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核融合研究開発懇談会技術分科会報告書


昭和48年11月30日
技術分科会

  まえがき

 昭和44年原子力委員会が核融合反応の実現を明確な目的とする総合的研究、すなわち原子力特定総合研究の第一段研究開発に着手して以来4年有余を経過した。

 この間、日本原子力研究所、理化学研究所および工業技術院電子技術総合研究所がそれぞれ研究を分担し、かつ有機的連けいを保ちつつ研究開発を実施し、これまで着実な成果が得られている。

 とくに主計画であるトカマク型装置の研究開発においては、世界の研究開発水準に比肩し得るまでの顕著な成果が得られた。

 一方、名古屋大学プラズマ研究所および各大学においては、過去十余年に亘って研究開発基盤の育成、充実に努め、いくつかの世界的水準の研究成果をあげ、さらに人材養成の面からも多大の貢献をした。

 また、民間企業においても、関連設備、機器の開発に努め、第一段階研究開発の円滑な推進を側面より支援した。

 これら関係者の多大の熱意と努力により、いまやわが国は臨界プラズマの達成を明確な目標とする研究開発が可能となり、将来における核融合動力実験炉の実現を想定し得る段階に達した。

 核融合研究開発先発国である米国、ソ連をはじめとする諸外国においても核融合動力炉を目指した臨界プラズマ試験装置の具体的な建設計画を検討する等急速に研究の進展を示している。

 このように内外において核融合研究開発が積極的に推進されているのは、核融合がエネルギー源として優れており、またその利用の可能性が有望視されてきたためである。

 とくにエネルギー源の大部分を外国に依存しているわが国にとって燃料資源が不偏、かつ実質上無尽蔵であり、さらに安全性および環境保全上の有利性が期待される核融合エネルギーの利用は不可欠であり、しかも可能な限り早期にその実用化を必要とするものである。

 このような観点から、かが国は自主的かつ積極的な核融合の研究開発努力が必要であり、これはまた同時に全世界的にエネルギー資源問題が論じられる今日、広く人類のエネルギー問題のため諸外国に卒先して重要な役割を果すことにもなるものと考える。

 既に述べたごとくわが国の核融合研究開発は、第一段階研究開発の遂行により、プラズマの閉込めに関してかなりの成果が得られたが、これは核融合動力炉の実用化の観点からみれば、研究開発がその緒についたものであり、今後は臨海プラズマの達成を図るとともに、その他関連技術を獲得しなければならない。

 これらの研究開発は、未踏の技術的問題を含むものであり紆余曲折も予想されるが、わが国は総力をあげ英知を尽してこの最大の課題と取り組まなければならない。

 技術分科会は、以上のような諸事情を充分斟酌して昭和48年6月28日発足以来、現在まで6回の会合を重ね、核融合研究開発懇談会から検討依頼のあった原子力委員会の今後の推進方策に反映させるための(1)長期的観点からの核融合研究開発将来計画の立案(2)将来計画を基にした第二段階の核融合研究開発計画の立案について鋭意審議を進めてきた、すなわち、長期的観点からの核融合研究開発の進め方については、核融合動力実験炉を昭和60年代中頃に、次いで核融合動力原型炉を経て同動力実証炉を今世紀末前後に実現させることを想定した研究開発の進め方について検討を行なった。

 また、第二段階研究開発計画については、上記の長期的観点からの核融合研究開発の進め方をふまえて、昭和50年度から昭和54年度までの臨界プラズマ条件の達成を目途とする研究開発の進め方ならびに核融合動力実験炉を建設するための準備としての核融合炉心工学技術および核融合炉工学技術の研究開発の進め方を主とした検討対象としその研究開発の内容および規模等について審議を進めてきたが、ここに結論を得たので報告する。

 なお、とくに本研究開発の遂行にあたり欠くことができないと判断される要件については、要望事項としてとりまとめた。

 審議に参加した技術分科会委員および本分科会の検討資料の作成等具体的な作業を実施した技術分科会幹事会委員の構成ならびに開催日は、別に掲げるとおりである。
技術分科会の構成
   技術分科会委員名簿(五十音順)
 会 長 伏見 康治 日本学術会議副会長
安  成弘 東京大学工学部教授
一宮 虎雄  理化学研究所副理事長
井上弥治郎 通商産業省工業技術院電子技術総合研究所長
宇尾 光治 京都大学工学部教授
大山  彰 動力炉・核燃料開発事業団理事
神原 豊三 (株)日立製作所常務取締役
吹田 徳雄 大阪大学工学部教授
関口  忠 東京大学工学部教授
高山 一男 名古屋大学プラズマ研究所長
長尾 重夫 東北大学工学部教授
西本 憲三 電気事業連合会理事
福井 資夫 東京芝浦電気(株)エネルギー機器研究所長
広瀬  胖 (財)電力中央研究所理事
法貴 四郎 住友原子力工業(株)専務取締役
山本 賢三 日本原子力研究所理事
横須賀正寿 三菱原子力工業(株)常務取締役
吉川 庄一 東京大学理学部教授
吉村 久光 日本大学理工学部教授
   
   技術分科会幹事会委員名簿(五十音順)
  主査 関口  忠 東京大学工学部教授
安  成弘 東京大学工学部教授
岡本 耕輔 理化学研究所核融合研究室主任研究員
田丸  健 通商産業省工業技術院電子技術総合研究所プラズマ研究室長
森   茂 日本原子力研究所核融合研究室長
吉川 庄一 東京大学理学部教授
吉村 久光 日本大学理工学部教授
  
   技術分科会開催日
   昭和 48.6.28    第1回会合
 7.23   第2回〃
 8.29   第3回〃
 9.28   第4回〃
 10.20        第5回〃
 11.5   第6回〃
  
   技術分科会幹事会開催日
   昭和 48.7.3 第1回会合
7.12 第2回 〃 
7.18 第3回 〃
7.23 第4回 〃
8.14 第5回 〃
8.20 第6回 〃
8.29 第7回 〃
9.13   第8回 〃     
9.20 第9回 〃     
9.28 第10回 〃     
10.9 第11回 〃     
10.24 第12回 〃     
11.8 第13回 〃     
11.14 第14回 〃

   第1章 核融合研究開発の意義

1 核融合研究開発の必要性


 わが国のエネルギー需要は、社会経済の発展と国民生活水準の向上に伴い、増加の一途を辿っており、今後ともひきつづき堅調な増大が予想される。

 このような需要の増大に対処してきれいであり、かつ低廉なエネルギーを安定に供給することがわが国の社会経済の健全な発達を図るための必須要件であり、また、これはいまや社会的要請となっている。

 現在わが国は一次エネルギーの約85%を海外資源に依存しており、それらの大部分は石油を中心とする化石燃料であるが、これらは長期的にみると資源的にも制約があり、かつ需給構造は国際的に流動的である。

 また、世界的にも今後大幅なエネルギー需要の増加が予測される等、このような諸状況を斟酌するとき、わが国がこれらの化石燃料の長期に亘る安定確保を実現するには種々の困難が伴うものと判断される。

 また、エネルギー需要が大幅に増大した場合に、これら燃料の輸送,備蓄に多くの困難な問題が生じ,その結果エネルギーの安定供給に支障をきたす危険性が多分に存在する。

 さらには環境保全の見地から,多くの問題が発生することが考えられる。

 このような事情を勘案すると,これら諸問題に応えうる最も有望なエネルギー源として核融合エネルギー利用の早期実現が切望されるところである。

 核融合エネルギー利用には一次エネルギー源として数多くのすぐれた特長がある。

 すなわち、その主なるものをあげると、
   ① 燃料資源が豊富に存在する。
   ② 燃料資源の地域偏在性がなく、燃料が容易に入手できる。
   ③ 環境保全性が高い。
などの利点がある。

 核融合動力炉の実現した段階において、わが国は、現在山積しているエネルギー資源確保の困難を払拭し、エネルギー資源の海外依存からの脱却、大規模なエネルギー需要に対する安定供給の確保、環境保全性が高くしかも低廉なエネルギー供給等が可能となる。

 これは国民生活の福祉向上に寄与するところ著しく大であり、社会経済の発展を図るうえでも重大な意義があるものと判断する。

 さらにこの開発の意義は、単に国家的な利益の域にとどまらず、その恵沢を全人類が享受しうるところにある。

 かかる意義を充分認識し、21世紀初頭の核融合動力炉実現を目指して、国力を挙げ、核融合研究開発を積極的かつ強力に推進することが必要である。

2 エネルギー需給の見通し

 核融合による発電が実用化されるとみられる西暦2000年以降におけるわが国のエネルギー需要量を予測することは将来の経済成長率、産業および社会構造の高度化に大きく左右されるためかなり困難ではあるが、わが国の1970年代、1980年代、1990年代におけるエネルギー需要の年平均伸び率をそれぞれ9%、6%、3%に見込んで推定すれば昭和46年度の総エネルギー需要が,石油に換算して、3億キロリットルであるので、昭和75年度(西暦2000年)には、その5倍以上の約16億キロリットルに達することになる。

 今、深刻にエネルギーの不足が叫ばれている中で、これだけのエネルギー需要を満たすことは在来の供給源のみに頼る限りわが国においては不可能である。

 しかも全地球的に、エネルギー資源の賦存量と世界のエネルギー消費の増加傾向をみると、化石燃料資源はそう速くない将来に枯渇するものと推定されているので、この点からも今後、エネルギー供給の著しい増大を化石燃料に期待するには無理があり、他の一次エネルギー源に頼らざるを得ないものとみられる。

 化石燃料以外の一次エネルギーとしては、水力、地熱等の天然エネルギー源利用があり、これらも今後におけるエネルギー供給の多様化の一端を担うものであり、注目に値するが、将来に予測される大規模なエネルギー需要に応え得る一次エネルギーとしては、原子力が最も有望である。

 核分裂による原子力発電の燃料となるウラン資源については供給可能年数に限りがあるが、高速増殖炉が実用化された段階においては、供給可能年数が大幅に延長されるといわれている。
 さらに当面実用化の目標となるD(重水素)-T(三重水素)核融合動力炉では、重水素とリチウムが主要燃料資源となり、これらはいずれも海水中に、豊富に含まれており資源的には実質上無尽蔵であるといってよい。

 これら諸般の事情を考慮すると、今後に予測される大規模なエネルギー需要を満たすに主要な役割を担うものは原子力発電であると考えられ、高速増殖炉と究極のエネルギー源である核融合動力炉の実用化こそ、今後のエネルギー供給確保の鍵を握るものであるといえる。

3 核融合エネルギーの特長について

① 核融合燃料資源について
 核融合炉の主な反応形態には二種類ある。

 その一つは重水素(Deuterium)と三重水素(トリチウム、Tritium)との反応を利用するいわゆるD-T炉であり、他の一つは重水素と重水素の反応を利用するD-D炉である。

 D-D炉は、燃料に用いる重水素が豊富であること、放射性同位元素である三重水素を取り扱う必要がほとんどないことなど、理想的な条件を備えているが、D-D炉が成立する炉心条件は、D-T炉の炉心条件より所要温度などが一層厳しくなるので、核融合動力炉として最初に実用化されるのほ重水素と三重水素を燃料とするD-T炉であると考えられる。

 燃料のうち重水素は海水25リットル中に約1グラム含まれていて、比故的容易に分離できる。

 さらに資源的にも化石燃料のように地域偏在性がなく、しかもその賦存量は実質上無尽蔵であるといえる。

 一方、三重水素は天然にはほとんど存在しないが、核融合反応にともなって生ずる中性子を利用した核反応により、リチウムから炉内で自己生産することができるのでD-T炉の燃料資源は重水素とリチウムということになる。

 結局燃料資源として考慮すべき.対象は、D-T炉の場合リチウムに限られるが、このリチウムはリチウム鉱石として地下に埋蔵されているほか海水中に大量に存在し、コスト的に多少割高になることを許せば、実質上無尽蔵に存在すると見倣すことができる。

② 環境保全への寄与について
 化石燃料は、現在一次エネルギー源の大部分を占めているが、エネルギー需要の増大に対処してこれをさらに量的に拡大させようとすると、前述のとおり資源的な制約が生じるばかりでなく、環境保全の問題が重要となってくる。

 きれいなエネルギーの供給はいまや、国民的願望となっており、この面からも今後増加するエネルギー需要を考えるとき、環境保全性の高い一次エネルギー源として核融合はこの要請に応えうるもっとも有力なものであるといえる。

③ 核融合動力炉の安全性
 核融合動力炉における核反応生成物および放射線に関する安全性と非核的事故に対する総合的な安全性を事前に評価しておくことは、この種の大型技術開発を実施するに当っての基本的な要件であり、研究開発の進度に合わせて分析評価を行なうべきである。

 現段階においてこれらの点については次のように判断する。

 放射性廃棄物の問題については核融合動力炉では定常的な処理の問題はなく、放射性生成物としての三重水素は再び燃料として使用されるので、廃棄物とはならない利点がある。

 また、この三重水素の漏洩が懸念されるが、今後の技術開発によって充分解決し得るものと考える。

 一方、核融合反応で発生した中性子による炉構造材の放射化の問題があるが、これらはいずれも固体で揮発性がないためその管理および処理は比較的容易であると考えられる。

 燃料の反応度に係る安全性に関しては、核融合動力炉では燃料としての重水素と三重水素とを炉心に極く微量ずつ注入して核融合反応を起こさせるので、一度に大量の燃料が反応をおこすおそれがなく、また万一多量の燃料が一時に注入されることがあってもその場合にはプラズマ温度が下がり、かえって反応ほ抑制される効果があるなど、安全性が高いことが強調される。

 そのほか、予期せぬ火災、爆発および天災などの非核的事故時における安全確保の問題は重大であり、充分検討すべき課題であるが、今後の技術開発努力によって万全の対策をとり得るものと確信する。

 なお、今後の核融合動力炉の研究開発および総合設計に際しては、上記の環境保全性および安全性の評価を最重点項目の一つとして継続的な努力を払うことにより最終的に真に安全で社会に受け入れられるエネルギー源として、核融合動力炉が実現することを期待する。

 第2章 核融合研究開発の現状

1 第一段階 核融合研究開発の実施状況

 わが国における核融合の研究は、早くからその重要性が認識されており、昭和30年代前半から当初大学関係を中心として研究が開始され、まず研究基盤の強化を重点的に推進すべきであるとの判断にたってプラズマ物理に関する大学付置研究所、および研究施設の設置等の整備が行なわれ、積極的に研究が進められ基礎研究の面で多大の成果を収めてきた。

 その後、世界的な研究の進展に対応し、原子力委員会は、昭和43年7月核融合反応の実現を明確な目的とする総合的な研究開発をプロジェクト的に推進するため、昭和44年度から昭和49年度までの第一段階の「核融合研究開発基本計画」(以下単に第一段階研究開発計画と略称する)を定めるとともに核融合研究開発を原子力特定総合研究に指定し、総合的、計画的に研究開発を進めてきた。

 今後の研究開発推進の基本となる核融合研究開発計画の検討にあたっては、前記第一段階研究開発計画の実施によって達成された成果を評価し、また、計画実施に際して得られた貴重な経験を活用するとともに核融合研究開発の現状把握を充分に行なって判断の基礎とすることが肝要である。

 そのため、以下これまでの研究開発について概要を述べる。

 なお、第一段階研究開発計画については昭和49年度終了の計画であるため、研究期間として1年有余を残しており、これらの結果は中間的なものとなっている。

 なお、核融合研究運営会議はこれまでの研究開発の評価を行ない、その結果を「第一段階研究開発中間報告」としてとりまとめ、昭和48年5月原子力委員会に報告している。

(1)第一段階研究開発計画の概要
 昭和43年7月原子力委員会が定めた第一段階研究開発計画は、核融合反応の実現を明確な目標とし、それ以前の基礎プラズマ物理中心の研究を総合的、工学的研究へ展開させることを意図している。

 このため、同計画は研究開発の第一に「将来において核融合動力炉へと進展が予想されるトーラス磁場装置を主な対象として、中間ベータ・トーラス・プラズマの安定な閉込めを目標とする研究開発」を主計画とし、第二に「将来(第二段階以降)における高ベータ・トーラス磁場装置の研究開発に備えるため、 テータ・ピンチ装置による研究開発を、主として高ベータ・プラズマの挙動解明を目標とする研究」を副計画として推進することとしている。

 なお、磁気鏡型を代表とする開放系については、計画策定時の世界のすう勢から、同計画の対象としては除外された。

 同計画の概要は、次のとおりである。

(i)トーラス磁場装置の研究開発
 軸対称性の内部導体系トーラス磁場装置では、静かなプラズマが得られ、また理論と実験との対応が明確であるため、これを用いて低ベータ・プラズマ(ベータ値0.001程度)から順次ベータ値を上げ中間ベータ値(0.01程度)までの研究開発を実施する。

 まず、予備実験として、低ベータ軸対称性トーラス磁場装置の設計、製作およびこれを用いた実験研究によりベータ値の0.001程度のトーラス・プラズマ保持についての資料を得て、第一段階の主装置である次の中間ベータ軸対称性トーラス磁場装置の研究開発に備える。

 予備実験の成果を基にして、中間ベータ軸対称性トーラス磁場装置を設計、製作し、ベータ値0.01程度、温度数百万度のトーラス・プラズマ保持についての資料を得る。

 また、第二段階以降において、ベータ値をさらに高めようとする際に非軸対称性の外部導体系トーラス磁場あるいは軸対称と非軸対称の複合系が核融合炉の実現の親点から、より有利と判明する可能性もあるので、その場合第一段階の成果の適用を容易にするため、外部導体系および複合系についても将来に備えた基礎研究を行なう。

 以上の研究開発は、日本原子力研究所が分担する。

 関連技術開発としては、従来、主に温度10万度合のプラズマを対象としてきたが、これを100万度合に高め、プラズマ生成、加熱技術、装置技術、診断技術の研究開発を理化学研究所が分担して実施する。

 (ii)テータ・ピンチ装置による高ベータ・プラズマの研究

 直線テータ・ピンチ装置を開発し、これによりベータ値1~0.1の領域を研究する。

 また、テータ・ピンチ装置のトーラス化についても小型装置による研究を行なう。

 本研究は、通商産業省工業技術院電子技術総合研究所が分担する。

 (Ⅲ)研究開発の体制

 この研究開発の推進と評価または円滑な実施を行なうため、原子力局に学識経験者等からなる核融合研究運営会議ならびに核融合研究連絡会議を設ける。

 海外の研究情報の取得、海外からの研究者の招聘等を行ない、その成果の活用を図る。

 また、本研究開発に際しては、大学、民間企業に技術開発、機器試作研究および人的支援等の面からの協力を期待する。

 研究開発機関の分担は、前記のとおりとし、ただし、第二段階以降研究規模が拡大した場合には研究機関の一体化(一つの組織、一つの場所)を図ることを前提に第一段階の研究を進める。

(2)第一段階研究開発における研究成果

 前項(1)の研究開発計画に基づいて、昭和44年度より本格的な研究開発が始められ、関係各方面の多大な努力によって多くの成果が得られている。

 以下にその概要を述べる。

(i)トーラス磁場装置の研究開発
 日本原子力研究所は、低ベータ軸対称性トーラス磁場装置による予備実験のため、昭和43年にトーラス型ヘクサポール装置(以下JFT-1と略称する)を設計、製作し、以降同装置による実験を行ない、低ベータ・プラズマのトーラス閉込めに関し多くの知見を得て、所期の目的である第一段階の主装置に備える研究開発として相応の成果をあげた。

 第一段階の主装置である中間ベータ軸対称性トーラス磁場装置については、計画当初は、JFT-1を発展させた軸対称性磁場をもつ内部導体系装置が考えられていたが、昭和44年から昭和45年にかけてソ連のトカマク型装置に関して注目すべき成果の発表があったので、核融合研究運営会議は慎重審議を行ない、同じく、軸対称性トーラス磁場装置であるトカマク型装置を採用する決定を下した。

 この決定は、その後の世界各国における研究開発の推移をみるとき、極めて適切、妥当な判断であったと考えられる。

 上述の経緯を経て決定された、中間ベータ値トーラス装置(以下JFT-2と略称する)は、昭和45年中頃に製作を開始し、昭和47年4月に完成した。

 JFT-2は、生成されるプラズマ半径が太いこと、実験中にリミッタを取り除くことができるダイナミック・リミッタを備えているなど多くの特徴を有している。

 昭和47年4月から調整を開始し、真空漏れ、真空壁の清浄、不整磁場などの幾つかの問題点を克服し、この種の装置としては異例に短かい調整期を経て昭和47年未から本格的な実験が実施された。

 その結果、昭和48年3月には、電子温度700万度(イオン温度200万度前後)プラズマ密度1013cm-3、電子エネルギーの閉込め時間0.025秒、ベータ値0.005のプラズマ発生を確認するという注目すべき成果が得られた。

 この成績は、同種のトカマク型装置として世界的水準のものであり、また、トカマク型装置の閉込め時間に関する比例法則についても、従来の結果をさらに拡張させるなど貴重な資料を提供することができた。

 昭和48年度までに行なわれる実験は、磁場の強さ、10キロガウスの条件によっているが、昭和49年度前期において磁場増力のための改造が終了した後、18キロガウスでの実験が開始される予定である。

 この実験により、当初の設計目標値であるプラズマのイオン温度約450万度、閉込め時間約0.05秒を達成し得るものとみられ、このデータは、磁場の強さとプラズマ・パラメーターとの間の比例法則の適用範囲をさらに拡張する有効な追加資料を掟供するものと期待されている。

 また、トカマク・プラズマの高安走化、高ベータ化のための高安定化磁場試験装置(以下JFT-2aと略称する)の製作に昭和48年8月着手し、昭和49年度に実験研究開始が予定されている。

 これにより第二段階以降の同種装置の開発、発展に寄与するものと期待される。

 なお、当初の研究計画に含まれていた非軸対称性の外部導体系トーラス磁場装置の研究については、昭和44年3月核融合研究運営会議が未だ基礎研究の段階にあると判断し、当分の間大学等における研究成果に期待することとして、着手を見合わせることとした。

 関連技術開発に関しては、プラズマの生成、加熱、プラズマ診断、真空技術等の諸技術について研究が進められた。

 マイクロ波によるプラズマの生成、加熱においては、その研究成果がJFT-1およびJFT-2に活用され、また、プラズマ診断においては、分光測定および相関計測技術によるプラズマの動的内部構造測定に関して研究成果が得られ、JFT-2および高ベータ・プラズマの計測に寄与している。

(ii)テータ・ピンチ装置による高ベータ・プラズマの研究高ベータ・プラズマの研究は未だ模索的段階にあるため、研究開発は柔軟性のある運営のもとに進められた。

 直線テータ・ピンチ装置に関しては、昭和44年度に100KJ直線テータ・ピンチ装置を完成し、昭和44~46年度に同装置による実験を行ない、イオン温度300万度、プラズマ密度1017cm-3,プラズマ閉込め時間2~3マイクロ秒の高ベータ・プラズマを得ている。

 さらに同装置は増力することが計画されていたが、高ベータ・プラズマ研究の世界的なすう勢がトーラス化に向って急速に転換している状勢にかんがみ、トーラス・ピンチに集中することとした。

 トーラス・ピンチの研究に関しては、本格的な装置の建設に備えて、小型トロイダル・スクリュー・ピンチ装置を試作し、昭和45~46年度において、ベータ値0.2、イオン温度20万度、プラズマ密度約1016cm-3、閉込め時間約25マイクロ秒のプラズマ生成を実現した。

 本格的装置としては、設計上数多くの工夫が試みられている。

 150KJトロイダル・スクリュー・ピンチ装置(TPE-1)が昭和48年度前期に完成し、実験が開始されており、昭和49年度末までに高ベータ・プラズマの性質の解明および閉込めに関し、かなりの成果が得られるものと期待されている。

(3)第一段階研究開発の評価
 昭和44年度から昭和49年度までを計画期間とする第一段階研究開発計画においては、日本原子力研究所、理化学研究所および電子技術総合研究所がそれぞれ中間ベータ値トーラス装置を中心とする研究、関連技術の研究およびテ一タ・ピンチ装置による高ベータ・プラズマの研究を分担し、有機的な連けいのもとに積極的な研究開発が進められた。

 一方、大学関係のプラズマ・核融合に関する研究では、過去十余年にわたって研究を続け、名古屋大学プラズマ研究所および各大学においてはプラズマ物理の研究の推進、プラズマ容器および加熱に関する基礎的な研究を行ない、炉心としてのプラズマ容器および加熱に関し独創的な装置を開発するなど世界的な成果をあげた。

 さらに人材養成の面ででも顕著な効果を得るなど核融合研究開発に対する基盤の強化に重要な役割を果たしている。

 第一段階研究開発計画の推進に際しては各大学からの人的支援、調査研究に関する協力に負うところが大きく、また、民間企業からの機器装置の試作等に関する協力等により多くの貢献がなされている。

 この研究開発によりこれまで着実な成果があげられ、とくに主計画であるトカマク型のJFT-2の研究開発は、同装置の建設完了後1年を経ずして、すでに世界の研究開発レベルに比肩し得るまでの成果が得られている。

 米国、ソ連に比して研究費等に較差があるにもかかわらず、このように優れた研究開発成果が達成されたことは、わが国の総合的な核融合研究開発の能力水準が極めて高いことが立証されたものといえる。

 また、これらの成果は、わが国の核融合研究開発が第一段階の主な目標であった核融合動力炉の実現を目指す技術的な研究開発への離陸に成功したことを意味するばかりでなく、今後、世界の先進諸国と肩を並べて人類のエネルギー問題の解決のために重要な役謝を演じ得ることに自信が得られたものとしてその意義の重要性が認識されている。

 以上のとおり、わが国の核融合研究開発は第一段階の研究開発によって第二段階への発展に備えた基盤が確立され、今後に予定される臨界プラズマ試験装置の建設、核融合動力実験炉を目途とした工学技術の開発に拡大移行し得るものと評価できる。

 2 世界の現状と見通し

 核融合の研究開発は、過去10年間以上の間、高温プラズマを安定に閉込め得る磁気容器の探索にその重点が置かれていた。

 しかし世界のすう勢は昭和44年頃から新しい局面を迎え、とくにトカマク型を中心とする低または中間ベータ・トーラス系装置は今後プラズマ加熱法の技術開発やベータ値を高めるなどの改良発展により臨界プラズマ達成の見とおしを立て得る段階に達している。

 すなわち、昭和40年頃から軸対称性の内部導体系トーラス装置がベータ値0.001程度以下のプラズマの安定な閉込めに好適な性能を備えていることが世界的に次第に明らかにされた。

 さらにこの型の内部導体電流をプラズマ電流自身で置き換えたものと考えられるトカマク型装置が昭和44年頃からあらためて世界の注目を浴びるようになり、イオン温度数百万度ないし一千万度の高温プラズマの発生、閉込めに極めて優秀な性能を持っていることが実証されるに至った。

 わが国のJFT-2を含め、米国、ソ連、フランス等における数多くの中規模トカマク型装置によって得られたこれまでの研究成果に基づき、トカマクのプラズマ・パラメーターに関する比例法則の成立が確認されつつあり、トカマク型装置によって臨界プラズマを実現し得るとの見通しが一般的となってきている。

 このような判断にたち、米国、ソ連およびユーラトム(欧州原子力共同体)において次の段階の大型のトカマク型装置について建設または計画が進められている。

 これらのうち、臨界プラズマ条件をやや下回る条件を目標とした規模のものとして米国、プリンストン大学のPLT-1およびソ連、クルチャトフ原子力研究所のT-10の建設がすでに開始され、昭和50年頃に完成し昭和51~52年には実験結果が公表されるものとみられ、臨界プラズマ達成のため有力な資料が得られるものと期待されている。

 臨界プラズマ条件の達成を目途とする計画としては、米国のSCORE、ユーラトムのJET、ソ連のT-20などの装置の設計ないし検討が行なわれている。

 また、これらの一部では、臨界プラズマ条件の実証を目的とするばかりでなく、さらに進んで実際にD-T反応による燃料の燃焼実験を行なう設計とすることも検討されている。

 臨界プラズマ試験のための大型トカマク型装置は、いずれもプラズマ温度約1億度、プラズマの密度と閉込め時間の積5×1013cm-3秒程度を目標としており、また、装置完成時期は現時点で確定していないが、昭和55年前後とも見込まれている。

 臨界プラズマの達成に重要な役割を果すプラズマ加熱法については高エネルギー中性粒子入射、高周波加熱、断熱圧縮、乱流加熱等により到達最高温度を高めるための研究開発が進められている。

 トカマク型装置に関する研究開発では、これまで円形断面プラズマが温度、密度、閉込め時間に優れた実積をもっているが、将来の一層効率のよい核融合動力炉の開発を目指す観点から非円形断面プラズマを有するトカマク型装置が注目されている。

 プラズマの非円形化により、安定性の向上、限界ベータ値の上昇、ダイバータの容易な付置などの可能性があり、トカマク型装置の改良を図る有力な手段の一つとしてその成果が期待されている。

 また、低または中間ベータ・トーラス系装置として、トカマク型装置と同様に将来性を嘱望されているステラレータ、ヘリオトロン等の非軸対称性装置については、ソ連、西欧諸国およびわが国において実験が行なわれ、理論的には、トカマク型装置と非軸対称性装置との間に本質的な相違がないことが認識され始めてきており、この結果は、わが国における非軸対称性装置による実験結果とも一致している。

 しかし、この種の装置は、同一諸元のプラズマを生成、保持させるに要する装置費用がトカマク型装置より多額となることが見込まれており、また、現在までに達成さたたプラズマの諸元は、トカマク型に比べほぼ1桁程度小さい。

 しかしながら非軸対称性のヘリオトロン型装置の建設費は、同じプラズマ条件のトカマク型と同様であるとの試算もあり、また、ソ連、西独で現在建設中のステラレータ型装置が完成することにより、これまでに得られているトカマク型装置の成果と同程度のプラズマ温度および閉込め時間が得られる期待もある。

 非軸対称性装置は定常出力炉になる可能性があるなどの優れた特長があるので今後の成果に格段の注意を払う必要がある。

 一方、高ベータ・プラズマは、閉込め磁場のエネルギー利用率が極めて高いなどいくつかの長所を持っている。

 その代表ともいえるテ一タ・ピンチ装置は各国において大型化、トーラス化が図られているが、安定なプラズマ閉込めの観点からの磁気容器の性能については、炉への発展の可能性を評価し得る段階にまで到達するにはなお今後研究開発を積み重ねる必要があるものとみられている。

 なお、トーラス系磁気容器と同様、低ベータ域から高ベータ域を目指して進展してきた別の型として開放系磁気容器、とくに磁気鏡型があるが、開放端からのプラズマ粒子漏洩が過大なため、そのままでは核融合炉として存立できないことが明らかになっている。

 そのため、開放端から洩れてくるプラズマのエネルギーを高効率で電気エネルギーに変換し、再びプラズマに還元する方法等が研究されている。

 また、現在なお基礎段階にあるが開放系に属する他の型であるカスプ型に対し高周波電磁場を組合せることにより、プラズマ粒子漏洩を大きく軽減しようとの着想の試験がわが国等で進められている。

 以上は、磁気容器を用いたプラズマの閉込めについて述べたが、これとは別の方向として核融合を目的とするプラズマの閉込めに慣性閉込めを利用する方法の研究開発が最近急速に注目されるようになり米国、ソ連、西欧諸国およびわが国において推進されている。

 この方法は、極めて短時間にパルス的慣性閉込めを行なうもので、レーザを利用するものが中心であるが、電子ビームによる方法も試みられている。

 これらについては、すでに核融合反応が観測され、今後の発展が期待されている。

 以上を総括し、世界のすう勢から判断すると、当面の目標である臨界プラズマを最も早く達成する可能性のあるものは、トカマク型装置であって、世界の核融合研究開発の主流となっており、これに次いで非軸対称性装置、高ベータ・プラズマ装置等が雁行して研究開発が進められているといえる。

  第3章 長期的観点からの研究開発の進め方

 米国をはじめとする主要国は、すでにトカマク型装置を中心とする低または中間ベータ・トーラス系装置によるプラズマ閉込めに見通しを得て、昭和50年代中頃に当面の開発目標であるプラズマ生成のための入力エネルギーが核融合反応による出力と等しい状態にある臨界プラズマ条件の達成を目途とする計画を進めている。

 さらにこのような見通しのもとに主要国において核融合動力炉を目標とした研究開発計画が検討されており、これらにおいては、昭和60年代中頃に核融合動力実験炉、昭和70年代前半ないし中頃に核融合動力原型炉、今世紀末ないし来世紀初頭に核融合動力実証炉の完成を想定している。

 なお、最近米国においては、これらの予定が5年早められる可能性があるとも伝えられている。

 わが国の核融合研究開発は幾多の問題点を抱えつつもよくそれらを克服し、トカマク型装置による研究開発をはじめとして世界の第一線に伍しうる成果が得られ、これらによりさらに進んだ研究開発段階に飛躍する基盤が固められた。

 このような内外における研究開発の進展と、これら主要国と異なりエネルギー源の大部分を海外に依存しているわが国のエネルギー事情とを併せ考えるとき、諸外国にも増して核融合動力炉の実現に努力を傾注し、自主開発を主限として研究開発を推進する必要がある。

 このため第二段階の研究開発計画においては、核融合動力炉の実現の鍵である臨界プラズマ条件の達成を目標とした研究開発に重点をおいて研究を行なう必要がある。

 さらに今世紀末ないし、来世紀初頭に核融合動力炉を実現させるためには、臨界プラズマの達成を前提とし、次の各段階に従って、研究目標を設定し、研究開発を推進する必要がある。

 なお、これらの研究開発は、未踏の技術的問題を含むものであり紆余曲折も予想されるが、内外における科学技術の進展とその成果を充分考慮し、社会的諸要請の変化に対処して適宜見直しを行ないつつ弾力的に推進する必要がある。

① 臨界プラズマ試験装置
 プラズマ生成のための入力エネルギーが核融合反応による出力と等しい状態にある臨界プラズマ条件を実現させ、核融合炉炉心としての有用性を実証することを目的とする臨界プラズマ試験装置を昭和50年代中頃に完成させてこれにより臨界プラズマ条件を達成するための研究開発を進める必要がある。

② 実験炉炉心モックアップ試験装置
 核融合動力実験炉を建設するためには、実用規模の大容積炉心プラズマの発生および制御技術の開発を実施する必要がある。

 そのため臨界プラズマ試験装置の成果をふまえ、さらに内外の進展状況を考慮したうえで、昭和60年頃に実験炉炉心モックアップ試験を実施することを目途として、実験炉炉心モックアップ試験装置の研究開発を進める必要がある。

③ 核融合動力実験炉
 定常的出力の発生、制御およびトリチウム増殖試験の実施により、核融合動力炉の実証を行なうとともに材料、主要コンポーネントの性能および安全性に関する実証を目的として、核融合動力実験炉を昭和60年代中頃に建設することを目途として研究開発を進める必要がある。

④ 核融合動力原型炉
 発電設備としての総合的磯能試験および安全性の確認を目的とする核融合動力原型炉は昭和70年頃に建設することを目途とするのが妥当であると考える。

⑤ 核融合動力実証炉
 実用炉としての普及に先立ち、社会性、安全性、信頼性および経済性等の観点から発電設備としての総合的評価を行なうことを目的すとる核融合動力実証炉は今世紀末ないし、来世紀初頭に建設することを目途とするのが妥当であると考える。

  第4章 第二段階核融合研究開発計画

1 研究開発の目標
 第二段階における研究開発は、前章で述べたとおり、今世紀未ないし来世紀初頭に核融合動力炉の実現を目途とし、その前提となる臨界プラズマ条件の達成を目指した研究に最重点を置き、さらに長期的観点から第三段階以降に予定される実験炉炉心モックアップ試験装置、核融合動力実験炉の開発等核融合動力炉の実現に必要な核融合炉心工学技術、核融合炉工学技術について研究に長期間を要するものおよび基盤的技術に重点を置いて研究開発を行ない、実験炉炉心モックアップ試験装置以降の研究に反映させることを目標として研究開発を推進する必要がある。

 臨界プラズマ条件の達成を目標とする核融合炉プラズマ技術の研究開発には、第一段階の研究成果、すなわちJFT-2による数百万度合における高温プラズマの安定な閉込め、閉込め時間に関する比例法則等の知見およびそれを得るに至った技術的経験ならびに内外における研究開発状況を総合的に考察して、現時点において臨界プラズマ試験装置としてトカマク型装置を選定することが適切であると判断する。

 このトカマク型装置によって臨界プラズマ条件を達成することを目標とし、装置の設計、製作、実験および解析ならびに臨界プラズマ条件達成に必須な計算機実験、加熱技術、不純物対策、診断技術等に関する研究開発を進める必要がある。

 将来の実験炉炉心モックアップ試験装置、核融合動力実験炉の設計に反映させるための知見を得ることを目標として、第一段階に引続き高安定化磁場試験装置の研究開発を行なうとともにその成果をふまえ、非円形断面トーラス試験装置によりプラズマ温度一千万度程度におけるプラズマの高安定化等に及ぼす非円形断面の効果およびプラズマの不純物の除去を目的としたダイバータ効果について研究開発を行なう必要がある。

 また、トカマク型装置等の低または中間ベータ・トーラス系装置と対照的、相補的な高ベータ・トーラス系装置により研究を行ない、プラズマ温度一千万度までの高ベータ・プラズマについて挙動を解明することを目標として研究開発を進める必要がある。

 この第二段階の研究開発期間は、主装置である臨界プラズマ試験装置による実験開始の予定時期、すなわち昭和54年度までとすることが妥当であると考える。

 なお、臨界プラズマ試験装置としては、現時点で最善とみられるトカマク型装置を選定したが、核融合研究開発の現段階を考慮すると、体系化のための基礎研究および他の方式による核融合プラズマの生成、制御の可能性を広く追求しておくことならびに核融合炉工学分野における基礎的、先駆的研究は極めて重要であり、これらの研究開発については名古屋大学プラズマ研究所および各大学における研究に強く期待する。

2 研究開発の内容

 第二段階における研究開発は、前節1、にあげた核融合炉心プラズマ技術、核融合炉心工学技術および核融合炉工学技術における研究開発目標を達成するため以下に述べる研究開発を実施する必要がある。

 それぞれの研究開発課題に対する研究開発の開始および進んだ研究開発への移行に際しては、関連する内外の動向を的確に把握するとともにその研究開発の基礎となる研究成果に対して慎重、かつ充分な評価を加えて研究開発の実施に反映させ、弾力的に効果的な研究開発の推進を図ることが肝要である。

(1)核融合炉心プラズマ技術の研究開発
 核融合動力炉への発展の基盤を固めるため、主として臨界プラズマ条件の達成を目指し、必要な理学、工学を総合化した技術である核融合炉心プラズマ技術の研究開発を行なう必要があり、具体的な研究開発課題は次にあげるとおりである。

 主装置としての臨界プラズマ試験装置に関する研究開発を実施するとともに、中間ベータ値トーラス装置(JFT-2)、高安定化磁場試験装置(JFT-2a)、非円形断面トーラス試験装置および高ベータ・プラズマに関する研究開発ならびに診断技術に関する研究を実施する必要がある。

(i)中間ベータ値トーラス装置(JFT-2)に関する研究開発JFT-2は、昭和47年末から本格的実験を開始しすでに数百万度台のプラズマの保持について優れた研究成果が得られている。

 現在行なわれているプラズマの閉込めに関する実験研究は、磁場の強さ10キロガウスの条件によっているが、第一段階研究開発計画の最終年度である昭和49年度の前期において磁場増力のための改造が終了した後、磁場の強さ18キロガウスにより昭和51年度までエネルギー・バランス、安定性等の解明を目的とする実験研究を実施する必要がある。

 以上のとおり、装置の設計、製作に係る開発、プラズマの安定な閉込め、比例法則の確認等の実験研究などJFT-2による数百万度台のプラズマを対象とした最も基本的な研究開発課題については、第二段階研究開発計画の前半2年をもって完了し、第二段階におけるJFT-2の主要な研究開発課題として次に述べる加熱技術の研究開発を行なう必要がある。

(研究目的)
 従来のトカマク型装置のプラズマは外部から印加する電場によってプラズマに電流を流し、この電流によってプラズマを閉込めると同時に加熱を行なっている。

 このようなジュール加熱方式で達成される温度は理論的に3000万度程度を限度とし、臨界プラズマ達成の条件の一つであるプラズマ温度数4万度ないし1億度程度を実現することができない。

 したがって、トカマク型装置においてプラズマ温度をさらに高めるためには電流によるジュール加熱のうえに、さらに別の加熱法を併用しこの問題に対処することが必要である。

 現在、考えられている加熱技術としては、高エネルギー中性粒子入射、高周波加熱、断熱圧縮、乱流加熱等があるが、トカマク型装置への適用には、高エネルギー中性粒子入射方式(以下単に中性粒子入射と略称する)が最も効果的かつ有望であるとみられる。

 しかしながら、中性粒子入射等による加熱技術については、世界的にみてなお研究開発の必要がある。

 そのため、本研究計画においては、トカマク型装置の加熱技術として中性粒子入射を主体とする研究開発を実証する必要がある。

 大型の臨界プラズマ試験装置による本格的な実験研究に先だって、準備的な中性粒子入射装置の開発ならびにこれを用いた加熱実験の実施が必要であり、これまでの実験研究によりプラズマ試験装置として基本的性質が解明されているJFT-2を対象として、中性粒子入射による加熱法の研究開発を実施することが加熱法の研究開発を進める第一歩として最も適当であると考える。

 また、加熱技術に関する研究開発は、臨界プラズマ試験装置以降の装置においてさらに研究開発を積み重ね、最終的には核融合動力炉実現のための加熱技術としてその確立を目指して長期的観点から研究を進める必要がある。

 なお、中性粒子入射以外の加熱技術としては、高周波加熱について準備的な研究を行なう必要がある。

 (研究計画)
 JFT-2のジュール加熱単独によるプラズマのイオン温度(設計温度)は約450万度であるが、これを中性粒子入射によって1000~3000万度に高めることを目標とする。

 高エネルギー中性粒子発生装置は所要のエネルギー、容量のものを設計、製作し、また、これをJFT-2に組込み、入射を効率よく行なうため、JFT-2本体の改造を実施する。

 以上の設計、製作ならびに整備により、高エネルギー中性粒子発生装置の製作経験をもとに以後の大型化への技術的基礎資料を得るとともに、実験研究および結果の理論的解析により、最適加熱条件、加熱効率および加熱に伴うプラズマの安定性に関する諸問題を解明する。

 また、高周波加熱については、準備的な研究を行ない基礎資料を得る。

 JFT-2を用いた中性粒子入射加熱技術の開発研究はその開発成果を臨界プラズマ試験装置に反映させる必要性から、昭和49年度直ちに着手し、JFT-2の本体改造を昭和51年度に実施し、昭和52年度から昭和53年度に且って実験研究を行ない所要の資料を求め、この結果をふまえ、臨界プラズマ試験装置を対象とした加熱装置の研究開発に移行することが妥当であると考える。

(ii)臨界プラズマ試験装置に関する研究開発
 世界各国における核融合研究開発の進展状況をみると、わが国のJFT-2を含め、米国、ソ連、フランス等における数多くの中規模トカマク型装置によって得られたこれまでの研究成果に基づきトカマク型装置によって臨界プラズマを実現し得るとの見通しが一般的となってきている。

  このような判断にたち、米国、ソ連およびユーラトム(欧州原子力共同体)において次の段階のトカマク型装置の計画、検討が進められている。

 わが国においては、第一段階研究開発計画においてトカマク型装置であるJFT-2により数百万度台のプラズマの閉込めについて世界的水準の研究成果をあげ、トカマク型装置の比例法則についても、従来の結果をさらに拡張させるなど、臨界プラズマの研究開発に発展させるための基盤が固められた。

 これらの成果を基に、本研究計画においてはトカマク型装置によって核融合炉炉心としての有用性を実証することを目的として、臨界プラズマ試験装置に関する研究開発を実施する必要がある。

 臨界プラズマ試験装置は、「臨界プラズマ条件」を実現させる装置であって、温度数千万度~1億度程度、プラズマの密度と閉込め時間の積2~6×1013cm-3秒程度を得ることを目標とするのが妥当と考える。

 なお、ここでいう「臨界プラズマ条件」の実現とは、プラズマ生成のための入力エネルギーと核融合反応による出力エネルギーが等しい状態にある重水素・三重水素プラズマと物理的に等価な状態にある水素あるいは重水素プラズマを実現することである。

(研究目的)
  臨界プラズマ試験装置に関する研究開発の主目的は臨界プラズマ条件を達成させることにあるが、具体的には次の研究項目について研究開発を実施する必要がある。

① 臨界プラズマ条件の実現のための諸要件、すなわち磁場の強さ、プラズマ電流、安全係数、プラズマの太さ、アスペクト比(プラズマの主半径と副半径の比)、加熱入力および 不純物などについて必要な要件を明らかにする。

② 数千万度から1億度程度までプラズマの温度を高めるための加熱技術を試験する。

③ 核融合炉としての観点からプラズマのふるまいを評価するため不純物の蓄積、プラズマ密度の時間的変化、プラズマの位置の制御、プラズマの回転など、閉込め時間に比べはるかに大きい時定数をもつ現象の試験研究を行なう。

④ 将来臨界プラズマを核融合動力実験炉の炉心プラズマに発展させる場合に必要となる工学的判断資料を得るため磁場効率、加熱効率、製作コスト等の基礎資料を得る。

(研究計画)
 臨界プラズマ試験装置の型式は円形断面プラズマのトカマク型装置とする。

 また、水素および重水素を用いた実験を行なうことを目的とする設計を採用する。

 トロイダル磁場発生コイルは、現在の技術水準からみて超電導方式を採用することは困難であるため在来の常電導方式を採用するものとする。

 また加熱は中性粒子入射を主体とし、高周波加熱を併せて行なう。

 装置の時間定格は、装置構成要素の容量に関係するが長時間現象の試験研究を行なうことを考慮して設計する。

 また、試験研究の遂行に必要とし在来技術にない特殊計測装置等については新たに開発して臨界プラズマ試験装置に整備させる。

 臨界プラズマ試験装置に関する研究開発は、各国における研究開発の著しい進展と、装置建設に数カ年を要することを考慮し、昭和49年度にその設計研究および機器等の準備的開発に着手し、逐次、装置の設計、製作および調整を行ない、昭和45年度に実験研究を開始することが妥当であると考える。

① 臨界プラズマ試験装置の設計および製作
 装置の設計、製作に当っては、臨界プラズマ条件の実現に必要な諸要件を勘案し、これらの要件をそれぞれ満足させるための装置設計について研究を行なうとともに、装置設計の基本となるトロイダイルコイル、電源用直流遮断器など機器等について準備的な開発を行ない、これらの結果を基に、臨界プラズマ試験装置を製作する。

② 加熱技術の研究開発
 中性粒子入射および高周波による加熱技術の研究を行なう。

 中性粒子入射に関しては JFT-2を用いて開発される成果を充分に活用し臨界プラズマ試験装置に適用する大規模な加熱装置の開発を行なう。

③ 臨界プラズマ試験装置による実験研究
 臨界プラズマ試験装置による研究開発の課題としてあげられている臨界プラズマ条件実現のための諸要件の解明を目的とする各種の実験研究、理論解析および計算機実験を実施し、これを総合して臨界プラズマ条件の達成を目指す。

 また、核融合動力炉炉心プラズマとしての発展に備え、磁場効率等に関し工学的判断の基礎となる資料を得る。

(Ⅲ) 非円形断面トーラス磁場装置に関する研究開発
 臨界プラズマ条件の実証を目的とする研究開発についてはこれまでにプラズマの温度、密度、閉込め時間に優れた実績のある円形断面プラズマのトカマク型装置を研究開発の対象としている。これは実績のあるものをさらに発展させようとするものであって、核融合研究開発の主流を進むものである。

 一方、将来の一層効率のよい核融合動力炉の開発を目指す観点からみると、円形断面プラズマのトカマク型装置に関する研究開発に加えて、これを改善する研究開発も必要である。

 円形断面プラズマのトカマク型装置に対して、今後、一層の改善が望まれるものとして、安定性の向上、限界ベータ値の上昇、限界プラズマ電流の上昇、ダイバータの容易な付置がある。

 この改善を実現できる可能性の高いものとして非円形断面トカマク型装置があげられる。

 この着想の適用により所期の効果が得られれば同一条件のプラズマを得るに要する装置規模が小型化され、その結果、核融合動力炉または、核融合動力炉実現に至る各研究開発段階の装置建設費が格段に低減できることが期待される。

 さらにプラズマに対する不純物の混入の防止と在来の金属リミッタにおける技術的限界の克服のためのダイバータ(磁気リミッタ)の開発は、将来の核融合動力炉開発の重要な課題である。

 そのため、第一段階研究開発計画において開始された高安定化磁場試験装置(以下JFT-2aと略称する)による研究開発を継続するとともに、これによって得られることが期待される研究成果をふまえて、さらに研究開発の発展を図るため、非円形断面トーラス試験装置による研究開始を実施する必要がある。

(a)高安定化磁場試験装置(JFT-2a)
 第一段階研究開発計画においては以上のような認識のもとに、プラズマ断面形状として涙滴形を採用し、さらにダイバータを付加したJFT-2aが計画され理論的解析、設計研究の結果に基づいて同装置の製作を昭和48年度前期に開始している。

 なお、JFT-2aはプラズマ断面形状を涙滴形としているが、これは小型装置による非円形断面効界の検出に適し、しかもダイバータを付加することが技術的に容易な形状であることによる。

(研究目的)
 JFT-2aは非円形断面プラズマの生成と保持のための手段として涙滴形導体壁による渦電流作用を利用し、涙滴形非円形断面プラズマの閉込め、比較的低い温度領域(百万度台)における非円形断面効果とダイバータ効果の研究を行なうことを目的としている。

(研究計画)
 JFT-2aによる実験研究は、昭和49年後期に予定された装置完成の後、直ちに開始し、導体壁によって涙滴形断面に制御されている百万度台の非円形断面プラズマに関する研究およびダイバータ効果に関する基礎資料を得て、昭和51年度をもって実験研究を完了させることが妥当であると考える。

(b)非円形断面トーラス試験装置
 第一段階研究開発計画において着手されたJFT-2aによる研究開発はダイバータを備えた非円形断面トーラス磁場装置に関する第一次研究に相当するものであり、非円形断面プラズマとダイバータに関する研究開発としての端緒を開いたものといえる。
このような第一段階研究開発において得られることが期待されている成果をふまえ、第二段階においては、次に述べるように一千万度程度の高温プラズマにおける非円形断面による高安定化、高ベータ化の効果の研究、非円形断面プラズマのフィードバック制御(以下、単にフィードバック制御と略称する)の研究および大型装置に有望とみられる断面形状の探索とダイバータ効果の研究を中心的な課題として研究開発を行なう必要がある。
  以上の目的達成のため、磁気リミッタおよび制御磁気コイルを備え、大型装置に有望とみられるプラズマ断面形状を持った非円形断面トーラス試験装置をJFT-2aに続く研究開発の対象とすることが必要である。
(研究目的)
 JFT-2aでは、装置の規模が小さいため百万度台のプラズマしか得ることができない。

 百万度合のプラズマの性質は炉心のプラズマの性質と異なることが理論的に予想されている。

 したがって将来の核融合炉において非円形断面効果が予測どおり有効に働くか否かを明らかにするためには、炉心プラズマの性質を類推できる一千万度程度の高温プラズマの非円形断面効果およびダイバータ効果の実証が必要である。

 さらにべータ値を上げ磁場効率の向上試験を行なうためには、トカマク型装置単独のジュール加熱にさらに別の加熱法を加えて実験研究を行なう必要がある。

 プラズマ断面形状についてJFT-2aは、前記の理由から涙滴形が適用されているが、大型装置または、核融合炉においては、他の断面形状(例、縦長楕円断面形状)の有利性が予測されている。

 したがってこのような断面形状と安定化効果との関係を解明するため理論的解析とこれを実証する実験研究が必要である。

 プラズマ断面を所期の形状に生成、保持する手段としてJFT-2aは、金属リミッタと導体壁を用いている。

 しかしながら本格的な核融合炉においてはプラズマの温度が高いこと、放電持続時間の長いことなどの理由から金属性のリミッタおよび導体壁を適用することもできないためにれらに代って磁場の作用によるリミッタ機能(磁気リミッタによる)とプラズマの形状保持機能(フィードバック制御による)を与えることが必要である。

 また、この磁気リミッタに排気部を加え、ダイバータ機能を付与することは、炉心プラズマの不純物除去等のため、とくに重要な機能である。

 以上を要約すれば、非円形断面トーラス試験装置による研究開発の目的の第一は、JFT-2aによって得られることが期待される百万度台の非円形断面プラズマの生成と安定化に及ぼす非円形断面の効果およびダイバータ効果に関する研究成果を発展させ、プラズマ温度一千万度程度の高温領域における非円形断面の効果に関する実証データを得ることである。

 第二の目的は大型装置におけるプラズマの高安定化および高ベータ化およびダイバータの付置に最適なプラズマ断面形状の探索にある。

 さらに第三は、実際的は磁気リミッタおよびダイバータならびに制御磁気コイルを用いた磁気作用による非円形断面プラズマのフィードバック制御方式の研究開発を行なうことにある。

(研究計画)
 一千万度程度の高温非円形断面プラズマに対する非円形断面形状のフィードバック制御、大型装置に有利と見られている非円形断面の効果とくに高ベータ化の試験およびダイバータの研究を行なうため、非円形断面トーラス試験装置について理論的解析および設計研究を実施する。

 この結果に基づいて新たに磁気作用によるフィードバック制御、ダイバータ、中性粒子入射加熱装置を備え、また大型装置に有望と見られるプラズマ断面形状を持ち、JFT-2aを上まわる規模の非円形断面トーラス試験装置を建設する。

 建設した装置を用いて実験研究を実施し、一千万度程度における磁気作用によるフィードバック制御機能の総合的評価および所与の形状を有する非円形断面プラズマによる高安定化、とくに高ベータ化の効果およびダイバータの効果に関する資料を得る。

 非円形断面トーラス試験装置に関する研究開発は、昭和50年度に装置の設計研究に着手し、計画期間内に装置の設計、製作を完了し、実験研究を開始することが妥当であると考える。

(iv) 高ベータ・プラズマに関する研究開発
 高ベータ・プラズマの閉込めおよびその性質の解明に関する研究開発は、トカマク型装置による低または中間ベータ値の臨界プラズマに関する研究開発と対照的、かつ相補的な関係にある。

 すなわち、低または中間ベータ・プラズマにおいては、すでにトカマク型装置により高温プラズマの閉込めについてかなりの成果が得られ、核融合動力炉炉心の基盤となる臨界プラズ マの生成を実証しようとする進んだ研究開発の段階に達している。

 しかしながら、ベータ値が小さいことは、磁場エネルギーの利用効率が低いことを意味し、核融合動力炉としての所要規模が巨大化することとなるため、実用的な炉心プラズマとするためにはプラズマのベータ値を高ベータ域に引き上げることが必要となっている。

 そのため、将来、究極的には、トカマク型装置等の低または中間ベータ・トーラス系装置と高ベータ・トーラス系装置が原理的に複合される形で核融合動力炉が実現されることも予想されるので臨界プラズマ条件の達成を目標とする低または中間ベータ・プラズマに関する研究開発と併行して、現在、高ベータ・プラズマが得られているトーラス・ピンチ装置によって高ベータ・プラズマの閉込めと性質の解明に関する研究開発を進める必要がある。

(研究目的)
 第一段階研究開発計画における150KJトロイダル・スクリュー・ピンチ装置(以下TPE-1と略称する)を用いた数十万度から最大二百万度程度の高ベータ・プラズマの閉込めについての研究成果をふまえ、本研究開発においては温度数百万度から一千万度程度の温度領域における高ベータ・プラズマの生成、閉込めおよび挙動解明に関する研究開発を行なう必要がある。
(研究計画)
 約一千万度の高ベータ・トロイダル・プラズマ生成に関する知見を得るために、TPE-1を改造して衝撃波加熱による温度上昇の研究を行なうとともに、既設の非円形断面スクリュー・ピンチ装置(以下TPE-1aと略称する)を増力して数百万度台の温度領域でのプラズマの高安定化、高ベータ化に対する非円形断面の及ぼす効果を明らかにする。

 以上の研究によって得られる知見を、TPE-1を上回る規模の軸対称性高ベータ・トーラス装置の設計にとり入れて装置を製作し、温度一千万度程度、閉込め時間0.5ないし1ミリ秒、ベータ値0.2以上を目標とする高ベータの高温プラズマを得る。

 なお、これら高ベータ・プラズマの研究開発に必要な高電圧、大電流制御技術および診断技術の研究を併せ行なう。

 TPE-1およびTPE-1aに関する研究は、第一段階研究開発に継続して実験研究を行ない、それぞれ昭和52年度および昭和53年度に完了し、軸対称性高ベータ・トーラス装置は、昭和50年度に設計に着手し、昭和53年度に製作を完了し、実験研究を開始することが妥当であると考える。

(Ⅴ) 診断技術に関する研究
 臨界プラズマおよ将来実用となる炉心プラズマは、高温、高密度であり、炉心制御の一環としてプラズマの各種物理量の測定は不可欠である。

 一千万度あるいはそれ以上の高温、高密度のプラズマの診断技術の研究が必要である。

(研究目的および研究計画)
 臨界プラズマ試験装置およびそれに続く実験炉炉心モックアップ試験装置の準備として動的内部構造測定および分光測定に関する研究を行なう必要がある。

 診断技術の研究は、第二段階研究開発の計画期間を通じ逐次、研究を実施することが妥当であると考える。

① 動的内部構造測定に関する研究
 臨界プラズマを実現するためにはプラズマの密度と温度を上げることが必要であるが、これらの領域においてもプラズマの動的内部構造を測定し、不安定性を回避するための研究が必要である。

 このためマイクロ波の散乱測定、中性原子束発光の相関測定等によるプラズマの動的内部構造の測定に関する研究を行なう。

② 分光測定に関する研究
 プラズマ中にある不純物と中性水素γ同定・定量、プラズマの実効イオン電荷数、不純物による放射損失などの測定には分光法が用いられるが臨界プラズマの発光は軟Ⅹ線から真空紫外領域にあるのでこの領域における測定技術を確立する必要がある。

 このため、直入射および斜入射分光器などを用いて分光強度較正、プラズマ粒子の温度、密度の測定および金属スペクトル線の同定・定量測定などについて研究を行なう。

(2)核融合炉心工学技術および核融合炉工業技術の研究開発長期的観点からの核融合研究開発の進め方に基づき、核融合動力実験炉は、昭和60年代中頃に建設することを目途としており、そのため昭和50年代後半までに実用規模の核融合動力炉の炉心となる大容積の核融合プラズマの発生・制御のための核融合炉心工学技術および核融合動力炉プラントの総合開発のための核融合炉工学技術の二項目についてかなりの程度までの知識と経験を積み重ねる必要がある。

 昭和50年代前半に相当する本研究開発計画では、昭和50年代後半に予定される本格的な核融合炉心工学技術および核融合炉工学技術の開発に備え、これに必要な調査研究、ならびに準備的な設計研究および試験研究を実施する必要がある。

(i)核融合炉心工学技術の研究開発
 臨界プラズマの達成後は、核融合動力実験炉の炉心さらに最終的には核融合動力炉の炉心となる。

 大容積の炉心プラズマを対象とし、その発生・制御に関する技術すなわち核融合炉心工学技術の開発が必要である。

 核融合炉心工学技術という新しい技術の開発は実験炉炉心モックアップ試験、核融合動力実験炉、核融合動力原型炉等の段階を経て、開発の進展に従って、技術の高度化および経済性、信頼性の向上を図り、最終的には経済的な核融合動力炉炉心を得ることを目指している。

 大容積炉心プラズマに関する本格的な核融合炉心工学技術の開発は、昭和50年代後半に実験炉炉心モックアップ試験装置を建設し、昭和60年頃に実験炉炉心モックアップ試験を遂行することを目途としている。

 そのため、本研究開発期間においてはその準備段階として、実験炉炉心モックアップ試験装置の建設または実験炉炉心モックアップ試験の実施に必要な技術のうち、技術的困難性の上から研究開発に相当期間を要すると見込まれる技術および核融合炉心工学技術として重要な基盤的技術の範囲に限って重点的に研究開発を推進することとし、以下の研究開発を行なう必要がある。

(研究目的および研究計画)
 実験炉炉心モックアップ試験およびそのための装置についての調査研究および予備設計研究の実施ならびに装置設計の基本となる機器等、とくに強磁場発生コイルの準備的な開発の実施を目的として、実験炉炉心モックアップ試験のための準備的研究を実施する必要がある。

 また、長期的観点にたった基盤的技術の開発を目的とし、動的真空技術に関する研究を実施する必要がある。

 核融合炉心工学技術の研究開発は、昭和50年度に開始し、第二段階研究開発の計画期間を通じ逐次、研究を実施することが妥当であると考える。

① 実験炉炉心モックアップ試験のための準備的研究
 臨界プラズマを目指した内外における研究開発の成果を参照して実験炉炉心についての調査研究を行ない、実験炉炉心モックアップ試験の要綱を定める。

 また、実験炉炉心モックアップ試験装置の予備設計を行なうとともに装置設計の基本となる機器等、とくに強磁場発生コイルに関し準備的な開発を行なう。

 実験炉炉心モックアップ試験装置以降の研究開発段階の装置においては、強磁場発生コイルとして超電導マグネットを採用することが必要であると考えられているが、この問題は装置設計の基本となるものであるため核融合炉用超電導コイル技術の準備的な開発を進めるとともにその評価を行なうことが重要である。

 そのため、実験炉炉心モックアップ試験装置を対象とする超電導コイルについて、システム解析を行ない、次いでコイル用線材および超電導ケーブルに関する研究および設計手法の開発を実施し、これらを総合的に評価した後、試作コイルの製作に着手する。

② 動的真空技術に関する研究
  核融合炉における真空放出ガス、スパッタリングは炉心の不純物の原因となり、炉心のエネルギー損失を増大させるのでこれらを極力抑制させる必要がある。
  そのため、核融合炉炉心の環境条件をモデル化した実験研究を実施し、高エネルギーの各種粒子および電磁波の衝撃による不純物放出、衝撃粒子の捕獲等に関する研究を行なう。

(ii)核融合炉工学技術の研究開発
 核融合動力炉の開発には、その炉心となる炉心プラズマの開発とともに、それを使ってエネルギーをとり出す工学技術が必要である。

 この核融合炉工学技術に関しては、従来の核分裂炉技術が活用されるものであるが、核分裂炉に比べるとより厳しい条件に対処する必要があり、また、核融合炉独特の未踏の分野が多いので核融合炉工学技術には今後新しく開発すべき多数の研究開発課題が存在している。

 核融合動力実験炉は、昭和60年代中頃に完成させることとし、これに先だち実験炉炉心モックアップ試験を行なうことを目途としているが、第二段階研究開発においては、これらの長期的見とおしにたち以後の研究開発段階に備え、準備的な研究開発を計画的に実施する必要がある。

 核融合炉工学技術の研究開発課題を総合的な観点から選定し、以下の研究開発を行なう必要がある。
(研究目的および研究計画)
 核融合炉のシステム解析を行ない、核融合 炉に必要な工学技術の研究開発をさらに総合的に推進するための基礎資料を得、また核融合炉設計の基本の一つである炉の核特性を炉物理研究により明らかにしつつ材料の照射損傷および共存性に関する研究により、核融合炉用材料の開発を目指し、さらに核融合炉独特の大量トリチウム生産・回収技術に関する研究を行なうとともに強磁場中における伝熱流動に関する研究を行なう必要がある。

 安全性については、トリチウムに関する研究成果等をとり入れつつ、システム解析による安全評価を行ない、また以上の各研究開発の基礎データとなる核データを整備する必要がある。

 上述の研究開発を実施するにあたっては、第二段階研究開発計画の計画期間内に核融合動力実験炉のブランケット等の方式を選定することを目途としてそのための基本研究項目についての研究開発を重点的に実施し、選定後は、それに対応した研究開発に移行する必要がある。

 ただし、選定後においてもより優れた核融合動力炉の開発を追求する必要があるので、選定された方式以外に関する研究項目についても適当な範囲で研究開発を継続することが望まれる。

 核融合炉工学技術の研究開発は、第二段階研究開発の計画期間を通じ逐次、研究開発を実施することとし、ただし、核融合炉のシステム解析、炉物理に関する研究、材料の共存性および トリチウムの生産・回収に関する研究については、早期に着手する必要があるため、昭和49年度に研究を開始することが妥当であると考える。

① 核融合炉のシステム解析
 核融合炉の技術は新規総合技術であるので各研究項目の内容、その相互関連を明らかにし計画的、総合的に研究開発を推進する必要がある。

 このために核融合動力炉を想定したシステム解析ならびに核融合動力実験炉の予備設計を行ない、これと核融合炉心工学技術、核融合炉工学技術に関する研究成果を総合評価して、ブランケット等の方式を選定し、開発計画を検討するとともに核融合動力実験炉の概念設計に備える。

② 炉物理に関する研究
 核融合炉の核特性は、核融合炉設計の基本の一つとなるものであるが、炉心から発生する中性子エネルギーが高いことおよび核分裂炉とは異なる物質が対象となることにより、ブランケット内での中性子挙動については不明確なものが多い。

 そのため予備的実験研究を実施したあと、種々の組成のブランケット体系等について14MeV中性子源を用いて研究を行なう。

③ 材料の照射損傷等に関する研究
 核融合炉構造材料に関しては炉心プラズマから発生する14MeV高速中性子や荷電粒子による照射損傷が大きく、また高温で使用されるため、材料照射試験、高温材料試験などによって炉材料の研究を行なう必要がある。

 核融合炉構造材料については、高速中性子、荷電粒子による照射損傷の物理的研究を実施し、これにひきつづき材料の高温における機械的性質、中性子およびイオン粒子による照射挙動、エロージョンなどの表面現象等に関する工学的研究を行なう。

 また、磁場発生用の超電導材料に関しては、材料の照射損傷特性を明らかにして、核融合炉における遮蔽設計のための基礎資料を得る必要がある。そのため、極低温照射試験ループを使用し、超電導材料の中性子照射試験を行なう。

④ 材料の共存性に関する研究
 核融合炉では、ブランケットに用いるリチウム金属、同溶融塩および冷却体としてのヘリウムと材料との共存性が核融合炉設計上、重要な問題であるが、これらに関する資料、とくにリチウム金属とその溶融塩についての資料は充分には得られていない。

 このため自然および強制循環ループを用いて金属および溶融塩などの融体における金属元素の溶解度、温度差質量移行、粒界腐食、浸透などの現象に関する基礎的データの把握を行なう。

⑤ トリチウムの生産および回収に関する研究
 トリチウムの生産および回収の研究は、核融合炉心工学技術の研究開発に必要な初装荷トリチウムの確保のためのトリチウム生産技術および核融合炉において中性子によって生産されるトリチウムの回収技術の確立を目的とする。

 このために基本的技術として各種材料あるいは化学系内でのトリチウムの化学的挙動の研究、大量トリチウムの取扱い技術の開発および材料のトリチウム透過性の研究を行ない、ついで生産研究として各種トリチウム源からの分離技術の開発と小規模生産実験を行なう。

 トリチウムの回収研究においてはループを用いた分離法の研究および加速器などにより発生する高速中性子を利用したトリチウム回収試験装置による実験研究を実施する。

⑥ 伝熱流動に関する研究
 核融合炉のブランケット冷却方式には、リチウム金属、同溶融塩およびヘリウムガス冷却が考えられるが、核融合炉では、液体金属が強磁場という特殊環境におかれるため、この条件下における液体金属の伝熱流動特性および高温高熱流束熱除去に関する研究が重要である。

 このため、強力磁場を備えた自然循環、強制循環実験装置を用いて伝熱流動の研究を実施するとともに高温高熱流束熱除去に関する基礎実験を行なう。

⑦ 安全性に関する研究
 核融合炉の安全性については、わが国の地理的、社会的条件を考慮してその万全を期するため、長期的、総合的観点から研究を行なう必要がある。

 そのため、トリチウム、誘導放射能、その他の非核的潜在エネルギーによる事故の総合的なシステム解析を行ない、その結果に基づいて核融合動力炉における安全性確保を目的とした研究開発の進め方について調査検討するとともに核融合動力実験炉およびこれに先行する実験炉炉心モックアップ試験装置の設計に備えた予備的安全評価を行なう。

⑧ 核データの整備
 核融合炉設計のための核データとしては、約8MeV~約14MeVの中性子の反応に関するデータがとくに不足しているため整備する必要がある。

 このため高エネルギー粒子加速器を用いて核データの測定を行ない、これらにより得られた核データの評価作業をすすめ、評価ずみ核データとして整備する。

  あとがき

 米国、ソ連その他諸外国より遅れて出発したわが国の核融合研究開発は幾多の困難に遭遇しながらも関係者の多大な熱意と努力によりこれらを克服しいまや、臨界プラズマ条件の達成を明確な目標とすることが可能となり、その後の核融合動力実験炉の建設準備についての研究開発計画を策定できる段階に達した。

 これら先発諸国と肩を並べられるようになった今、わが国は人類の究極のエネルギー源を獲得するためにれら諸国と密接な協力を図りつつ研究開発に努力を傾注し、可能な限り早くその実用化への道をひらき人類の福祉向上に役立てることが使命であると考える。

 すでに述べたごとく核融合研究開発は、核融合動力炉の実現までに20~30年の長期間を要する研究開発であり、この間今まで以上に困難な技術的諸問題を解決する必要があろうが絶えず先駆的役割を果たす気概をもって対処し、積極的に研究開発を推進する必要がある。

 また、この間に必要とする資金、人員等の規模は巨大であり、目標とする成果を達成するためには適正な資金および優れた人材の確保ならびに適切な研究組織の整備は不可欠であり、この点充分配慮されなければならない。

 本分科会は現時点で最善と考えられる選択に基づいて研究開発計画を立案したが核融合研究開発は、極めて発展の著しい分野の科学技術であるため絶えず内外の状況に注目しつつ新たな情勢に応じ本研究開発計画にそれらを反映させる等、弾力的な措置が行なえるよう配慮する必要がある。

  研究開発実施に関連する要望

 技術分科会は、核融合研究開発の意義を充分認識し、研究開発の内外の動向を把握評価した後、今後の核融合研究開発計画を総合的に検討した。

 その結果、核融合動力炉の実現を目指した長期的観点からの核融合研究開発の進め方を立案するとともに、当面の目標を達成するため、次段階において実施すべき研究開発を対象とした第二段階研究開発計画を立案した。

 核融合研究開発は、最終日標である核融合動力炉の実用化まで20~30年を要するなど、研究開発期間、所要資金規模および必要とする開発努力の面からみても、これまでわが国で経験したことのない未曾有の研究開発計画であり、世界的にも未踏の分野である。

 したがって、国際協力を図りつつも自主開発を主限とし、そのためには、強固な研究基盤に基づく独自の研究と試験・実証を目的とする研究開発との調和および有機的連けいのもとに新機軸を切りひらいて行くことが肝要である。

 技術分科会は、以上のような認識に基づき、立案された研究開発計画の実施に際しては、関連する下記の諸項目に配慮することがとくに重要であると考え、その実現を要望するものである。

1 研究者等の確保

  核融合研究開発は、核融合動力炉の実現に至るまで長い研究開発期間が予想されるが、目標達成のためには、優秀な研究者をこれらの期間を通じ、継続的に確保することが重要である。

 昭和44年度から昭和49年度までの第一段階研究開発に比べ、第二段階研究開発計画以降に見込まれる所要研究者数は大幅に増大するので、この増員に対応してプロジェクト的研究に力量のある上級研究者ならびに将来性ある研究者を広く求める必要がある。

 しかしながら、核融合研究開発は、極めて先進的な分野であり、優秀な人材を多数確保することは、安易には実現し難く、これに対する対策を慎重に考慮する必要がある。

 この問題に対しては、大学における優秀な人材の養成に期待するとともに、研究者が進んでこの研究開発に参画し得るようその処遇および研究環境の整備について特段の配慮が払われるよう要望する。

 研究者の処遇については、単に研究者の確保を図るためばかりではなく、大学、民間企業等との人事交流を円滑に行なううえにおいても重要な要件となっており、かかる要請に基づき適切な措置が講じられるよう要望する。

 また、第二段階以降の研究開発は、対象となる研究施設設備が大規模化、複雑化するため、能率的な研究開発活動を遂行し得るよう研究補助要員の確保についても強く要望する。

2 国内における協力

  第一段階研究開発の推進に際しては、大学および民間企業から広範な支援が行なわれ、これが研究開発の円滑な遂行と成果の達成に非常に貢献している。

 第二段階研究開発以降においては、研究開発規模が飛躍的に拡大し、研究開発の内容も複雑化、高度化することとなるため、従前にも増して国内各界からの緊密な支援が一層強く要望される。

 とくに期待される協力には、研究者の人事交流を通じて行なわれるものおよび研究協力があげられ、これらに対して次の事項を要望する。

 核融合研究開発における個々の研究開発課題は、それぞれ期間を限った開発研究であり、特定課題の開発実施に際しては、その専門分野における第一線の研究者の参画ないし指導を受け、効果的な研究開発を進め最善の成果を得ることが必要である。

 また、研究開発実施機関においては、常に高度な研究開発水準を維持し、独創的な研究開発活動を進めて行くため、人事交流によって絶えず知的な刺激を与え、新陳代謝を図ることが肝要である。

 これらの目的には、従来から各種の招聘研究員制度等が活用されているが、核融合研究開発の有効、適切な推進のため、さらに一層その量的な拡大と柔軟な運用が可能となるよう条件整備について充分な配慮を要望する。

 研究開発を効果的に推進するためには、多数の優秀な人材の確保が必要であり、また長期的観点にたった人材養成が重要である。
そのため、大学および民間企業等から研究者等の積極的な派遣を期待するとともにこれらの研究者が研究開発に参加し得るよう充分な配慮を要望する。

 第二段階研究開発以降の研究開発では、対象となる研究開発領域が広範、多岐に亘るため、研究開発実施機関のみで、これらの全てを処理することは困難である。

 研究開発をより効果的に遂行するには、必要に応じ大学、民間企業および他の試験研究機関等に対する共同研究、委託研究等の活用を積極的に図る必要があるため、これら関係各方面の理解と協力を要望する。

 また、臨界プラズマ試験装置等大型実験装置の建設にあたっては、その設計、試作、製作および調整を通じ、民間企業の積極的な協力を要望する。

3 国際協力

 核融合研究開発の順調な発展を図るためには、海外の動向を迅速に把握するとともにその進んだ成果を有効に活用することが不可欠の要件となっている。

 核融合の分野においては、従前より情報および人的な交流を通じ密接な国際協力が行なわれ、今日までの発展を導いてきたが、第二段階以降においては研究開発の推進に果す国際協力の役割りがさらに一層高まるものとみられる。

 すなわち、今後の研究開発は、実験装置規模が巨大化するとともに広範な分野の工学的技術の開発へと拡大移行するため、国際協力の問題が重要視されるようになる。

 そのため、究極的なエネルギー源である核融合動力炉を実現し、人類福祉に貢献するため、わが国としての特質を生かしつつ各国と相携えて研究開発を進め、情報の交換、人的交流を活発化するなど国際協力を強力に推進することが必要である。

 とくに第二段階研究開発の主装置である臨界プラズマ試験装置については、研究者の交換招聘を前提とし、同種装置を開発しつつある国相互間での人的交流を図り、装置の建設、実験等に関して密接な情報交換が行なわれるよう要望する。

4 研究開発の推進および運営

 核融合研究開発の実施にあたっては、多額の資金と多数の人員を要するが、研究開発を効果的に進めるためには、研究開発を総合的に統括する適切な推進、運営体制が必要である。

 この推進、運営体制は、研究開発の進め方を企画し、研究進渉状況を管理し、研究成果を評価するとともに内外の動向を的確に把握して総合的見地から研究開発を弾力的に運営し得るよう要望する。

5 研究開発基盤の拡充

(1)人材養成
 核融合の研究開発は、わが国としては前例を見ない極めて長期に亘る大型の研究開発である。

 したがって、その遂行にあたっては、豊かな創造力を持ち、かつ、大型のプロジェクト的研究に取組む意欲と感覚を備えた若い人材を組織的に養成して行くことが極めて肝要である。

 そのためには、研究開発を実施する研究開発実施機関としても、前記2節「国内における協力」に示したような研究者養成の方策は是非必要であるが、その主体は大学に期待する必要がある。そのため、これに必要な教育および研究体制が一層整備されるよう適切な施策が講じられることを大学に強く要望する。

(2)長期的観点から期待される先駆的な研究開発
 第二段階研究開発計画においては、現時点において臨界プラズマ条件の達成に最善と考えられる型の装置を選択的、集中的にとりあげ、鋭意研究開発を推進することを意図している。

 しかし、核融合研究開発の現段階における内外の情勢および自主開発の立場から究極の核融合炉実現の可能性を考慮すると、他の方式の核融合プラズマの生成・制御の可能性を広く追求することは極めて重要であり、さらに体系化のための基礎研究を一層拡充する必要がある。

 とくに前者については、新着想を盛り込んだトカマク型トーラス、高ベータ・プラズマ、プラズマ加熱法、ならびにステラレータヘリオトロン等の非軸対称性トーラス、開放系、相対論的プラズマ、レーザ・プラズマ等に関連した理論および実験的研究は、これを強力に推進しそれらの成果が本計画に直接的、あるいは間接的に反映されることが必要であり、これらについては名古屋大学プラズマ研究所および各大学に強く期待する。

  また、臨界プラズマの達成時期と前後して研究開発は核融合動力炉を目指した総合的開発へと移行することとなるので、第三段階以降において核融合炉工学分野の関発努力を急速に拡大して行くことが必要となるとみられる。

 しかしながら、この工学分野は、ほとんど未踏の新分野であり、幅の広い基礎的、先駆的研究の積み上げを通じて核融合炉工学の体系化を図ることが肝要である。

 第二段階研究開発計画においては、この分野についても、第三段階以降に備えて準備的研究関発を実施するが、これらはかなり選択的なものとなっている。

 したがってこれと相補的な幅の広い研究と体系化については、各大学に強く期待するものである。
 
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