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原子力行政体制の改革,強化に関する意見
(中間とりまとめ)


昭和50年12月29日
原子力行政懇談会


昭和50年12月29日

内閣総理大臣 三木 武夫殿

原子力行政懇談会 

座長 有沢 広巳
委員 青木 賢一
石原 周夫
円城寺次郎
大木 穆彦
木村 守江
田島 英三
林  修三
伏見 康治
松根 宗一
向坊  隆
矢部知恵夫
山県 昌夫

 原子力行政体制の改革、強化に関する意見(中間とりまとめ)


 このたびわれわれ原子力行政懇談会の13人の委員は、本年3月18日以降24回にわたり、原子力行政のあり方に関し審議を重ねてきましたが、とりあえずその中核的部分の改革について別紙のとおり意見をとりまとめ提出いたしますので、政府におかれては、これらの意見を十分反映して原子力行政の改革強化にとり組まれるよう要望します。


(別紙)

原子力行政体制の改革、強化に関する意見

Ⅰ はじめに

 昭和48年、石油危機の到来によって、日本経済は強い衝撃を受けた。国民の福祉と経済の発展を期するために必要なエネルギー資源の乏しさがあらためて認識され、石油代替エネルギー開発の急務が叫ばれている。かくて、石油代替エネルギーとしてもっとも現実性の高い原子力がますます脚光を浴びるに至った。
 しかし、このようにして原子力への期待が高まる一方、昨49年には、日本分析化学研究所問題にはじまり、原子力発電所の故障の続出、原子力委員の辞任など、種々の問題が発生し、それは原子力船「むつ」の漂泊によって頂点に達した。この結果、原子力行政全般に対する国民の不信感が高まって、いまだに原子力政策を軌道に乗せられないでいるのは、単に「不幸」というだけでは済まされない重大な問題である。
 このような事態を招来したことは、これら個々の問題の底流に、社会の変化に対応し得なかった原子力行政の硬直さがあったということを銘記すべきで、原子力政策および行政の関係者は、まず自から顧みて深く反省すべきである。
 いまや原子力発電を中心とする原子力の開発利用の推進は世界の大勢であり、わが国よりもエネルギー資源に恵まれている諸国でさえ、大規模な原子力開発計画をスタートさせつつある。わが国にして、今後も徒らに時を空しくし、原子力政策の確立を怠るならば、後世の国民に対する責任が厳しく問われなければならないであろう。
 本懇談会は、このような情勢を背景として、内閣総理大臣の私的懇談会として、本年3月に第1回会合が開催され、爾来24回の審議を重ねてきた。原子力行政は複雑かつ広範にわたるが、原子力行政体制再確立の緊急性にかんがみ、このうち、これまでの審議においてコンセンサスを得た原子力行政体制の中核的部分の改革について、われわれは、以下のとおり意見を提出する。政府におかれては、この意見をふまえ、原子力行政体制の再確立を可及的速やかに進められるよう要望するものである。



Ⅱ 原子力行政体制の改革、強化に関する意見

 原子力行政の再確立に当たって、基本的な姿勢として、ここにあらためて確認しなければならないことは、

① 原子力基本法の精神に則り、原子力の開発利用は平和目的にのみ限定せらるべきこと。

② 国民の福祉と経済の発展を期するため必要なエネルギーの安定確保にとって、原子力は欠くべからざるものであること。

③ 原子力の開発利用に当たっては、国民の健康と安全が確保されなければならないこと。

④ 行政および政策の実施に当たっては、その責任体制が明確にされなければならないこと。

以上4点で、これらは決してあい矛盾するものではなく各項目が十分に満たされることによって、はじめて原子力行政は国民の信頼と支持とをかちとることができるのである。
 われわれは、このような基本的な考え方に立脚して、原子力行政体制の基本部分について、次のような方向において改革が進められるべきであるという結論に達した。



〔1〕原子力委員会のあり方

 これまでの原子力委員会は、開発と安全規制の両面の機能を併せ持ち、両者を有機的に結合することにより、原子力行政を進めてきた。
 しかし、最近の原子力行政は、多くの深刻な問題に直面し、他方、国民の間では、安全規制面に比して開発面にウエイトをかけすぎているという不信が生じており、原子力委員会は、今までのような進め方では、このような情勢に対応できなくなったと考える。
 このような情勢をふまえ、わが国のエネルギー政策面から、わが国の原子力開発を一層推進しなければならない立場からすると、一方には整合性ある原子力開発体制を築くとともに、他方安全確保については別途の体制を設け、両者を機能的に分離する必要がある。よって、現在の原子力委員会を、(新)原子力委員会と、原子力安全委員会の二つに分割し、それぞれ独立して、企画・審議・決定・答申・勧告等の業務を行わしめることが適当と考える。


(イ)両委員会の所掌の範囲
 「原子力委員会」

 ○ 平和利用の担保
 ○ 原子力基本政策の策定
 ○ 総合調整(計画・予算)
 ○ その他原子力安全委員会所掌以外の原子力開発の重要事項

 「原子力安全委員会」

 ○ 安全規制に関する政策(安全研究の計画も含む。)
 ○ 安全規制基準およびガイドライン等の策定
    ((注)放射線審議会の所掌範囲は、従来どおりとする。)
 ○ 行政機関の安全規制のダブルチェック
 ○ その他原子力安全規制に関する重要事項

 なお、必要に応じ、両委員会は連絡会議を開催するものとするが、原子力政策は、安全規制と不可分のものであることにかんがみ、政策等の決定に当たっては、相互に意見を尊重し、かつ、連絡を密にすることによって、かりそめにも所掌の範囲に間隙、空間の生ずるがごときことは絶対に避けなければならない。


(ロ)委員の数および委員長
 委員の数は、両委員会とも若干名とする。
 委員の選任については、両委員会の任務の重要性にかんがみ、専門的かつ大局的な見地から政策判断を行いうる人材をあてるべきであり、その選任方法については、慎重に検討する必要があろう。
 原子力安全委員会の委員長については、専門知識を要し、長期間にわたって在職することが好ましく、かつ、行政庁と一線を画した姿勢の明示が望ましいことなどの理由により、学識経験者から選任することが適当である。
 原子力委員会の委員長については、学識経験者から選任すべきであるとする意見と国務大臣をあてるべきであるとする意見がある。


(ハ)行政庁との関係
 両委員会に対しては、内閣総理大臣のほか、原子力行政を担当する各省大臣も諮問し、答申を受けることができるように改めることが適当と考える。また、両委員会の意見は、当然のことながら内閣総理大臣および関係各省大臣によって尊重せられなければならない。


(ニ)両委員会の事務局
 諮問、答申等が関係各省によってそれぞれ個別に行われることになるので、事務局のあり方としては、無用の混乱が起きないように、かつまた各省庁と十分に意志の疎通がはかられるように配慮することが肝要である。このため、両委員会の事務局は、一般行政から機能的に分離し、各省庁に対し中立、平等の立場を保持すべきである、と同時に、他方両委員会の機能と行政実務との関係を円滑に維持することも必要である。
 以上の理由から、原子力委員会の事務局については、従来の経緯、経験が今後の円滑な運営に寄与すると思われるので、各省庁に中立的な立場を保障(庶務の協力処理など)して、科学技術庁原子力局に置くことが適当と考える。
 また、原子力安全委員会の事務局については、同委員会が行政庁の規制をダブルチェックするという機能を持つことからして、そのあるべき姿としては独立の事務局を設けることが望ましいが、その体制整備には期間を要すること等の事情を考慮し、当面は、各省庁から中立的な立場を保障(庶務の協力処理など)して、科学技術庁原子力安全局に置き、委員を補佐する相当数のスタッフを置くものとする。


〔2〕安全審査、許認可等の行政のあり方

 原子力安全行政に関する批判の多くが、基本的な安全審査から運転管理に至る一連の規制行政に一貫性が欠けている点に向けられていることにかんがみ、今後のあるべき姿としては、安全規制行政の一貫化を図るよう進めるべきである。そのためには、実用段階に達した発電所等事業に関するものは通産省、船については運輸省、研究開発段階にあるもの及び研究施設については科学技術庁がそれぞれ一貫して担当する方式が適当である。
 この場合、担当の省庁については、原子力委員会が原子力安全委員会の同意を得て行う決定を尊重するものとする。
 次に、安全規制は、それぞれの行政庁が一貫して責任をもって実施するが、それぞれの行政庁が開発促進という責任も有していることから、安全性確保についての不信感が生ずるおそれがある。また、それぞれの行政庁の安全規制について統一的な評価がなされる必要がある。
 このような問題に対処するため、行政庁の行う規制を国民の健康と安全を守るという観点から原子力安全委員会がチェック(いわゆるダブルチェックシステム)する必要がある。
 また、原子炉等の設置許可等の行政処分についても安全の確保は必要条件ではあっても十分条件ではなく、そのほかに、平和利用の担保、原子力全体の政策との関連における計画的遂行性等の諸条件を勘案して総合的に判断せらるべきものであるから、許認可等に際し、予め原子力委員会に諮問することを所管大臣に義務づけることが必要である。なお、許認可のあり方、手続等については、本改革の趣旨を尊重して慎重に対処されたい。




Ⅲ 附記

〔1〕当面の措置

 上の改革は可及的速やかに実施される(おそくも52年度より)よう要望するが、その改革が実現するまでは、運用により、原子力委員会の安全専門審査会において、許認可段階以降の各省庁の規制についても、適宜チェックする等現制度の不備を補うよう最大の努力を払われたい。また、各省庁における規制体制の強化等直ちに着手できるものについては、極力これを進め、新体制への移行がスムーズに実現するよう配慮されたい。



〔2〕審議未了部分の審議について

 上記の意見は、体制改革に関する基本的な骨組みを明示したのにとどまり、その他の地方行政、労働行政、環境行政、大学との関係、放射性同位元素の安全規制体制の整備、公聴会のあり方などについて引き続き審議を重ね、行政全般の円滑な運営の方向を検討したい。



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