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昭和49年度原子力平和利用研究委託費の交付決定



  昭和49年度原子力平和利用研究委託費については、さる7月27日試験研究題目及び申請書の提出期間について官報に告示し、8月12日申請を締切った。その後、書類審査、申請内容聴取、関係機関との意見交換、現地調査を行い、原子力委員会の議を経て10月1日付けで次のとをり交付決定を行った。

昭和49年度原子力平和利用研究委託費総括表

昭和49年度原子力平和利用研究委託費交付一覧表


昭和49年度原子力平和利用研究委託費交付概要



1 原子炉材料の疲労とクリープの相互効果を考慮した構造設計基準に関する試験研究

(社)日本溶接協会

(研究目的)

 現在の軽水炉を対象とした原子炉構造設計基準においては、最高設計温度は使用材料のクリープ現象の発生限界領域と一応考えられているが、近年クリープと疲労の相互効果による材料強度の低下が重要な課題となりつつあるため、この温度領域において両者の相互関係を明確にしておくことは原子炉の設計並びに安全上非常に重要である。また軽水炉の運転温度領域においても定常の一定負荷を受けている構造部材に機械的または熱的変動負荷によって繰返し塑性歪が負荷されると、ラチエッテング現象によって過大の変形を生ずることがあり、設計並びに安全上重要な問題となっているがこの現象はまだ十分に解明されていたい。そこで本試験研究においては軽水炉構造用材であるSUS304材、SUS316材並びに21/4Cr-1Mo材を供試材として、これらの疲労とクリープの相互効果及びラチェット機構を明確にするとともに、48年度における研究成果と比較検討することによって、合理的な原子炉構造設計基準の作成並びに安全性評価のために必要な基礎資料を得ることを目的とする。

(研究内容)

1 疲労とクリープの相互効果の研究

 疲労とクリープの相互効果を明らかにするため350℃~650℃の温度範囲において、歪速度、歪保持時間及び荷重保持時間を変えた疲労試験を実施するとともに約24時間のリラクゼーション速度試験並びにクリープ速度試験を行う。
 また、以上の試験結果の解析に基礎を与えるために、各温度における静引張試験、クリープ破断試験及び組織試験を実施する。

1.1 歪速度効果試験

 次のとおり条件を設定し歪制御完全両振り疲労試験を行う。

SUS304
21/4Cr-1Mo

SUS316
歪速度
2~4条件
2条件
1条件
試験温度
3条件
1条件
1条件

但しSUS316については環境効果を調べるために真空中で行なう。

1.2 歪保持効果試験
次のとおりの条件を設定し、引張最大歪を一定時間保持する歪制御完全両振り疲労試験を実施する。

SUS304
21/4Cr-1Mo

SUS316
歪保持時間
4条件
3条件
1条件
試験温度
1条件
1条件
1条件

但しSUS316については環境効果を調べるために真空中で行う。

1.3 荷重保持効果試験
SUS3・4および21/4Cr-1Moの平滑試験片を引張最大荷重に保持し、この間に生じるクリープ歪が引張制限歪に達した後、荷重を逆転して圧縮制限歪まで到達させる疲労試験を行う。
試験は各供試材についてクリープ制限歪レベル2条件、応力レベル2条件、試験温度1条件を設定して行う。
 SUS316については平滑試験片及び切欠き付試験片(応力集中係数2条件)について引張最大荷重を一定時間保持する荷重制御完全両振り試験を行う。
 試験は引張最大荷重保持時間3条件、試験温度1条件を設定して行う。

1.4 リラクゼーション試験

 1・2項の試験結果を歪保持時間約24時間の場合まで外そうして評価できるようにするため、次のとおり条件を設定して約24時間のリラクゼーション試験を行う。

SUS304
21/4Cr-1Mo
歪レベル
5条件
5条件
試験温度
2条件
1条件

1.5 クリープ試験
 1・3項の試験結果を荷重保持時間約24時間の
場合まで外そうして評価できるようにするためSUS304,21/4Cr-1Moの平滑試験片及びSUS316の切欠き付試験片(応力集中係数2条件)について、次のとおり条件を設定して約24時間のクリープ速度試験を行う。

SUS304
21/4Cr-1Mo

SUS316
応力レベル
4条件
4条件
3条件
試験温度
2条件
1条件
2条件

1.6 静引張試験

 SUS304及び21/4Cr-1Moの平滑試験片及びSUS316の切欠き付試験片(応力集中係数2条件)について静引張試験を室温、350℃、550℃、650℃の4温度で行う。

1.7 クリープ破断試験

 SUS304、21/4Cr-1Moの平滑試験片及びSUS316の切欠き付試験片(応力集中係数2条件)について、次の試験温度において約100~1,000時間のクリープ破断試験を行う。

SUS304       550℃および650℃
21/4Cr-1Mo   550℃
SUS316       550℃および650℃

1.8 組識試験

 1.2および1.3項で試験を行った試験片について、破断後組織解析を行い、試験条件の相違がミクロ組識変化に及ぼす影響を調査する。

2 ラチェット機構の研究

 ラチェット変形の発生限並びに変形機構を解明するため次のとおり条件を設定し、中空円筒試験片に一定内圧を負荷した状態で、これに両振りの繰返し引張圧縮歪を与える試験を実施する。

SUS316
21/4Cr-1Mo
内圧による応力/降伏強度
3条件
2条件
繰返し歪振幅
4条件
5条件

試験温度
SUS316     350℃~550℃における2条件
21/4Cr-1Mo 常温

 なお試験結果の解析の基礎資料とするため、内圧のみ軸力のみによる試験も実施する。

3 理論解析

 1.3項の切欠き付試験片に関するクリープ挙動及び2項のラチェット変形機構に理論的根拠を与え、試験結果の一般化をはかるため計算方法として、空間的には有限要素法を時間的には差分法を用いて理論解析を行う。

2 原子炉耐圧部の不安定破壊に対する安全基準に関する試験研究

(社)日本溶接協会

(研究目的)

 原子炉一次系の配管は、使用温度が高いことや、内部に貯えられるエネルギーが大きいことから、主として不安定延性破壊が重要な問題となるが、原子炉耐圧部に適用する不安定延性破壊評価基準についてはさらに研究を進める必要がある。また従来不安定延性破壊伝播の理論については数多く提案されているが、まだ残された問題も多く今後さらに実験を実施し理論の妥当性を広く検討する必要がある。
 このため本試験研究においては原子炉1次系配管の不安定延性破壊についての研究を行ない、安全性評価基準確立のための基礎資料を得ることを目的とする。また格納容器を貫通する配管では脆性破壊も考えられるので、鋼管の脆性破壊についての研究も一部実施する。

(研究内容)

 対象として沸騰水型軽水炉の再循環用配管、加圧水型軽水炉の一次系配管および格納容器貫通配管などを考え、ステンレス鋼管と炭素鋼管について以下の試験を実施する。

1 材料基礎試験

 使用材料の基礎的特性を把握するために次の試験を実施する。

1.1 単軸引張試験
1.2 シヤルピー試験

2 破壊発生試験

2.1 2軸引張試験

 2軸応力状態下での破壊挙動を調査するため2軸引張試験機を用い、炭素鋼管の一部を切出し、中央に切欠をつけた試験片について破壊特性を調べ他の結果と比較検討する。実験は室温がそれより若干低い温度で実施し破壊応力、限界COD(限界切欠開口量)の測定を行なう。

2.2 静的切欠曲げ試験(COD試験)
 炭素鋼管から試験片を切出し三点曲げ試験を-150℃~250℃の温度範囲で実施して、破壊応力、
限界COD及び破壊靱性を求める。

2.3 不安定延性破壊発生試験
 ステンレス鋼管と炭素鋼管を用いて室温における不安定延性破壊の発生条件を実験的に求める。
ステンレス鋼管については切欠先端条件の不安定延性破壊発生に及ぼす影響を調べるための機械切欠(軸方向・円周方向)と疲労切欠、(軸方向)あるいは放電切欠(軸方向)について試験を行なうとともにこれまでに提唱されている理論式または実験式の妥当性を検討するため、軸方向機械切欠について、切欠長さと切欠深さを系統的に変えて破壊発生試験を行う。
 炭素鋼管では機械切欠について切欠長さと切欠深さを変えて破壊発生試験を実施する。圧力媒体としては液体を用いるが、ステンレス鋼管の場合には一部爆薬による破壊発生試験をも併せて行う。
 液体による破壊発生試験の場合には破壊発生応力と限界COD値の比較検討を行なう。爆薬による破壊発生試験の場合には破面観察の他に破壊圧力を求め静的内圧の場合との比較を行なう。

3 破壊伝播試験

3. DWTT

 使用材料に対するNDT温度を把握し、Fra-cture Analysis Diagramを作成するために本試験を実施する。試験片は炭素鋼管から切出して行なう。

3.2 不安定延性破壊伝播試験

 鋼管をたて割にし、両端部に機械切欠を加工した大型試験片により不安定延性破壊伝播特性の評価を行なう。ステンレス鋼管は室温での単純引張モードを実施し、炭素鋼管については室温と約100℃の2条件において単純引張、衝撃の2モードの他に切欠長さも2条件変えて試験する。測定項目としては、破壊応力、延性破壊伝播限界KC値、亀裂伝播速度、荷重変化破壊モードの5点である。

4 平板の弾塑性域での動的CODの解析

 円筒の切欠の動的COD値を平板の切欠の動的COD値で近似できると考え、有限要素法を使用して弾塑性域での動的COD解析を行なう。

5 総合評価

 上記各項目の各試験結果を比較し、原子炉一次系配管の不安定延性破壊に対する評価方法の検討を行なう。


3 原子炉建物と地盤の相互作用に関する試験研究

(社)日本建築協会

(研究目的)

 原子炉建物は一般の建物と異なり建物の剛性が非常に高く、かつその重心が極端に低く地中に深く埋込まれているために重心が地表面下にあることも少なくない。このような状態での地震時の建物の動的挙動は、地盤と建物との相互作用、特に地下側壁と基礎底面の効果に大きく支配されるが、これに着目した研究がないため現状での動的解析では原子炉建物と地盤の相互作用を適切に解析する方法が採用されていない。
 本試験研究は上記の理由から、地震時における原子炉建物など剛構造物の側壁の効果を含む地下逸散減衰の性状を適切に評価する資料を得ることを目的とする。

(研究内容)

 原子炉建物と地盤の動的相互作用の解析
 電子計算機を用いて原子炉建物を想定したモデルについて、振動エネルギーの地下逸散を次の二つの場合に分けて下記の条件で固有値及び下部正弦波入力に対する周波数応答関数を求める。

(1)振動エネルギーの地下逸散が基礎底面からのみとした場合
 a)原子炉建物の上部構造は相似則を考慮して簡単縮少化したモデルとする。
 b)支持地盤の横波伝播速度を10~200m/secに選択する。
(2)振動エネルギーの地下逸散が基礎底面及び地下側面からとした場合
 a)原子炉建物の剛性を一様化したモデルとする。
 b)下層地盤と表層地盤のインピーダンス(剛性と密度の積)比を05~1.0に選択する。
 c)建物の埋込み深さを実大でOmから約50mまでとする。
 上記各項の条件のようにパラメータを変えた解析結果を比較考察し原子炉建物と地盤の動的相互作用にお
よぼす地盤の効果を明確にする。更に、上記解析モデルの中から適当なものを選び、地震応答解析を行ない、実現象との対応研究が可能な資料を得る。

4 原子力発電所における設計地震の策定に関する研究

(社)日本電気協会

(研究目的)

 原子力発電所の安全上重要な施設の地震に対する安全性は、設計地震に基づいて行なわれる動的解析から求まる地震力に対して安全であるよう設計することで確保される。
 従って設計の基本条件となる設計地震の考え方は、原子力発電所の耐震安全上重要な課題である。
 原子力平和利用委託研究により、これまでに調査研究の対象として、選定した地域について、耐震設計上考慮すべき地震の規模と震源位置ならびにその地震による基盤における地震動の特性を想定し、これに合致する地震波形を作成して設計地震動を策定する上での資料を得ている。
 しかし、なお、設計地震動の策定を合理的、かつ、統一されたものにするため地震動の型(海型、陸型等)、地域周辺の断層パラメーターの想定と地震動との関連、上下動の特性などを考慮し、選定地域の地震動の性状をさらに精密に検討し、わが国における原子力発電所立地可能地域に対する設計地震の策定方法の精度を高めることを目的とする。

(研究内容)

 地震の型、周辺の断層の影響、上下動等を考慮した合理的、かつ、精度の高い設計地震の策定方法を確立するため、田野畑(岩手)、白丸(石川)、内之浦(鹿児島)、市浦(青森)、深川(山口)、海南(徳島)を対象地域に選定し、次の研究を行なう。

1 考慮すべき地震の精度向上

 選定6地域について考慮すべき地震を型別(海型、陸型等)に分け、それぞれの規模、震源位置たどを過去の地震記録(被害記録等)より想定する。

2 断層モデルの設定と震源域の腰動特性検討

 各地の地震観測所の選定6地域周辺を震源とする地震記象(波形記録等)を収集調査し、選定地域周辺における断展モデルを地震学的に推定し、考慮すべき断層規模を設定する。このうち太平洋側および日本海側の代表地点について設定した断層から発生する地震動を検討する。

3 上下動特性の検討

 過去の代表的な地震の地震記象などから一般的な上下動に関する振動特性を検討する。

4 設計用地震波の作成

 上記の研究成果を総合して、選定地点の基盤における地震動の強さ(加速度、速度など)、振動特性(周波数特性など)、継続時間などを想定し設計地震動を作成する。

5 原子力発電所用計測制御装置の耐震性に関する試験研究

(社)日本電気協会

(研究目的)

 原子力発電所の安全性確保に欠くことのできない種々の耐震クラスAの計測制御装置については耐震性に関する総合的、組識的研究を行ない、国内規格、基準を整備する必要がある。そのため耐震クラスAの計測制御装置の耐震性に関する合理的、標準的な評価法の確立および規格、基準を作成するため、原子力発電所用計測制御装置の耐震性に関する試験研究を行なって、基礎資料を得ることが必要である。
 本試験研究は耐震クラスAの計測制御装置について、耐震性評価方法を検討するに必要な資料を得ることを目的とする。

(研究内容)

1 盤の振動試験

 原子力発電所に使用されている盤のなかから代表的な形状のモデル盤を選定し、振動試験を行ない、盤の振動特性を求める。
 供試盤はベンチ形制御盤1面、直立形制御盤1面、補助継電器盤3面列盤1式及び閉鎖形配電盤1面で、これらの盤の実装器具は実物又はダミーを用いる。
 振動試験は掃引振動試験と応答試験を行なう。

1)掃引振動試験
 入力として正弦波を用い、固有振動数と振動モードを測定する。加振周波数範囲は5~30Hzとする。

2)応答試験
 入力として正弦波、正弦ビート波、設計用応答波および実地震波を用い、盤各部の応答加速度を測定するとともに基礎ボルトなど固定部の応力及び歪の測定をする。加振加速度は1.5Gを超えないものとする。
 両試験とも加振方向は左右及び前後とする。

2 振動試験結果の評価

1)質点モデルによって各盤の固有振動数、動特性及び応答特性を計算し、モデルの近似度を調べる。

2)盤に取り付けられる各種器具(計器、継電器、開閉器など)のうち、代表的なものを選び、その単体耐振性能について既存データを収集する。
3)2)の器具の耐振性能と1で求めた盤に関するデータ(取付け位置の加速度、周波数特性など)を照合し、計測制御装置全体としての機能維持能力に関する評価を行なう。

6 使用済核燃料輸送容器の耐火性に関する試験研究

(社)日本機械学会

(研究目的)

 原子力発電の実用化に伴い、使用済核燃料の輸送が現実の問題となっており、キャスクの安全設計並びに安全性の評価が早急に解決されなければならない重要な課題となっている。
 IAEA規則等で規定されているキャスクの安全性の諸問題のうち、特に火災事故時の安全評価あるいは耐火災設計については、わが国はもちろん諸外国においても資料が乏しく、系統的に行なわれた試験研究はない。従って妥当な評価方法、設計方法は確立しておらず、それらの早急な整備が強く望まれる。
 このような見地から、縮尺模型による火災試験を行い、火災事故に対する安全設計及びその評価をする際の技術資料を得ることを目的とする。

(研究内容)

 実用規模として80t程度の横置円筒状キャスクを想定し、その約1/2、1/2.5(約10t、5t)のキャスクモデルについて火災試験を行なう。

1 キャスクモデルの設計及び製作

 キャスクモデルは円筒横置形で、胴部、端部ともに外側が構造用鋼板、内側がステンレス板で、間に鉛を鋳込んだ3層より成るものとし、そめ大きさ及び個数は次のとおりとする。

約1/2縮尺(約10t)1個
約1/2.5縮尺(約5t)1個

 ただし、温度上昇による鉛の膨張を考慮して鉛膨張室を設けるものとする。

2 火災試験設備の計画及び準備

 試験中の燃料の溢流を防止する構造を有する燃焼皿を設置し、その中に適当な高さの位置に供試キャスクモデルを設置できるよう架台を設ける。燃焼皿には予め予備実験で検定された量の燃料を入れ燃焼時間の制御を行なう。燃料は石油系の燃料(発熱料11,000ないし11,700kcal/kg蒸留の終点最大330℃、引火点最低46℃の燃料)を使用する。実験場に取付けた風向風速計で実験条件の適否を判断し実験開始時間を決定する。

3 火災試験

 本実験では、各キャスクモデルに約100の測定点を設け熱電対を装置して多点温度記録計に接続し、一定時間間隔で各部の温度変化を自動的に測定する。
 試験後の供試キャスクモデルは遮蔽体鉛の熱膨張の影響、溶融、再凝固の状況等を観察するとともに遮蔽の健全性を確認する。

4 試験結果の評価

 上記試験結果から火災に対するキャスクの安全性、有効適切な試験方法について評価検討を行なう。

7 隔膜によるガス状放射性廃棄物の分離装置の試作研究

東京芝浦電気(株)

(研究目的)

 最近、放射性物質の環境への放出に対しゼロリリーズがさけばれるようになってきた。現在、原子力施設からの排ガス中の放射性希ガスを除去する方法としては、種々の方法が開発されつつある。これらの中で、隔膜法はその操作が常温でかつ簡単であることから有望視されている。しかし隔膜のガス透過係数が小さいことと分離係数が小さいために、分離性能が小さくなり、その結果、装置が大きくなるという欠点を有している。
 隔膜法による希ガス分離装置のガス分離性能は装置を構成する分離セルの分離係数とカスケードの分離性能に依存する。そこで48年度に分離セルの分離係数の向上に関する検討を行ない。ガス透過傾向の異なる二種類の中空円筒状膜を1つの分離セルに組みこむことにより、分離セルの分離係数を大きくすることができるようになった。
 カスケードの分離性能にはカスケードの組方やカスケード運転条件(たとえば濃縮側最終段及び希釈側最終段の還流比や隔膜両面のガス圧力比及びリサイクルカスケードにおけるリサイクル比など)が影響すると考えられる。
 本研究では、二種類の膜を用いた分離セルのクリプトンガス分離装置について種々のカスケードの組方を検討し適切なカスケードを決定する。さらにそのカスケードについて、還流比などの運転条件のカスケード分離性能への影響を検討し、濃縮側と希釈側とを有する9段カスケードクリプトン分離装置を設計し試作する。

(研究内容)

1 9段カスケードガス分離装置の設計

 窒素、クリプトン混合ガス中からクリプトンガスを分離するノルマルカスケード、ジャンプカスケード及びリサイクルカスケードについて、所要の膜面積と段数、所要機器の種類と台数などを比較・検討する。
 リサイクルカスケードにおける還流比、隔膜両面のガス圧力比及びリサイクル比などの運転条件のカスケード分離性能への影響を検討する。
 ガス流量は最大約02Nm3/h、最大ガス圧力は約5kg/cm2Gとする。
 9段カスケードガス分離装置を構成する分離セル、流量計、圧力計、圧力制御器、ガス循環ポンプ、ポンプ出入口のバッファタンク、逆止弁、流量調整弁等の仕様をこの流量・圧力に適するように決定する。
 特に分離セルの構造は、還流比などの運転条件の変化にともない、膜面積を変えうるように設計する。

2 9段カスケード分離装置の試作

(1)濃縮側4段カスケードの機器の試作
 各機器を試作し、主要な機器の機能試験、耐圧試験、リーク試験を行なう。

(2)9段カスケードの試作
 既存の5段ジャンプカスケードクリプトンガス分離装置のガス循環ポンプ、モータ、安全弁、真空ポンプ及び供給混合タンクと濃縮側4段カスケードの機器等を9段リサイクルカスケードガス分離装置に組み立て、機器の調整を行なう。

8 環境放射能試料に関する各種測定器の分析目標値の最適化に関する試験研究

(財)日本分析センター

(研究目的)

 長期的な見地における環境保全の立場からは、判断の基礎資料として、より低いレベルの環境放射能の測定の必要性が強く認識されている。この極低レベルの環境放射能の測定法については、一応め技術の検討が行なわれているが、更に定常的な分析法としてより効率的な測定法の開発をすすめることは環境放射能定常測定の普及に伴って不可欠のことである。
 従来、環境放射能の測定は、γ線を放出する核種を含む固体試料については、NaI(Tl)シンチレーションγ線スペクトロメー・タが一般に用いられており、最近はこれに代ってGe(Lⅰ)検出器を使用するγ線スペクトロメータが普及している。これらのγ線スペクトロメータは低レベルの環境放射能測定に際して、一長一短があり環境試料中に含まれる放射能濃度と核種の構成によってその得失を異にする。我国においては、NaI(Tl)、Ge(Lⅰ)検出器を用いた機器分析法の基準の検討が行われているが、低レベル環境放射能測定に適した手法についての明確な結論は得られていない。
よって、これらの結論を早急に得て測定手法の効果的、効率的運用を図ることを目的とする。

(研究内容)

 本試験研究においては、環境放射能試料についてγ線分光分析法を中心として下記の諸項目について研究を行う。
○ 対象とする環境放射能試料は、福井県敦賀地区原子力サイト周辺でサンプリングされた粘土質海底土とする。一般的に我国では、原子力施設の殆んどが海岸立地であり、またサイトから放出される液体放射性物質の環境への影響は、海底土の調査によって蓄積の傾向が最も理解しやすいと考えられている。
従って対象試料としては緊急度が最も高い。

○ 対象核種としては、γ線放出体とし、代表的核分裂生成物137Cs、144Ce等及び代表的誘導放射能核種60Co等とする。

○ 対象とする測定器は、Ge(Lⅰ)半導体検出器とNaI(Tl)シンチレーション検出器とする。この両者は、現在定常測定器として最も普及活用されている。

1 試料の前処理方法

 試料の前処理としての化学的分離(セシウムのリンモリブデン酸による沈澱分離、コバルト・セリウムのアルカリ性硫化物沈澱分離など)を行った試料と未処理の粘土質海底土を各々の測定器により測定試験を行ない、検出限界を検討する。

2 試料特性と検出限界

 試料特性(粒度、乾燥度、容量、形状及び化学的成分など)の異なる試料を同一の測定器で測定し、検出限界との相関性を検討する。

3 測定条件と検出限界

 測定時間を1時間から2、3日の範囲に変えて測定し、試料の分析目標値を得るための最適測定時間について検討する。

4 総合的検討

 以上の結果を基とし、粘度質海底土の測定に適合する分析目標値について、前処理、測定条件及び誤差について、最適化をはかり、目的に合致した測定結果を得る最適な測定方法について検討を行う。

9 舶用炉型式の技術的評価に関する研究

(社)日本造船研究協会

(研究目的)

 本試験研究は、46~48年度に原子力平和利用委託研究として概要をまとめた、120,000shpのコンテナー船用の一体型舶用炉(330MWt)プラントと同一の設計条件にて分離型舶用炉プラントの概念設計を実施し、これら両型式のプラントについて、その仕様、性能等の技術的問題を比較、評価し、今後のわが国の舶用炉開発計画確立のための資料を求めることを目的とするものである。

(研究内容)

 上記の目的を達成するために次の2項目の研究を実施する。

1 分離型舶用炉プラントの概念設計

 上述の如く、46~48年度にまとめた一体型舶用炉と同一の設計条件にて分離型舶用炉プラントの概要をまとめる。主要な設計条件要求性能等は次の通りである。

主要要目、要求性能
炉出力 330MWt(MCR) 300MWt(NOR)
主機馬力 120,000shp(MCR) 108,000shp(NOR)

1次系運転条件 温度 
圧力 
318℃
137ata
2次系運転条件 温度
圧力
297℃
50ata(目標値)

設計の対象とする系統、設備その他を次に示す。

(1)主冷却系統
 圧力容器、同付属設備、炉心支持構造、ブローオフ系、蒸気発生器、主冷却水ポンプ、同電装品、加圧設備、主冷却系配管、制御棒、駆動装置、主冷却系統概念計画

(2)炉補助系統
 浄化系、体積制御系、余熱除去系、補機冷却系、非常用冷却系、サンプリング系、補給水系、廃棄物処理系

(3)格納容器
 本体、付属機器、容器内換気系、スプレー系、圧力抑制格納方式検討

(4)炉区画内2次蒸気配管

(5)供給系統
 圧縮空気系、N2ガス系

(6)遮蔽
 1次遮蔽、2次遮蔽、補機遮蔽

(7)中性子源

(8)計測制御系統
 制御棒駆動装置制御系、プロセス制御系、炉制御系、核計装、安全保護系、自動制御系、放射線監視設備

(9)1次系電源電路

(10)機関室
 主タービン、主蒸気配管、補機器、2次系電源電路、配置、熱平衡計画

(11)その他
 全体計画(まとめ)、炉補機室配置

2 舶用炉型式の比較、評価

 1により概念設計を実施した分離型舶用炉プラントと、さきにまとめた一体型舶用炉プラントについて、下記項目を中心として両型式炉を比較、評価する。

(1)主要機器の寸法、仕様、性能
(2)主要機器及びプラントの重量
(3)機器の配置
 なお、これらのプラントを搭載する想定船の主要要目は次の通りである。

船    種
主要寸法(約)
主    機
速力最大
航    路
コンテナー数(約)
コンテナー船(パナマックス)
280×32×20×9(m)
蒸気タービン60,000shp(MCR)×2
33航海30(ノット)
日本一欧州
2,000個(20’)

10 核融合を目的とした高圧炭酸ガスレーザに関する試験研究

ウシオ電機(株)

(研究目的)

 核融合反応による出力エネルギーが入射レーザエネルギー以上となるためには、最低105ジュールの入射エネルギーが必要である。高圧炭酸ガスレーザはこれを実現する有力な方式であるが、これに組み合わせる高効率な電源についての技術はいまだ確立されていない。本試験研究は、高圧炭酸ガスレーザ用高効率電源開発のための基礎的究を行ない、核融合炉の実現に資することを目的とする。

(研究内容)

 高圧炭酸ガスレーザの高効率電源システムの主要装置としてマルクス方式電源装置及び出力波形成形回路装置の開発を行なうため次の試作研究を行なう。

1 スパー・クギャップの開発研究

 スパークギャップは、マルクス方式電源回路及びパルス成形回路の性能を大きく左右するものであるので、その形状・構造・材質・加圧ガスについて研究し、耐高電圧(100KV)・大電流(50KA)のスパークギャップを試作開発する。
 なお、ジッタ一時間については10nsec以下の性能のものを開発するものとし、その短縮の可能性を追究する。

2 マルクス電源の回路方式及び構造の研究

 高電圧を得る方法としてマルクス方式は有効であるので、この高電圧・瞬間大電流の特性を満足するためのマルクス電源の回路方式および構造について研究し、その試作開発を行ない、その出力波形、立ち上り時間などについて測定を行なう。

目標仕様 耐電圧
エネルギー
立ち上り
200KV
9キロジュール
1μSec

3 パルス成形回路の試作研究

 高圧炭酸ガスレーザを効率的に励起させるために必要な短形波パルスを成形し得るパルス成形回路の方式および構造を研究し、その試作開発を行ない、そのモデル実験を行なう。

目標仕様 充電電圧
出力
エネルギー
パルス幅
100KV
50KV
1.8キロジュール
3μsec

11 ガス冷却高速増殖炉の技術予測と評価の基礎に関する研究

川崎重工業(株)

(研究目的)

 最近、高温ガス炉の開発の進展にともな、、その技術的延長としてのガス冷却高速増殖炉が注目されはじめている。
 ガス冷却高速増殖炉は増殖性能が優れており、反応度のボイド効果に起因する炉心設計上の制約がなく、プラントとして冷却系統が簡単で、開発が容易であり、また、発電炉としての経済性は他の炉型式と比較して充分な競争力をもっと期待されるので、わが国において、今後ガス冷却高速増殖炉とどの様に取組むかを検討することが現時点で必要であるが、その判断を下すためには技術の予測と共に社会に導入した場合の環境保全及びエネルギー供給に対する効果等の社会的・資源的影響を考慮する必要がある。
本研究は、このために、発電用ガス冷却高速増殖炉について、社会的影響の要因となる技術の把握と、その影響について、基礎的解析を行な、、開発の位置づけに資することを目的とする。

(研究内容)

1 発電用ガス冷却高速増殖炉の性能摘出とプラント概念の作成


電気出力1000MW級の商業炉プラントを、1985年頃から1995年頃の間に建設する場合の発電用ガス冷却高速増殖炉の性能を、炉の比出力、燃料線出力、冷却材流動条件、プラント正味熱効率、プルトニウム・インベントリ、増殖比、燃料取替間隔、燃焼度等を摘出し、それらにもとづいて、必要な燃料、冷却系、工学的安全系の設備等を内容とするプラント概念をまとめる。
以上で摘出された性能に対応するナトリウへ冷却高速炉の性能を摘出する。

2 高速増殖炉の核燃料サイクルの検討

1で明らかにされた2つの型式の同等の電気出力の高速炉について、燃焼計算を行ない、供給・取り出し燃料中の、分裂性核種濃度を求める。このとき、ガス冷却型のブランケットの一部に、トリウムを使用することによる変化も検討する。
以上の結果をもとに、ナトリウム冷却型炉及びガス冷却型炉が発電システムへ導入された場合の、わが国の核燃料需要量・ウラン濃縮処理量及び再処理量に及ぼす影響を、2050年頃までの期間について検討する。このとき投入開始時期、両型式炉の投入率を変化させた場合の影響の検討、並びにガス冷却高速炉と高温ガス冷却炉との組み合せが加わることの影響の検討を行なう。

3 ガス冷却高速増殖炉の安全性の検討


ガス冷却高速増殖炉の反応度制御系・冷却系・格納容器・工学的安全系について:ナトリウム冷却型炉、及び高温ガス炉の設計基準から適用可能な項目を明らかにする。また、反応度事故、減圧事故、及び強制循環能力喪失事故時の解析を行ない、燃料及び被覆材温度の過渡状態を評価する。

4 まとめ


以上の調査検討をまとめて、ガス冷却高速増殖炉が導入された場合の核燃料サイクルに及ぼす影響、有効な炉型の投入のモデル、安全性の評価を行なう。

12 中レベル放射性廃棄物の固化処理に関する試験研究

(財)電力中央研究所

(研究目的)

 原子力発電所、再処理施設などから発生する放射性廃棄物の処理処分方針の確立は、わが国原子力発電開発上の重要かつ焦眉の課題である。低レベル放射性廃棄物の固化処理に関しては、すでにセメント固化に関する研究成果もあり、これを基として「試験的海洋処分用低レベル放射性廃棄物のセメント固化体に関する暫定指針」が作成されている。今後は、中レベル放射性廃棄物の処理処分に関する研究開発を早急に推進し、もって技術基準を作成し、処分に際しての安全評価を行ない得るための基礎となる研究成果を得ることがきわめて重要である。
 本研究は、中レベル廃棄物の海洋処分及び陸地保管を想定し、それぞれの処分方法に適合する廃棄物の固化手法、固化体の力学的性質と長期安定性及び固化体容器の安全性について、研究を実施しようとするものである。

(研究内容)

1 セメント固化に関する実験研究

 イオン交換樹脂、粉末樹脂及びフィルタースラッジのセメント固化に関し、適切なセメント及び混和材料を選定し、セメント固化体の性状(練りまぜ性、ブリージング、発熱、強度、体積変化など)を実験的に検討し処分条件に適合した最適配合を導くための基本的な資料を得る。

2 セメント固化体の力学性状に関する実験研究

(1)の実験成果をもとに製造したセメント固化体の一軸圧縮強度、高水圧下の力学的挙動、衝撃荷重に対する応答特性など力学的な基本的性状について実験的に研究を行なう。

3 海洋処分用固化体容器に関する実験研究

 高強度コンクリート、ポリエチレンなどの容器材
料の材料特性実験を行ない、これを基に中レベル廃棄物の海洋処分用多層構造の試作容器パッケージ縮尺モデルについて高水圧実験を行なって、その変形特性、耐力を実験的に明らかにする。また均圧弁を取付けた容器についても検討する。これらの実験結果をもとに海洋処分用多層構造容器を設計するための基本的資料を得る。

13 トリチウム廃棄物の安全取扱技術の開発に関する試験研究

(社)日本アイソトープ協会

(研究方法)

 原子力平和利用の進展に伴いその使用量が著しく増加してきたトリチウムについては、その廃棄物処理についての安全取扱技術が確立していないため、その確立が切望されてきた。
 本試験研究は、各種のトリチウム廃棄物の処理法について検討し安全かつ容易なトリチウム廃棄物の取扱い技術を確立するための基礎資料を得ることを目的とする。

(研究内容)

 昭和47年度、昭和48年度に引続いて、トリチウム廃棄物の安全取扱技術の開発について以下の試験研究を実施する。

1 トリチウム汚染固体廃棄物の処理法に関する試験研究

 トリチウムで汚染したガラス、プラスチック類等の固体廃棄物についてフード内に組込まれて破砕圧縮装置により、破砕・圧縮して容積を縮小する方法を検討し、さらに簡便な固化方法について検討する。

2 トリチウム廃棄物の集荷・貯蔵容器の検討に関する試験研究

 各種トリチウム廃棄物の集荷・貯蔵に適する容器及び充填剤に関する基礎的な検討として、罐詰罐、プラスチック容器等によるトリチウム漏洩汚染の防止効果並びに、それら容器に充填するパラフィン、活性炭等の充填剤の効果について検討する。

3 ホルマリン漬けトリチウム汚染動物の処理法に関する試験研究

 現在ホルマリン漬けとして保存されている、トリチウム汚染動物屍体を処理する一段階として動物屍体固形物とホルマリン液の分離法並びにホルマリンの有効な中和法について検討する。

14 障害を与える放射線の場の検出に関する試験研究

社会福祉法人 三井記念病院

(研究目的)

 放射線障害という身体的変化の検出には、生体内外における放射線線量の場のパターンの検出及びそのパターンの時間的変動を正確に記録し、この検出パターンに応じてしかるべき放射線管理を施す必要がある。
 線量の場のパターン検出には空間的高分解能および時間的高分解能が必要とされるが、現在のアンが一型カメラの空間的及び時間的分解能は必ずしも満足すべきものではない。そこで既存の80mmφ高分解能コリメータの技術及び螢光体素子に関する新着想などを基礎に発展的開発研究を行ない、シンチカメラの空間的並びに時間的分解能の向上をはかり、もって障害を与える放射線の場の検出に寄与することを目的とする。

(研究内容)

1 高分解能コリメータの試作

 従来の高分解能コリメータは製作技術上の難点がある。また周辺収差のため感度の均等性に欠ける。
上記の難点を改善し、かつ、200mmφの大きさの高分解能コリメータを試作する。

2 螢光体素子群の試作

 板状のNaI(Tl)クリスタルを用いたアンガー型カメラの分解能は現在6mm程度であり、かつγ線エネルギー依存性が大である。これらの難点を改善しうるような螢光体素子群を試作する。

3 組立総合講験

1)コリメータと螢光体素子群との組み合わせに関し、空間周波数的マッチングに関する設計研究を行なう。

2)既存の80㎜φコリメータとその大きさに合わせた螢光体素子群とを組み合わせ、フイルム及びイメージオルシコンヵメラを用いて性能予備試験
を行なう。

3)上記の結果を応用して実地使用可能な200㎜φコリメータとその大きさに合わせた螢光体素子群との組み合わせで、アンガー・型カメラに組みこみ、総合試験を行なう。

4 評価検討

 上記の成果をもとに、低レベルの放射線の場の強度及びその形状について試験例の測定を行ない、本研究により開発したシンチカメラについて評価検討を行なう。

15 ラジオアイソトープ電池を用いた心臓ペースメーカの安全評価に関する試験研究

(財)日本心臓血圧研究振興会

(研究目的)

 心臓疾患の治療手段として人工心臓刺激装置(ペースメーカー)が臨床に広く用いられている。しかしその寿命が短かいため患者に与える肉体的精神的経済的負担がきわめて大きい。このため、長寿命のアイソトープ電池を使用するペースメーカーが着目されており、外国ではすでに数百に及び使用例が報じられている。しかし、その実用化をすすめるためには、ペースメーカーを携帯する患者自身及び周囲に及ぼす影響について充分な安全性評価が必要である。
 このような現状を考えるとき、我が国においてもアイソトープペースメーカーの安全性の評価を試み、実用上の諸問題を検討しておくことが急務となっている。
 本研究はこのような研究を目的として実施するものである。

(研究内容)

1 漏洩放射線測定

 プルトニウム電池をファンタム中に入れ、その漏洩γ線線量分布をTLD素子を用いて測定し昭和48年度実施した空中における線量分布測定結果と比較検討する。次にプルトニウム電池の漏洩中性子線束の測定(エネルギー範囲~13MeV)を実施し、その線量分布を得る。

2 機械的試験

 プルトニウム電池の熱源カプセルの安全性を検討するために、機械的試験を行なう。カプセル材料として、ハステロイ-C、Ta-W合金、Taを用い、溶接法によりカプセルを作製する。作製したカプセルについて密封テスト(ヘリウムリークテスト)を実施し、密封状態を確認した後、圧縮破壊テスト(カプセル10個)、圧縮変形テスト(カプセル20個:荷重約500㎏、1000㎏)、衝撃テスト(カプセル20個:約13m/s)を行ない、各密封状態を調べ、その安全性を検討する。

3 電子部品の安全性

ペースメーカーの回路を構成する部品(トランジスタ、Mosトランジスタ、ダイオード、抵抗、コンデンサ)の放射線損傷を検討する。電池より漏洩するγ線及び中性子線のエネルギースペクトルに基づいて約10年間に相当する線量を照射し、電流一電圧特性の照射前後の変化を調べ電子部品の安全性評価を行なう。

16 ラジオアイソトープ輸送容器の安全性に関する試験研究

(社)日本アイソトープ協会

(研究目的)

ラジオアイソトープは医療用、工業用、研究用などに広く利用されているが、利用の進展に伴い、それらラジオアイソトープの輸送に用いられる容器、包装の安全性についての基準の明確化が要望されている。
 現在、我国において施行されている関係法規の基準は抽象的な表現に止っており、一方IAEA(国際原子力機関)においては「放射性物質安全輸送規則(1併3年版)」により、ラジオアイソトープの輸送容器の安全基準について、容器、包装の設計、試験方法などについて具体的な基準を定めている。従って、増加しているラジオアイソトープの国内、国際的な輸送、流通に際して、その安全を確保するため、1AEAの基準に準拠して国内の規定を整備する必要がある。
 本試験研究は、このような現状に対処して現在使用されている容器及び包装がIAEAの基準に合致するか否かを検討し、その安全の確保に資することを目的とする。

(研究内容)

 IAEAの輸送規則においては、輸送容器を工業用、A型(通常の輸送条件に耐えるように設計されたもの)、及び:B型(事故時の条件にも耐えるように設計されたもので、B(u)型とB(M)型に分けられている)に分けて、それぞれ設計、試験の条件を定め、収納しうるラジオアイソトープの種類、数量及びその取扱いなどについて規定されており、その試験項目は、A型については(1)通常時試験として、イ.水の吹きつけ試験、ロ.自由落下試験、ハ.圧縮試験、二.貫通試験、(2)液体、気体用のものについては前記のほかさらに試験条件を変えたイ.自由落下試験及び、ロ.貫通試験、B型については、(3)事故時試験として、イ.強度試験(落下試験1、Ⅱ)、ロ.耐火試験及びハ.浸漬試験がある。本試験研究においては、これら試験項目のうち、次の試験研究を行なう。

1 小量輸送用の輸送専用容器(A)型の安全性に関する試験研究

 段ボール箱外装及びドラム缶外装のA型輸送物について上記(1)の各項目の試験を行ない、安全性の検討を行なう。

2 非破壊検査装置の線源格納部分(A)型の安全性に関する試験研究

 市販されている非破壊検査装置の線源格納部分の輸送物(A)型について、上記(1)の各項目の試験を行ない、安全性の検討を行なう。

3 装備機器の線源格納部分(A)型の安全性に関する試験研究

 厚さ計、密度計、レベル計、水分計、イオウ分析計、ガスクロマトグラフのラジオアイソトープ線源格納部分の輸送物八型について、上記(1)の各項目の試験を行ない、安全性の検討を行なう。

4 大量線源用照射装置の線源格納部分(B)型の安全性に関する試験研究

 医療用60Co遠隔治療装置の線源格納部分の輸送物(B型)について、上記(3)のイ.ロ.項の試験を行ない、安全性の検討を行なう。

17 放射線発がんの誘発機構の解明及び放射線障害の検出技術の確立に関する試験研究

(財)原子力安全研究協会

(研究目的)

 人体に対する放射線障害の科学的信頼度の高いアセスメントを行うこと、このためとくに、低線量域に関する身体的遺伝的影響に関する科学的情報をうることは、原子力の平和利用の公衆への理解をうる基礎として不可欠のものである。本目的の達成のために大量の実験動物を用いた定量的データをうることが中心課題となる。このため放医研を中心としてマウスを用いた放射線発がん、霊長類の細胞遺伝学的研究、及び内部被曝についての大規模なプロジェクト研究の実施が考慮されている。しかしながら、本目的の達成のためには、これと一体となった体系的、総合的データが必要であり、とくに低線量域の研究のために必要な基礎的研究の確立と技術開発が必要となる。

(研究方法)

1 低線量放射線の乳がん発生への寄与の研究

 ラット(約300匹程度)を用いて10Rより200Rにわたる低線量放射線の乳がん誘発への脳下垂体ホルモンの併用効果を明らかにする。

2 低線量放射線の子宮内被曝の影響の研究

(ⅰ)低線量X線(25R程度)の照射をうけた胎生13日の胎仔マウスの大脳のオートラジオグラフ結果を基とし未分化神経細胞の細胞周期の動態を調査し神経細胞の増殖の分化への放射線の影響を明らかにする。
(ⅱ)発生中期のニワトリ胚より軟骨細胞をとりだし100rem程度の低線量域で放射線照射を行い分化機能発現への放射線障害を調べる。

3 人類、猿類の染色体異常の検出技術の開発研究

 正常日本人の末梢リンパ球を材料として写真撮影法による観察により染色体異常の検出を10才階級別(全細胞数2~3才)に行う。
 また、猿類については、新世界ザル(約5種)について末梢リンパ球を用い核型分析と飼育条件の資料
を得て、有用なモデル動物の選定資料を得る。

4 培養細胞における突然変異の検出に関する研究

 チャイニーズハムスターhai細胞より分離した栄養非要求株及び8-アザグアニン感受性株を用いて、放射線によって誘発される前進突然変異率を算定し、指標となる高感度のマーカー遺伝子の探索を行う。

5 内部被曝によるがん発生の疫学的研究

 内部被曝の実証例としてトロトラストによる被曝を取り上げ、2病院に保存されているカルテにもとづき、トロトラスト所有者を調査し、その症例について臨床・病理的調査及び線量評価を行い、疫学的研究で内部被曝を取り扱うことの有効性を検討する。

18 核物資不明量の統計分析による国内保障措置システムの設計研究

(財)核物質管理センター

(研究目的)

 国際原子力機関による検証とわが国の保障措置との円滑な運営を図るためには、わが国の国内核物質管理の実状に適応した保障措置システムを確立する必要がある。
 本研究の目的は、これに必要な国内核物質の保障措置検証システムを核物質不明量の統計分析の観点から設計し評価するもので、昭和48年度原子力平和利用委託研究による成果を基に、更に進んだ手法の開発を行なうことにある。

(研究内容)

 核物質不明損失量(以下MUFという)の統計分析のために以下の研究開発を行なう。

1 設計情報の電算機処理システムの開発

 施設者の核物質計量管理の正当性につき、その判定の基準となるべき設計情報の満たすべき内容を検討する。保障措置上必要とする設計情報の量と質とを、施設における核物質の流れ並びに在庫の状況、計量方法並びに精度、と対比して研究する。
 さらに、この設計情報の量と質から核物質計量管理において設計上許容し得るMUFを算定する手法を開発する。この手法に基づいて、電算機による迅速な算定を可能ならしめるプログラムを開発する。

2 MUFの多段検証システムの開発

 MUFが保障措置上許容される値(危険量の最大値)を検討し、この危険量の最大値と設計上許容される各施設毎のMUFとの間の対応関係を理論的に求める。
 なお、査察の強度を調整する場合、施設者のMUFの大きさの程度に応じて警報も発するシステムを開発し、そのプログラムを作成する。

19 原子力施設における核物質のフィジカル・プロテクションに関する研究

(財)核物質管理センター

(研究目的)

 原子力平和利用の本格化に伴い、わが国が保有する核物質の量は著しく増大し、その形態も多様化して来ている。これら核物質の平和利用を確保するためには、計量管理とともに、フィジカル・プロテクションの態勢を整えておく必要がある。
 本研究は、このような情勢に対処するため、特にプルトニウムおよび高濃縮ウランを取り扱う原子力施設における核物質のフィジカル・プロテクションの要件を検討し、もってわが国の保障措置制度の確立に資することを目的とする。

(研究内容)

 本研究の対象範囲は次の通りとする。

1)核物質の転用防止の一環として、原子力施設における盗用に対するフィジカル・プロテクションを対象とする。

2)核物質のフィジカル・プロテクション上、典型的なプルトニウム及び高濃縮ウランを対象とする。

3)主として前号核物質を使用する主要原子力施設、即ち、加工施設、原子炉施設及び再処理施設を対象とする。

 上記対象範囲における核物質のフィジカル・プロテクションの要件について、次の各項目の研究を行なう。

(1)原子力施設におけるフィジカル・プロテクションに関連する施設装置の要件の検討。
 核物質の盗用防止策を講ずるとともに、万一の場合には、早期に発見し、かつ回収措置を講じられるような態勢を整えておくことが必要である。このた
め施設の現状を参考にして、フィジカル・プロテクションに関連する施設及び装置の要件を摘出し、その実効性を考慮しつつ体系化を図る。

(2)原子力施設におけるフィジカル・プロテクションに関連する管理面の要件の検討核物質のフィジカル・プロテクションの見地から、施設及び装置の機能と相まって、管理面についても、これに必要な要件を摘出し、体系化を図る。

20 核燃料加工施設の計量管理における秤量誤差の取扱いに関する試験研究

(株)三菱総合研究所

(研究目的)

 本試験研究においては、核燃料加工施設を対象とし、現実に採用されている秤量操作に基き、各種秤量環境、秤量条件の影響を分析・検討しつつ、秤量器の示す精度の総合的解析・評価を行ない、効果的な保障措置システム設計に資する事を目的とする。

(研究内容)

1 誤差構造モデルの構築

(1)用語・用法の実態把握と明確化
 核燃料加工施設における計量管理の立場から、秤量関連用語の分類・定義・用法を明確化する。

(2)秤量誤差の発生要因の把握と予備的解析
 秤量測定における測定誤差発生の原因系を、測定方法・測定環境・測定機器の諸側面から考慮し、誤差発生要因を網羅的に列挙する。更に、次項以下の予備的解析として、加工施設の既存の操業データを使用しての誤差発生要因の検討を行なう。

(3)誤差発生要因の解析とウエイトづけ
 1の(2)項で列挙された諸要因を分類し、秤量値に対する寄与度の強い要因の抽出と選択を行なう。このために、適切なデータ収集計画を設定した上で、効率的な実験データ収集を実施し、多変量解析法等の手法を適用して解析を進める。

(4)誤差構造モデルの構築
 1の(3)項で抽出された主要因について、より詳細なデータ収集を行ない、そのうえで、主要因間の関連性・依存性を組み込んだ誤差構造モデルを作成し、要因の構造分析を定量的に行なう。

2 誤差構造モデルによる秤量値に関する総合解析

(1)誤差構造モデルの評価
 誤差構造モデルによる解析値と、秤量測定値との比較を通じて、有意性の検定等によるモデルの評価を行なう。

(2)秤量値の信頼性に関する総合解析
 誤差構造モデルを使用して、モデル・パラメータの感度分析や、ケース・スタディ実施により、秤量誤差の系統誤差、偶然誤差への分離、秤量精度の総合評価、秤量値の信頼性解析等を行なう。
また、秤量値の信頼性に関して、新たな:測定環境を想定してのシミュレーション的な解析と評価を行なう。

21 S/C-MBAにおける計量管理機械化システム及びその物的防護手段としてのフィージビリティに関する研究

(財)工業開発研究所

(研究目的)

 我が国の健全なる原子力産業の発展のためには、保障措置制度における査察業務を合理的かつ簡素化する国内査察制度の整備充実が必要であると同時に各種のテロ行為、その他による産業妨害行為、特殊核物質の盗難などの非平和的行為から原子力関連施設を防護することにより公衆の安全を確保するための対策をはからねばならない。
 従来より保障措置システムに関し、システム分析の立場から、その平等性合理性について検討が行なわれ、この結果各施設の貯蔵庫、冷却池のような物質収支区域(MBA)に対しては監視(Surveillance)、封じ込め(Containment)の査察手段が適用されるべきあり、そのための新しい核燃料物質計量管理システムの開発が急務であることが指摘された。これら保障措置上の監視、封じ込めの概念に基づくMBAの核燃料管理技術の確立は査察業務の合理化、簡素化の点から要求されるばかりでなく物的防護(Physical Protection)の手段確立のためにも必要である。
 本研究はこのような必要性に立脚して物理的手段としての核燃料管理技術についてその実用性を統計的手法により検討、評価し、保障措置上の物理的計量管理システム確立のための資料を提供し、あわせて物的防護の手段としての実用可能性を評価し、その基礎的概念を提供することを目的とするものである。

(研究内容)

1 物理的計量管理技術の実用化検討

 監視/封じ込め物資収支区域(S/C-MBA)における出入り、インベントリーの物理的計量管理技術として、γモニター、重量センサー、非破壊試験装置等の計量技術及びシール、移動式固定式テレビカメラ、赤外線計数装置等の計数技術、錠についてその実用性を検討評価する。

2 物理的計量管理機械化システムの検討

 上記(1)で検討された技術のうち、比較的実用性の高い技術について、その機械化を検討し、更に核物質を時間的、空間的、量的に管理し、移動量、存在量を確認し、不明量を検出しうる機械化システムを組み立て、その検出精度などを統計的手法によって検証するためにケーススタディを行ない、計量管理機械化システムの実用可能性を検討する。

3 物的防護手段としての実用可能性の検討

 物的防護手段の構成要素を調査し、(1)、(2)で検討した物理的計量管理技術及びその機械化システムについこて、これらを物的防護手段に適用した場合の効果をケーススタディによって解析し、評価することにより、物的防護手段の実用可能性を検討する。


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