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「線量目標値」についての解説




昭和50年5月13日
科学技術庁原子力局

 今回原子力委員会が設定した「線量目標値」の性格については、指針の中にも明らかにされているところですが、理解を容易にするため、若干の補足的説明を次に述べます。


1. 線量目標値は、法的規制値である「許容被曝線量」等を変更するものではありません。

 すなわち、放射線による障害については、高線量の被曝に関しては因果関係が明らかにされているものが少なくありませんが、低線量の被曝に関しては障害の発生がないか、又は、その発生頻度が小さいため、因果関係が明らかにされていません。しかし、放射線防護上は、高線量の被曝の場合にみられる障害発生の頻度と被曝量との間の直線的関係が、障害の発生の可能性の少ない低線量の被曝についてもあるものと仮定して対策をとるべきであるという厳しい考え方がとられています。
 法令により定められている放射線被曝の許容量(例えば、公衆についての全身被曝線量500ミリレム/年)は、このような厳しい考え方に立った国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告値がもととなっているのであって、この許容量以下であれば、放射線による障害は、発生するとしてもその可能性は極めて小さく社会的に容認し得る程度のものと考えられているのです。現在のところこの許容量を変更しなければならないような事情は生じておりません。

2. 「線量目標値」は、発電用軽水炉を設置し運転する者に、環境への放射性物質の放出をできるだけ少なくする努力を進めさせるための定量的な目標です。

 すなわち、いわゆる公害といわれる騒音その他人工的な現象による環境への影響はできるだけ少なくすることが望まれますが、人工的な放射性物質の環境への放出もできれば少ないにこしたことはありません。更に、前述のように、放射線防護上底線量の被曝について厳しい考え方に立ってみれば被曝量は少なければ少ないほど望ましいことであり、また、現代社会においては医療をはじめとして、各種の放射線を被曝する機会が多いことなどを考えれば、個々の原子力利用施設において法的規制値以下であることをもって足りるとせず、低減が行えるところでは積極的に低減の努力が払われるべきであります。この低減の努力については、抽象的な考え方を示すだけではなく、定量的な目標を示すことによって、その実行を一段と推進することとしたものです。

3. 「線量目標値」として示された「被曝線量」は、放射線障害の可能性の点から定められたものではなく、その実現の難易度を評価し努力目標値としての妥当性を判断して定められたものです。

 すなわち、2で述べた定量的目標の表わし方としては、幾つかの指標が考えられるのですが、今回の決定に際しては、周辺公衆の被曝線量を指標として採用しました。しかし、その目標値としての被曝線量の決定に際しては、被曝線量と障害との直線的関係から障害発生の可能性をどこまで低減するかという観点から検討したものではなく、発電用軽水炉施設のこれまでの設計、運転の経験からみての実現可能性の難易度の評価に基づいて定められたものです。これが「as low as practicable」の考え方に沿ったものでもあるのです。なお、実現可能性の難易度については、原子力発電を推進しなければならない我が国のエネルギー事情にかんがみ、国民の原子力発電に対する理解と協力を得るため、特に厳しい立場に立って評価した結果、国際放射線防護委員会が公衆の個人に対して勧告している線量限度の1/100に、また、自然放射線による被曝線量の約5/100に相当する低い値になったのです。

4. 「線量目標値」が達成されない状態で量れば改善の余地があるものとみなし放出方法や設備の改善が要請されますが、直引こ運転を止めなければならないという性質のものではありません。

 すなわち、「線量目標値」の設定は、前述のように、放射線障害防止上の法令による規制値を変更するものではなく、また、「線量目標値」は「被曝線量」と「放射線障審」との関係から定められたものでもありませんから、線量目標値が達成されないからといって安全上支障があると考えるべき性格のものではないのです。
「線量目標値」が達成されない場合、それは、施設の設計、運転又は放射性物質の放出管理等において、改善すべき余地があると考えられるので、改善のための一層の努力が要請されることになるのです。
 したがって、それらの改善を速やかに行うことが必要となります。

5. 今回決定した線量目標値は、発電用軽水炉施設に関するものであって、他の原子力施設については、別途必要に応じ、各々の実現可能性の難易度をもとに設定されるべきものです。

 すなわち、「線量目標値」の決定には、前述のように実現可能性の難易度が大きな比重を占めているのです。今回決定した線量目標値は、発電用軽水炉施設についての実現可能性の難易度をもとに定められたものですから、他の原子力施設について適用するものではありません。各々について線量目標値を設定する必要が出てくれば、別途に実現可能性の難易度等について検討される必要があるのです。
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