前頁 |目次 |次頁
近畿大学原子力研究所の原子炉の設置変更に係る
安全性について


昭和48年9月26日
原子炉安全専門審査会
昭和48年9月26日
原子力委員会
 委員長 前田佳都男殿
           
原子炉安全専門審査会
会 長 内田 秀雄

近畿大学原子力研究所の原子炉設置変更に係る安全性について

 当審査会は昭和48年5月8日付け48原委第144号(昭和48年9月25日付け原委第650号をもって一部訂正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

  Ⅰ 審査結果

 近畿大学の原子炉の設置変更に関し、同大学が提出した「近畿大学原子力研究所の原子炉設置変更許可申請書」(昭和48年5月1日付け申請、昭和48年9月19日付け一部訂正)にもとづき審査した結果本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

  Ⅱ 変更内容

1 使用の目的(従来は「教育ならびに訓練用」)を「教育訓練用、研究用および共同研究用」とする。

2 原子炉の熱出力(従来は「0.1W」)を「1W」とする。

3 主要な核的制限値のうち最大過剰反応度(従来は「0.25%△k/k」)を「0.5%δk/k」とし、「運転中炉心に 出入する試料の最大の負の反応度を0.05%δk/kとする」追加する。

4 燃料の最大挿入量(従来は「U-235量3.168Kg」)を「ウラン量3.50Kg(ウラン235量3・15Kg)」とする。

5 実験用設備として炉心上蓋の一部に照射用可動プラグを設ける。

  Ⅲ 審査内容

1 使用目的の変更に関する事項
 近畿大学原子炉は昭和36年以来今日に至る12年間安全に運転管理が行なわれてきている。

 同学原子力研究所は所長以下20人で運営されており管理組織も整備されている。

 したがって使用目的に「研究用および共同研究用」が追加しても安全管理上支障が生ずるおそれはないと考えられる。

2 原子炉の熱出力を1Wにし、かつ過剰反応度を0.5%δk/kに変更する事項
 これらは照射実験における照射時間を短縮することおよび照射試料の制約をゆるめることにより利用度の向上をはかることが目的である。

 熱出力を1Wにしても炉内で発生する熱量は極めてわずかであり自然冷却によって十分除去し得るものと認められる。また制御室における放射線レベルもバックグランドと同程度であるので問題ない。

 最大過剰反応度を0.5%δk/kにしても調整棒、シム安全棒および安全棒の全反応度制御能力は1.72%δk/k以上あり、かつこれらの制御棒1本が動作不能時の停止余裕も0.5%δk/k以上あるので問題はない。

3 燃料の炉心最大挿入量変更に関する事項
 本原子炉は設計当初余裕を見込みU-235で3,168kgを炉心最大挿入量としていた。

 その後現在にいたるまでの間に得られた測定データ等をもとに再評価を行なった結果、今回一連の変更を行なってもU-235で3.15kgの燃料があれば充分であることが判明したため本変更を行なうものである。

 したがって本変更により安全上支障が生ずることは考えられない。

4 炉心上蓋の一部に照射用可動プラグを設けかつ炉運転中負の等価反応度が0.05%δk/kまでの試料の出入れを行なう事項について原子炉運転中に試料の出入れを行なう場合、試料取出し孔のプラグを開けて行なうため作業者の被爆が問題になる。

 最も厳しい条件として試料取出し孔出口中心部における直接漏洩放射線による被曝線量率を解析した結果は、全放射線を考慮して、0.2rem/h程度である。実際には作業者の位置は開口部より離れており作業時間も短いため作業者の被曝線量は法令に定める値を十分下回ると考えられる。

 また試料の負の等価反応度最大値0.05%δk/kは試料出入れの際原子炉の自動制御装置が十分追随し得る値である。

 したがって本事項の追加により原子炉の安全上支障が生ずるとは考えられない。

5 平常時被曝評価
 本原子炉を1Wで運転した場合炉心近傍で放射化により生成する41Arの量は8.8μci/hである。

 これが炉室の換気によって稀釈され大気中に放出された場合、放出点から風下70m地点における年間被曝線量は6.8×10-8remであり、許容値0.5rem/年に対してはるかに低い値である。

6 事故解析
 本原子炉は最大出力が1Wと低くかつ炉の過剰反応度は0.5%δk/kと即発臨界以下に押えられている。

 仮に全出力1Wの運転中過剰反応度0.5%δk/k全部がステップで印加されあらゆる安全装置が全く作動しないと云う最大の事故を仮定しても、原子炉固有の負の温度効果による自己制御性によって、瞬時最高出力は約287KW、発生総エネルギーは約14.8MWSecにすぎず冷却材温度も65℃程度にとどまり燃料の破損にはいたらない。

 またこの事故の際周辺監視区域境界における直接ガンマ線による被曝線量の最大値はスカイシャインを含めても2.3mremであり問題ない。

7 災害評価
 前述の事故解析からは燃料板表面からの核分裂生成物放出は起り得ないが、かりになんらかの原因で燃料被履に破損が生じ核分裂生成物の1%が放出されると仮定する。

 放出された核分裂生成物のうち希ガスは100%、沃素もフィルター効果を無視して100%が排気筒から放出されるものとし、気象条件については「気象手引」を参考にして、被曝評価を行った。

 その結果、地表最大濃度地点は原子炉から南方70mの周辺監視区域境界で、その地点における成人の甲状腺被曝線量は0.38×10-4rem全身被曝線量は8×10-8rem、半径10km圏内の集団全身被曝線量は0.7man-remといずれも立地指針をはるかに下回る値である。

8 地盤沈下に関する検討
 本原子炉設置点附近は過去かなりの地盤沈下が観測された。その後地下水の採取が規制された結果沈下量に顕著な滅少が認められている。したがって今後地盤沈下により原子炉施設の安全性がそこなわれるおそれはないと考えられる。

 なお、本大学構内の建造物が地盤沈下による不等沈下のため亀裂を生じたような事態は今迄全く発生していない。

  Ⅳ 審査経過

 本審査会は昭和48年5月12日第114回審査会において次の委員からなる第99部会を設置した。
 
審査委員 弘田実弥(部会長) 日本原子力研究所
浜田達二 理化学研究所
調査委員 石田泰一 動力炉核燃料開発事業団
福田整司 日本原子力研究所
 
 同部会は昭和48年5月29日第1回会合を開いた後3回の部会を開き検討を行なってきたが昭和48年9月19日の部会において部会報告書を決定し同年9月26日の第118回審査会において本報告書を決定した。
前頁 |目次 |次頁