50原委第165号
昭和50年4月25日 |
内閣総理大臣 殿 |
原子力委員会委員長 |
東京電力株式会社福島第一原子力発電所の原子炉の設置変更(1号原子炉施設の変更)について(答申)
|
昭和49年5月21日付け49原第4659号(昭和50年4月14日付け50原第2966号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。 |
記 |
① 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項において準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準のうち第1号、第2号および第3号については適合しているものと認める。
② 上記許可の基準第4号については、原子炉安全専門審査会による安全性に関する審査結果報告は別添のとおりであり、適合しているものと認める。 |
(別添) |
昭和50年4月15日 |
原子力委員会 |
委員長 佐々木義武 殿 |
原子炉安全専門審査会 |
会長 内田 秀雄
|
東京電力株式会社福島第一原子力発電所の原子炉の設置変更(1号原子炉施設の変更)に係る安全性について
|
当審査会は、昭和49年5月21日付け、49原委第142号(昭和50年4月14日付け50原委第157号をもって一部補正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告する。 |
Ⅰ 審査結果
東京電力株式会社福島第一原子力発電所の原子炉の設置変更に関し、同会社が提出した「福島第一原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(昭和49年5月14日付け申請および昭和50年4月9日付け一部補正)」等に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。 |
Ⅱ 変更内容
1. 取替燃料集合体の変更
従来、本原子炉においては、初装荷燃料及び取替燃料は、7×7型燃料集合体を用いることとなっていたが、今後取替燃料については、8×8型燃料集合体を使用することに変更するものである。
2. 熱的制限値等の変更
8×8型燃料集合体の導入に伴い、燃料の健全性を確保するための熱的制限値のうちの限界熱流束比には変更はないが、燃料最高線出力密度は8×8型燃料集合体固有のものを追加するほか8×8型燃料集合体の平均濃縮度及び計画最高燃焼度に関しての項目を追加する。
燃料最高繰出力密度 0.57kW/cm(7×7)
0.44kW/cm(8×8)
平均濃縮度 第1炉心用 約 2.2w/o(7×7)
燃料集合体
取替燃料集 約 2.5w/o(7×7)
合体
約 2.6w/o(8×8)
最高燃焼度 第1炉心用 約26,000MWD/T
燃料集合体 (7×7)
取替燃料集 約28,600MWD/T
合体 (7×7)
約30,400MWD/T
(8×8) |
3. 核的制限値等の変更
制御棒価値ミニマイザによって抑制される制御棒の最大価値を0.013⊿k以下(従来は0.025⊿k以下)に変更する。なお、この機会に炉心の有する最大過剰反応度も0.13⊿k以下(従来は0.15⊿k以下)に変更する。 |
4. 制御棒の自由落下速度の変更
制御棒の自由落下速度を95cm/s(従来は152cm/s)とする。 |
Ⅲ 審査内容 |
1. 8×8型燃料集合体の構造
本燃料集合体は、GeneralElectric社(以下GE社という。)の沸騰水型原子炉に従来から用いられている7×7型燃料集合体と混用できるように構造及び性能の設計がされているものであり、その詳細は、原子炉安全専門審査会が昭和49年12月25日に採択した「沸騰水型原子炉に用いられる8行8列型の燃料集合体について」(以下8×8燃料検討報告書という。)に記載のとおりである
本原子炉に用いる種類及び形状の燃料集合体の構造設計については、既に8×8燃料検討報告書において評価が行われており、新たに問題ほない。 |
2. 核特性
8×8型燃料集合体を順次装荷して行く過程の混合炉心及び8×8型燃料集合体のみの平衡炉心において核特性上の諸数値が、従来の7×7型燃料集合体のみの炉心の場合と大きく逸脱することがないかについて、通常の燃料装荷方式による混合パターンでの検討を行った。
その結果、局所ピーキング係数は、異った種類の燃料が混在しても有意な変化は示さず、8×8型燃料集合体及び7×7型燃料集合体の設計値であるそれぞれ1.22以下及び1.30以下が確保されること。また、燃料集合体の無限増倍率、ドップラ係数、実効中性子割合も、従来の7×7型燃料集合体の場合の特性と有意な差は生じないことを確認した。 |
3. 熱水力特性
核特性の検討と同様に、混合炉心及び平衡炉心の熱水力特性についての検討を行った。
その結果、熱水力特性上の重要な制限値である限界熱流束比は、いずれの種類の燃料集合体についても、定常状態では1.9以上が確保される。 |
4. 混合炉心の安定性
炉心の安定性については、通常予測される混合パターンでの検討を行った。炉心の安定性に影響を及ばす因子としての核特性及び熱水力特性は、これまでの検討結果からは、7×7型及び8×8型のそれぞれの燃料集合体では大差はなく、熱水力特性のうち二相流部圧力損失及び熱伝達時定数が多少異るほかは、8×8型燃料集合体の諸特性値は、燃焼等に基づく7×7型燃料集合体の諸特性値の変動幅のなかに入っているかあるいは有意な差はない。従って炉心安定性及びプラント安定性は、混合炉心においても問題となることはなく、かつ、キセノン空間振動についても本原子炉の有する出力係数との相関において、十分抑制することが可能である。
なお、混合炉心の安定性については、これらの検討から安定性が損われることはないと判断されるが念のため最初の8×8型燃料集合体の装荷炉心において、安定性と密接な関係を有する炉雑音特性を測定し、7×7型燃料集合体の炉心で得られている測定値との比較において炉心の安定性に影響を与えるような顕著な変化が生じないことを確認することとなっている。
なお、これらの安定性は、燃料装荷パターンに影響されるので実際の燃料取替の際は、装荷パターンに留意することとなっている。 |
5. 過渡現象解析
8×8型燃料集合体を用いることによっても、前述のとおり核熱特性は従来の7×7型燃料集合体と大差がないため、過渡変化を想定しても、最小限界熱流束比(MCHFR)が1.0を下廻らないこと及び原子炉冷却材圧力バウンダリ圧力が設計値の1.1倍(92.2kg/cm2g)をこえないという2つの基準は十分に満足される。
8×8型燃料集合体炉心については、7×7型燃料集合体炉心の場合に上記の基準に対してそれぞれ最も厳しい結果を示す再循環ポンプ軸固着及び全負荷遮断時バイパス系不動作の過渡変化時について解析を行い、MCHFR>1.3及び圧力約82.2kg/cm2gであり、安全性は確保されることを確認した。
7×7型燃料集合体炉心の場合の解析結果は、それぞれMCHFR>1.2及び圧力82.5kg/cm2gである。また混合炉心の場合は、核熱特性等の変動幅から考慮して問題はないと判断する。 |
6. 事故解析
本原子炉に8×8型燃料集合体を装荷するに当って炉心の安全確保上、検討を要すると判断されるのは、制御棒落下事故、冷却材喪失事故及び主蒸気管破断事故である。 |
6-1 制御棒落下事故
解析に当って重要な入力値は落下制御棒の印加反応度及び各燃料集合体の局所出力ピーキング係数である。
落下制御棒の印加反応度を決定するに当って制御棒の自由落下速度95cm/s及び制御棒価値0.013⊿kを用いた。制御棒の自由落下速度については、既に本原子炉の制御棒装置と全く同じ条件の実験で得られた結果からこの値の採用については妥当であると認めているものである。
また、局所出力ピーキング係数としては、各種の燃料についても厳しくなるように1.3を用いている。これらの制限値と従来の経験から制御棒価値ミニマイザで抑制される制御棒の最大価値が0.01⊿kを上まわらないことが確認されていること等から、仮りに最大価値を有する制御棒1本が炉心から落下するような事態が発生しても、一次冷却材圧力バウンダリの健全性を損うほどの、燃料の大破損に至ることはない。
6-2 冷却材喪失事故
冷却材喪失事故時の8×8型燃料集合体の安全余裕は一般的に8×8型燃料集合体が単位長さ当りの出力を7×7型燃料集合体よりも低減させたことから7×7型燃料集合体に比して増加している。
燃料に対して最も厳しい結果を与える、再循環系の最大口径配管の両端完全破断を想定した場合でも、8×8型燃料集合体については燃料被覆管の最高温度の計算値は1,116℃であり、局所的酸化量の最大値も2%であって、燃料の大破損は防止でき、かつ、長期的な炉心冷却は確保することができる。
しかしながら、今後しぼらく炉心に存在することとなる7×7型燃料集合体の取替燃料については、燃料被覆管の最高温度の計算値は1,200℃、同所的酸化量の計算値は15%という制限値が確保されるよう、運転条件を定めることになっている。
なお、浪合炉心の場合も、事故後の炉心冷却に支障をきたすような事態は起らないと判断する。
6-3 主蒸気管破断事故
冷却材喪失事故の場合と同様に、8×8型燃料集合体の場合は、熱的余裕が増加しているために従来の7×7型燃料集合体の場合と比較して主蒸気管破断事故時には余裕があるといえる。
主蒸気管一本の瞬時完全破断を想定して解析を行った結果でも、8×8型燃料集合体の場合のMCHFRは約1.7であり7×7型燃料集合体の場合の約1.3と共に燃料には熱的余裕が十分確保されている。
上記の熱的余裕から判断して,混合炉心の場合でも問題はない。 |
7. その他
炉心の有する最大過剰反応度に関する変更は、詳細設計に基づき行ったものであって安全性には関係がない。 |
Ⅳ 審査経過
原子炉安全専門審査会は、昭和49年5月24日、第126回原子炉安全専門審査会において次の委員からなる第110部会を設置した。
|
審査委員 |
|
|
三島 艮績(部会長) |
東京大学 |
|
青木 成文 |
東京工業大学 |
|
吹田 徳雄 |
近畿大学(途中退任) |
|
望月 恵一 |
動力炉、核燃料開発事業団 |
|
調査委員 |
|
|
大久保忠恒 |
東京大学 |
|
佐藤 一男 |
日本原子力研究所 |
|
斯波 正諠 |
日本原子力研究所 |
同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行うこととし昭和49年6月5日第1回会合を開催した。
以後、8×8型燃料集合体についての検討をBWR新型燃料検討会と並行して行ったのち、同検討会の検討結果を参考として、部会及び審査会において審査を行ってきたが、昭和50年4月15日の部会において部会報告書を決定し、同年4月15日第136回審査会において本報告書を決定した。 |