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動力炉・核燃料開発事業団敦賀事業所の原子炉の設置変更(新型転換炉施設の変更)に係る安全性について


昭和49年7月25日
原子炉安全専門審査会

原子力委員会
 委員長 森山欽司殿
原子炉安全専門審査会 
会長 内田 秀雄
動力炉・核燃料開発事業団敦賀事業所の原子炉の設置変更(新型転換炉施設の変更)に係る安全性について

 昭和48年10月23日付け48原第8780号(昭和49年7月25日付け49原第6569号で一部訂正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。

 当審査会は、昭和48年10月23日付け48原委第680号(昭和49年7月25日付け49原委第216号をもって一部訂正)をもって審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

I 審査結果

 動力炉・核燃料開発事業団敦賀事業所の原子炉の設置変更(新型転換炉施設の変更)に関し、同事業団が提出した「新型転換炉原型炉原子炉設置変更許可申請書」(昭和48年9月11日付け申請、昭和49年7月20日付け一部訂正)に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 変更の内容

1 燃料体の変更

(1)混合酸化物燃料のプルトニウム混合比を、燃料集合体の外層燃料16本は0.7%、中間層及び内層12本は1.0%の2種類とする。(従来は混合比0.75%均一)

(2)燃料集合体のスペーサの個数を12個とする。
(従来は9個)

(3)被覆管肉厚を0.86mmとする。(従来は0.84mm)

2 カランドリア管の変更

 カランドリア管の炉心部内径を156.4mmとし肉厚を1.9mmとする。(従来は、149.8mm及び1.5mm)

3 蒸気ドラムの変更

 蒸気ドラムの材料を炭素鋼とする。(従来は、低合金鋼)

4 隔離冷却系ポンプの変更

 隔離冷却系ポンプの形式を電動機駆動とする。(従来は、蒸気タービン駆動)

5 スクラム条件の追加

 従来のスクラム条件に次の4条件を加える。

(1)重水温度高
(2)重水流量低
(3)ヘリウム流量低
(4)蒸気加減弁急速閉

6 気体廃棄物処理施設の変更

 タービン復水器空気抽出器系に活性炭式希ガスホールドアップ装置を設置する。

7 原子炉格納容器空気再循環設備の変更

 循環送風機の台数を3台とする。(従来は2台)

8 重水系の変更

(1)重水冷却熱交換器の台数を2台とする。(従来は1台)
(2)重水循環ポンプの容量を660m3/hとする。(従来は750m3/h)

9 非常用電源設備の変更

 ディーゼル発電機の容量を6,000kVA/台とする。(従来は5,000kVA/台)


Ⅲ 審査内容

1 燃料体の変更

(1)プルトニウム混合比の変更
 混合酸化物燃料のプルトニウム混合比を2種類とすることによって燃料集合体内の出力分布は平坦化され、局所出力ピーキング係数は約6%減少し、燃料の熱的安全余裕が増大する。出力分布平垣化についての計算値は、動力炉・核燃料開発事業団の重水臨界実験装置(DCA)における実測データとの比較検討により、妥当であると判断する。
 なお、混合比が2種類のペレットを用いることによる燃料集合体の誤組立てを防止するため、燃料製作時に、次のような配慮がなされることになっている。

(ⅰ)燃料被覆管にペレットを充填する際、工程は混合比別に独立とし、それぞれの燃料棒端栓部には刻印及び識別マークをほどこす。

(ⅱ)燃料棒の端栓及びタイプレートの端栓挿入孔を外層燃料棒と中間層及び内層燃料棒とで、それぞれ異なる直径とする。

(2)スペーサ個数の変更
 動力炉・核燃料開発事業団が大型熱ループ(HTL)において行ってきたバーンアウト熱流束に関する実験の結果、スペーサ間隔の変化によってバーンアウト熱流束が変化することが明確となった。このことは、スペーサの存在によって起る冷却材の混合効果と塞止効果の競合関係に基づくものと考えられている。このため、従来の等間隔で配置した9個のスペーサを移動して種々の検討を行った結果12個のスペーサを中心部が密となるように配置することに決定したものである。その後実寸模擬燃料体を用いHTLで20回以上に及ぶ限界熱流束試験、燃料棒異常配列の影響試験、燃料体の偏心試験を行ったほか、強制振動試験、コンポーネントテストループ(CTL)を用いての耐久流動試験、フレッテイング腐食の測定等を行って、いずれも良好な結果を得ているので本変更によって熱的安全余裕は増加し、かつ安全性は確保されるものと判断する。

(3)被覆管肉厚の変更
 本変更は、燃料棒間隔の最小公称値確保のため燃料棒外径寸法仕様を厳しくしたこと及びペレット寸法の製作上の制約から生じた余裕を被覆管の肉厚に加えたものであって、燃料被覆管の健全性確保のためには好しいと判断する。
 なお、変更された入力値を用いて核計算を行ったが、その結果核的安全余裕には有意な差は生じていない。
 また、今回、本原子炉の燃料設計の基本的な考え方を再検討し、その妥当性を確認した。

2 カランドリア管の変更

 炉心部カランドリア管の内径を増したが、肉厚を増加することにより、カランドリア管の強度は改善される。また、本変更によって重水対燃料体積比が減少して、中性子スペクトルが硬化し、冷却材である軽水の中性子減速効果対中性子吸収効果の比が増大することによって運転時のボイド反応度係数がよりマイナス側に改善される。ボイド反応度係数の計算に用いられる計算手法については、DCAにおける実験との対比においてその妥当性の確認を行った。

3 蒸気ドラムの変更

 従来、蒸気ドラムに用いることとなっていた低合金鋼(原子力発電用マンガンモリブデンニッケル鋼板2種)は、溶接後焼鈍を行うまでに150℃程度の高温に保持しておく必要がある。
 これに対し、変更後使用する材料(原子力発電用炭素鋼圧延鋼板4種相当品)は、溶接後応力除去のために焼鈍を行う必要はあるが、前者と異なり溶接後高温に保持しておく必要はなく、多数の溶接個所が存在する蒸気ドラムの製作には品質管理が容易である。
 また、材料変更に伴う構造強度上の問題はない。
 なお、不安定破壊防止のため、蒸気ドラムに圧力が加わる場合には、温度を脆性遷移温度+33deg以上とすることとしている。

4 隔離冷却系ポンプの形式変更について

 本変更に伴い、ポンプ電源として、外部電源喪失時に備えて、非常用ディーゼル発電機からも給電を行うこととしている。従って、変更後のポンプも、隔離冷却系として、従来のものと同様の機能を維持できるものと判断する。

5 スクラム条件の追加

(1)重水温度高及び重水流量低の原子炉スクラム条件の追加は、減速材である重水の異常温度上昇を防止するほか、カランドリア管、カランドリアタンク等の冷却に用いられている重水の流れの異常を防止するためのものであって運転時の安全確保上適切であると判断する。

(2)ヘリウム流量低の原子炉スクラム条件の追加は、重水のカバーガスであるヘリウムの流れの異常を検出し、重水の放射線分解によって生ずる各種のガスの滞留を防止するために設けられるものであって運転時の安全性確保上適切であると判断する。

(3)蒸気加減弁急速閉の原子炉スクラム条件の追加は、外部負荷喪失時、原子炉冷却系圧力上昇を防止するため設けられている蒸気ドラム圧力高スクラム、中性子束高スクラムにさらに重量性を附加するため設けられるものであって、運転時の安全確保上適切であると判断する。

6 気体廃棄物処理施設の変更

 活性炭式希ガスホールドアップ装置は、平常運転時に放出される気体状放射性廃棄物の量を低減するために設けられるものである。
 本装置は、除湿冷却器、脱湿器、活性炭吸着塔、排ガスエジェクタ等からなっており、排ガスエジェクタで系統全体を負圧に保ち、活性炭の希ガスの吸着性能の劣化を防止するために除湿冷却器及び脱湿器でタービン復水器空気抽出器からの排ガス中の湿分を除去して、排ガスを活性炭吸着塔に導くものである。
 排ガス中の放射性ガスは、活性炭吸着塔に装填されている活性炭に長時間保持され放射能が減衰する。
 本装置の活性炭吸着塔は12塔からなり、それぞれ約1.65tonの活性炭が装填され、定常運転時の16Nm3/hの排ガス流量においてクリプトンを40時間以上及びキセノンを27日以上保持する性能を有することになっている。
 本装置の設計に当っては、動力炉・核燃料開発事業団における基礎試験、実用試験及び経年変化試験が基本となっており、これらのデータ等を検討した結果、本装置の機能は確保されるものと判断する。

7 原子炉格納容器空気再循環設備の変更

 本変更は、詳細設計の結果、格納容器内の放熱量が増加していることが判明したため、冷却器を2台から3台に増加させる必要が生じ、このため送風機台数も増加したものである。
 本変更によって、送風機1台当りの再循環空気流量は減ることとなるが、系統としての再循環空気量は変らない。
 なお、想定事故解析の場合には、格納容器内の再循環空気流量は送風機1台の容量を用いるが、従来の解析では7.5×104Nm3/hを用いており、今回の変更によって容量が8.3×104Nm3/h/台となっても災害評価上の従来の解析値を上回ることはない。

8 重水系の変更

(1)重水冷却熱交換器の台数変更
 重水冷却器の台数の変更は、従来の2胴1基式の冷却器を圧損の低減を図るために並列型に変更したために生じたものであって冷却器の性能としては変更はない。

(2)重水循環ポンプの容量変更
 重水循環ポンプの容量の低減は、カランドリアタンク胴部のγ線発熱の除去を、従来、外面からは、遮蔽冷却系で、内面からは重水系によって冷却を行っていた形式を外面の遮蔽冷却系のみによる冷却に変更したためであって、遮蔽冷却系の温度平衡を含め検討した結果、本変更によっても除熱のバランスは保たれており問題はないと判断する。

9 非常用電源設備の変更

 本変更は、詳細設計の進捗および隔離冷却系ポンプが蒸気タービン駆動方式から電動機駆動方式に変更されたことなどの理由により負荷の変動があったためである。
 ディーゼル発電機容量については重大事故時のディーゼル負荷投入シーケンスを検討しその妥当性を確認した。

10 平常運転時における被ばく線量評価

 本変更にともなって原子炉施設から放出される放射性物質による敷地周辺の公衆の被ばく線量評価は次のとおりで、前提に用いた仮定は妥当であり、その結果は敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認める。

(1)被ばく線量計算の前提条件

① 排気筒から放出される気体状の放射性物質については、次の条件を用いる。

(イ)燃料から一次冷却水中に漏洩する核分裂生成物のうち、希ガス(クリプトン、キセノン)の放出率は、拡散混合組成を仮定し、制限値である30分減衰換算値100mCi/sとする。

(ロ)希ガス各核種の組成は、核分裂収率及び崩壊定数を用いて定める。

(ハ)原子炉冷却水及びそのなかに溶けている空気が放射化されて生ずる窒素、アルゴンなどの放射化生成物は、発生量が少なく、かつ、半減期が短かいので排気筒から放出される量は無視できるほど少ない。
 従って、排気筒から放出される気体廃棄物は主として核分裂生成物のうち希ガス及びよう素であるので、これらの放射性物質を対象に評価する。

(ニ)原子炉施設の各系統から放出される希ガスの排気筒放出率は前記の前提条件をもとに次のとおりとする。

(a)復水器空気抽出器系希ガスは、活性炭式希ガスホールドアップ装置で、キセノンについては27日間、クリプトンについては40時間保持され、ろ過処理後排気筒から連続して放出される。
 この系の希ガスの放出率は0.17mCi/s(γ線実効エネルギ0.057MeV)である。

(b)タービン軸封蒸気系希ガスは、ろ過処理後減衰管で15分減衰されたのち排気筒から連続して放出される。
 この系の希ガスの放出率は0.17mCi/s(γ線実効エネルギ0.77MeV)である。

(c)補助建屋、廃棄物処理建屋、タービン建屋等の換気系希ガスは、ろ過処理後、排気筒から連続して放出される。
 この系の希ガスの放出率については、一次冷却系のバルブ、ポンプ等からの漏洩水に含まれている希ガスが建屋内に放出されると仮定して計算した場合9×10-3mCi/s(γ線実効エネルギ0.74MeV)である。

(d)復水器真空ポンプ系希ガスは、タービンの起動停止に関連して放出されるが比較的短時間にタービンを起動する際には復水器に残留する希ガスが真空ポンプの運転により排出される。
 真空ポンプの運転により排出される希ガスの量は軽水炉の実績をもとに、年間20Ci-MeVとする。

(e)放射性よう素が大気に放出される経路は、希ガスの場合とほぼ同じと考えられるが、軽水炉の実績を参考にし、年平均排気筒放出率を9.4×10-3μci/s(1-131)とする。

② 放出される液体状の放射性物質(トリチウムを除く)については次の条件を用いる。

(a)機器ドレン
 機器ドレンは、その発生量が約55m3/dであり、ろ過装置で処理されたのち、脱塩装置で処理され、処理水は放射性物質濃度が約10-3μCⅰ/cm3となって復水貯蔵タンクに回収され再使用される。

(b)再生廃液
 再生廃液は、その発生量が、約20m3/dであり、その廃液は蒸発濃縮装置及び脱塩装置で処理され、処理水は放射性物質濃度が約2×10-5μCi/cm3となって復水貯蔵タンクに回収され再使用される。

(c)床ドレン
 床ドレンは、その発生量が約30m3/dであり、蒸発濃縮装置及び脱塩装置で処理され、処理水は放射性物質濃度が約2x10-5μCi/cm3となって復水貯蔵タンクに回収され再使用される。

(d)洗濯廃液
 洗濯廃液は、その発生量が約10m3/dであり、復水器冷却水によって希釈されて環境に放出される。

 なお、再生廃液及び床ドレンの処理水は復水貯蔵タンクの保有水が増加した場合、環境に放出されるが、その量は1日当り約50m3である。
 以上の前提に基づき計算すると、環境に放出される液体廃棄物の量は約22,000m3/y、
 放射性物質の量はトリチウムを除き約740mCi/yとなる。

(2)平常運転時の被ばく線量評価

① 気体廃棄物中の希ガスによるγ線外部全身被ばく線量評価
 平常運転時に環境に放出される希ガスによる被ばく線量評価は、次の条件を用いて行った。

(イ)連続放出の場合

(a)復水器空気抽出器系希ガス、タービン軸封蒸気系希ガス及び換気系希ガスについては、排気筒から連続して放出されるものとし、その希ガスの放出率を0.15mCi-MeV/sとする。

(b)排気筒(地上高55m、標高約75m)の実効高さについては、排気筒からの吹き上げ効果と山の斜面に沿う流線の上昇下降を考慮する。

(c)気象条件は、1年間の気象観測の毎時の実測値を用いる。

(d)原子炉の年間稼動率は80%とする。

(ロ)間けつ放出の場合

(a)復水器真空ポンプ使用時1回当りに放出される希ガスの量は2Ci-MeVとし、放出回数は年間10回とする。

(b)排気筒の実効高さの求め方は(イ)-(b)と同じとする。

(c)着目地点への影響回数は風向出現頻度、年間総放出回数とから二項確率分布で評価する。

(d)風速は着目方位の逆数平均風速を使用し、大気安定度はD型する。
 以上の条件を用いて計算した結果、周辺監視区域境界の外でγ線による外部全身被ばく線量は最大値約1.4mrem/yであり、原子炉等規制法で定める許容被ばく線量を十分下回っている。
 当該敷地の境界はほとんどが山と海に接しており、これら敷地境界付近には人は居住していない。居住の可能性があり、最も被ばく線量が高くなると予想される方向は浦底部落方向であり、この方向の敷地境界における被ばく線量を評価するとγ線による全身被ばく線量は約0.54mrem/yである。
 また、敷地には日本原子力発電株式会社敦賀発電所の原子炉施設があり、その運転に伴って放出される希ガスによるγ線外部全身被ばく線量が居住の可能性がある地域で最も高くなるのは浦底部落方向の敷地境界であって、その地点における被ばく線量は約3.9mrem/yであり、両者を合計すると約4.4mrem/yである。

② 気体廃棄物中のよう素による甲状腺被ばく線量評価
 平常運転時に環境に放出されるよう素による被ばく線量評価は、次の条件を用いて行った。
(a)排気筒のよう素の放出率は、軽水炉の実績を参考として年平均9.4×10-3μCi/s(Ⅰ-131)とする。
(b)排気筒の実効高さの求め方は、①-(イ)-(b)と同じとする。
(c)気象条件は、①-(イ)-(c)と同じとする。
(d)被ばく経路は呼吸による吸入及び葉菜の摂取を考慮する。この場合、呼吸量は成人で20m3/d、幼児で8m3/d、また葉菜の摂取量は成人で100g/d、幼児で50g/dとし、この量を毎日摂取するものとする。
 以上の条件を用いて計算した結果、敷地境界外で、よう素の濃度が最大となる地点は浦底部落方向の敷地境界付近であり、その地点における年平均濃度は2.7×10-15μCi/cm3である。また、敦賀発電所の原子炉施設から放出されるよう素の寄与を合計すると年平均濃度は約2.2×10-14μCi/cm3である。
 この最大濃度地点となる敷地境界附近における甲状腺被ばく線量は幼児が最大で、約14mrem/yである。

③ 液体廃棄物中の放射性物質による被ばく線量評価
 液体廃棄物中の放射性物質による被ばく線量評価は次の条件を用いて行った。
(a)放射性物質の放出量はトリチウムを除き1Cⅰ/yとする。トリチウムは300Ci/yとする。
(b)放射性物質の核種と組成は、軽水炉の実績値を参考とする。
(c)放出される放射性物質は、復水器冷却水のみによって希釈されるものとし、放出後の海水による混合希釈は考慮しない。
 また、循環水ポンプの年間稼動率は90%とする。
(d)海産物による濃縮係数は、現在報告されているもののうちから厳しい側の値を用いる。
(e)住民の海産物摂取量は、成人で魚類200g/d、海草類40g/d、甲殻類10g/d、軟体動物10g/dとし、この量を毎日摂取するものとする。
(f)よう素の甲状腺被ばく線量の計算は比放射能法による。
 以上の条件を用いて計算した結果、全身被ばく線量は約1.2mrem/y甲状腺被ばく線量は約04mrem/yである。

11 冷却材喪失事故の解析

 本変更によっても、本原子炉施設で発生する可能性のある事故の様態は変わらないが、昭和47年に行われた冷却材喪失事故解析以後蓄積された知見に基づいて冷却材喪失事故を想定し再解析を行った。

(1)解析の前提

① 2ループある炉心再循環系の最大口径の配管である下降管1本の瞬時完全破断するものとする。

② 原子炉は定格出力の105%で運転しているものとし、崩壊熱の計算に当ってはANSの式において無限時間運転とし、その値の1.2倍を用いる。

③ 初期の燃料に蓄積されるエネルギの計算に当ってのギャップ熱伝達率は、最高線出力密度(0.574kW/cm)の焼料棒については3,660kcal./m・2h・℃を用いる。

④ 事故想定と同時に常用電源がすべて喪失するものとし、非常用炉心冷却系等の作動は非常用ディーゼル発電機の電力が供給されるまでの間遅延するものとする。

⑤ 以上の前提に加え、単一動的機器の故障を考え、この場合最も厳しい仮定として急速注水系2系統のうち1系統のみが動作するものとする。

⑥ 解析に当っては、動力炉核燃料開発事業団が開発したSENHOR及びLOTUSコードを用いる。

(2)想定事故の経過及び解析条件

① 再循環系1ループの下降管1本が瞬時完全破断すると、その両端から冷却材が流失し、8秒でMCHFRは1.0となる。

② 事故想定後6秒で急速開放弁の開放で急速注水系の注水が開始するが、被覆管温度は上昇する。

③ 以後急速注水系の下部ヘッダ注水により炉心水位は急速に回復し、25秒後に炉心燃料有効部頂部まで再冠水し、被覆管温度の上昇は止る。

④ 急速注水系の水は注水開始後約20秒でなくなるが、こののちは低圧注水系の注入水によって炉心は完全に冠水され冷却される。

⑤ 被覆管温度及び酸化量の計算に当って、燃料からの熱除去は次のような条件で行われるものとする。

(イ)事故想定からMCHFRが1.0を切る時点の8秒まではJens-Lottesの式による熱除去。

(ロ)8秒から燃料有効部頂部が再冠水する時点の25秒までは輻射のみによる熱除去。

(ハ) 25秒以後は120kca1/m2・h・℃の熱伝達率による熱除去。
 なお、動力炉・核燃料開発事業団の安全性実験施設における再冠水実験によれば、再冠水後の熱伝達率は120kcal/m2・h・℃を大幅に上回る値が得られている。

⑥ 水-ジルコニウム反応は、被覆管の外面のみならず内面においても発生するものとし、内面の酸化量は外面と同等とし、計算に当ってはBaker-Justの式を用いる。

⑦ 燃料集合体の外層燃料は互いに接触するほど変形するものとし、内部の燃料ペレットは被覆管温度を高く与えるよう偏心するものとする。

(3)解析の結果

 解析の結果、最高燃料被覆管温度は約990℃であり、燃料被覆管の酸化によって影響されない部分の割合は被覆管厚さの97%以上(酸化量計算では0.9%)である。
 従って、燃料被覆管は延性を極度に失うことなく、かつ、大破損は防止され事故後の炉心冷却は維持できるものと判断する。

Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和48年11月5日第119回審査会において、次の委員よりなる第105部会を設置した。

審査委員
三島良績(部会長)
村主進
武谷清昭
都甲泰正
西脇一郎
渡辺博信
東京大学
日本原子力研究所
日本原子力研究所
東京大学
宇都宮大学
放射線医学総合研究所
調査委員
伊藤直次
木村啓造
森島淳好
日本原子力研究所
金属材料技術研究所
日本原子力研究所

 当該部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行うこととし、昭和48年11月10日第1回会合を開催して以来審査を行ってきたが、昭和49年7月22日の部会において、部会報告書を決定し、本審査会は、これを受け昭和49年7月25日の第128回審査会において本報告書を決定した。



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