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関西電力株式会社美浜発電所の原子炉の設置変更(2号および3号原子炉施設の変更)に係る安全性について


昭和49年7月25日
原子炉安全専門審査会

原子力委員会
 委員長 森山 欽司殿
原子炉安全専門審査会 
会長 内田 秀雄
関西電力株式会社美浜発電所の原子炉の設置変更(2号および3号原子炉施設の変更)に係る安全性について

 当審査会は、昭和49年5月21日付け49原委第140号および第141号(それぞれ、昭和49年7月25日付け49原委第214号および第215号をもって一部訂正)をもって審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

Ⅰ 審査結果

 関西電力株式会社美浜発電所の原子炉の設置変更(2号および3号原子炉施設の変更)に関し、同社が提出した「美浜発電所原子炉設置変更許可申請書」(2号原子炉施設の変更)(昭和49年3月7日付け申請、昭和49年7月17日付け一部訂正)ならびに同(3号原子炉施設の変更)(昭和49年4月17日付け申請、昭和49年7月17日付け一部訂正)に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 変更の内容

1 2号原子炉施設関係変更事項

 「原子炉本体の構造および設備」ならびに「計測制御系統施設の構造および設備」の一部を次のとおり変更する。

(イ)第5領域以後の取替燃料の235U濃縮度を約2.6wt%とする(従来は、約3.4wt%)。ただし、第4領域取替燃料の235U濃縮度は従来どおり約3.4wt%とする。

(ロ)主要な核的制限値のうち、平衡炉心における過剰増倍率を019△k以下とする(従来は023△k以下)。

(ハ)平衡炉心初期における出力運転時のほう素濃度を約1,100pPmとする(従来は約1,400PPm)。

(ニ)平衡炉心における反応度制御能力を0.20△k以上とする(従来は0.24△k以上)。

2 3号原子炉施設関係変更事項

(1)「原子炉本体の構造および設備」ならびに「計測制御系統施設の構造および設備」の一部を次のとおり変更する。

(イ)主要な核的制限値のうち、初装荷炉心の過剰増倍率を0.22△k以下(バーナブルポイズン棒そう入時)とする(従来は020△k以下)。

(ロ)初装荷炉心にそう入するバーナブルポイズン棒の個数を、896本とする(従来は816本)。

(ハ)初装荷炉心における反応度制御能力を0.23△k以上(うち制御棒クラスタによるもの007△k)とする(従来は0.21△k以上(うち制御棒クラスタによるもの0.06△k))。

(二)初装荷炉心初期における出力運転時のほう素濃度を約1,100PPmとする(従来は約1,200ppm)。

(2)「放射性廃棄物の廃棄施設の構造および設備」のうち、気体廃棄物処理設備に水素再結合装置を1基設置し、それにともない、ガス圧縮機を4台(従来は2台)およびガス減衰タンクを8台(従来は4台)とする。

Ⅲ 審査内容

1 2号原子炉施設関係変更事項

(1)「原子炉本体の構造および設備」ならびに「計測制御系統施設の構造および設備」の変更
 本変更は、原子炉を効率よく運転、維持する目的で、定検時期と燃料取替時期が一致するように、取替燃料の235U量を変更することに伴なうものである。

① 核・熱特性
 本変更により、平衡炉心における過剰増倍率の最大値は低減するが、制御棒クラスタの制御能力に変更はなく、平衡炉心初期におけるほう素濃度が低下するにとどまる。したがって、反応度制御能力および停止余裕に問題はない。
 また、減速材温度係数、ドップラー係数、ピーキング係数等の核・熱特性値についても検討したが、いずれも安全評価に用いられている値に対して安全余裕がある。

② 燃料の健全性
 濃縮度の変更により、燃料の健全性に本質的は影響はないが、燃料の焼きしまりおよび燃料棒相互間隔の変化については、次のような配慮が講じられており、妥当である。
 燃料の焼きしまりに関しては、高密度二酸化ウランペレット(理論密度の約95%)を使用し、焼きしまり効果を低減させる製作方法を採用するとともに、燃料被覆管内を加圧することとしている。
 また、燃料棒相互間隔の変化は、燃料棒下端と下部ノズル部との間に間隙を設け、燃料棒の下方への延びも可能にした。いわゆるボトムオフ型燃料集合体を使用することとしている。

(2)事故評価
 本変更に伴ない、核熱諸定数はやや変化するが、従来の値より安全余裕をもつ側に若干移行する程度であり、事故評価を変更する必要はない。

2 3号原子炉施設関係変更事項

(1)「原子炉本体の構造および設備」ならびに「計測制御系統施設の構造および設備」の変更
 本変更は、燃料ペレット密度を理論密度の95%(従来は93%)に増加させることおよび同型炉の運転経験等をもとに、高浜発電所(1,2号炉)に用いた計算手法により再評価したものである。

① 核・熱特性

 本変更により、炉の過剰増倍率は0.02△k増加するが、バーナブルポイズン棒12本で構成されているクラスタ68体のうち20体をバーナブルポイズン棒16本構成に変更することにより0.01△k、制御棒クラスタの配置変更を行なうことにより0.01△k反応度制御能力は増加する。
 過剰増倍率の増加分は、バーナブルポイズン棒の増加、制御棒配置の変更およびほう素濃度の調整により、十分補償することが可能であり、過剰増倍率が最大となる初装荷炉心初期においても0.01△k以上の停止余裕は確保される。
 バーナブルポイズン棒の増加は、出力分布の平坦化をも目的として行なわれ、この結果、炉心半径方向のピーキング係数は、従来の値の1.41から1.31に改善される。
 また、初装荷炉心初期における出力運転時の臨界ほう素濃度は、約100ppm低減するが、これについては負の減速材温度係数を大きくさせることになるので問題はない。
 なお、計算結果の信頼性に関しては、美浜発電所1号および2号原子炉において制御棒価値等に係る計算値と実測値との比較がなされており、これらの値は妥当である。

② 燃料の健全性
 燃料の健全性に関しては、Ⅲ、1、②に述べたものと同等の対策が講じられることになっており妥当である。

(2)「放射性廃棄物の廃棄施設の構造および設備」の変更
 本変更は、一次冷却材中に溶存している核分裂生成ガス(希ガス)を体積制御タンク内で水素により連続油気し、一次冷却材中の希ガス濃度を一層低減させようとするものである。
 本装置の系統は、ガス圧縮機、予熱器、酸素供給装置、反応器、冷却器、湿分分離器、ガス減衰タンク等で構成され、既設のガス圧縮機およびガス減衰タンクと並列に設けられる。
 体積制御タンク内の一次冷却材中に吹き込まれた水素は、希ガスを抽気した後、ガス減衰タンクから再循環してきた窒素と混合し、ガス圧縮機に入る。ガス圧縮機を出た窒素、水素および希ガスの圧縮混合ガスは、予熱器で約100℃に加熱され、その後、酸素が添加されて反応器に入り、水素および酸素は反応器内で結合する。反応器の触媒温度は230~270℃程度(制御値450℃以下)、出口温度は230~270℃程度(制限値450℃以下)である。反応器を出た混合ガスは、冷却器および湿分分離器で水分を除去され、窒素と希ガスのみの混合ガスとなってガス減衰タンクに入る。タンク内のガスは、ふたたびガス圧縮機に導かれ、系内を循環し、希ガスを蓄積する。
 本装置を運転する際は、4台のガス減衰タンクのうち1台が本装置に接続され、使用されていたガス減衰タンクに、循環ガスを貯蔵する場合には、他のガス減衰タンクが接続される。
 なお、既設のガス圧縮機およびガス減衰タンクは従来どおり、一次冷却系統に付属するタンク類のベント集合管に接続されて、これらの気体廃棄物処理に使用される。

① 安全対策
 本装置は、以下のような安全対策が講じられることになっており、原子炉の安全性が損なわれることはない。

(ⅰ)混合ガス中に含まれている水分が結露し、触媒の性能が低下するのを防止するため、反応器入口ガス温度を約100℃に保たれるよう自動制御を行なう。

(ⅱ)反応器入口の酸素濃度を混合ガス中の水素濃度の1/2(通常約0.9%)になるよう自動制御を行ない、酸素濃度が2%を越えないよう設定された自動ロック機構を設ける。

(ⅲ)系内が負圧になり、空気が混入して酸素濃度が上昇することを防ぐため、ガス圧縮器入口圧力が大気圧程度に低下した場合、ガス圧縮機が停止するとともに、水素流量制御弁が閉鎖するように設定された自動ロック機構を設ける。

(ⅳ)万一の場合にそなえ、水素再結合装置および各タンクは、鉄筋コンクリートの隔壁で仕切られた部屋に分離して収納する。

(3)各種事故の検討
 燃料の設計変更によって核・熱諸定数が異なってきたため、従来行なわれていた各種事故の解析を再検討したが、いずれの場合でも対策は十分であり、本原子炉の安全性は、十分確保し得るものであると認める。

3 平常時被ばく評価

 本発電所の変更前における平常時被ばく線量の評価値は、敷地境界外の最大地点で0.43mrem/yである。
 今回の変更のうち、3号原子炉に水素再結合装置を設置することによって敷地周辺における平常時被ばく線量は低減することが期待されるが、同装置の使用経験が不足している現状にかんがみ、上記平常時被ばく評価値は変更していない。

Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和49年5月24日第126回審査会において、次の委員よりなる第109部会を設置した。

審査委員
都甲泰正(部会長)
村主進
竹越尹
東京大学
日本原子力研究所
動力炉・核燃料開発事業団
調査委員
石川迪夫
石田泰一
日本原子力研究所
動力炉・核燃料開発事業団

 当該部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行なうこととし、昭和49年6月6日第1回会合を開催して以来審査を行なってきたが、昭和49年7月17日の部会において、部会報告書を決定し、本審査会はこれを受けて昭和49年7月25日の第128回審査会において、本報告を決定した。


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