前頁 |目次

原子力利用の推進に関する方策


昭和49年7月11日
原子力問題懇談会

森山国務大臣談話

 昨秋の石油危機を契機として、原子力発電の推進が喫緊の課題となっている。
 このような情勢にかんがみ、昭和49年度から原子力発電推進に関する一連の緊急施策を実施に移しつつあるが、原子力発電を中心として原子力の開発利用を今後中長期にわたって円滑に推進するためには今後一層強力な施策を講ずることが必要である。
 以上のような観点に立って、関係各界の指導的立場にある下記のメンバーとともに「原子力利用の推進に関する方策」について去る4月25日以来6回にわたり懇談会を開き、精力的に検討を続けてきたが、このほど当面早急に講ずべき方策を別紙のとおりとりまとめることができた。
 この報告書については、直ちに原子力委員会に附議し同委員会における原子力開発利用長期計画の見直し等、基本政策の審議、決定に資するとともに、昭和50年度予算編成に反映させるなどすみやかに適切な措置を講ずることとしたい。
 なお、今後の原子力委員会における審議の過程において、広く関係各界からの活発なご意見が寄せられることを期待し、あわせてこれに盛られた諸方策の推進についてご協力を賜りたいと考えている。

懇談会メンバー(敬称略、順不同)

有沢広已、土光敏夫、松根宗一、木川田一隆井上五郎、稲葉秀三
前田正男、田中六助、小宮山重四郎、伊藤宗一郎

原子力利用の推進に関する方策

 昨年秋の石油危機を契機として、国民の原子力に対する期待は急速に高まりつつある。
 他方、この両三年間の原子力発電計画の大幅な遅れをとり戻すために、昨年末から、政府において緊急対策が急がれた結果、その第一段階の施策が昭和49年度から発足することとなった。
 すなわち、第一には、原子力発電計画の遅延についてその実情を国民の前に明らかにし、原子力発電計画推進の重要性について認識を高めるとともに、関係者の奮起を促したことである。
 第二は、原子力発電の安全性に関する政府の責任を明らかにし、安全審査体制の充実、安全性を一層高めるための安全研究の強化に大きく踏みだしたことである。
 第三は、原子力発電所等の周辺地域住民の宿願であった電源開発に伴う開発利益の地元還元による発電所等の立地円滑化のための措置、すなわち電源3法の成立である。
 このような施策と相まって、本年7月の電源開発調整審議会には2年ぶりに原子力発電所建設計画が提出されるなど、情勢はようやく好転しつつあるが、この方向を持続し、発展させるために、今後とも本腰を入れて取り組むべき課題は、きわめて多い。
 本懇談会では、わが国における原子力利用が今後確固たる基盤のもとに推進されるための当面の重要施策について、去る4月25日以来6回にわたる検討を行ってきたが、今回、「原子力利用の推進に関する方策」としてつぎのとおりとりまとめたものである。

1 原子力利用の推進に関する基本的考え方

(1)わが国が過去20年近く維持してきたエネルギー供給構造は、昨年秋の石油危機を契機として、きわめて脆弱な基盤に立っていることが明らかとなった。
 いまや、国民生活および経済運営に必要なエネルギーを長期にわたって安定的に確保することが最優先の政策課題となっている。この場合、資源に乏しいわが国としては、原子力をはじめとする新エネルギーに対する依存をほかのどの国よりも高めることが要請されるが、とりわけ原子力は、現在、実用化されつつある唯一の新エネルギーであり、その開発利用、推進政策のあり方が今後のわが国の長期にわたるエネルギー政策の成否の鍵を握るといって過言ではない。
 また、最近になって国民の間に電力危機に対する認識が芽生え、数年後には停電もありうるという事実が理解されるようになってきた。
 わが国において、国民生活の高度化を今後とも着実に進め、高福祉国家の実現をめざす場合に各家庭で直接消費する電力需要の増大にこたえることはもちろん、国民生活に必要な物資やサービスを円滑に供給するための産業用、業務用電力需要に対応していくことがきわめて重要であり、このことは最近における電力制限の貴重な体験といえよう。
 このように国民生活の高度化に伴って直接、間接に増大する電力需要に応え、石油への依存を減らしながら安定した電力供給を行う体制を確立するためには、他の代替エネルギー開発の努力もさることながら、もっとも現実的なものは原子力発電であり、その積極的な推進を図る以外に適当な解決策はないのである。
 先般の石油危機以降、世界各国ともそれぞれ新しいエネルギー政策の確立を急ぎつつあるが、それらにすべて共通しているのは、原子力発電の大幅な推進と原子力研究開発に対する思いきった資金の投入である。
 この時期に、わが国が原子力発電を中心とする原子力開発利用方策の推進に成功しなければ、わが国は、将来エネルギーの壁のために前進を阻害され、混乱の時代を迎えなければならないであろう。
 原子力開発利用政策は、従来から、計画的遂行を本旨としてきたが、この両三年の間は、立地問題等によって行きづまりをみせていた。今日における内外の客観情勢に即応して原子力に対する国民の期待に応えるためには、今後、その開発利用を計画性をもって積極的に推進すべきである。

(2)原子力開発利用の推進に際して当面する最大の課題は、現在の実用炉を中心としての原子力発電の推進である。昭和47年6月に原子力委員会で決定した原子力開発利用長期計画で示されている昭和60年度6,000万kwの開発目標の達成は、今日のエネルギー情勢からも最低の目標値として維持すべきものと考えられるので、それを可能とする原子力政策の実施に全力を尽すべきである。

(3)原子力は、今世紀の科学技術の成果の結晶であり、実用化を迎えつつある今日においても、その一層有利で信頼性が置ける利用技術を確立するために、今後とも科学技術が果たすべき役割がきわめて大きい分野である。他の先進諸国に比して遅れて原
子力の研究開発に着手したわが国としては、現在の実用炉については導入技術を基盤としての産業化を図ってきた。
 しかし、今後、原子力に比重を置いたエネルギー供給構造に移行する場合、その自主性を確保するためには、何よりも原子力分野における技術ポテンシャルを高めることが重要である。とくに原子力産業は典型的なシステム産業としてきわめて広範囲な科学技術分野における最新の成果に大きく依存するものであって、これらの広範な科学技術分野での開発能力、すなわち基礎研究を含めて研究開発に努力することにより総合的技術力をレベルアップすることが望まれる。
 また、このような総合的技術力のレベルアップは、とりもなおさず資源に恵まれないわが国が今後きびしい世界情勢の中で伍して行くための必須の要件であって、システム産業としての原子力に関連する科学技術を推進することによるスピルオーバー効果にも大いに期待すべきものがあろう。
 さらに、最近の情勢では、最新技術については外国からの一方的導入は困難であり、わが国自身が技術開発を大いに努力して相当の成果を生みだし、これを相手にも提供するという対等の立場に立った先進国の国際技術協力やさらに資源国に対する技術援助に努力しなければならない情勢にある。

(4)以上のような視点に立ってみた場合、核燃料の有効利用をはかり原子力発電の有利性を最高度に発揮せしめる観点から現在の実用炉である軽水炉にひきつづくものとしての新型転換炉および高速増殖炉の技術開発について、一層の努力を傾注するとともに、エネルギー問題を根本的に解決する核融合の研究開発の飛躍的前進を図る必要があると考えられる。
 とくに新型動力炉に関しては、現在の開発計画が策定された当時にくらべ、ウラン確保が困難になりつつあるすう勢にかんがみ、核燃料の有効利用が可能である新型動力炉の開発の速度をさらに高める必要が生じている。その際、新型転換炉については高温ガス炉などとあわせ総合評価を行い動力炉政策上の位置づけを再度明確にすべきである。高速増殖炉については、開発速度を高める方策を確立すべきである。さらにトリウム燃料サイクルについても溶融塩炉などとともに検討すべきである。
 他方、核融合の研究開発については、現在制御熱核融合反応の実現をめざす第二段階の検討を原子力委員会の核融合懇談会で行っているが、所要資金の確保はいうまでもないが、わが国の総力を結集しうるか否かに、プロジェクトの成否がかかっているといえよう。また、このプロジェクトの実施に当っては、柔軟で弾力性のある効率的な研究開発組織をわが国に根づかせることがとくに重要である。

(5)原子力利用の推進に関し必要な事項のうち、当面の原子力発電計画の遂行に関連する問題は、とくに緊急を要するものとして、以下、個別的に述べるが、このほか、急速な規模拡大に伴い当然必要となる人材問題につき特段の注意を払うべきである。現状のまま手をこまねけば、研究者、技術者の不足は必至であり、人員不足、訓練不足が原子力発電推進の重大なボトルネックになることが予想される。
 また、原子力発電の全発電中に占める比重が高まっていくに従い、電力の安定供給の要請から現在の稼動率を一段と高め80%台にのせることが必要であり、このような発電面での信頼性を高めるための実用炉の改良研究を進めるべきである。
 さらに、原子力発電の推進のためには、建設の全期間を短縮するため、許認可手続促進の技術的解決策も考慮しつつ、現在米国で検討されている「原子力発電所設計の標準化」等について、わが国においても早急に検討を行う必要がある。

(6)原子力開発利用は、国際的関連性がきわめて強く、わが国は研究開発の当初から、国際協力には努力をはらってきたところである。今日、原子力の本格的実用期を迎え、ウラン資源の確保、濃縮ウランの入手、その他、国際場裡で解決すべき諸問題は、ますます増加しつつあり、わが国の原子力開発利用の効果的推進をはかるためには、密接な国際協力が不可欠である。すでに原子力が産業として成長した今日、各種の利害が錯綜する国際場裡において、わが国の自主性をできるだけ確保しつつ国際協力をすすめることは決して容易なことではないので、政府と民間が密接な協力のもとにこれをすすめなければならない。
 さらに最近では、国際的に資源問題が厳しい情勢を迎えつつあり、持たざる国としてのわが国が国際協調をはかりつつ互恵的立場に立って資源を確保するためには、とくに国際協力のすすめ方について特段の考慮を払うことが必要といえよう。

2 原子炉の安全問題への対処

(1)原子力をめぐる安全問題については、この際、政府、原子力委員会が、権威をもって原子力発電の安全性に関する考え方を明示することが何よりも望まれるところである。原子力発電所の増加に対応する安全確保策の充実とあわせ、原子力の安全性については国が責任をもつことを前提としてその基本的な考え方を国民に明らかにし、国民の不安を一掃することが必要である。

(2)原子力発電所の増加に対応するには、現在の安全審査体制では量的に不充分であり、そのため審査要員の大幅な増員、および審査委員の常勤化が必要であるが、基準の整備、審査を補佐する調査研究機能の充実等質的な強化にも意を払うべきである。
 さらに原子炉の設置許可をした後、建設中ないしは運転中においては、安全設計が具体的に実現され、かつまた、施設の運営管理が人的要素も含め安全に行われていることを確認するなど監視体制の強化が不可欠である。
 このためには、原子炉の安全審査と、それ以降の規制監督行政の分離している現状は問題があり、一貫した安全確保体制の確立をはかるべきである。

(3)安全研究の強化
 現在の軽水炉の安全性はすでに確立されているが、技術の進歩に応じて、既に確保されている安全性について安全度をさらに高め、あるいは安全余裕度について最新の実証的データにより確認するために炉工学面を中心とする安全研究を積極的に進める必要がある。このため、政府と民間の役割の分担を明らかにするとともに、必要な安全研究を早急に実施できるよう大幅な予算措置を今後ともひきつづき講ずるべきである。また、安全研究を効率的に推進する見地から、国際協力も積極的に進めるべきである。

3 放射性廃棄物処理処分対策

(1)放射性廃棄物に対する国民の不安の解消
 国民が不安に思っている原子力施設から放出される放射性物質や、放射性廃棄物の処理処分について、原則として一般産業廃棄物と同様の発生者費用負担主義をとるのは当然であるが、安全確保に関しては政府が最終責任を負うことを改めて明らかにし、国民の不安を解消しなければならない。

(2)放射性物質の放出低減化
 原子力発電所の増加や集中立地、再処理施設の稼動に対処してゆくには、放射性物質の放出低減化の研究開発を積極的に推進することが不可欠であり、49年度にひきつづき大幅な予算措置を講ずる必要がある。

(3)原子力発電所等からの放射性固体廃棄物(低レベル廃棄物)の処分
 放射性固体廃棄物(低レベル廃棄物)の処分体制については海洋処分問題も含め、これを具体的に推進する一元的な体制の確立を急ぐ必要があり、放射性廃棄物処理処分センターを官民一体となって早急に設立するべきである。

(4)再処理施設からの高レベル放射性廃棄物の処理処分
 再処理施設からの高レベル放射性廃棄物の処理方法については、諸外国の技術をも参考にわが国における処理技術の確立のための研究開発を、再処理施設の稼動スケジュールに合わせて、動燃事業団に強力に行わせる必要がある。また、処分方法についてもあわせて検討を行うべきである。

4 核燃料対策

(1)核燃料サイクルの確立
 わが国では、天然ウランは海外に依存せざるを得ないが、それ以外の核燃料サイクルを分担する部門については、基本的には国内において確立する方針を堅持するとともに、資源国との協同関係を発展させるためには、国際協力も考慮しなければならない。

(2)天然ウラン資源の確保
 天然ウラン資源に関しては長期的には、資源国との友好関係を強化する中で、官民一体となった確保策を進めるべきである。とくにウラン資源をめぐる世界各国の動きは急であり、わが国も確保のための方策を早急に確立しなければならないが、このため民間を主体に探鉱開発を活発化させる助成策を強化すべきである。また、ウラン資源の備蓄問題についても民間において積極的な方針を講ずべきであるが、エネルギー自立の見地から国が直接的に関与することもこの際検討を要する課題である。
 なお、海水からのウラン回収技術の研究開発の推進、トリウム燃料サイクルの導入についても検討する必要がある。
(3)濃縮ウランの確保
 国際共同濃縮計画への参加問題については、調査結果を検討の上結論を得るものとする。一方、わが国の濃縮ウラン確保の自主性を確立することの重要性にかんがみ、遠心分離技術の開発など濃縮技術の確立をさらに積極的に推進しなければならない。

(4)使用済燃料再処理の推進
 使用済燃料の再処理体制の確立のため、現在動燃事業団が建設中の第一再処理工場については、懸案事項の解決を急ぎ、予定通り試運転に入る必要がある。
 第二再処理工場については、民間が国内において建設する方針であり、政府は資金等の面における必要な援助を行うとともに必要な法改正、立地及び規制指針づくりを行う必要がある。
 同時に使用済燃料の輸送にかかる法令、基準等の改訂整備を急がねばならない。

5 地元問題への対処

(1)現在の現子力発電等の立地難に対処するには、原子力発電等をめぐる個々の問題を具体的に解決するとともに、同時に立地問題としての問題把握、現状分析と対処策が不可欠となってきている。現行の立地プロセスにおける制度上・技術上の問題は別として、現在の立地難の原因には、次の5つの要因が、地域的な特殊な様相を帯びながら、からみあっていると思われる。すなわち、①安全性、環境問題に対する漠然たる不安②地元へ利益が還元されないことへの不満③「総論賛成、各論反対」で自分の地域へは立地してもらわないほうが都合がよいという風潮④国の政策と地方政治とのずれ⑤現在の政府の政策には、政治的に賛成できないとする態度である。
 立地問題の解決のためには、各サイトの現状をこうした要因にもとづき分析し実情を把握した上で適切な方策を講ずる必要がある。
 原子力発電所の立地促進のための安全性に関する広報活動に関しても、以上のような立地阻害要因の分析の上に立って、各地の実情をよく把握し、一般住民の信頼を高めることを主眼とした活動が実施されなければならない。

(2)さらに、立地問題に関しては、原子力開発計画と地域開発計画との総合的な調整を行い地域経済との調和をはかることにより、地元住民の理解と協力がえられると考えられる。このためには、今国会で成立した「電源三法」により地域住民の福祉向上に役立つ公共施設を充実させることとし、そのための具体的運用等について早急に方針を確立するとともに、雇用機会の増大に対する地元住民の希望、第一次産業、特に沿岸漁業の振興や農業の工業化に対する漁民、農民の希望を実現するため、国と地方公共団体が一体となって具体的な措置を講ずる必要がある。

(3)とくに立地問題に関連して漁業関係者等の重大な関心となっている温排水問題については、影響の有無およびその範囲に関する調査研究、排水基準の設定などをすすめるべきであるが、今後は沿岸漁業の振興策や農業の工業化策と結合させるため、養魚や温室栽培、地域暖房など温排水利用の実用化をすすんで推進し、関係省庁が一体となって温排水問題解決をはからねばならない。

6 立地適地の確保等

(1)今後の原子力発電の規模拡大という政策目標を実現してゆくためには、原子力発電所の現状における技術的立地制約条件のもとに、可能適地総面積について早急に見通しを得ることとする。しかし、これによっても将来の拡大に応ずるための適地は不足すると予想されるので、地下立地、沖合発電所など現在の制約条件を技術的に打破する新立地方式について検討をすすめるべきである。
 また、大規模な原子力発電所と関連原子力施設の一ケ所集中立地方式(ニュークリアパーク構想)も、原子力用地の効率的確保策として有効であるので、具体的検討を行う必要がある。

(2)なお、現行の立地プロセスにおける制度上の問題
点が、地元の反対とからみあって、許認可手続を大幅に遅延させる大きな原因となっている。この点を改めることにより計画の促進が見込まれるので、電源開発調整審議会の運営方法、原子力発電所設置に伴う各種の許認可制度について改善をはかるべきである。

7 原子力行政機構の再編

(1)原子力発電計画等原子力開発を急速に進展させてゆくには、急増し、かつ、多様化の一途を辿る行政需要に対応できる柔軟かつ強力な原子力行政機構が必要とされる。現行の原子力委員会、原子力局、関係省庁との事務分掌の体制は、わが国原子力開発の初期から基本的には変化していないが、原子力が社会のかかすことのできない基本的な部門として発展しつつある現在、抜本的な見直しを行う時期にきていると考える。

(2)現状の原子力行政に対する主な批判は二つある。
一つは原子力発電所の安全規制とその開発促進の行政体制が一つであって安全が無視されているのではないかということであり、その二つは安全規制に対する一貫性及び最終責任がないのではないかということである。原子力発電所の今後の増加に対応して、安全確保の行政を量的にも質的にも充実し、効率化することにより、これらの批判にこたえるべきである。

(3)このほか、核燃料サイクル各事業についての行政体制にも批判がある。すなわち、この事業についての責任体制が明らかではなく、核燃料サイクルの国内確立が急務となっている現在、この点の改善が必要であろう。

前頁 |目次