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昭和51年度原子力関係予算見積方針について


昭和50年9月16日
原子力委員会

昭和51年度原子力関係予算見積方針について


Ⅰ 基本方針

 石油危機を契機として、わが国の輸入石油を主体としたエネルギー供給構造はきわめて脆弱なものであることが明らかとなった。
 わが国は現在安定成長を指向する時代に入りつつあるが、国民生活の向上、高福祉国家の実現を図るためには、依然として安定なエネルギー供給を確保していくことが大きな要請となっており、少くとも当面の十数年は、エネルギー供給の相当部分を軽水炉による原子力発電が担わねばならない状況にある。
 しかしながらわが国は、国内にウラン資源が乏しく輸入濃縮ウランを利用する軽水炉による原子力発電のみにたよることは、輸入石油依存の場合と同様、外国依存のエネルギー供給構造をとることとなる。近い将来においてこれを打開し、エネルギー供給面でわが国の自立性をたかめるためには、新型動力炉、特に、高速増殖炉を開発し、関連の核燃料サイクルの確立とあいまって核燃料の有効利用を図る必要がある。
 さらに、より長期的な観点にたって、わが国のエネルギー問題を根本的に解決するためには、世界中に偏ることなく存在し、事実上無尽蔵に近い海水中の重水を燃料として使用する核融合によるエネルギー利用のための研究開発をすすめる必要がある。
 しかし、現実には、原子力の安全性に対する不安から各地の原子力発電所の立地計画に対して根強い反対が続いているなど、原子力の開発利用は困難な局面に立たされている。
 このような事態を打開し、国民の理解と協力のもとに、安全性を確保しつつ原子力開発利用を進めるため昭和51年度は以下の予算措置を講ずることとする。
 まず、安全対策の充実と安全研究の強化に最大限の努力を傾注することとし、第一に軽水炉を中心とする原子力施設の実証的安全研究を早急に進める。また、新型動力炉の安全研究、放射性廃棄物の処理処分の研究、放射線障害防止の研究、環境放射能の調査研究等をひきつづき強力に推進する。
 原子力発電の本格化とともに、放射性廃棄物の処理処分問題が重要化しているが、急増する低レベル放射性廃棄物については、処理処分を安全に実施するため、従来からの研究開発を促進するとともに最終処分のための諸準備、法令の整備等をすすめる。
 一方、高レベル放射性廃棄物は核分裂炉による原子力発電の終末生成物であるが、核分裂炉を中心とした原子力システム全体が人類にとって真に受けいれられるものとなるためにはこの安全な処理処分法が確立されることが必須であり、この処理処分に関する研究開発を推進する。
 さらに、原子炉の安全審査、放射線障害防止法施行業務等の安全規制関係行政の大幅な強化を図る。
 また我が国が、核兵器不拡散条約に加盟した場合の保障措置を実施する体制を整える必要があるので、これに必要な措置を講ずる。
 このように安全対策等に十分配慮したうえ、長期的観点にたって原子力開発利用を進めるため、高速増殖炉及び新型転換炉の開発、多目的高温ガス炉の研究等を進め、さらに核融合については臨界プラズマ試験装置の建設に着手する。また、核燃料サイクルの確立のため、前述の廃棄物対策のほか、ウラン探鉱、ウラン濃縮の研究、使用済燃料再処理施設の建設を進める。
 また、原子力施設の立地円滑化のため、「発電用施設周辺地域整備法」、「電源開発促進税法」及び「電源開発促進対策特別会計法」(電源三法)により、原子力施設の周辺住民の福祉の向上に必要な公共用施設の整備や放射線監視施設等の整備等を促進するための措置を講ずることとする。
 このほか原子力電発所の標準化を進めるとともに民間における原子力利用に対して所要の助成を行い、原子力産業基盤の強化に努める。
 以上の方針に基づき慎重に調整を行った結果、昭和51年度の原子力予算は、安全研究および新型動力炉、核融合、ウラン濃縮の研究開発プロジェクトに必要な経費をはじめとし、各省庁行政費、電源開発促進対策特別会計(原子力分)までを含めた所要経費の総額は約1,304億円(国庫債務負担行為限度額は約668億円)である。
 また、行政機関を含め原子力関係開発機関に必要な人員増は572名である。




Ⅱ 主な事業

1. 安全対策の総合的強化

(1) 安全研究及び実証試験等強化推進
 原子力施設の安全研究については、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団および国立試験研究機関において実施するとともに民間企業に委託し、総合的、計画的に実施する。とくに、日本原子力研究所においては、事故現象の解明を中心として、緊急炉心冷却実験装置を付加した場合の冷却材喪失事故実験(ROSA-Ⅱ計画)を継続して実施するとともに、PWR型実験からBWR型実験に移行するための改造をすすめる。反応度事故実験装置(NSRR)については、本格的な核燃料反応度事故の試験研究を実施する。また実用燃料照射後試験施設の建設をすすめるほか、核分裂生成物放出、ジルコニウム-水反応実験等の燃料材料の安全性及び配管等の構造安全研究をすすめる。また格納容器のスプレー効果に関する実証試験、配管破断の波及効果に関する実証試験、耐震性に関する研究等大型実証試験を継続するとともに、新たに大型再冠水実証試験等に着手する。さらに海外との共同研究として引き続きマルビッケン計画、ハルデン計画、ロフト計画、インターランプ計画に参加するとともに、新たにPBF計画に参加する。
 また、国立試験研究機関においては、材料、構造の基礎的研究を、委託費においては安全基準、安全評価などに関する安全研究をそれぞれ行うこととする。
 放射性廃棄物の処理処分の研究開発については、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、国立試験研究機関等において総合的、計画的に実施する。また、国際研究協力計画に参加する。さらに放射性廃棄物の放出低減化を図るための技術開発を動力炉・核燃料開発事業団を中心として行う。
 放射線障害の防止に関する研究については、放射線医学総合研究所等において、その研究活動を強化するとともに低レベル放射線の人体等に及ぼす影響に関する調査研究を引き続き推進する。
 放射能調査研究については、原子力施設より環境中に放出される放射性物質、放射性降下物等の調査研究を行う。

(2) 放射性廃棄物処理処分対策の推進
 低レベル固体廃棄物の験試的海洋処分を昭和52年に開始することを目途に事前の安全評価、処分システムの確立等所要の準備を実施する。
 またこれと並行して陸地保管施設の基準化も含め廃棄物の処理処分に関する基準の作成を図る。
 中高レベル廃棄物については、処理処分のための研究開発を強力に推進する。

(3) 安全を確保する行政機構等の強化
 原子力委員会の原子炉安全審査の強化のため原子炉安全専門審査会の審査委員を大幅に増員する。
 原子力施設等の安全に万全を期すため、安全規制関係部門を統括し、安全関係行政を総合的に推進する。原子力安全局に新たに放射能監理課をおくとともに原子炉の安全審査官等の大幅増員を図る。

(4) 原子炉国際安全基準制定事業参加
 国際原子力機関を中心としてすすめられている原子力電発所に関する国際的な安全基準作成作業に積極的に参加する。



2. 高速増殖炉および新型転換炉の研究開発

 高速増殖炉については実験炉の総合的機能試験および臨界試験、低出力試験等の性能試験をすすめるとともに、原型炉に関する設計研究、炉物理、炉体構造、核燃料・材料、安全性、蒸気発生器等の研究開発を行う。また昭和52年度から原型炉の建設に着手するための諸準備をすすめる。
 新型転換炉については、昭和52年臨界を目標に、ひきつづき原型炉の建設をすすめるとともに、新型転換炉の評価研究を基礎に将来の大型炉について基本構想を確立するために必要な伝熱流動試験を開始する。
 これらの高速増殖炉および新型転換炉については、動力炉・核燃料開発事業団が、日本原子力研究所、国立試験研究機関、大学、民間等の協力のもとにその研究開発を推進する。



3. 核燃料に関する対策

(1) 濃縮ウランの確保
 動力炉・核燃料開発事業団を中心としてすすめている遠心分離法によるウラン濃縮技術の研究開発については次年度以降に予定されるパイロットプラントの建設に備えて、チェック・アンド・レビューを行う。このため、遠心分離機の高性能機の開発・システム開発のためのカスケード試験等をすすめるとともにパイロット・プラントの詳細設計、品質保証技術開発、UF6処理系信頼性試験等を行う。

(2) 海外ウラン資源の調査探鉱
 海外ウラン資源の調査探鉱については、ウラン資源確保の重要性に鑑み、動力炉・核燃料開発事業団による海外調査活動を強化し鉱石処理試験所等を整備するとともに、民間による海外探鉱に対する助成を行う。

(3) 使用済燃料再処理施設の建設
 動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設については試運転を完了するとともに、環境モニタリングおよび放射性廃棄物放出低減化のための研究開発ならびに放射性廃棄物の処理技術の開発を行う。



4. 原子力第1船「むつ」の開発

 原子力第1船「むつ」について、日本原子力船開発事業団により「むつ」の遮蔽改修に係る設計及び実験を行うとともに、安全総点検を行う。



5. 核融合の研究開発

 核融合の研究開発については、核融合動力炉の実現を究極の目標とし、その前提となる臨界プラズマ条件の達成を目指した研究開発に最重点をおいた第二段階研究開発を推進する。日本原子力研究所においては、トーラスプラズマの研究開発、プラズマ加熱の研究開発、核融合炉心工学、炉工学技術の研究開発等を中心に推進し、昭和54年度完成を目途に臨界プラズマ試験装置の建設に着手する。また、理化学研究所においては、診断・真空技術の基礎的研究、電子技術総合研究所においては高ベータ・プラズマに関する研究開発、さらに金属材料技術研究所等においては、材料の基礎的研究を行う。さらにレーザによる核融合については大学で主として行われているが、プラズマの生成・加熱を目的とした炭酸ガスレーザの研究等を民間に委託して行う。



6. 原子炉の研究開発

 製鉄への利用を中心とした多目的高温ガス炉については、日本原子力研究所を中心として、設計研究、伝熱流動試験、核燃料、耐熱材料等の研究開発を行い、特に高温ガス炉の大型構成機器の安全性、試験ループの建設整備に着手する。
 在来型炉については、日本原子力研究所において、動力試験炉の高出力運転を行うほか、材料試験炉により各種燃料、材料の照射を引き続き実施するとともに、材料試験炉ループのひとつとして、高温における燃料・材料の照射試験のためのガスループ(OGL-1)を用いた照射試験を開始する。さらにプルトニウムの軽水炉利用については、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団等において、研究開発をすすめる。



7. 放射線の利用

(1) 食品照射
 食品照射については、原子力特定総合研究として、その実用化の見通しを得ることを目標に引き続き国立試験研究機関、日本原子力研究所、理化学研究所が協力してその研究開発を推進する。

(2) 放射線化学等の研究開発
 日本原子力研究所においては、引き続き放射線化学関係の研究をすすめるとともに、モリブデン99の本格生産頒布の開始などラジオアイソトープの生産および利用開発の充実を図るほか、国立試験研究機関、理化学研究所、民間企業等において、放射線化学をはじめ、医学、工業、農業等の各分野における放射線利用に関する研究を促進する。
 また、サイクロトロンの医学利用については、放射線医学総合研究所において、速中性子線、陽子線等の医学利用に関する研究を行うとともに、短寿命アイソトープの生産・利用の技術開発を推進する。
 さらに、重イオン加速器を利用した多分野の研究を推進するために、理化学研究所において50年度にひきつづき重イオン科学用加速器の建設を推進する。
 日本原子力研究所においては、材料の照射損傷、核データ、超ウラン元素の消滅処理等の研究や核融合等の開発に資するため、タンデム型重イオン加速器の整備をひきつづきすすめる。



8. 保障措置関連施策の強化

 核兵器不拡散条約に基づく保障措置を実施し、合理的かつ国際的にも信頼性のある国内保障措置体制を整備するため、保障措置課を新設して内外に対する責任体制を明らかにするとともに査察官体制整備、査察用機器の整備、情報処理・分析等の専門的業務の委託等を行う。また、盗難等を予防するための核物質防護(フィジカル・プロテクション)に関する研究開発、設備等の整備を行う。



9. 原子力発電設備改良標準化等調査

 原子力発電所の安全性、信頼性を向上するため、現在の軽水炉を保守点検の適確化、作業者の被ばく低減化等の観点から改良・標準化の調査を行うとともに最新の原子力技術を反映した技術基準を確立する。
 また原子力発電所の機器等の品質保障のため技術基準の作成等を行う。



10. 国際協力の推進

 二国間原子力協力協定に基づく日米、日仏原子力会議の開催等によりこれら諸国との協力を推進するほか、国際原子力機関およびOECD原子力機関等を通しての多国間協力ならびにその他の海外諸国との二国間協力を推進し、科学技術者の交流、情報の交流、国際的共同事業等をすすめる。



11. 海外原子力事情の調査

 原子力に関する海外事情を迅速かつ的確に把握し、わが国の原子力政策に資するため、米国における原子力事情の調査を民間に委託して行う。



12. 原子力開発利用推進の調査

 エネルギー需給構造の根本的変化に対応し、原子力開発利用推進のための総合的政策立案を目的として、原子力の安全性に関する総合調査、核燃料サイクルの調査、新型動力炉・濃縮・再処理ストラテジー調査、パブリックアクセプタンス調査等を一部、民間に委託して行う。



13. 原子力広報の充実

 広く一般国民に原子力に関する正しい知識の普及を図ることにより、原子力の平和利用に対する国民の理解を求め、原子力開発利用を一層円滑に推進するため、テレビ、出版物等による広報活動、講演会および各種セミナーの開催などの広報活動を積極的に推進するとともに原子力平和利用推進会議により関係各界代表等による意見交換等を積極的に行う。



14. 原子力モニター制度の創設

 国民の理解と協力を得つつ原子力平和利用を推進するため、各地域のオピニオンリーダーを原子力モニターに委嘱することなどにより国民各層のすぐれた意見、提案、正しい批判、率直な要望等を積極的に聴取する。



15. 放射線障害防止対策の強化

 放射線検査官の増員、関係省庁連絡会議の活動の強化等により一層効果的かつ強力な監督指導を推進するほか、取扱事業所等の自主的な障害防止活動の促進を図るため取扱主任者等の再教育、安全意識向上のための各種活動を充実する。
 なお、受験者の大幅増加に対して取扱主任者試験の実施方法を改善する。



16. 人材の養成

 日本原子力研究所のラジオアイソトープ、原子炉研修所及び放射線医学総合研究所養成訓練部における原子力関係科学技術者の養成訓練を行うとともに、引き続き海外に留学生を派遣する。



17. 原子力発電施設等の立地促進対策

 電源三法による交付金により、原子力発電施設等の周辺住民の福祉の向上に必要な公共用施設の整備、環境放射線監視施設の整備、広報対策の充実強化、原子力発電施設等の安全性の実証試験等を実施するとともに、東海大洗地区における原子力施設地帯整備事業を推進し、原子力発電施設の立地円滑化をはかることとする。



18. 行政機構の整備、拡充

(1) 福井、福島原子力事務所及び佐賀原子力連絡調整官の設置
 地方自治体、原子力事業者等との連絡調整業務の増大及び放射線監視業務の強化に対処するため、福井、福島に原子力事務所をおくとともに51年度に原子力発電所が運転開始する佐賀県玄海地区に原子力連絡調整官をおく。

(2) その他の機構の整備
 原子力施設周辺における環境放射能監視等の体制を強化するため、原子力安全局に放射能監理課を設置する。
 また、保障措置事務の充実を図るため、原子力安全局に保障措置課を設置する。

(3) 人員の充足
 安全審査関係、検査、運転管理、査察等の安全、規制関係の強化、拡充を図ることを最重点とし、原子力開発利用の円滑な促進を図り、また地元住民の一層の理解と協力を得るための諸施策を講ずるために必要な人員を確保する。
 これらのための職員の必要増員は37名である。





Ⅲ 原子力関係機関等に必要な経費


1. 日本原子力研究所

 東海研究所、高崎研究所および大洗研究所の研究部問の充実、研究サービス部門の整備等を含め、必要な経費は約371億円(うち政府支出金約336億円、及び電源開発促進特別会計より約23億円)国庫債務負担行為限度額は451億円であり、定員増は総計154名である。
 うち、原子力施設の安全研究に必要な経費は約76億円で、研究の推進体制の整備をはかるため安全性試験研究センターの組織拡充をはかり、46名の増員を行う。
 また、核融合研究に必要な経費は約63億円で、核融合研究開発プロジェクト推進体制の整備をはかるため核融合研究開発本部を新設し69名の増員を行う。



2. 動力炉・核燃料開発事業団

 高速増殖炉および新型転換炉の開発プロジェクトを推進するために必要な経費は、約461億円(うち政府支出金約394億円)、国庫債務負担行為限度額は約182億円である。また、動力炉開発プロジェクト推進体制の整備を図るため147名の増員を行う。
 ウラン濃縮技術の研究開発プロジェクトを推進するために必要な経費は約91億円、国庫債務負担行為限度額は約22億円である。また同プロジェクト推進体制の整備を図るため44名の増員を行う。
 再処理工場の建設等に必要な経費は約166億円(うち政府支出金102億円、政府保証借入金47億円)国庫債務負担行為限度額は約2億円である。また、再処理施設の建設試運転等のため121名の増員を行う。
 その他核燃料物質の探鉱および製錬を初めとする核燃料開発に必要な経費は約62億円である。
 なお、政府支出金の総額は約646億円、国庫債務負担行為限度額は約209億円であり、定員増は総計335名である。



3. 日本原子力船開発事業団

 原子力第1船「むつ」の遮蔽改修、安全総点検、現定係港施設の維持管理等に必要な経費は約24億円(うち政府支出金約22億円)である。また、このために必要な33名の増員を行う。



4. 放射線医学総合研究所

 低レベル放射線の影響研究、サイクロトロンの医学利用に関する研究等を含め、必要な経費は約29億円である。また、このために必要な13名の増員を行う。



5. 国立試験研究機関

 原子力施設の安全研究、核融合、放射線の医学利用に関する試験研究等の原子力関係に必要な経費は約11億円である。



6. 理化学研究所

 核融合、食品照射、サイクロトロンによる研究、重イオン科学用加速器の建設等の原子力関係に必要な経費は約5億円である。



昭和51年度原子力関係予算概算要求総表




(参考)昭和51年度原子力関係予算(一般会計)概算要求重要事項別総表



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