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武蔵工業大学原子力研究所の原子炉の
設置変更について(答申)


50原委第382号
昭和50年7月29日

内閣総理大臣 殿

原子力委員会委員長



武蔵工業大学原子力研究所の原子炉の設置変更について(答申)



 昭和50年6月10日付け50原第5343号(昭和50年7月17日付け50原第6213号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。



① 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項において準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準のうち第1号、第2号および第3号については適合しているものと認める。

② 上記許可の基準第4号については、原子炉安全専門審査会による安全性に関する審査結果報告は別添のとおりであり、適合しているものと認める。



(別添)

昭和50年7月18日

原子力委員会
委員長 佐々木義武 殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄


武蔵工業大学原子力研究所の原子炉の設置変更に係る安全性について


 当審査会は昭和50年6月10日付け50原委第273号(昭和50年7月17日付け50原委第369号をもって一部補正)をもって審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。




Ⅰ 審査結果


 武蔵工業大学原子力研究所の原子炉の設置変更に関し、同大学が提出した「武蔵工業大学原子力研究所の原子炉設置変更許可申請書(熱中性子柱の構造変更及び照射室の新設)」(昭和50年6月3日付けで申請、昭和50年7月10日付けで一部補正)に基づき審査を行った結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。




Ⅱ 変更内容


1 実験設備の一部である熱中性子柱を、固定グラファイト部、固定枠部、及び中央移動部に分ける。

2 熱中性子柱の外側に照射室を新設する。

3 原子炉室内作業者の安全を確保するための、安全保護回路を追加する。




Ⅲ 審査内容


 本設置変更は、医療照射の技術的見通しを得るための実験を行うことが目的である。
 変更箇所は、原子炉タンクの外側に限られており、本変更が原子炉の核熱特性に影響を及ぼすことはない。


1 熱中性子柱の変更

 本変更は、熱中性子柱出口の熱中性子束を従来より大幅に上昇させると共に、γ線量を可能な限り低下させ線質を改良することが目的である。

(1) 固定グラファイト部
 固定グラファイト部は、従来からある熱中性子柱最奥部グラファイト層を残すものであり、問題となることはない。

(2) 固定枠部
 固定枠部は、炉心側からグラファイト、鉛、グラファイト、ポリエチレン、ボロン入りポリエチレン及び鉛の各層で構成される。これら各層のうち、中間部及び最外部の鉛層は、熱中性子柱壁に固定することになっているので地震等によって固定枠部が崩れるおそれはない。

(3) 中央移動部
 中央移動部は、熱中性子柱の中心軸に沿った幅約40cm、高さ約40cm、及び奥行約75cmの空洞である。
 中央移動部は、空洞、鉛、ビスマス、ポリエチレン、ボロン入りポリエチレン等の各層を、実験上の要請に従い、組合せて構成する。但し、中央移動部の炉心側は原則として空洞部とし、鉛やビスマス等の重量物は原子炉の生体遮蔽コンクリートの上部にのみ置くこととしている。また、空洞部に隣接する鉛又はビスマスの層は、地震等によっても重量物の層が炉心側に移動することのないよう、固定枠部で押えることになっている。
 以上の対策により、本変更が炉心に影響を及ばすおそれはない。


2 照射室の新設

 照射室の遮蔽設計については、照射室周辺における設計基準線量として、原子炉室の設計基準線量率2mrem/h(n+γ)と同じ値が採用される。
 遮蔽材としては、普通コンクリートから成る照射室壁及び天井並びにボロン入りポリエチレン板が用いられる。
 原子炉の生体遮蔽壁に入り込む構造であった熱中性子柱移動扉は、照射室壁位置まで移動される。
 照射室は、原子炉構造物のひとつとして、0.6Gの水平加速度に耐えられるよう設計することになっている。
 以上の対策により、照射室を新設しても原子炉室内作業者の安全は確保される。


3 安全保護系の追加

 照射室内及び原子炉室内における作業者の安全を確保するため、次のような安全保護系が追加される。

(1) 照射室内の安全確認スイッチが切られている場合は、制御棒の引抜きが阻止される。

(2) 照射室内外の放射線量率が異常に高い場合警報を発する。

(3) 照射室移動扉及び照射室出入口扉が開いている場合、並びに照射室内安全確認スイッチが切れている場合、制御室の表示灯が点灯する。

 以上の対策により、本設置変更が行われた後も
炉室内における作業者の安全は確保される。


4 放射性気体廃棄物の放出

 本設置変更に伴い熱中性子柱内外の空気層が増すため、41Arの生成量の増加が考えられるので、平常運転時における周辺環境への放出量を検討した。
 熱中性子柱内空洞部は、閉空間であって換気されないので環境への放出は無視し得る。照射室内空気は、中性子束が最高でも109n/cm2・sと考えられるのでこの値をもとに安全余裕をもって41Arの生成量を堆定した計算の結果、41Arの生成量は0.6mCi/hであって、施設全体の従来の放出率10.8mCi/hに対し、5.5%程度にすぎない。




Ⅳ 審査経過


 本審査会は、昭和50年6月16日の第138回審査会及び昭和50年7月18日の第139回審査会において審査を行い、本報告書を決定した。




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