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第1段階核融合研究開発中間報告について


 核融合研究運営会議は第二段階以降の核融合研究開発計画立案に資するため、これまでの研究開発の評価を行ない、その結果を第一段階核融合研究開発中間報告としてとりまとめ、昭和48年5月8日原子力委員会に報告した。

第一段階核融合研究開発中間報告


  まえがき

 わが国の核融合研究開発は昭和43年7月原子力委員会によって原子力特定総合研究に指定されて以来、核融合研究開発基本計画に沿って昭和48年度より昭和49年度までを第一段階として本格的な研究開発が始められ、関係各方面の多大の努力によって多くの成果が得られている。

 特に軸対称性トカマク型トーラス装置は世界的水準に達する成果が得られ始めており、これらの成果をもとに第二段階における、研究開発の具体的方策を検討すべき時期にさしかかっている。

 そこで、第一段階終了(昭和50年3月予定)までには約2年を余すが、第二段階以降の計画立案に資するため、これまでの研究開発の評価を行なうことは極めて意義のあることと考え、ここに第一段階核融合研究開発中間報告をとりまとめた。

   昭和48年5月

   核融合研究運営会議

  1.基本計画決定に至る経緯
 わが国の核融合研究は昭和30年項から開始され、当初は小規模な基礎研究が行なわれた。

 昭和34年第一次核融合専門部会はわが国の核融合研究の進め方について「大学関係の研究基盤の育成、充実を優先させ、科学技術庁関係研究機関は当分これに協力しつつ、適当な時点における研究規模の拡大に備えて研究人員の養成および研究実力の涵養を計るべきこと」と答申した。

 その後これに基づいて、名古屋大学に全大学の共同研究の場としてプラズマ研究所が設立され、また各大学の研究・教育の充実が図られた。

 一方、科学技術庁関係の研究機関は上記の答申に沿って小規模な研究開発を実施した。

 このようにわが国は、消長の激しかった昭和30年代の第一世代期に大型装置を建設せず、大学関係を主体とする基礎的研究、小規模な研究開発および人材養成を効果的に行ない、それぞれの面で相当な成果をあげ、きたるべき核融合研究の飛躍期に備えて、その基礎を築いた。

 一方、海外においては、昭和30年代の混沌期を経た昭和40年のIAEA主催のカラム国際会議から昭和 43年のノボシビルスク国際会議の頃にかけて大きな転換期を迎えた。

 すなわち、従来核融合実現への有力候補の一つと目され、研究が最も先行していた磁気鏡型を代表とする開口系装置は、開口端からのプラズマ不安定性による荷電粒子損失が過大なため、エネルギー収支面から核融合炉にまで発展させることには大きな疑問が持たれるようになっていた。

 他方、トーラス型装置による閉込め研究は、低ベータ内部導体系の研究をきっかけとして新しい局面を迎え、核融合の研究開発の重点は主として低ベータ・トーラス系へと拡大、移行しつつあった。

 また、長らく、高ベータ・プラズマ系の代表とみなされてきた直線テーター・ピンチ装置は、短時間ではあるが、比較的簡単に高温プラズマが発生できるため、かなりの注目を集め、この時期には温度100万度から1,000万度の桁へと進展したが、それと同時に、開口端からの荷電粒子損失が磁気鏡型の場合と同様に不可避的に大きいことが判明したので、さらに炉にまで発展させ得る可能性を検討するため、これまたトーラス化が計られつつあった。

 この時期よりやや先行して、日本学術会議核融合特別委員会は、昭和38年11月より昭和41年10月までわが国の将来計画に関する諸作業を行ない、わが国のとるべき研究の方針と方策について検討を重ねた。

 引き続き、原子力委員会長期計画専門部会(核融合分科会;昭和41年10月~12月)は上記学術会議の諸審議を参考とし、また昭和40年のカラム国際会議以降の世界情勢の新しい転機にかんがみ、「科学技術庁関係研究機関は核融合を明確な目的とする総合的研究を昭和44年度よりプロジェクト的に推進すべきこと」と答申した。

 次いで昭和42年5月第二次核融合専門部会が発足し、具体的な研究開発計画の検討に着手した。

 そして昭和43年5月同専門部会は「基本方策として在来の消極策を早急に脱却すべく科学技術庁関係の研究体制を新たに再整備し、トーラス安定閉込めを中心とした総合装置的プロジェクトを速やかに開始すべきであり、また現時点はこの開発研究に直ちに着手すれば、世界の水準に追いつき、追い越す途が拓かれる絶好の時期である」として、次項2の初頭に述べる主計画と副計画を推進する必要がある旨原子力委員会に答申した。

 上記答申を受けて昭和43年7月4日原子力委員会は核融合研究を「原子力特定総合研究」に指定し、同時に定めた「核融合研究開発基本計画」に基づき、計画的に推進を図ることとした。

  2. 核融合研究開発基本計画の概要

 昭和43年7月原子力委員会が定めた核融合研究開発計画は、核融合反応の実現を明確な目標とし、従来の基礎プラズマ物理中心の研究を総合的、工学的研究へ展開させることを意図している。

 このため、同計画は先ず第一に「将来において核融合動力炉へと進展が予想されるトーラス磁場装置を主な対象として、第一段階(昭和44~49年度)においては、(低ベータを一歩前進させた)中間ベータ軸対称性トーラス・プラズマの安定な閉込めを目標とする研究」を主計画とし、第二に「将来(第二段階以降)における高ベータ・トーラス磁場装置の研究開発に備えるため、テーター・ピンチ装置による。

 主として高ベータ・プラズマの挙動解明を目標とする研究」を副計画として推進することとしている。
なお、磁気鏡型を代表とする開放系については前項1に述べた当時の世界情勢から、同計画の対象としては除外された。

 同計画の概要は以下のとおりである。

(1)トーラス磁場装置の研究開発

  “静かな”プラズマが得られ、また理論と実験との対応が明確になっている“軸対称性トーラス磁場装置”により、ベータ値0.001程度の低ベータ・プラズマからベータ値0.01程度の中間ベータ・プラズマまでの研究開発を推進する。

 また、第二段階以降において、ベータ値をさらに高めようとする際に、“非軸対称性”の外部導体系トーラス磁場装置、あるいは軸対象と非軸対象の複合系が核融合炉の実現の観点からより有利と判明する可能性もあるので、その場合第一段階の成果の適用を容易にするため、外部導体系および複合系についても将来に備えた基礎研究を行なう。

(ⅰ)低ベータ軸対称性トーラス磁場装置による予備実験
 低ベータ軸対称性トーラス磁場装置を設計、製作し、これによる実験研究を行なうことにより、ベータ値0.001程度のトーラス・プラズマ保持についての資料を得るとともに、この種トーラス磁場装置の設計、製作およびこれによる実験に習熟し、第一段階の主装置(中間ベータ軸対称性トーラス磁場装置)の設計、製作およびこれによる実験研究に備える。

(ⅱ)中間ベータ軸対称性トーラス磁場装置の研究開発
 予備実験の成果をもとにして、中間ベータ軸対称性トーラス磁場装置を設計、製作し、これによる実験研究を行なうことにより、ベータ値0.01程度、絶対温度数100万度台のトーラス・プラズマ保持についての資料を得るとともに、装置の設計、製作技術を習得し、第二段階以降の臨界炉心プラズマの実現をめざす、さらにベータ値を高めたトーラス磁場装置による研究開発に備える。

(ⅲ)外部導体系トーラス磁場装置の研究
 この型の装置では複雑な磁場を用い、かつ、その僅かな設計誤差がプラズマ保持に大きな影響を及ぼす等、装置製作部に検討すべき多くの問題が存在するので、第一段階においては、磁場等の計算および小型装置による研究にとどめる。
 (以上、日本原子力研究所分担)

(ⅳ) 関連技術開発
 従来、主として対象としてきた絶対温度10万度台のプラズマを100万度台に高めるためのプラズマ生成、加熱技術、装置技術、診断技術の研究開発を行なう。
 (理化学研究所分担)

(2)テーター・ピンチ装置による高ベータ・プラズマの研究

 直線テーター・ピンチ装置を開発し、これによりベータ値1~0.1の領域を研究する。

 また、テー ター・ピンチ装置のトーラス化についても小型装置による研究を行なう。
 (通商産業省工業技術院電子技術総合研究所分担)

(3)研究開発の体制

(ⅰ)核融合研究運営会議ならびに連絡会議の設置
 この研究開発の推進と評価を行なうため、原子力局に学識経験者からなる運営会議を設ける。

 また、この研究開発を円滑に実施するため、同局に各実施機関の関係者および学識経験者からなる連絡会議を設ける。

(ⅱ)内外関係機関との交流
 海外の研究情報の取得、海外からの研究者の招聘等を行ない、その成果の活用を図る。

 また、本研究開発に際しては大学、民間企業に技術開発、機器試作研究および人的支援等の面からの協力を期待する。

(ⅲ)研究機関の一体化
 第二段階以降研究規模が拡大した場合には研究機関の一体化(一つの組織、一つの場所)を図ることを前提に第一段階の研究を進める。

   3.研究開発の遂行状況と成果

 前項2の基本計画に沿って、昭和44年度より本格的な研究開発が始められ、関係各方面の多大の努力によって多くの成果が得られ、あるいは得られつつある。

 この間核融合研究運営会議は昭和44年1月以来本年3月までに通算20回開催し、幾つかの重要な決定を行ない、鋭意その推進に努力してきた。

 以下その概要を述べる。

(1)低ベータ軸対称性トーラス磁場・装置による予備実験(JFT-1)

 日本原子力研究所はトーラス型ヘクサボール装置(JFT-1)を昭和43年に設計、製作し、以降同装置による実験を行ない、低ベータ・ガン入射プラズマおよびECRH(電子サイクロトロン共鳴加熱)プラズマのトーラス閉込めに関し、荷電粒子損失機構、低周波不安定振動など多くの知見を得るとともに、磁場中精密設計、ECRHによる加熱等に関する技術を得る等、当初の目的である「トーラス磁場装置の設計、製作およびこれによる実験に習熟し、第一段階の主装置に備える」をほぼ十分に達成し、昭和47年度をもって実験を終了した。

(2)中間ベータ軸対称性トーラス磁場装置の研究開発(JFT-2,JFT-2a)

 第一段階の研究開発における主装置として昭和45年度から設計、製作に着手することが予定されていた本装置JFT-2は、計画当初の昭和43年未頃には、JFT-1を発展させた内部導体系(スフェレータ型)にプラズマ・ガン入射方式を組合せることにより、ベータ値を上昇させる方向で検討が重ねられた。

 しかし、検討の進捗につれてこのプラズマ生成方法では体系的にべ一夕値を高めていくことには難点があると判断され、一方トカマク型トーラス装置の有望性が次第に認められようとしていた当時の世界情勢をも併せ考慮して、昭和44年夏頃まではスフェレータ型とトカマク型の両形式を共用できる装置をJFT-2とすることで検討が進められた。

 さらに、昭和44年7月ソ連のドブナで開かれたトーラス国際会議、その他で発表されたソ連のトカマク型装置T-3の非常に注目すべき成果(閉込め時間の伸長、さらにその後のミリ秒の桁を上廻る長時間の熱核中性子の発生)に着目し、それまでのスフェレータ、トカマク共用をトカマク型専用に切替えるという日本原子力研究所の提案に対し、核融合研究運営会議は慎重審議の結果、昭和45年2月これを支持する決定を下した。

 この決定はその後の世界諸国における研究開発の推移を見るとき、結果的に極めて適切、妥当な判断であったと考えられる。

 上述の経緯を経て決定された中間ベータ・トカマク型トーラス装置JFT-2は昭和45年中頃に製作を開始し、昭和47年4月日本原子力研究所に納入を完了、直ちに調整、実験に入った。

 同装置は生成されるプラズマ半径が太く(プラズマ半径が太くなると、閉込め時間、プラズマ温度が増加、上昇する。)いわゆるアスペクト比の小さい”fat”な(アスペクト比が小さくなると閉込め時間、ベータ値、プラズマ温度のいずれもが増加、上昇する。)トカマクであり、また実験中にリミターを除去できるダイナミック・リミター(プラズマの形を規制するリミターを急速に取り除くことにより、リミターの影響を受けないプラズマの研究が可能となる。)を備えているなど多くの特徴を有している。

 しかし、設計製作段階ではこれらの特徴を有効に発揮できるようにするための設計技術上の困難が数多く存在し、その解決には製作を担当した民間企業をも含めた多くの関係者の多大なる努力が払われた。

 昭和47年4月以降の調整期においては、不純物ガスに対する放電清浄、真空リークに対する対策処理、水平方向の僅かな不整磁場(10ガウス以下)の補正など幾つかの問題点が発生したが、これらに対処する関係者の熱意と努力によって、この種の装置としては異例に短かい調整期を経て、昭和47年未には本格実験に入ることができた。

 そして、研究従事人員の不足、計測器の整備の遅れなどの悪条件にもかかわらず、極く最近に至り、装置建設後1年を経ずして電子温度700万度(イオン温度200万度前後)、プラズマ密度1013cm-3(プラズマ電流150kA以上)、電子エネルギーの閉込め時間20ミリ秒のプラズマ発生が確認されるという注目すべき成果が得られた。

 さらに特筆すべきことは上記の電子エネルギー閉込め寺間が、ソ連のトカマクT-3および米国プリンスン大学のトカマクSTのそれの延長線上に見事に位置することが見出されたことである。

 これはトカマクのプラズマ・パラメータに関する比例法則(閉込め時間がプラズマ断面半径の二乗に比例し、プラズマ電源によって作られる磁場に比例する法則をいう。)の成立確認に貴重な資料を提供したものであり、世界的なトップ・データとして注目されることは疑いがない。

 さらに詳細なデータは昭和48年度に設置が予定されている各種の計測装置の稼動を待って確認されることになろうが、要はJFT-2の建設完了後1年も経ないという世界的にも類例を見ない短時日のうちに世界のトップ・レベルの成果が得られ始めたことは装置設計の妥当性を実証し、前項この(ⅰ)、(ⅱ)に述べた基本計画の目標の大半を既に達成したというだけでなく、「臨界炉心プラズマ」の達成という核融合動力炉実現へより一歩近づくための研究規模の拡大に対し、諸外国に伍してトップ・レベルを進むことが可能であることの基礎と信頼を与えるものと云えよう。

 また、昭和48年度からは、より炉の実現条件に近い領域において比例法則を検証するため、同装置(JFT-2)の磁場増力(10kG-10kG)を実施し、またトカマク型装置の小型化、能率化を計るための高安定化磁場試験装置(JFT-2a)の建設着手が予定されており、これらによる実験により、さらに第二段階以降の同種装置の開発、発展に寄与するものと期待されている。

(3)外部導体系トーラス磁場装置の研究

 昭和43年度より大学関係者の協力を得て行なわれた日本原子力研究所核融合研究委員会における検討および名古展大学プラズマ研究所における研究状況を勘案し、昭和44年3月核融合研究運営会議は本研究が未だ基礎研究の段階にあると判断し、当分の間はプラズマ研究所における研究成果に期待することとして、昭和44年度で検討を打切り、当分着手を見合わせることとした。

(4)関連技術開発

 理化学研究所は関連技術開発の一環として、(ⅰ)プラズマの生成・加熱、(ⅱ)プラズマ診断および(ⅲ)真空材料の特性測定の諸技術に関する研究を進めてきた。

 「プラズマの生成・加熱」では(a)将来のトカマク型・トーラス装置に対する第二段加熱の一方式として(あるいは、さらに炉が実現した際の然料補給の一方式として)可能性のある「クラスター・イオン源」の開発と(b)「マイクロ波によるプラズマ生成・加熱」の2項目を実施中である。

 これらのうち(a)に関しては、最終的な水素クラスター・イオン源に対する予備実験として窒素クラスター・イオン源の試作・実験が行なわれている。

 さらに発生したクラスター束を200keV程度まで加速するための加速装置の試作研究が進められ、両者についてある程度の成果が得られているが、昭和47年度末現在まだ明確な評価を下すまでには至っていない。

 研究速度を高めることにより、昭和49年度末までに、かなり明確な結論が得られることを期待する。

 一方(b)に関しては、同研究所のECRH(電子サイクロトロン共鳴加熱)技術に所期の成果を得て、日本原子力研究所のJFT-1およびJFT-2に対するプラズマ生成、予備電離加熱法として、その設計あるいは実験遂行に寄与した。

 また、ECRHと並んで(b)の双翼を担う「変調マイクロ波による低周波波動の励起」はマイクロ波電力のプラズマへの注入によるイオン加熱を意図したものであるが、第二段階以降の研究開発において、主計画に対する第二段加熱の一つとして活用できる可能性についての結論は未だ得られておらず、昭和48年度末までにある程度明確な結論が得られることを期待する。
 「プラズマ診断」については(a)分光測定、(b)相関計測技術を駆使して、プラズマ・パラメータの動揺、波動、乱流などを定量化するいわゆる「動的内部構造測定」が、実施されている。

 (a)に関しては、スペクトル線の波長、絶対および相対強度、スペクトル・プロファイルの測定などから発光粒子の同定、定量 および電子、イオンの密度、温度、プラズマからの放射損失などを時間、空間分解をもって計測し得る診断技術の確立を目的としている。

 このための、真空紫外波長領域の各種分光器の製作および分光強度較正のための研究が進行中であり、すでに可視領域に対しては幾つかの成果が挙げられている。

 また、日本原子力研究所のJFT-2のルビー・レーザ光トムソン散乱測定装置の設計、各種分光測定器の選定、同担当者の研修などに協力し、さらに電子技術総合研究所における高ベータ・トーラス・プラズマの分光計測にも協力している。

 (b)に関しては、センサーとして探針、プラズマ発光さらに4mmマイクロ波を用いる相関計測技術の確立にかなりの成果を得ており、今後の詳細なプラズマ診断に有力な手段を提供するものとして評価できる。

 炭酸ガス・レーザ干渉計および散乱測定用の炭酸ガス・レーザ自身の開発も並行して行なわれている。

 また、日本原子力研究所のJFT-2の計測用に用いる波長2mm多チャンネル・マイクロ波干渉計および波長2mmマイクロ波散乱測定器の設計に協力した。

 「真空材料の特性測定」ではプラズマ粒子の真空壁への衝突による不純物ガスの放出に関する情報を得ることを目的として、電子衝撃による不銹鋼からのガス放出、および金メッキの効果、また低エネルギー・イオンの衝撃によるガス放出の実験研究が進行中である。

 今後研究速度を高め、昭和49年度末までに成果が得られることを期待する。

(5)テータ・ピンチ装置による高ベータ・プラズマの研究

 昭和44年4月核融合研究運営会議はテーター・ピンチ装置による高ベータ・プラズマ研究に対して、(a)高ベータ・プラズマの研究は未だ模索的段階にあり、プロジェクトとしては準備段階にあるので、柔軟性のある研究計画を立てる必要がある。

 (b)そのため、本研究開発の第一段階においては数百kJ~1MJのコンデンサ・バンクの実験を行なうことを目標とするが、単年度にそれを建設することは差控え、段階的な建設を計画すること、(c)テーター・ピンチの装置技術をやや小規模の装置によって確立し、また、トーラス・テーター・ピンチによる研究を小規模装置によって実施するなどの方針を立てた。

 電子技術総合研究所は、上記の方針に従って昭和44年度に100kJ直線テーター・ピンチ装置を完成 し、昭和44~46年度に同装置による実験を行ない、イオン温度約800万度、プラズマ密度約1017cm-3、プラズマ閉込め時間2~3マイクロ秒の高ベータ・プラズマを得たまた予備電離法に対する工夫によって、低プラズマ密度領域において1,000万度以上の電子温度が得られることを見出だすと共に、高ベータ・プラズマに対する分光およびレーザ診断技術の確立をほぼ完了した。

 同時に、磁場の時間的立上りが可変の小型(8kJ)高速テータ・ピンチの実験によって、テーター・ピンチ・高ベータ・プラズマの発生初期に起こる諸現象について多くの知見を得た(昭和45~46年度)。

 さらに、本格的な高ベータ・テータ・ピンチ・トーラスの建設に備えて、小型(20kJ)トロイダル・スクリュー・ピンチ装置を試 作し、昭和45~46年度において、ベータ値0.2、イオン温度20万度、プラズマ密度約1016cm-3、閉込め時間約25マイクロ秒のプラズマ生成を実現した。

 この間、直線テーター・ピンチに関しては、当初48年度頃までにそのコンデンサ・バンクを400kJ 程度まで増力することが計画されていたが、高ベータ・プラズマの世界的な趨勢がトーラス化に向って急速に展開している状勢にかんがみ、直線テーター・ピンチに対する増力を中止し、主目標をトーラス・ピンチに集中することとした。

 そこで、昭和46年度末に150kJトロイダル・スクリュー・ピンチ装置(TPE-1)の設計を完了し、現在建設中であり、昭和48年度中頃から本格実験に入る予定である。

 この装置の建設には、諸般の事情から一年の遅れが生じたが、大型コンデンサー・バンク、大電流制御、装置製作の諸技術の面で多くの工夫が試みられており、各種のプラズマ計測器の整備によって、昭和49年度末までに高ベータ・プラズマの性質の解明および閉込めに関し、かなりの成果が得られるものと期待される。

 (6)内外関係研究機関との交流

 3研究機関相互間(主として関連技術開発について)を始め、これら機関と各大学との連絡交流は核融合研究連絡会議、同運営会議、日本学術会議等を通じて活発に行なわれた。

 この他、毎年1回3研究機関の発表会が開催され、広く関係機関より研究者等の参加を得て討論が行なわれている。

 海外から研究情報の取得、その成果の活用については在米日本人研究者らを含む海外研究者との交流が活発に行なわれ、わが国の核融合研究推進に多くの有益な寄与がなされた。

 また国際核融合研究協議会(IFRC)など一連の国際会議に代表者あるいは研究者を送ったほか、昭和45年には低ベータ・トーラスのパネルが東京において日本原子力研究所主催で開かれ、米、英、独、仏各国からの参加を得た。

 この他、本研究計画の推進に際して、各大学からの人的支援,調査研究に関する協力、民間企業からの機器装置の試作等に関する協力等により、多くの頁献がなされた。

 (7)要約

 以上を要約すると、わが国の核融合研究開発は着実にその成果を挙げ、特に主計画である軸対称性・中間ベータ・トカマク型・トーラス装置の研究は、同装置の建設完了後1年を経ずして、すでに世界の研究開発レベルに比肩し得るまでの成果が得られることとなった。

 このことは、米ソ等に比して人員、予算等かなり劣勢なる状況下にあったにもかかわらず、関係者の多大な熱意と努力があって始めて実現されたものであり、安易に得られたものではないことを銘記すべきである。

 そして、この事はわが国の核融合研究が、本第一段階の主な目標であった核融合炉の実現を目指す技術的な研究開発への離陸に成功したことを意味するばかりでなく、今後世界の先進諸国と肩を並べて、人類のエネルギー問題の解決のために、重要な役割りを演じ得ることに自信が得られたものとして、その意義の重要性を改めて感ずるものである。

 副計画および関連技術に関しては前述のとおり、今後の進展状況を注目して第一段階未にそれらに対する評価を行なうものとする。

 また、これらについては今後の努力によって多大の成果が得られることが期待される。

 また、第一段階の研究開発の推進に際して、主計画に重点的な資金の配分を行ない、効率的な研究開発を実施し得たことは大きく評価されよう。

 なお、現在までの予算総額(昭和44~48年度)および人員を示すと次のとおりである。

  4.今後研究を推進するに際して配慮すべき点

 核融合研究開発の世界的趨勢は、昭和55年前後に「臨界炉心プラズマ」を達成することを目標として、それに極めて近いプラズマ・パラメータを実現しうるようなかなりの規模の実験装置(いわゆるScientific Feasibility Test Experiment)が現在米国、ソ連および欧州(EURATOMを介してEC諸国共同)において建設あるいは計画されようとしている。

 特に米国プリンストン大学の“PLT”(Princeton Large Torus)およびソ連・クルチャトフ原子力研究所の”T-10”と呼ぶ大規模のトカマク型トーラス装置はこの路線の一環をなすものであり、昭和50年頃までに建設を完了すべく鋭意努力が重ねられている。

 わが国の第一段階の研究開発ま前項3までに述べたように、幾多の問題点を抱えつつも、よくそれらを克服し、かなりの成果が得られつつある。

 特に主計画である軸対称性トカマク型トーラス装置(JFT-2)は世界の第一線に伍し得る成果が得られ始めており、当然第二段階(昭和50年度以降)における研究開発の具体的方策を早急に検討すべき時期にさしかかっている。

 そこで第二段階以降の計画立案に資するため、これまでの第一段階の研究遂行上特に生じた問題点および今後配慮すべき点を挙げておくことは極めて肝要と考える。

 以下にそれらを列挙する。

 (1)主計画

 前述のように、主計画JFT-2の装置によって得られる高温プラズマに関し、比例法測が確認され、世界第一線級の成果が出始めた訳であるが、同装置はプラズマ半径が大きいこと等の長所を有する反面、トーラス磁場が10kG(昭和48~49年度の増強によっても18kG)と諸外国のトカマク型装置(30-100kGのものが多い。)に比して格段に低い点で劣っており、このため研究可能範囲がかなり制約されている。

 また、同装置のプラズマ計測機器の整備が遅れたため電子温度についての計測が十分に行なわれておらず、研究進展の隘路となっている。

 従って今後の核融合研究開発の一層の進展を図るためには、相当の強磁場トーラス装置を考慮べきであると同時に、必要な時期に機を失することなく必要な計測器類の整備ができるように配慮が必要である。

 前に述べたように世界の核融合研究の主流はトカマク型による臨界炉心プラズマの達成を目標とした核融合炉の総合的な研究開発へと拡大移行しつつある。

 わが国においても、世界の開発進歩の一翼を担うまでに研究開発が進んでおり、今後の研究開発の成果に期待が寄せられている。

 このような情勢にかんがみ、わが国としては世界的に有望視されているトカマク型トーラス系装置を主な対象に研究開発を進め、昭和50年代に臨界炉心プラズマ試験装置を建設することが必要と考えられる。

 現在までに得られた成果および今後第一段階の残余の期間に予定されている試験研究に期待される成果は、この臨界炉心プラズマ試験装置につながる研究開発への十分な基礎と信頼を与えるものと考える。

 (2)副計画

 前述したように副計画のテーター・ピンチ装置による高ベータ・プラズマの研究に関しては、第一段階の当初においてその発足が主計画より1遅れたため、未だ明確な評価を与え得る段階には至っていないが、第一段階未(昭和50年3月)までには相当の成果が得られるものと期待される。

 また、世界各国においてもトカマク型プラズマの研究と並行して高ベータ・プラズマの研究が進められている。

 これら内外の情勢にかんがみ、わが国においても今後とも主計画との密接な連けいの下に適正な規模で副計画を推進することが必要と考えられる。

 (3)関連技術開発

 第一段階の研究開発においては主として理化学研究所が分担してきており、前述したように、現在までにそれぞれの項目に関し、部分的な成果は出ているが、未だ全体的な評価を考え得るには至っておらず、昭和49年度末までの成果を期待する。

 最近プラズマを数千万度以上に加熱するための第二段加熱法として中性粒子入射法が有力視されており、わが国においても早急に技術開発に着手する必要がある。

その際、現在関連技術開発の一つとして実施している「クラスター・イオン源」の将来性、開発方策を併せて検討する必要がある。

 さらに第二段階の研究開発においては、在来の研究体制のみに依存することが困難と考えられる関連開発技術が次々と現われてくるであろうことが予想される。

 従ってこれらを強力に推進しうるよう、具体的な方策を検討する必要がある。

 (4)核融合動力炉プラント工学技術


 昭和55年前後と予想される“臨界炉心プラズマ” 実現の時期頃には核融合炉心の外側に設けるべき核融合出力取り出し用の諸コンポーネント(ブランケット、熱および放射線シールドなど)、燃料処理系、強磁場発生系、発電系などを含む核融合動力炉プラント工学技術分野の研究を急速に増強して行く必要が高まってくると予想される。

 これらの研究は超高速中性子に対するニュートロニックスを含む炉設計工学、炉材料工学、熱伝達工学、化学工学、超低温工学(新発電方式を含む)発電工学、炉運転制御工学まで広範囲にわたる工学技術分野を包含しており、これら各分野の研究増量に際しては炉心プラズマ関係の進捗状況との相互関連を十分に考慮して、漸進的かつ計画的に進める必要がある。

 これらのあるものについてはその開発に担当の長期間を要し、この開発が遅れることにより、全体の炉プラント工学技術の開発に支障を来たすと予想されるのでこれらについては現時点から具体的な方策を検討し、準備的研究を計画的に実施していくことが必要である。

 (5)その他

 昭和34年5月の第二次核融合専門部会の答申の線と実施結果との比較において特に注意を引くのは人員の手当の下足である。

 答申によれば第一段階の計画に所要の資金(建築関係経費を除く。)、人員はそれぞれ33億円、195名となっている。

 資金については現在までの実績から推測して70~80%の充足率が見込まれるのに対し、人員については40%にも満たないと予想される。

 これは最近におけるわが国の人員定員行政施策上の影響による面も多いが、その結果は、特に現場における技術、技能者の不足としてはねかえり、研究者の負担を過度に増大させている。

 現在までは当時者等の努力によってこの困難を克服してきているが、今後は柔軟な人事施策をとることにより、本問題の解決をはかり、研究効率の低下を防止し得るよう、何らかの工夫努力が極めて必要である。

 また、核融合の研究開発は長期にわたる息の長いものであり、新進気鋭の若い高級研究者を計画的に絶えず供給していくよう、特に考慮を払う必要がある。

 一方、今後、核融合研究の進展に伴い、これに要する経費は相当多額にのぼるものと予想されるが、これに対する十分な措置を講ずることが極めて肝要である。
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