前頁 |目次 |次頁

日本原子力発電株式会社敦賀発電所の原子炉の
設置変更(原子炉施設の変更)について(答申)


50原委第379号
昭和50年7月29日

内閣総理大臣殿

原子力委員会委員長


日本原子力発電株式会社敦賀発電所の原子炉の
設置変更(原子炉施設の変更)について(答申)



 昭和50年1月28日付け50原第381号(昭和50年7月17日付け50原第6276号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。


① 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項において準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準のうち第1号、第2号および第3号については適合しているものと認める。

② 上記許可の基準第4号については、原子炉安全専門審査会による安全性に関する審査結果報告は別添のとおりであり、適合しているものと認める。




(別添)

昭和50年7月18日

原子力委員会
委員長 佐々木 義武 殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄


日本原子力発電株式会社敦賀発電所の原子炉の
設置変更(原子炉施設の変更)に係る安全性について



 当審査会は、昭和50年1月28日付け50原委第32号(昭和50年7月17日付け50原委第367号をもって一部補正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告する。



Ⅰ 審査結果


 日本原子力発電株式会社敦賀発電所の原子炉の設置変更(原子炉施設の変更)に関し、同社が提出した「敦賀発電所原子炉設置変更許可申請書」(昭和50年1月16日付け申請、昭和50年7月14日付け一部補正)に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。




Ⅱ 変更内容


1 取替燃料集合体の変更

 従来、本原子炉においては、初装荷燃料及び取替燃料として、7×7型燃料集合体を用いることとなっていたが、今後、取替燃料については、8×8型燃料集合体を使用することに変更する。


2 熱的制限値等の変更

 燃料の健全性を確保するための熱的制限値のうち、最小限界熱流束比には変更はないが、8×8型燃料集合体の導入に伴い、燃料最高線出力密度、燃料集合体の平均濃縮度及び計画最高燃焼度に関して8×8型燃料集合体の値を追加する。

燃料最高線出力密度   0.57kW/cm(7×7)
0.44kW/cm(8×8)
平均濃縮度 第1炉心用燃料集合体 約2.2wt%(7×7)
取替燃料集合体 約2.5wt%(7×7)
約2.7wt%(8×8)
最高燃焼度 7×7型燃料集合体 約28,000MWd/t
8×8型燃料集合体 約30,000MWd/t


3 制御棒の自由落下速度の変更

 制御棒の自由落下速度を0.95m/s(従来は約1.5m/s)以下に変更する。


4 制御棒価値ミニマイザによる制御棒価値制限値の変更

 制御棒価値ミニマイザによって抑制される制御棒の最大価値を0.012Δk(従来は0.025Δk)以下に変更する。



Ⅲ 審査内容


1 8×8型燃料集合体の構造

 本燃料集合体は、General Electric社の設計である沸騰水型原子炉に従来から用いられている7×7型燃料集合体と混用できるようにその構造及び性能の設計がなされているものであり、その詳細は原子炉安全専門審査会が昭和49年12月25日に採択した「沸騰水型原子炉に用いられる8行8列型の燃料集合体について」(以下8×8型燃料検討報告書という。)に記載のものとほぼ同様である。
 本原子炉に用いる種類及び形状の燃料集合体の構造設計については、既に8×8型燃料検討報告書において評価が行われており、新たに問題はない。


2 核特性

 7×7型燃料集合体で構成される炉心に8×8型燃料集合体を順次装荷して行く過程で生ずる混合炉心及び8×8型燃料集合体のみから構成される平衡炉心において核特性が従来の7×7型燃料集合体炉心の場合から大きく逸脱することがないかについて、通常の燃料装荷方式による混合パターンでの検討を行った。
 その結果、局所ピーキング係数は、8×8型燃料集合体については1.22以下,7×7型燃料集合体については1.30以下の設計値が確保されること並びに燃料集合体の無限増倍率、反応度係数等は従来の7×7型燃料集合体の場合の特性と有意な差が生じないことを確認した。


3 熱水力特性

 核特性の検討の場合と同様に混合炉心及び平衡炉心の熱水力特性についての検討を行った。その結果、熱水力特性上の重要な特性値である最小限界熱流束比は、いずれの種類の燃料集合体についても定常状態では1.9以上が確保されることを確認した。


4 制御棒の自由落下速度

 本変更は、制御棒の自由落下速度として、従来用いられていた値1.5m/s以下を0.95m/s以下に変更しようとするものである。この値は、沸騰水型原子炉の制御棒装置を模擬した装置による実験結果に基づき、より実際に即し、かつ安全余裕をもった値であるので妥当である。


5 制御棒価値ミニマイザによる制御棒価値制限値
 本変更は、制御棒落下事故を想定した場合に炉心に与える影響を低減させるため落下制御棒の反応度価値の制限値を0.012Δk以下にしようとするものである。本原子炉の制御棒価値ミニマイザに従来より内蔵されている引抜き手順に基づき、実際に想定される炉心状態について解析した結果によれば、最大制御棒価値は常に0.010Δkを下回ることが確認されている。


6 安定性

 安定性についても混合炉心及び平衡炉心の安定性についての検討を行った。
 炉心の安定性に影響を及ぼす因子としての核特性及び熱水力特性は、7×7型及び8×8型いずれの燃料集合体を使用した場合でも大差なく、熱水力特性のうち二相流部圧力損失及び燃料伝熱時定数が多少異なるほかは8×8型燃料集合体の諸特性値は燃焼等に基づく7×7型燃料集合体の諸特性値の変動幅のなかに入っているかあるいは有意な差はない。したがって、炉心安定性及びプラント安定性は、混合炉心、平衡炉心のいずれにおいても問題となることはなく、かつ、キセノン空間振動についても本原子炉の有する出力係数との相関において十分抑制することが可能である。
 なお、混合炉心については、上述の検討結果から、安定性が損われる恐れはないと判断されるが、念のため、最初に8×8型燃料集合体を装荷した炉心において、制御棒による反応度外乱に対する中性子束の応答を調べ、7×7型燃料集合体炉心で得られている測定値との比較において炉心の安定性に影響を与えるような顕著な変化が生じないことを確認することになっている。


7 過渡現象解析

 8×8型燃料集合体を用いることによっても、前述のとおり核熱特性は従来の7×7型燃料集合体と大差がないため、過渡変化を想定しても、最小限界熱流束比が1.0以下とならないこと及び原子炉冷却材圧力バウンダリに加わる圧力が設計値の1.1倍(96.7kg/cm2g)を超えないという2つの基準は十分に満足される。すなわち、最小限界熱流束比が最も小さくなる過渡変化は再循環ポンプ電源の喪失であり、また、原子炉冷却材圧力バウンダリに加わる圧力が最も高くなるものはタービントリップ、バイパス弁不作動である。これらについて解析を行った結果、最小限界熱流束比は約1.4、最高原子炉圧力は約82kg/cm2gとなる。


8 事故解析

 本原子炉に取替燃料として8×8型燃料集合体を採用するにあたって炉心の安全確保上検討を要すると判断されるのは、制御棒落下事故、冷却材喪失事故、及び主蒸気管破断事故である。

8-1 制御棒落下事故
 解析に当って重要な入力値は落下制御棒の落下速度、印加反応度、及び各燃料集合体の局所ピーキング係数である。
 制御棒の落下速度としては、Ⅱ-3で述べた制御棒の自由落下速度0.95m/sを用い、また、落下制御棒の印加反応度については、実際に予想されるよりも保守的な落下制御棒価値曲線とⅡ-4で述べた制御棒価値ミニマイザによる制限値0.012Δkを用いた。なお、局所ピーキング係数としては、各種の燃料についても結果が厳しくなるように、1.3を用いた。これらの制限値と従来の経験から制御棒価値ミニマイザで抑制される制御棒の最大価値が0.010Δkを下回ることが確認されていること等から、仮に、最大価値を有する制御棒1本が炉心から落下するような事態が発生しても一次冷却材圧力バウンダリの健全性を損うほどの燃料の大破損に至ることはない。

8-2 冷却材喪失事故
 冷却材喪失事故時の炉心冷却について、昭和50年5月13日原子力委員会が承認した「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」に基づいて非ジェットポンプ型炉の特殊性を考慮して評価を行った。8×8型燃料集合体の燃料棒の最高線出力密度が7×7型燃料集合体より大幅に低下していることから、8×8型燃料集合体は7×7型燃料集合体と比較して熱的余裕が大きく、冷却材喪失事故事の炉心冷却に関する安全余裕も7×7型燃料集合体より大きい。燃料に対して最も厳しい結果を与える再循環系の最大口径配管1本の完全両端破断を想定した場合、上記指針に従い計算された燃料被覆管最高温度及び局所的酸化量が、それぞれの制限値である1200℃及び15%を上回らないように運転条件が定められることになっている。このような運転条件の下では燃料の大破損は防止でき、かつ長期的な炉心冷却を確保することができる。また、7×7型燃料集合体及び8×8型燃料集合体の構造及び性能から、混合炉心の場合でも上記のそれぞれの燃料ごとに定められる運転条件を変更する必要はないと判断する。

8-3 主蒸気管破断事故
 冷却材喪失事故の場合と同様に、8×8型燃料集合体は熱的余裕が増加しているために、従来の7×7型燃料集合体の場合と比較して主蒸気管破断事故時には余裕がある。
 主蒸気管1本の瞬時完全破断を想定して解析を行った結果でも、7×7型燃料集合体、8×8型燃料集合体のいずれについても最小限界熱流束比は約1.6以上であり、燃料の熱的余裕が十分確保されている。
 なお、上記の熱的余裕から判断して混合炉心の場合でも問題はない。




Ⅳ 審査経過


 本審査会は、昭和50年1月31日第133回審査会において次の委員よりなる第115部会を設置した。

(審査委員)  
青木 成文(部会長) 東京工業大学
秋山 守 東京大学(昭和50年4月14日就任)
望月 恵一 動力炉・核燃料開発事業団
(調査委員)  
石田 泰一 動力炉・核燃料開発事業団
大久保 忠恒 東京大学
佐藤 一男 日本原子力研究所

 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行うこととし、昭和50年2月14日第1回会合を開催して以来、審査を行ってきたが、昭和50年7月15日の部会において、部会報告書を決定し、同年7月18日の第139回審査会において本報告書を決定した。



前頁 |目次 |次頁