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フィルムバッジによる外部被ばく線量管理の手引き(RⅠ等取扱事業所用)


昭和51年3月
科学技術庁原子力安全局
放射線障害防止中央協議会

 目次

Ⅰ 管理区域立入者と許容被ばく線量
 1 関係法令
 2 管理区域立入者の区分
 3 許容被ばく線量
Ⅱ フィルムバッジの取扱い
 1 フィルムバッジの種類
 2 フィルムバッジの取扱い上の注意事項
  (1) 装着時の注意事項
  (2) 使用時の注意事項
  (3) 保管時、使用後等の注意事項
 3 フィルムバッジの装着部位
  (1) 装着部位
  (2) プロテクター使用時の装着部位
Ⅲ 測定結果の整理
 1 被ばく線量の記録
  (1) 管理区域に立ち入る前の調査事項
  (2) 入所後の主な記録事項
 2 記録にあたっての留意事項
  (1) 入所前の被ばく線量等
  (2) 入所後の記録
  (3) β線による被ばくがあった場合
  (4)フィルムバッジから情報が得られない場合
Ⅳ 被ばく線量の測定結果に伴う措置等
 1 被ばく線量の測定結果に伴う措置
 2 被ばく線量の測定結果の通知
あとがき

 Ⅰ 管理区域立入者と許容被ばく線量

  1. 関係法令

 放射線を利用した業務を開始する場合、事業所が放射線に関するどの法令により規制を受けるかあらかじめ知っておく必要があります。そして、その法令の規制内容を調べ忠実に実行することが必要です。主な放射線関係の法令には、次のようなものがあります。

○放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(障害防止法)
○同法施行令
○同法施行規則
○核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(規制法)
○電離放射線障害防止規則(電離則)
○人事院規則10-5(職員の放射線障害の防止)
○船員電離放射線障害防止規則
○医療法施行規則
○薬局等構造設備規則
○放射性医薬品製造規則
○放射性物質車両運搬規則

事業所ごとの適用関係をまとめると第1表のようになります。

第1表 関係法令の適用

 なお、本手引きの以下の内容は、規制法の規制を受ける原子炉施設、再処理施設、核燃料加工施設等における被ばく管理は対象にしておりません。

  2. 管理区域立入者の区分

 障害防止法では、管理区域内に立ち入る者を放射線障害防止上の見地から、業務の性格と管理区域への立入り頻度、時間を考慮して「放射線作業従事者」、「管理区域随時立入者」、「一時的立入者」と3区分しているほか、「運搬従事者」という区分もしています。

 他の法令においても類似の区分がされています。そして、この区分に従ってそれぞれ別の許容線量が定められています。したがって、事業所の中で業務上放射線の被ばくを受ける可能性のある者、あるいは何らかのかたちで放射線にかかわりのある者は全てこの区分にあてはめて放射線管理を行う必要があります。すなわち、放射線作業従事者、管理区域随時立入者の区分については、それぞれの事業所においてあらかじめ職務の内容等を考えて指名し、明確にしておくとともに本人にも知らせておきます。障害防止法による管理区域への立入者の区分を第2表に示します。

  3. 許容被ばく線量

 放射線作業従事者及び管理区域随時立入者の全身等に対する許容線量が関係法令により規制にされていますが、それらの基準が基本的に拠りどころとしているICRP(国際放射線防護委員会)の勧告では、放射線防護の一般原則について、「どんな被ばくでもある程度の危険を伴うことがあるので、いかなる不必要な被ばくも避けるべきであること、並びに経済的及び社会的な考慮も計算に入れたうえ、すべての線量を容易に達成できるかぎり低く保つべきである。」と勧告しているので、このICRP勧告の趣旨を理解し、可能な限り被ばく線量を低くするよう管理に努めます。

 その被ばく線量の測定は、通常、フィルムバッジ等個人被ばく測定用具により行います。なお、障害防止法に定められている許容被ばく線量は第3表のとおりです。

第2表 障害防止法による管理区域立入者の区分

第3表 障害防止法における最大許容被ばく線量等

 Ⅱ フィルムバッジの取扱い

  1 フィルムバッジの種類

 現在、市販されているフィルムバッジの種類を大別すると次の4種類に分けられます。

X線用フィルムバッジ23~80KeV範囲の低エネルギーのX線、γ線を測定対象としたフィルムバッジ
γ線用フィルムバッジ0.12~3MeV範囲の高エネルギーのX線、γ線を測定対象としたフィルムバッジ
広範囲フィルムバッジ0.02~3MeV範囲のX線、γ線を主な測定対象としたフィルムバッジ(更にβ線、熱中性子線をも測定可能にしたフィルムバッジもある。)
中性子用フィルムバッジ熱中性子、速中性子も測定可能にしたフィルムバッジ

 このようにフィルムバッジには、放射線の種類、エネルギーの範囲別につくられた4種のものが市販されています。

(注)「フィルムバッジ」は、「バッジケース」に「バッジフィルム」を挿入したものをいいます。

 したがって、フィルムバッジの使用にあたっては、各施設において対象となる放射線の種類、エネルギーの範囲に適応したフィルムバッジを正しく選んで使用することが大切です。

  2 フィルムバッジの取扱い上の注意事項

 フィルムバッジの測定精度をより高くするには次の事項をよく理解し、間違いのないように使用しなければなりません。

(1) 装着時の注意事項

イ 低エネルギー(23~80KeV範囲)のX線、γ線(以下「X線」という。)フィールドでは、X線用フィルムバッジを使用し、高エネルギー(0.12~3MeV範囲)のX線、γ線(以下「γ線」という。)フィールドではγ線用フィルムバッジを使用します。広範囲フィルムバッジは、X線及びγ線のエネルギーにかかわらず両フィールドで使用できます。

 X線の被ばくを受けたX線用フィルムバッジにγ線が入射したときは、X線とγ線の合計線量は過少評価に、γ線の被ばくを受けたγ線用フィルムバッジにX線が入射したときには、X線とγ線の合計線量は過大評価になるおそれがあります。

ロ バッジケースとバッジフィルムの組合せを間違えないでください。X線用バッジフィルムはX線用バッジケースに、γ線用バッジフィルムはγ線用バッジケースに、広範囲バッジフィルムは広範囲バッジケースに入れてください。組合せを間違えると所定の性能が発揮できなくなり、多くの場合測定評価不能となります。

ハ バッジフィルムには、放射線の入射面が定められています。入射面がバッジケースの前面に向くようにバッジフィルムをバッケジケースの中に正しく挿入します。向きを間違えると測定誤差が大きくなる場合があります。

ニ バッジケース自体にも表裏が定まっております。表側(放射線の入射面)が放射線源の方向を向くように装着します。

ホ フィルムバッジを作業衣に装着するとき、障害陰影のもととなるような物の後にフィルムバッジを位置しないようにします。障害陰影があると測定誤差が多くなるか、又は測定評価不能となります。ネームプレート、筆記具、硬貨等の影がときに現われたりします。

(2) 使用時の注意事項

イ 特定個人のフィルムバッジをグループ内で共同使用することはしないでください。被ばくがあった場合、各人の被ばく線量が不明になります。

ロ フィルムバッジを使用するときは必ず自分のフィルムバッジを用い、他人のフィルムバッジをまちがえて使用することは絶対にないようにしてください。

ハ 個人被ばく測定用の番号のついたフィルムバッジを個人被ばく測定以外の目的で使用すると記録等で混乱が生じますので、環境測定等に使用したときは、その旨を測定機関まで連絡します。

ニ 放射線がある方向から照射されるような場所で作業するような場合は、フィルムバッジをなるべく正面から放射線が入射するような位置に取り付ける等心掛け、方向依存性を少なくします。

ホ 汚染しやすい場所で作業する場合、バッジケースを薄膜のポリエチレン袋等に入れ、バッジケース又はバッジフィルムを、放射性物質の溶液又は粉末で汚染させないようにしてください。バッジケースのオープンウィンドウ周辺の汚染がよく検出され、汚染したときはβ線の測定・評価ができなくなります。またバッジフィルムを汚染させると、測定依頼のため重ねて返却される関係で、他のフィルムも、測定評価不能になる場合があるばかりか、他の周囲の一般環境を汚染することにもなりかねません。したがって、非密封の放射性物質を取り扱うところでは、フィルムバッジを測定依頼に出す前に、必ずサーベイメータで汚染の有無をチェックし、汚染のないフィルムのみを測定依頼に出すようにしなければなりません。

 なお、バッジケースが汚染した場合は、除染するか、新しいケースと取り替えるようにしてください。

ヘ 使用期間中バッジケースからバッジフィルムを取り出さないようにします。フィルターの位置がずれると方向依存性と区別がつきにくくなります。また、前後等を間違って挿入すると測定評価不能となる場合があります。

ト その日の放射線作業終了時には、使用中のフィルムバッジをなるべく同一の場所に集め、保管中のバックグランド等によるカブリによる誤差を取り除くために、コントロールフィルム(X線用コントロールフィルムは、ない場合が多い。)と同一場所に保管します。

(3) 保管時、使用後等の注意事項

イ バッジフィルムは湿気を嫌がりますので、湿気の多い所に保管しないようにしてください。湿気の影響を受けますと、フィルムのゼラチンが解け、フィルムどうし(バッジフィルムの中には感度の違うフィルムが2枚又は3枚入っています。)又はフィルムと遮光紙(黒紙)が貼り付いたりして、測定評価不能となる場合があります。

ロ バッジフィルムは、ホルマリン、アンモニア等でも黒化します。保管はこれらのガスのない場所で行ってください。

ハ バッジフィルム交換時には、バッジケースに異常(フィルターの脱落等)がないかを点検し、異常があれば新しいバッジケースと交換してください。

ニ 使用済バッジフィルムはコントロールフィルムとともに、すみやかに測定機関まで提出します。現像するまでの期間が長くなれば潜像退行の誤差が多くなり、被ばく原因の究明ができなくなるおそれがあります。

ホ バッジフィルムには使用期限があります。使用期限内に測定結果が判明するよう早めに使用するようにします。使用期限が切れると感度低下がみられ、そしてフィルムのベース濃度のバラツキも大きくなるため、全部測定評価不能となります。

  3 フィルムバッジの装着部位

(1) 装着部位

 フィルムバッジを装着する場合、装着部位については、あらかじめ作業内容に応じて定めておく必要があります。装着部位としてまとめたのが第4表です。

第4表 フィルムバッジの装着部位

 放射線施設に立ち入った者の測定部位については、法令には、「胸部又は腹部について(女子(妊娠可能年齢でない女子及び妊娠不能と診断された女子を除く。)にあっては、腹部について)測定すること。ただし、放射線に最も大量に被ばくするおそれのある人体部位が胸部又は腹部以外である場合は、その部位についても、測定すること。」とされています。

 これによると、管理区域に立ち入った男子及び妊娠不能年齢又は妊娠不能と診断された女子は胸部又は腹部に、妊娠可能女子は常に腹部に装着し、その部位の被ばく線量を測定することが必要となります。また、胸部又は腹部以外で最も大量に被ばくする部位があれば、その部位についても測定する必要があります。

(2) プロテクター使用時の装着部位

 放射線被ばくから人体を保護することを目的としてプロテクターを利用する場合があります。

 法令においては個人外部被ばく線量(全身被ばく)の測定は、男子にあっては胸部又は腹部、女子にあっては腹部における測定を基本にしています。これとプロテクター使用状態とを合せて考えると次のようになります。

イ 体幹部を被うプロテクターを使用した場合

 男女ともプロテクターの内側で、男子は胸部又は腹部、女子は腹部の線量を測定し全身被ばくとすることが必要です。

ロ 体幹部の一部を被うプロテクターを使用した場合(前掛等)

 この場合、例えば生殖腺保護用前掛(腹部のみを被う施護用前掛)を着用した場合に、全身被ばくの測定は、男子は胸部にフィルムバッジを装着すれば全身被ばくの最大値を測定することができるが、女子の場合は腹部の測定を基本としているのでプロテクターの内側の線量を測定してもより多く被ばくしている胸部の線量が不明となります。したがって、この場合は胸部の線量を測定し、全身被ばくとします。放射線のビームが小さく身体の一部を被うプロテクターでも放射線をしゃへいできる場合は、あえてプロテクター外の露出部にフィルムバッジを装着する必要がなく、プロテクターの内側に装着し、そこから得られた線量を全身被ばくとして管理すればよいことになります。

 Ⅲ 測定結果の整理

  1 被ばく線量の記録

 被ばく線量の記録は、まず管理区域に初めて立ち入る前に放射線作業従事者手帳を所持している場合は、その提示を求めるなど被ばく歴の有無について問診を行い(場合によっては、以前の事業所に照会します。)、その結果を様式1入所前被ばく歴調査記録(例)を参考にして記録しておき、ついで一定期間内の被ばく線量等を様式2外部被ばく線量測定記録(例)を参考にして記録します。

(1) 管理区域に立ち入る前の調査事項
 イ 作業の場所(勤務先)
 ロ 内容
 ハ 期間
 ニ 集積線量
 ホ 放射線障害の有無等
(2) 入所後の主な記録事項
 イ 管理区域立入者区分
 ロ 氏名、性別、生年月日
 ハ 測定放射線の種類
 ニ 放射線作業の種類(比較的おおまかなものでよい)
 ホ 装着部位
 ヘ 使用期間(年月日~年月日)
 ト 当該使用期間の被ばく線量合計(線種ごとの線量も記入する。)
 チ 3月の集計線量(四半期ごとに集計)
 リ 年被ばく線量(年度末等に集計)
 ヌ 集積線量(年被ばく線量を記録するときに記入)
 ル 局部被ばく線量(皮ふ、手、足等に分けて記入)
 ヲ その他参考事項

  2 記録にあたっての留意事項

(1) 入所前の被ばく線量等

 入所前の集積線量は、全身被ばく線量の明らかなもののみを記入します。また、放射線作業歴のうち、被ばく線量の不明の期間については、その期間、年5レムの割合で被ばくしたものとして算定して〔 〕等で表示して記入します。最大許容被ばく線量を超えたような事実があれば、その日時、線量、部位を備考欄に記入します。

 その他、使用した線量計の種類、放射線障害の有無等を備考欄に記入しておきます。

(2) 入所後の記録
イ 積算の方法

 被ばく線量の記録は、フィルムバッジの最低検出線量値以上で測定された場合の数値(四捨五入して10ミリレム単位)を記録し、最低検出線量未満の場合は、「検出限界以下(×等の記号におきかえてもよい。)」と記入します。

 積算の方法は実数のみを積算して記録し、「検出限界以上(又は記号)」の回数を( )等により付記します。また、フィルムバッジの種類と、その最低検出線量値を明らかにしておきます。

 広範囲フィルムバッジ等を使用した場合は、測定結果はX線、γ線(X+γの場合もある。)、β線、熱中性子線、速中性子線について表示されて報告されますが、この場合の全身被ばくの積算の方法は第5表のようになります。

第5表 積算例

(3) β線による被ばくがあった場合

 体幹部に装着したフィルムバッジのβ線の測定値については、皮ふ被ばくの欄に記入します。実際の皮ふの被ばく線量については、X線、γ線、中性子線との合計となりますので全身被ばく(外部被ばく)の欄の数値と合計して管理することになります。

(4) フィルムバッジから情報が得られない場合

 万一、取扱いを誤ったり止むを得ない事情によりフィルムバッジから情報が得られない場合(他の線量計を同時に使用している場合を除く。)は、次のような方法によって被ばく線量を推定認定します。

 なお、これらの線量を記録する際は、推定値であること及びその根拠を明記しておきます。

 また、どうしても不明の場合は、年5レムの割合(1週間なら100ミリレム)で被ばくしたものとみなして管理することになりますが、この場合も同様にその理由及び期間を明らかにしておく必要があります。

イ 同一期間において、同様な作業を行った者の線量、測定値が得られなかった者の過去の被ばくや線量等から比較し、推定する。

ロ 作業環境測定値、作業記録から推定する。

ハ 必要に応じて、作業状況と同じ模疑試験を行って線量を推定する。

様式1 入所前被ばく歴調査記録(例)

様式2 外部被ばく線量測定記録(例)

 Ⅳ 被ばく線量の測定結果に伴う措置等

  1 被ばく線量の測定結果に伴う措置

(1) フィルムバッジの測定結果(フィルムバッジによる使用期間が少なくとも1週間以上の場合に限る。以下同じ。)が「検出限界以下」である場合は、特別の措置を講じる必要はありません。

(2) フィルムバッジの測定結果が「検出限界以上」の場合

イ 被ばく線量が従前の場合に比べて特に変動していないときは、特別の措置を講じる必要はありません。

ロ 通常の作業であるにもかかわらず被ばく線量が急増したときは、その被ばくの原因が何によるものであるかを追跡調査し、その原因が使用施設等に起因する場合は、必要なしゃへい物(しゃへい壁、立入り時間、作業方法等によって決まるしゃへい能力)が障害防止法施行令の使用施設等の基準どおり維持されているかどうかを調査し、所要の改善を行う必要があります。また、その原因が作業行動等に起因する場合は、取扱方法や作業方法の改善、安全管理体制の検討・整備及び再教育・再訓練を実施して同じような被ばくを繰り返えさないようにする必要があります。

 止むを得ず、100ミリレム/週を超えるおそれのある作業の場合は、作業計画をたててこれ以下とするよう努めるべきです。また、被ばく線量の変動が大きい作業の場合は、ポケット線量計等のその日の被ばく線量を読み取ることが可能な線量計を併用すべきです。

ハ 放射線作業従事者が3レム/3月(男子並びに妊娠不能年令及び妊娠不能と診断された女子のみ。以下同じ。)、又はD=5(N-18)レムを、管理区域随時立入者が1.5レム/年を超えて被ばくし、又は被ばくしたおそれがあるときは、遅滞なく、その者につき健康診断を行う必要があります。また、放射線障害を受けたこと、又は受けたおそれのあることが判明したときは、障害又はそのおそれの程度に応じて管理区域への立入時間の短縮、立入りの禁止、放射線に被ばくするおそれの少ない業務への配置転換、又は業務内容の改善等の措置を講じるとともに、療養の開始その他の必要な保健指導を行う必要があります。(管理区域に一時的に立ち入った者が放射線障害を受け、又は受けたおそれがある場合には、遅滞なく、医師による診断、必要な保健指導等の適切な措置を講ずる必要があります。)

(3) これらの措置については、調査等を実施した事項(日時、場所、作業の概要、被ばく原因等)及び講じた措置(作業方法の改善、施設の改善、再教育・訓練、健康診断等保健上の措置、配置転換等)について記録しておくとともに、特に、(2)のハの場合の許容被ばく線量を超えて被ばくし、又は被ばくしたおそれがある場合は、資料1にもとづき科学技術庁長官に報告し、また関係法令の定めるところにより関係官庁に報告する必要があります。

  2 被ばく線量の測定結果の通知

 個人被ばく線量の測定結果は、本人に知らせることが必要です。

 放射線障害防止法では、個人被ばく線量の測定結果の記録の写しを3月ごとに、及びその者が管理区域に立ち入ることがなくなったときに交付することとされています。

 この具体的な方法は、手帳を交付することにより行うことが効果的です。

(手帳の作成にあたっては、アイソトープニュース(1975.3~4)に掲載された手帳(例)などが参考となるでしょう。)
(参考) 放射性同位元素等の取扱いに関する安全の確保について(昭和49年5月20日付け放射性同位元素等取扱事業所長あて科学技術庁原子力局長通知)の記の5、被ばく管理及び健康管理について

 放射線作業従事者等の被ばく管理及び健康管理を適正に行うため、放射線作業従事者に被ばく集積線量及び健康診断の結果等を記録した手帳を保持させること。

  資料 1

殿
科学技術庁長官

報告徴収について

 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律第42条の規定に基づき、放射性同位元素、放射線発生装置又は放射性同位元素によって汚染された物による放射線障害を防止し、公共の安全を確保するため、許可、承認を受けた申請者又は届出使用者におかれては、下記により自ら報告し、又は当該許可・承認・届出使用に係る工場若しくは事業所(販売所、廃棄事業所)の長をして報告させられたい。

1 次の場合には、直ちにその旨を報告すること。

(1) 放射性同位元素の盗取又は所在不明が生じた場合
(2) 放射性同位元素又は放射性同位元素によって汚染されたものが異常に漏えいした場合

(注) 「異常に漏えいした場合」とは、許容濃度を超えて放射線施設外に漏えいした場合をいう。

(3) 管理区域に立ち入った者が異常に被ばくした場合合又は異常に被ばくしたおそれのある場合

(注) 「異常に被ばく」とは、法令に定める許容被ばく線量又は許容集積線量を超える被ばくをいう。

(4) 放射線障害が発生した場合

2 上記1の報告後、その状況及びその発生後講じた措置を、10日以内に報告すること。

  資料 2 内部被ばく線量数値の扱い方

 非密封線源の取扱いや汚染のある場所での作業では、外部被ばく線量の測定におとらず、内部被ばく線量の測定が重要である。しかし、本マニュアルは、外部被ばく線量の測定に限られており、現在、内部被ばく線量の測定マニュアルは、まだ定められていないので、線量の記録において、内部被ばく線量の取り扱いを暫定的に次のようにすることとする。

 ただし、これらの分野については、現在、試験研究中のものがかなりあるので、実際には、これらの専門家の指導のもとに進めること。

(1) 入所以前の被ばく線量

 内部被ばく線量数値が定められていれば、その数値を、また、バイオアッセイやホールボディカウンティングを行なうことによって測定された数値があれば、その値を記録する。しかし、測定された数値がなければ、参考となる事項を可能なかぎり記録しておくこと。

(2) 入所後の被ばく線量
(イ) 内部被ばく

(イ-1) 汚染等の測定値:内部被ばくの程度を推定できる測定値(たとえば空気汚染、表面汚染、皮ふ汚染、鼻のスミヤー測定値)がある場合には、その数値を参考資料として記録しておくとよい。ただし、それらの測定が日常的に行なわれており、異常のない場合は、毎回それを個人被ばく線量の推定用参考資料として、記録する必要はないであろう。

(イ-2) 人体等の測定値:バイオアッセイやホールボディカウンティングが行なわれた場合は、その測定値を参考資料として記録する。

(イ-3) 被ばく線量の計算:バイオアッセイやホールボディカウンティングを行なった場合には、できるだけ臓器の被ばく線量の計算を行なうことが望ましい。

(イ-4) 臓器別の線量:臓器別の被ばく線量が算出されている場合には、各臓器ごとの必要な積算線量(入所以後の総積算値)を記録すること。なお、臓器別の被ばく線量の算出は、実際上、決定臓器についてのみ算出することになるであろう。

(イ-5) 全身被ばく線量との関連:測定された内部被ばくの線量が、ある程度大きい場合(たとえば3か月400ミリレムをこえるようなとき)は、被ばく線量を3か月線量として積算し、その期間に相当する欄に記録して、全身(外部)被ばく線量の制限の参考とする。

(イ-6) 以上のような全身被ばく線量または内部被ばく線量の程度を推定できる測定数値がない場合でも、内部被ばくが最大許容被ばく線量の1/3をこえると思われる事態があった場合には、その状態を記録しておくこと。

(注) 「個人被ばく線量測定マニュアル策定検討会報告書抜萃」による。

あとがき

 本手引きは、RI・放射線発生装置等を取扱う事業所における被ばく管理実務に資するため、科学技術庁原子力安全局と放射線障害防止中央協議会(注)との協力により、個人被ばく線量測定マニュアル策定検討会報告書(昭和46年3月25日)をもとにして法令解釈、実務上必要な事などを含めて作成されたものです。

(作成の過程で、人事院、厚生省、労働省等関係省庁とも内容等の調整を図りました。)

 本手引きにより被ばく管理を行うにあたっては、次の事項に留意してください。

1 記録の様式については、参考例を示したものであるので、各事業所の実態に応じて、更に工夫を加えて管理実務を行ってください。

2 被ばく管理は、フィルムバッジによって行うことが唯一の方法ではなく、ポケット線量計、TLD等作業内容に応じ適切な個人被ばく線量測定用具を選択することにより被ばく管理を行うことが必要です。

 なお、本手引きの検討にあたっては、次の方々に協力していただきました。(順不同)

有水 昇 千葉大学医学部附属病院
伊藤和男 建設省建築研究所
石原豊秀 日本原子力研究所東海研究所
沼宮内弼雄 同上
三宅敏雄 東京芝浦電気(株)
松本 進 (社)日本保安用品協会
安渕四郎 ナガセ・ランダウア(株)
竹松 昭 産業科学(株)
(注)放射線障害防止法の許可、届出事業所を構成員に含む団体を構成員とし、放射線の安全管理、障害の防止に関する諸対策を協議・推進し、もって安全の確保を図ることを目的として昭和49年10月に設立された団体


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