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日本原子力研究所東海研究所の原子炉の設置変更
(JRR-2原子炉施設の変更)に係る安全性について


昭和48年11月5日
原子炉安全専門審査会
原子力委員会
  委員長 前田佳都男殿           
原子炉安全専門審査会
    会 長 内田 秀雄


 昭和48年7月17日付け48原委第264号(昭和48年11月1日付け48原委第693号をもって一部訂正)をもって、審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。

  Ⅰ 審査結果

 日本原子力研究所東海研究所の原子炉の設置変更(JRR-2原子炉施設の変更)に関し、同研究所が提出した、「東海研究所原子炉設置変更許可申請書」(昭和48年7月7日付け申請および昭和48年10月27日付け訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉設置に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

  Ⅱ 変更内容

1 円筒中空型で燃料板5重層からなるJRR-2円筒B型燃料要素4体を新に炉心燃料として使用し、この燃料内部を炉心内照射装置(炉心位置6A、6B、6C、6D)とする。

2 JRR-2実験用燃料のうち、JRR-2標準型(F-230)を廃止する。

3 放射線遮蔽体のうち生体遮蔽体の炉心上部遮蔽体を改造する。

4 3の改造に伴い制御設備の制御材駆動設備の構造を変更する。

5 主要な実験設備のうち、水平実験孔HT-2に挿入されているガスループTLG-1を撤去する。

6 電源負荷を整理し、非常用電源設備のうち40KVA無停電電源装置を撤去する。

7 燃料交換キャスクの仕様を変更する。

  Ⅲ 審査内容

I JRR-2円筒B型燃料要素に係る安全性

 従来、炉心内照射用に用いられていた燃料板4重層からなる円筒型燃料要素の1体あたりのU-235含有量は120grであり、今回新たに使用されることになる、燃料板5重層からなる同筒B型燃料要素の1体あたりのU-235含有量は195grである。

 このJRR-2円筒B型燃料4体のほか炉心燃料20体から構成される炉心は、JRR-2の燃料最大挿入量4.68Kgを起えることはない。

 また上記の炉心初期の過剰反応度は約14.3%ΔK/Kであり、核的制限値の最大過剰反応度22.5%を下廻っている。

 新燃料の製造、加工方法および使用材料は従来の円筒型燃料と同じであり、かつ、流路間隙および燃料要素あたりの冷却材平均流速も同じである。従ってU-235含有量が増加し、伝熱面積が増えるが、熱流束は現状の燃料とほぼ同じであり、燃料板表面ホットスポットにおける温度も解析上ほとんど変りはなく熱的に問題はない。

2 炉心上部遮蔽体の改造


2-1 構造
 現在の上部遮蔽体は、上段遮蔽体(回転プラグを含む)と下段遮蔽体からなっている。

 しかしな がら現構造では炉心冷却材である重水の熱遮蔽用軽水への漏出および、重水蒸気の浸入による、下段遮蔽体、燃料孔スリーブのじゃっかんの腐食、発生がみられた。

 今回このような不具合をなくすために炉心上部遮蔽体を改造するものである。

 新造の炉心上部遮蔽体は上部から順に回転盤、上段遮蔽体、下段中央遮蔽体および下段環状遮 蔽体からなる。

 各遮蔽体はその表面を防しょく塗料を塗った重コンクリートを耐食アルミニウム合金で覆ったものであり、上段および下段中央遮蔽体を貫通する燃料孔は従来の角型から丸型に変更される。

 重水の軽水タンクへの漏出防止は、重水タンクに溶接される立上りシール、立上りシールと下段環状遮蔽体に溶接されるシールプレートおよびコンティンメントと下段環状遮蔽体上部に溶接されるリングシールによって行なわれる。

 また、重水 蒸気の遮蔽体への浸入は、各遮蔽体の気密溶接構造によって防止される。

 また、制御棒の駆動装置は上段遮蔽体の改造に伴い後述するように炉頂部に移動される。

2-2 組立および据付工事
 新造の遮蔽体の各部は工場で製作し、据付および溶接は現場で行なわれる。

 このうち高線量率の重水タンクフランジ部は自動溶接が採用される。

 これら一連の工事の前には、実物大の遮蔽体モックアップ試験および立上りシール溶接試験を実施するほか工事者の被曝防止、工事の作業手順を十分に検討することになっている。

2-3 強度計算
(1)静的計算
 上部遮蔽体を構造する、各部材に対する、静的荷重および燃料交換キヤスク荷重を考慮した強度計算について検討を行なったが、申請者の考え方は妥当であり、問題はないと考える。

 特に、シールプレート溶接部の健全性については既にモックアップ試験が行なわれており、今後行なわれる工事についての妥当性が証明されている。

(2)耐震計算
 今回改造されることとなる上部遮蔽体は、JRR-2建設時点での耐震設計基準の水平震度0.6g垂直震度0.3gを適用した静的解析のほか、基礎底面に入力地震波として最大加速度180galをもつEL Centro,TaftおよびJPPR Site波を作用させて動的解析を行ない、いづれの場合でも上部遮蔽体の耐震性は十分にあることを確認している。

3 制御棒駆動設備の変更

 新しい制御棒駆動装置は従来と同様に6組である。駆動方式は炉頂にある電動機で水平軸を回し、炉心から垂直に上部遮蔽体の貫通孔を立ち上ってきた制御棒上端のギアヘッドを介して、ボールネジに回転を伝える機構である。

 従来と同一仕様のカドミウム製の中性子吸収休ほ電磁石で吸着されたボールネジによって上下に移動する。

 スクラム動作は、従来と同様に電磁石の励磁を切り、制御材を自由落下させて行なうが、改造を行なってもスクラム時間に変更はないほか、中性子吸収体の材質、形状炉心内位置および駆動速度も変らないので、反応度制御効果も変らず問題はない。

 なお、新制御棒駆動装置の信頼性については試作品によって、炉外での試験を実施し確認することになっている。

4 TLG-1ガスルーブの撤去

 TLG-1の照射プラグの撤去によって、原子炉に0.1%Δk/k程度の反応度が付加されることとなるが現在の余剰反応度約13.7%Δk/kに比して非常に小さく原子炉特性上問題はない。

 また、TLG-1の炉内での発熱も、TLG-1自身で除熱を行なってきたので、撤去を行なっても、炉本体の熱出力には影響はない。

 ループの実験孔からの除去後、実験孔空間部にはアルミニウム製の缶を挿入するので、空気の照射によるアルゴン41の生成量は増加しない。

5 非常用電源設備の変更


 変更は、JRR-2の非常用電源の25KVA・40KVAおよび75KVA無停電電源装置のうち40KVA無停電電源装置の撤去を行なったものである。

 本変更はTLGインパイルループの撤去に伴ない、その非常用負荷として75KVA無停電電源装置にかかっていた約53KVAがなくなるので、40KVA無停電電源装置を撤去し、その非常用負荷約31KVAを75KVA無停電電源装置の負荷とするものであって、商用電源の停電および異常時の際原子炉および付属実験設備を安全に停止することは確実に行なわれるものと判断される。

6 炉心内照射装置の増設

 炉心内の照射装置として6Aおよび6Bを増加する理由は、連中性子の高い密度の照射需要の増大に対処するためである。

 照射物による炉心に加る核および熱的影響を炉心内照射装置の条件および「照射キャプセル設計基準」を参考として検討したが、特に問題はないと考えられる。

7 燃料交換キャスクおよびスペーサ交換キャスクの変更


 燃料交換キャスクおよびスペーサ交換キャスクは、上部遮蔽体の燃料孔が角形から丸形に変更するのに伴なってその仕様を変更し新造する。

 使用済燃料の炉心から取出に用いられる燃料交換キャスクおよびスペーサ交換キャスクについて、設計方法、強度計算、遮蔽計算、非常時の除熱等に重点を置き検討したが、安全性は十分にあると認める。

8 変更に伴う平常時被曝線量

8-1 従事者被曝
 上部遮蔽体の改造によっても、炉頂での放射線線量率は、現在と同じ程度の遮蔽効果を有するので、現在のスリットからの漏洩を含めた実測値20mrem/h程度であると考えられる。

 なお、炉頂は、10MW運転時は通常点検以外、立入禁止区域となる。

 また、燃料交換キャスクに使用済燃料を収納してもキャスク表面線量は、5mrem/h程度となることが計算されており、通常燃料交換を行なう場合、炉が停止されてから数十時間経過して行なわれることおよび、従事者がとるキャスクとの距離を考慮すると、キャスク取扱いに関しての被曝線量は十分に低いものと判断される。

8-2 周辺公衆の被曝
 本変更に伴う周辺公衆の平常時被曝線量の増加は考えられない。

 なお、改造および撤去工事によって発生する放射性物質および汚染物質は、固体廃棄物等として厳重に管理されることになっている。

 9 事故および災害評価

  本変更によっても事故および災害評価の前程条件は変らないので評価は変らない。

  Ⅲ 審査経過

 本審査会は、昭和48年7月18日に開かれた第116回原子炉安全専門審査会において、次の委員からなる第104部会を設置した。
   審査委員
望月恵一(部会長) 動力炉、核燃料開発事業団
青木成文 東京工業大学
調査委員
秋山 宏 東京大学
秋山 守 東京大学
石田泰一 動力炉、核燃料開発事業団

 以後同部会および審査会において、審査を行なってきたが、昭和48年11月5日の第119回原子炉安全専門審査会において、本報告書を決定した。
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