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加圧水型原子炉に用いられる17行17列の燃料集合体について 昭和51年2月16日
原子炉安全専門審査会
PWR新型燃料検討会
昭和51年2月13日に開催された第145回原子炉安全専門審査会において、PWR新型燃料検討会より、次の報告がなされ、承認された。 Ⅰ 目的
本検討会は、ウエスチングハウス社の設計である加圧水型原子炉(以下PWRという)用の17行17列型燃料集合体(以下17×17型燃料集合体という)の基本設計をできるだけ一般的に検討することを目的とした。 そのため、第Ⅲ章に述べるウエスチングハウス社設計の17×17型燃料集合体を対象として、その構造設計、核設計及び熱水力設計などの検討を行い、その健全性の評価を行った。 なお、17×17型燃料集合体を用いるウエスチングハウス型PWRでは、全炉心が初装荷炉心から17×17型燃料集合体のみで構成される。 Ⅱ 経緯
関西電力株式会社大飯発電所の1号及び2号原子炉施設の設置変更許可申請があった機会に、17×17型燃料集合体の一般的な諸問題を検討する目的で、原子炉安全専門審査会は、昭和50年5月23日の第137回原子炉安全専門審査会において、「PWR新型燃料検討会」を設置した。 本検討会は、昭和50年6月9日に第1回会合を開催し、以降ウエスチングハウス社の技術者との直接討論をも含め合計16回の会合を開催して、以下に述べる検討項目について審議を行い、結論を得たので報告する。 Ⅲ 17×17型燃料集合体の設計
1 概要
燃料棒は、第1図(略)に示すように、両端をデイッシュ加工した円柱状の低濃縮二酸化ウランペレットをジルカロイ-4製の被覆管に入れて構成される。 燃料集合体は、第2図(略)に示すように、格子状に組み合わせたグリッドによって、燃料棒を17行17列の格子配列に保ち、24本の制御棒案内シンブルと9個のグリッド及び上部ノズルと下部ノズルで支持骨格を形成する。 17×17型燃料集合体の形状は、第3図(略)及び第4図(略)に示すように、従来の14×14型及び15×15型燃料集合体と類似しているが、主な変更点として次のものが挙げられる。 (1) 燃料ペレット、被覆管及び制御棒案内シンブルの直径などが減少したこと。 (2) 格子配列が14行14列及び15行15列から17行17例(264本の燃料棒と24本の制御棒案内シンブル及び1本の計測用案内シンブル)に増加したこと。 (3) グリッドの段数が、14×14型及び15×15型燃料集合体で用いられた7段から9段に増加したこと。 (4) グリッドの型式が、従来のもの(L型という)からグリッドデインプルの方向を90度かえた新しい形式(R型という)に変更したこと。 第1、2、3表(略)には、典型例として大飯発電所1号及び2号原子炉施設に用いられる17×17型と従来の15×15型の構造設計、核設計及び熱水力設計の特性値などが比較されている。 なお、本燃料集合体では、燃料集合体の断面寸法及び全長などは、15×15型燃料集合体の場合と同一であり、従来の炉心構造物は制御棒クラスタ案内シンブルを除き、設計を変更することなく採用できる。 2 設計
本燃料集合体を設計する基本的な考え方は、従来の14×14型及び15×15型燃料集合体の場合と同一である。 本燃料では、通常運転時及び運転時の異常な過渡変化状態に対して、燃料の健全性を維持するように、構造設計、核設計及び熱水力設計の3つの基準が設定されている。 2-1 構造設計基準
構造設計基準は次のように設定されている。 (1) 燃料最高温度は二酸化ウランの溶融点未満であること。 (2) 燃料棒内圧は運転中冷却材圧力(157㎏/㎝2g)以下であること。 (3) 被覆にかかる応力はジルカロイ-4の耐力以下であること。 (4) 被覆に生ずる円周方向引張歪の変化量は各過渡変化に際して1%を超えないこと。 (5) 被覆管の異積疲労サイクル数は設計疲労寿命を超えないこと。 以上のほか、Ⅳ1.構造設計の項で述べるように、燃料被覆材のフレッティング腐食、被覆管の偏平化などによる燃料破損の防止対策も講じられている。 さらに、燃料集合体の骨格を形成する制御棒案内シンプル、グリッド、上部ノズル及び下部ノズル並びにこれらの部材の接合部分については、種々の荷重に対してその健全性が保持され、周囲の炉心構造物の機能に影響を与えないように、次のような設計基準が設定されている。 (1) 通常運転時及び運転時の異常な過渡変化状態において生ずる静的荷重及び繰返し荷重に対する応力は、原則として、ASME Section Ⅲに基づいて評価されること。 (2) 輸送及び取扱い時の荷重に対して、6G(Gは重力加速度を示す)の荷重で著しい変形が生じないこと。 2-2 核設計基準
核設計基準は次のように設定されている。 (1) 通常運転時において、FQ×Pは2.32以下に保持されること。ここで、FQはトータル出力ピーキング係数、Pは相対出力である。 (2) 燃料棒の最高線出力密度はペレット溶融を生じない値に保つこと。 (3) ドプラ係数は負であり、減速材温度係数は運転状態で負であること。 (4) 高温零出力で最大反応度効果を有する制御棒クラスタ1本が全引き抜き状態で挿入できない場合も、0.01ΔK/K以上の反応度停止余裕が確保されること。 (5) 出力分布は、キセノン振動の基本モードに対して固有の安定性を持っているか、あるいは十分制御可能であること。 (6) 最大反応度添加率は、一次冷却材圧力バウンダリの健全性を維持できる値以下であること。 (7) 初装荷炉心及び平衡炉心は、所定の取り出し平均燃焼度を達成できる反応度を有すること。 2-3 熱水力設計基準
熱水力設計基準は次のように設定されている。 (1) 最小DNB比は1.30以上であること。 (2) 燃料最高温度は二酸化ウランの溶融点未満であること。 (3) 燃料棒の熱除去に有効な冷却材流量は、熱設計流量の95.5%以上であること。 (4) 熱水力学的不安定現象が生じないこと。 Ⅳ 検討内容
1 構造設計について
1-1 燃料棒設計コード
燃料棒設計コードは、燃料諸元、燃料棒内初期ガス量及び成分の他に、燃料棒平均線出力密度、軸方向発熱分布、冷却材入口温度及び流量を時間の関数として入力し、燃料棒の全長にわたって2次元(R,Z)の解析計算を行うものである。本コードは燃料挙動に係る各種モデルを含み、燃料温度、ペレット一被覆ギャップ、FPガス放出量、燃料棒内圧、被覆管の変形、被覆管応力などを燃焼度の関数として求めることができ、以下の燃料棒内圧、応力、歪及び疲労解析などに使用される。 本コードは実測データとの比較の結果及び本コードに基づき設計製造された多数の燃料の実績から判断して、十分な信頼性があり、17×17型燃料の設計に使用されることは妥当なものと考える。 なお、燃料棒の偏平化の評価については、上記とは別の解析コードが使用されるが、実測値との比較などより、十分安全側の評価をしているので、その使用は妥当であると考える。 1-2 燃料棒の内圧
燃料棒内圧を評価するにあたっては、解析モデルや燃料棒の寸法変動に係る種々の不確定要因を保守的に考慮した。この結果、異常な過渡変化状態が起った場合でも、燃料棒内圧は一次冷却材圧力を超えないことを確認している。 1-3 被覆管の応力
被覆管にかかる応力を評価するにあたっては、体積平均の相当応力を求め、これとジルカロイ-4の耐力とを比較検討している。 このような評価に基づく被覆管応力は、運転時の異常な過渡変化状態においても、被覆管の耐力を超えず十分な余裕があることを確認している。 1-4 被覆管の歪
1%歪基準は照射実績に基づいており、妥当なものと判断する。運転時の異常な過渡変化状態に際して被覆に生じる円周方向の平均の歪を評価した結果、1%以内に十分入っていることを確認している。 なお、長期間の通常運転時において生ずるスウエリングによる被覆管歪は、燃料寿命末期においても極めて小さいものであって問題にはならない。 1-5 被覆管の累積疲労
被覆管の累積疲労については、ランガー・オドンネルの方法を用い燃料破損の可能性について検討した結果、燃料寿命中に予想される出力変動では、燃料の健全性は十分保たれると判断する。 1-6 寸法形状の安定性
燃料集合体は異常な寸法形状変化を生じさせないため次の配慮がなされている。 (1) 輸送及び取扱い時に受ける荷重に対しては6Gの荷重に耐え得るよう設計しており、この値を超える荷重を受けたと考えられる場合には検査により確認することとなっている。 (2) 熱膨張、ジルカロイ-4の照射成長に起因して燃料棒に働く軸方向の圧縮応力は燃料棒がグリッドを上方または下方に滑ることにより緩和される。 (3) 燃料棒端と上部及び下部ノズルとの間隙は十分あり、燃料棒が長手方向の伸びによりノズルと接触する可能性はない。 (4) 解析で予想される以上の荷重条件で集合体の強度試験が行われ、熱料集合体の健全性が確認されている。 (5) 冷却材の流路はグリッドと制御棒案内シンブルで形成される構造により常に維持される。 以上のような点から本燃料集合体使用中の寸法形状の安定性は保たれるものと判断する。 1-7 フレッティング腐食
従来の14×14型あるいは15×15型燃料集合体に比べて、17×17型燃料集合体では、グリッドスパン長及びグリッド拘束力に差があり、フレッティング腐食の環境条件が従来のものと相違する可能性があるので、この点について検討を行った。この結果、フレッティング腐食量は従来のものよりわずかに減少し、問題はないことを確認している。 1-8 燃料棒の曲り
従来のウエスチングハウス社設計のPWR型燃料に発生する燃料棒の曲りの対策として、本燃料集合体では、グリッドスパン長の短縮及びグリッド拘束力の低減などが考慮されている。これらの効果について検討した結果、燃料棒が曲りのため接触することは実用上ないと判断する。 1-9 LOCA条件における17×17型燃料の挙動
ウエスチングハウス社は17×17型燃料被覆管のLOCA時の挙動を一連の単管バースト試験により模擬して求めている。模擬LOCA時の本型式の燃料体の被覆管の挙動は、破損時までのふくれと破裂温度で特性づけられる。17×17型燃料被覆管のバースト試験結果と15×15型燃料のそれとを統計的に比較した結果、両者はほゞ同様の挙動を示すことが明らかとなっている。 1-10 その他
ウエスチングハウス型PWR燃料では、ペレット焼きしまりと外圧に基づく被覆管の偏平化が一時問題となり、また一般に軽水炉燃料のジルカロイ被覆の水素脆化は燃料破損の有力な一因と考えられていたが、これらに対する対策がすでに講じられた結果、現在ではこれらの問題はほぼ解決済みである。17×17型燃料においても同様な対策が講じられているので問題はないと判断する。 以上の各項目ごとに示した通り、構造設計上問題はないと判断する。 2 核設計について
2-1 核設計解析コード
核設計解析コードは、少数群組定数を計算するARKコード(LEOPARDの改良版)と少数群拡散計算を行う改良TURTLEコード(水平方向2次元計算)、改良PANDAコード(軸方向1次元計算)より構成される。 ARKコードによる解析の精度は、臨界実験と照射燃料の同位体分析結果などと比較して、妥当であることが確認されている。 また、改良TURTLEと改良PANDAコードによる解析の精度は、運転中のプラントの実測値と比較して、妥当であることが確認されている。 2-2 燃料棒の線出力密度
アキシャル・オフセット一定制御運転による通常運転中に、制御棒クラスタ駆動装置の誤動作、誤操作、異常ほう素希釈などによる異常な過度変化が発生した場合、燃料棒の線出力密度は約59.1KW/m以上になることはない。したがってこの場合でも、熱水力設計で示すようにペレットの溶融は生じない。 2-3 反応度係数
ドプラ係数は、ウラン238の寄与が大きく常に負であり、また減速材温度係数は、運転状態で負に保持される。 反応度係数の計算値の精度は、多数の実測値により十分であることが確認されている。 2-4 アキシャル・オフセット一定制御運転
運転中、アキシャル・オフセットを常時炉外核計装で監視し、必要があれば、出力分布調整用制御棒クラスタまたは制御グループDを操作して、アキシャル・オフセットをある範囲内に抑えることができる。 種々の出力分布におけるアキシャル・オフセットと熱流束熱水路係数(FNQ)の対応を整理した結果、アキシャル・オフセットをある範囲内に保てば、熱流束熱水路係数を予想される設計値以下にすることができることを確認している。 したがって、本運転方法の採用により、通常運転時にFQ×Pは、2.32以下に保たれ、良好な出力分布が得られる。 以上の各項目ごとに示した通り、核設計上問題はないと判断する。 3 熱水力設計について
3-1 熱水力設計解析コード
本燃料集合体を用いる原子炉の熱水力解析には、改良THINCコードを、また熱水力学的安定性の解析には、HYDNAコードを用いている。 改良THINCコードの実証性は、自然循環実験、強制循環実験及び模擬燃料集合体を用いた実験などと対比して確認されている。 PWR炉心は開水路であり、開水路の方が閉水路に比べて安定性が増加することを考慮すると、閉水路を仮定したHYDNAコードを適用することは、安全側の評価であると判断する。 3-2 最小DNB比
本燃料集合体の限界熱流束は、15×15型燃料集合体の限界熱流束の評価に用いられていたW-3相関式に、グリッド型式をR型に変更した影響をとり入れたRグリッドファクタ、並びに燃料集合体の変更に伴う等価直径、圧力損失、製造公差などの影響を安全側に評価するための係数を0.86を乗じた式により決定されている。 この設計手法は、7段及び8段のR型グリッドの17×17型燃料集合体のDNB実験に基づき決定されたものであるが、9段のR型グリッドを用いた本燃料集合体にこの手法を適用することは、次に述べるところにより、可能であると判断する。 すなわち、7段及び8段のR型グリッドを用いた17×17型燃料集合体におけるDNB実験においてグリッド数を増すとDNB熱流束が増加することが認められているが、9段のR型グリッドを用いる本燃料集合体に対して、R型グリッドを7段と仮定して、DNB熱流束をより安全側に評価しているからである。 本燃料集合体の最小DNB比の設計基準として、従来の14×14型あるいは15×15型燃料集合体の場合と同様に、1.30を用いている。この値は、95%の信頼度で95%の確率でDNBが生じないとしたときのDNB比を上まわる数値であることから、1.30を設計基準として用いることは、適当であると判断する。 3-3 燃料最高温度
本燃料集合体の燃料最高温度に対する設計上の上限値は、二酸化ウランの溶融点の燃焼に伴う低下と、計算モデルの不確定因子及び製造公差などを考慮して定められており、妥当であると判断する。 燃料最高温度の評価に用いる解析コードは前述の1-1で述べたものである。 3-4 熱水力学的安定性
PWRの熱水力学的安定性はHYDNAコードで評価している。HYDNAコードによる解析結果及びPWRの運転実績などから判断し、本燃料集合体を使用するPWRの運転条件において熱水力学的不安定現象は生じないと判断する。 3-5 バイパス流量
燃料棒の熱除去に有効に利用される流量は、本燃料集合体の制御棒案内シンブル内の流量などのバイパス流量から求められる。本燃料集合体のバイパス流量は約3%であり、約97%が燃料棒の熱除去に有効であるので、設計基準を満足していると判断する。 3-6 炉内圧損及び水力荷重
炉内圧損については、8段グリッドの17×17型燃料集合体のグリッド部における摩擦損失係数の実測データに基づき評価した。9段グリッドの炉心内の圧損は、8段グリッドの場合に比べて、多少増加するが、設計に用いられる値25psiに比べて十分余裕があるので、問題はないと判断する。 また、燃料集合体のノズル・スプリングは、予想される水力荷重に対して、本燃料集合体が下部炉心板から浮き上がらないような設計となっているので、問題はないと判断する。 以上の各項目ごとに示した通り、熱水力設計上、問題はないと判断する。 4 使用実績について
17×17型燃料集合体の使用実績としてサリ-1号炉等での7,000MWd/tまでの使用例があり、順調に運転されているが、使用実績としては、燃焼度も小さく、その例も現在のところ多くはない。 しかしながら、従来の14×14型及び15×15型燃料集合体の使用実績は十分あり、17×17型燃料集合体はこれらの実績などに基づいて設計され、また製造工程は従来のものと基本的に同じである。 また、本17×17型燃料体の諸元を各種の実用及び開発照射試験で試みられたパラメータ(第4表)(略)と対比して検討すると、その実用時の挙動は既往の結果より十分判断しうると考えられる。 5 製造時の品質管理について
17×17型燃料集合体の主要な製造仕様並びに製造工程を検討した結果、従来の14×14型あるいは15×15型燃料集合体の製造技術のある製造工場で製造すれば特に困難は生じないと判断される。ただ、17×17型燃料集合体の照射実績が十分に得られていない現段階においては、製造時の品質管理に、より一層の配慮が必要であると考える。 Ⅴ 結論
PWR新型燃料検討会は、最近までに得られた知見に基づき、第Ⅲ章で述べた17×17型燃料集合体の検討を行った結果、PWRに本燃料集合体を使用することには問題ないと判断する。
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