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日本原子力研究所大洗研究所の
原子炉の設置変更(原子炉施設の変更)に係る安全性について


昭和49年3月20日
原子炉安全専門審査会

昭和49年3月20日
原子力委員会
 委員長 森山 欽司殿
原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄
日本原子力研究所大洗研究所の原子炉の設置変更(原子炉施設の変更)に係る安全性について

 当審査会は昭和48年12月18日付48原委第754号(昭和49年3月19日付49原委第76号をもって一部訂正)で審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

Ⅰ 審査結果

 日本原子力研究所大洗研究所原子炉施設の変更に係る安全性に関し、同研究所が提出した「大洗研究所原子炉設置変更許可申請書」(昭和48年12月11日付け申請、昭和49年3月15日付け一部訂正)に基づいて審査した結果、同施設の変更に関する安全性は確保しうるものと認める。

Ⅱ 変更の内容

 本申請は、放射性液体廃棄物廃棄施設および放射性固体廃棄物廃棄施設を次のとおり変更するものである。

1 液体廃棄物廃棄施設は、従来、低レベル廃液貯槽200m3×6基)、低レベル廃液輸送管、排水監視ポンド(750m3×1基、375m3×2基)、低レベル化学処理装置(処理能力10m3/h)、中レベル廃液貯槽(70m3×4基)および中レベル廃液蒸発装置(処理能力1m3/h)が設けられていたが、今回、低レベル廃液貯槽(400m3x1基)および低レベル廃液蒸発装置(処理能力3m3 h)を追加し、低レベル廃液輸送管を新たな発生元から導くために増設する。

2 固体廃棄物廃棄施設は、従来、低レベルβ・γ処理装置(一時格納庫、圧縮装置、焼却装置)、高レベルβ・γ封入装置、固体集積保管場が設けられていたが、今回、低レベルβ・γ一時格納庫および圧縮装
置の能力増加(格納庫空間を200m3増加し計600がとする。圧縮処理能力を2m3/d増加し計4m3/dとする)、高レベルβ・γ貯蔵セル(空間10m3)の新設、低レベルα処理装置(一時格納庫(空間150m3)、圧縮装置、焼却装置、アスファルト固化設備等(処理能力計1m3/d))の新設、高レベルα処理装置(封入装置(0.15m3/d)、および貯蔵施設(空間60m3))の新設、固体集積保管場の貯蔵面積の増加(2,000m2増加し、計4,000m2とする。)を行なう。
 なお、低レベルおよび高レベルのそれぞれのα固体廃棄物の処理施設は、低レベルα一時格納庫を除き気密性のあるα固体処理棟の中に収められ、その排気は、フィルタを通して地上高40mの排気筒から放出される。

Ⅲ 審査内容

 本変更に係る廃棄物処理施設についての安全性に係る基本方針を検討した結果、次のような対策が講じられており、本変更によっても本原子炉施設の安全性は、十分確保し得るものであると認める。

1 放射性廃棄物処理の方針

 放射性廃棄物の処理は、放射性廃棄物中の放射能成分を可能な限り分離して小体積とし、長期間の貯蔵保管に耐えるような固体化処理を行なうことと、放射能成分の大部分が除去された残りを、法律に定められた放射性物質の許容濃度以下にして放出することを原則としている。
 この原則に加え、放射性廃棄物による周辺環境への影響を実用可能な限り少なくすることとしている。
 これらの方針は妥当である。

2 放射性廃棄物の発生予測量と処理能力

(1)低レベル液体廃棄物
 低レベル液体廃棄物(放射性物質濃度が10-3μci/cm3以下のもの)の発生予測量は、約20,500m3/yである。この量は、これまでの発生実績および今後の増加量から推定した値であり妥当なものである。一方、低レベル廃液の処理は、一時貯留による減衰処理、化学処理および蒸発濃縮によって行なわれるが、貯槽容積および化学処理装置ならびに蒸発装置の処理能力からみて発生予測量を十分処理し得るものであると認める。

(2)低レベルβ・γ固体廃棄物
 低レベルβ・γ固体廃棄物(α放出核種を含まないもので発生元から搬入される容器(以下容器という。)の表面線量率200mR/h以下のもの)の発生予測量は、約430m3/yである。この量は、これまでの発生実績および今後の増加量から推定した値であり、妥当なものと認める。低レベルβ・γ固体廃棄物は、一時格納後各処理装置によった圧縮減容および焼却減容が行なわれるが、これらの装置は、発生予測量を十分処理し得るものであると認める。

(3)高レベルβ・γ固体廃棄物
 高レベルβ・γ固体廃棄物(α放出核種を含まないもので容器の表面線量率200mR/h以上のもの)の発生予測量は、約14m3/yであり、その大部分は、材料試験炉で照射されたキャプセル等の金属片およびその他原子炉機器の損耗部品等であり発生量の予測は妥当である。本変更によって増設される貯蔵セルは、圧縮減容およびドラム缶詰めの処理を行なう前の一時貯蔵に用いられるものであってその容積は発生予測量に対して妥当であると認める。

(4)低レベルα固体廃棄物
 低レベルα固体廃棄物(容器の表面線量率50mR/h以下で、かつ、容器1個当りのα放射性物質が1mci以下のもの)の発生予測量は、約75m3/yである。一方、低レベルα固体廃棄物処理施設の一時貯蔵能力および圧縮減容ならびに焼却減容能力は、この発生予測量を十分処理し得るものであると認める。

(5)高レベルα固体廃棄物
 高レベルα固体廃棄物(容器の表面線量率が50mR/h以上かまたは容器1個当りのα放射性物質が1mci以上で、プルトニウムとして19以下、核分裂性物質として49以下のもの)の発生予測量は、約22m3/yである。これらの廃棄物は封入装置によってステンレス鋼製容器等に密封され、半地下式の高レベルα固体貯蔵施設に貯蔵保管される。本廃棄物貯蔵施設は当面約3年間の貯蔵能力を有するが、必要に応じて敷地内に遂次増加されることとなっている。

(6)固体集積保管場
 高レベルα固体廃棄物を除く、各種の廃棄物は処理後、ドラム缶詰めまたはコンクリートブロックに封入され固体集積保管場に貯蔵保管される。固体集積保管場の面積は、廃棄物の発生予測量から判断して約10年分の処理済廃棄物を貯蔵保管
するのに十分なものである。

3 廃棄物処理施設の構造設計および耐震設計

 廃棄物処理施設は、取扱う放射性廃棄物の性質と量および事故時の放射性物質の影響の大きさ等を考慮して構造設計が行なわれ危険度の高い放射性物質の取扱い量が多い施設には、二重格納の考え方が採用される。
 耐震設計は、汚染の広がりやすい放射性物質の有意な量を収納する一次格納用の構造物および重要な遮蔽構造物については、建築基準法に定める水平震度(0.2)の1.5倍から定まる水平地震力に耐えるようにし、特に重要な機器等は、建築基準法に定める水平震度の2倍から定まる水平地震力に耐えるように設計される。これ以外のものは、建築基準法に定める水平震度から定まる水平地震力が適用されるが、二次格納用の構造物であっても、その破壊が一次格納用の構造物に大きな影響を与えると考えられる場合には、必要に応じて0.2よりも高い水平震度が適用される。
 なお、転倒のおそれのある構造物には水平震度のほか垂直震度も適用する。
 本変更に係る施設等の施設区分に従って、構造および耐震設計区分を検討したが、その区分方法および地震力適用区分は適当であると認める。
 このほか、地中に埋設される低レベル廃液輸送管は、その破断によって多量の放射性物質の漏出を伴うものではないが、地震時の地盤変形に十分追従でき破断の可能性は少ないと考える。
 なお、建物および構築物等の主要構造材には、建築基準法に定める不燃材、準不燃材および難燃材が用いられることになっているほか、必要に応じて火災検知器および消火設備が設けられ火災対策が講じられることになっている。
 また、本変更に係る施設は、良好な地盤上に設置されることとなっており、場合によってはパイルを用いることによって不等沈下等が防止される。

4 放射性廃棄物による平常時被ばく評価

(1)気体廃棄物による被ばく評価
 今回、増設される固体廃棄物処理装置の運転によって生ずる気体廃棄物は極く微量であって周辺監視区域境界において有意な線量とはならない。なお、大洗地区および東海地区の原子炉施設によるγ線全身被ばく線量は最大で約1.4mrem/yである。
 なお、参考としてもっとも線量寄与が大きいと考えられる低レベルα固体廃棄物の圧縮減容を行なう際のα放出核種の飛散による被ばく線量について、次の条件を与えて試算を行なった結果を記す。

① 1日の処理量に対応するα放出核種の最大量50mciの1%が毎日処理建家内に浮遊する。

② 換気系は常時、プレフィルタ1段および高効率粒子フィルタ2段で浄化することとなっているが、このフィルタ系の粒子除去効率として99.9%を用いる。

③ 大気中の拡散に用いる気象条件としては、現地における気象観測データを用いる。

④ 放出高さは排気筒地上高さ(40m)を用いる。計算の結果、大洗地区におけるα線による全身被ばく線量が最大となる地点(α廃棄物処理建家排気筒から西南西約700mの地点)における肺、骨、肝臓に対する被ばく線量はそれぞれ0.02mrem/y,0.73mrem/yおよび0.11mrem/yである。

(2)液体廃棄物による被ばく評価
 液体廃棄物中の放射性物質による被ばく評価は、次の条件を用いて行なった。

① 放射性物質の放出量は実績および予測から判断してトリチウム除き60mci/y,トリチウム100ci/yとする。

② 放出核種は、実績および予測から判断して、セシウム137、コバルト60、およびストロンチウム90とし、構成はそれぞれ80%、10%、10%とした。

③ 放出された放射性物質は、海水によって希釈されるものとし、拡散は、東海村沿岸で行なわれた実験に基づく実験式を用いて計算した。なお、被ばく計算には、上記の実験式で深さ2mまでの拡散を仮定し放出口から50mの距離での濃度を用いて行なうこととした。

④ 海産物による濃縮係数は、現在報告されているもののうち厳しい値を用いる。

⑤ 住民の海産物摂取量は、魚類200g/d、海藻40g/d甲殻類および軟体動物それぞれ10g/dとし、この量を海日摂取するものとする。
以上の条件を用いて計算した結果、成人の全身被ばく線量は約1.3mrem/yである。

(3)固体集積保管場からの被ばく評価
 増設される固体集積保管場から最も近い周辺監視区域境界で貯蔵廃棄物による空間線量率について検討を行なった。
 貯蔵廃棄物からの直接線量の影響は、コンクリート遮蔽、土壌等の遮蔽効果によって無視できる程小さい。
 散乱線量については、現在保管されている廃棄物を用いた実測値等から判断してコンクリートブロック等の遮蔽効果によって十分低く押えられるものと判断する。

5 放射線管理および監視施設

 増設される各廃棄物処理棟には、γ線エリアモニタ、ダストモニタ(α、β、γ用)、ハンド・フット・クロスモニタ等が各処理棟の実態に対応して配置され、ハンド・フット・クロスモニタを除く放射線モニタ信号は、低レベルα固体処理建屋排気筒のモニタと共に管理機械棟の放管測定室で監視される。
 環境に放出される液体廃棄物は、発生元あるいは貯留元等において必ず主要核種構成およびその放射性物質濃度がチェックされるが、排水監視ポンドにおける最終的な放出廃液の放射性物質濃度測定により放出管理が行なわれる。これらの方針および各施設についての安全設計の考え方から、環境に異常な放射性物質が放出されることはないと判断する。

6 その他

 増設される機器および施設を検討したが特に立地評価に当っての事故を想定する必要はないと判断する。また、本変更によって増加する業務量に対しては人員の増加が行なわれることになっており妥当なものと認める。

Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和48年12月25日の第121回原子炉安全専門審査会において次の委員によりなる第107部会を設置した。
渡辺 博信(部会長) 放射線医学総合研究所
浜田 達三 理化学研究所
秋 山宏 東京大学
 以後、部会および審査会において審査を行なってきたが昭和49年3月13日の部会において部会報告書を決定し、昭和49年3月20日の第124回原子炉安全専門審査会において本報告書を決定した。


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