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これからのエネルギー需給と政策のあり方(稲第1次私案)
-とくに原子力開発の位置づけ-
(稲葉第1次私案)


原子力委員会委員稲葉秀三
昭和49年3月


まえがき

 近時、エネルギーの需給をめぐる内外の諸情勢は変りつつありますが、その上に昨年の10月に勃発した第4次中東戦争に伴う石油危機の発生はその需給の前途により深刻な課題を提示しているように思われます。私は昨年の11月に原子力委員会委員に就任しましたが、このような情況の中で森山原子力委員会委員長ならびに井上委員長代理から、総エネルギー供給における今後の原子力開発の位置づけ、及び見通しについて私案をまとめるよう要請されました。
 これに応えて、この私案は取り急ぎまとめられたのであります。急いでまとめたので検討の不十分な点も多いと思われますが、今後の問題の検討においては多角的な課題を提示したものと確信します。この案については、私自身も満足すべきものではないと考えていますが、関係の方々に私案として提示し、御批判をたまわり、さらに検討を試みたいと考えている次第であります。

I 背景と基本的認識

1 今次の石油危機を転機に、わが国のエネルギー需給は根本的といってよい程の変化に直面している。いずれ、政府も新しい総合的なエネルギー政策を樹立し、実行していくであろう。以下はこのようなことを予想しつつ、今後の日本のエネルギーの需給予測、その中での石油と原子力の関係、また、政策のあり方について考察を加えようとするものである。

2 一国の経済成長、産業の構造変化とエネルギー消費の間に、密接な関係の存在していることは従前から各方面の研究者によって指適されている。大約して「実質経済成長率とエネルギー消費の伸び率はほぼ同じ」というのが従来の一般的見解だったといえよう。
わが日本のエネルギー供給の昭和30年度から47年度までの推移を示めしたのが、第1図である。その特色として次の点があげられる。エネルギーと経済成長の伸びの双方が他の国々と比較して非常に高く、大きかったことである。また経済の実質成長率よりも、エネルギー消費の伸び率の方が大きかったのである。その原因は何であろうか。その理由として、私は次の3点が上げられると考える。
 その第一点は、昭和30年以降の動きを見ると、エネルギー多消費産業といわれている重化学工業の伸びが特に著しかったことである。
 その第二点は、国民生活用のエネルギー消費に近年構造変化がおこり、例えば電力では、電灯から電気冷蔵庫、洗濯機、テレビ、クーラーヘと多元的に需要が拡大していったことである。また、都市ガス、プロパンガスなどの伸びが著しいこともあって、欧米水準にはまだ達していないけれども、伸び率が極めて高かったことである。

3 その第三点は、近年、石油に依存する割合が急速に高まっていることである。エネルギーの安定供給という課題は従前からわが国のエネルギー政策の一つの大きな柱であった。しかし、現実は、石油の輸入量が年々増大し、製鉄用石炭の輸入も急速に拡大しており、昭和47年度では輸入エネルギーの割合が86.4%、とくに輸入石油の割合が75%にまで大きくなっている。第2次エネルギーである電力についていえば、全発電電力量の3分の2が石油によって供給されているのが現状である。(第2図、第3図、第1表、第2表参照)

4 今回の石油危機によって痛感されたように、もし毎年増大すべきはずの輸入原油が予定のように確保できない、あるいは原油や石油製品の輸入価格が大幅に上昇するとすれば、日本経済の受ける影響は、はなはだ大きくならざるをえない。しかも今回の石油危機に先だって、昭和40年代に入ってから「エネルギー危機」と称すべき事態がすでにわが日本に層開しつつあった。
 このことをわれわれは見逃すべきではない。即ち、1970年(昭和45年)にOPEC(石油輸出国機構)攻勢が展開されたが、その後は従前のように自由に且つ低廉な価格で石油を入手していくことが次第に困難となっている。また、原油、石油製品の輸入価格も上昇している。こうして、1973年(昭和48年)10月の石油危機の突発直前には、3年前に比べて原油価格は2倍以上に上昇していた。また、国際石油会社からの必要な原油や石油製品の輸入増加の容易でないような状況がすでに起っていたのである。

5 そればかりではない。昭和40年代に入ってから、わが日本では環境問題や公害問題が大きくクローズアッブしてきた。発電所、石油精製工場、石油貯蔵施設、石油化学工場などの新場設は次第に困難となっていった。わが国のエネルギー需給の将来についての不安感がより大きくなりつつあったのである。
 今回の石油危機が起らなくとも、日本のエネルギーの需給は早晩ゆきづまらざるをえないと既に判断されていた。特に電力の需給のアンバランスは、昭和50年代に入ると経済や国民生活に障害が生じざるをえないと考えられていた。
 今回の石油危機の登場は、このようなエネルギー危機発生の時期をより早めたものだといえよう。

6 周知のように、昨年10月の中東戦争に端を発するOAPEC(アラブ石油輸出国機構)の原油の生産制限と輸出の調整措置は全世界に大きいショックを与えた。わが日本についていえば、当初の25%の生産制限や輸出数量を次第に削減していくという方策が実行されるとするならば、昭和49年ないし49年度の原油や石油製品の輸入量は、従前に比べ18~20%くらい減少せざるをえないと判断させられた。
 上述したように、全エネルギーの4分の3、全電力供給量の3分の2が石油に依存していることもあって、これに対する効果的な対応策が取られるとしても、わが国の経済活動はうまくいって-2~6%ぐらいの実質成長に、うまくいかない場合には-5~-10%ぐらいの実質成長になるのではなかろうかという見解すら登場してきたのである。

7 しかし、昨年暮わが日本がOAPECの友好国に指定されることによって、それほど大きい原油や石油製品の輸入縮少をわれわれは予想しなくてもよいこととなった。量的な面からすれば、2億7,000~2億8,000万klぐらいの原油輸入確保はできる見通しとなった。これを基にすれば1ヵ年2~4%の実質の経済拡大は、昭和49年または49年度において実現可能であると思われる。

8 しかし、量的な側面だけからではなく、質的な側面からの障害にわが日本はこれから直面していかなければならないのである。
 その一つは、原油ならびに石油製品価格の大幅な上昇である。これをどのように吸収し、防除していくかという課題を解決していかねばならない。今年1月以降の原油価格は、9ドル/バーレル(FOB)強だと見られる。かりに平均価格10ドル/バーレル(CIF)で2億7,000万klの原油を今後1ヵ年で輸入していくとすると、そのための外貨負担は約160億ドルにのぽると推定される。もし、3億klを輸入しようとすれば約180億ドルに達する外貨を石油だけで支払わねばならない。これらに加え、今回の石油危機を転機に、その他の第1次産業品の輸入価格も大幅に上昇するだろうといわれている。
 私は、昭和48年水準の資源輸入をするだけでも、わが国の外貨負担は150億ドル強増加しなければならないと考える。「世界的に物価が上ったのだから心配することはない」、という見解も生じるであろう。けれども、資源の輸入依存度、とくに石油の輸入依存度の大きいわが国は他国以上にこれからくるマイナスの影響を強く受けざるをえない。もし輸出を増大するために円ルートをさらに切り下げねばならないとすると、その反面において国内物価がより上昇することになってしまう。

9 今ひとつは、石油価格の大幅上昇をわれわれが受納しなければならないことによって、各種の国内の生産価格にその影響が波及していくことである。既に昨年10月の石油危機突発の直前において、わが国の卸売物価は20%、消費者物価は15%弱、何れも前年同月に比べて上昇している。これは、異常な物価上昇というべきものであった。
 その後、財政金融面からの強力な有効需要抑制策が取られているけれども、物価上昇のテンポはまだ衰えていない。1月のそれは前年同月比卸売物価で34%、消費者物価で20.4%アップとなっている。今後も当分物価は上昇傾向をたどり、この1月からの原油価格の大幅上昇(10月水準の倍強)によって新しい物価上昇が不可避であると予想せざるをえない。
 今回の原油価格上昇をもとにした私の個人的な試算によると、9~10ドル/バーレルの原油では石油製品の価格が相当上昇し、発電コストが石油火力の場合すくなくとも6円/KWhぐらいにならざるをえない。
 3、4年前には2円50銭見当であったものがこのように高いコストになってしまうのである。水力、石油火力および原子力の発電コストについていえば、従前と異なる価格格差が生じてくる。原子力発電が1番コスト的には安くなることになる。何故かといえば、今後の原材料の上昇をおりこんでも原子力では4円/KWh前後ぐらいと推定されるからである。
 このような、経済的側面から原子力発電を今後より推進していかねばならない必然性が高まっている。また、今後におけるわが国外貨収支があまり楽観できないとすれば、原子力発電開発の推進には石油に比べさらにプラスの条件が加わることになる。このような変化にいかに即応していくかの課題がわれわれの前に登場しつつある。これらについて、単に当面策だけでなく、中期的、長期的な観点にたっていかに適応していくかを考えねばならない。

10 次に角度をかえて日本の経済発展とエネルギーの関係についていえば、従来の経済計画や発展施策においては以下のような考え方が支配的であり、エネルギーというものは第2次的、第3次的な要素でしかなかったのである。
 即ち、「経済成長率をどう想定していくか」、「工鉱業生産の伸びをどう想定していくか」、また、「輸出がこれからどのように達成され、それによって輸入がどうなっていくか」、これらのことが経済計画や経済政策における第1次的な要素であった。これらの点が決定されれば、「どのくらいのエネルギーを調達すればよいのか。そのうち輸入分をどうするのか、また各種エネルギーの構成はこうなるだろう」ということが決ってきたのである。
 このようにして決った必要なエネルギーの供給においては、国産と輸入で十分調達しうるので別に大きな障害はないというのが従来的な見方、考え方であった。

11 しかし今や、われわれはこれらの価値判断を変えねばならない。「一体どのくらいのエネルギーをわれわれは生産し、輸入しうるのか」、「エネルギーを効率的に使用することによってどこまで経済や国民生活を向上しうるのか」、「エネルギーと環境の調和をどのように配慮していかねばならないのか」これらを第1次的要素として今後のわれわれの経済、われわれの生活に適応させていかねばならないのである。

12 以下の私の考察は、今後のもっと撤底した多元的、多角的な検討を期待しつつ、以上の点についての一つの実証的な推論をしてみたいとの意図に基づくものである。
 第一点は、「今後のエネルギー供給量は、目下の現況を基にして各種エネルギーの充実において中期的に変化がおこらないとした場合、一体どのくらいまで大きくなっていくのだろうか」を推定したのである。
 第二点は「従来、政府ならびに民間で行われたエネルギーの見通し、あるいはそれに近い水準までエネルギーの供給量を高めていかねばならないとした場合、その内部構成はどのようになるべきだろうか」を推定してものである。
 第三点は、「エネルギーと経済発展とを配慮して、今後どこの点ぐらいまでは政府と国民の努力によって供給増加をしていかねばならないか」ということをエネルギーバランスと国民経済バランスとを関連せしめつつ明らかにしようとしたものである。

第1図 わが国の一次エネルギー供給量


第2図 水力、火力、原子力別発電電力量


第3図 年度末発電設備


第1表 水力・火力、原子力別発電電力量


第2表 年度末発電設備


第3表 総合エネルギー調査会の見通し

Ⅱ 将来のエネルギー需給

13 わが国のエネルギー需給は、今後どうなっていくのであろうか。これによって経済活動や国民生活はどう変化していくのであろうか。これらの点を究明していくことの必要性と重要性は今までよりももっと高まってきている。前述したような三つの点を考慮して供給力を中心にエネルギー事情を検討してみようとしたのも、実際的な解明が何より大切ではあるまいかとの配慮にもとづく。
 しかし、まずはじめに、従来の公式的な将来エネルギー需給の算定を紹介しておきたい。第3表がそれである。これは私もその一員である通産省の総合エネルギー調査会で取りまとめられたものである。とくに昭和45年7月の見直し作業は、昭和42年に佐藤内閣のもとでまとまった経済社会発展計画とその後の日本経済の高度成長との間に著しいくい違いが生じてきたので、昭和45年の新経済社会発展計画と関連して中・長期的な観点から、行われたものである。今でも公式的には、これが長期的な総合エネルギー需給のよりどころになっている。
 この見直し作業の前提としては、実質経済成長率を昭和45~50年度において新経済社会発展計画のそれと同じく年平均10.6%、また50年代においては昭和51~55年度が同じく9.5%、昭和56~60年度が8.5%とされている。これに基づき過去のエネルギー需給、産業の構造変化などを考慮し、各種エネルギーについて相当詳細な将来のエネルギー需要予測が行われている。問題は最近のエネルギーをめぐる諸情勢の変化を考えてどのようにこれを改訂していくかということである。

14 供給力に中心をおいて、現在のエネルギー情勢にあまり大きな改善の見込みがないとした場合、全体のエネルギーと第1次エネルギーの各部門の充足がどうなっていくかを推定してみたのがケース1である。
 次に、総合エネルギー調査会の昭和45年の見直しに近いところで将来のエネルギー確保を図らねばならないとした場合、今後は石油に大きく依存していくことが難しいと考えられるので、他のエネルギーをもっと充実していかねばならないが、それにも限界がある。では一体どのようにしていけばよいのだろうか、できうるのだろうかを推定してみたのがケースⅡである。
 ケースⅠが現状推移プラス、アルファ型といえるのに対し、ケースⅡは供給力増大型、楽観型だといえよう。(第4表参照)

第4表 エネルギー供給量の試算(Ⅰ)
ケースⅠ(現状推移型)


(第4表つづき)
ケースⅡ(供給力増大型)

15 ケースⅠは次のような根拠で算定されている。昭和47年度のわが国エネルギーの総供給量は石油換算3億6000万kl、ヵロリー換算344×1013kcalであり、その75%が石油によってまかなわれている。第1次エネルギーについては、石油がOPEC攻勢の引き続いての展開、高価格の持続、また石油精製火力発電設備の充実にたいする住民の反対運動の持続、さらに国際収支上の理由による輸入チェックなどから、従来の想定ないし計画のように大きく伸びていくことは考えられない。
従って、総合エネルギー調査会の改訂見通しで想定されているような50年度総エネルギーで4億3,850万kl、原油の輸入量で3億2,000万kl強の達成は難しいであろう。しかし、経済発展が依然として持続し、石油危機が登場しなかったような場合には、昭和49年度の実質値はそのへんまでいきそうに思われる。また、昭和60年度において6億5,000~7億3,000万klの石油の輸入は実現しえないであろう。このケースⅠでは、石油が昭和50年度で3億kl強、55年度で3億9,000万kl、60年度で4億2,4000万klぐらいしか入手できないと想定している。
 また、原子力発電については、現在稼動中および建設中(含む、設置認可申請中)のものが、1,650万KWあるが、今後も原子力発電所の建設に対する地域住民の反対運動は強かろうから、それにたいして十分な施策が取られない場合を想定して、現行の原子力開発利用長期計画の昭和55年度3,200万KW
60年度6,000万KWという計画の達成は到底困難だとしたのである。しかし、55年度までには、1,650万KWのほかに、500万KW強の原子力発電所は建設しうるであろう、また60年度までには3,700万KWぐらいまで完成していくことは可能であろうと想定したのである。
 さらに、石炭の利用拡大についてもあまり多くを期待できそうもないので輸入と国産で年2%ぐらいの増加と想定している。水力発電開発は今後の重点施策となろうが、コスト高と自然に対する配慮などから年間10億KWhぐらいの発電量の増加を想定したのである。その他のエネルギー、たとえば太陽熱、地熱、LNGなどについてはあまり多くを期待できないとしたのである。
 このような場合、わが国総エネルギーの供給量は、石油換算で47年度実績3億6,600万klにたいし、50年度が4億2,900万、55年度が5億4,000万、60年度が6億1,800万碗ぐらいになるのではあるまいかということになる。この6億kl強という数字は、先に紹介した総合エネルギー調査会の見直しにおける昭和60年度10億kl前後の目標に比べると、約60%の充足ということにしかならない。

16 ケース1にたいし、ケースⅡはエネルギー供給量をより大きくするという前提で試算したものである。しかし、石油については想定の線を相当大幅に縮小せざるをえなかった。たとえば通産省の総合エネルギー調査会の見直し作業のそれはすでにのベたように、60年度には7億kl前後の石油の輸入を想定しており、これは現状の2.5倍ぐらいの輸入ということになるが、これを最大限6億4,000万klぐらいにまで縮小させざるをえなかった。
 これは、昭和60年(1985年)の世界の石油輸出量を年間32億klと想定し、その20%が日本にくると想定したためである。その現実性、可能性についてはさらに検討しなければならないが、現時点では楽観的といえるかもしれない。
 他方、国内石炭については、先の総合エネルギー調査会の見通しの60年3,600万トンの生産量が、48年度で2,200~2,300万トンまで現実に生産が縮小しつつあることを考えて、到底達成困難だといわざるをえない。また、国際原油630万klという量も確保が難かしい。
 そこで、新エネルギーである原子力については、55年度の計画3,200万KWが完全に達成されるとし、さらに60年度では他のエネルギーの不足を若干補なうためもあって、6,000万KWに900万KW上積して6,900万KWとした。65年度においては、1億KWの既定計画を1億1,500万KWと相当大幅に見込むこととしたのである。また第4表の備考欄にも示しているように、水力発電開発についても、その他のエネルギー充実についても、相当大幅な増量を見込んだのである。それでも遺憾ながら総エネルギーの供給量は昭和60年度で石油換算9億3,000万kl、カロリー換算では874×1013Kcalにしかならなかったのである。

17 私見ではケースⅠの場合にいをては、日本の経済発展そのものが持続発展型になっていかないように思われる。また、国民生活の面においても困難化はより大きくなっていくと考えざるをえない。できうるならば、これよりももっとエネルギーの供給が確保され、且つ産業、国民生活の両面でエネルギー使用の効率化が行われ、環境整備に努力がはらわれ、経済や国民生活がより高く向上していくような配慮がのぞましい。
 他方、ケースⅡについては、エネルギー充実について内外の情勢を考えると、「少くともやや過大な願望」を持ちすぎているように思われる。これらの点を考慮し、ケースⅠよりは高いけれども、努力的要素(官民双方の)を加味しながら、実現可能な努力目標を想定してみることにした。
 とくに、政府にその実現について最大限の努力をのぞみたい。また、国民にもこれらの点をもっと真剣にPRし、協力を得ていくことが必要であると考えた。「従来のように、政策のよりどころとはならないような経済やエネルギー計画を国民に示めすといったような態度を今後は改める」、このような態度をとってほしい。
 このような課題を推進していくためには、新しいエネルギーの開発において、各般の技術的な配慮をもっと大胆に先行させなければならない。また、国際情勢の変化に即応して、多元的なエネルギーの開発策を推進していかねばならない。さらに、国内では各種の問題について、多元的、多角的な配慮をしていかねばならない。もっとも、これらの諸点については、今後もっと堀り下げた検討が必要である。
 これらを予想しながら、「出発点」に立って一つの推定をしてみたのが第5表と第6表のケースⅢである。選択可能型、最少限の努力目標型ともいうべきものである。私はこの算定数字に固執するものではない。しかし、最少限このくらいのところまでは日本のエネルギーを充実していかねばならないと考える。やる気になれば、その達成は十分可能性があると思う。
 当初は、昭和60年度8億5,000万kl石油換算ぐらいのところを念頭において算定しようとしたが、各種のエネルギーについて数字をはじきだした結果このような低い目標のものになった。

18 以上のケースⅠからⅢまでにいたる算定は、何れもエネルギーの将来の供給可能性について試算してみたものである。では、これらの各々の場合、経済成長はどのようになっていくのか。既に指適したようにエネルギーの供給と経済発展の間には直接間接に関連がある。わが日本の場合には、少くとも過去においては「経済の伸びよりもエネルギー消費の伸び方が高かった」という特殊性をもっている。
 第7表はこれらについて弾性値をつかいながら、経済成長率をケースⅠからⅢの場合について推定してみたものである。エネルギーと経済成長率は昭和40~45年度においては、弾性値が1.1であった。これに対し、ヨーロッパ諸国の場合は約0.9であった。エネルギーの効率的使用について政府と企業と国民がもっと熱心になれば、この弾性値は低めることができ、より少ないエネルギーの増加によって将来の経済成長をはかることができる。

第5表 エネルギー供給量の試算(Ⅱ)


第6表 エネルギー供給量の予測


第7表 エネルギー供給量とGNPの伸び率

Ⅲ 電力供給の将来と原子力開発

19 今後のエネルギーの需給については、とくにそのなかの電力の需給が一番大きな隆路として登場してくる可能性が大きい。既に、第2図,第3図、また第1表、第2表によって過去における電力(事業用、自家発)設備と供給力の推移を明らかにした。
 昨48年9月の通産省のエネルギー白書にもあるように、ここ2、3年来、、将来の需要増大に対処していくための新規の電源開発は著しく千遅れとなっている。とくに、石油使用の火力発電所と原子力発電所の場合にこの傾向が著しい。現在のような立地難が、今後もつづくとすると、昭和55年頃には政府の電源開発調整審議会の設備容量目標の達成率は86%見当にとどまると見られる。今後も毎年なにがしかの新規の電源開発計画は進行していくであろうが、今後の電力設備の増強はもっと画期的な計画ないし施策が打ち立てられないかぎり本格的なものとはならない。
 これらの点を計数化していくことは難かしい。しかし、以上に紹介したエネルギー見通しと関連させながら自家発分を除いた営業用電力について設備と需給の面で試算してみたのが第8表と第9表である。
 第8表では電調審が昭和48年度に設定した目標と従来の電力長期計画における60年度の目標設備容量(A)をかかげ、その上欄では、48年度(12月現在)決定による新規の運用分と既に工事継続中の電源開発のなかから各年度にどのくらいの設備が完成し電力の供給が増強されるかを示したものである。同時に、下欄において前述したケースⅠ、ケースⅡ、ケースⅢの原子力開発を考慮した場合の電力設備の容量を試算してみたのである。
 これらを通して、昭和52年度までは年間を通して電力の需給はなんとかなるけれども53年度以降はより大きい誤差が、従来公式に推定されていたものとケースⅠからⅢまでの間にでてくることがはっきりしている。第9表は、設備容量、利用率等を想定して、将来の電力の需給を試算してみたものである。これによると、60年までについていえば、ケース1からⅢの場合いずれも供給量は相当大きく減ることになる。
 ケースⅢの場合では、原子力発電6,000万KWが達成されれば、電力長計の目標値である昭和60年、10,600億KWhの15%減の線までは充足できるということが示されている。これを最低限の努力目標として達成しなければならないと考えたのもそのためである。

20 ここで原子力発電、また原子力開発利用長期計画の今後の日本のエネルギーの中での位置づけをしておきたい。わが日本では、現在のところ原子力開発利用の総エネルギーにしめる割合は極めてわずかであり、昭和47年度で0.6%にすぎない。
 しかし、上述した諸情勢の変化、とくに国際的な資源問題の登場、石油高価格の出現と確保困難などの事情を考えるとき、原子力利用の相対的な必要性と経済性はより高まってきているといえる。
 かって、1955年(昭和30年)のスエズ動乱による石油障害を克服するために、イギリスは原子力開発に大きい推進措置を取った。今日の場合も、石油危機の発生を契機にフランス、スウェーデン、アメリカなどでは今後のエネルギーとくに電力開発において原子力利用を最優先に推進していくという方針が強く打ち出されているといわれている。
 このように考えれば、とくにエネルギーの輸入依存度の大きい、わが日本としては政府と民間双方でもっとはっきりと原子力開発利用についての推進措置をうちださねばならない。

21 必要なのは「安定した」「経済性のある」、且つ「社会環境に対してマイナスの効果を及ぼさない」という形でエネルギーを安定、確保していくことである。われわれは、原子力そのものにこだわるべきではない。この意味で、最近エネルギー新資源開発の推進策が官民双方によって指摘され、その一部がすでに実行されだしてきているということは歓迎すべきことである。既に、太陽熱の利用、地熱発電の推進、石炭のガス化、液化などが取り上げられている。何れも将来を考えると、重要な施策である。
 しかしながら、ここでわれわれの考慮しなければならないのは、これらの新資源の技術的効果、時期的効果、経済的効果、国民的経済的効果である。日本が石油の不安定さと高価格から1日も早く他の適当なエネルギーの開発に転換していかねばならないとすると、われわれは当面、原子力の開発を最優先にしていかねばならない。
 何故ならば、世界的に見た場合原子力の平和利用は、既に30年の歴史をもっている。この技術は世界的にも十分実証されているものなのである。
 今、世界において既に稼動している原子力発電所の容量は、4,000万KWをこえている。建設中・計画中のものをいれると3億KWを突破している。わが国においてもこれを計画的に導入していく条件は十分そなわっている。あえて私見を提示すれば、将来のエネルギーの確保のためには、この原子力の平和利用を少なくとも25~30年間最優先に推進していくことが必要である。

22 ところで、わが国における原子力発電計画が昭和
40年代に入ってから、経済社会情勢の変化によって予定通り進行していないことは周知のとおりである。これは、わが日本が世界ではじめて、また唯一の原爆被害国であったということもあって、原子力発電の安全性・放射性廃棄物・温排水などについて地域住民の理解が得られず、そのため認可・建設工事などが著しくおくれていることによる。石油火力についてもほぼ同じような情勢が進行しているが、石油火力と原子力発電は従前の電力開発の本軸であったことを考えると、わが国電力需給の前途はまことに容易ならざるものといわねばならない。
 このさい、どうしても抜本的な施策が進められねばならない。政府が原子力発電や電源開発一般について、昭和49年以降、より強い決意を表明してきているのもそのためであろう。
 しかしながら、これらをもってしてもまだ十分ではない。このため原子力発電の安全性については、そのPRと一層の向上策を強力に推進し、最小限、昭和60年度において6,000万KWの原子力発電の開発をめざして、そのための画期的な措置を取らねばならない。

23 しかしながら、全エネルギーのなかにおける電力のウエイトは30%弱である。今後は、そのウエイトがやや高まっていくと見られるが、将来のエネルギー政策のあり方として産業用、交通輸送用、国民生活用などのエネルギーをどうしていくかが、もっと重要である。国民生活の面などで、都市ガス、プロパンガス、石油利用の冷暖房へのエネルギー需要はもっと増大していくだろう。
 産業用でも電力以外の熱の利用をどうするかということが、石油の確保が難しくなり、価格が上昇してくるにともない真剣な課題となってきている。交通運輸についても同様である。また大都市では水の危機がこれから人きく生じてくるし、これにともない海水から飲料水や工業用水を取らねばならないという課題も登場してくるだろう。
 このように考えると、当面われわれは石油について現在の輸入量プラスアルファを確保していかねばならないけれども、他のエネルギーの開発によってもこれらをおきかえていくことに真剣に努力していかねばならない。
 できるならば、石油は燃料というよりも原料として使用する方向にもっとウエイトをおいていく、こういう方向への中期的、長期的配慮をしていかねばならない。これにおいても原子力の多目的利用をどうするかという課題がその重要な一つの解決手段として登場してくると思う。これらをどうするかについて、われわれはもっとはっきりと意思決定をしなければならないだろう。

第8表 発電設備増強の試算(除自家用)


第9表 電力需要の試算(電気事業用)

Ⅳ むすび

 最後に、今後のエネルギー政策のあり方について私個人の期待と希望を申し上げてみたい。

① このさい、、エネルギーの重要性を認識し、従来と異なった方向で総合エネルギー見通しと政策を確立し、それを実行すること。

② 内外エネルギー事情の複雑化にそなえて各種研究機関(技術、社会経済双方の面)の連絡緊密化を推進し、可能なればエネルギー問題のシンクタンクを作り上げること。

③ 原子力開発については、できるかぎり早く、前述したような総合エネルギーと結びついた原子力開発計画を政府として決定し、本格的な実施体制に移る
こと。

④ 新しい原子力開発長期計画は、技術開発、安全性に対する体制整備、研究開発目標の設定、国民に対するPR、原子力施設受け入れ市町村に対する財政その他の措置などを含めてもっと総合的具体的なものにすること。

⑤ 技術面では、軽水炉の導入体制、当面標準炉を推進していくのかどうか、重水炉,高温ガス炉、高速増殖炉、核融合などについて、国内で推進すべきものについてはもっと研究開発体制と財政的支援を拡大整備すること。

⑥ 天然ウランの確保、ウラン濃縮計画、廃棄物処理、再処理さらにモニタリング体制などについてのあり方をはっきりと決定すること。

⑦ 民間、とくに電力業界と政府との原子力開発推進の分担関係をもっと明確化し、双方において所用経費の大幅な増額を図ること。

 

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