部分以外で信頼度の高い部分は試験用のバイパス系等を用いることを意味する。


Ⅴ 原子炉および計測制御系


指針13 原子炉設計

 「原子炉冷却系」とは、BWRでは冷却材再循環系、主蒸気系等の通常の原子炉を冷却する系統をいい、PWRでは1次冷却系等をいう。

 「計測制御系」とは、原子炉停止系、反応度制御系、原子炉計装系、プロセス計装系等をいう。

 「機能を果し得る設計」とは、本指針でいう各系の適切な余裕をもった運転効果を期待できる設計を意味するが、各系単独で機能を果たすことを常に要求するものではない。


指針15 原子炉の固有の特性

 「すべての運転範囲で急速な固有の負の反応度フィードバック特性を有する設計」とは、原子炉の設計において、原子炉出力の過渡時の変化に対する制御を容易にするため、減速材温度系数、ドップラ係数、減速材ボイド係数および圧力係数などを総合した反応度出力係数が、運転時の異常な過渡変化のもとで、出力抑制効果をもつようにできる設計をいう。


指針16 出力振動の抑制

 「十分な減衰特性」とは、原子炉にある外乱が入った後の原子炉出力の振動が、燃料の許容設計限界を超えない程度に自動的に緩和される性質をいう。

 「確実に、かつ、容易に検出して抑制できる」とは、発生した事象を検出または測程するために、十分な精度および信頼性を有する計器を設置することによって、必要な応答特性で検出または測定できることおよびこの検出または測定された信号により、発生した事象に対し許容設計限界を超えることなく制御または抑制できることをいう。


指針17 計測制御系

 1項でいう「パラメータ」とは、炉心の中性子束、中性子束分布、原子炉水位、1次冷却系統の圧力、温度および流量、1次冷却材の水質、格納容器内の圧力、温度および雰囲気ガス濃度等をいう。

 2項でいう「事故の状態を知り対策を講じるのに必要なパラメータ」とは、格納容器雰囲気内の圧力、温度、水素ガス濃度および放射性物質濃度等をいう。


指針18 電気系統

 「外部電源系」とは、電力系統または主発電機から電力を供給する一連の設備をいう。

 「非常用所内電源系」とは、非常用所内電源設備(非常用ディーゼル発電機、バッテリ等)および工学的安全施設を含む安全上重要な設備への電力供給設備(非常用母線スイッチギャ、ケーブル等)をいう。


指針19 制御室

 「従事者が制御室に接近し、または留まり」とは、事故発生直後、事故対策操作をすべき従事者が接近できるよう通路が確保されていることおよび従事者が制御室に適切な期間、滞在できることを意味する。

 また、事故対策操作後、従事者が交替のため接近する際には、時間経過による放射線レベルの減衰および時間経過とともに可能となる被曝防護策がとられていることが要求される。


指針20 制御室外からの停止機能

 「制御室外の適切な場所から停止することができる」とは、何等かの原因で制御室に接近できない場合の対策が講じられていることを意味する。 (1)でいう「原子炉の急速な高温停止ができること」とは、直ちに原子炉を停止し、余熱を除去し高温停止状態に安全に保持することをいう。


Ⅵ 原子炉停止系、反応度制御系および安全保護系


指針21 原子炉停止系の独立性

 現在軽水炉で採用されている制御棒と可溶性毒物系(BWRの液体毒物注入系、PWRのケミカルシム等)は、その性能からみてこの条項を満足する原子炉停止系と考える。

 なお、原子炉停止系自身が独立した複数個の停止機能をもち、その数が高温停止に必要な数に比し十分な余裕をもっている場合には、実質的にいくつかの独立した停止系とみなせる。


指針22 原子炉停止能力

 1項でいう「高温状態で臨界未満を維持できる」とは、キセノン崩壊により反応度が添加されるまでの期間、臨界未満を維持することをいい、さらにそれ以降の長期の臨界未満の維持は、他の原子炉停止系の作動を期待してよいことをいう。


指針24 原子炉停止系の事故時の維持能力

 事故時における原子炉停止系の能力について、原子炉の停止能力を備えた工学的安全施設の作動が期待できる場合には、その寄与を考慮してよい。例えば、PWRの主蒸気管破断時において、非常用炉心冷却系と複合して、炉心を臨界未満にでき、かつ、事故後において炉心を臨界未満に維持できることを意味する。


指針25 制御棒の最大反応度価値

 「制御棒の最大反応度価値」の評価にあたっては、原子炉の運転状態との関係で、制御棒の挿入の程度、配置状態を制限する等の反応度価値を制限する装置が設けられている場合には、その効果を考慮してもよい。

 「反応度事故」とは、制御棒が想定される最大速度で炉心から抜け出す時に予想される反応度事故(目安として印加反応度が1ドル以上の場合)のことである。例えば、BWRでは制御棒落下事故等、PWRでは制御棒クラスタ飛出し事故等をいう。

 反応度事故による原子炉冷却材圧力バウンダリおよび炉心構造物の機械的破損の程度は、核的逸走により燃料内で発生したエネルギーが燃料から外部へ放出される量およびその速さで判断する。


指針27 安全保護系の過度時の機能

 1項の具体例としては、原子炉の過出力状態や出力の急激な上昇を防止するために、異常状態を検知し、原子炉停止系を作動させ、緊急停止の動作を開始させる等のことを意味する。

 2項でいう「偶発的な制御棒の引抜き」とは、制御棒の飛出しまたは落下を意味するものではなく、誤操作や誤動作によって制御棒が引抜かれることを意味する。

 ここでいう制御棒の引抜きは、駆動機構が同時に操作し得る最大数量の制御棒の引抜きを考えなければならない。


指針28 安全保護系の事故時の機能

 「原子炉停止系および工学的安全施設の作動を自動的に開始させる」とは、原子炉停止系および非常用炉心冷却系、格納容器隔難弁、非常用ガス処理系等の工学的安全施設の作動を自動的に行わせるための信号を出すことを意味する。


指針29 安全保護系の多重性

 「チャンネル」とは、安全保護動作に必要な単一の信号(例えば、炉心スプレイ系の起動信号)を発生させるために必要な構成要素(抵抗器、コンデンサ、トランジスタ、スイッチ、導線等)およびモジュール(内部連絡された構成要素の集合体)の配列をいう。


指針30 安全保護系の独立性

 「チャネル相互を分離し」とは、一方のチャンネルにおいて不利な条件が発生した場合、他方のチャンネルも同種の不利な条件が発生じたり、影響を受けないようになっていることをいう。


指針31 安全保護系の故障時の機能

 「駆動源の喪失、系の遮断およびその他の不利な状況」とは、電力もしくは計装用空気の喪失または何らかの原因で安全保護系の倫理回路が遮断される等の状況をいう。不利な状況には、環境条件も含むが、どのような状況を考慮するかは、個々の設計に応じて判断する。

 「最終的に安全な状態に落着く」とは、故障しても安全側に落着くか、またはそのままの状態にとどまっても安全上支障がない状態を維持できることを意味する。


指針32 安全保護系と計測制御系との分離

 安全保護系と計測制御系との部分的な共用は、共用されている機器またはチャンネルの単一故障、誤操作または保修等のために使用状能からの単一の取り外しがあっても、安全保護系の機能が失われなければ許容される。


指針33 安全保護系の試験可能性

 「その機能を原子炉の運転中に、定期的に試験できる」とは、安全保護系の機能が健全に保持されていることを運転中に適当な期間毎に確認することであるが、運転中における機能確認試験の実施中においても、その機能自体が維持されていると同時に、原子炉停止系、非常用炉心冷却系等の不必要な動作は発生しないことをいう。


Ⅶ 原子炉冷却系


指針35 原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性

 「原子炉冷却系およびその関連補助系、計測制御系ならびに安全保護系」とは、具体的には、非常用炉心冷却系、隔離冷却系等の原子炉冷却材供給系、非常用復水器等の補助冷却系、逃がし安全弁等の減圧系ならびに、制御棒およびその駆動系ならびに毒物注入系等の原子炉停止系をいう。

 「原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性を確保できる」とは、原子炉冷却材圧力バウンダリの急冷、急熱、異常な圧力上昇を抑制し、圧力バウンダリ自体は、その遭遇する温度変化および圧力に対して十分耐え得るものであることを意味する。


指針36 原子炉冷却材圧力バウンダリの漏洩検出

 「漏洩」とは、原子炉冷却材圧力バウンダリの欠陥または亀裂を通して1次冷却材が漏出することをいう。


指針37 原子炉冷却材圧力バウンダリの破壊防止

 脆性的挙動を示さず、かつ、急速な伝播型破断を生じさせないために考慮すべき応力は、各運転状態によって発生する特有の荷重によって冷却材圧力バウンダリを構成する材料に荷せられる応力を意味し、熱応力、衝撃応力、熱衝撃応力等あるいはそれらの組合せ応力を含む。

 また、加圧時の温度条件が脆性遷移温度に対して十分余裕があることが必要である。


指針38 原子炉冷却材補給系

 「原子炉冷却材補給系」とは、例えば、BWRでは、制御棒駆動機構補給水系および原子炉隔離時冷却系、PWRでは、充填ポンプをいう。

 「原子炉冷却材圧力バウンダリからの冷却材の漏洩」とは、原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する弁、ポンプ等のシール部および原子炉冷却材圧力バウンダリの小亀裂からの1次冷却材の漏洩をいう。


指針40 非常用炉心冷却系

 本指針の具体的な評価は、別に定める「軽水型動力炉の非常用炉心冷却設備の安全評価指針」による。


指針41 冷却水系

 「最終的な熱の逃がし場」とは、海、河、池、湖または大気をいう。


Ⅷ 原子炉格納容器


指針42 格納容器の機能

 1項でいう「事故後の想定される最大エネルギー放出」とは、想定される冷却材喪失時のうち放出されるエネルギーの変化が格納容器の温度および圧力を最大にする放出状態をいい、冷却材保有熱、炉内構造物の顕熱、崩壊熱、金属と水との反応による発生熱、放射線による発熱およびその他の化学反応熱等がエネルギー源として考えられる。

 「所定の漏洩率を超えることがない」とは、冷却材喪失事故後の想定される最大エネルギー放出によって生じる圧力と温度の条件において、格納容器から外部へ漏洩する割合が、所定の値を超えることがないことをいう。この所定の値は、各発電所により、個別に判断する必要がある。


指針43 格納容器熱除去系

 「格納容器熱除去系」とは、冷却材喪失事故後の格納容器内圧力および温度を十分に低下させ得る機能を有するもので、格納容器スプレイ系等をいう。


指針44 格納施設雰囲気浄化系

 「格納施設雰囲気浄化系」とは、BWRでは、非常用ガス処理系、非常用再循環ガス処理系等を、PWRでは、アニュラス空気再循環設備、よう素吸着効果をもつように添加剤を入れた格納容器スプレイ系等をいう。


指針45 可燃性ガス濃度制御系

 「水素または酸素の濃度を抑制する」とは、水素と酸素を再結合させる等により、水素または酸素の濃度を急速な燃焼を生じる限界以下に抑制することをいう。


指針47 格納容器を貫通する配管系

 1項でいう「必要な隔離能力」は、事故時に格納容器が維持すべき放射性物質の漏洩防止機能を、想定されるすべての事故条件下において阻害しないことを基本として、格納容器を貫通する配管の数、大きさ、機能等を考慮して決めなければならない。


指針48 格納容器を貫通する系および閉じた系の隔離弁

 「自動隔離弁」は、事故時に十分な隔離機能を発揮するように配慮された逆止弁または通常ロックされた閉鎖弁および遠隔操作閉止弁を含む。

 1項でいう「計測配管のような特殊な細管」とは、原子炉の安全上必要な計測またはサンプリングを行う配管で、その配管を通じての漏出が、十分許容される程度に少ないものをいう。

 上記でいう「事故時に十分隔離機能を発揮するように配慮された逆止弁」とは、格納容器壁を貫通する当該系統に、格納容器壁内外何れかの位置に破損を生じ、その逆止弁に対する逆圧がすべて喪失した条件においても、必要な隔離機能が重力等によって維持されるように設計された逆止弁をいう。

 2項でいう格納容器内側または格納容器外側において閉じた系に対して隔離弁1個を要求しているのは、その閉じた系の異常な漏洩を単一故障として仮定した場合には、隔離弁により、また、隔離弁に単一故障を仮定した場合には、閉じた系が健全であることにより、事故時に格納容器からの放射性物質の漏洩を低減させるためである。


Ⅸ 燃料取扱いおよび廃棄物処理系


指針52 放射性気体廃棄物の処理および指針53放射性液体純棄物の処理

 気体および液体の放射性廃棄物の処理施設は、周辺公衆の被曝線量が実用可能な限り低く保つ設計であることが必要であり、このためには別に定める「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」を満足しなければならない。


指針58 放射線監視

 原子力発電所は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時および事故時において、異常な放射性物質の放出および空間線量率を検出するため、放射線源、放出点、原子力発電所周辺をモニタリングできること、および事故時において、異常な放射性物質の放出および空間線量率を検出し迅速に対策処理が行えるよう、予想される放射性物質の経路等適切な場所をモニタリングできることをいう。

 「モリタリング」とは、サンプリングおよび放射線モニタ等により、放射性物質濃度等を測定および監視することをいう。


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