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関西電力株式会社美浜発電所の原子炉の設置変更
(1,2,3号原子炉施設の変更)に係る安全性について


昭和47年12月20日
原子炉安全専門審査会
原子力委員会
  委員長 中曾根康弘殿
原子炉安全専門審査会
会長 内 田 秀 雄
  当審査会は、昭和47年10月3日付け、47原委第382号をもって審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

 Ⅰ 審査結果

  関西電力株式会社美浜発電所の原子炉の設置変更 (1、2、3号原子炉施設の変更)に関し、同社が提出した「美浜発電所原子炉設置変更許可申請書(1、2、3号原子炉施設の変更)」(昭和47年9月29日付け申請)に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。

 Ⅱ 変更の内容

1 3号原子炉施設の変更


(1)原子炉格納施設の外周鉄筋コンクリート壁の構造を「たて置円筒上部ドーム型」(外径約44m、基礎底面から最高部までの高さ約86m)とする。(変更前たて置円筒型、外径約44m基礎底面から最高部までの高さ約84m)

(2)上記(1)の変更に伴ないアニュラス空気再循環設備の容量を約10,200m3/時/基とする。(変更前 約6,800m3/時/基)

2 原子炉施設を設置する敷地(以下「敷地」という。)の面積、形変状および各原子炉から敷地境界までの最短距離の変更

(1)敷地の面積を約520,000m2とする。
   (変更前 約560,000m2

(2)各原子炉から敷地境界までの最短距離を次のようにする。
   1号原子炉から北側敷地境界まで約750m(変更前 約700m)
   2号原子炉から北側敷地境界まで約700m(変更前 約700m)
   3号原子炉から北側敷地境界まで約550m(変更前 約750m)

 Ⅲ 審査内容


 本変更は、すでに設置許可ずみである美浜発電所の周辺監視区域の変更に伴ない3号原子炉格納施設のうち外周鉄筋コンクリート壁およびアニュラス空気再循環系の設備を強化するものであるが、3号原子炉格納施設の検討および敷地周辺の公衆に対する放射線被ばく評価は、以下のとおりである。

1 上記Ⅱ変更内容1の(1)について
 鋼製格納容器とその外周鉄筋コンクリート壁の間の全空間を密閉構造とし、放射線しゃへい機能および放射性物質の放散防止機能を向上させることができる。

  耐震設計の方針は、従来のとおりで特に変更はないが新たな要因として、今回変更のあったドームの荷重が考慮されて、設計が行なわれている。

 また、原子炉格納施設の基礎部の安定性および構造強度について検討した結果、設計地震力に対しても当該基礎は、十分安定しており、当該構造の鉄筋コンクリートも十分な強度を有していると結論された。

 したがって、本変更事項については、問題ないものと認める。
2 上記Ⅱ変更内容1の(2)について
 本変更は、アニュラス部空間が変更前に比較して約70%増加するために、アニュラス部空気再循環設備の容量を約50%増加するものである。

 1次冷却材喪失事故時のアニュラス部の負圧達成が変更前に比較して若干遅れるが、ドームのしゃへい効果により当該事故時の被ばく線量は、変更前より低くなる。(3の(3)参照)したがって、本変更事項については、問題ないものと認める。
3 上記Ⅱ変更内容2について
 各原子炉から敷地境界までの最短距離の変更に伴ない、放射線被ばくについて再評価を行なった結果は、以下のとおりであり、敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認める。
(1)平常運転時の被ばく評価
 敷地外で年間γ線被ばく線量が、最大となるのは、北側敷地境界(1号炉から約750m、2号炉から約700m、3号炉から約550m)(以下、「北側敷地境界」という。)であってその地点の被ばく線量は、1、2、3号炉合せてγ線約0.46ミリレム/年、(β線約1.6ミリレム/年)となる。

 なお、γ線β線合せて年間の被ばく線量が最大となるのは、変更前と変らず、3号炉から南々東約2,600mの地点であって、その地点の被ばく線量は、γ線約0.42ミリレム/年(β線的1.9ミリレム/年)となる。
(2)災害評価
 イ 3号原子炉施設
 本変更に伴ない、3号原子炉について「原子炉立地審査指針」に基づき、重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は、次のとおりであり、上記指針に十分適合しているものと認める。
  (イ)重大事故
 重大事故として、1次冷却材喪失事故および蒸気発生器細管破損事故の2つの場合を想定する。
a 1次冷却材喪失事故
 本変更に伴ない、次の点について、従来と異なる仮定をして被ばく線量を計算する。

① 原子炉格納容器から漏洩したものは、すべてアニュラス部に入るものとする。

② アニュラス部に漏洩したものは、アニュラス空気再循環系を循環し、この間にヨウ素は、ヨウ素フィルターにより90%の効率で除去されるものとするが事故後15分間は、このフィルター効率を無視する。

 以上の仮定の変更のもとに解析した結果、大気中に放出される放射性物質は、全ヨウ素が約12ci(ヨウ素131換算、以下同様)および希ガスが約2,600ci(γ線エネルギー0.5MeV換算、以下同様)となる。

 敷地外で被ばく線量が最大となるのは、北側敷地境界であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(小児)に対して約0.59レム全身に対してγ線約0.14レム(β線約0.021レム)となる。

b 蒸気発生器細管破損事故
 従来と同様の仮定のもとに解析した結果大気中に放出される放射性物質は、従来と変らず、全ヨウ素約56ciおよび希ガス約19,100ciである。

 敷地外で被ばく線量が最大となるのは、北側敷地境界であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(小児)に対して約30レムおよび全身に対してγ線約0.13レム (β線約1.2レム)となる。

 上記各重大事故時の被ばく線量は「原子炉立地審査指針」にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150レム、全身25レムより十分小さい。
  (ロ)仮想事故
 仮想事故としても重大事故と同様、2つの事故の場合を想定する。
a 1次冷却材喪失事故
 上記重大事故の解析で変更した点以外は従来と同様の仮定を用いて解析した結果、大気中に放出される放射性物質は、全ヨウ素約580ciおよび希ガス約130,000ciとなる。

 敷地外で被ばく線量が最大となるのは、北側敷地境界であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(成人)に対して約7.4レム、全身に対してγ線約6.7レム(β線約1.0レム)となる。

 また、全身被ばく線量の積算値は、約2.7万人・レムとなる。

b 蒸気発生器細管破損事故
 従来と同様な仮定のもとに解析した結果、大気中に放出される放射性物質は従来と変らず、全ヨウ素が約313ciおよび希ガス約53,600eiである。

 敷地外で被ばく線量が最大となるのは、北側敷地境界であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(成人)に対して約36レムおよび全身に対してγ線約0.35レム(β線約2.4レム)となる。

 また、全身被ばく線量の積算値は、約1.5万人・レムとなる。

 上記各仮想事故時の被ばく線量は、「原子炉立地審査指針」にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300レムおよび全身25レムより十分小さい。また、全身被ばく線量の積算値は、国民遺伝線量の見地から示されているめやす線量の200万人・レムより十分小さい。
 ロ 1、2号原子炉施設
 1、2号原子炉の重大事故および仮想事故時における災害評価の条件の画一化を はかり、検討した結果、敷地外で被ばく線量が最大となるのは、北側敷地境界であって、その地点における被ばく線量は下表のとおりである。
(注)甲状腺については、重大事故は、小児に対し、仮想事故は、成人に対するものである。
  上記被ばく線量は、「原子炉立地審査指針」にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150レム、甲状腺(成人)300レム、および全身25レムより十分小さい。

 また、全身被ばく線量の積算値は、国民遺伝線量の見地から示されているめやす線量の200万人・レムより十分小さい。


 Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和47年10月11日第106回審査会において、次の委員よりなる第94部会を設置した。

(審査委員)
渡辺 博信(部会長) 放射線医学総合研究所
大崎 順彦 東京大学
都甲 泰正 東京大学
(調査委員)
小林 定喜 放射線医学総合研究所
藤村 理人 日本原子力研究所

 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行なうこととし、昭和47年10月23日第1回会合を開き審査方針を検討するとともに、審査を開始した。

 以後、部会において審査を行なってきたが、昭和47年12月8日の部会で部会報告書を決定し、同年12月20日の第109回審査会において、本報告書を決定した。
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