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核融合研究開発の推進について


昭和50年7月31日
原子力委員会


 制御熱核融合(以下「核融合」という。)は人類にとって究極のエネルギー源といわれており、諸外国においても核融合動力炉の実現を目指した研究開発が国家的課題として積極的に推進されているが、とくにエネルギー資源に恵まれない我が国としては、長期的展望にたって将来に備え国民的合意のもとにこの研究開発を推進する必要がある。
 核融合研究開発については、原子力特定総合研究に指定し、昭和43年7月に策定した「核融合研究開発基本計画」に基づき、昭和44年度から昭和49年度までの間第一段階の研究開発を実施した。
 この研究開発の成果をふまえ、かつ昭和48年5月当委員会が設置した「核融合研究開発懇談会」が昨年7月とりまとめた報告の趣旨に沿って検討した結果、第二段階の研究開発は昭和50年度から以下の長期的展望及び方針に基づき推進するものとする。


1 第一段階の研究開発は、数百万度台のプラズマを安定に閉じ込めることを主な目標として、日本原子力研究所、理化学研究所及び電子技術総合研究所が有機的連携のもとに分担して実施した。この研究開発の過程において、日本原子力研究所のトカマク型実験装置によりプラズマの安定な閉じ込めについて国際的に評価される優れた成果を収めるなど、各分野で多大な成果を挙げ、所期の目標を達成した。この間、大学等においても世界的水準の研究成果を挙げるなど、各方面にわたるこれらの活動が積極的に推進された。
 この結果、我が国としてさらに進んだ段階の研究開発に移行し得る基盤が固められたと判断される。


2 核融合研究開発の重要性にかんがみ、かかる第一段階の成果をふまえ、当委員会としては、今世紀末ないし来世紀初頭に核融合動力炉を実現することを究極の目標とし、そこに至るまでの研究開発目標を段階的に設定し、これを目指した研究開発を国として強力に推進すべきであると考える。
 今後の研究開発の進め方としては、第二段階の研究開発計画として、昭和50年代に臨界プラズマ条件を達成することを目的とする臨界プラズマ試験装置の開発を行うこととし、この成果を見て核融合動力実験炉、核融合動力炉の開発を順次進めて行くこととするのが妥当であると考える。
 なお、この研究開発が未踏の技術的問題を多々含むものであるため、研究開発の進め方についても内外における科学技術の進展とその成果を十分考慮しつつ、また、社会的要請の変化及び環境への影響にも常に留意して適宜チェック・アンド・レビューを行いつつ、弾力的に進めることとする。


3 昭和50年度より開始する第二段階の研究開発においては、核融合動力炉実現の大前提である臨界プラズマ条件の達成を目指し、その方策として最も有望視されているトカマク型実験装置を選択し、これに関する研究開発に重点をおいて実施するものとする。さらに、高ベータ・プラズマの挙動解明を目的とした研究等の炉心プラズマ技術に関する研究開発を進めるとともに、昭和60年代に核融合動力実験炉を建設することを目途に、これに必要な炉心工学技術及び炉工学技術のうち、長期の研究開発を要する技術、基盤的技術その他の必要な技術について研究開発を進めるものとする。
 この第二段階の研究開発は、第一段階と比べ飛躍的に高度化、大型化されたものであり、その重要性にかんがみ、原子力特別研究開発計画とし、別に定める「第二段階核融合研究開発基本計画」に基づき推進を図るものとする。


4 一方、核融合研究開発の内外の現状を考えると、第二段階の研究開発を成功させ、さらに究極目標である核融合動力炉を早期に実現させるためにも、種々の型式による核融合反応実現の可能性の探求及び広範な基礎研究等が行われることが極めて重要であり、これらについて大学、国立試験研究機関等において積極的に推進される必要がある。
 これら大学等における研究と上記基本計画に基づく研究開発とは相互補完的関係にあるので、今後の核融合研究開発の推進にあたっては、これら各分野における研究活動の間の緊密な連携を保ちつつ我が国として実質上、一元的に推進させることが肝要である。当委員会としては、核融合研究開発の総合的かつ効果的な推進に資するため、大学側の協力を得て関係方面の英知を結集した核融合会議を設け、連携協力の促進を図るとともに上記基本計画の推進方策に関する調査審議を行うものとする。(これに伴い、既存の核融合研究運営会議及び核融合研究連絡会議は廃止する。)


5 第二段階の研究開発の実施にあたっては、十分な資金及び優秀な人材の確保を必要とするとともに、これらが活躍できる組織機構及び研究環境の拡充整備が必要である。反面これらについては多額の国家資金を要するので、資金の効率的な運用を図るため、不断の検討を加えつつ国情に応じた開発を図ることとする。
 なお、組織機構及び研究環境の拡充整備については、今後引き続き関係方面の協力により進めることとするが、これと併行して、核融合研究開発懇談会の提起した新研究所の設置問題も含め長期的展望にたった研究開発体制のあり方について当委員会を中心に鋭意検討を進めるものとする。
 これらの研究開発の基本である研究者の養成については、研究開発実施機関がこれに努めるとともに、大学においても活発に行われることを期待する。
 民間企業には、この研究開発の遂行に対し積極的な協力を期待する。
 また、研究開発の効率的遂行を図るため、その実施にあたり、各国との国際協力に十分配慮するものとする。




第二段階核融合研究開発基本計画

昭和50年7月31日
原子力委員会



 第二段階の核融合研究開発は、次に示す基本計画に基づき実施するものとする。


1 研究開発の目標

 第二段階の研究開発は、核融合動力炉実現の前提となる臨界プラズマ条件の達成を目指した核融合炉心プラズマ技術の研究開発に重点を置いて進めることとし、内外における研究開発の成果をふまえ、トカマク型の臨界プラズマ試験装置を開発することを目標とする。さらに、核融合動力実験炉の開発等に必要な核融合炉心プラズマ技術、核融合炉心工学技術及び核融合炉工学技術について、研究に長期間を要する技術、基盤的技術その他の必要な技術に関する研究開発を行い、第三段階以降の研究開発に反映させることを目標とする。


2 研究開発の内容

 研究開発の内容は、次のとおりとする。

(1) 核融合炉心プラズマ技術

(ⅰ) 臨界プラズマ試験装置に関する研究開発
 臨界プラズマ条件、温度数千万度から1億度程度、プラズマ密度と閉じ込め時間の積2~6×1013cm-3秒程度を目標とし、水素又は重水素プラズマを用いた臨界プラズマ試験装置の設計、製作及び機能確認実験を行う。また、臨界プラズマ条件達成に必須な理論解析、計算機実験、加熱技術、不純物対策等に関する研究開発を行う。

(ⅱ) 中間ベータ値トーラス装置(JFT-2)に関する研究開発
 JFT-2によりプラズマのエネルギー平衡、安定性等の解明を目的とする実験研究を行った後、同装置により高エネルギー中性粒子入射等の加熱技術の研究開発を行う。

(ⅲ) 非円形断面トーラス磁場装置に関する研究開発
 プラズマ安定化等に及ぼす非円形断面の効果及びプラズマ中の不純物の除去を目的としたダイバータ効果について知見を得るため、高安定化磁場試験装置(JFT-2a)に引き続き、トカマク型の非円形断面トーラス試験装置によりプラズマ温度一千万度程度を対象とする研究開発を行う。

(ⅳ) 高ベータ・プラズマに関する研究開発
 高ベータ・トーラス系装置による研究開発については、高ベータ・プラズマの挙動解明を目的とし、同装置によりプラズマ温度一千万度までを対象として行う。

(ⅴ) 診断技術に関する研究
 高温、高密度のプラズマの診断技術に関する研究を行う。


(2) 核融合炉心工学技術及び核融合炉工学技術

(ⅰ) 核融合炉心工学技術の研究開発
 大容積炉心プラズマの生成、制御技術の開発に備え、実験炉炉心モックアップ試験のための準備的研究を行うとともに、動的真空技術に関する研究を行う。

(ⅱ) 核融合炉工学技術の研究開発
 核融合動力実験炉を目指し、核融合炉のシステム解析、炉物理に関する研究、材料の照射損傷等に関する研究、材料の共存性に関する研究、トリチウムの生産・回収に関する研究、伝熱流動に関する研究、安全性に関する研究及び核データの整備を行う。


3 研究開発の実施分担

 研究開発は、当面次の分担により実施するものとする。
 主要計画であるトカマク型装置を用いた核融合炉心プラズマ技術の研究開発及び核融合炉心工学・炉工学技術の中核的研究開発については日本原子力研究所において実施する。また、高ベータ・プラズマに関する研究開発、診断技術、真空技術に関する基礎的研究、材料に関する基礎的研究等については、電子技術総合研究所、理化学研究所、金属材料技術研究所等において分担して実施する。


4 第二段階の研究開発は、昭和50年度から開始し昭和50年代中頃に完了することを一応の目途に研究開発を進めるものとし、臨界プラズマ試験装置の完成の段階で計画の見直しを行う。




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