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原子炉施設等安全研究年次計画(昭和51年度-昭和55年度)


昭和51年4月28日
原子炉施設等安全研究専門部会

 Ⅰ まえがき

 原子力施設における安全確保の重要性に鑑み、原子力委員会は、昭和47年2月環境安全専門部会を設置し、国が実施すべき原子力施設の安全に関する研究の効果的な進め方の審議を同専門部会・安全研究分科会に指示した。同分科会は、審議の結果、昭和48年7月、推進すべき安全研究課題、安全研究の進め方、安全研究推進体制等について報告書をまとめた。この報告書に基づき、原子力委員会は、昭和48年度から計画的に、日本原子力研究所を中心として、平常時及び想定事故時の安全評価に関する研究、安全解析コードの開発、放射性廃棄物の放出低減化研究等の試験研究を、昭和48年度17億円、昭和49年52億円及び昭和50年度70億円の予算を計上し推進してきた。

 一方、同分科会の報告では、安全研究推進方策として、安全研究の企画立案及び推進、その成果の評価、長期的な計画の検討等を行う総合調整機能を持つ体制の設置を今後の検討課題としていた。

 原子力委員会は、この検討課題を踏まえ、かつ、今までの安全研究の進展、原子力施設の建設・運転経験の蓄積による知見の増加、国際協力の活発化等に鑑み、安全研究を総合的計画的に推進するため、昭和49年8月、原子炉施設等安全研究専門部会を設置し、安全研究の企画立案及び調整、その成果の評価及び活用並びに国際協力の推進について諮問した。

 原子力委員会の諮問を受けて、当専門部会においては、当面、軽水炉施設の工学的安全研究及び再処理施設の放出低減化研究(以下「原子炉施設等の安全研究」または、単に「安全研究」という。)を審議の対象として、先の安全研究分科会の安全研究年次計画の見直しを行い、昭和51年度から5か年間に実施すべき安全研究課題を挙げ、成果が得られる時期等を考慮した安全研究の年次計画、国及び民間の実施分担、研究推進体制等について審議を重ね、ここにその結果をとりまとめたので報告する。

 なお、本報告書に挙げられた研究計画は今後の研究の進捗状況、成果等を考慮し、常時見直す必要があると考える。


 Ⅱ 安全研究の考え方

 原子力の安全性の基本は、放射能を安全に管理しつつ、その開発利用をはかることにある。このため、原子炉施設等の設計、建設及び運転にあたっては、次の多重防護(三つのレベルからなる安全確保)の考え方をとっている。

 すなわち、

(1) 第1のレベルでは、安全上余裕のある設計を行うこと、製作において厳重な品質管理を行うこと、施設または機器が設計どおり建設または製作されているか検査すること、運転に入ってから厳重に監視、点検、保守を行うことなどにより施設や関連機器に故障が起こらないよう配慮する。

(2) 第2のレベルでは、このような配慮にもかかわらず、運転中に何らかの故障や誤操作が発生するものと仮定し、そのような場合に対応して、多重的かつ独立的な安全保護系を設けたり、設備の損壊の防止や事故の影響を少なくするための工学的安全施設を設けるなどにより、大きな事故に発展することがないよう対策を講じる。

(3) 第3のレベルでは、例えば、多重性を有する上記工学的安全施設のうち、その一部が作動しないことなどさらに厳しい状況を想定し、このような場合でも周辺の公衆の安全を確保するため、所要の対策を講じる。

 更に、周辺公衆に対する放射線防護の基本的考え方として、放射線による被曝を実行可能な限り低く押える(As low as practicable,ALAP)という考え方がとられている。

 以上の多重防護の考え方及びALAPの考え方に従って、原子炉施設等の安全性を確保するための安全基準、指針、解析モデル等の判断資料に基づいて、総合的に安全性が判断され、これまでも、原子炉施設等は、高い安全確保の実績を示してきている。

 しかしながら、今後の原子炉の改良、単基容量大型化、集中立地に対応し、また安全研究の進展及び原子炉施設等の建設・運転経験の蓄績等による知見の増大に対応して、上記の基準、指針、解析モデル等の判断資料を整備し、かつ安全裕度をより定量化し、安全確保のための要求に適合したものとしておく必要がある。さらに、原子炉施設等の建設・運転にあたっては、科学技術の進歩を踏まえ、最新の技術水準がとり入れられていることが必要である。

 以上の安全基準、指針、解析モデル等の判断資料の整備及び安全裕度の定量化を図るための並びに安全技術の向上を図るための安全研究の推進が必要である。

(注) ALAPという表現は、ICRP publication 1(昭和33年勧告)で示されているもので、内容をより明確に表わすため、ICRP publication 22(昭和48年勧告)では、As low as reasonably achievable,ALARAと表現されている。


 Ⅲ 安全研究計画策定の考え方

 安全研究計画の策定にあたっては必要な研究課題の見落しを防ぎ総合的計画的な研究計画とするため、課題の選定は以下の手順で行った。

(1) 第Ⅱ章で述べた安全の考え方に従って技術的に確かめるべき項目を先ず網羅的に列挙した。

(2) 列挙した項目について、諸外国を含めた情報知見の現状を考慮し、さらに安全裕度を定量化するため及び安全技術向上に必要な項目を摘出した。

(3) 摘出した項目毎に、影響の大きさ、緊急度等を勘案し、実施すべき研究課題を策定した。

 本報告に挙げられた安全研究年次計画は、こうして選ばれた安全研究課題別に成果目標を想定し、国際協力による分担を含めた実施の可能性、その成果の得られるべき時期などを考えて緩急順序をつけ、当面、昭和51年度から5か年間に行うべき研究計画をまとめたものである。なお、当該年度途中に、緊急に生じた問題についても、その都度検討を行い、研究計画を作成することとする。

 この研究計画策定の考え方に従って、第Ⅴ章で実施すべき安全研究課題を記述した。その年次計画は第Ⅵ章にまとめた。


 Ⅳ 安全研究の推進方策

 安全研究計画は国及び民間で実施すべき広範な領域の多数の安全研究課題を含んでいるので、これらを年次計画に従って円滑に実施するためには、国及び民間の実施分担の考え方を明確化するとともに安全研究実施体制を強化する必要がある。

 実施分担を決める際の基本的考え方は、国の安全判断に必要な安全基準、指針、解析モデル等の判断資料の整備のための研究は、国が実施し、安全対策及び安全技術の向上を図るための研究は、民間が実施すべきものと考える。ただし、民間で実施すべきものであっても、経済的制約等で実施が困難なものは、国として何等かの措置が必要であると考える。

 以上の考え方による国及び民間の分担を第Ⅵ章に示した。なお、ここで言う実施分担は、資金分担である。

 国で実施すべき安全研究の実施体制の強化については、新たな特殊法人を設立する強化策をも含め検討を行った。

 しかし、新たな法人の設立は、安全研究の緊急性、研究者の確保の困難性等から適切でなく、日本原子力研究所を中心とする既存の研究機関の研究体制のより一層の整備拡充、並びに相互の協力関係の強化を行うとともに、委託費の増強等必要な予算措置を講じ、原子力安全研究協会及び原子力工学試験センターを始めとする民間の公益法人等の積極的活用をはかることが必要であるとの結論に達した。

 また、民間で実施すべき安全研究については、国として民間が積極的に実施するよう、必要に応じて適当な施策を講じることが望ましいと考える。


 Ⅴ 今後実施すべき安全研究課題

 原子炉施設等について、昭和51年度からの5ケ年間に実施すべき安全研究計画は、(1)反応度事故に関するもの、(2)冷却材喪失事故に関するもの、(3)軽水炉燃料に関するもの、(4)原子炉施設の構造安全に関するもの、(5)放射能の放出低減化に関するもの、(6)確率論的安全評価に関するもの、(7)原子炉施設等の耐震に関するもの、の7つの項目に分類される。

 概要は以下のとおりである、

 反応度事故に関する研究としては、燃料の破損しきい値を確めることに重点をおき破壊力の大きさとその影響について、NSRR計画による実験及び評価コードの開発等を実施する。

 冷却材喪失事故に関する研究としては、ROSA(Rig of Safety Assessment)計画による評価コードの開発検証目的とした実証研究及び事故想定時の冷却材及び格納容器の挙動を解明するための大型実証試験を実施する。

 軽水炉燃料の安全性に関する研究については、通常・過渡及び事故の各状態における燃料のふるまいを確認するための研究、原子炉系外の放射能放出低減、または運転保守の観点からFPのふるまいを確明する研究、および評価コードの開発に関する研究等を実施する。

 原子炉施設の構造安全に関する研究としては、原子炉構造の信頼性、健全性を向上させるための研究、安全設計基準確立を目的とした研究、事故を想定した安全評価に関する研究等を実施する。

 放射能の放出低減化に関する研究としては、軽水炉施設について事故時のヨウ素の放出低減化、再処理施設について通常時のクリプトン、ヨウ素及びトリチウムの放出低減化技術の開発等に関する研究を実施する。

 原子炉の安全性の確率論的評価に関する研究としては原子炉の運転データ、故障・異常のデータの収集・確率論的安全評価の手法の開発のための研究を実施する。

 原子炉施設等の耐震に関する研究としては、設計地震の策定、耐震解析および耐震設計の安全裕度確認に関する研究等を実施する。


1 反応度事故に関する研究

 原子炉の安全審査においては反応度が異常に投入された反応度事故時の炉心の健全性を確認することになっている。反応度事故時の安全評価としては、燃料エンタルピが1つの判定基準としてとられている。この判定基準の安全裕度を確めるため、反応度事故条件を模擬した原子炉のパルス運転により原子炉燃料を試験的に破壊し、その燃料破壊エネルギーを実証的に測定し、事故時の燃料の挙動を定量的に把握する研究が必要であり、これを総合的実証的に実施する。また国際協力の一環として、既に参加している米国のPBF(Power Burst Facility)計画(燃料安全性の大型実証試験計画)から実験データ等を得ることとする。

1.1 燃料破損前の過渡挙動に関する研究

 反応度事故時における原子炉出力の変化速度は、平常運転時の起動、停止等における出力変化に比べ非常に大きい。このために安全性研究炉(NSRR)を用い変化の速い過渡状態を模擬し、燃料の過渡挙動の解明をおこなう。

1.2 燃料破損の限界及び破損モードに関する研究

 反応度事故時においては、燃料が急速加熱され、熱膨張や熱衝撃、燃料溶融、内圧上昇等によって、被覆材の変形・破損が起る可能性がある。

 本研究は、反応度の印加条件、燃料仕様、燃焼度等各種パラメータが変った場合の燃料破損の限界及び破損モードの解明を行う。

1.3 破壊力の発生とその影響に関する研究

 燃料の破損によって溶融燃料が小片となって冷却材中に飛散する場合が想定され、この場合には冷却材の急激な加熱によって衝撃圧、膨張圧、水撃力等の機械的な破壊力が発生する可能性がある。また、内圧破損においては破損時に衝撃圧の発生の可能性がある。このため、燃料破損にともなう破壊力の性質、大きさおよびその影響に関する知見を得るための実証的研究を行う。

1.4 解析コードの開発研究

 反応度事故時の燃料並びに炉内の各種現象について理論的又は実験的な知見に基づいて挙動解析コードの開発・確立をはかる。

 また、これに妥当な安全裕度を盛り込んだ安全評価コードの作成を行い原子炉の設計並びに安全評価に資することとする。

1.5 NSRR-2によるPCM実験

 出力冷却不均衡(Power Cooling Mismatch、PCM)時の燃料破損実験を実施し、燃料破損モード及び破損限界、破損後の燃料挙動及びFP挙動を解明し、PCM現象の解明に必要な知見を得るとともに、燃料の挙動及び工学的安全防護装置の機能を確認し原子炉の安全評価に必要な資料を得る。

2 冷却材喪失事故に関する研究

 原子炉の安全審査においては、一次冷却系の配管が破断し、冷却材が流出して炉心の熱除去能力が著しく低下する冷却材喪失事故を想定することになっている。これに関して、原子力委員会は、昭和50年5月に解析指針として「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針について」(ECCS指針)をまとめており、これに基づき安全評価が行われている。

 しかしながら、冷却材喪失事故時の諸現象は極めて複雑で現在の安全評価では、極めて安全側(conservative)に評価している。

 従って、事故時の原子炉のふるまいを明確にする必要があり、このためROSA計画等の総合試験及び現象別のブローダウン伝熱流動実験及び再冠水実験を総合的・計画的に実施する。

2.1 解析モデルの開発と検証のための総合試験

 事故時に原子炉内に生ずる様々な現象を理論的あるいは実験的知見に基づいて、最も適確に予測するコードを開発・検証し、さらにこれに妥当な安全裕度を盛りこんで、工学的安全施設等の性能評価を行うためのコードを開発する。また、これらの計算結果の妥当性を示すための総合実験を実施する。なお、国際協力の一環として、米国のLOFT(Loss of Fluid Test)計画(冷却材喪失に関する大型実証試験計画)から実験データ等を得ることとする。

2.2 冷却材の挙動に関する研究

 事故を想定した場合に、燃料棒とくに破覆管の健全性がどの程度損なわれるかを評価するためには事故時の冷却材による除熱量及び炉心の発熱量から被覆管の温度を知る必要がある。

 このため事故時の炉心からの発熱量とこれを決める重要な因子である冷却材の挙動を把握するため、ブローダウン伝熱流動実験及び再冠水実験を実施する。

2.3 格納容器内圧の挙動及び圧力抑制装置に関する研究

 圧力抑制装置並びに格納容器スプレイによる圧力抑制効果を含めた格納容器内圧の時間的変化、各種の隔離弁の信頼度向上、格納容器および圧力抑制装置に対する冷却材放出時の熱的、機械的影響等について研究を行う。なお、国際協力の一環として、スウェーデンのMarviken計画(格納容器挙動の大型実証試験計画)から実験データ等を得ることとする。


3 軽水炉燃料の安全性に関する研究

 燃料はエネルギ及び放射性核分裂生成物(EP)の発生源であるので、燃力のふるまいを把握し、適切な処置を取ることが前述の原子炉安全の考え方に基づく三つのレベルを通じて安全上の基本である。このための燃料の使命は原子炉の定常・過渡・事故のすべての状態において燃料ペレット内に蓄積されたFPを、燃料被覆管内に閉じ込めておくことである。しかし、炉心には多数の燃料棒があり、その品質評価には統計的取扱いをしなければならないので、ある低い確率で破損の発生を考えるべきであり、また原子炉の過渡及び事故の状態では、さらに多くの燃料が破損することに備えて原子炉には多数の工学的安全防護施設が設けられている。したがって、燃料の安全研究としては、破損の現象、限界を解明して原子炉の通常運転時の燃料の健全性を向上させる目的とともに、原子炉の過渡状態及び事故時における燃料のふるまいを明らかにし、工学的安全防護施設の機能を確認する目的とがある。このためには、燃料棒からFPが逸出するような燃料破損の原因を明らかにする研究、事故時の燃料ふるまいを把握するための研究、破損の発生あるいは事故の想定時点まで通常運転を続けたのちの燃料体の状態を正確に把握し、破損あるいは事故の初期条件を明らかにするための研究、及び被曝評価の基礎情報を与えるための研究を実施する。

 また、このような研究の成果及び既存のデータとを関連させてモデル及びコードを作成するための研究を進める。

3.1 通常運転時の燃料のふるまいに関する研究

 燃料の破損原因の究明及び事故時の燃料ふるまいの把握のためには、破損の発生あるいは事故の想定時点まで通常運転を続けた後の燃料体の状態を正確に把握し、破損あるいは事故の初期条件を明らかにする必要がある。

 このため、ペレット・ジルカロイ被覆管及び燃料棒の寸法変化、力学的特性、熱的特性等の諸物性値を運転履歴の関数として把握するための研究を行う。

3.2 通常運転時の燃料破損原因の究明に関する研究

 ここでとりあげる破損の形式は主としてペレットによる被覆管の過応力あるいは過歪が腐食性の環境下で生じる場合である。この現象をよりよく理解するためにペレット-被覆管の機械的相互作用(Pellet-Clad Mechanical Interaction、PCMI)現象そのものの研究、ランプ状運転による燃料破損研究およびジルカロイの破壊現象に及ぼす温度、応力、照射及び化学的環境の影響に関する研究を行う。

 又、実用炉での破損燃料について適切な照射後試験を行い破損の実態に関する資料の集積を行う。

 なお、国際協力の一環として、Halden計画(OECD-NEAの燃料照射実験計画)及びInter-Ramp Test計画(スウェーデンの燃料照射実験計画)から実験データを得ることとする。

3.3 冷却材喪失事故(LOCA)時の燃料のふるまいに関する研究

 LOCA時の燃料の健全性は前記「ECCS指針」に基づき、確認することになっている。

 このため、LOCA時の燃料の熱的、機械的挙動を明らかにし、LOCAの事象を安全側に評価できる限界条件を定めるための研究を行う。

3.4 放射性核分裂生成物(FP)の放出挙動の研究

 被曝評価の基礎情報を与えるためには、燃料ペレット内で発生したFPが原子炉系外に移行するまでのFPのふるまいを明らかにする必要がある。

 このため、一次冷却材圧力低下時の破損燃料からのFP追加放出に関する研究を行う。

3.5 燃料ふるまい計算プログラムの整備・開発

 燃料ふるまいに関する知見は出来るかぎり計算プログラム化され、定量的にふるまいが記述され、またふるまいの予測が可能となることが必要である。このため、計算プログラムの整備・開発を行うこととする。

3.6 燃料安全性研究施設の整備・充実

 以上の研究課題と取り組むためには、燃料研究施設及び研究技術の開発と充実が必要である。このため、研究用炉内ループなどの燃料照射施設整備、照射試験中の計装燃料技術開発、燃料材料照射後試験施設の整備を行うこととする。

3.7 燃料安全研究用の物性値、モデルその他のデータの収集・評価・収納

 安全研究および安全評価に使用するための燃料に関する物性値などを収集し、この目的に応じた取捨選択を行って、データ集として収納する努力が必要である。


4 原子炉施設の構造安全に関する研究

 原子炉構造物は、燃料からの大量のFP放出が想定されるような事故条件下でもこれらの構造物が健全であることにより、究極的に公衆の安全を確保するように設計・製造され、さらに健全性を確認するため品質管理及び運転中の共用期間中検査が行われている。

 原子炉施設の構造安全研究の基本は、これらの健全性を判断するための各種基準・指針の整備及び構造設計のための情報を得ることである。

 また、現在安全評価のために想定されている事故の記述を明確にし、安全評価の精度をより一層向上させる研究が必要である。

 構造安全研究の内容としては、以上の考え方から材料の評価、設計基準の整備、成形・加工技術の基準化、検査技術の向上及び構造設計への信頼性工学の適用に関する研究、構造物にき裂が発生した場合これが伝播、成長しても不安定破壊に至らないことを確認する研究及び技術的には起こり得ない構造物の瞬時破断を想定した実証的構造物破断試験研究を行う。

4.1 応力解析及び構造強度に関する研究

 構造強度に関する応力解析法及び設計法を確立するため、理論的根拠や精度の向上、支持構造部、特に配管支持構造における想定事故荷重に対する解析強度評価に関する研究を行う。

 また、輸送の本格化に対処するため、使用済核燃料輸送容器の安全性総合評価及び解析コードの整備を早急に行う。

4.2 構造材料及び構造コンポーネントの評価に関する研究

 超厚鋼板の靭性評価に関しては従来Pelliniの破壊解析線図(脆性破壊遷移温度に基づく材料の靭性評価)が用いられていたが、板厚効果、欠陥の影響、想定事故荷重などの不確実要素などについて必ずしも明瞭な評価が行い得なかった。これに対し、破壊力学的手法による靭性評価が導入されつつあるが、破壊靭性試験法として確立したものはなく、合理的な評価方法の確立のための研究を行う。

 また、一次系配管あるいは蒸気発生器細管において最近応力腐食割れ等が一部生じているが、ステンレス鋼、ニッケル合金鋼及び各種溶接材料の製作条件、使用環境及び応力条件による割れ挙動を解明するための研究を行い、軽水炉配管系の安全評価のための資料を得ることとする。

4.3 構造物のき裂損傷の安全評価に関する研究

 原子炉圧力容器等に用いられる材料の素材あるいは溶接部におけるき裂については、使用条件下におけるき裂の伝播特性の把握、重大な破損事故につながる限界き裂長さの評価を行うとともにき裂が使用中に危険な大きさにまで成長し得ないことを実証的に確認する必要がある。

 このため、材料の評価試験としての最適な材料試験方法の確立を図ると同時に、構造物のき裂損傷に対する材料特性値の適用ならびに破壊力学的手法にもとづく評価法の確立のための研究を行う。

 また、低サイクル疲労におけるき裂の成長に関しても材料特性値の構造物におけるき裂伝播挙動への適用に関して、より複雑な構造物を対象とした研究を行う。

4.4 構成機器の破損に対する安全評価に関する研究

 原子炉構造物の健全性を確保するため、一次系配管破断事故及びタービン等の破損によるミサイル事故を想定した安全評価が行われている。これらの事故想定時における各構成機器の荷重状態、それらの機器への影響などについて現在とられている安全裕度を定量化する研究を行う。

4.5 構成機器の信頼性向上に関する研究

 今後の原子炉施設の大容量化に対処して機器の大型化高性能化が図られる一方、安全性向上を目指して種々な機器や系統の改善が実施されている現状にあり、更に原子炉施設の安全性を高めるために機器そのものの信頼性をより定量的に把握する必要が増している。

 このような見地から、蒸気発生器及びバルブについて、運転中の強度、性能に関する情報を得るため、調査研究を実施し、実験データの集積を行う。

4.6 検査技術の精度向上に関する研究

 最近における破壊力学の研究成果に基づき、材料の強度を格段と精度高く推定するため、材料(溶接部を含む)に内在する欠陥の数及び形状をより高い精度で定量的に把握することが必要となっている。このため、原子力機器の非破壊検査法に関し、各種非破壊検査法の総合比較及びAE法の実用化に関する研究を行い、また検査機器の自動化及び遠隔化のための研究開発を実施する。

4.7 数値解析プログラムの開発に関する研究

 原子炉および一次系に属する機器においては、何等かの欠陥の存在を検出した場合、その構造安全性を精度高く評価することが必要である。このため、機器の供用中検査から得られた任意の検出欠陥を入力データとして、任意材料及び任意形状の構造物の安全性を精度高く評価できる数値解析プログラムを開発する。

4.8 信頼度工学に関する研究

 原子力発電所の運転実績が世界的にも長いものでないため、経験確率的数値のみからでは必ずしも説得性のある信頼性評価の結果が得られない。そのため、機器の信頼性を評価するためには、破壊力学等の材料強度の算定法を基礎として、信頼性解析の手法による機器の損傷確率の推定を行う必要がある。

 このため、信頼度工学の安全評価への適用及び構成機器の品質保証に関する調査研究を実施する。


5 放射能の放出低減化に関する研究

 軽水炉の通常運転時における放射能放出量の低減化について、昭和50年5月原子力委員会は「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針について」を定めた。これを1つの目標として放射能放出低減化のための技術開発が続けられる必要がある。

 一方、原子炉事故時の被曝評価を行うために、放射能放出過程の解明及び放出低減化の過程に関する知見を確保しておく必要がある。

 再処理施設からの放出低減化及び施設内従業者の被曝低減化に対してもALAPの精神を指向した研究を行う必要がある。

 大気を経由する拡散沈着は、国の事情により取上げるべき項目も相当に異なると考えられる。特にわが国の人口稠密、国土の狭い状況等を考慮すると一層データの積み上げ、独自の解析法が要求される。

5.1 軽水炉事故時における放射能の放出低減化に関する研究

 軽水炉に各種の事故が生起したと想定しても、一般公衆に放射線障害及び災害を与えないことを確認する必要があり、また、安全規制の立場からも原子炉事故時の被曝評価を行うため、放射能放出過程の解明、放射能放出低減化技術の研究を行う。

5.2 軽水炉の通常運転時における放出低減化に関する研究

 軽水炉の通常運転時に環境に放出される放射性物質の中で建屋空調系のヨウ素の放出低減化をはかるため、除去もしくは分離回収、さらには長期貯蔵を行うための技術開発を行う。

5.3 軽水炉一次系内腐食生成物の生成、挙動の解明及び除染に関する研究

 軽水炉施設における運転保守員の被曝低減化をはかるため、軽水炉の一次冷却水中に存在する腐食生成物(Corrosion Product:CP)の生成と挙動を解明し、その抑制及び除去技術の開発を行う。

5.4 軽水炉施設等における廃液処理技術の研究

 軽水炉施設等で発生する廃液処理の中でさらに放出低減化を図るべきものとして、洗浄廃液の処理及び放射性廃液の減容処理がある。

 前者については、放射能濃度は極く低く大量の希釈水と共に放出されるので現状では問題はないがALAPの考え方に添い、それに含まれる放射能物質を分離除去する処理方法の開発を行う。

 一方後者については最終処分形態としての固化体(現状セメント固化)発生の見地からみた場合、濃縮処理に基づく濃縮廃液が放射性廃棄物の中で大きなウエイトを占めており、これを減容し放出低減化するための処理技術の開発を行う。

5.5 再処理施設における気体廃棄物の放出低減化に関する研究

 再処理プラントから放出されるオフガス中の放射性物質は許容濃度以下に制御されているが、ALAPの原則に基づき、トリチウム、クリプトン及びヨウ素の現実的かつ安全な捕集方法の確立をはかるための技術開発を行う。

5.6 再処理施設における液体廃棄物の放出低減化に関する研究

 低放射性廃液を除染性能の高い蒸発処理するとともに、蒸発設備にサイクロン・デミスター等の同伴飛沫分離装置を設けることにより、濃縮液の除染効果を上げ、総合した除染係数が10以上に維持されることを目標とする。

 このため、低放射性廃液の蒸発濃縮処理技術を確立するとともに、廃液処理施設の一部に組み入れることにより、再処理施設から発生する液体廃棄物の環境への放出低減化をはかる。

5.7 拡散に関する気象要素の測定に関する研究

 平常時及び事故時における公衆の放射性気体廃棄物による被曝評価を行うためには、敷地における気象条件の測定データ及び評価に用いる拡散式の妥当性実証のための拡散に関する各種気象要素の測定データが必要である。この測定データを得るための気象観測法およびデータの自動処理法の研究開発を行う。

5.8 拡散の推定と予測手法に関する研究

 平常時及び事故時における公衆の放射性気体廃棄物による被曝評価を行うため、より精度が高く適用範囲の広い拡散式を作成する必要がある。このため、広域にわたる大気拡散の評価方法及び特殊条件下における拡散状況の推定方法を確立するための研究を行う。

5.9 大気、海洋及び土壌にわたる拡散の推定と予測に関する研究

 公衆の被曝線量の評価のために、大気、海洋、土壌にわたる放射性核分裂生成物(FP)の拡散及び沈着の過程を解明するための研究を行う。


6 原子炉施設等の確率論的安全評価に関する研究

 原子炉施設等の安全性を評価する手法として、次の2つの考え方がある。

(1) 十分に安全余裕のある仮定を用いて事故とその経過を解析し、公衆への放射線影響を解析・推定し、それを基準に公衆との隔離及び事故を仮定したときの危険度を評価する方法の安全評価

(2) 各種の事故を想定し、その予想発生頻度とそれによって公衆が受けるかも知れない災害を確率論的手法で評価する確率論的安全評価。

 確率論的評価は、定量的危険度(リスク)解析法を基礎として、事故の確率及びその影響を解析し、原子炉施設の安全評価を行うものであって、原子炉施設等の安全の理念に一貫性をもたせ、異なる種類、異なる設計の原子炉の安全性を比較検討する場合、また、原子炉施設の安全性を他の一般施設と比較をする場合に必要である。

 このため、原子炉施設の事故影響を想定された事故の発生確率と組合せて評価する確率論的安全評価手法を開発する。

6.1 原子炉施設等の信頼度に関する研究

 原子炉施設の運転、保守、故障、及び修理に関する情報を収集・調査するとともに信頼度解析手法を開発する。

6.2 確率論的安全評価手法の確立に関する研究

 原子炉事故の初期事象の発生から放射性核分裂生成物(FP)が原子炉より拡散し公衆に損害を与えるまでの事故系列を選定する。次にこれら事故系列の生じる確率及びその影響の解析、感度解析によるシステムのアンアベラビリテイ解析、事故系列の構成並びにFP放出・拡散モデル及び公衆への影響モデルの評価からなる原子炉施設の確率論的安全評価手法の確立に関する研究を行う。


7 原子炉施設等の耐震に関する研究

 耐震設計の目的は原子炉施設等がその供用期間中に仮に大地震に遭遇した場合でも公衆が放射線障害を受けないことを保証することにある。

 このためには原子炉施設等敷地に起ると考えられる最も大きい地震を予測し、その地震に対しても原子炉が重大事故を起すことなく、かつ安全停止状態に維持する機能を損なわないよう、技術的対策をたてる必要がある。

 このため、今後、耐震安全研究を積極的に実施し、より正確な安全評価を行うとともに、それを通して原子炉施設の耐震性をより一層向上させることとする。

7.1 設計用地震波の作成(上下動を含む)に関する研究

 敷地における地震動の波形は一様でなく地震ごとに異った波形を示す。このため、種々の波形をもつ地震に対し十分安全でかつ工学的に妥当な耐震設計が行えるような水平及び上下方向の波形を人為的に作成するための研究を行う。

7.2 上下動の応答解析に関する研究

 原子力発電所に対し最近特に近地地震が問題視されるようになり、上下動も相当のものを採入れる必要が生じてきている。また耐震設計においては水平震度が逐次大きくなり、構造物のロッキング振動の影響を無視しえなくなりつつある。このため上下動の応答解析手法に関する研究を行う。

7.3 非線型応答解析に関する研究

 原子力発電所の機器及び設備の地震応答解析において弾塑性、ガタ系、片利き系等の非線型を含む系を取扱う必要がある。このため、耐震設計に使用可能な非線型解析法を開発し、その妥当性と限界を解析および実験の両面から確認するための研究を行う。

7.4 建物と地盤の相互作用に関する研究

 原子炉施設の建物のように剛性の高い構造物の固有値は、建物と地盤との相互作用に大きく支配され相互作用の解明は動的解析結果の信頼性向上に最も影響する。現状の解析では、相互作用の評価方法の妥当性が十分証明されていないため大きな裕度を見込んでいる。このため、その妥当性を証明し、より合理的な評価法を確立するための研究を行う。

7.5 設計裕度の確認と大型振動台の開発

 原子炉施設の地震に対する安全性を明確に示すとともに、耐震設計の信頼性向上を図るためには安全上重要な機器等の設計裕度を確認する必要がある。

 この際機器等によってはその設計裕度確認のため、これまでの容量及び性能を上まわる大型振動台による実験が必要であり、このため大型振動台の開発を行う。

7.6 アクティブコンポーネント等の地震時運転性能試験

 ポンプ、ファン、バルブ等は地震時あるいは地震後にその確実な作動が要求される。このため、これらアクティブコンポーネント等の地震または地震後の作動確認を実証的に行う。

7.7 高温及び高放射線下で使用可能な振動測定器の開発

 原子炉施設の地震応答観測用の振動測定器で、一次系近傍に取付けるものは、高温及び高放射線下で使用可能なものでなければならない。このため振動測定器を開発し、原子炉施設の地震応答観測及び耐震設計の信頼性の確認を行う。

 Ⅳ 原子炉施設等の安全研究年次計画(昭和51年度~昭和55年度)


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