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動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センターにおける核燃料物質の使用の変更(照射燃料試験室の変更)に係る安全性について(答申)


51原委第895号
昭和51年10月26日

科学技術庁長官 殿
原子力委員会委員長

 昭和51年7月19日付け51安(核規)第613号をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。


 当該変更に係る安全性については、別添の核燃料安全専門審査会による審査結果報告のとおり十分確保されるものと認める。

(別添)
昭和51年10月12日
原子力委員会
 委員長 前田 正男 殿
核燃料安全専門審査会
会長 山本 寛

 動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センターにおける核燃料物質の使用の変更(照射燃料試験室の変更)に係る安全性について

 当審査会は、昭和51年7月20日付け51原委第703号をもって審査を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。

Ⅰ 審査の結果

 動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センターにおける核燃料物質の使用の変更(照射燃料試験室の変更)に関し、同事業団が提出した「核燃料物質使用変更許可申請書」(昭和51年5月14日付け申請)について、審査した結果「Ⅲ審査の内容」に示すとおり本使用の変更に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 変更の内容

 本核燃料物質の使用の変更の概要は次のとおりである。

1.建家の増設

 照射後試験の増加に対応し、既存施設の南側に鉛セル操作室、実験室、排風機室等を設けるため、地上3階、地下1階、1,688㎡のコンクリート造りの建家を増設する。

2.鉛セルの増設

 燃料ペレットの金相試験、融点測定、熱伝導度測定等の物性試験の増加に対処するため、鉛セル操作室に鉛セル8基を設置する。

3.グローブボックスおよびフードの増設

 オートラジオグラフのフイルム現像および未照射の核燃料物質の金相試験を行うため、実験室にグローブボックス5基およびフード2基を設置する。

4.貯蔵施設の増設

 試験済みの核燃料物質をキャスクに収納し保管するため、キャスク保管室を設置する。

5.廃棄施設の増設

i)気体廃棄施設

 鉛セル、グローブボックスおよびフード等の各施設から発生する気体廃棄物を処理するため、気体廃棄施設を設置する。

ii)液体廃棄施設

 増設部から発生する液体廃棄物を一時貯溜するための廃液タンクおよび既存の廃液タンクに放液するための配管、ポンプ等を設置する。

6.安全設備の増設

 増設部に各種安全設備を設ける。

Ⅲ 審査の内容

 本変更にあたっては、以下のとおり適切な配慮がなされているので、変更に伴う安全性は確保されるものと判断する。

1.施設の安全性

(1)建家の増設
i)耐震耐火性

 建家は、その主要部が鉄筋コンクリート造りで、水平震度0.3に耐える耐震構造とすることとなっており、室内の主要部材はすべて不燃材料を使用することとしている。

ii)負圧維持

 建家は、換気設備により汚染のおそれの低い区域から高い区域へ空気が流れるように各区域の負圧を設定し、常時圧力差が維持されることとなっている。

(2)鉛セルの増設
i)耐震耐火性

 鉛セルは、水平震度0.3に耐える耐震構造とすることとなっており、部材はすべて不燃材料を使用することとしている。

ii)遮へい設計

 遮へい体は鉛、鉛ガラス、鉄およびコンクリートを使用することとしている。セルの遮へいは、1MeVのガンマ線エネルギーをもつ核燃料物質または高速実験炉で照射した核燃料物質のセル内での最大取扱量を扱った場合でも、従業員の外部被ばく線量が十分管理できるように設計されている。

iii)負圧維持

 セル内は、換気設備により鉛セル操作室に対して常時負圧に維持されることとなっている。また、セル内にはステンレス鋼製のインナーボックスを設け、気密を保つこととしている。

(3)グローブボックスおよびフードの増設
i)耐震耐火性

 グローブボックスは、水平震度0.3に耐える耐震構造とすることとなっており、転倒のおそれのないようになっている。また、グローブボックスおよびフードの部材は、不燃材料および難燃性材料を使用することとしている。

ii)負圧維持

 グローブボックスは、気密構造として設計され、換気設備により実験室に対して常時負圧を維持されることとなっている。

(4)貯蔵施設の増設
i)キャスク保管室

 キャスク保管室は、増設される建家の一部であり、その耐震耐火性については建家と同様である。

ii)キャスク

 本キャスクは、試験済試料を収納し、キャスク保管室に保管しておくためのものであり、10㎜厚鋼板ライニング鉛充填構造である。遮へいは、1MeVのガンマ線エネルギーをもつ核燃料物質または高速実験炉で照射した核燃料物質の各最大貯蔵量を貯蔵した場合でも、従業員の外部被ばく線量が十分管理できるように設計されている。また、貯蔵される核燃料物質は、気密性の内容器に封入した後キャスク内に収納されることになっている。

(5)廃棄施設の増設
i)気体廃棄施設

 気体廃棄施設は、高さ20mの排気筒のほか、ダクト、フイルタユニットおよび排風機からなる。これらの施設は、排気筒の他はいずれも増設される建家の一部として耐震性および耐火性を考慮した設計になっており、排気筒は、水平震度0.45に耐える耐震設計となっている。

 排気系統は、鉛セルおよびセル内インナーボックス系統並びにグローブボックスおよびフード系統のそれぞれ独立した2系統が設けられ、いずれも予備の排風機が設置されている。各排風機は、非常用電源設備にも接続されている。系統には、高性能フイルタおよびチャコールフイルタが設置され、放射性じんあいおよび放射性ヨウ素を捕集することとしており、排気モニターを設置して排気中の放射性物質の濃度を常時測定することとしている。

ii)液体廃棄施設

 液体廃棄施設は、廃液タンク、ポンプおよび配管からなり、建家増設部の地下1階に設置されるので、その一部として耐震性および耐火性を考慮した設計となっている。

 増設部からの廃液は、増設する廃液タンクに一時貯溜した後、既存の液体廃棄施設で処理されることとなっており、十分な処理能力をもつように配慮している。

(6)安全設備

 増設部については、既存施設と同様に所要の放射線管理用設備、各種警報設備、インターロック等を設置するとともに、非常用電源設備を設けることとしている。

2.放射線管理

 管理区域においては、空間線量率および空気中放射性物質の濃度を常時監視し、作業時および必要に応じ携帯モニタ等により測定監視することとしている。また、従業員の個人被ばく管理については、外部被ばくは勿論内部被ばくについても管理することとしている。

3.臨界管理

 鉛セル、グローブボックスおよびキャスクにおいては、それぞれの核燃料物質の取扱い量を制限することにより、臨界管理を行うこととしている。

4.平常時における一般公衆の被ばく線量評価

 増設部からの気体廃棄物中の放射性物質は、ごく微量であり、これにより一般公衆への被ばく線量の増加は無視できる程度のものである。

 増設部からの液体廃棄物は、既存施設の廃液タンクにおいて放射性物質濃度を測定し、最大許容濃度の10分の1以上の場合は、日本原子力研究所大洗研究所廃棄物処理場に送液し、それ以下の場合は、一般排水として放出される。放出する場合は照射燃料試験室全体として年間放出管理目標値をこえないよう管理することとなっているので、これによる既存施設についての一般公衆への被ばく線量評価を変更する必要はない。

5.災害評価

 増設部についての最大想定事故としては、照射後試験用試料の融点の測定中に火災を生じ、セル側フイルタが損傷し、測定試料全量(100㎎)中に含まれていた放射性物質が大気中に放出されるものを想定しているが、その想定は妥当であり、また、この災害評価の結果は、既存施設の最大想定事故として考えられている事故の規模に比較して十分小さいものである。

 したがって、増設後の災害評価も既存施設について既に行っている災害評価を変更する必要はない。

Ⅳ 審査の経過

 本審査会は、昭和51年7月26日第2回審査会において審査を行い、引き続き加工・使用部会において昭和51年8月26日、9月21日および10月12日に次表のように審査を行い、本報告書を決定した。

 なお、同部会の委員は次のとおりである。

部会委員
(部会長)三島 良績東京大学

伊藤 直次日本原子力研究所

岡島 暢夫中部工業大学

清瀬 量平東京大学

筒井 天尊京都大学

松岡 理放射線医学総合研究所

山本 寛東京大学名誉教授

吉沢 康雄東京大学

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