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中国電力株式会社島根原子力発電所の原子炉の
設置変更(原子炉施設の変更)について(答申)


50原委第629号
昭和50年12月2日

内閣総理大臣 殿

原子力委員会委員長


中国電力株式会社島根原子力発電所の原子炉の
設置変更(原子炉施設の変更)について(答申)


 昭和50年7月15日付け50原第6159号(昭和50年11月18日付け50原第9558号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。


① 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項において準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準のうち第1号、第2号および第3号については適合しているものと認める。

② 上記許可の基準第4号については、原子炉安全専門審査会による安全性に関する審査結果報告は別添のとおりであり、適合しているものと認める。



(別添)

昭和50年11月19日
原子力委員会

委員長 佐々木義武殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄


 中国電力株式会社島根原子力発電所の原子炉の
設置変更(原子炉施設の変更)に係る安全性について



 当審査会は、昭和50年7月15日付け50原委第363号(昭和50年11月18日付け50原委第606号をもって一部補正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告する。



Ⅰ 審査結果

 中国電力株式会社島根原子力発電所の原子炉の設置変更(原子炉施設の変更)に関し、同社が提出した「島根原子力発電所原子炉設置変更許可申請書」(昭和50年7月8日付け申請、昭和50年11月10日付け一部補正)に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。



Ⅱ 変更内容


1 取替燃料集合体の変更


 従来、本原子炉においては、初装荷燃料及び取替燃料として、7×7型燃料集合体を用いていたが、今後、取替燃料については、8×8型燃料集合体を使用することに変更する。



2 熱的制限値等の変更

 8×8型燃料集合体の導入に伴い、燃料の健全性を確保するための熱的制限値等のうち、最小限界熱流束比(以下MCHFRという)には変更はないが、燃料最高線出力密度、燃料集合体の平均濃縮度及び、最高燃焼度に関して8×8型燃料集合体の値を追加する。


燃料最高線出力密度 約0.58kW/cm(7×7)
約0.44kW/cm(8×8)
平均濃縮度 初装荷燃料集合体 約2.1Wt%(7×7)
取替燃料集合体 約2.5Wt%(7×7)
約2.6Wt%(8×8)
最高燃焼度 初装荷燃料集合体 約26,000MWd/t(7×7)
取替燃料集合体 約29,000MWd/t(7×7)
約34,000MWd/t(8×8)

            

3 制御棒の自由落下速度の変更

 制御棒の自由落下速度を0.95m/s(従来は約1.5m/s)以下に変更する。


4 制御棒価値ミニマイザによる制御棒価値制限値の変更

 制御棒価値ミニマイザによって抑制される制御棒の最大価値を0.013Δk(従来は0.025Δk)以下に変更する。




Ⅲ 審査内容


1 8×8型燃料集合体の構造


 本燃料集合体は従来から用いられている7×7型燃料集合体と混用できるように構造及び性能の設計がなされているものであり、その詳細は、原子炉安全専門審査会が昭和49年12月25日に採択した「沸騰水型原子炉に用いられる8行8列型の燃料集合体について」(以下8×8型燃料検討報告書という。)に記載のとおりである。
 本原子炉に用いる8×8型燃料集合体の構造設計については、すでに8×8型燃料検討報告書において評価が行われており、新たに問題はない。


2 核特性

 7×7型燃料集合体で構成される炉心に通常の装荷方式に従って8×8型燃料集合体を装荷して行く過程で生ずる混合炉心及び8×8型燃料集合体のみから構成される平衡炉心において、核特性が従来の7×7型燃料集合体炉心の場合から大きく逸脱することがないかについて検討を行った。
 その結果、局所ピーキング係数は、8×8型燃料集合体については1.22以下、7×7型燃料集合体については1.30以下の設計値が確保されること、並びに燃料集合体の無限増倍率、反応度係数等は従来の7×7型燃料集合体の場合の特性と有意な差が生じないことを確認した。


3 熱水力特性

 核特性の検討の場合と同様に混合炉心及び平衡炉心の熱水力特性について検討を行った。その結果、熱水力特性上の重要な特性値であるMCHFRは、いずれの種類の燃料集合体についても定常状態では1.9以上が確保されることを確認した。


4 制御棒の自由落下速度

 本変更は、制御棒の自由落下速度として、従来用いられていた値1.5m/s以下を0.95m/s以下に変更しようとするものである。この値は、沸騰水型原子炉の御制棒装置を模擬した装置による実験結果に基づくもので、より実際に即し、かつ安全余裕をもった値であるので妥当である。


5 制御棒価値ミニマイザによる制御棒価値制限値

 本変更は、制御棒落下事故を想定した場合に炉心に与える影響を低減させるため、落下制御棒の反応度価値の制限値を0.013Δk以下にしようとするものである。本原子炉の制御棒価値ミニマイザに従来より内蔵されている引抜き手順に基づき、実際に想定される炉心状態について解析した結果から、最大制御棒価値は0.010Δkを下回ることが確認されている。


6 安定性

 混合炉心及び平衝炉心の安定性について検討を行った。
 炉心の安定性に影響を及ぼす因子として核特性及び熱水力特性は、7×7型及び8×8型いずれの燃料集合体を使用した場合でも大差なく、熱水力特性のうち炉心圧力損失及び燃料伝熱時定数は多少異なるが、8×8型燃料集合体の諸特性値は燃焼等に基づく7×7型燃料集合体の諸特性値の変動幅のなかに入っているかあるいは有意な差がない。また混合炉心及び平衡炉心について、チャンネル水力学的安定性及び炉心安定性の解析を行った結果、いずれの場合においても特に問題となることはなく、さらにプラント安定性についても外乱を与えて解析した結果は十分な減衰特性を持っている。したがって、これらの安定性は混合炉心、平衡炉心のいずれにおいても問題となることなく、かつ、キセノン空間振動についても本原子炉の有する出力係数は十分負側に位置し、空間振動を十分抑制することが可能である。
 なお、混合炉心については、上述の検討結果から、安定性が損われる恐れはないと判断されるが、念のため、最初に8×8型燃料集合体を装荷した炉心において、安定性と密接な関係を有する炉雑音を測定し、7×7型燃料集合体炉心で得られる測定結果との比較において炉心の安定性に影響を与えるような顕著な変化が生じないことを確認することになっている。


7 過渡現象解析

 8×8型燃料集合体を用いることによっても、前述のとおり核熱特性は従来の7×7型燃料集合体と大差がなく、過渡変化を想定しても、燃料被覆管の損傷限界(MCHFR=1.0及び円周方向1%塑性歪み)に至らないこと、及び原子炉冷却材圧力バウンダリに加わる圧力が設計圧力の1.1倍(92.8kg/cm2g)を超えないという2つの条件は十分に満足される。すなわち、燃料被覆管の損傷限界に対して最も厳しくなる過渡変化は再循環ポンプ1台の軸固着であり、7×7型燃料集合体炉心と8×8型燃料集合体炉心の場合について解析を行った結果、MCHFRはそれぞれ1.2及び1.3以上を維持し、燃料被覆管の損傷は生じない。また原子炉圧力が最も高くなるものは発電機トリップバイパス弁不作動であり、7×7型燃料集合体炉心と8×8型燃料集合体炉心について解析した結果、原子炉圧力の最高値はそれぞれ84.5kg/cm2g、及び84.4kg/cm2gである。なお、混合炉心の場合も核熱特性の差が小さいことから問題はないと判断する。


8 事故解析

 本原子炉に取替燃料として8×8型燃料集合体を採用するにあたって、炉心の安全確保上検討を要すると判断されるのは、制御棒落下事故、冷却材喪失事故、及び主蒸気管破断事故である。

8-1 制御棒落下事故
 解析にあたって重要な入力値は制御棒の落下速度及び落下制御棒の印加反応度である。
 制御棒の落下速度としては、Ⅱ-3で述べた制御棒の自由落下速度0.95m/sを用い、また、落下制御棒の印加反応度については、詳細な解析に基づく反応度曲線と、Ⅱ-4で述べた制御棒価値ミニマイザによる制限値0.013Δkを用いた。その他にもスクラム制御棒の全反応度価値及び炉心挿入速度、局所ピーキング係数等に変更があるが、これらは、いずれも、従来より詳細な解析及び評価の結果に基づいて変更されたもので、妥当である。
 これらの条件に基づき、最大価値を有する制御棒1本が炉心から落下する事故を想定して解析した結果、一次冷却材圧力バウンダリの健全性は十分維持される。

8-2 冷却材喪失事故
 冷却材喪失事故時の炉心冷却について、昭和50年5月13日原子力委員会が承認した「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」に基づいて評価を行った。8×8型燃料集合体における燃料棒の最高線出力密度が7×7型燃料集合体より大幅に低下していることから、8×8型燃料集合体は7×7型燃料集合体と比較して熱的余裕が大きく、冷却材喪失事故時の炉心冷却に関する安全余裕も7×7型燃料集合体より大きい。燃料に対して最も厳しい結果を与える再循環系の最大口径配管1本の完全両端破断を想定した場合でも、7×7型燃料集合体炉心及び8×8型燃料集合体炉心について、計算された燃料被覆管最高温度及び局所的酸化量は、それぞれ約1178℃と約990℃及び約8%と約0.8%となり、制限値である被覆管最高温度1200℃以下及び局所的酸化量15%以下を満足している。これらの解析結果から、燃料の大破損は防止でき、かつ、長期的な炉心冷却は確保することができる。なお混合炉心の場合も、核熱特性の差が小さいことから、事故後の炉心冷却に支障をきたすような事態は起らないと判断する。

8-3 主蒸気管破断事故
 冷却材喪失事故の場合と同様に8×8型燃料集合体は熱的余裕が増加しているために、従来の7×7型燃料集合体の場合と比較して主蒸気管破断事故時には余裕がある。
 主蒸気管1本の瞬時完全破断を想定して解析を行った結果でも7×7型燃料集合体炉心8×8型燃料集合体炉心のいずれについてもMCHFRは1.7以上であり、燃料の熱的余裕が十分確保されている。
 なお上記の熱的余裕から判断して混合炉心の場合でも問題はない。




Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和50年7月18日第139回審査会において、審査を開始し、同年9月22日第140回審査会、同年10月15日第141回審査会及び同年11月19日第142回審査会において審査を行い、本報告書を決定した。





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