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原子力開発利用長期計画の決定について


昭和47年6月1日
原子力委員会決定

1 長期計画策定の経緯

 原子力委員会は、昭和42年4月に「原子力開発利用長期計画」を策定し、これに基づき、わが国の原子力開発利用の推進をはかってきたが、近年、原子力発電をはじめとする原子力開発利用の急速な実用化の進展に伴い、核燃料の確保、立地の確保、安全性の確保、環境の保全等について総合的に対処することが必要となっているとともに、新型動力炉の開発、原子力船の開発等自主技術開発の進展に伴い、それらを円滑に実用化していくための方策について具体的な検討が必要になってきた。

 このような情勢にかんがみ、原子力委員会は、長期計画の改訂を行なうこととし、昭和46年6月17日、「原子力開発利用長期計画改訂の基本方針」を決定し、さらに、この改訂に関する事項の調査、審議を行なうため、長期計画専門部会を設置することとした。

2 長期計画専門部会の審議経過

 長期計画専門部会は、関係省庁および各界の学識経験者94名をもって構成され、昭和46年7月16日、第1回専門部会を開催し、部会長として向坊隆東京大学教授を互選した。

 同専門部会は、その後、総合、原子力発電、原子炉多目的利用、放射線利用、核融合、基礎研究・科学技術者養成、安全対策、放射性廃棄物・環境の8分科会に分れ、上記の改訂の基本方針にしたがって、総合分科会を除く各分科会は、昭和46年10月末までに総合分科会に報告書を提出することを目途に審議をすすめた。

 しかし、原子力開発利用の各分野は、広汎多岐にわたり、重要事項も山積していたので、当初の予定より遅れ、最終的には昭和47年2月、各分科会は総合分科会にすべて報告書を提出した。

 総合分科会においては、各分科会の報告書に基づき、「原子力開発利用長期計画」の総論および各論についての審議が行なわれ、昭和47年5月20日、第17回総合分科会において原案についておおむね了承が得られた。

 以上の経過ののち、長期計画専門部会は、昭和47年5月26日、第2回専門部会において、「原子力開発利用長期計画」を審議し、これを原子力委員会委員長あて報告した。

 原子力委員会は、この報告の趣旨を十分尊重して、昭和47年6月1日、「原子力開発利用長期計画」を正式に決定した。
 
3 新長期計画の構成等

 新長期計画は、総論および各論によって構成されており、総論においては、原子力開発利用の基本的考え方、原子力開発利用のすすめ方および関連重要施策について論述している。

 各論は、原子力発電、動力炉開発、核燃料、安全対策,環境保全,原子力船、原子炉多目的利用、核融合、放射線利用、基礎研究、科学技術者の養成、科学技術情報の交流、国際協力、保障措置の14項目によって構成されており、それぞれの解決すべき主要な問題点と具体的な施策の方向を示している。

 なお、本長期計画は、昭和65年度までの約20年間を展望しつつ、昭和55年度までの約10年間をその対象としている。

4 新長期計画の概要

(1)原子力開発利用の基本的考え方原子力開発利用の基本的考え方として、今日、わが国の原子力開発利用が、一部ではすでに実用化の段階に達していることにかんがみ、次の5点を示した。


イ. 平和利用の維持
ロ. 人間環境との調和
ハ. 総合的計画的な推進
ニ. 関係各界の協力
ホ. 国際協調

 以上のような基本的考え方に基づいて、研究開発の基本方針として、第1に自主開発の推進を、第2に基礎研究の充実を、第3に効率的、効果的な推進をあげ、利用の基本方針として、研究開発成果の円滑な実用化をはかるべきこと、環境の保全、安全性の確保に万全を期すべきこと、国民の理解と協力に基づいて推進すべきことの3点をあげている。

(2)原子力開発利用のすすめ方

 イ. 原子力発電の開発規模の見とおしについては、今後のエネルギー供給において原子力発電に対する期待がきわめて大きいことから昭和60年度には6,000万KW程度、昭和65年度には1憶KW程度を原子力発電でまかなうことが要請されており、現時点においては、昭和55年度における原子力発電開発規模を約3,200万KWと見込むことは妥当である。

 ロ. 原子力発電の立地については、安全性の確保、環境の保全を前提に地域住民の理解と協力のもとに、その確保をすすめなければならない。

 これに加えて、原子力発電施設の設置者が、地域住民の福祉と地域社会の発展に貢献する姿勢を示すとともに、地方公共団体および政府もこれに協力して、原子力施設の立地確保に資するため積極的に所要の施策を講ずることが必要である。

 ハ. 動力炉開発については、現在、国のプロジェクトとして開発をすすめている新型転換炉および高速増殖炉をそれぞれ昭和50年代および昭和60年代に実用化することを目標に、ひきつづき開発を推進する。

 ニ. ウラン資源については、わが国のウラン所要量は、昭和55年度には約8,000ショート・トン、昭和65年度には約15,000ショート・トンに達するものと予想され、これを確保するため、長期的には年間所要量の3分の1程度を開発輸入により確保することを目標として、海外における探鉱開発を積極的に行なう。

 ホ. 濃縮ウランについては、分離作業量にして、昭和55年度には約5,000トン、昭和65年度には約11,000トンが必要になると予想され、その長期安定確保をはかるため、国際共同濃縮事業への参加を考慮しつつ、1980年代に一部濃縮ウランを国産化しうることを目途に、所要の研究開発を推進する。

 へ. 使用済燃料の再処理については、昭和49年度操業開始を目途に再処理施設の建設をすすめるものとし、これに続く再処理施設は、使用済燃料の再処理は国内で実施するとの原則のもとに、民間企業においてその建設、運転を行なうことを期待する。

 ト. 安全性の確保については、原子力開発利用の大規模化、多様化にかんがみ安全審査機能の強化充実をはかり、原子力施設の安全基準の設定および改訂を実情に即し迅速に実施し、放射線防護については、長期的な被ばく線量管理のため、個人被ばく線量を一元的な基準のもとに、登録管理する体制を確立する。

 チ. 環境保全においては、環境放射能と温排水の影響が当面の問題であり、環境放射能については、環境への放出量を実行可能な限り少なくするとの姿勢を堅持し、濃度規制のみならず、絶対量の規制を検討する。

 温排水については、その知見は十分でないので、調査研究を積極的にすすめる必要があり、そのため、原子力発電所設置予定周辺海域における環境、とくに生態系について事前に十分な調査研究をすすめ、すでに原子力発電所が設置されている場合には、温排水の放出による生態系の変化とその程度を把握することに努める。

 リ. 放射性廃棄物の処理処分においては、低いレベルのものについては陸地処分、海洋処分を組合わせて実施する方針でのぞむものとし、昭和50年代初め頃までに、それぞれの処分の見とおしを明確にする。

 中程度のレベルのものについては、昭和50年代半ば頃までに処分の方針を決定する。

 ヌ. 原子力船については、一体型加圧水炉を対象とする舶用炉の研究開発を強力にすすめ、第1船「むつ」の昭和51年度以降の保有形態、運航方針等については早急に定める。

 ル. 原子炉多目的利用については、一次冷却材炉心出口温度1,000℃程度の多目的高温ガス炉を中心に研究開発をすすめる。

 オ. 核融合については、トカマク型トーラス系装置の研究開発に当面の重点をおき、昭和60年代に核融合動力実験炉を建設することをめざし、総合的、工学的研究をすすめる。

そのため、当面、昭和50年代に臨界炉心プラズマ試験装置を建設することを目途とする。

 ワ. 放射線利用については、実用化の進展に伴い、今後一層普及をはかるため、線源の確保、放射線機器の開発とその規格化、標準化をすすめる。
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