前頁 |目次 |次頁
放射線医学総合研究所




放射線医学総合研究所における医用サイクロトロンの建設状況について

 放射線医学総合研究所は、速中性子線による悪性腫瘍の治療、短寿命RIの医学利用に関する研究のため、医用サイクロトロンおよび建屋の建設を急いでいる。

 この放医研の医用サイクロトロンの設置経緯は、44年5月、原子力委員会に「サイクロトロンによる中性子線医用懇談会」を設置し、速中性子線によるがん治療の研究推進について検討したが、同年6月に医用サイクロトロンを45年度から放医研において建設することが適当である旨の決定を行なった。

 放医研はこの決定にもとずき、予算要求を行ない45年度に装置および建設費として総額795百万円(債務負担額を含む。)が計上された。

 サイクロトロン本体は、46年1月にフランスのトムソンCSF社と契約を行なったが、その性能は、出力エネルギーが陽子で60MeV、重陽子35MeVである。

 サイクロトロンの電磁石は、径215cm、重量約200トンで最大磁場1700ガウスであり、発振器の周波数は11〜22MHzである。建屋に関しては、放医研、関東地方建設局、トムソンCSF社が打合せを行ない、レイアウトおよび設計業務を45年度にまとめ。

 建屋面積は遮蔽壁、地下、地上1、2階を含め約3,050m2であり、遮蔽壁は、安全確保のため最大3.5m、平均2mとなっている。工事は46年8月に始められ、現在、順調に進行している。

 一方中性子線による治療、短寿命RIによる医学利用に関する研究は現在5研究課題に対し、各々研究グループを編成し、45年度から5ヶ年計画で特別研究として実施しているが研究内容は以下のとおりである。

1)中性子線の測定等に関する研究
 速中性子線の実用的な測定法の確立、線量計の開発および中性子線のエネルギー分布、吸収線量の評価に関する研究

2)中性子線の生物学的効果に関する研究
 速中性子線の腫瘍および正常組織に対する効果を分子、細胞組織レベルおよび個体の各レベルより検討する。

3)中性子線による悪性腫瘍の治療に関する研究
 速中性子線の腫瘍に対する効果と周囲の健常組織に対する反応とを追求し、放射線治療効果比の面から速中性子治療法を確立する。

4)短寿命RIの医学的利用に関する研究
 サイクロトンより生産される短寿命RIの医学利用、およびポジトロンカメラの製作に関する調査研究である。

5)医用サイクロトロンの安全管理に関する研究
 患者、作業従事者等に対する障害の防止、管理区域内外の安全管理について研究する。
    

 以上の基礎研究がバンデグラフ、その他の機器を利用して行なわれ、成果を収めつつある。特別研究が終了する49年度には、完成したサイクロトロン(48年度完成予定)を使用し、がん、治療および核医学の分野での成果が期待されている。
前頁 |目次 |次頁