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伊方発電所原子炉設置許可処分取消請求事件
答弁書要旨


 伊方発電所原子炉設置許可処分取消請求事件については、去る8月27日、松山地方裁判所に訴訟が提起されたところであるが、これに対して、政府は、10月20日同地裁あて答弁書を提出した。

 その要旨は次のとおりである。

   伊方発電所原子炉設置許可処分取消請求事件答弁書要旨

第一 請求の趣旨に対する答弁

 原告らの請求を棄却する、訴訟費用は原告らの負担とする、との判決を求める。

第二 請求原因に対する答弁

 一 請求原因第一項の事実(原告適格性)中、原告らがその主張する場所に居住するこ とは認めるが、その余は不知。

 二 請求原因第二項の事実(異議申立て前置)は認める。

 三 請求原因第三項以下(原告の主張)については、答弁書第三被告の主張のとおりである。

第三 被告の主張

 一 本件原子炉設置許可処分に至るまでの経緯の概要
 四国電力株式会社が本件原子炉設置許可申請に至るまでの経緯、同社による申請の後、本件原子炉設置許可処分に至るまでの経緯及び本件原子炉設置許可処分後の経緯のそれぞれの概要を述べる。

 ニ 原子力発電所の安全性
 原子力発電所の安全性について全般的に論ずる。その概要は次のとおりである。

 1 はじめに
(一)原子力の平和利用の中心的な役謝を果たす原子力発電
(ニ)原子力発電における安全確保のための努力
(三)国民生活における原子力発電の必要性及び四国地方における伊方発電所の必要性
 2 放射能と人間
 原子力発電の安全性を理解する出発点は、放射線についての正しい理解を持つことである。
(一)放射能と人間生活
(1)自然界にもあらゆるところに放射線が存在しており、人間は、大昔から自然放射線を絶えず受け続けて生活をし、今日に至っている。

 すなわち、空からの宇宙線、地殻を構成している花崗岩、石灰岩等に含まれる放射性物質からの放射線、飲食物等とともに体の中に取り込まれる放射性物質からの放射線、温泉に含まれる放射性物質からの放射線等である。又、コンクリート造りの家の中で受ける放射線は、木造の家の中の場合の約一・五倍になる場合も珍しくない。

 しかも、自然放射線の量は、地域等によって差があり、たとえば、関東と九州とでは、宇宙線及び大地からの放射線の量が概ね年間0.02〜0.06レム程度異なっている。

 しかしながら、このような地域的な差によって放射線障害の発生率に統計学上有意な差があるとの結果は認められていない。

(2)自然放射線のほかに、レントゲン撮影の場合に受ける放射線、夜光腕時計、テレビ等からの放射線のように、人が日常生活を営むうえで浴びている人工放射線もいろいろある。
(ニ) 放射線障害
(1)放射線の被曝による影響については、被曝した人に現われると考えられる身体的影響(急性及び晩発生)と被曝した人の子孫に現われると考えられる遺伝的影響があるとされている。

(2)低線量の放射線被曝と晩発性障害や遺伝的障害との関係について参考になるのは、自然放射線の被曝による影響の有無であるが、自然放射線量が多い地域で放射線障害がより多く発生しているとの証拠はない。
 3 原子力発電と放射能
 実用化された原子力発電においては、放射線災害を発生させるような事故を起こさないこと はもちろんのこと、晩発性障害を含めあらゆる放射線障害の発生がないようにすることをその安全性確保の基本としており、その結果、平常運転時に外部に出される放射線は、自然放射線と比較しても十分低いものになっている。
(一)発電用原子炉の構造
(1)発電用原子炉について仕組みを説明する。

(2)発電用原子炉は、使用される燃料のウラン235の濃縮度及びその分布密度がきわめて小さいこと並びに軽水型原子炉にはその核分裂反応について固有の自己制御性があることから、核爆発を起こすようなことはあり得ない。
(ニ)原子力発電所の安全確保のための基本的な考え方
 原子力発電所の安全対策は、第一に、事故を起こさないで安全に原子炉の平常運転が継続できること、第二に、万一事故が起こったとしてもその影響を最少限にくい止め、一般公衆には被害を及ぼさないことの二つを基本的な方針として、安全の問題を多面的に把え、段階的に安全を確認することによって全体としての安全性を確保するという考え方に立っている。

(三)平常運転時における放射線管理
(1)放射線管理についての基本的な考え方
 わが国の原子力発電所の平常運転時における周辺監視区域外の許容被曝線量は、一般住民で一年間につき0.5レムを越えないこととされているが、これは、国際放射線防護委員会の勧告を尊重し、放射線審議会の答申を受けて、原子炉等規制法に基づき定められたもので、米、加、ソ等諸外国においても採用されている。

 又、国際放射線防護委員会は、上勧告をあわせて、「経済的社会的な考慮を計算に入れたうえ、すべての線量を、容易に達成できる限り低く保つべきであること」を勧告しており、わが国もこれに沿って、実際の被曝線量を前記年間0.5レムより一層低くするという考え方に立って安全審査を行っており、実際に原子力発電所から出される放射線は、概ね年間0.005レム程度になっている(伊方発電所の場合はさらに低く、年間0.001レム以下)。

 この年間0.005レム程度の放射線とは、自然放射線と比較してもきわめて少量なものであり、それ自体の人体に対する影響は無視できるものと考えられる。

(2)放射性物質の漏洩防止のための障壁原子炉内で発生する放射性物質は、燃料ペレット、被覆管(燃料棒)、圧力容器、格納容器及び厚いコンクリートの壁という何重もの障壁によって原子炉施設の中に閉じこめられており、又、冷却水中の不純物の放射化等によって漏れ出てくるごく微量の放射性物質も、気体、液体又は固体の廃棄物として、それぞれ厳重な管理のもとに処理される。

(3)放射性廃棄物の処理

ア 気体廃棄物……一次冷却水から分離された気体は放射能減衰タンクにおいて放射能を十分減衰させた後、フィルタを通過させたうえ、放出しても安全であることを確認して放出され、又、格納容器等の空気の換気の際も、放射線モニタで監視しながら放出される。

イ 液体廃棄物……手洗い水、洗濯水、イオン交換樹脂再生廃棄等があるが、一部を蒸留して再使用し、放射性物質濃度の低いものは、外に排出しても問題ない場合に限り海水と混ぜて排出する。又、放射性物質濃度の比較的高い廃液は、セメントで固化しドラム缶詰めにし貯蔵する。

ウ 固体廃棄物‥‥‥布きれ、紙屑等の雑固体は、ドラム缶詰めされて敷地内の貯蔵所に貯蔵保管される。使用済イオン交換樹脂は、専用タンクに貯蔵保管される。
(四) 事故対策
(1)事故対策の基本的な考え方
 事故対策については、いわゆる「多重防護」の考え方が採用され、何重もの配慮のもとに、他の産業にはみられない念の入った防護策が講じられている。

(2)事故を発生させないための措置
 「多重防護」の考え方に基づき、故障、誤動作、自然災害等の異常現象に備え、それが事故に至るのを防ぐため、たとえば次のような安全対策を講じている。

ア 故障等の早期発見の装置

イ 原子炉停子装置、フエイルセイフシステム、多重性、インターロックシステムを採用した原子炉保安装置

ウ 十分余裕のある耐震設計等の自然災害からの防護措置

(3)万一の事故の場合にも放射線障者を発生させないための措置
 重大事故(技術的見地からみて最悪の場合には発生するかもしれないと考えられる事故)及び仮想事故(重大事故よりさらに大規模な、技術的見地からは発生するとは考えられない事故)を想定し、これらの場合においても安全が確保できるように、非常用炉心冷却設備、非常用フィルタ等を装備しているから、現実問題として、周辺住民に放射線障害を与えるおそれはない。
(五)立地審査のための指針
 前記重大事故及び仮想事故を想定し、そのような場合においても、安全確保の観点から、原子炉立地審査指針に適合していることを確認する。

(六)使用済燃料の再処理
 内閣総理大臣は、原子炉の設置許可に際し、再処理の結果分離抽出されるプルトニウムが平和の目的以外に利用されることとならないよう、又、原子力の開発利用の計画的な遂行に支障を及ぼすこととならないように、再処理が適切に行われることの見通しがある場合に限って、許可をすることとなる。4 法による規制の体系
 原子炉等規制法及び電気事業法に基づく規制の体系
三 原告らの主張に対する被告の主張

 1 本件許可処分の手続の適法性
 本件許可処分は、原子炉等規制法に定めるところにより適法に行われたものであるから、手続について違法は存しない。

 2 本件許可処分の内容の適法性
(一)原子炉の構造
(1)一次冷却材喪失事故と安全性
 重大事故として想定している一次冷却材喪失事故は、実際には起こる可能性はないと言ってよく、かりに起こるとしても事前に蒸気漏れの段階で発見され必要な措置が講じられるのであるが、さらに発生したものと想定して解析を行っても、非常用炉心冷却設備(ECCS)が機能して、安全が確保される。又、ECCSの機能についても、安全を守る立場からとくに問題となる事故直後の十数秒間について厳しい仮定のもとに評価を行っている。

(2)蒸気発生器細管破損事故と安全性
 重大事故として想定している蒸気発生器細管破損事故は、実際には、細管は十分な安全率を見積って設計されており、又、細管の減肉は一様に進むことはなく、さらに、減肉やピンホールは初期の段階で発見され所要の措置が講じられるのであるから、数十本の細管が同時に破断するという事態はもちろん、一本が瞬時にギロチン破断するという事態も未然に防止される。
(ニ)地盤及び地震
(1)地盤及び地震と伊方発電所の安全性
 伊方発電所においては、敷地地盤の性状、敷地付近における地震歴等、地盤及び地震について詳細な調査、検討を行なったうえ、予想される最大地震に対しても十分耐え得るよう、十分な耐震設計が講じられる。

(2)中央構造線
 中央構造線とは、西南日本を縦断する大断層である。

(3)敷地の地盤

ア 中央構造線は敷地の真近を通ってはおらず、又、敷地の地盤は中央構造線の破砕作用を直接受けたものとは考えられない。

イ 敷地の緑色片岩には、格別剥離しやすい性質は認められず、又、湿潤状態でも十分な強度を有していることが明らかになっている。さらに、地盤の片理面の傾きはゆるやかなもので、その岩盤は一様に堅硬なものであるから、地すべりが起こるおそれがあるものではない。

(4)地震

ア 耐震設計に当たっては、敷地が「特定観測地域」たる伊予灘安芸灘地域に位置しているという事実を踏まえつつ、周辺の地震について詳細な調査、検討を行っている。

イ 耐震設計に当たっては、中央構造線に起因する地震の可能性を十分考慮に入れている。

ウ ロスアンゼルス地震における事象を敷地にあてはめて同じような事象が発生すると想定することは、ロスアンゼルス地震におけるきわめて特殊な局所的状況を間違った前提に基づいた敷地周辺の地質構造にあてはめようとしたものであって、その評価を誤っているものである。
 (三)放射性廃棄物等
(1)気体廃棄物の被曝評価

ア 平常運転時の被曝評価
 気体廃棄物の拡散希釈については、現地の気象データはもちろん、現地の地理的条件を模擬した大型模型を用いた風洞実験の結果に基づき、厳しい拡散条件を設定して被曝評価を行っている。

イ 事故時の被曝評価
 本件原子炉については、重大事故の場合においても燃料や格納容器の健全性は維持され、又、スプレー、フィルタ等の機能は、設置予定地において予想されるいかなる地震の場合にも保持されるよう設計されている。又、重大事故の場合の被曝線量については、現地の気象観測結果をもとにきわめて厳しい気象条件を仮定し、かつ、地形条件も十分考慮に入れて評価している。

(2)液体廃棄物の被曝評価
 被曝評価は、年間排出量を前提に、海棲生物における濃縮度合、住民の海産物摂取量について厳しい条件のもとに行っている。

 不溶性物質等は蒸発濃縮装置、フィルタによって、排出前に除去され、又、敷地前面の海域には激しい潮流があって排水は拡散し易い条件にある。

(3)固体廃棄物の処分
 本件許可処分に当たっては、固休廃棄物の処分に関し、最終的廃棄の方法が決定されるまでの間における敷地内の貯蔵保管について審査しており、今後、安全にして、より経済的な廃棄方法が新しく確立された段階では、原子炉等規制法三五条等により十分安全性が確認されたうえで、その方法による廃棄が実施される。

(4)使用済燃料の処分
 本件許可処分に当たっては、使用済燃料に関し、発電所内での貯蔵保管の設備についてその安全性を確認しており、又、その処分の方法については平和目的以外に使用されるおそれはなく、かつ、開発利用の計画的遂行上支障がないものと判断されたものである。
 (四) その他
(1)淡水
 必要な淡水は、海水淡水化によってまかなうこととしている。

(2)温排水及び塩素
 これらは電気事業法によって規制されることとなっている。

(3)瀬戸内海沿岸における立地
 重大事故の場合にも放射性物質を含む液体は格納容器内にとどまり、流出することはない。
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