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日本原子力発電株式会社
東海第二発電所の原子炉の設置変更
(原子炉施設の変更)について(答申)


50原委第380号
昭和50年7月29日

内閣総理大臣 殿

原子力委員会委員長


日本原子力発電株式会社東海第二発電所の原子炉の
設置変更(原子炉施設の変更)について(答申)



 昭和49年9月9日付け49原第7971号(昭和50年7月17日付け50原第6275号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。

① 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項において準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準のうち第1号、第2号および第3号については適合しているものと認める。

② 上記許可の基準第4号については、原子炉安全専門審査会による安全性に関する審査結果報告は別添のとおりであり、適合しているものと認める。




(別添)

昭和50年7月18日

原子力委員会
委員長 佐々木義武殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄


日本原子力発電株式会社東海第二発電所の原子炉の設置変更(原子炉施設の変更)に係る安全性について
 当審査会は、昭和49年9月10日付け49原委第251号(昭和50年7月17日付け50原委第366号をもって一部補正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告する。




Ⅰ 審査結果


 日本原子力発電株式会社東海第二発電所の原子炉の設置変更に関し、同社が提出した「東海第二発電所原子炉設置変更許可申請書(昭和49年8月23日付け申請及び昭和50年7月14日付け一部補正)」に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。




Ⅱ 変更内容


1 燃料集合体

 本変更は従来の7×7型燃料集合体の代りに第1炉心から8×8型燃料集合体を採用することに係るものである。
 本変更に伴い熱的制限値のうち、通常運転時及び過渡時における最小限界熱流束比(以下MCHFRという。)には変更はないが、燃料最高線出力密度は第1表のように変更する。
 従来の7×7型燃料集合体の設計仕様と比較すると、燃料棒外径、ペレット外径、被覆管厚さ、ペレット被、覆管間隙は小さくなり、燃料の有効長さは若干増大し、それに伴いプレナム体積は多少減少する。
 また、主要な核的制限値のひとつである最大過剰増倍率を第1炉心について約0.13Δk(変更前0.12Δk)に変更する。さらに、従来の7×7型燃料集合体を装荷した炉心では、平均濃縮度が異なる2種類の燃料集合体(タイプⅠ、タイプⅡ)を使用したが、今回当該炉心では、燃料集合体の平均濃縮度はすべて同じになるように変更する。また、8×8型燃料集合体はウォーターロッドを有し、炉心内に一様に配列される。


第1表



2 制御設備

 制御棒が挿入される間隙は従来の7×7型燃料集合体炉心の場合に比べて僅かに減少する。それに伴い、制御棒の設計を第2表のように変更する。
 一方、解析の前提条件の面では、制御棒価値ミニマイザで抑制する制御棒の最大価値を0.015Δk(変更前0.025Δk)以下に変更する。さらに、制御棒の自由落下速度を約0.95m/s(変更前約1.5m/s)以下に変更する。制御棒駆動機構の設計としてスクラム時の90%挿入までに必要な平均時間を約5秒から約3.5秒に変更する。
 反応度制御容量は第1炉心及び平衡炉心において約0.18Δk(変更前約0.17Δk)に変更する。


第2表



3 可燃性ガス濃度制御系

 格納容器内ガス濃度制御系の一部として、従来から設けることになっている不活性ガス系に加えて、可燃性ガス濃度制御系を新設する。
 可燃性ガス濃度制御系は、ブロア、熱反応式水素・酸素再結合器、冷却器等から構成され、格納容器内雰囲気を約255Nm3/h処理できる容量を有する。
 本系統は、所要の能力を備えたもの2系統からなるとともにそれぞれが常用電源のほか非常用電源にも接続される。


4 原子炉建屋ガス処理系

 原子炉健屋ガス処理系として、非常用ガス再循環系を新設し、非常用ガス処理系の構成の一部を変更する。
 非常用ガス再循環系は、独立した2系統よりなり、約5時間で原子炉健屋内空気を100%循環することができる能力(再循環率約480%/d)をもつように設計される。この系は、湿分除去装置、電気加熱器、前置フィルタ、粒子用高効率フィルタ、よう素用チャコールフィルタ及び排風機等より構成される。この系のよう素除去効率は、90%以上(相対湿度80%以下において)となるように設計される。
 非常用ガス処理系が変更前の設計と異なる主要な点は、チャコールフィルタのベッド厚さが15cm(変更前5cm)に増加されること、並びに、湿分除去装置、前置フィルタ及び前段の粒子用高効率フィルタが除かれることである。


5 冷却材再循環系及び主蒸気系

(1) 逃がし安全弁
 逃がし安全弁は18個からなり、そのうち逃がし弁、(アクチュエータ付、以下同じ。)としての機能を兼ねるものを従来は12個としていたが、今回18個全数に逃がし弁としての機能を兼ねさせる。さらに逃がし安全弁の機能として従来のREVAB機能等に加えて急速逃がし弁機能を持たせる。
 また、安全弁及び逃がし弁としての設定圧力をそれぞれ下げる。

(2) 主蒸気隔離弁漏えい抑制系
 主蒸気隔離弁漏えい抑制系(以下MSIV-LCSという。)は、主蒸気系の一部として新設する。
 この系は、格納容器外側の主蒸気隔離弁(以下MSIVという。)の下流側に設置される主蒸気隔離弁漏えい抑制系止め弁(以下LCS止め弁という。)と、各MSIV間及びMSIVとLCS止め弁間からサプレッション・プールへ導く配管系並びに非常用ガス処理系へ導く配管系とから構成される。なお、本系統は、所要の能力を備えたもの2系統からなるとともに、それぞれが常用電源のほか非常用電源にも接続される。


6 中央制御室外原子炉停止装置

 中央制御室外原子炉停止装置を新設する。
 本装置は、中央制御室内にとどまることができない事態が発生した場合、あるいは中央制御室制御盤がその機能を喪失することになった場合に、原子炉をスクラム後の高温、高圧状態から冷温状態に安全かつ容易に導くために設置するものである。


7 燃料取扱系

 使用済燃料貯蔵プールの燃料貯蔵能力を炉心全装荷量の約140%(変更前約130%)に変更する。




Ⅲ 審査内容



1 炉心設計

(1) 燃料集合体の機械設計
 当該8×8型燃料集合体は、従来の7×7型燃料集合体と同様の形状及びより良好な性能の設計がされているものである。その詳細は、原子炉安全専門審査会が昭和49年12月25日に採択した「沸騰水型原子炉に用いられる8行8列型の燃料集合体について」(以下8×8型燃料検討報告書という。)にすでに記述されたとおりである。
 当該原子炉に用いる燃料集合体の機械設計について検討した結果、前述の8×8型燃料検討報告書と比較して、第3表に示すような若干の相違点があるが、その結果がそのまま適用できるものであり、特に問題はないと判断する。

第3表


(2) 熱水力特性
 8×8型燃料集合体炉心の熱水力特性を従来の7×7型燃料集合体炉心の場合と比較検討した。
 最高線出力密度については、8×8型燃料集合体内の燃料棒本数が7×7型燃料集合体の場合より増加しているため、同一出力を出すにあたって低い線出力密度でよいことになる。このため8×8型燃料集合体の標準設計として、通常運転時には、設計上の限界値を0.44kW/cmとしている。この値は中心溶融開始線出力密度(0.68kW/cm)に対し約35%の余裕があり、さらに燃料被覆管の損傷限界線出力密度(0.83kW/cm)に対し約45%の余裕があり、熱的余裕が著しく改善されている。MCHFRについては、通常運転時に1.9以上が確保される。
 また、水力特性については、当該炉心では、従来の7×7型燃料集合体と比較して、圧力損失が若干増大しているが、炉心定格流量は十分確保でき、特に問題はないと判断する。

(3) 核特性
 熱水力特性と同様に従来の7×7型燃料集合体炉心と比較検討した。
 当該炉心と従来炉心とを比較した場合、炉心格子構造、燃料集合体の平均濃縮度、ガドリニア含有燃料棒本数、ガドリニア混合比及び局所ピーキング係数等には相違はあるが、8×8型燃料集合体炉心の無限増倍率、反応度係数等の核特性については、従来の7×7型燃料集合体炉心の場合と有意な差は生じないことを確認した。
 制御棒価値ミニマイザの設計基準を0.015Δkと変更したが、実際の引抜き手順に従って、制御棒を引抜く場合の制御棒の最大価値は、炉心寿命中0.010Δkを下回り、前述の基準を満足していることを確認した。
 さらに制御棒のステンレス・シース厚さ及びホロン・カーバイド粉末を充てんしたステンレス鋼管本数等、構造上若干の変更があるが、制御能力を低下させることなく停止余裕は十分確保されると判断する。

(4) 動特性
 8×8型燃料集合体炉心の動特性に影響を及ぼす因子として、熱水力特性、核特性等が考えられる。
 7×7型及び8×8型燃料集合体では、炉心圧力損失、伝熱時定数、反応度係数等が若干異なるが、動特性上は、ほとんど有意な差はない。
 つまり、炉心安定性及びチャンネル安定性では、減幅比に関する8×8型燃料集合体炉心の解析結果は特に問題となることはなく、プラント安定性でも外乱を与えて解析した結果は、十分な減衰特性を持っている。キセノンの空間振動の安定性解析では、出力係数が十分負側に位置し、空間振動を十分抑制することができる範囲に入っていることを確認した。
 したがって、当該原子炉では出力の発散振動及び大幅な持続振動が生ずることはないので、動特性上の問題はないと判断する。


2 可燃性ガス濃度制御系

 本変更は、可燃性ガスの発生源として冷却材喪失事故後非常用冷却水の放射線分解をも考慮し、これらの可燃性ガスの格納容器内における濃度を、十分な余裕をもって制御するために可燃性ガス濃度制御系を設けるものである。
 本系統は、想定した冷却材喪失事故が発生した後も、格納容器内雰囲気中の水素波度を4vol%以下に維持するか、又は酸素濃度を5vol%以下に維持するように設計される。水素と酸素の燃焼限界に関する各種の実験結果によれば、水素又は酸素ガス濃度のいずれか一方が前述の制限値以下に維持されるなら、燃焼反応は生じない。
 本系統の可燃性ガス制御容量を定めるにあたっては、十分な安全余裕をもった前提条件が用いられている。水の射放線吸収量に対する水素ガス及び酸素ガスの発生割合としてはG(H2)=0.5(分子/100eV)及びG(O2)=0.25(分子/100eV)が用いられているが、この値は水の放射線分解に関する各種の実験結果からみて十分な安全余裕をもったものである。
 これらの条件をもとに、冷却材喪失事故後における格納容器内可燃性ガス濃度の時間変化を解析した結果によれば本系統は、既設の不活性ガス系と相まって格納容器内の可燃性ガス濃度を制限値以下に抑制できる。
 なお、再結合器の耐熱性についても検討した結果、本装置の使用温度では、特に支障をきたすおそれはない。
 したがって、本系統の設計は妥当であると判断する。


3 原子炉建屋ガス処理系

 本変更は、原子炉建屋内の放射性物質濃度が高くなるような事故時に原子炉建屋から放射性物質の外部に放出される量を低減することを目的としてなされるものである。
 すなわち、冷却材喪失事故、燃料取扱事故等の場合には常用換気系を閉鎖し、非常用ガス処理系で原子炉建屋を負圧に保ちながら原子炉建屋内の汚染空気を非常用ガス再循環系により再循環させつつ放射性物質の一部を除去するとともに、その汚染空気の一部を非常用ガス処理系を通すことにより放射性物質をさらに除去する。
 非常用ガス再循環系のよう素用チャコールフィルタは、よう素除去効率が90%以上(相対湿度80%以下において)となるように、また、粒子用高効率フィルタは、よう素用チャコールフィルタの前後に各1段ずつ設けられ、1段で固体状核分裂生成物を99%以上除去できるように設計される。非常用ガス処理系のよう素の除去効率及び固体状核分裂生成物除去効率等の性能は、変更前と同様である。
 チャコールフィルタのよう素除去効率が、ベッド厚さを増加させることにより向上することは、無機よう素及び有機よう素を用いて行われた種々の実験結果により証明されている。また、温度及び湿度を種々に変化させた実験結果等からみて、設計条件において、無機よう素及び有機よう素に対する除去効率をチャコールフィルタのベッド厚さ5cmの場合90%以上、15cmの場合97%以上とすることは妥当である。
 チャコールベッド厚さが5cm以上の場合、連続使用によるよう素除去効率の低下はごく僅かであり、本装置の使用条件から除去効率の経年変化は無視できる。さらに、よう素用チャコールフィルタを溶接シール式とすることによって、流入汚染空気がチャコールベッドをバイパスすることを確実に防止することができる。
 なお、非常用ガス処理系において湿分除去装置、前置フィルタ及び前段の粒子用高効率フィルタが除かれるが、非常用ガス再循環系に、湿分除去装置、粒子用高効率フィルタ等が設けられているので、変更前と同様の機能を発揮することができる。
 したがって、原子炉建屋ガス処理系は、前記した目的を達成することができるものと判断する。
 また、災害評価で使用する原子炉建屋ガス処理系のよう素除去効率は、余裕があるものと判断する。


4 冷却材再循環系及び主蒸気系

(1) 逃がし安全弁
 逃がし安全弁は、格納容器内の主蒸気管に取付けられ原子炉圧力が異常に上昇した場合にサプレッション・プールに蒸気を吹き出すようになっている。
 今回の逃がし安全弁に対する機能及び設定圧力の変更は①スクラム反応度曲線の変更、②主蒸気隔離弁閉鎖特性の変更、③8×8型燃料導入による定数変化及び④主蒸気管体積の再評価に伴ってなされたものであり、原子炉の出力運転中にタービン・トリップ等が起こった場合にこれらを検出して逃がし安全弁を開放し、蒸気をサプレッション・プールに放出して、原子炉の過度の圧力上昇と燃料の表面熱流速の過度の増加を抑制するようにしたものである。
 本変更に基づいて行われた過度変化の解析の結果は、いずれも原子炉系の安全性に影響を及ぼすものではない。
 したがって、本変更は支障ないと判断する。

(2) 主蒸気隔離弁漏えい抑制系
 本系統設置の目的は、主蒸気管破断事故があった場合に、破断口から周辺環境に放散される放射性物質の量をできるだけ低く抑えようとするものである。
 事故時においては、サプレッション・プールへの配管系を手動で作動させ、MSIVからの漏えい蒸気をサプレッション・プール水中へ導き、プール水中で凝縮させることによって、破断口から漏れ出る蒸気量を低減することができる。また、非常用ガス処理系への配管系は、原子炉圧力が低い場合で、漏えい蒸気をサプレッション・プールへ十分に導けないような場合の後備設備として設置され、漏えい蒸気を非常用ガス処理系に導くことによって周辺環境に放出される放射性物質の量を低減することができる。
 本系統の設計目標は、LCS止め弁の下流において主蒸気管1本の破断を想定した場合において、MSIV又はMSIV-LCSに対して単一動的機器の故障を仮定し、かつ各弁の個々の漏えい率を約40%/d(逃がし安全弁最低設定圧力において原子炉圧力容器蒸気相の体積に対し、飽和蒸気で)とした場合でも全LCS止め弁からの漏えい率を合計で10%/d以下にすることである。計算結果によると、主蒸気系からの漏えい率は8.4%/dを超えることはなく、設計目標を達成している。
 なお、非常用ガス処理系に漏えい蒸気を導いた場合でも非常用ガス処理系の性能は阻害されない。
 本系統は、工学的安全施設として設計されるが、それとともに耐震設計上格納容器外側のMS-IVからLCS止め弁を含むところまで(但し、分岐配管については第1弁までを含む)の設備は基盤における最大加速度270galの地震動に対してもその機能を保持することとしている。
 以上によってMSIV-LCSの性能は十分保証されるものと判断する。


5 中央制御室外原子炉停止装置

 本装置は、中央制御室の火災等の緊急時にあたって原子炉冷却操作の容易さを増すものであり、本装置盤上に設けられた切換スイッチを切換えることにより、中央制御室内で制御回路の短絡、断線あるいは地絡等とは無関係に、①一部の逃がし安全弁の制御、②原子炉隔離時冷却系の制御及び③残留熱除去系の1系統の制御が可能である。
 なお、本装置は誤操作防止等のため常時は施錠等の防護策を講ずることとしている。
 本装置を設置することは安全上妥当なものと判断する。


6 燃料取扱系

 使用済燃料貯蔵プール中の燃料貯蔵ラックを、従来の50ラックから54ラックにする。これは、燃料設計の変更に伴い燃料取替計画に若干の変更を生じ、従来初期燃料取替の割合を全炉心分の約27%としていたものを、今回約35%としたためである。
 今回の変更は、従来からの使用済燃料貯蔵プールの基本的な設計方針を変えるものではなく、安全上支障ないものと判断する


7 過渡現象及び事故解析

(1) 過渡現象解析
 当該施設において、種々の異常な過渡状態を想定して燃料被覆管の損傷限界(MCHFR=1.0)に至らないこと、及び原子炉冷却材圧力バウンダリ圧力が設計圧力の最低値の1.1倍(96.7kg/cm2g)を超えないことを確認した。
 当該施設では、8×8型燃料集合体の導入による定数変化は、7×7型燃料集合体の場合と比較して核・熱・水力過渡特性に大きな相違を与えてはいない。また、解析方法、前提条件は現時点における適切な知見に基づき、従来にくらべて若干変更しているが、いかなる場合でも記述した基準を十分満足している。
 すなわち、最も厳しい解析結果を示すMCHFRの最小値は従来の7×7型燃料集合体の場合、再循環ポンプ1台軸固着時で約1.3秒後に約1.1であったが、今回の場合も同じく約1.3秒後に約1.1である。一方、原子炉最高圧力(原子炉底部)は、従来高出力運転時のタービントリップ、バイパス弁不作動時で約2秒後に85.1kg/cm2gであったが、今回の場合、全主蒸気隔離弁の閉鎖時で約2.5秒後に82.3kg/cm2gである。

(2) 事故解析
 8×8型燃料集合体の燃料棒の最高線出力密度が7×7型燃料集合体より大幅に低下していることから8×8型燃料集合体炉心の熱的余裕は、7×7型燃料集合体炉心の場合より大きくなっている。その他の特性については、Ⅲ.1.(2)熱水力特性及びⅢ.1.(3)核特性で述べたように、8×8型燃料集合体炉心と、7×7型燃料集合体炉心とで、大差がない。
 今回燃料の変更とともに解析方法及び前提条件にも各種の変更があったので、これらも含めて万一の事故を想定した場合、発電所からの放出放射能が十分小さいことを確認するため以下のような事故解析を行った。

① 制御棒落下事故
 本解析を行うに際しての主要な入力値は、制御棒の落下速度及び落下制御棒の印加反応度である。
 本解析においては、従来と異なった次の値を採用している。
 制御棒落下速度は、Ⅱ.2制御設備で述べた制御棒の自由落下速度0.95m/sとする。この値は、沸騰水型原子炉の制御棒装置を模擬した実験結果に安全余裕を加味したものである。したがって、この値を採用することは、妥当である。
 落下制御棒の印加反応度については、厳しい結果を与える条件として、炉心の寿命初期冷温状態及び寿命末期高温待機状態について解析した反応度曲線、並びに制御棒価値ミニマイザによる制限値である0.015Δkの反応度価値を用いる。
 反応度曲線については特に安全余裕を持たせていないが落下制御棒の反応度価値は、Ⅲ.1.(3)核特性で述べたようにかなりの安全余裕が見込まれているので、印加反応度として、上述の反応度曲線及び落下制御棒の反応度価値を用いることは妥当である。
 その他にも、スクラム制御棒の全反応度価値及び炉心挿入速度、局所ピーキング係数等に変更があるがこれらは、いずれも従来より詳細な解析及び評価の結果に基づいて変更されたもので、妥当である。
 これらの条件を基に、最大価値を有する制御棒1本が炉心から落下する事故を想定して解析した結果、一次冷却材圧力バウンダリの健全性は十分に維持される。

② 制御棒逸出事故
 制御棒逸出事故は、制御棒駆動機構のフランジ又はハウジングの破損を想定した場合の事故である。
 制御棒駆動機構に変更はなく、評価の結果は変らない。

③ 燃料取扱事故
 本申請では、燃料集合体が、炉心上で最も高い位置から落下し、炉心内燃料集合体と非弾性衝突をしたと想定した場合について解析している。
 この場合、水の抵抗によるエネルギ吸収は無視して、落下エネルギ全量が衝突体及び被衝突体に吸収されるという苛酷な条件を仮定しても、環境に放出される放射能は少なく、問題とならない。

④ 冷却材喪失事故
 8×8型燃料集合体は、7×7型燃料集合体に比較して熱的余裕が大きいことから、冷却材喪失事故時の炉心冷却に関する8×8型燃料集合体の安全余裕は7×7型燃料集合体よりも大きい。
 冷却材喪失事故時の炉心冷却についての解析は、従来は、暫定的に定められた評価指針に基づいて行われていたが、今回は、昭和50年5月13日に原子力委員会が承認した「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」に基づいて行っている。
 燃料に対して最も厳しい結果を与える再循環系の最大口径配管1本の完全両端破断(以下大破断という。)を想定した場合について解析した結果によれば、燃料被覆管最高温度が約886℃、燃料被覆管が局所的に酸化される部分の最大値は被覆管厚さの0.3%である。水-ジルコニウム反応割合は全燃料被覆管のジルコニウムの約0.04%にすぎない、また、燃料被覆管の破裂は生じない。
 なお、大破断による冷却材唱失事故を想定した場合の格納容器内の最大圧力については7×7型燃料集合体から8×8型燃料集合体に変更しても変らないことを確認した。
 さらに、大破断を想定した場合の非常用冷却水の放射線分解に伴う格納容器内の可燃性ガス濃度の変化について解析している。この結果によれば、放射線分解による水素、酸素ガスの発生量を十分大きく見積って評価しても、可燃性ガス濃度制御系により、格納容器内の水素、酸素ガス濃度は制限値に達しない。

⑤ 主蒸気管破断事故
 冷却材喪失事故の場合と同様、主蒸気管破断事故についても8×8型燃料集合体は7×7型燃料集合体より熱的余裕が大きい。
 主蒸気管1本の瞬時完全破断を想定して解析した場合でも、事故期間を通じて、MCHFRが1.0以下となることはなく、燃料被覆管に損傷が生じるおそれはない。



8 災害評価

 原子炉建屋ガス処理系の変更に伴い、各種安全防護施設との関連において立地条件の適否を判断するために「原子炉立地審査指針」に基づいて重大事故及び仮想事故を想定し、これらの場合の冷却材喪失事故について災害評価を行った。
 解析条件として、原子炉建屋ガス処理系の再循環率及び換気率を、前述の480%/d、100%/dとし、よう素の除去効率は、非常用ガス再循環系において80%、この系と非常用ガス処理系を直列に通るものについて90%とする。他の解析条件は、変更前と同様のものとする。
 解析の結果、大気中に放出される核分裂生成物の量は、重大事故においてよう素約1.4×102Ci(I-131等価量以下同じ)、希ガス約1.4×104Ci(γ線実効エネルギ0.5MeV換算値、以下同じ)、仮想事故においてよう素約7.1×103Ci、希ガス約7.0×105Ciとなり、非居住区域境界の外側において被ばく線量が最大となるのは原子炉設置位置の西北西側約540m(非常用ガス処理系排気筒の西北西側約600m)の地点であって、その被ばく線量は、重大事故の場合、甲状腺(小児)に対し約1.2rem、全身に対しγ線約0.0096rem(β線約0.024rem)、仮想事故の場合、甲状腺(成人)に対し約15rem、全身に対しγ線約0.49rem(β線約1.7rem)となる。
 これらの被ばく線量は、「原子炉立地審査指針」に示されるめやすとしての線量を十分下まわるものである。
 また、主蒸気管破断事故については、主蒸気隔離弁漏えい抑制系が、この事故のさいに主蒸気中の放射性物質が環境へ放出されることを低減するために新設されており、その効果も期待できるが、今回災害評価を行うに当たっては、保守的にその効果を無視した。
 したがって、放射性物質の放出量及び被ばく線量は従来と変らない。
 さらに、本変更に伴って国民遺伝線量を評価するため、仮想事故のさいの全身被ばく線量について検討した。
 この結果、全身被ばく線量の積算値が最大となるのは、冷却材喪失事故の場合であって、その値は、1970年の人口に対して約16万man-remであり、将来の人口増加を見込んでも約20万man-remであって、これらの値は、「原子炉立地審査指針」に国民遺伝線量の見地からめやすとして示されている参考値を十分下まわるものである。



Ⅳ 審査経過


 当審査会は、昭和49年9月24日第129回審査会において、次の委員からなる第112部会を設置した。

(審査委員)  
竹越 尹(部会長) 電力中央研究所
武谷 清昭 日本原子力研究所
西脇 一郎 宇都宮大学
渡辺 博信 放射線医学総合研究所
(調査委員)  
斯波 正諠 日本原子力研究所
宮園 昭八郎 日本原子力研究所
吉田 芳和 日本原子力研究所


 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行うこととし、昭和49年10月5日に第1回部会を開催した。
 以後、部会及び審査会は審査を行ってきたが、昭和50年7月14日の部会において、部会報告書を決定し、同年7月18日第139回審査会において本報告書を決定した。



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