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放射線障害の防止に関する行政監察の結果について



 行政管理庁では、昭和48年8月、当庁所管に係る261事業所において、放射性同位元素等の管理・使用状況を立入調査し、その結果にもとづいて、昭和49年1月28日付、行管甲第13号をもって、科学技術庁長官宛勧告してきたので、ここにその全文を掲載する。

放射線障害の防止に関する行政監察結果に基づく勧告


行管甲第13号
昭和49年1月28日

 我が国における放射性同位元素の利用は、近年目覚ましいものがあり、現在では、医療面における診断・治療、工業面における品質管理・工程管理、農業面における品種改良・腐敗防止、公害防止面における汚染物質の測定・分析など幅広い分野で実用化されている。
 このため、放射性同位元素の使用事業所数は昭和48年3月31日現在で約3,000に達しており、その使用核種は一般的に利用されているものだけで100種類を超え、核種ごとの使用数量も年々増加している。このような放射線利用の一般化に伴って、放射性同位元素の紛失、異常被ばく事故等が発生しており、このことから、放射性同位元素を取り扱う者の障害防止に対する安易な考え方や管理者の安全対策に対する認識の欠除が問題とされている。
 これに対する国の放射線障害防止対策の現状をみると、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(昭和32年法律第167号。以下「放射線障害防止法」という。)その他の法令によって、放射性同位元素を使用する者等に対して厳しい規制措置が加えられており、関係行政機関はこれら法令に基づく許可、立入検査等を通じてその確保に努めているが必らずしも十分な効果が挙がっていないといわれている。以上のことから、今次監察において、放射線使用事業所(放射性同位元素を一定数量以上使用する者及び販売又は廃棄を業として行う者をいう。以下同じ。)における放射性同位元素の使用・管理の状況と、それに対する国の指導監督状況等について調査したところ、以下に述べるように、改善措置を講ずる必要のあるものが認められた。

1 放射線使用事業所における放射性
同位元素の使用及び管理の適正化

(1)無許可又は無届の核種及び数量の使用の防止

 放射線使用事業所は、放射線障害防止法第3条ないし第4条の2及び第50条の規定により、使用、販売又は廃棄する放射性同位元素の種類、数量等について、科学技術庁長官の許可、承認又は届出が必要であり、その内容を変更しようとする場合も同様である。
当庁が調査した261放射線使用事業所における放射性同位元素の使用許可等の有無についてみると、次のように無許可又は無届の核種、数量を使用している事業所が認められた。

①20年以上無届のまま、診療用放射線照射器具(ラジウム226を装備)を使用している病院など、放射線障害防止法に基づく届出を全く行わずに放射性同位元素を使用しているもの2事業所。

②10年以上承認を受けたままストロンチウム90(密封)を使用している国立大学など、使用許可等を受けていない核種を使用しているもの3事業所。

③1日最大使用許可数量の200倍のりん32を使用していた国立研究機関など、年間使用数量又は1日最大使用数量を超えて使用しているもの20事業所。このように、放射線使用事業所において、放射性同位元素の不適切な使用がみられることは、これらの事業所の遵法精神の欠除によるところが大きいが、一面では放射性同位元素を供給している販売業者の販売方法にも問題があるものと認められた。すなわち、放射性同位元素の販売については、許可を受けている業者は多いが、ほとんどはそのうちの数業者によって取り扱われており、これらの販売業者が放射性同位元素の購入者について使用許可等の核種、数量を十分確認しないまま販売したと認められるものがみられる。
 したがって、科学技術庁は、放射線使用事業所に対して、使用許可等に係る法令の遵守について指導を強化するとともに、販売業者に対して、放射性同位元素を販売する際には購入者の申込核種・数量等について使用許可等の内容を確認し、購入者の保有が許可等の範囲を超えることにならないよう、販売方法について更に指導の徹底を図る必要がある。

(2) 安全管理体制の確保

ア 放射線障害予防規定の遵守

 放射線使用事業所は、放射線障害防止法第21条の規定により、放射性同位元素の使用又は販売・廃棄の業を開始する前に、放射線障害予防規定(以下「予防規定」という。)を作成し、科学技術庁長官に届け出なければならないこととされており、放射線障害防止を図るための安全管理上重要なものである。
 調査結果によれば、次のように不適切な事業所が認められた。

① 科学技術庁長官の許可を受けて放射性同位元素の使用を開始して以来8年経過した現在も予防規定の作成・届出をしていないなど予防規定の届出を行っていないもの4事業所。

② 販売業者が使用者に代わって予防規定の作成・届出をし、当該使用者はその写しを所持せず内容も知らないため、予防規定どおりの安全管理を行っていないなど予防規定の遵守が十分でないもの72事業所。
したがって、科学技術庁は、予防規定の届出状況について十分点検を行い、届出の確保を図るとともに、放射線使用事業所に対して、予防規定を遵守するよう更に指導の徹底を図る必要がある。
イ  放射線取扱主任者の職務の励行確保

 放射線使用事業所は、放射線障害防止法第34条の規定により、放射線取扱主任者免状を有する者等を放射線取扱主任者(以下「取扱主任者」という。)に選任し、選任した日から30日以内に科学技術庁長官に届け出なければならない。また、当該取扱主任者が旅行・疾病その他の事故により職務を行うことができない期間中に放射性同位元素を使用しようとするときは、同法第37条の規定により、上記有資格者の中から代理者を選任しなければならないこととされている。
取扱主任者は放射性同位元素の安全管理の責任者であるが、調査結果によれば、次のように不適切な事業所が認められた。

① 科学技術庁の立入検査で指摘された時点から7年経過している現在、取扱主任者の届出をしていないなど取扱主任者を選任していないもの又は届出を行っていないもの8事業所。
 また、取扱主任者が不在中代理者を選任せず放射性同位元素を使用しているもの3事業所。

② 取扱主任者が当該事業所の予防規定に定める放射性同位元素の使用実績の点検を怠ったため、1日最大使用許可数量の超過使用を知らなかったなど、取扱主任者の職務を十分遂行していないと認められるもの33事業所。
また、非破壊検査業者が遠隔地に散在している作業現場で放射性同位元素を取り扱う場合には、取扱主任者が当該作業現場にいないことが多いため、放射性同位元素の管理・保管及び作業の監督等を取扱主任者の免状を所持していない者が行っていたり、作業員が多量被ばくしているなど、使用等に関する指導監督が十分でないものがある。
したがって、科学技術庁は、次の改善措置を講ずる必要がある。

① 放射性同位元素の使用許可等を行った放射線使用事業所について取扱主任者の届出状況を点検整理し、無届のものについては、届出の確保を図ること。

② 立入検査等を通じて、事業所に対し、取扱主任者がその職務を適切に遂行するよう指導すること。

③ 非破壊検査業者が非破壊検査のため放射性同位元素の使用場所を一時的に変更する場合は当該使用場所に取扱主任者又は取扱主任者免状所持者を配置すること等により使用等に当たっての指導監督を十分行うよう、事業者に対する指導を強化すること。
(3) 被ばく管理及び健康診断等の励行

 放射線使用事業所は、放射線障害防止法第20条、第23条及び第24条の規定により、管理区域等に立ち入った者についてその者の受けた放射線量等を測定し、放射線障害の発見のための健康診断を実施し、放射線障害を受けた者又は受けたおそれのある者に対しては、管理区域等への立ち入りの制限その他保健上必要な措置を講じなけれぱならないことになっている。
 調査結果によれば、次のように不適切な事業所が認められた。

① 被ばく線量の測定を必要とする放射線作業従事者について全く測定していない、一時的に相当量の被ばくをしたおそれがあるにもかかわらず何らの措置を講じないまま作業に従事させているなど、被ば管理の実施が不十分なもの65事業所。

② 放射性同位元素の使用開始から4年経過した現在まで一度も所定の健康診断を実施していないなど、健康診断等の実施が不十分なもの103事業所。
他方、調査対象放射線使用事業所の中には、放射線障害の防止のため、放射線作業従事者等全員に「放射性同位元素等取扱者手帳」を作成交付し、使用等に当たっての遵守事項を周知徹底するとともに、作業従事者自らが被ばく管理・健康管理を確認する制度をとっており効果を挙げている例もみられた。
 したがって、科学技術庁は、次の改善措置を講ずる必要がある。

① 立入検査等を通じて、放射線使用事業所に対して被ばく管理及び健康診断の実施等を励行するよう指導すること。特に被ばく線量の多い者に対し適切な措置を講ずるよう指導すること。

② 放射線作業従事者等に対し手帳を交付するなど、被ばく管理及び健康管理について特に効果を挙げている事例を参考として、放射線作業従事者等の被ばくを防止するための措置について検討し、その普及を図ること。

(4)使用等に係る記録の励行

 放射線使用事業所は、放射線障害防止法第25条の規定により、放射性同位元素の使用・保管又は廃棄について、その種類、数量、年月日、作業に従事する者の氏名等をその都度帳簿に記載しなければならないことになっており、その記録は、当該事業所における1日最大使用数量、保管数量等を確認する等放射線障害の防止のために極めて重要である。調査結果によれば、購入した放射性同位元素を保管記録簿に記載していない、放射性同位元素によって汚染された物の廃棄を記録していないなど、使用・保管又は廃棄の記録が不十分なものが65事業所みられた。
したがって、科学技術庁は、放射線使用事業所における放射性同位元素の使用等を適正に行わせるため、例えば記帳の具体的な様式を明示するなどの措置を講じて、事業所に対して記録を励行するよう指導する必要がある。

(5)施設及び使用等の基準の遵守

 放射性同位元素の使用・貯蔵又は廃棄のための施設及び使用等の方法については、放射線障害防止法第13条及び第15条ないし第19条の規定により、放射線使用事業所は、所定の技術上の基準に従って施設を維持し、放射性同位元素を取り扱わなければならないことになっている。
調査結果によれば、次のように不適切な事業所が認められた。

① 作業室の内壁、床等に割れ目などのすき間があったり、主要構造部等が耐火構造又は不燃材料を用いた構造になっていないなど、使用施設が不備であるもの 14事業所。

② 施設が狭あいであるなどのため、実験室の廊下に耐火性でない冷蔵庫を置きこれに放射性同位元素を保管しているなど、貯蔵施設が不備であるもの 12事業所。

③ 放射性同位元素又は放射性同位元素によって汚染された物を保管・廃棄する設備が狭あいであるなどのため、不適切な廃棄がなされているなど、廃棄施設が不備であるもの 7事業所。

④ 管理区域外において外部放射線量が許容線量を超えるおそれのある場所がみられたり、管理区域のさく等が設けられていないなど、管理区域の設定又は設備が不備であるもの 19事業所。

⑤ 施設や管理区域の境界に設けるさくなどに所定の標識がなされていないなど、標識の不備なもの34事業所。

⑥ 所定の施設又は管理区域以外の場所で放射性同位元素を使用・保管又は廃棄するなど、使用等の方法が不適切であるもの 18事業所。
したがって、科学技術庁は、次の改善措置を講ずる必要がある。

① 施設及び使用等に係る基準の遵守を図るため、放射線使用事業所に対して、自主的な総点検の実施など、自主管理を強化するよう指導すること。

② 放射性同位元素の危険性や関係法令に対する認識を高めるため、厚生省(都道府県)及び労働省と連携して、放射線使用事業所を対象とした講習会等を計画的に実施すること。
2 関係行政機関における指導監督の強化

(1)立入検査の適切な実施
ア 科学技術庁は、立入検査対象放射線使用事業所の選定に当たっては、新規事業所、前回の検査結果問題のあった事業所等に重点を置いていたが、昭和48年度からは、これら事業所中、非密封放射性同位元素使用事業所、非破壊検査専業事業所、医療機関及び教育機関に重点を置くものとしている。また、立入検査実施要領(部内規定)により検査項目及び着眼事項を定めている。調査結果によれば、次のような問題がみられた。

① 立入検査実施率は、放射線障害防止法制定当初の昭和33年度は159%であったが、使用事業所等の増加に伴い、昭和40年度22%、昭和47年度16%と逐年低下しており、今後とも放射線使用事業所の増加が予測されることから、立入検査実施率は更に低下するものと見込まれている。

② 調査対象事業所においては、国・公立の研究機関及び医療機関並びに非破壊検査事業所に不適切事項が比較的多くみられるが、立入検査結果は十分に対象選定に活用されておらず、立入検査の年間実施計画は四半期別の予定地域及び担当放射線検査官を定めているだけで、対象事業所の選定は各放射線検査官の判断によっている。

③ 調査対象事業所においては、被ばく管理・健康診断に関する規定を遵守していない事業所、管理区域・貯蔵施設等の基準に適合していない事業所などが多く、また、無許可又は無届で放射性同位元素を使用している事業所の中には、立入検査において承認数量の10倍を超える使用を指摘されていないものなどがみられたが、これら不適切事項の分布状況は使用機関によって異なっているにもかかわらず、立入検査に当たっては特に立入検査対象機関ごとの重点項目を定めていない。
イ 労働省は、安全衛生に関する労働基準監督官執務必携(案)及び電離放射線監督指導チェックリストによって立入検査の項目及び着眼事項を定めており、また、昭和48年3月から4月に非破壊検査を行う事業場等に対するいっせい立入検査を実施している。
今回25都道府県労働基準局を調査した結果によれば、次のような問題がみられた。

① 放射性同位元素の使用室、放射性同位元素を装備した機器等の設置、移転等について、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第88条(昭和47年10月前にあっては労働基準法(昭和22年法律第49号)第54条)による計画の届出が励行されていない等のため、放射線使用事業所のはあくが的確でない。
② 放射線使用事業所に対する立入検査の方針を定めている都道府県労働基準局はほとんどない。
③ 当庁が調査した労働安全衛生法の適用事業所180中110事業所には、被ばく管理、健康診断、外部放射線量率の測定などをを適切に行っていないものや、使用施設等が不備であるもの等の不適切事項がみられた。なお、このうち8事業所については、立入検査において改善を必要とする事項の指摘を行っていない。

ウ 厚生省は、昭和41年に医療監視要綱(医務局総務課長通知)を定め、都道府県に対し、病院については立入検査項目に従って年1回医療監視を行うよう指導しているが、診療所については定期的に医療監視を実施するよう指導していない。今回25都道府県及び10政令市を調査した結果によれば、次のような問題がみられた。

① 病院に対する医療監視はおおむね年1回実施されているが、放射線使用事業所である調査対象80病院中、診療用放射性同位元素の使用届出等を行わずに放射性同位元素を使用しているもの19病院、放射性同位元素使用室等が施設基準に適合していないもの26病院、被ばく管理が適切でないもの22病院及び外部放射線量率の測定が適切でないもの39病院がみられた。しかし、医療監視ではこれら不適切事項に重点を置いておらず、このため22病院にあっては医療監視で改善を必要とする事項について指摘を行っていない。

② 放射線使用事業所である調査対象8診療所はいずれも放射性同位元素の使用開始以来1度も医療監視を受けておらず、中には10年以上も受けていない診療所があり、また7診療所において上記病院と同様の不適切事項がみられた。したがって、関係各省庁は、それぞれ次の改善措置を講ずる必要がある。
① 科学技術庁は、許可等の申請等があった新規事業所に対しては、早期に関係施設等の実地確認を行うよう努めること。
また、立入検査結果を整理する等により、対象放射線使用事業所選定の具体的な基準及び立入検査の明確な重点項目を定めて適切な立入検査を実施すること。
更に、立入検査の効率化を図るため、労働省及び厚生省との間に連絡会議を設けて、各機関が重点を置く立入検査対象等の調整を行うなど、相互の連携に努めること。

② 労働省は、労働安全衛生法第88条による計画の届出を一層励行させるとともに、届出のあった放射線使用事業所について、早期に当該施設等の実地確認を行うよう努めること。また、立入検査の方針を定めて、計画的かつ適切な実施を図ること。

③ 厚生省は、都道府県及び政令市に対し、放射線使用事業所である医療機関の医療監視について重点検査項目を指示すること等による適切な実施及び診療所に対する計画的な実施を指導すること。

(2)立入検査の効果確保

 放射線障害防止関係法令の施行後約15年を経過しているが、今回放射線使用事業所267(医療法のみの適用事業所を含む。)を調査したところ、82%に当たる219事業所に不適切事項がみられた。このことは、使用者の放射線安全確保に関する認識が低いこともあるが、次のように関係省庁において法令違反等に対する指摘方法や改善効果の確保措置について厳しさが欠けていたことにも一因がある。

ア 科学技術庁は、立入検査の結果改善を必要とする事項については、立入検査実施要領等に基づき、ア軽微なものについては放射線検査官の口頭指示、イ重要なものについては放射線検査官名の文書による指摘及び必要に応じ改善報告の要求、ウ特に必要のあるものについては内容に応じ水戸原子力事務所長、原子力局放射線安全課長又は原子力局長名の文書による警告を行うものとしている。
調査結果によれば、次のような問題がみられた。

① 調査対象放射線使用事業所に、前記1の項目で述べたとおり、無許可使用、施設及び使用等の基準違反等の不適切事項が多数みられた。また、科学技術庁の立入検査においても多数の不適切事項について指摘が行われているが、その指摘はほとんどが上記ア又はイの方法となっている。しかし、指摘を受けた事業所においては改善措置を講じていないところがあり、中には改善措置を講じていないにもかかわらず改善報告書を提出している事業所がみられた。

② 科学技術庁においては、改善報告を求めた事業所について、指摘事項、改善報告の有無、改善状況の確認などの整理が十分に行われていない。


イ 労働省は、立入検査の結果改善を必要とする事項については、労働基準局長通達に基づき、⑦労働基準監督官名による指導票の交付、④労働基準監督官名の是正勧告書の交付及び改善報告の徴収、◎重大な違反行為に対しては労働基準監督署長名による使用停止命令などを行うものとしている。
 調査結果によれば、上記ア又はイの方法によって指摘を受けたが改善措置を講じていない事業所があり、中には改善措置を講じていないにもかかわらず改善報告書を提出している事業所もみられた。

ウ 厚生省は、都道府県に対する医務局長通達によって、医療監視の結果改善を必要とする事項については、ア保健所長又は衛生部長名の文書による指摘、イ重大な違反事実については知事名の文書による改善勧告及び改善計画書の提出要求などを行うよう指導している。
 調査結果によれば、改善を必要とする事項についての指摘の多くが医療監視員の口頭指摘又は上記アの方法によっており、改善状況の確認は翌年度の医療監視によって行われている。このため、指摘を受けた病院において改善措置を講じていないもの、同一の改善事項を再度指摘されているものなどの例がみられた。 したがって、関係各省庁はそれぞれ次の事項について改善指置を講ずる必要がある。

① 科学技術庁は、放射線使用事業所に対する立入検査の結果、使用施設等の基準違反などのうち悪質なものについては原子力局長名による警告を行い、これによって改善効果の挙がらないもの、無許可使用等の重大な法令違反などについては、使用停止、許可の取消し等の適切な行政処分を講ずること。また、指摘した重要な事項については改善報告書に写真、図面等改善の具体的な資料の添付を徹底させること。更に、改善報告を求めた事項についてはその整理を十分に行い、改善効果の確保を図ること。

② 労働省は、放射線使用事業所に対する立入検査の結果指摘した重要な事項については、改善報告書に具体的な資料を添付させ、又は実地確認を行うなどの適切な措置を更に徹底して行うこと。

③ 厚生省は、放射線使用事業所である医療機関における使用施設等の基準違反などのうち悪質なものについては、知事名による勧告を行うこと、また、医療監視の結果指摘した事項については原則として改善報告を求め、重要な事項の改善報告書には具体的な資料を添付させること等について都道府県及び政令市を指導すること。

(3)立入検査職員に対する研修の強化

 労働省は、労働衛生に関して労働衛生専門官、労働基準監督官等約160人に対し、また、厚生省は、医療監視員約100人に対しそれぞれ毎年研修を実施しているが、放射線に関する事項はいずれもわずか数時間にすぎず放射線に関する専門的知識を付与するには十分なものとはいえない。
 調査結果によれば、立入検査に従事している職員のうち診療放射線技師等の資格を有する者、放射線に関する専門の研修を受けた者など放射線の取扱いに習熟している者は、①労働衛生専門官及び労働基準監督官にあってはごく少なく、②医療監視員にあっては厚生省が昭和48年の医務局長通達によって診療放射線技師等を任命するよう指導しているが、その任命状況は都道府県間において差異があり、7県4政令市においては全く任命されていない。
 また、労働基準監督官又は医療監視員の放射線使用事業所に対する立入検査において、前項で述べたような不適切事項についての指摘漏れや見落しがあることは、これら立入検査に従事する職員が放射線の取扱いに十分習熟していないこともその一因である。
 したがって、関係各省庁はそれぞれ次の事項について改善措置を講ずる必要がある。

① 労働省は、労働衛生専門官又は特定の労働基準監督官に対して、放射線に関する専門的知識を十分付与できるように研修を充実し、放射線使用事業所に対する立入検査に当たってはこれらの者を重点的に活用すること。

② 厚生省は、都道府県及び政令市に対し、放射線に関する専門的知識を有する者の医療監視員への任命の徹底又は医療監視員に対する研修の充実を図り、放射線使用医療機関に対する医療監視に当たっては、これらの医療監視員を重点的に活用するよう指導すること。

(4)安全輸送対策の確保

 放射性同位元素の鉄道、軌道、自動車等による運搬については、当該物質の危険性にかんがみ、「放射性物質車両運搬規則」(昭和33年運輸省令第16号)によって、その運搬容器・包装・容器1個当たりの数量・積載方法、取扱者の安全措置等の規制が加えられている。
 調査結果によれば、陸運業者が放射性同位元素を他の貨物と混載したため積降しの際に紛失した事例、放射性同位元素の積載方法等に注意を欠いたため、トラック運搬中に転落し、発見に苦労した事例等がみられた。
 運輸省は、同規則第2条第5項の規定による包装の省略又は容器1個当たりの数量超過についての許可事務を行っているが、同項の規定以外の放射性同位元素の運送の実態、運搬中の放射線障害防止対策の状況等のはあくは行っておらず、また、運搬業者等に対する同規則の遵守についての指導も十分でない。
 したがって、運輸省は、放射性同位元素の運搬に伴う放射線障害の発生を未然に防止するため、放射性同位元素の運搬の実態等をはあくのうえ、運搬業者に対して、上記規則の励行を確保するよう指導を徹底する必要がある。

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