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原子力船「むつ」の放射線遮蔽に関する遮蔽小委員会の調査結果について(中間報告・要旨)


昭和49年11月5日
「むつ放射線しゃへい」技術
検討委員会遮蔽小委員会


1 まとめと評価

(1)臨界零出力試験及び低出力上昇試験の結果からは、炉心に異常は認められない。

(2)格納容器上方向への放射線の洩れば、原子炉容器と上部一次遮蔽体との隙間からの中性子の漏洩、すなわち、ストリーミングに主として起因するものとみられる。
 なお、専門家グループによる調査データとrANI-SN」「TWOTRAN」及び「PALLAS-2D-CY」コードによる計算結果などから考えると、このストリーミングの主たるものは、エネルギのかなり高い(104~106eV程度)中性子であるとみられる。

(3)原子炉容器と一次遮蔽タンクの間の隙間からの中性子が、上方向と同程度に、下方向へも漏洩している。また、格納容器下部内外において、高い中性子束が形成されているのは、この漏洩した中性子が、格納容器及び船殻を構成する鋼板等によって反射され、それが格納容器一次遮蔽下端から上方向への中性子レベルを高めているためであるとみられる。これらの中性子束が、格納容器上方向への中性子漏洩に寄与する度合は、原子炉容器と上部一次遮蔽体との隙間から上方向に漏れてくる中性子のそれに比べ、かなり低いと考えられる。

(4)一次遮蔽体の半径方向の遮蔽性能には、異常は認められない。

(5)格納容器内のガンマ線のレベルには異常は認められない。

(6)上甲板で認められたガンマ線は、一次遮蔽体の隙間から洩れ出た中性子が、二次遮蔽体中の鉄構造物等により吸収されるため、二次的に発生する捕獲ガンマ線が主成分であるとみられる。
 なお、今後格納容器及び船殻を構成する鋼板等による散乱線の評価等調査データの細部についての解析を行ない改修計画に反映させることが望ましい。

2 測定調査の結果

(1)一次遮蔽体の性能に関する事項

① 原子炉容器と上部一次遮蔽体との隙間からの中性子洩れ

(ⅰ)原子炉容器と上部一次遮蔽体との隙間からの洩れ
 圧力容器と上部一次遮蔽体との間の隙間部分及び鉄の遮蔽リングの部分に、中性子分布に大きなピークが存在する。

(ⅱ)計測孔からの洩れ
 上部方向への漏洩は、原子炉容器と一次遮蔽の隙間からの漏洩の外に、計測孔(核計装中性子検出器用)からの洩れがあると認められる。
この漏れも、中性子の強さ及び漏洩部分の面積を考慮すると、原子炉容器と一次遮蔽体の間隙からの洩れにくらべて、約2桁程度低いと考えられる。

(ⅲ)格納容器上部内面の中性子分布
 格納容器上部内面の中性子の分布は、ほぼ一定であり、一次遮蔽体上部隙間からの中性子のピークに対応するものは、認められていない。
このことから、漏洩している中性子の方向性は、揃っていないと推定される。

(ⅳ)漏洩中性子のエネルギーについて
 裸のBF3中性子計数管による測定結果と、ポリエチレンで覆ったBF3中性子計数管による測定結果とを比較すると、原子炉容器と上部一次遮蔽体との隙間から洩れてくる中性子は、熱中性子よりも、かなりエネルギーの高い中性子(例えば104~106eV程度)が主成分と思われる。
 このことは、インジウム箔をカドミウムで覆ったものと裸のものとを1組として、測定したカドミウム比が、1.1~1.8であることから、エネルギが0.4eV以上の中性子が0.4eVより低いエネルギの中性子よりかなり多いという結果であった、ということからも推定される。
 なお、計算による透過中性子束の分布及び透過中性子のエネルギスペクトルについては、次のようなことが認められた。

(ⅰ)「むつ」一次遮蔽体半径方向の「ANISN」コードによる熱中性子束分布と、「むつ」の設計計算に使用された「PIMG」コードの結果とを比較すると、全体に両者は良い一致を示している。
スペクトルは0.5MeVの付近にピークを持ち、104eV以下はほぼ1/E分布をなしており、熱中性子束は、鉛及び鉄層で吸収されて少くなっている。

(ⅱ)「むつ」の原子炉容器の上下方向に対して、「ANISN」コードによって求めた原子炉容器外表面における中性子スペクトル分布では原子炉容器頂部のスペクトルは、一次遮蔽タンク外表面とほぼ似た形をしている。しかし、原子炉容器の底部の鉄の厚さは、頂部の鉄の厚さの約1/2しかないため、下方向のスペクトル分布には熱中性子のピークが認められる。

(ⅲ)原子炉容器と一次遮蔽の隙間部の中性子スペクトルの傾向は、遮蔽体表面等のスペクトルと同じであり、104eV以上のエネルギの中性子がかなり多く、熱中性子は少ない。
 一次遮蔽体表面の各点における中性子線量率の計算値は、「むつ」における測定値と大体似た傾向を示している。なお、原子炉容器の頂部等での「SPAN」コードによる計算値については、透過計算では、かなりよく合っている。

(ⅳ)「PALLAS-2D-CY」コードによる中性子線量率の等高線図によると、隙間から漏洩した中性子が、上下方向に散乱してゆくのが示されている。

(ⅴ)一次遮蔽体周辺の各点におけるガンマ線量率分布を「TWDTRAN」で計算した結果では、隙間部を除き設計計算値と、ほぼ同様の値を示している。

② 原子炉容器下部からの中性子束

(ⅰ)中性子の下方向への洩れ
 中性子は、原子炉容器と一次遮蔽タンクの間の隙間から漏洩しており、その量は上方向と同程度であると見られる。

(ⅱ)下方向への漏洩中性子の格納容器下部及び船底鋼板等による反射格納容器下部内外において、高い中性子束が形成されているのは、下方向へ漏洩した中性子が、格納容器及び船殻を構成する鋼板等によって反射され、この反射された中性子が格納容器一次遮蔽端から上方向への中性子レベルを高めているためであるとみられる。

③ 格納容器内のガンマ線量

(ⅰ)格納容器内のガンマ線レベルは、特異点も含めて当初の設計計算値に基づく予想値にほぼ合っており、異常は認められなかった。

(ⅱ)格納容器上部内面のガンマ線量率は1~3mR/hrであった。

(2)二次遮蔽体の性能に関する事項

① 格納容器二遮蔽上面における中性子束分布

(ⅰ)格納容器の上部外面の中性子線量分布頂部の鉛遮蔽だけの部分と、その周囲の鉛・ポリエチレン遮蔽が施されている部分とでは異っているが、それぞれの範囲ではほぼ一致であり、一次遮蔽体上部隙間からの中性子束分布のピークに対応する大きなピークは認められなかった。このことから、一次遮蔽体上部隙間から漏れてくる中性子の方向性は、揃っていないと推定される。

(ⅱ)格納容器頂部鉛遮蔽部分と、周囲の鉛・ポリエチレン遮蔽部分の中性子束分布が異なるのは、鉛・ポリエチレン遮蔽を透過する際に中性子が吸収されるためである。

② 格納容器二次遮蔽上面におけるγ線量率の分布
(ⅰ)頂部鉛遮蔽部分と周囲の鉛・ポリエチレン遮蔽部分とを比較すると、周囲の鉛・ポリエチレン遮蔽部分のガンマ線量率がかなりはっきりと高くなっており、最高は0.2mR/hrである。
 一方、格納容器内ガンマ線量率は1~3mR/hr程度であり、厚さ18~19cmの鉛遮蔽によって約3桁下るので、内側からのガンマ線の寄与はほとんどないと考えられる。従って、これら測定された格納容器二次遮蔽上面におけるガンマ線は、主として、中性子が鉛及びポリエチレン遮蔽を透過する際にこれらを保持する鉄構造物等によって捕獲されるとき、生じる二次ガンマ線によるものと推定される。

③ 上甲板における中性子線量率分布

(ⅰ)上部甲板における中性子線量率の分布は、格納容器上部二次遮蔽外面における測定値と同様の傾向を示しており、鉛・ポリエチレン遮蔽を透過する際の中性子吸収の影響が現われている。

④ 上甲板におけるガンマ線の線量率分布

(ⅰ)上甲板におけるガンマ線の測定値は、格納容器二次遮蔽上面のガンマ線量率と同様の傾向を示している。これらのガンマ線は、二次遮蔽捕獲ガンマ線であると推定される。

(ⅱ)エリヤモニタ「Ra-11」のガンマ線量率について測定時の原子炉出力は約0.23%、エリヤモニタ「Ra-11」の点は0.02mR/hのバックグランドを含めて、約005mR/hであった。

⑤ 固定エリヤモニタによる船内各区域の線量の測定

(ⅰ)二次遮蔽コンクリート壁の陰になる第3甲板より下方の点では、中性子及びガンマ線とも異常を示していない。これは原子炉室周囲の二次遮蔽コンクリート及び遮蔽水タンクの水の遮蔽性能によるものと推定できる。

(ⅱ)第2甲板より上方の区域では線量率が高くなっており、この範囲では、一次遮蔽体上部の隙間からの放射線洩れの影響を受けているものと考えられる。

(3)遮蔽体追加による遮蔽効果の測定
 ポリエチレンは高速中性子の遮蔽体として優れているので、ポリエチレンを使用して遮蔽体追加による遮蔽効果の測定が行われた。

① 遮蔽体追加の方法

(ⅰ)第1の方法:原子炉容器上部遮蔽、一次遮蔽体上部及びその隙間上部へのポリエチレンの追加
 原子炉容器上部遮蔽、一次遮蔽体上部、及びその隙間上部に木綿袋(未使用の放管用木綿靴下に詰めた平均粒径2mmのポリエチレンペレット約575kgを実効厚さ約10cm程度になるように積み上げて、遮蔽効果の試験が行なわれた。

(ⅱ)第2の方法:第1の方法に加えて、更にミサイルプロテクション上部へのポリエチレン板の追加
 第1の方法に加えて、更にミサイルプロテクション上部に、6mm厚のポリエチレン板をミサイルプロテクションの形状に合わせて切断したものを、平均厚さが8cm程度になるよう積み上げて、遮蔽効果の測定が行なわれた。

② 測定結果
 このようにして遮蔽を追加した場合、中性子線量は、ほぼ1桁減少し、遮蔽の追加が有効であることを示している。

「むつ」一次遮蔽及び二次遮蔽配置状況図


格納機内γ線、中性子線量率測定値


1次遮蔽体表面中性子線量率分布(m Rem/hr、100% Power)


1次遮蔽体表面ガンマ線線量率分布(mR/hr、100% Power)

 

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