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日本原子力研究所大洗研究所の原子炉の設置変更
(OGL-1の設置)に係る安全性について


昭和48年11月5日
原子炉安全専門審査会
原子力委員会委員長
  前田佳都男殿
原子炉安全専門審査会
    会長 内田 秀雄

日本原子力研究所大洗研究所の原子炉の設置変更
(OGL-1の設置)に係る安全性について

 当審査会は、昭和48年5月8日付け原委第143号(昭和48年11月1日付け48原委第692号をもって一部訂正)をもって審査の結果をもとめられた標記の件について、結論を得たので報告します。

 Ⅰ 審査結果


 日本原子力研究所大洗研究所の原子炉の設置変更(OGL-1の設置)に関し、同研究所が提出した「大洗研究所原子炉設置変更許可申請書(JMTR施設の変更)(昭和48年5月1日付け申請、昭和48年10月27日付け一部訂正)」に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

 Ⅱ 変更内容

 日本原子力研究所大洗研究所の材料試験炉(JMTR)に高温ガスループ照射装置「OGL-1(大洗ガスループー号)」を設置する。

  Ⅲ 装置の概要


 OGL-1は、高温ガス炉用の燃料および材料の照射試験を目的として設置されるもので、冷却材最高使用温度1000℃、最高圧力35kg/cm2gのヘリウム循濃型高温高圧ガスループ照射装置である。OGL-1の照射部である炉内管は、JMTR炉心の燃料領域からベリリウム隔壁(約77mm厚)およびジルカロイγ線遮蔽壁(約35mm厚)で隔てられた反射体領域に挿入される。

 炉内管は、冷却材流路を形成する仕切管、耐熱部である内壁管、耐圧部である圧力管とこれらを保護する外套管等から構成される。ガス循環機を出た冷却材へリウムガスは、再生熱交換器および加熱器で加熱され炉内管に入り、炉内管内の試料を冷却したのち再生熱交換器および冷却器で冷却され、再びガス循環機にもどる。ヘリウムガス温度は、加熱器出口で約800℃試料照射部で約1000℃、炉内管出口で約800℃である。

 上記の一次冷却系には、冷却材中の不純物を除去する精製系、二次冷却系、核分裂生成ガス等の濃度を監視するガスサンプリング系等が設けられ、これらは鉄筋コンクリート製のキユービクル内に収納される。照射試料は,主として被覆粒子型燃料であり、炉内管内の炉心位置に挿入される。試料は、長さ約750mm、外径約80mm、発熱量最大135KWのものまで挿入可能である。

  Ⅳ 審査内容

1 高温部構造の健全性に関する事項


 高温部構造の設計に際しては、安全性を確保するため、次のような配慮がなされている。

(1)高温ヘリウム雰囲気にさらされる炉内管および 炉外部は、高性能の断燃材を設けることにより、耐熱部と耐圧部に分離され、それぞれの機能を分担する構造となっている。

 耐熱部に使用される材料は、高温における強度および冶金学的特性がすぐれ、かつ、使用実績のあるハステロイーⅩが採用される。

 また、耐熱部は、均圧孔を設けるなど内圧のかからぬ構造とし、これにかかる荷重は主として自重および熱応力である。

 耐熱部の許容応力強さは、材料実験の結果にもとづいて定められているが、耐用寿命はひきつづき実施中の実験結果により確認することとしている。

 耐圧部は、ステンレス鋼SUS316等を使用し、通産省告示第501号ASMECaseInterp-retation1331-6等に準拠し設計する。さらに、 クリープ域で用いる耐圧部については、材料の疲労およびクリープ等についても解析を行い、これらに耐えることを確認することとしている。

(2)耐圧部は、材料の照射損傷を考慮し、全中性子照射量1022nvtをもって使用限界としている。

(3)炉内管は長尺多重管であるので、製造技術開発のため、溶接施工法、継手性能等の試験および炉内管試作が行なわれている。

(4)耐圧部のクリープ域で使用されるステンレス鋼
 SUS316については、JISに定められた材料試験のほか、高温引張り試験、短時間クリープ試験、疲れ試験等が実施される。

(5)耐圧部を保護する断熱材は、多層金属フォイルおよびセラミック系のものが用いられ、これらの性能は高温高圧ヘリウム下での断熱性能試験により確認されている。

(6)炉外主要機器のうち、高温下で使用される再生熱交換器、加熱器等については、炉外高温ヘリウムガスループ(HTGL)による試験結果を反映し、熱ひずみ、振動等について十分考慮した設計をすることとしている。

(7)主要部分は、使用にあたり定期的に供用期間中検査を実施し、健全性が確認されることになっている

2 計測制御装置に関する事項

 OGL-1の計測系は、温度計、圧力計、流量計等から構成され、これらの情報をもとにヘリウムガス温度、炉内管内温度および圧力が制御される。

 これらの計測機器のうち、重要なものについては、2out of 3方式が採用され、また、制御系は、フェイルセイフの原則にもとづき設計される。温度制御は、加熱器出口のガス温度が一定となるように加熱器の電流および一次冷却系ヘリウムガスの流量を制御することにより行なわれる。

 また、装置を安全に運転するため計測系からの情報をもとにアラーム、ループクールダウン、原子炉スクラム等の安全保護回路が設けられる。

3 耐震設計に関する事項


 OGL-1炉内管は、原子炉圧力容器上蓋で上部が固定され、炉心格子板によって下端部が保持され、炉外部は、炉室内に固定されている。

 これらのうち、主要なものは、水平地震力0.6g、垂直地震力0.3gの静的地震力に対して耐えるように設計され、さらに、炉外部配管については、動的解析により求めた地震力に対して安全なように設計される。

4 原子炉本休に対する影響

(1)OGL-1照射試料のもつ反応度は0.1%Δk/k程度である。JMTRのループ試料の反応度制限値は0.5%Δk/kであるので、万一試料脱落事故等が生じても十分制御し得る値である。

(2)OGL-1の炉内管からの熱源洩量は、JMTRの熱出力50MWに対し100KW程度であり、炉心の冷却に支障を生ずることはない。

 また、炉内外套管の表面温度は70℃程度であり、外套管表面で原子炉冷却水が沸騰することはない。

5 照射試料に関する事項

 OGL-1の照射試料は、最大発熱量135KWとし、核分裂生成物の一次系への放出量は、この135KWで600日間照射したとき試料に飽和値近くまで蓄積される核分裂生成物の0.5%相当に制限する。

6 放射性廃棄物の処理に関する事項

(1)燃料を試料として用いた場合、一次系ヘリウムガス中にクリプトン、キセノン、ヨウ素等が含まれるが、これらの核分裂生成ガスの一部は、ループ運転中精製系により除去される。

 なお、循環ヘリウムガス中で生成したトリチウムの捕集については、精製系のチタンスポンジで吸収することとしている。運転中一次系から漏洩したガスは、キユービクル内の排気系トラップまたはキュービクル排気フィルタを通過したのち、原子炉第2排気系フィルタを経て排気筒から放出される。

 運転後一次系ヘリウムガスを放出する時は、精製系、キュービクル排気フィルタ、原子炉第2排気系フイルタを経て排気筒から放出される。また、精製系を再生する場合は、排気系トラップによりキセノンを60日、クリプトンを80時間保持したのち、原子炉第2排気系フイルタを経て排気筒から放出する。

(2)気体廃棄物による平常時被ばくの評価は、次の条件を仮定して行なった。
(i)排気筒から放出される気体廃棄物は、主として希ガスである。放出量の計算には、Ⅳ-5でのべた核分裂生成物の最大値に相当する希ガス量を月間の最大放出量とし、これが一年間継続するものとする。

(ii)一次系に放出された希ガスは、1日の滅衰を考慮し、排気筒から大気中に放出されるものとする。

(Ⅲ)この結果、排気筒からの希ガス放出量は、51.0Ci-MeV/年(γ線)、7.8Ci-MeV/年(β線)である。
 以上の結果をもとに、気象条件として昭和44年度の実測データによる方位別風速および大気安定度の出現頻度を考慮して平常時被ばく評価を行なったが、変更前のJMTRからの被ばく線量を含め、全身被ばく線量が最大となるのは、原子炉から北西約200m地点の周辺監視区域境界であり、γ線で0.43ミリレム/年(OGL-1の寄与は、1×10-2ミリレム/年程度)、β線で0.13ミリレム/年(OGL-1の寄与は、1×10-3ミリレム/年程度)となる。

(3)OGL-1の設置に伴って発生すると考えられる団体廃棄物の主たるものは、照射済試料である。これらは、試料交換機によってホットラボに輸送され、各種の試験が行なわれたのち、廃棄物処理場で処理される。

 そのほか、チャーコールトラップ等の固体廃棄物も、JMTR本体の固体廃棄物処理方法に準じて処理されるので、特に問題はない。

7 各種事故の検討

(1)照射試料の破損
 照射試料が破損すると、ヘリウムガス中の核分裂生成物が増加し、一次系の放射能は増加する。

 この時は、炉内管出口に設けられる一次系モニタによって検出されるので、モニタ指示値にもとづいて原子炉出力低下、原子炉スクラム等の適切な処置がなされる。また、炉外部は、普通コンクリート80cm厚相当のループキユービクルで遮蔽されているので、作業従事者の被ばくが問題になることはない。

(2)炉内圧力管の破損
 炉内圧力管が破損すると、破損口から高温高圧ガスが噴出し、外套管に熱衝撃を与える。この際の熱衝撃に伴う応力歪を解析した結果、等価塑性歪は、0.4%程度の小さい値であるので、外套管の破損には至らない。また、この時の外套管の温度上昇により、冷却水に飽和沸騰が生ずることはない。

(3)炉内外套管の破損
 外套管の破損が生じた場合、原子炉冷却水が高温の圧力管表面に吹きつけられ、熱衝撃を与える。この際の熱衝撃に伴う応力歪を解析した結果、等価塑性歪は、0.6%程度で、圧力管の破損には至らない。なお、この解析は熱衝撃試験により確認されている。

(4)冷却材喪失事故
 配管、機器の破損、弁の誤動作等にょってヘリウムガスが喪失した場合、圧力低下によって原子炉スクラムが作動し、また、温度計等によって、異常が検出され、アラームおよびループクールダウンが作動する。

 冷却材喪失事故中最も厳しい一次系の配管破断を想定し、解析を行なった。この結果、試料温度および試料出口のガス温度は、破断前の温度と変らず、原子炉スクラム後低下する。また、仕切管の温度上昇は、約70℃であるので、破断個所以外は健全である。

(5)冷却材ガス流量停止事故
 ガス循環機電源の喪失、ガス循環機の故障、一次冷却系の配管、弁類の閉そく等が生じると、冷却ガス流が停止する。これらは、一次系流量計、炉内管出口温度計などにより検出され、ループクールダウンおよび原子炉スクラムが作動する。

 最も条件の厳しい流路閉そくの場合を想定して解析を行なった結果、試料および試料出口温度は、閉そく前とほとんど変りなく、原子炉スクラム後低下する。一方仕切管および内壁管の温度上昇は約90℃であるので、試料および炉内管は健全である。

8 災害評価

 最大想定事故として、試料発熱量の上限値135KW相当の照射を受けた燃料試料中に蓄積された核分裂生成物100%、が一次系に放出されるものとし、希ガス100%、ハロゲン50%、固体1%がループキュービクルに放出される事故を想定し、次の仮定により被ばく線量を評価する。

(i)ループキュービクル内換気回数は5回/hrとし、この系のフィルタのヨウ素の捕集効果を無視する。

(ii)ヨウ素のプレートアウト半減期は2時間とする。

(Ⅲ) 原子炉第2排気系フィルタのヨウ素の捕集効率を90%とする。

(iv) 排気の高さは80m(地上)とする。

(V)事故時の被曝線量の評価には、有効拡散風速2m/secを用い、大気安定度のA型の場合と逆転層が存在する場合と比軟して、被ばく線量の多い方を採用する。

(vi) 全身被ばく線量の積算値の評価には、大気安定度F型、風速2m/sec,を用いる。
 以上の解析の結果、大気中に放出される核分裂生成物は、全ヨウ素1.9×103ci、希ガス2.2×104ciである。敷地外において被ばく線量が最大となるのは、原子炉から200mの敷地境界であって、外部被ばく線量は、γ線約0.38レム(β線0.23レム)、甲状腺被ばく線量は、約24レム(成人)である。

 また、全身被ばく線量の積算値は9.7×102マン・レムである。

 なお(i)のループキユービクル排気フィルターは常時作動しているので、甲状腺被ばく線量の値は、約1/10に低減できるものと考えられる。

9 技術的能力に関する事項

 日本原子力研究所は、高温高圧水ループ(OWL-1、OWL-2)のほか、高圧ヘリウムガスループ(TLG-1)およびOGL-1と同規模の炉外大型高温ガスループ(HTGL)の設置および運転の経験を有している。したがって、OGL-1の設置および運転に関する技術的能力は十分あると考えられる。

  Ⅴ 審査経過

 本審査会は、昭和48年5月12日の第114回審査会において次の委員からなる第98部会を設置した。
      審査委員
三島 良績(部会長)  東京大学
飯田 国広  東京大学
西脇 一郎  宇都宮大学
渡辺 博信  放射線医学総合研究所
海老塚佳衛  東京工学大学
木村 啓造  金属材料技術研究所
 同部会は、昭和48年6月1日第1回部会を開催して以来、審査を行なってきたが、昭和48年11月5日の部会において部会報告書を決定し、昭和48年11月5日の第119回審査会において本報告書を決定した。
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