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「核融合」第一段階研究開発報告と評価について



 核融合研究運営会議は、昭和44年度より昭和49年度まで推進してきた第一段階の核融合研究開発の結果を「核融合第一段階研究開発報告と評価」としてまとめ、昭和50年7月29日原子力委員会に報告した。



原子力特定総合研究
「核融合」
第一段階研究開発報告と評価

(昭和44年~49年度)

昭和50年7月
核融合研究運営会議


まえがき

 核融合研究開発の重要性にかんがみ、昭和43年7月原子力委員会は、その第一段階の研究開発を原子力特定総合研究に指定し、同時に定めた核融合研究開発基本計画に基づき、関係研究機関の有機的連繋のもとに、昭和44年度より本格的に研究開発が開始され、昭和49年度をもって計画を完了した。この間、すでに昭和48年には、軸対称トカマク型トーラス装置に関する研究開発について世界的水準に達する優れた成果を得るなど、ほぼ順調に研究開発が遂行された。
 昭和48年4月当核融合研究運営会議は、第二段階の研究開発の具体的方策を検討すべき時期に達したと判断し、核融合研究開発将来計画の立案に資するため、この時点までの研究結果を評価し、原子力委員会に中間報告を行った。
  このほど6ヶ年にわたる計画全体を完了するにあたり、中間報告以降の研究開発も含めて研究成果をとりまとめその評価を行うことは、今後の研究開発の推進にとって極めて意義のあることと考え、ここに「第一段階研究開発報告と評価」として報告する。

 昭和50年7月


核融合研究運営会議

核融合研究運営会議委員(順不同) 
伏見 康治 日本学術会議副会長
井上 弥治郎 通商産業省工業技術院電子技術総合研究所長
一宮 虎雄 理化学研究所副理事長
関口 忠 東京大学工学部教授
高山 一男 名古屋大学プラズマ研究所長
八田 吉典 東北大学工学部教授
山本 賢三 日本原子力研究所理事
吉川 庄一 東京大学理学部教授
吉村 久光 日本大学理工学部教授



1 基本計画決定に至る経緯

 我が国の核融合研究は昭和30年頃から開始され、当初は小規模な基礎研究が行われた。
 昭和34年第一次核融合専門部会は我が国の核融合研究の進め方について「大学関係の研究基盤の育成・充実を優先させ、科学技術庁関係研究機関は当分これに協力しつつ、適当な時点における研究規模の拡大に備えて研究人員の養成及び研究実力の涵養を図るべきこと」と答申した。その後これに基づいて、名古屋大学に全大学の共同研究の場としてプラズマ研究所が設立され、また各大学の研究・教育の充実が図られた。一方、科学技術庁関係の研究機関は上記の答申に沿って小規模な研究開発を実施した。
 このように我が国は、消長の激しかった昭和30年代の第一世代期に大型装置を建設せず、大学関係を主体とする基礎的研究、小規模な研究開発及び人材養成を効果的に行い、それぞれの面で相当な成果をあげ、きたるべき核融合研究の飛躍期に備えて、その基礎を築いた。
 一方、海外においては、昭和30年代の混沌期を経た昭和40年のIAEA主催のカラム国際会議から昭和43年のノボシビルスク国際会議の頃にかけて大きな転換期を迎えた。すなわち、従来核融合実現への有力候補の一つと目され、研究が最も先行していた磁気鏡型を代表とする開口系装置は、開口端からのプラズマ不安定性による荷電粒子損失が過大なため、エネルギー収支面から核融合炉にまで発展させることには大きな疑問が持たれるようになっていた。他方、トーラス型装置による閉じ込め研究は、低ベータ内部導体系の研究をきっかけとして新しい局面を迎え、核融合の研究開発の重点は主として低ベータ・トーラス系へと拡大、移行しつつあった。また、長らく、高ベータ、プラズマ系の代表とみなされてきた直線テーター・ピンチ装置は、短時間ではあるが、比較的簡単に高温プラズマが発生できるため、かなりの注目を集め、この時期には温度100万度から1,000万度の桁へと進展したが、それと同時に、開口端からの荷電粒子損失が磁気鏡型の場合と同様に不可避的に大きいことが判明したので、さらに炉にまで発展させ得る可能性を検討するため、これまたトーラス化が図られつつあった。
 この時期よりやや先行して、日本学術会議核融合特別委員会は、昭和38年11月より昭和41年10月まで我が国の将来計画に関する諸作業を行い、我が国のとるべき研究の方針と方策について検討を重ねた。
 引き続き、原子力委員会長期計画専門部会(核融合分科会:昭和41年10月~12月)は上記学術会議の諸審議を参考とし、また昭和40年のカラム国際会議以降の世界情勢の新しい転機にかんがみ、「科学技術庁関係研究機関は核融合を明確な目的とする総合的研究を昭和44年度よりプロジェクト的に推進すべきこと」と答申した。
 次いで昭和42年5月第二次核融合専門部会が発足し、具体的な研究開発計画の検討に着手した。そして昭和43年5月同専門部会は「基本方策として在来の消極策を早急に脱却すべく科学技術庁関係の研究体制を新たに再整備し、トーラス安定閉込めを中心とした総合装置的プロジェクトを速やかに開始すべきであり、また現時点はこの開発研究に直ちに着手すれば、世界の水準に追いつき、追い越す途が拓かれる絶好の時期である」として、次項2の初頭に述べる主計画と副計画を推進する必要がある旨原子力委員会に答申した。
 上記答申を受けて昭和43年7月4日原子力委員会は核融合研究を「原子力特定総合研究」に指定し、同時に定めた「核融合研究開発基本計画」に基づき、計画的に推進を図ることとした。




2 核融合研究開発基本計画の概要


 昭和43年7月原子力委員会が定めた核融合研究開発計画は、核融合反応の実現を明確な目標とし、従来の基礎プラズマ物理中心の研究を総合的、工学的研究へ展開させることを意図している。このため、同計画は先ず第一に「将来において核融合動力炉へと進展が予想されるトーラス磁場装置を主な対象として、第一段階(昭和44~49年度)においては、(低ベータを一歩前進させた)中間ベータ軸対称性トーラス・プラズマの安定な閉じ込めを目標とする研究」を主計画とし、第二に「将来(第二段階以降)における高ベータ・トーラス磁場装置の研究開発に備えるため、テーター・ピンチ装置による、主として高ベータ・プラズマの挙動解明を目標とする研究」を副計画として推進することとしている。なお、磁気鏡型を代表とする開放系については前項1に述べた当時の世界情勢から、同計画の対象としては除外された。
 同計画の概要は以下のとおりである。


(1) トーラス磁場装置の研究開発

〝静かな″プラズマが得られ、また理論と実験との対応が明確になっている〝軸対称性トーラス磁場装置″により、ベータ値0.001程度の低ベータ・プラズマからベータ値0.01程度の中間ベータ・プラズマまでの研究開発を推進する。また、第二段階以降において、ベータ値をさらに高めようとする際に、〝非軸対称性″の外部導体系トーラス磁場装置、あるいは軸対称と非軸対称の複合系が核融合炉の実現の観点からより有利と判明する可能性もあるので、その場合第一段階の成果の適用を容易にするため、外部導体系及び複合系についても将来に備えた基礎研究を行う。

(ⅰ) 低ベータ軸対称性トーラス磁場装置による予備実験
 低ベータ軸対称性トーラス磁場装置を設計、製作し、これによる実験研究を行うことにより、ベータ値0.001程度のトーラス・プラズマ保持についての資料を得るとともに、この種トーラス磁場装置の設計、製作及びこれによる実験に習熟し、第一段階の主装置(中間ベータ軸対称性トーラス磁場装置)の設計、製作及びこれによる実験研究に備える。

(ⅱ) 中間ベータ軸対称性トーラス磁場装置の研究開発
 予備実験の成果をもとにして、中間ベータ軸対称トーラス磁場装置を設計、製作し、これによる実験研究を行うことにより、ベータ値0.01程度、絶対温度数100万度台のトーラス、プラズマ保持についての資料を得るとともに、装置の設計、製作技術を習得し、第二段階以降の臨界炉心プラズマの実現を目指す。さらにベータ値を高めたトーラス磁場装置による研究開発に備える。

(ⅲ) 外部導体系トーラス磁場装置の研究
 この型の装置では複雑な磁場を用い、かつ、その僅かな設計誤差がプラズマ保持に大きな影響を及ぼす等、装置製作前に検討すべき多くの問題が存在するので、第一段階においては、磁場等の設計及び小型装置による研究にとどめる。
  (以上、日本原子力研究所分担)

(ⅳ) 関連技術開発
 従来主として対象としてきた絶対温度10万度台のプラズマを100万度台に高めるためのプラズマ生成・加熱技術、装置技術、診断技術の研究開発を行なう。
  (理化学研究所分担)



(2) テーター・ピンチ装置による高ベータ・プラズマの研究
 直線テーター・ピンチ装置を開発し、これによりベータ値1~0.1の領域を研究する。また、テーター・ピンチ装置のトーラス化についても小型装置による研究を行う。
(通商産業省工業技術院電子技術総合研究所分担)


(3) 研究開発の体制

(ⅰ) 核融合研究運営会議並びに連絡会議の設置
 この研究開発の推進と評価を行うため、原子力局に学識経験者からなる運営会議を設ける。
 また、この研究開発を円滑に実施するため、同局に各実施機関の関係者及び学識経験者からなる連絡会議を設ける。

(ⅱ) 内外関係機関との交流
 海外の研究情報の取得、海外からの研究者の招聘等を行い、その成果の活用を図る。
 また、本研究開発に際しては大学、民間企業に技術開発、機器試作研究及び人的支援等の面からの協力を期待する。

(ⅲ) 研究機関の一本化
 第二段階以降研究規模が拡大した場合には研究機関の一体化(一つの組織、一つの場所)を図ることを前提に第一段階の研究を進める。




3 研究経過と主要な成果


 前項2の基本計画に沿って昭和44年度より本格的な研究開発が始められ各研究所の人々の多大な努力によって、多くの成果が得られた。この間核融合研究運営会議は昭和44年1月以来50年6月末までに通算29回開催し、幾つかの重要な決定を行い鋭意その推進に努力してきた。以下その概要を述べる。


(1) トーラス磁場装置の研究開発

(ⅰ) 低ベータ軸対称性トーラス磁場装置による予備実験(JFT-1)
 日本原子力研究所はトーラス型ヘクサポール装置(JFT-1)を昭和43年に設計、製作し、以降同装置による実験を行い、低ベータ・ガン入射プラズマ及びECRH(電子サイクロトロン共鳴加熱)プラズマのトーラス閉じ込めに関し、荷電粒子損失機構、低周波不安定振動など多くの知見を得るとともに、磁場の精密設計、ECRHによる加熱等に関する技術を得る等、当初の目的である「トーラス磁場装置の設計、製作及びこれによる実験に習熟し、第一段階の主装置に備える」をほぼ十分に達成し、昭和47年度をもって実験を終了した。


(ⅱ) 中間ベータ軸対称性トーラス磁場装置の研究開発(JFT-2)
 第一段階の研究開発における主装置として昭和45年度から設計、製作に着手することが予定されていた本装置JFT-2は、計画当初の昭和43年末頃には、JFT-1を発展させた内部導体系(スフェレータ型)にプラズマ・ガン入射方式を組合せることにより、ベータ値を上昇させる方向で検討が重ねられた。しかし、検討の進捗につれてこのプラズマ生成方法では体系的にベータ値を高めていくことには難点があると判断され、一方トカマク型トーラス装置の有望性が次第に認められようとしていた当時の世界情勢をも併せ考慮して、昭和44年夏まではスフェレータ型とトカマク型の両形式を共用できる装置をJFT-2とすることで検討が進められた。
 さらに、昭和44年9月ソ連のドブナで開かれたトーラス国際会議、その他で発表されたソ連のトカマク型装置T-3の非常に注目すべき成果(閉じ込め時間の伸長、さらにその後のミリ秒の桁を上廻る長時間の熱核中性子の発生)に着目し、それまでのスフェレータ、トカマク共用をトカマク型専用に切替えるという日本原子力研究所の提案に対し、核融合研究運営会議は慎重審議の結果、昭和45年2月これを支持する決定を下した。
 この決定はその後の世界諸国における研究開発の推移を見るとき、結果的に極めて適切、妥当な判断であったと考えられる。
 上述の経緯を経て決定された中間ベータ・トカマク型トーラス装置JFT-2は昭和45年中頃に製作を開始し、昭和47年4月日本原子力研究所に納入を完了、直ちに調整、実験に入った。同装置は生成されるプラズマ半径が太く(プラズマ半径が太くなると、閉じ込め時間、プラズマ温度が増加、上昇する。)いわゆるアスペクト比の小さい〝fat″な(アスペクト比が小さくなると、ベータ値の上限が上昇する)トカマクであり、また実験中にリミッタを除去できるダイナミック・リミッタ(プラズマの形を規制するリミッタを急速に取り除くことにより、リミッタの影響を受けないプラズマの研究が可能となる)を備えているなど多くの特徴を有している。しかし、設計製作段階ではこれらの特徴を有効に発揮できるようにするための設計技術上の困難が数多く存在し、その解決には製作を担当した民間企業をも含めた多くの関係者の多大なる努力が払われた。
 昭和47年4月以降の調整期においては、不純物ガスに対する放電清浄、真空リークに対する対策処理、水平方向の僅かな不整磁場(10ガウス以下)の補正など幾つかの問題点が発生したが、これらに対処する関係者の熱意と努力によって、この種の装置としては異例に短かい調整期を経て、昭和47年末には本格実験に入ることができた。
 そして、研究従事人員の不足、計測器の整備の遅れなどの悪条件にもかかわらず、装置建設後1年を経ずして電子温度約500万度(イオン温度200万度前後)、プラズマ密度1013cm-3(プラズマ電流150kA以上)、電子エネルギーの閉じ込め時間10ないし20ミリ秒のプラズマ発生が確認されるという注目すべき成果が得られた。さらに特筆すべきことは上記の電子エネルギー閉じ込め時間が、ソ連のトカマクT-3及び米国プリンストン大学のトカマクSTのそれの延長線上に位置することが見出されたことである。これはトカマクのプラズマ・パラメータに関する比例法則(閉じ込め時間がプラズマ断面半径の二乗に比例し、プラズマ電流によって作られる磁場に比例する法則をいう)の成立確認に貴重な資料を提供したものである。
 さらに詳細なデータは昭和48年度より漸次そろった各種の計測装置-特にレーザ光によるトムソン散乱を使っての電子温度の測定によって得られた。その結果は大筋において47年度の結果を追認するものであった。ダイナミックリミッタも48年度には実験が行われ、プラズマがダイナミック・リミッタが動くにつれて拡がるということが観測された。これらは世界にさきがけた知見である。
 この一連の実験を通じて、我が国のトーラス磁場装置の研究が画期的な発展を遂げたことは論をまたない。とくに、装置が動いてから1年以内の
期間中に、世界の水準に伍す結果が得られたことはこの装置設計の妥当性を実証し、前項の(ⅰ)(ⅱ)に述べた基本計画の目標をほぼ達成したことになる。更に「臨界プラズマ」の達成という核融合動力炉実現へより一歩近づくための研究規模の拡大に対し諸外国に伍して進むことが可能であることの基礎と信頼を与えるものといえる。
 昭和49年の春より、トーラス磁場の増強が計画され磁場の強さが10キロガウスから18キロガウスに増力された。その結果プラズマの密度の増大、プラズマ電子温度の上昇が観測された。未だこの新しいパラメータ領域での閉じ込め時間の測定には到っていないが、温度上昇等にかんがみ閉じ込め時間の増大も期待される。


(ⅲ) 外部導体系トーラス磁場装置の研究
 昭和43年度より大学関係者の協力を得て行われた日本原子力研究所核融合研究委員会における検討及び名古屋大学プラズマ研究所等における研究状況を勘案し、昭和44年3月核融合研究運営会議は本研究が未だ基礎研究の段階にあると判断し、当分の間はプラズマ研究所その他における研究成果に期待することとして、昭和44年度で検討を打切り、当分着手を見合せることとした。


(ⅳ) 高安定化磁場試験装置の研究(JFT-2a)
 JFT-2の将来の発展に備え高安定化磁場試験装置(JFT-2a)の研究に着手した。
 これはダイバータを持ったトカマクであり、昭和49年8月に運転を開始した。真空容器の内側は金蒸着がなされており、そのため少ない回数の放電洗浄によっても、非常に純度の高いプラズマが得られるという利点を有している。装置はJFT-2に較べると小さく、高安定化磁場配位をもったプラズマの中におけるダイバータの機構を解明するのが目的である。しかしながら、工作上には金蒸着などの種々、新規な技術上の問題点があり、それにもかかわらず、JFT-2aが、予定通り実験を開始することができたのは、日本原子力研究所のスタッフ及び関係メーカーの技術者の多大な努力によるものである。
 実験開始より1年に満たないので粒子拡散及びダイバータの効果についてなお不明の点が残ってはいるがすでにダイバータ付の涙滴型プラズマの平衡を得ることが出来た。トカマクにおいてダイバータ付の平衡が得られるかどうかは懸案であったので、世界で初めてJFT-2aにおいてこのような安定な平衡の存在を実証したことはとくに重要な成果である。またこの実験は、次の段階の臨界プラズマ試験装置でのダイバータ(又は磁気リミッタ)の適用可能性を示したものといえる。


(ⅴ) 関連技術開発
 理化学研究所は関連技術開発の一環として、(ⅰ)プラズマの生成加熱(ⅱ)プラズマ診断及び(ⅲ)真空材料の特性測定の諸技術に関する研究を進めてきた。
 「プラズマの生成加熱」では(a)将来のトカマク型トーラス装置に対する第二段加熱の一方式であり、さらに炉が実現した際の燃料補給の一方式として可能性のある「クラスターイオン源」の開発と(b)「マイクロ波によるプラズマの生成加熱」の二項目がとりあげられた。(a)に関しては、最終的な水素クラスターイオン源に対する予備実験として窒素クラスターイオン源の試作、実験が行われた。窒素クラスター装置として0.1A程度の定常ビームが得られ、その電離効率は60%以上に達している。またパルス状態ではビームが3A相当のものが得られている。これは水素のビームに換算すると20A相当になる。そのほか、実験と計算の両方からノズル中に衝撃波を生ずるとクラスターが得られぬこと、高い電離効率を得るためにはクラスターイオンの構成分子数が105程度必要なことが示された。得られたビーム強度は世界的水準に達している。
 (b)に関しては理研のECRH(電子サイクロトロン共鳴加熱)技術の開発は成功を収め、日本原子力研究所のJFT-1及びJFT-2に対するプラズマ生成、予備電離加熱法として、その設計及び実験遂行に寄与した。直列に3個連続したミラー型磁場の両端部にマイクロ波を照射してプラズマ生成を行い、差動排気によって、中央部に6×1011cm-3、電離度60%以上の高電離度プラズマを得ることに成功した。また、このプラズマに変調されたマイクロ波を送ると、プラズマ中の振動が抑えられるのが発見された。
 (ⅱ)のプラズマの診断では、(a)分光測定及び(b)相関計測技術があげられる。(a)はスペクトル線の波長、絶対及び相対強度、スペクトルプロファイルの測定などから発光粒子の同定、定量及び電子、イオン温度、密度、プラズマからの放射損失などを時間、空間分解をもって計測し得る診断技術の確立を目標としている。このため真空紫外波長領域での2m斜入射と1.5m直入射型の真空分光器が設計製作された。両分光器とも世界的にみても極めて優れたものである。直入射分光器では、水素のライマン系列を含む1,000~2,000Åの領域での絶対強度較正がなされた。較正値の精度は高く、プラズマの分野では初めての成果である。また可視光領域の分光としては、日本原子力研究所のJFT-2のルビーレーザ光トムソン散乱測定装置の設計、各種分光測定器の選定、同担当者の研修などに協力し、さらに電子技術総合研究所における高ベータ・トーラス・プラズマの分光計測にも協力している。
 (b)に関しては、まずラングミュアー探針を用いてのプラズマの密度のゆらぎの測定があげられる。このために、15MHzまでの高性能のアナログ相関計が設計製作された。電子ビーム・プラズマ装置をつくり、電子ビームの密度を低周波で変調することにより、プラズマ中に低周波波動を励起し、イオンのエネルギー密度を約一桁大きくすることに成功した。これは乱流電場による統計的加熱であることが、探針を使った相関測定で明らかになった。マイクロ波散乱によるゆらぎの測定には75GHz帯で最小分解能10KHzの極めて高性能のマイクロ波受信機が設計製作された。
 (ⅲ)の真空材料の特性測定の諸技術に関する研究は、プラズマ粒子の真空壁への衝撃による不純物ガスの放出に関する情報を得ることを目的として、電子衝撃による不銹鋼からのガス放出及び金メッキの効果、また低エネルギー、イオン衝撃によるガス放出の実験研究がなされた。その結果は、放出ガスは主に一酸化炭素と炭酸ガスであることが明らかになった。試料表面にある酸素の量が、それらのガス放出に対して重要な役割を果たすこと、またこの酸素の量は試料内部にある酸素の補給率によって、定まるということが判った。


(ⅵ) 理論研究
 理論研究は実験と密接な関係をもって原研で進められているので、それだけを抜き出して取り上げるのは困難な面もあるが、以下に簡単に理論研究についてふれる。
 初期における成果として、非円形断面トカマクの解析、世界に先がけての磁気流体的不安定性の有限要素法に基づく計算コードそしてトカマク型プラズマの一次元輸送コードなどの開発があげられる。また核融合炉炉心プラズマの熱的不安定性の先駆的研究もある。さらにトーラスプラズマの平衡を決定する各種の計算コードの開発、整備が行われた。ADI法(Alternating Directions and Iteractive Implicit Method)によるものは、JFT-2a、及び臨界プラズマ試験装置の設計に不可欠なものであって有効に利用された。
 トカマク型における不純物の問題については、それが世界的に注目を浴びる以前から、プラズマ中の不純物の挙動の解析、放射損失の評価などを行い、その重要性を指摘してきた。さらに磁気流体領域における不純物の輸送過程及び不純物の存在によるドリフト不安定性の解析などが行われた。トカマクの一次元輸送コードについては、不純物や中性粒子の影響を考慮した現実に近いモデルに基づくものが開発され実験解析に有効に使用された。


(ⅶ) 臨界プラズマ試験装置の設計研究
 次期段階の主装置として臨界プラズマ試験装置の設計が、この第一段階の研究期間中に行われた。JFT-2、JFT-2aの研究成果に基づき次期段階装置はトカマク型と決定された。目標としてはプラズマの密度5×1013~1014/cm3保持時間0.3~1.0秒、nt値2~6×1013sec/cm3プラズマのイオン温度5~10keVをねらっている。このような高温のプラズマを長時間閉じ込めるためには、必然的に装置も巨大なものにならざるを得ない。この装置は現時点においてプラズマ主半径300cm、プラズマ半径100cm、磁場の強さ50キロガウスでダイバータのついたものとなっている。これは核融合研究開発懇談会の下に設けられた技術分科会の報告(昭和48年11月)に基礎をおいているものである。臨界プラズマ試験装置の予備設計、HC臨界達成に必要な中性粒子入射加熱装置の予備実験等が49年度に行われた。
 この予備設計は、各国の大型トカマクの設計計画に較べて、より進んでいる点もあると言える。すなわち臨界プラズマ試験装置は、米国でTFTR、ヨーロッパ連合でJET、ソ連でT-20があるが、それらの設計は着手されたばかりであり、原研の設計はそれらに較べて進んでいる。JT-60の設計についてはIAEAの第5回プラズマ物理及び制御核融合研究国際会議の機会に非公式発表討論が行われ、深い印象を他の諸外国に与えた。また臨界プラズマ試験装置に関連するものとして、(ⅳ)に述べた不純物による放射損失の評価があげられる。それによると、JT-60において、モリブデン0.1%の不純物が混入すると、それによるエネルギー損失はプラズマの閉じ込め時間によって定まる損失より大きくなることが判明した。そしてこの不純物による放射損失はプラズマを加熱することによって補う必要が生じ、加熱系に対する要求は一層厳しくなることが明らかになった。


(ⅷ) 核融合炉の設計研究
 核融合炉設計研究としてはまず第一に、炉の概念把握と開発上の問題点摘出のための核融合炉のシステム解析、とくに実証炉の試設計を進め、第一次総合試設計をまとめたことがあげられる。この試設計では、独自の方式として、リチウム・セラミックス(Li2O)をトリチウム生産の親物質とし、ヘリウムガス冷却を用いる方式は重要な新提案である。その優秀性は広く認識され、世界有数の核融合炉設計グループである米国ウィスコンシン大学チームもリチウム金属冷却方式から、最近この方式に転換した。第二には先駆的な実験研究として、ブランケット体系の炉物理実験の成果があげられる。その他磁場中における液体金属の伝熱の研究、Li2Oを中性子照射して製造したトリチウムの回収実験、Li2Oペブルの試作、リチウム金属と不銹鋼の共存性試験、超電導線材の液体ヘリウム温度における中性子照射などの諸課題についての研究成果が出始めている。



(2) テータ・ピンチ装置による高ベータ・プラズマの研究
 昭和44年4月核融合研究運営会議はテーター・ピンチ装置による高ベータ・プラズマ研究に対して(a)高ベータ・プラズマの研究はいまだ模索的段階にあり、プロジェクトとしては準備段階にあるので、柔軟性のある研究計画を立てる必要がある。(b)そのため、本研究開発の第一段階においては数百kJ~1MJのコンデンサ・バンクの実験を行うことを目標とするが、単年度にそれを建設することは差控え、段階的な建設を計画すること、(c)テーター・ピンチの装置技術をやや小規模の装置によって確立し、また、トーラス・テーター・ピンチによる研究を小規模装置によって実施するなどの方針を立てた。
 電子技術総合研究所は、上記の方針に従って昭和44年度に100kJ直線テーター・ピンチ装置を完成し、昭和44~46年度に同装置による実験を行い、イオン温度約300万度、プラズマ密度約1017cm-3、プラズマ閉じ込め時間2~3マイクロ秒の高ベータ・プラズマを得、また予備電離法に対する工夫によって、低プラズマ密度領域において1,000万度以上の電子温度が得られることを見出だすと共に、高ベータ・プラズマに対する分光及びレーザ診断技術の確立をほぼ完了した。同時に、磁場の時間的立ち上りが可変の小型(8kJ)高速テーター・ピンチの実験によって、テーター・ピンチ・高ベータ・プラズマの発生初期に起こる諸現象について多くの知見を得た(昭和45~46年度)。さらに、本格的な高ベータ・ピンチ・トーラスの建設に備えて、小型(20kJ)トロイダル・スクリュー・ピンチ装置を試作し、昭和45~46年度において、ベータ値0.2、イオン温度20万度、プラズマ密度約1016cm-3閉じ込め時間約25マイクロ秒のプラズマ生成を実現した。
 この間、直線テーター・ピンチに関しては、当初48年度頃までにそのコンデンサ・バンクを400kJ程度まで増力することが計画されていたが、高ベータ・トーラス・プラズマの世界的な趨勢がトーラス化に向って急速に展開している情勢にかんがみ直線テーター・ピンチに対する増力を中止し、主目標をトーラス・ピンチに集中することとした。
 そこで昭和46年度末に150kJトロイダルスクリュー・ピンチ装置(TPE-1)の設計を完了し昭和47年度より装置の各部の試験調整を経て昭和48年度から実験に入った。この装置の建設には、諸般の事情から一年の遅れを生じたが大型コンデンサ・バンク、大電流制御装置製作の諸技術の面で多くの工夫が試みられた。レーザ散乱による電子温度の空間分布、分光器によるイオン温度の測定などを整備し、安定な磁場配位の崩れはプラズマ電流の減衰のためであることを解明しプラズマ電流発生回路にパワークローバーを加えた。昭和49年度にはテーターコイルの改造によって最大トロイダル磁場を20キロガウスに増力し安定な平衡配位について多くの知見を得た。昭和49年10月にスクリュー・ピンチの実験を終了し、逆磁場ピンチの実験に入った。コンデンサ・バンクの組み替え、及び補修を行い、装置の試験を終了し現在その実験が進行中である。
 スクリュー・ピンチ実験においてはベータ値0.1程度のプラズマでもよじれ不安定性の条件は守られる必要があること。平衡条件成立のためには正バイアス磁場を加える必要があること、局所不安定性の発生を防ぐにはトロイダル・プラズマ電流をトロイダル磁場をかける前に流すことが有効であることなどを解明し、イオン温度約80~30万度、ベータ値0.07~0.03の間変化するプラズマを放電開始後、10~40マイクロ秒の間閉じ込めることができた。これらの結果は計算機シミュレーションによる結果と相容れるものである。
 逆ピンチ配位の実験ではこのベーター値がさらに高くなることが期待されている。
 スクリュー・ピンチ・プラズマの断面を円形から変形することによってベータ値をあげうることが理論的に期待され昭和47年度より検討をはじめ昭和48年度に小型の非円形断面スクリュー・ピンチ装置(TPE-1a)を建設した。これはD型断面をもちアスペクト比2.2、断面の長軸と短軸の比5、トロイダル磁場8キロガウス、プラズマ電流200~300キロアンペアである。現在ベータ値0.05、閉じ込め時間6~10マイクロ秒のプラズマが得られている。
 これらに並行して光学的診断技術の確立、データ処理法の開発を行ったことも成果であった。


(3) 内外関係機関との交流

(ⅰ) 国内研究機関との協力
 3研究機関相互間を始め、これら機関と各大学との連絡交流は核融合研究運営会議、同連絡会議、日本学術会議(原子力研究連絡委員会核融合小委員会)等を通じて活発に行われた。毎年1回3研究機関の合同発表会が開催され、大学をも含めた広範囲の関係機関より研究者等の参加を得て討議が行なわれた。また各研究所はそれぞれの専門分野の研究発表会を随時開催し、広く研究者の間の情報交換にあたってきた。
 この他、本研究計画の推進に際して、各大学からの人的支援、調査研究に関する協力、民間企業からの機器装置の試作に関する協力等により多くの貢献がなされた。

(ⅱ) 国際協力
 海外からの研究情報の取得、その成果の活用については、在米日本人研究者を含む海外研究者との交流が活発に行われ、我が国の核融合研究推進に多くの有益な寄与がなされた。また国際核融合研究協議会(IFRC)など一連の国際会議に代表者あるいは研究者を派遣したほか昭和46年には低ベータ・トーラスのパネル討論会が東京において日本原子力研究所主催で開催され、米、英、独、仏各国からの参加を得た。
 昭和49年には国際原子力機関(IAEA)主催の「第5回プラズマ物理及び制御核融合研究国際会議」が東京で開かれた。日本原子力研究所はホスト研究所として、この会議の円滑な運営に寄与した。海外からの参加者約260名を数え、極めて有意義な会議であった。多くの研究発表が日本の研究者からもなされ、また、海外からの参加者は日本原子力研究所を始め、多くの研究所を歴訪し、日本の高い研究水準に感銘を受けた。



(4) 結び

 第一段階は極めて成功裏に終ったといえよう。まず主計画である原研の中間ベータ値トーラス装置については、世界の最先端を行く装置として、トカマク型プラズマ装置のプラズマのふるまいに関して、貴重な知見を与えてくれた。日本の研究が諸外国に較べて層が薄く、また、歴史が浅かったことを考慮に入れるとき、これは、日本の研究を一躍第一線の水準に押し進めたものとして高く評価されるべきである。このかげには、研究者、技術者の尋常一様でない努力の集積がある。このことは我が国の核融合研究が本第一段階の主な目標であった核融合炉の実現を目指す技術的な研究開発への離陸に成功したことを意味するばかりでなく、今後世界の先進諸国と肩を並べて人類のエネルギー問題の解決のために重要な役割を演ずることに自信が得られたものとして、その意義の重要性を改めて感ずるものである。
 次に副計画としてとりあげられた電子技術総合研究所の高ベータ・プラズマの研究においてもほぼ基本計画の要請をみたして終了した。高速の大電流制御技術の上では未完成なスイッチ技術をよくこなして、同種の実験として国際的にも比肩される規模で行われたと考えられる。レーザを中心とする診断技術を用いて生成されたプラズマの挙動解明を可能な限り行い、計算機シミュレーションの方法の開発及びその結論と実験結果との比較を行い信頼度の高い成果を得ることが出来たことは高く評価されるべきである。
 理化学研究所の研究は関連技術開発に主体があり極めて地道な研究が多いが、他研究所や大学の研究活動に必要な多くの貴重な情報を得たことは特記されるべきである。
 なお、現在までの予算総額(昭和44~49年度)及び人員を示すと次のとおりである。

予算総額   人員
昭和44~49年度 50年2月現在
百万円
日本原子力研究所 2,508 52
理化学研究所 232 15
電子技術総合研究所 361 18
3,101 85
金属材料技術研究所 23 10
原子力平和利用研究委託費 129
合計 3,253 95



4 核融合研究の今後のあり方


(1) 第一段階研究開発の評価

 第一段階研究は幾多の困難な客観情勢にもかかわらず、概ね世界的水準の成果を得たことは極めて喜ぶべきことである。この第一段階の過程を通じて大型装置の建設についての経験が積まれたことは、今後第二段階に移行するにあたっての貴重な財産となるものである。この間に民間企業に対する発注、連絡、完成した装置の据付けなどを通じて、大過なく遂行することが出来、日本の技術水準の高さが実証された。中でもJFT-2装置は当時世界でも少ないトカマク装置の一つとして建設され、それが予定された時点に稼動したことは特筆すべきことである。
 このJFT-2の実験を反省してみると、1969年のトカマクT-3の結果をみても明らかなようにプラズマ計測は核融合実験の要となるものであるにもかかわらず、種々の事情により測定装置、とくにレーザ電子温度測定が遅れ、貴重な情報が一年以上も得られなかったことは極めて残念であった。今後は測定装置等の整備に関しては、実験研究の進展に即した綿密な配慮が必要である。
 なおJFT-2の実験をみると、プラズマの保持時間、密度、温度についての測定はできているがそれ以上のもの、たとえば、軟Ⅹ線の測定によるMHDモードの不安定性の解明はなされていないし、また、ダイナミックリミッタについても、その物理的な意味についての追跡はなされていない。これらのことは日本のトカマク研究の歴史が比較的浅いためある程度やむを得ない面はあるが、今後はこれらの諸課題に関しても、このような方向に研究が進められることを期待する。
 JFT-2aはダイバータを取り入れた新しい実験である。まだ稼動し始めたばかりであり、この時点での評価はむづかしいが、すでにダイバータ付プラズマの安定な平衡がみられている。今後の研究の発展に期待する。
 次にテータ・ピンチ装置による高ベータ・プラズマ研究に関してはなお模索的段階にあるので、数値的目標をもったプロジェクトとしてたてるよりは柔軟性のある研究計画で進むことを基本方針とした。また高速大容量電源に関しても試験研究の内容に応じて段階的に建設することとした。さらに、トーラス研究については、軸対称型装置におけるベータ値の限界を調べるという立場をとった。
 このような方向は概ね適切なものであったと考えられる。
 本第一段階計画では約80~30万度の間変化するプラズマを放電開始後10~40マイクロ秒の間閉じ込めることができ、プラズマ発生初期の挙動について貴重な知見を得、制御条件を確定することができた。
 一方、保持に関しては外部回路を積極的に制御する必要が認められた。このため、第二段階において適切な規模の拡大と同時にパワークローバ、フィドバックなどによる外部条件の制御技術の開発にも充分な留意が必要である。
 また、逆磁場ピンチ・トーラス及び小型非円形断面スクリュー・ピンチ装置(TPE-1a)は軸対称性トーラスの高ベータ化を目指したものであるが、まだ評価の段階ではない。今後の成果を期待する。
 関連技術研究開発では分光測定の技術開発がまず第一にあげられる。この分光測定技術開発はJFT-2の電子温度測定、不純物測定に役立ち、高ベータプラズマ実験にも大きな貢献をなした。またECRH技術は主計画の遂行に寄与するなど、当初の三研究所間の研究協力の目的をよく果たしたと言える。クラスターイオン源は第一段階中は基礎研究にとどまったが、今後この線を推進するか否かについては慎重な検討を必要とするであろう。マイクロ波によるプラズマのゆらぎの測定についての充分な成果が得られなかったことは、この期間中に理化学研究所プラズマ研究施設の移転にもからまったことではあったが、残念であった。真空壁からのガス放出の実験は地道であるが、着実に研究成果を積み重ねてきたことは特記されるべきである。
 第一段階研究は多少の曲折はあったが基本計画の趣旨に沿って遂行され概ねその目標を達成した。これは我が国の科学者及び技術者の頭脳と努力が結集されかつ過去十数年間にわたる研究成果の蓄積がなされてきた結果であるといえる。
 今後もこの貴重な経験をもとに優秀な研究者を集中すれば大きな飛躍が期待される。


(2) 第二段階核融合研究開発のあり方

 科学技術庁関係の核融合研究は、第一段階においては主計画に重点的な資金の配分を行い、効率的な研究開発を実施し得たことは大きく評価されよう。
 第二段階の研究は第一段階の研究とは質的に異なるものである。第二段階の研究では工学的に装置を完成すること自体にひとつの重点が置かれることになり、また必然的に実験開始までの準備期間も長くなる。第一段階において比較的小人数の研究者グループによって遂行されたのに対し、第二段階の研究は非常に多岐にわたる科学者、技術者の結集された努力と貢献を必要とする。このため、組織の問題、全体としての計画管理、遂行に新しい心構えと工夫が必要である。さらに、第二段階は、今後20~30年の長期にわたる研究の本格的な研究開発の出発点となるものであり、人材養成についても長期的観点からその重要性が認識される必要がある。
 なお、これらの研究開発は、未踏の技術的問題に対処するものであり紆余曲折も予想されるので内外における科学技術の進展とその成果を充分考慮し、社会的要請の変化に対処して適宜見直しを行いつつ弾力的に推進する必要がある。
 これに関しては、昭和48年5月原子力委員会に核融合研究開発懇談会が設置され、今後の核融合研究の進め方について検討が進められてきた結果、昭和49年7月、その報告が出されている。これによれば、昭和51年度を目途として、核融合研究所の設立が提案されている。当運営会議としては、基本計画にいう核融合研究機関の一体化が適切な時期に実現されることを希望する。
 とくにこの第二段階の主要装置である臨界プラズマ試験装置は、非常に大きな敷地を要し、また、大容量受電及び冷却水を必要とするので、適切な用地の取得に努力することを要する。
 第二段階の主装置である臨界プラズマ試験装置はJFT-2に較べて数十倍もの多額の資金と多数の人員を要する巨大な装置である。したがって、JFT-2でやや大型の装置建設の試験を積んだといっても、この装置の建設にあたってはさらに新しい困難が出てくることと考えられる。
 そこで、このような大型の研究開発を効果的に進めるためにはプロジェクトの推進にあたって明確な責任体制と研究開発を総合的に統括する適切な組織運営体制を設ける必要がある。
 この組織の運営体制は、研究開発を企画し研究進捗状況を管理し研究成果を評価するとともに内外の動向を適確に把握して総合的見地から研究開発を弾力的に運営し得ることが必要である。
 さらに国としても本計画の重要性にかんがみ、計画の遂行にあたっては適切なる研究管理を行うため適宜学識経験者による検討組織を設けることが望ましい。
 また、核融合の研究開発は、我が国としては前例を見ない極めて長期にわたる大型研究開発である。
 従って、その遂行にあたっては、豊かな創造力を持ち、且つ大型のプロジェクト的研究に取り組む意欲と感覚を備えた若い人材を組織的に養成していく不断の努力が必要である。




あとがき


 第一段階核融合研究開発は一応の成功に終ったといえるが、次の段階に移るに際しては、その研究開発の規模が、金額的にも期間的にも組織的にも一段と増大し、その遂行の形態が質的にも変化したものになることをまづ充分に把握することが必要である。従来のあり方の単なる延長線で考えることはできない。
 まづ第一に、このような大規模な研究開発を行う必要については、国民的同意のもとに行われることが必要であり、わが国のエネルギー事情からこのような事業の必然性について少くも為政者の完全な合意と遠い将来に対する確固たる信念をかためることが前提である。こうして真の意味における国のプロジェクト(特別研究開発計画)として出発することが大切な条件である。
 全く新しい未踏の領域に率先して乗りこむという意味での大規模研究開発の経験は日本では残念ながらきわめて乏しい。従来国のプロジェクトとして遂行されてきたものは、多くの場合先進国における成功事例が既にあって、それに追随していくという形のものであった。失敗に終るかも知れないというリスクを、たとえそれがきわめて小さいものであるにせよ、敢えて冒かして巨額の研究開発投資を行うという性格の研究開発は、それを遂行するにあたって、従来とは異った態度が必要であることは明らかである。研究という性格と大規模の計画性と調和させることは、きわめて重要な条件である。研究段階には自由度の確保が肝要であるが一方大規模計画ではその遂行責任を全うするということが至上命令となる。明確な責任体制のもとに自由な研究開発を行うという理想を実現するためには慎重で透徹した思慮が必要である。
 第一段階の成功はもちろん今後のやり方に大きな自信を与えるものであるが、我々は、次の段階の課題が全く異った次元のものに移行することを自覚しなければならない。




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