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原子力開発利用長期計画総論


昭和47年6月1日
原子力委員会

総     論

第1章 原子力開発利用の基本的考え方

 わが国の経済社会の健全な発展をはかり、国民福祉の向上をもたらすためには、エネルギーの安定、豊富かつ低廉な供給を確保することが不可欠なことである。原子力は、比較的少量の燃料により、豊富なエネルギーの供給が可能であることから、資源の輸送、備蓄が容易であるなど、わが国の将来におけるエネルギー供給の安定化をはかるうえに大きく貢献しうるものである。また、原子力は、今後の研究開発により、在来エネルギーに比較して、エネルギーコストを低減させる期待が大きく、同時に、生活環境の保全をはかるうえに必要なきれいなエネルギーを供給する可能性をもつものである。

 さらに、原子力の開発利用をすすめることは、今後わが国の科学技術水準の向上、産業構造の高度化等に多大な貢献を果たすことが期待される。

 わが国の原子力開発利用は、このような観点から、原子力基本法の精神に基づき、総合的かつ長期的な視点にたって、計画的に推進されてきており、関係各界の努力により今日その本格的実用化の段階を迎えている。このような時期にあたって、政府はわが国の原子力開発利用の調和ある発展をはかり、広く国民の支持のもとに原子力開発利用がすすめられるよう、さらに一層の努力をはらうことが重要である。

 原子力開発利用をすすめるにあたっての理念は当初から一貫しており、何ら変わるものではないが、新たに長期計画を策定するに際し最近の情勢の進展を考慮して、ここに基本となる考え方を示せば、次のとおりである。

 第1に、わが国における原子力の開発利用は、平和の目的に徹してこれを推進すべきことである。

 原子力平和利用の理念は原子力基本法の制定以来一貫して維持してきたところであるが、今後とも厳密に平和の目的に徹してこれをすすめるものとする。

 第2に、原子力開発利用は、人間環境との調和をはかる立場にたってこれをすすめるべきことである。

 そもそも原子力の開発利用は、国民福祉の向上に資することを目標に行なわれるものであり、安全性の確保、環境の保全を前提として、国民全体の利益を重視するとの見地からこれをすすめるべきである。

 第3に、原子力開発利用は、総合的かつ長期的観点から、これを計画的に推進すべきことである。

 原子力開発利用の分野は広範多岐にわたっており、その開発は規模が大きく、多額の資金と多数の人材を要するのみならず、その成果が現われるには長い年月を要するものである。とくに、原子力開発利用が研究開発の進展とともに、原子力発電にみられるような本格的な実用化へと歩をすすめつつある現時点においては、長期的視点にたって整合性のある施策が講ぜられることが必要である。

 このような観点から、わが国の原子力開発利用は、長期的な方向づけを明確化するとともに、限られた資金と人材を効果的かつ効率的に活用するため、総合的な見地から計画的にすすめることが必要である。

 第4に、原子力開発利用は、関係各界が協力して広く国民経済的視野のもとに、これを推進すべきことである。

 原子力の開発利用が実用化の段階に入りつつあることから、今後における原子力開発利用を自主的かつ計画的にすすめるうえに、民間企業の果たすべき役割が一層高まりつつあることは明らかである。
 同時に、原子力開発利用は、研究開発に多額の資金と多数の人材を要すること、国際的関連性が高いこと、安全確保の必要性があることなどから、政府の果たすべき役割はもとよりきわめて大きい。また、原子力の研究開発は未知の分野が多い先駆的な科学技術に関するものであるため、今後とも学界の広い分野における研究活動の成果が大いに期待されるところである。

 原子力開発利用は長期的にはわが国産業経済全般のあり方に大きな影響を及ぼすものであり、しかも、現時点が原子力開発利用の産業化、実用化への移行段階にあることにかんがみ、今後の原子力の開発利用にあたっては、国民全体の利益を重視するとの見地にたち、関係各界は、その役割の重大性を自覚し、協力してこれを推進すべきである。

 第5に、原子力開発利用は、国際協調の精神に基づいてこれを推進すべきことである。

  今日、原子力の本格的実用化の進展に伴い、濃縮ウランの供給確保など国際場裡で解決すべき諸課題が増加しつつあり、わが国の原子力開発利用の効率的推進をはかるためには緊密な国際協力が不可欠である。同時に、わが国の国際的地位の向上に伴う国際的役割の遂行、世界の科学技術水準の向上への貢献等を考慮すると、今後わが国の原子力開発利用は国際協調の精神に基づいてこれを推進することがきわめて重要である。

 このような考え方に基づいて、原子力の研究開発および利用に関してその基本方針を示せば、次のとおりである。

 1. 研究開発の基本方針

 科学技術の偉大な成果のひとつである原子力の開発利用は、広範かつ大規模な研究開発を通じて可能となったものであり、今後原子力における研究開発を強力に推進することによって、わが国の科学技術水準の向上、産業構造の高度化等に多大の貢献を果たしうるものと期待される。

 原子力開発利用は、今日一部で急速な実用化がすすめられているが、国家的見地から遂行されている開発課題については、目標達成のため、さらに一層の努力が必要であるとともに、豊かで高度な国民生活を築きあげる新しい課題や原子力利用の著しい進展に付随して要請される諸対策について、さらに積極的な研究開発が必要である。

 このような観点から、わが国における原子力の研究開発は、国情に即した原子力利用の達成のため、長期的かつ総合的視野のもとに、基礎研究から開発研究にわたる各分野で調和をとりつつ、効率的かつ重点的にすすめることが必要であり、次の方針のもとにすすめるものとする。

 第1に、原子力の研究開発にあたっては、わが国独自の技術の自主的な研究開発を強力に推進すべきことである。この場合、国際協力による研究開発の効率性を勘案することも必要である。

  わが国の原子力開発利用は、諸外国に比し遅れて着手された事情もあって、今日まで、その技術基盤を確立するため、海外からの技術導入等によりその推進をはかってきた。しかしながら、技術導入のみに安易に頼ることは長期的にみた場合、わが国の原子力開発利用全般における自主性を損うおそれがある。このような状況に対処して、わが国独自の技術を確立し、原子力産業の自主性を確立することは、今日の緊急な課題であり、加えて、原子力開発が広い分野における科学技術水準の向上と産業基盤の強化に資し、産業構造の高度化の支柱となることを考えれば、将来の国民福祉の向上に多大な影響を及ぼす分野における中核となる技術については、とくに自主的にその開発が行なわれることが望ましい。

 他方、国際協力に伴う研究開発の効率性についても考慮する必要があり、このため自主開発と国際協力との適正な調和について不断の評価検討を加える必要がある。

 第2に、原子力の研究開発にあたっては、基礎研究の一層の充実をはかるべきことである。

 基礎研究は、一面において新しい技術開発の芽生えとなり、他面、応用研究から開発へと研究を進展させる場合、創意工夫を注ぎ込む源泉となる。とくに、今後、原子力の研究開発を自主的にすすめるにあたっては、幅広い基礎研究の一層の充実が、不可欠の要件である。

 第3に、原子力の研究開発は、総合的な観点にたって効果的、効率的にすすめるべきことである。

 原子力の開発利用は、広範多岐な分野にわたっており、その規模が大きく、成果が現われるには長い年月を要するものが多い。したがって、その計画は総合的観点にたってたてられることが必要であり、限られた資金と人体を有効に活用し、効果的な研究開発をすすめることが重要である。また、国として重要性と緊急性が高い動力炉開発等のプロジェクト研究をすすめるにあたっても、環境の保全、安全性の確保等に必要な研究を重視し、全体として均衡のとれた原子力開発利用をすすめることが必要である。さらに、研究開発をすすめていく段階にあっては、適宜、適切なる評価検討を行ない、その結果が、研究開発のあり方に反映されるよう努めるとともに、研究開発を国際的に分担することを考慮しつつ、その効率化をはかることが重要である。

 原子力の研究開発をすすめるにあたっては、長期にわたり多額の研究投資を必要とすることなどの理由から、政府の果たすべき役割はきわめて大きく、とくに、必要な資金を確保することが重要である。このため広範な原子力開発利用の各分野における多くの研究開発課題のうち、とくに重要性と緊急性が高く、国として重点的かつ組織的にすすめる必要があるものについては、ひきつづき「原子力特別研究開発計画(国のプロジェクト)」あるいは、「原子力特定総合研究」として必要な資金を投じ、明確な体制のもとに各界の協力を得て研究開発を推進していくものとするが、この際、民間企業は積極的に協力することを期待する。

 すなわち、関連する分野が広く、これらの分野を総合してすすめることにより、大きい効果が期待される研究課題、または、わが国の原子力開発利用を一段と進展せしめうる開発課題については、これを原子力特定総合研究として、政府の調整または計画のもとに関係各機関あるいは民間企業が協力し、分担を明確にしてその研究開発を推進することとする。現在、原子力特定総合研究に指定されている核融合に関する研究開発、食品照射に関する研究およびウラン濃縮に関する研究についてはひきつづきこれを推進するほか、新たに、原子力施設の安全性に関する研究、環境保全に関する研究等についても、原子力特定総合研究に指定して、研究開発をすすめることが必要である。

  また、原子力特定総合研究に比較して、さらに大規模の資金、多方面の協力および長期間の研究開発を必要とし、かつ、開発により将来図全体として多大の効果が期待される課題については、これを原子力特別研究開発計画(国のプロジェクト)として国が開発の目標および期間を明確に定め、体制を整備し、広範な分野にわたる研究開発を系統的、計画的かつ総合的に行ない、関係各機関の適切な分担と協力によって、効率的にその推進をはかることとする。現在、国のプロジェクトに指定されている高速増殖炉および新型転換炉の開発計画ならびに原子力第1船「むつ」の開発計画については、ひきつづき強力にこれを推進するものとする。

 2.利用の基本方針

 実用化の段階を迎えた原子力開発利用は、多くの分野ですでに国民生活と緊密な結びつきをもつに至っている。したがって、今後さらに発電等の動力利用や医療等への放射線利用を推進するにあたっては、その利用の展開が直接国民生活に大きな影響をもたらすものであるとの認識のもとに、国民全体の中に円滑に受け入れられるよう十分配慮することが必要である。このような観点から、次のような方針のもとに、原子力の調和ある利用をすすめるものとする。

 第1に、研究開発の成果が円滑かつ迅速に実用化されるよう、研究開発と利用の結びつきを強化する必要がある。

 多額の資金と多数の人材を要して開発した新しい技術は、すみやかにかつ円滑に経済社会に適用し、国民福祉の向上に寄与させることが重要である。とくに、新型動力炉、原子力船等国内で開発する過程において開発された技術は、長期的見地から、国家的利益を認識して、民間企業が自ら積極的にこれを利用していくことが重要である。このため人材の交流等を通じ、研究開発機関と利用者との結びつきを強化するとともに、政府も長期的な国家的利益を確保するとの見地から、国内において技術の信頼性および経済性が実証されるよう適切な措置を講ずることが必要である。

 第2に、原子力の利用をすすめるにあたっては、環境の保全に留意するとともに、安全性の確保について万全の措置を講ずる必要がある。

 原子力の利用については、従来から在来産業に比較して、安全性について特段の配慮をしてきたところであり、公害のないエネルギー源をめざして、広範な学問分野にわたる研究と地道な経験が蓄積されてきた。 しかし、原子力利用の量的拡大と多様化に伴い、今後、原子力施設の数が著しく増加する傾向にあることを考慮すると、今後一層安全性の確保、環境の保全に努めることが重要であり、安全審査等の機能を一段と充実する必要がある。

 放射線の人に与える影響については、国際放射線防護委員会(ICRP)等の場において従来から綿密に検討されているところであり、わが国としてもICRPの勧告に準拠し、放射線による被ばく量を個人および社会的に容認できると思われるレベルにまで制限しているが、放射線防護に関しては、一層万全を期する必要があるので、放射性物質を止むを得ず環境に放出する場合には、上記のレベル以下に制限することはもちろん、実行可能な限りこれを低減させなければならない。

 また、放射線障害をおこすような事故が発生しないよう、これまで万全の措置がとられてきているが、今後万一このような事故が発生しても、これに対処し得るような対策を講ずることが重要である。

 第3に、原子力の利用は、国民の理解と協力のもとに、これを推進することが肝要である。

 原子力開発利用の進展に伴い、今後、ますます原子力は国民生活に身近かな存在となる。このような状況において、今後さらに、原子力開発利用をすすめるにあたっては、国民の理解と協力のもとに、これをすすめることが肝要である。

 とくに、今後急増する原子力施設の立地にあたっては、政府は住民の立場にたって、安全性の確保、環境の保全について万全を期することが必要である。この前提にたって、官民がそれぞれの役割に応じて、原子力発電の必要性、安全性等について、正確な知識を広めるための努力をはらうことが必要である。一方、原子力施設設置者はもとより、地方公共団体および政府は、これに協力して、地元住民の福祉向上、地域社会の発展に貢献する方向で適切な措置を講ずることが肝要である。

 このようにしてはじめて、広く国民が原子力開発利用に伴う利益を享受することが可能となるといえよう。


第2章 原子力開発利用のすすめ方

 1.原子力発電および動力炉開発

 わが国の総エネルギー需要は、経済の発展とともに増加し、とくに電力需要の占める割合は、国民生活水準の向上、産業構造の高度化とともに順調な増加を続けると予想される。電力需要のこのような増加に対して、安定、低廉かつきれいなエネルギーを供給することは、国民生活の健全な発展を促進するうえで、きわめて重要なことである。

 在来化石燃料による発電は、ここ当分の間、電力生産の主体となるものと考えられるが、その量的拡大に伴い、輸送、備蓄、環境保全等に深刻な諸問題をひき起すことが考えられ、将来の安定した電力供給を確保するためには、適当な代替エネルギーの導入を促進する必要がきわめて大きくなっている。一方、すでにわが国でも実用化がすすめられている原子力発電は、その燃料の輸送、備蓄が容易であり、準国産エネルギー供給源と考えられ、また適切な管理により環境への影響を著しく軽減できるなど、安定で、きれいなエネルギー供給源として期待されるところが大きい。このような、エネルギー供給の動向のもとに、わが国においては、発電に必要とされるエネルギーの供給源として、原子力を導入することが強く要請されており、国のエネルギー政策の一環として、原子力発電の開発利用に努めることが必要となっている。

 原子力発電の経済性については、当面主流となる軽水炉による発電価格が、現在では、石油火力発電より劣っているが、長期的にみると、軽水炉は技術開発による経済性向上の余地が一段と大きく、今後、次第にその差は縮小し、おそくとも昭和50年代の後半には、石油火力発電と経済性において十分競合しうるようになるものと考えられる。このような経済性の見とおしと、前述のような原子力発電の社会的経済的効果を考えると、原子力発電の開発規模は急速に増加し、昭和50年代前半から、新規電源開発量のなかに占める原子力発電の割合が、火力発電をしのぐものと予想され、この時期を境に、全発電量に占める原子力発電のウエイトが急速に増大するものと考えられる。

 今後、国民の生活水準の向上に伴い、ますます増大する電力需要に対処するため、原子力発電に対する期待はきわめて大きく、昭和60年度には6,000万KW程度、昭和65年度には1億KW程度を原子力発電でまかなうことが要請されている。

 このような要請に対応して、原子力発電の開発をすすめるにあたっては、安全性の確保、環境の保全はもとより、立地地点の確保、核燃料の安全供給と有効利用、放射性廃棄物の処理処分等に積極的に対処するとともに、新型転換炉、高速増殖炉の精力的開発に努めるなど、調和のとれた原子力発電を推進しなければならない。

 このような観点にたって、原子力発電をめぐる諸般の情勢を考慮すると、現時点においては、昭和55年度における原子力発電の開発規模を約3,200万KWと見込むことは妥当であると考える。

 わが国の原子力発電は、ここ当分の間は、軽水炉が主流を占めると考えられるが、これ以外の炉型についても、今後十分な実証性が得られ次第、それぞれの特色に応じて、わが国においても実用化されることが期待される。

 原子力発電所の建設に際しては、関連機器の需要の増大に対処し、生産設備の拡充をすすめるなど、機器国産化の体制を整備することが重要である。同時に、高度の技術を備えた多数の発電所技術要員の確保、ぼう大な所要資金の確保等についても、適切な措置を講ずることが重要である。

 原子力発電の立地については、安全性の確保、環境の保全を前提に地域住民の理解と協力のもとに、その確保をすすめなければならない。とくに、原子力発電所周辺環境の保全をはかるため、環境への放射性物質の放出は基準レベル以下に制限することはもちろん、実行可能なかぎり低くするという姿勢を堅持し、温排水の影響についても、さらに、総合的に調査研究をすすめる必要がある。

 このような環境安全対策に加えて、原子力発電施設の設置者が、地域住民の福祉と地域社会の発展に真献する姿勢を示すとともに、地方公共団体および政府もこれに協力して、原子力施設の立地確保に資するため積極的に所要の施策を講ずることが必要である。

 さらに長期的展望にたって、今後の大規模な原子力発電の立地を円滑にすすめるため、政府は、原子力発電立地の将来構想を検討し、電気事業者、地元代表等の協力を得て、地域社会との調和ある発展をはかることが必要である。

 このほか、将来の適地を拡大するため軟弱地盤への立地、地下立地、島立地等の関連技術について研究開発を積極的に推進することも必要である。

 原子力発電を推進するにあたっては、当面、在来型炉の建設に主体がおかれるが今後予想される原子力発電規模の増大に対応して、ますます重要となる核燃料の安定供給と有効利用の課題を根本的に解決していくためには、適切な新型動力炉を開発し、原子力発電の有利性を高度に発揮することが不可欠である。しかも、新型動力炉の自主的開発は、産業構造の高度化と科学技術水準の向上に大きな効果が期待され、わが国の原子力開発利用に関する自主性の確保の支柱となるものである。

 このような観点から、現在わが国において開発をすすめている新型転換炉および高速増殖炉は、それぞれ昭和50年代および昭和60年代を目標に実用化をはかることが必要である。

 わが国で開発する新型転換炉は、重水減速沸騰軽水冷却炉であり、中性子経済が優れているため、軽水炉に比して、ウラン所要量、とくに、濃縮ウラン所要量を大幅に低減することが可能であり、発電原価においても、同等ないしそれ以下になしうると考えられている。

 昭和50年度頃の臨界を目標として開発をすすめている目標最大出力20万KWの原型炉の完成と「新型転換炉評価検討委員会報告書」(昭和44年10月13日)の指摘にかかる、大型化のための研究開発の実施とあいまって、技術的には安定した運転の可能性が得られ、経済的には、将来大型化による他の炉型のと競合性について見とおしが得られる。

 原型炉にひきつづく実用炉の建設を、円滑に実現するための方策については、所要の時期までに検討することとする。

 このようにして電力系統に導入される新型転換炉の全原子力発電設備に占める割合は、昭和65年度にはかなりの部分に達するものと期待される。その後、高速増殖炉の実用化された場合には、新型転換炉は高速増殖炉への燃料として必要なプルトニウムを供給する役割を果たすことも期待され、長期間高速増殖炉と並存するものと見込まれる。

 高速増殖炉は、消費した以上の核燃料を生成する画期的なものであり、ウランのもつエネルギーの最高限度の利用を可能とするものであり、これにより、濃縮ウランの必要量を減少できる。また、将来、きれいなエネルギー供給源として、原子力発電の主流となるべきものであり、わが国においては、昭和60年代に実用化を達成することを目標とする。その開発にあたっては、現在、世界的にもっとも有望な炉型とみられている。プルトニウムとウランの混合酸化物系燃料を用いるナトリウム冷却型炉を対象として、目標熱出力10万KWの実験炉を、昭和49年度に臨界に至らしめることとし、また電気出力30万KW程度の原型炉を、昭和53年度頃に臨界に至らしめることを目途とする、高速増殖炉の実用化については、原型炉の建設、運転の成果に基づき、今後、さらに検討するが諸外国における開発の例等から判断すると、実証炉を建設するなど、積極的に実用化の方策を講ずることについても、考慮する必要があろう。

 なお、より長期的に、高速増殖炉の高性能化をはかるため、ガス冷却型高速増殖炉、炭化物燃料等に関する基礎研究および高速増殖炉用燃料の再処理技術に関する研究開発を現在の高速増殖炉開発計画と並行してすすめる必要がある。

 2.核 燃 料

 原子力発電を将来の安定したエネルギー供給源とし、前述の原子力発電開発規模を達成するためには、必要となるぼう大な核燃料を安定的に確保し、その有効利用をはかることがきわめて重要である。このため、ウラン資源および濃縮ウランの確保、核燃料の加工、使用済燃料の再処理等について、積極的な施策を講じ、経済的で、かつ、わが国の自主性を確保できるような核燃料サイクルの確立に努める必要がある。核燃料サイクルの各要素の確立については、原則的には民間企業が主体となることを期待するが、原子力が、将来のエネルギー供給を担う国家的課題であることから、政府も適切な措置を講ずることが重要である。

 原子力発電の今後の見とおしに基づくウラン所要量は、昭和55年度には年間約8,000ショート、トン、昭和65年度には年間約15,000ショート、トンに達するものと予想される。ウラン資源に乏しいわが国は、そのほとんどすべてを海外に求めざるを得ないので、電気事業者が海外ウランを短期および長期の購入契約により、ひきつづき自主的に確保することを期待するが、長期的には、開発輸入の比率を高め、年間所要量の3分の1程度を開発輸入により確保することを目標として、海外において探鉱開発を強力に行なう必要がある。このため、政府は、動力炉・核燃料開発事業団による調査活動を強化拡充するとともに、民間企業の探鉱活動に対して、成功払い融資、開発資金に係る融資等の助成措置を講ずるほか、新たな探鉱開発が積極的に行なわれるための施策についても検討することが必要である。

 濃縮ウランについては、分離作業量にして昭和55年度には年間約5,000トン、昭和65年度には年間約11,000トンが必要になるものと思われる。一方現在自由世界で濃縮ウランを商業ベースで供給している米国の供給能力は、昭和55年度頃に限界に達するものと見られている。

 このため、昭和55年度頃までに運転を開始するわが国の原子力発電所に必要な濃縮ウランについては、米国からの供給確保に努力することとし、それ以降必要とされる濃縮ウランを確保するためには、国際共同濃縮事業への参加を考慮しつつ、1980年代に一部濃縮ウランを国産化しうることを目途に、所要の研究開発を推進していくこととする。

 核燃料の加工については、国内加工産業が徐々に国産化の体制を固めつつあるが、その基盤はなお弱体であり、今後技術開発を積極的にすすめるなど、産業基盤の強化をはかることが必要である。

 使用済燃料の再処理については、動力炉・核燃料開発事業団において、昭和49年度操業開始を目途に再処理施設の建設をすすめるものとし、これに続く再処理施設は、使用済燃料の再処理は国内で実施するとの原則のもとに、民間企業においてその建設、運転を行なうことを期待する。しかし、その建設には困難な問題が少なくないと思われるので、政府は立地政策、長期低利融資等必要な措置を講ずるとともに、環境に放出される放射性排出物をできる限り少なくするため必要な研究開発を強力に推進するものとする。

 使用済燃料の輸送サービスについては民間企業において行なうこととするが、その事業の健全な発展をはかるため必要に応じ適切な方策を講ずるとともに、輸出容器に関する技術基準等の安全輸送のための関係法令の整備をはかることとする。

 プルトニウムについては、高速増殖炉への利用が最も有効であるが、高速増殖炉の実用化までの間、急増するプルトニウムの備蓄に要する経費等を考慮すると、当分の間は、軽水炉燃料として役立て、これによりウランおよび濃縮ウランの所要量軽減をはかることが望ましい。政府は、民間企業が行なうプルトニウムに関する技術開発について、動力炉・核燃料開発事業団および日本原子力研究所の諸施設および技術的経験の活用ができるよう適切な施策を講ずる必要がある。

 3.環境・安全対策

 原子力開発利用は、放射能を安全に管理することによって、はじめてその正しい発展が期待されるものである。このような意味を持つ安全性の確保について、わが国は、これまで国際的な基準に基づく、厳重な規制と管理を実施するなど、他の産業にみられないような注意深い配慮のもとに、その対策に万全を期してきたところである。

 しかし、原子力発電をはじめとする大規模な原子力開発利用がすすめられれば、大量の放射性廃棄物が発生する見とおしであり、これに伴い、環境へ放出される放射性物質の量が増大することも予想される。また、多面的な放射線利用の普及によっても、国民および従業員が放射線被ばくを受ける機会が多くなることも考えられる。

 このような事情に対応して、今後、大規模な原子力開発利用をすすめるにあたって、これまでの原子力開発利用における高い安全確保の実績を、ひきつづき維持するためには、さらに一段と安全性の確保と環境の保全とに万全の配慮をはらわなければならない。このため、原子力施設の立地、施設と設備の安全確保ならびに放射線管理等の面において適切な措置を講ずるとともに、原子力施設の安全性、放射線管理等の面における研究開発をはじめ環境放射線とその影響、放射性廃棄物の処理処分等に関する調査研究を推進し、得られた成果を管理と規制の中に迅速に活用していくことが肝要である。

 このような観点から、安全性の確保、環境の保全をはかるためには、原子力開発利用にたずさわる民間企業が、自らこれらの問題に対して十分な責任を果たすべきことはもとよりであるが、政府においても、今後とも、国民の安全を保証する立場から、厳密な規制を行なうものとする。このようにして、はじめて、原子力開発利用の健全な発展と、それによる国民福祉の向上が期待されるものである。

(1)安全性の確保
 原子力施設における安全確保に万全を期するためには、常に最新の技術資料に基づいた適確な安全審査を行なうなどにより、事故を起さないよう配慮することが必要である。原子力施設の急増に対処して、安全審査を強化充実させることが重要であり、今後、審査機能の充実、審査に必要な安全評価のための研究のすすめ方等について検討を行なうこととする。

 原子力施設の安全性を確保するためには、安全審査の充実とならんで、施設の運転、保守における安全管理体制の強化、施設設備の改善、従事者の安全意識の向上等もまた、重要な要素である。このためには施設設置者自らの自覚が肝要であるが、政府においても、保安規程の整備を行なうなど所要の方策を講ずることが必要である。

 安全基準の整備については、今後新型動力炉の開発等に伴って生ずる新しい事態に即応して、現行の立地審査指針、設計審査指針等を見直していく必要がある。また、再処理施設、プルトニウム取扱施設等の安全審査指針、輸送容器の設計基準、原子力施設の運転時における放射線安全上の指針等の整備をはかる必要がある。

 その他、原子力施設の多様化、延べ運転時間の増加に伴って運転経験の蓄積を安全操業に反映させるとともに、原子力施設に関する主要な事故・故障・異常現象等についての情報の収集、分析等を行なう体制の整備について検討をすすめ、安全性の確保に万全を期することとする。

 同時に、原子力施設の安全性を確保するためには常に広範囲にわたる研究開発を行ない、その成果を効果的に適用していくことが肝要である。

 放射線防護については、従来から原子力関係法令に基づき、十分な放射線管理が行なわれているが、さらに万全の対策を立てることが必要である。とくに放射線防護に関する管理体制については、放射線作業従事者の数が増加の一途をたどりつつある現状にかんがみ、長期的にみた被ばく線量管理のため、個人被ばく線量を一元的な基準のもとに登録管理する体制を確立することとする。これにより、職業上の全被ばく線量の把握を容易にし、施設の管理体制の改善等へのフィード・バック、放射線作業従事者の健康管理、職業被ばくの国民線量への寄与の推定等に役立てることとする。

 また、放射線作業従事者に対して、今後、技術進歩におくれをとることなく最新の知識を提供するため、放射線の安全取扱いに関して、重点的に再教育を行なうことも重要である。

 原子力開発利用の実用化の進展に伴い、今後ますます放射線の取扱いは一般化していくものと考えられる。そのため放射線被ばくに対する治療法、放射線の安全取扱法等に関する研究開発をすすめることとする。

 原子力の安全性に関する研究開発については、総合的かつ計画的にすすめる必要があり、当面の各種対策とならんで、今後研究課題の重要度の評価、研究計画の立案、成果の評価等について、検討をすすめるものとする。

(2)環境保全
 原子力に関する環境問題としては、将来は主として核爆発に由来する放射性降下物の影響が注目されていたが、近年、著しく進展しつつある原子力施設の大規模化、多様化に伴って、原子力施設周辺の放射能と温排水の影響が問題となってきている。

 環境放射能の問題に対しては、わが国は、従来国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に準拠してきたが、今後とも、ICRP勧告等国際的な基準値のみならず、その背後にある考え方をも尊重して、一個人および集団としての国民の被ばくがICRPの示す線量限度を下まわることはもちろん、実行可能な限り低くするとの方針をとることとする。

 このような基本的な方針に基づいて、原子力施設から発生する放射性廃棄物については、可能な限り厳重にかつ長期間封じこめて人間の管理下におくものとするが、やむを得ず気体、液体状で環境に放出する場合は、環境への放出量を実行可能な限り少なくすることが厳格に実行されなければならない。この場合原子力開発利用の実用化の進展に伴い、これまでの濃度規制のみならず、絶対量の規制を検討することも必要である。また、放射線が環響を及ぼさないよう今後一層原子力施設の安全性の確保と放射線管理の充実をはかることはもとより、環境放射能監視機能の充実等により、公衆が接する環境の放射能レベルを常に把握し、さらに、環境に放射出された放射性物質が人間にとり込まれるまでの挙動の解明、放射線の生物学的影響、放射性物質による人体被ばくの低減対策等に関する調査研究を強力に推進することとする。

 温排水の影響の問題については、火力発電と共通する問題であるが、原子力発電では使用する冷却水量が多く、施設が集中する場合には、沿岸漁業が盛んなわが国の現状を考慮すると、より影響が大きいと考えられるので、温排水の放出により生ずる周辺環境への影響のみならず、地域の漁業者や住民に及ぼす社会的、経済的影響をも考慮して対策を講ずる必要がある。しかし、温排水に関する知見は十分でないので、これに関する調査研究を積極的にすすめる必要がある。そのため、原子力発電所設置予定周辺海域における環境、とくに生態系について事前に十分な調査研究をすすめる一方、すでに原子力発電所が設置されている場合には、温排水の放出による生態系の変化とその程度を把握することに努め、今後の原子力発電所の規模増大に伴う温排水の放出による影響を的確に判断し、適切な措置を講ずることが必要である。

 また、これらの調査研究に基づき原子力施設の立地を考える場合には、魚類の再生産や漁場の形成に悪影響を及ぼさないよう、十分なる配慮が施されなければならない。

 原子力をめぐる環境の問題は、研究面においても行政面においてもその関連する機関が多いので、以上のような方針のもとに、自然景観の保護を含め総合的に環境の保全をはかるため、原子力施設における環境保全の指針、環境放射能の監視体制、環境保全に必要な調査研究のすすめ方等について、今後具体的に検討していくものとする。

(3)放射性廃棄物の処理処分
 原子力施設から発生する放射性廃棄物のうち、極低いレベルの気体、液体状の放射性廃棄物は、前述のごとく安全を十分確保しつつ、環境へ放出するが、その他の放射性廃棄物については、以下の方針に基づいて処理処分をすすめることとする。

 原子力発電所等で発生する廃液を濃縮したものなど、低いレベルの放射性廃棄物については、これを固形化し、その種類、性状、発生量、今後の処理処分技術の研究開発、その他社会的および国際的動向を考慮して、陸地処分、海洋処分を組合せて実施する方針でのぞむものとする。とくに、海洋処分については、処分キュリー数を制限するならば、海洋処分を安全に行なう方法を立案することは可能であると思われるので、その安全性を保証し得る処分量に限定し、これを満たす規模と内容の海洋調査を事前に行なう。一方、種々の被処分体サンプルを用意して総合的な安全評価を行ない、試験的海洋処分を実施し、投棄後の被処分体の追跡および海洋調査を行なう。これらによって得られる知見およびその時までの深海に関する最新の知見に基づいて、昭和50年代初め頃までに海洋処分の見とおしを得ることとする。

 また、陸地処分についても無人ないし人口希薄な場所について、水理地質および土木地質の観点を含む地質学的条件等の調査を実施し、処分に関する技術的内容も含めて、昭和50年代初め頃までにその見とおしを明確にするものとする。

 原子力施設で発生するイオン交換樹脂等中程度のレベルの放射性廃棄物については、技術開発の進展を考慮しつつ、昭和50年代半ば頃までにその処分の方針を決定するものとし、それまでは当該施設内に保管するものとする。

 使用済燃料再処理施設等で発生する高いレベルの放射性廃棄物については、当面慎重な配慮のもとに保管しておくものとする。

 放射性廃棄物の処分を行なうに必要な研究開発をすすめるにあたっては、安全性の確保と環境の保全を第1とし、次いで、その処理処分の経済性の向上をあわせはかるとの姿勢でのぞむこととする。これら研究開発は緊急を要するものであるので、目標年次に合わせつつ、政府および民間の関連機関が協力して、強力にすすめるものとし、さらに、これと並行して、放射性廃棄物の有効利用も、当該問題の解決上重要であると考えられるので、これに関する調査研究の実施を積極的にすすめるものとする。

 4.原子力船

 世界経済の発展に伴って、国際貿易量は大幅に増加し、大量かつ低廉な高速輸送に対する社会的、経済的要請はますます大きくなりつつある。これに対処して国際海運界においては、商船の高速化、船腹量の拡大がはかられているが、とくに顕著なのはタンカーの大型化、コンテナー船の高速化の傾向である。

 この傾向にこたえる高出力推進機関として、原子力推進機関に対する期待はきわめて大きいものがあり、わが国でも昭和50年代には原子力船が実用化するという見方が一部にみられるが、商船として原子力船を実用化するためには、原子力船が在来船と経済的に競合でき、かつ安全性、信頼性が十分に確保されていなければならない。現在までに建造された世界の原子力船は3隻であるが、これらは、現在わが国で建造中の原子力第1船「むつ」を含めて、いずれも実験船的色彩が強く、在来船と経済的に競合できるものはない。原子力船の安全性、信頼性については、これら実験船の運航によりすでに実証されており、原子力船の実用化の見とおしは、経済性のある進歩した舶用炉の開発に左右されるといえよう。このような状況から、原子力船の実用化を推進するためには、さらに舶用炉についての広範な調査研究を行なう必要がある。そこで当面は、コンテナー船の高速化など内外海運界の動向をみきわめつつ、一体型加圧水炉を対象とした舶用炉に関する研究開発を国際協力をも考慮しながら積極的かつ効率的に実施し、舶用炉の安全性、信頼性のより一層の向上に配意しつつ、技術的、経済的見とおしを得るよう努める必要がある。

 実用船としての原子力第2船以降の建造については、舶用炉の研究開発の成果と原子力第1船「むつ」の成果が得られた段階で、各国における舶用炉開発の進捗状況、コンテナー船の高速化など内外海運界の動向および現在民間ですすめられている日独原子力船共同評価研究等を勘案して、民間企業が自主的にすすめることが期待される。この場合、政府としても、原子力船の円滑な実用化がすすめられるよう適切な措置を検討する必要がある。

 また、原子力船を実用化するためには、安全性を確保しつつ、円滑な運航ができるよう措置することがきわめて重要である。このため、当面は、将来の原子力商船の円滑な運航に必要な施策に資することを考慮して、原子力第1船の実験航海等において、出入港、運航等に関する十分な経験を取得するよう努めることが望ましい。他方、国際的には、原子力船に関する国際的動向を勘案しつつ2国間協定の締結を行なうなどの措置を講ずる必要がある。

 現在建造中の原子力第1船「むつ」については、建造、運航の経験を得ることを主目的として、昭和47年度末までに完成することとする。実験航海や総合的評価とりまとめ後の昭和51年度以降における、原子力第1船の保有形態、運航方針および定係港の管理については、実験航海によって各種のデータが得られるほか、その間原子力船実用化の見とおしがより明確になると思われるので、これらの状況を勘案して早急に定めるものとする。

 5.原子炉多目的利用

 原子炉の熱を発電のみならず、製鉄、化学工業、海水脱塩、地域暖房等に用いるいわゆる原子炉の多目的利用は、化石燃料にかわる豊富かつ安定した原子エネルギーの広範にわたる分野への効率的利用を可能にすることにより、わが国のエネルギー供給の安定化に多大な寄与を果たすとともに、現在エネルギー多消費産業等において問題となっている環境汚染問題の軽減を通じて、国民福祉の向上に大きく貢献していくものと期待されている。

 このような原子炉の多目的利用の実現にあたっては、在来炉による利用の推進をはかるとともに、さらに広範な産業分野への原子炉熱の利用を可能ならしめる高温ガス炉およびその利用技術の開発を、政府および民間相互の密接な協力のもとに、総合的、計画的に推進することが必要である。

 原子炉多目的利用のうち、在来炉による比較的低い温度の多目的利用技術の開発は、具体的に熱併給発電システムを計画する民間企業あるいは地域社会等が、適宜、政府関係機関等の協力のもとに開発をすすめることを期待するが、安全性、原子炉立地基準等については、政府が中心となって調査研究をすすめることが必要である。

 多目的高温ガス炉については、これが原子炉の核熱エネルギーの広範な産業への利用を可能ならしめる反面、将来の産業構造の見とおし、海外における技術の進展状況、多目的利用技術の動向等、なお、検討を要する点が多い。

 しかしながら、エネルギー政策的観点から見て、将来、一次冷却機炉心出口温度1,000℃程度の多目的高温ガス炉の必要性が考えられるので、それに備えて当面はひきつづき燃料、材料等に関する研究をすすめることとする。この場合、研究開発の効率的推進のため長期的な研究開発計画を検討しておく必要がある。

 このようにして、基礎的研究から積み上げた技術的成果と産業構造上からの経済的要請および海外における高温ガス炉技術の進展状況等をも充分考慮しつつ、実験炉の建設問題を検討するものとする。

 6.核 融 合

 核融合は、きれいなエネルギーを半永久的に安定して供給することができ、しかも安全性がきわめて高いことなどから、人類の末来を担う究極のエネルギー源としてその実現に大きな期待がもたれている。

 現在、世界的には、昭和50年代前半に臨界炉心プラズマ達成の見とおしがあるとされており、核融合動力炉を明確な目標として動力炉プラントの総合開発へと研究開発が拡大移行しつつある状況である。わが国においても、世界の開発進歩の一翼を担うまでに研究開発がすすんでおり、今後の研究開発の成果に期待が寄せられている。

 このような情勢にかんがみ、わが国としては、世界的に有望視されているトカマク型トーラス系装置の研究開発に当面の重点をおき、昭和60年代に核融合動力実験炉を建設することをめざして研究開発をすすめるものとする。そのため、従来のプラズマ物理中心の研究から、今後は、それを含めた総合的、工学的研究に拡大移行することが必要であり、核融合炉心工学技術および核融合炉プラント工学技術の開発を行なうものとする。

 炉心工学技術の開発については、最近完成したJFT-2装置等による試験研究等を通じて、昭和40年代末までに臨界炉心プラズマの開発に必要な知見の収集に多大の成果が得られると期待されるので、昭和50年代に臨界炉心プラズマ試験装置を建設することを目途とする。そのため、当面、プラズマ加熱、高磁界発生、動的制御、真空技術等の研究開発を強力にすすめることが必要である。また、臨界炉心プラズマ試験装置の開発との緊密な連けいのもとに、計画的に動力実験炉の炉心の開発をめざして、実用規模の大容積炉心プラズマの発生および制御技術の開発を行なうものとする。

 一方、炉プラント工学技術の開発については、従来の核分裂炉による経験が相当役に立つと考えられ、炉心工学技術の開発と並行して早急にすすめる必要があり、炉工学、材料、熱伝達等の技術開発をすすめ、各コンポーネント機器の開発を行なうものとする。

 7.放射線利用

 放射線は早くから医療に利用されていたのみならず、物理学、化学、生物学等各分野における研究手段として利用されてきたが、最近では放射線化学、プロセス制御、がんの診療、品種の改良等実用面における利用も進展し、今後、さらに産業と国民生活の広範な分野にわたって、重要な役割を果たすものと期待されている。このように、放射線利用の実用化の進展に伴い、今後、一層その普及をはかるにあたっては放射性アイソトープ線源の確保、放射線機器の開発とその規格化、標準化等が重要であるほか、放射線の安全管理および取扱い上の安全確保に特段の配慮が必要である。

 アイソトープの供給については、短寿命アイソトープや特殊アイソトープは、日本原子力研究所および国内関係機関で国産化に努力するが、広く一般に普及しているものについては、経済ベースで供給が確保されることを期待する。さらに長期的には、民間企業によって、商業ベースでのアイソトープの生産供給体制が確立される方向で、すすめられることを期待する。

 線源確保に関する研究開発については、原子炉による生産のための研究をひきつづきすすめるとともに、加速器による短寿命アイソトープの生産に関する研究開発をすすめる。使用済燃料の再処理に伴う放射性廃棄物よりの有用核分裂生成物、超ウラン元素等の分離技術およびそれらの利用についての研究開発は日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団を中心にすすめるものとする。

 放射線機器については、小型軽量、高性能、高信頼度、廉価であることが強く要請されており、今後大線量測定機器やモニタリング機器の開発をすすめるとともに、機器の規格化、標準化をすすめ、検定を実施する必要がある。

 放射線の各種利用については、今日までに多くの分野で実用化の段階に達しており、今後、官民が協力して、円滑な実用化、利用の普及に努めることが重要である。とくに、放射線化学、食品照射等については、これまでの研究成果のうえにたって、早急に実用化の促進がはかられるよう適切な施策を講ずることが必要である。

 放射線利用については、今後、より一層利用の多様化、高度化が期待できる分野であるので、ひきつづき各分野で研究開発をすすめることが必要であり、たとえば、各種疾患の診療法の確立や環境問題に関する研究、食品照射等国民生活の向上に資するような分野の研究を重点的にすすめる必要がある。これらの研究開発の推進にあたっては、政府関係研究機関が中心となって、大学および民間企業の協力のもとに推進することが必要であり、とくに、環境問題、がんの治療等への放射線の応用研究のように関連分野の広い研究課題については、各機関の内容に応じた研究分担等により総合的な研究をすすめることとする。


第3章 関連重要施策

 1.基礎研究の充実

 基礎研究はあらゆる研究開発活動の基盤となるものであり、原子力の各分野における自主的な技術の開発を、強力に推進するためには、目的指向的な研究とともに、自主性を尊重した、幅広い基礎研究の強化をはかることが必要である。

 現在、原子力開発利用は、実用化の段階に達しつつあるとはいえ、新しい動力炉、原子炉多目的利用核融合等に関しては、基礎から開発へ至る広範な研究を必要とし、また、開発に伴う環境安全対策を確立するうえにおいても、基礎研究の重要性はきわめて大きい。

 これまで、大学、日本原子力研究所、放射線医学総合研究所等は、これら原子力開発利用における基礎研究の推進に主要な役割を果たしてきており、今後も一層その重要性を増すものと考えられる。今後、核融合、環境安全対策等に必要な基礎研究等を政府関係研究機関が中心となってすすめるにあたっては、国際交流の推進はもとより、大学等からの広範な分野にわたる協力が必要である。したがって、基礎研究を円滑かつ効率的にすすめるため、日本学術会議等との密接な連絡のもとに研究環境を整備し、客員研究員制度、流動研究員制度等の充実をはかり、共同研究、人材交流を積極的に推進することが必要である。また、大学、日本原子力研究所等における大型共同利用研究施設の整備充実をはかるなど、適切な措置を講ずる必要がある。

 一般に、このような基礎研究における努力の成果は、可能な限り、速やかに実用化に結びつけることが重要であり、そのためには、科学技術情報の流通処理の合理化、大学、政府関係研究機関、民間企業等の間の人材の交流等の促進により、基礎研究成果を広く応用開発部門へ正確かつ迅速に伝え、わが国の自主的な原子力開発を強力に推進することが必要である。

 2.科学技術者の養成

 わが国の原子力開発利用を先進国に伍して自主的にすすめるためには、それぞれの分野において優れた科学技術者を数多く確保することがきわめて重要な課題である。

 現在、大学や原子力関係税関の養成訓練於設において人材養成をすすめているが、今後、原子力開発利用の一層の進展に伴い、研究開発面においても利用の促進面においても、人材の量的確保とともに、多種多様の専門家の確保、専門家の質の向上等が重要となってきている。とくに、原子力発電の本格的実用化、新型動力炉開発の本格化等に対処し、原子力専門課程を専攻した科学技術者のほか、機械、電気、土木等の一般工学部門を専攻した科学技術者の需要はますます増大している。原子力開発利用の急速な進展に伴い、安全性の確保、環境の保全をはかることは、一層重要性を増しており、この面における調査研究をすすめるために必要な生態学等を含めた幅広い学科を専攻した科学技術者の必要性も高まっている。今後は、核融合研究の進展に伴って、新たに核融合専門科学技術者が必要となるとともに、研究開発の大型化に伴って、適切なプロジェクト管理能力を有するプロジェクト管理者の養成も必要である。

 このような需要に対処して、人材養成に最も重要な役割を果たす大学においては、現在ある原子力関係および関連する講座、学科および大学院等の一層の充実がはかられることを期待する。一方、日本原子力研究所、放射線医学総合研究所等においても、各機関の特徴を生かし、大学卒業後の再教育、あるいは高度の養成訓練を行なうことを目標に教科課程の拡充と施設の充実をはかり、組織的体系的な養成訓練を行なうこととする。

 また、国内、国外との人材および情報の交流を相互主義的に積極的に行なうなど、多数の優れた人材が原子力開発利用の各分野において活躍しうる環境を整備することも必要である。

 3.科学技術情報の交流

 内外の原子力関係科学技術情報の迅速かつ合理的な収集、処理を行なうことは、わが国の原子力開発利用の発展をはかるうえできわめて重要である。

 このため、わが国においては必要により2国間協力をすすめつつ、国際原子力情報システム(INIS)の活動に積極的に協力するとともに、国内情報流通サービスを充実すべく、関係各機関による有機的な情報流通処理体制を整備拡充していく必要がある。とくに、日本原子力研究所は、INISに対する日本側担当機関であるので、わが国における原子力情報センターとして、国内の原子力に関する科学技術情報の一元的な流通処理を可能とするよう、その充実をはかることとする。

 また、INISの情報検索サービスを実現できるよう、日本原子力研究所を中心とする国内の情報流通処理体制の整備をすすめることとし、そのための研究開発、人材の養成を行なうこととする。

 なお、核データ、計算コード等の専門情報の交流についても、海外諸機関との協力を深めつつ、日本原子力研究所等の機能を強化充実することが必要である。

 4.国際協力

 原子力開発利用は、国際的関連性がきわめて強く、わが国は研究開発の当初から、国際協力には特段の努力をはらってきたところである。今日、原子力の本格的実用期を迎え、ウラン資源の確保、濃縮ウランの入手、その他、国際場裡で解決すべき諸問題はますます増加しつつあり、わが国の原子力開発利用の効果的推進をはかるためには、密接な国際協力が不可欠である。

 研究開発の基礎的段階にあっては、国際協力も比較的容易であるが、すでに原子力が産業として成長した今日、各種の利害が錯綜する国際場裡において、わが国の自主性をできるだけ確保しつつ国際協力をすすめることは決して容易なことではないので、政府と民間が密接な協力のもとにこれをすすめなければならない。とくに、原子力における国際協力は、政府ベースの国際約束が協力の大前提となる場合がきわめて多く、2国間または多国間の協定の締結、国際機関の活用等の方法により積極的な協力の促進が必要となっている。

 このような情勢にかんがみ、放射性廃棄物の処分、環境問題、保障措置等については、国際原子力機関における活動を重視するとともに、欧州原子力機関への参加により、先進諸国間における国際協力を積極的に行なうこととする。また、ウラン濃縮国際共同事業については、これに、適切な対処ができるよう、多数国会議への参加、海外調査の強化など必要な措置を講ずるものとする。

 一方、ウラン資源の確保、安全性をはじめとする各種研究協力、原子力情報交流、科学技術者の交流等については、2国間協力の果たす役割の大きいことを考慮して、今後とも2国間における積極的な協力の促進をはかることとする。このほか、基礎的研究面における国際協力を強化するとともに、開発途上国への技術援助をすすめることとする。なお、国際協力の進展に対処して、国際場裡で活躍する人材が多数必要となるので、必要な人材の養成を長期的観点にたってすすめるなど、国際協力基盤の強化をはかることが重要である。

 5.保障措置

 わが国は原子力開発利用を平和の目的に徹してすすめているところであるが、原子力開発利用に必要な核物質等を外国から入手するにあたって、これらの核物質を軍事目的に転用しないよう適切な措置を講ずることが必要であり、そのため国際的には、国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受け入れることを約束している。

 最近における核物質の量および原子力施設の増加は著しく、これに従い、核物質管理および保障措置に関する業務は著しく増加しており、その効率化が強く要請されている。

 このような情勢にかんがみ、わが国は、核物質の効果的かつ合理的な管理体制を確立し、国際的信頼性を高め、IAEAの保障措置がこれを検証する方向で適用されるよう努めるとともに、技術開発の推進およびIAEA等との国際協力の実施を積極的にすすめることとする。この場合、保障措置適用によっていたずらに商業機密が漏洩するようなことがあっては、研究開発意欲の減退をもたらし国益を損なうことになるので、合理化、簡素化等によってこの問題に適切に対処する必要がある。

 保障措置技術の開発については、わが国の核燃料サイクルの特徴等を考慮しつつ、重点的に必要な課題について研究開発を行なうこととし、さらにわが国において開発されたシステムおよび機器については、諸外国に積極的に情報を提供し、相互理解を深め、国際的な保障措置制度の改善に努めるものとする。

 6.原子力知識の普及啓発

 原子力開発利用を円滑に推進するためには、国民一般の理解と協力を得ることが重要である。このためには、原子力に関する正確な情報を、迅速に広く一般に提供し、国民がわが国の原子力開発の必要性実態等についてまず正しい理解を得るように努めなければならない。

 このため、政府は、各種広報資料等の作成、配布を行なうほか、セミナー、講演、記念行事等を開催し、原子力知識の国民一般への普及に努めてきたが、今後は、さらに一層広報普及活動の充実に努める事が必要である。長期的観点からみると、若い世代に原子力に関する正しい知識を普及させることがきわめて重要であるので、学校教育等の場を通じて原子力教育の強化に努めることが望ましい。同時に、原子力広報専門機関のより一層の強化充実をはかるとともに、関係機関が協力して、原子力広報資料センターのような施設の設置を検討するなど、広報普及機能の充実をはかることが必要である。

 7.原子力産業

 わが国の原子力開発利用は急速に進展しており、これをさらに推進するためには、原子力関連機器、核燃料等の低廉かつ安定した供給が不可欠であり、国産化の観点から国内における原子力産業が果たすべき役割は大きい。同時に、原子力産業は研究開発分野の多い知識集約型産業であり、その発展はわが国の産業構造の高度化に大きく貢献するものである。

 政府は、従来から、関係各研究機関における研究開発の促進とその成果の民間への開放等により、民間企業の技術的能力を向上せしめるとともに、民間企業が自ら行なう優れた研究開発に対しては、適宜所要の措置を講じて、原子力産業の育成をはかっている。民間企業においても、技術導入や自らの研究開発等に積極的な努力が重ねられており、その結果、世界的な原子力開発利用技術の進歩とあいまって、わが国の原子力産業の基盤はようやく固まりつつある。しかしながら、ぼう大な研究開発を実施し、多くの蓄積を有する欧米の原子力産業に比べると、わが国の原子力産業は、いまだその産業基盤が弱体であり、今後、内外の需要に対処して円滑に機器や核燃料の供給がはかられるよう適切な措置がとられることが必要である。

 機器供給面においては、現在、わが国の原子炉機器メーカーは海外のライセンスによって製作を行なっているが、これら外国技術の吸収とともに、今後は、さらに一層自主技術の開発を積極的に行ない、わが国独自の技術を確立する必要がある。その際、とくに機器の据え付け、製作のみでなく積極的な研究開発を通じ、計画、設計、監理等のいわゆるソフトウエアを強化することが重要である。

 原子力発電の進展に伴い、核燃料の需要が急増するが、これに対処して、低廉な核燃料の安定供給をはかることが重要である。この場合、わが国に適した核燃料サイクルの確立に努めるなかで、転換、成型加工、再処理等の事業が円滑にすすめられ、わが国の核燃料産業体系が確立されることが必要である。そのためには、有効な市場競争を実現することが望ましく、とくに核燃料成型加工の分野では、機器供給における場合と同様、独自の炉心設計を行なうなど、ソフトウエア面における充分な能力を有する独立系燃料メーカーの市場への参入が期待される。

 このような観点に立って、政府は、わが国の原子力産業の基盤を強化し、早期に国産化体制を確立するため、生産設備投資に対して従来からとられてきている金融税制上の措置を継続するとともに、研究開発の強化、実証性試験設備の拡大、共同利用施設の利用、基準の整備等についても積極的な措置を講ずることが必要である。
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