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放射線医学総合研究所昭和47年度業務計画



第Ⅰ章 基本方針

第1節 計画の概要と重点

 本研究所は、昭和47年度をもって、創立15周年を迎えることとなった。

 この間、本研究所は、放射線の人体に与える障害とその予防、診断、治療に関する調査研究および放射線の医学的利用に関する調査研究ならびにこれらに関する技術者の養成訓練を行なうことを目的として、今日までその業務を推進してきた。

 一方、わが国における原子力開発利用は、原子力発電を中心として、急速な進展を示すにいたり、今後、その規模は一層増大するものとみこまれており、これとともに、環境放射線の影響についてきわめて大きな関心が寄せられるようになってきた。

 また、放射線の医学的利用等における進歩もめざましく、国民福祉の増進に多大の寄与を果すものとして大きく注目されるにいたっている。

 以上のような情勢の展開とともに、本研究所に寄せられる期待もまたきわめて大きく、その使命はますます重大なものとなってきた。

 このような観点から、本年度は昭和44年度を初年度とする本研究所の「研究5ヵ年計画」の第4年度として研究所業務の計画的遂行を期するとともに、新たな観点から、本計画における環境放射線および放射能に関する調査研究の一層の充実をはかる。このため、昭和47年度に限り「特別指定研究」を設け、その体制の整備を行なう。

 また、本計画の昭和48年度における終了に対処して、本年度内に全体計画の再検討にも着手する。

 以上のほか、本年度に推進する業務の重点を各部門ごとに示すと、つぎのとおりである。

 研究部門においては、まず、特別研究について、昭和44年度より4ヵ年計画で着手した「放射線医学領域における造血器移植に関する調査研究」の集大成を期し、また、昭和45年度に開始した「中性子線等の医学的利用に関する調査研究」を当初計画に従い強力に推進する。

 経常研究については、研究活動の源泉であり基盤をなすものであるので、高度の研究水準を確保し得るようその充実をはかる。

 指定研究については、高線量急性被曝の身体的影響に関する調査研究および低線量被曝にもとづく晩発性障害に関する調査研究のうちから、それぞれ適切な課題を選定し、実施する。

 また、昭和43年度から臨海実験場を中心として実施してきた海洋調査研究については、本年度をもって放射性核種の海産生物の成体における濃縮機構の解明等を主とするその第1段階を終了させることを目途として、関連研究部との有機的な連けいのもとに強力に推進し、併せて野外調査等を含め濃縮機構の一層詳細な解明を目標とする第2段階としての調査研究計画の検討を行なう。

 技術支援部門については、研究業務の円滑な推進をはかり得るよう良好な研究環境の整備につとめ、とくに、実験動物の生産、供給体制の整備をすすめ、また、サイクロトロン装置および施設の建設に関し、業務の計画的推進を期し、体制の充実をはかる。

 養成訓練部門および診療部門においては、関係部門との緊密な協力のもとに、効率的運営により、その業務を推進する。とくに診療部門に関しては、リニアックの更新整備と施設の建設をはじめとする医療機器の充実をはかる。

第2節   機構,予算

 本年度は、サイクロトロン装置および施設の建設状況の進展に即応して、技術部サイクロトロン準備室をはじめ、関係部門の強化をはかるため、定員11名の増がみられた。

 昭和47年度の予算は、1,659,641千円で、前年度の1,488,444千円に比して171,197千円の増となった。増額分の主なものは、サイクロトロン関係備品費および試運転に必要な経費(単年度予算分)18,813千円、医用リニアック棟新築工事37,190千円等である。このほか、放射能調査研究費として17,112千円が計上されている。

第Ⅱ章 研   究

第1節 特別研究

 本年度は特別研究に必要な経費として、試験研究用備品費、消耗器材費など63,494千円を計上する。
 各課題の概要は以下のとおりである。

 1-1放射線医学領域における造血器移殖に関する調査研究

 本調査研究は、原子力開発の急速な進展に伴う原子力施設や原子力事業従業員の増大にかんがみ、万一の不測の事態に対し的確な処置をとり得るよう対策を確保し、原子力の健全な開発に資するため、種々の基礎的・臨床的諸問題を解決し、放射線障害者の処置に万全を期するとともに、諸種悪性腫瘍の治療の進展をもはかることを目的として、昭和44年度から特別研究として実施してきた。

 本特別研究は、発足以来、次の4グループを編成して研究を進めてきたが、昭和47年度も同じ編成のもとに研究を進める。

(1)組織適合性識別機構に関する研究グループ
 組織の適合性を識別する機構の解明は、臓器移植を行なう際に起る拒絶反応を防ぐために最も重要な因子となる。

 このため、動物の腹腔食細胞を用いて、異物識別機構の解明に総合的に結論が得られるよう研究を進めるとともに、系統の異なるマウスの骨髄細胞を用いて、両系統間の抗原性の差異を明らかにする等、認識機構について研究を進める。

(2)造血器移植に伴う続発症の発現機構に関する研究グループ
  人は一卵性双生児以外は異系の集団であるため、放射線照射により免疫機能が低下した際には、臓器移植を受けつけても宿主の免疫機能の回復、移植細胞と宿主との組織不適合により続発症に遭遇する。

 本年度は続発症の病理学的研究、続発症と細菌感染との関係、免疫阻害剤等による続発症の軽減、免疫担当細胞の除去法等について研究を進める。

(3)移植造血細胞の動態に関する研究グループ
 造血器の放射線障害は、究極的には、造血幹細胞障害の問題に帰着するので、移植造血幹細胞の動態を明らかにすることが必要である。

 このため前年度にひきつづき、移植された幹細胞の増殖、分化機構、幹細胞と免疫適格細胞の関連、幹細胞の選択的採取法、造血細胞の増殖分化促進因子、免疫抑制剤の幹細胞への影響等の問題について研究を進める。

(4)造血器移植の臨床的適用と改善に関する研究グループ
 造血組織移植の臨床的適用の問題点は、複雑な免疫生物学的諸問題に対していかに対処するかにあるので、他の基礎的研究の成果と相侯って、造血組織の採取法および保存法の習熟、改良につとめて、臨床的適用に万遺漏なきを期する。

 1-2 中性子線等の医学的利用に関する調査研究

 本調査研究は、わが国における放射線の医学的利用における研究開発の促進の一環として、サイクロトロンを利用し、総合的な研究体制のもとに、中性子線による悪性腫瘍の治療に関連する諸問題を解明するとともに、サイクロトロンにより生産される短寿命ラジオアイソトープの医学的利用についても研究を推進することを目的として、昭和45年度から5ヵ年計画で特別研究として実施してきたものである。

 サイクロトロン装置は昭和48年度末に完成が予定されているので、昭和47年度においては、本特別研究は46年度にひきつづき次の各研究グループの編成のもとに、バンデグラフ等を利用して実施する。

(1)中性子線等の測定に関する研究グループ
 速中性子線の実用的な測定法を確立するための線量計の開発および中性子線のエネルギー分布の測定等、吸収線量の評価に関連する研究を行なう。
 また、線質に依存する放射線作用の解明に役立てるため、微視的エネルギー吸収についても研究する。

(2)中性子線の生物学的効果に関する研究グループ
 速中性子線による悪性腫瘍の治療にあたって必要となる生物学的効果に関する基礎的知見を得るため、速中性子線の腫瘍および正常組織に対する効果を、分子レベル、細胞、組織レベルおよび個体の各レベルより検討し、障害および回復の機構を解析する。前年度にひきつづき、腫瘍のRBEの決定、分子レベルでの細胞障害機構の解析、正常細胞および組織への速中性子線の効果の解析のほか、放射線低抗因子の解析および増感剤、防護剤の効果、作用機序についての研究を進める。

(3)中性子線による悪性腫瘍の治療に関する研究グループ
 速中性子線の腫瘍に対する効果と周囲の健常組織に対する反応とを追求し、放射線治療効果比の面から最適の速中性子線治療法を確立する。

 このため、前年度にひきつづき、表在性腫瘍放射線抵抗癌につき治療を試み、治療効果比の検討を行なうほか、速中性子線治療技術の開発およびエピサーマル中性子線の利用に関連して有機ホウ素化合物の改良とその利用方法についての調査研究を進める。

(4)短寿命アイソトープの医学的利用に関する研究グループ
 サイクロトロンによる短寿命RIの生産およびその医学的利用についての必要な事項につき調査研究を行なう。

 前年度にひきつづき、ターゲットシステムの設計開発、ラジオアイソトープの分離、精製、標識等に関する調査研究を進めるほか、ポジトロンカメラの製作に関する調査研究に着手する。

(5)医用サイクロトロンの安全管理に関する研究グループ
 患者、作業従事者等に対する障害の防止および管理区域内外における安全管理等につき、前年度に引き続き研究を進める。

第2節 特別指定研究

 環境放射線及び放射能をめぐる諸問題に関し、次年度以降において、本格的な調査研究に着手するため、これに必要な準備を行なうことを目的として、本年度に限り、「特別指定研究」を設け、下記課題に関し、調査研究を実施する。

  なお、疫学的調査研究に関しては、本年度は、文献調査を主体として、適切な調査対象の検討を行なう。

  中型動物による遺伝学的、生理学的実験システムの確立に関する調査研究(放射線障害の危険度推定のための基礎的研究)放射線の人に対する遺伝的障害および内部被曝の危険度の推定は、環境放射線の影響を評価するうえの最も基本的な課題の一つとなっている。

 本課題の解明にあたっては、精密な定量的データを必要とするため、多数の実験動物を用いた研究が必要であり、また、この結果を人類に外そうするために中型動物を使用することが必須条件となる。

 本調査研究は、放射線による遺伝障害の危険度の推定に関し、放射線誘発染色体異常の線量評価について、サルを用いて生殖細胞の精子形成過程等に関する予備的研究を行なう。

 また、内部被曝に関する実験的調査研究を実施するために、十分な準備が必要であるので、イヌを用いてⅩ線検査、臨床生化学的検査方式等に関し、予備的研究に着手する。

 一方、今後におけるサル、イヌの実験動物としての本格的使用に対処して、これら実験動物の繁殖、飼育管理技術に関する検討を行なう。

第3節経常研究

  本年度は、経常研究に必要な経費として、研究員当積算庁費158,045千円および試験研究用備品費44,818千円をそれぞれ計上する。
 経常研究に関する各研究部の本年度における方針および計画の大要は以下のとおりである

 3-1 物理研究部

  本研究部は、放射線障害の予防および放射線の医学的利用に必要な放射線の適切な計量と防護方法について研究を進めるとともに、放射線障害の解明に必要な人体組織に対する巨視的、微視的な吸収線量を評価するための物理的基礎資料を得ることを目的としている。

 人体内放射能測定においては、新型NaI(Tl)+NaI検出器の利用によるヒューマン、カウンターの性能向上と情報処理に重点をおき、ヒューマン、カウンターおよびRIイメージの電子計算機による情報処理に関する本格的研究に入る。

 RIイメージの情報処理に関しても、フライングスポットスキャナーによるアナログ処理法の研究を続行するとともに、ディジタル処理では電子計算機によるシミュレーションを行なって、ディジタルフィルターによる画質改善の研究を行なう。

 新型シンチカメラの開発研究に関しては、病院部と協力して、高分解能ガンマカメラの実用化をはかるとともに断層シンチグラフィーの研究を行なう。また、低エネルギー用RIカメラとして、比例計数管型カメラの研究開発を行なう。

 高エネルギーエックス線、電子線の吹収線量評価については、前年度まで諸種の方法を検討しているが、本年度は高線量率放射線場における電離箱に対する再結合損失の補正および電子線の吸収線量測定に関してみられる電離箱とフリッケ線量計、熱量計間の差について検討を加える。

 他方、エネルギー損失に関しては、10~30MeV電子線の物質を通過するときのエネルギー損失および通過後の空間角度分布の測定を行なう。

 放射線の医学的利用による国民線量の推定のうち、エックス線診断および遠隔治療による遺伝有意線量と白血病有意線量についてはすでに終了し、本年度は密封小線源および非密封線源による国民線量の全国調査を行なう一方、その線量推定に必要な予備実験を行なう。

 また、低線量率環境放射線の長期間被曝に際しての積算線量の測定方法について検討をする。一方、医学生物学用原子炉の調査研究も引き続き行なう。

 3-2 化学研究部

 本研究部は、放射線の生物体に対する作用機構を主として物理化学的、生化学的観点から基礎的に追究すること、ならびに放射能の影響を推定し、評価するうえで重要な元素や放射性核種を無機化学的、分析化学的見地から研究することを目的としている。

 放射線の作用機作に関しては、DNA、RNAなど生物学的に重要な分子の一次および高次構造の変化と、それに伴なう生物学的な諸性質の変化との関連に注目しつつ、今年度は以下の研究を行なう。

 細胞内の核酸の存在状態をしらべるため、核蛋白質複合体を用いてin vitroで研究を進める。大腸菌を照射したとき合成されるRNAの物理化学的性状と放射線感受性および細胞死との関係をしらべ、また酵素一基質(またはアナログ)系についても放射線の作用を生化学的に検討する。

 また、紫外線感受性が培養温度によって異なる大腸菌異変株を用い、放射線損傷の回復過程におけるDNA分子鎖の切断と回復・DNA鎖間の物質交換などを分子生物学的方法により検討し、回復、修復の分子機構を考察する。

 他方、放射線による細胞の増殖阻害を数理的に解析するため、同調培養大腸菌のDNA複製開始時期と合成された蛋白質量の関係を求める。

 さらに、抗体産生に関与する食細胞や肺臓細胞の生化学的機能につき研究する。

 無機化学的、分析化学的研究の本年度の内容は次の通りである。フェロシアン化物などの無機イオン交換体を作り、吸着特性(吸着速度、吸着核種の種類、分布係数、吸着容量等)、カラム特性・交換体の性質(溶解性、組成、結晶学的諸性質等)などをしらべ、また、難溶性の有機金属塩に対する放射性核種の吸着特性、共沈挙動をしらべる。

 この両者の分析化学的、放射化学的応用の可能性を検討する。さらに、従来行なってきた金属塩-イオン交換樹脂の生成機構も詳細に検討をつづけ、有機金属塩を成分とする金属塩-イオン交換樹脂を開発する。

 また、溶液中における各種遷移元素とキレート試薬との相互作用を主として分光学ならびに磁気的方法でしらべ、分析化学に必要な溶液化学的知見を求める。

  3-3 生物研究部

  本研究部は、生体における放射線障害の発現の機構を、生物学的初期効果かち最終効果にいたる過程について、それらが互いにどのように関連し合い、また、それらの多くの階程のどの部位が、障害の拡大あるいは逆に回復に、最も大きく関与しているかを究明する。

 このため、細胞内微細構造から個体にいたる種々のレベルでの一連の研究を引き続き推進する。

 放射線感受性の異なるいくつかの動物細胞を用い、照射による細胞核DNAの障害およびその修復の機構、照射によって生じるSH反応性活性物質の細胞障害作用の本態等をひきつづき検討し、さらに被照射細胞のエネルギー代謝障害と細胞死との関係を把握する。

 一方、細胞の障害発現における膜構造の役割を明らかにするため、とくに放射線感受性の高い胎児期に、少線量の照射を受けた動物の出生から成体に至る過程における小胞体および他の膜系の構造的機能的変化をひきつづき検討し、細胞の分化過程における放射線障害の特徴をとらえる。

  これらの結果を基盤として、さらに組織、個体レベルで、急性あるいは晩発性の障害が発現する機構を主として細胞集団動力学の立場から解析する。すなわち、本年度は、放射線照射と発癌剤との併用による哺乳類皮膚の細胞動態の変化をしらべ、発癌機作の基礎知見の入手に努める。

 また、無菌飼育時の魚類について、照射後の決定器官の細胞動態の変化を調べ、感染による放射線障害の修飾効果を明らかにする。

 また、電子線などの照射をうけたアルテミア卵にみられる発生異常を細胞動態の変化として追求する。

 また、魚類を用いた低線量放射線による晩発性効果(寿命短縮)についての研究は、ひきつづきデーターを集積し、あわせて放射線による加令促進効果を解析するための有力な研究手技を開発する。

 被照射細胞に細胞分裂を誘起させることによる細胞の放射線障害、とくに発癌効果のmodificationについての研究を進める。

  3-4 遺伝研究部

 本研究部は、放射線の遺伝的障害について、その機構を解明し、危険度を評価するための資料を得ることを目的として研究を進めている。このために、分子、細胞、個体、集団の各レベルにおける研究が必要であり、これを統一的に推し進めねばならない。

 このような観点のもとに、本年度は引き続き、分子、集団レベルの研究を推進する。

 本年度は分子レベルについて細菌ウィールス、コリシン系を用い、遺伝子DNAの複製、阻害に直接関与する特異タンパク質の分離、精製を試み、核外遺伝子のコリシン因子と放射線障害の回復機構を分子遺伝学的に解明する。

 また、酵母のダイソーム系を用い、放射線による突然変異の誘発能力を欠く突然変異体を分離し、その遺伝子解析を行ない、放射線による遺伝的変異の損傷に係わる遺伝的支配機構を明らかにする。

 集団レベルにおいては、前年度にひきつづき、ショウジョウバエの被曝人工集団を用い、ガンマ線照射停止後に誘発された有害な劣性致死染色体の頻度を調べ、とくに遺伝子座レベルでの世代変化を明らかにするとともに、無害なアイソザイム遺伝子の頻度の世代変化も調べ、集団における突然変異遺伝子の保有機構を実験的に明らかにする。

 また、日本人の遺伝障害の危険度を予測するために、電子計算機のプログラムを開発して、遺伝疾病の資料の収集法を検討し、また、親子分布、夫婦分布などの分析を行なう。

 3-5生理病理研究部

  本研究部は、人体の放射線症の機構を研究し、その病理像を樹立することを目ざしている。それゆえ、生体を構成する細胞、組織、器官のレベルでの放射線効果の研究を行なう。

 また、二次的には、腫瘍に対する放射線治療の細胞生物学的病理学的基礎にも貢献する。

 生理研究部門では、昨年度の研究の進展として、免疫記憶細胞の起源を追究するとともに、免疫機能に対する胸腺活性物質の分離を行なう。

 また、放射線の内分泌機能への効果の研究への一環として、副腎皮質糸粒体内膜の損傷をコンピュータを利用して定量立体学的方法でしらべる。

 他方、細胞致死効果の研究は培養細胞を用いて継続する。第1は主要なターゲットとみなされるDNA分子の損傷の定量的把握、第2はDNA複製障害と細胞死の関連、第3は細胞の感受性修飾因子のもっとも有力なものとしてのSH物質の動向の研究である。

 病理部門は、放射線発癌の研究に重点をおく。とくにマウスにおける骨髄性白血病の発症機序を(1)照射方式の面から、また、(2)造血細胞の動力学的な面からしらべる。なお、発癌実験に好適な実験系の開発にも力を入れる。

 造血器障害の研究の面では、昨年度開発したセルローズ・アセテート膜設置法をさらに発展させ、幹細胞、分化細胞の動態の定量的把握につとめる。被曝にひきつづく体液性統御因子の動きと役割を明確にすることをめざす。

 3-6 障害基礎研究部

 本研究部は、放射線の人体に対する障害、許容量、障害予防等に関連する調査研究を行ない、とくに身体的障害の軽減および評価など、障害予防対策上必要な問題に関しての基礎的資料を得ることを目的として、以上の諸研究を行なう。

 障害の進展ならびにその修飾の機序に関しては、放射線障害の程度、その時間的推移、様相などに関連すると思われる種々の生物学的指標に関する知識を基礎として、主として生理生化学的観点より研究を行なってきたが、本年度も引き続き、これらに関する動物実験を行ない、また、とくに部分照射マウス血中のLDH、LAP、GOT、尿中ハイドロキシ醋酸量等の変化をしらべるとともに、昭和46年度に特別研究促進調整費により設置したアミノ酸分析装置、超微量分析装置を用い、医療被曝患者について、尿中のアミノ酸、5-ハイドロキシ、インドール醋酸等の量的推移をしらべる。

 急性放射線障害からみた個体の放射線感受性と生理学的性質の差異に関しては、従来、種々の角度から検索し、得た結果を基礎とし、LD50からみた放射線感受性の相違が、急性効果から回復したのちの晩発性影響の発現といかなる関係をもつかを、とくに造血系の変化に着目して、本年度も引き続き研究を行なう。

 また、中枢神経系に及ぼす放射線の影響については、中枢神経系が非再生系組織であることおよび、その障害の発生と血管系の変化との関連性とを考慮し、一回および、分割照射による長期効果の比較を脳内での血管系の変化との相互関係について研究を行なう。

 内部被曝に関する研究については、被曝の影響評価の基礎となる生物学的根拠を得る目的で、本年度は、粒子の特定臓器への移行に対する人為的修飾の方法、放射性物質の皮下よりの移行におけるリンパ系の果す役割および放射性核種の体内分布の動的変化に関する種々の表示方法等に関し研究する。

 また、とくにプルトニウムー239については、その内部被曝の肝臓機能(肝機能と網内系機能)への影響およびリンパ節の照射による障害発現の機序に関し研究を行なう。

 各種照射様式による放射線障害の評価については、本年度も引き続き、主として全身および部分照射による障害との関係に対し、でき得る限り定量的観点からデータの解析を試み、放射線の影響評価に対するアプローチの一端に資する目的で研究を行なう。

 3-7 薬学研究部

 本研究部は、放射線障害防護物質の合成、物理化学的および薬理学的諸性質の検討、ならびに、生殖腺の放射線障害に関する生化学的な解明などに重点をおき、研究を行なってきた。

防護物質の合成化学的研究は、前年度において、ヘテロ原子(酸素、窒素、硫黄)を含む5・6環状化合物の合成に成功し、これら複素環化合物の反応性についての検討をほぼ完了したので、本年度は、窒素または硫黄を含むビシクロ化合物について新合成法を開発し、これら化合物の合成研究を実施する。

 アミノチオール類の放射線防護作用に関する物理化学的研究は、前年度の成果にもとづき、これら化合物の化学構造と反応性、分子状酸素による酸化反応、安定性などの検討を行なうとともに、酸素キャリヤーとアミノチオールの反応を研究する。

 生殖腺の放射線障害に関する生化学的研究については、生殖腺系を支配する脳下垂体ホルモンおよびステロイドの生合成、分泌との関係の解明につとめ、未成熟および成熟時における放射線障害、ステロイド生合成機能の相異をラットを使用し比較検討する。

 また、本研究に必要なペプタイド、ステロイド、その他生理活性物質の微量定量を行なうため、併せて医学利用に資するため放射免疫学的測定法(ラジオイムノアッセイ)の開発を行なう。

 防護薬物の薬理学的研究においては、放射線の被曝前または後に投与して、障害を軽減する薬物の開発、また防護作用の本質を解明する目的で細胞レベルでのアミノチオールによる防護作用機序の研究、各種複素環化合物の予防効果の検討、障害を回復させる作用をもつ臓器成分につき研究を実施する。

 3-8 環境衛生研究部

 本研究部は、前年度に引き続き一般環境、職業環境における人体の被曝に関する調査研究を行なう。これら環境における放射線放射性物質による人体被曝に関する種々のパラメーターを求めるため、種々の放射線および放射性核種を用いて、実験および環境調査を行なう。

 被曝機構の調査のうち、一般環境に関しては、原子力施設から排出される核種の消化管における代謝に着目し、とくに幼若年令層におけるそれを対象とした動物実験を計画している。職業環境については、吸入による核燃料物質の体内代謝を動物実験により実施する。

 また、海水中へ放出された核種につき、海産魚類の体内における代謝を取上げ、魚類への蓄積の機構を明らかにすることにより、人体への蓄積を推定する。生物圏の放射性炭素、トリチウムの濃度の測定、水生動植物への取り込みについて、実験室での研究と調査を行なう。

 環境放射線の測定に関しては、エネルギー特性の面等からこれに適する測定機器の検討を行なう。

 その他、本研究部においては、公衆衛生面における放射線利用を開発するため、予防医学的研究を継続して実施し、原子力施設における放射線安全管理のための基礎的資料を求める。

 3-9 環境汚染研究部

 本研究部は、自然環境における人工放射性物質によって公衆の構成員が受ける放射線被曝を的確に把握し、また、推定するための諸因子を究明し、環境の安全管理への寄与をめざして放射生態学的に研究を進めている。

 また、環境放射能モニタリング技術の向上に資するため、サンプリング法、試料前処理法、放射化学分析法に関する開発研究を実施している。

 本年度は、表土における放射性物質の移動に関し実地に適用し得る実験手段を開発するため、セミ・フィールド的実験装置としてのライシメータと水系モデルの構造について検討を始める。

 また、海水中懸濁物が無機元素の移動に寄与する程度を知るために、ストロンチウム、セシウム、セリウムに加えて、新たにコバルト、マンガンなどについて安定元素定量とRIトレーサーとによる実験を行なう。

 太平洋沿岸地域と日本海沿岸地域における各種の水産食品9群からなる標準食品について、安定微量元素の定量を試みるとともに、人骨、人体組織についてもストロンチウム、セシウム、コバルト、亜鉛などの定量を進める。

 人骨に関しては、ストロンチウムの組織内分布を求める方法の検討に着手する。これらの研究の実施にあたっては、別途の放射能レベル調査業務による成果も有効に活用し、放射性物質の環境→食品→人体の移動の定量的解明をはかって行く。

 とくに海洋汚染に関連しての汚染機構解明については、臨海実験場と全面的協力を行ない、原子力施設からの放出が予想される放射性核種を選定し、それらを対象としての研究の強力な促進をはかる。

 また、地表と陸水の研究に関しては、東海研究室との強調によって計画的に業務を分担し、総合的成果の獲得につとめる。

  環境、食品、人体の放射性ならびに安定元素の濃度を求める方法の向上に関しては、これら試料の灰化につき、低温灰化装置などを用いての実験を進めて前処理法の改良をはかる。

 安定元素定量については、引き続き原子吸光分析法による分析精度向上の手法を検討し、併せて環境試料の放射化分析法の開発に着手する。

 低濃度の放射性物質の放射化学分析法については、引き続き、ガンマ線スペクトロメトリとベータ線スペクトロメトリの電算機利用による省力化の研究をすすめ、併せてサンプリング法と分析測定法とのマニアル化をめざしての検討を継続するとともに、新たにGe(Li)検出器を用いての測定ならびにラジオ・ガスクロマトグラフィーによる化学形態別分析法の実験を始める。

 3-10 臨床研究部

 本研究部は、放射線の医学利用すなわち、ラジオアイソトープの医学応用に関する理論的および実験的研究、放射線治療の基礎的および臨床的研究ラジオアイソトープの医学応用に関する臨床的研究を行なうことを目的としている。

 核医学に関する研究については、人体内にラジオアイソトープ分布の体外計測法の開発に関する研究を進める。前年度スキャナーによるシンチグラフィーのコンピュータ・イメージ処理の臨床応用について成果を挙げたが、本年度はシンチカメラを用いて種々の研究を開始する。

 また、ラジオアイソトープによる循環動態の解析、生体内代謝の研究、ラジオアイソトープ標準甲状腺ホルモンをトレーサーとして、甲状腺機能に及ぼす各種の要因の研究、サイクロトロンにより生産される短寿命ラジオアイソトープおよびその他の医用ラジオアイソトープの開発および生産の研究を推進する。

 放射線による診断の研究については、エックス線診断の高度化のために、エックス線テレビのイメージ処理とその癌診断への応用、エックス線診断情報のコンピュータ処理の研究を継続して実施する。

 放射線治療については、コンピュータの治療への応用に関し、従来の物理的線量分布計算のみでなく、生物学的因子を考慮に入れた計算方法を開発し、臨床により役立つ治療計画法を実用化する。

 また、腫瘍の放射線感受性とその修飾に関する研究、サイクロトロンを利用して、悪性腫瘍の治療を行なうために必要な技術的、生物学的、臨床的研究、すなわち、速中性子線の治療への応用に関する研究を継続して実施する。

 一方、医療被曝、とくに放射線治療により生じた放射線障害の実態を調査し、その対策を立てるための調査研究を進める。このため、外部研究機関との密接な協力のもとに本病院部の病歴情報処理システムを確立し、長期間にわたる多数症例を精密に調査することとする。

 3-11  障害臨床研究部

 本研究部は、放射線による人体の障害の診断および治療に関する調査研究を業務とし、このため、臨床的ならびに実験的研究を行なっている。

 まず、ビキニ被災者を中心とする各種被曝者について追跡研究を続行し、生物学的な被曝線量推定に関する資料を求め、さらに、白血病等との関連データを得るように努める。

 ビキニ被災者等の被曝者について細胞遺伝学的研究を継続して行ない、とくに、染色体型とクローンの関係について、より詳細な検討を加える。実験的に染色体異常細胞の形成と被曝状況との関係やクローンの成立に関する種々の研究を進めて、臨床例における成積の解析を行なう。

 従来から放射線による血液幹細胞障害の回復について実験的に検討を加えてきたが、その結果の臨床的応用をはかる一歩として、末梢血あるいは骨髄の培養法による研究を進める。

 また、白血病発症や加令等の放射線による晩発効果についての実験も行なう。

 引き続き、胞腺細胞の放射線障害からの回復について、酵素学的見地から細胞死や回復状況を追求する。

  3-12 東海支所

 東海支所は、まず、外部関係機関の利用をも含め、原子力諸施設との関係を密にして行なう研究を推進する。

 東海研究室および臨海研究室は、関連部門との協力のもとに、海洋調査研究を実施するが、これに関連した研究として、海産硬骨魚の体内滲透圧が棲息環境水より低く保持されている事実から、このような現象を生む生理機能が海産魚の放射性核種の選択的濃縮を生じる主要因と考えられる点に着目し、この機構の解明に資するため、淡水および海水で実験魚を飼育し、無機物質摂取の相違について比較検討する。

 また、海洋放射能モニタリングの簡易化に資するため、特定の放射性核種を高度に濃縮する指標生物の把握を目的とする生物実験を行なう。

 一方、各種の環境試料について、原子炉利用による放射化分析法の検討を行ない、また、淡水圏の汚染機構解明のための実験模型(水系モデル)の構造に関し、環境汚染研究部との協力のもとに調査を行ない、表土汚染の研究計画を検討する。

 なお、各研究部が原子炉および支所施設を利用して行なう研究は、以下のとおりである。
(1)表土より河川への放射性物質の流亡に関する研究
(2)放射性物質の動向とバイオアッセイによる人体負荷量推定に関する研究
(3)深海投棄された放射性物質の海水中無機物による希釈に関する研究
(4)ラジオアイソトープ・トレーサー法による魚貝藻類への放射性核種の濃縮に関する研究

第4節 海洋調査研究

 昭和43年度より本年度にわたり、臨海実験場を中心として実施してきた海洋調査研究については、本年度をもってその第1段階を終了させることとする。

 この間、原子力施設から沿岸海域に放出される放射性廃液が海産生物などを通じて、沿岸住民および国民全般に与える被曝線量について調査研究を行なうとともに、放射能モニタリング方法の開発についても調査研究を実施してきた。

 とくに、食用海産魚貝類のストロンチウムー90,セシウムー137,ルテニウムー106,コバルトー60,セリウムー144,亜鉛-65等の濃縮と排出の機構については、臨海研究室によって活魚を用いた実験が行なわれ、多くの新知見が得られた。とくにコバルト-60,亜鉛-65などの海産生物への濃縮と排出に関しては、水温や塩分濃度の差による影響が明らかにされた。

 本年度は、第1段階の集大成を期して、臨海実験場においてさらに多種類の海産生物を用いてラジオアイソトープ・トレーサー法での実験を引き続き行なうが、新たに海藻類へのヨウ素-131、ルテニウム-106の移行についての研究を臨海研究室と東海研究室との協力のもとに推進する。

 とくに、ルテニウム-106、セリウム-144、ヨウ素-131などについては、これら核種の海水中における化学形態の変化が、海産生物への濃縮に与える影響を究明してゆく。

 一方、環境汚染研究部、臨海研究室、東海研究室の三者によって、海水と海産生物の安定同位元素定量ならびに放射性降下物の放射化学分析を行ない、そのデータから各種の海産生物の濃縮係数を求め、前記のトレーサー法で得た結果と比較検討する。

 また、海産生物の放射能モニタリング法の開発については、環境汚染研究部と臨海研究室との協力によって、放射化学的検討を進め、さらに臨海実験場において、沿岸海域汚染水準を簡易に知るための指標生物の把握の実験を進める。とくに本年度は、昭和48年度から始まる第2段階の海洋調査研究として、以上の実験室規模の調査研究に関し、海産物の発生、生長過程における放射性物質の濃縮、放射性物質の海水中における化学形の変化にともなう海産生物の汚染機構等の究明への発展をはかるとともに、さらに野外調査等の実施を含む総合的な調査研究を行なうことを内容とする計画の検討をすすめる。

第5節 放射能調査研究

 放射能調査研究には、従来から、本研究所は積極的に参加し、関係機関と協力してその一部を分担してきたが、本年度は、放射能調査研究費として、17,112千円を計上し、放射能レベル調査、被曝線量調査およびデータセンター業務の項目について、環境汚染研究部、環境衛生研究部および管理部企画課においてそれぞれ次のとおり実施する。

(1)前年度に引き続き、外洋海水と海水懸濁物、海底堆積物を放射化学分析し、海洋における放射性物質の鉛直分布をもとめ、また、千葉市における大気浮遊塵の放射能測定、環境中のトリチウムと炭素-14の測定、人骨のストロンチウム-90、人体臓器のセシウム-137などの濃度の調査を継続実施し、放射能水準を究明する。

 一方、福井、茨城の両地区の調査に関しては、本年度は総合的な試料採集を計画的におこない、雨水落下塵、河川水、河底堆積物、土壌ならびに海水、海底堆積物、魚類、貝類、海藻類および9食品区分からなる標準食を採集し、これら資料のストロンチウム-90、セシウム-137、ルテウム-106、セリウム-144、コバルト-60などの濃度を放射化学分析によって分析測定し、環境汚染機構の解明に資する。

(2)自然および核実験による人工放射線源から国民が被曝している線量を明らかにすることは、きわめて重要である。

 このため、線量測定方法に関する研究的調査として、大気中の放射性浮遊塵による内部被曝に関する調査、自然放射性物質および核実験による放射性降下物の地表への蓄積による外部被曝に関する調査を継続実施する。

 また、被爆発実験による放射能汚染に関し、航空機によって、わが国高空における放射能の測定調査を引き続き行なう。

(3)放射能データセンター業務としては、下記の業務を前年度に引き続き行なう。
1)内外の放射能調査資料の収集、整理、保存
2)海外との放射能関係情報交換
3)放射能調査資料の解析
 また、これらの資料の一部をとりまとめて放射能調査資料として刊行する。

第6節 実態調査

 本研究所においては、研究に関連する問題のうち、必要な事項について実態調査を行ない、その結果を活用して研究の促進をはかっている。

 本年度における実態調査の概要は以下のとおりであり、これに必要な経費としては、467千円を計上する。

(1)ビキニ被災者調査(障害臨床研究部)
 昭和29年3月、南太平洋ビキニ海域において核爆発実験による放射性降下物に被曝した元第5福龍丸乗組員について、従来から体内残留放射能の測定および臨床的諸検査を実施してきたが、本年度においても引き続き被災者を入院させ、血液学的検査、皮膚科的検査、肝機能検査、眼科的検査のほか、必要に応じて体内放射能の測定などを行なう。

(2)診療用放射線照射器具および診療用放射性同位元素による国民線量に関する実態調査(物理研究部)
  本調査は、診療用放射線照射器具(密封小線源)および診療用放射性同位元素(非密封線源)により日本人の受ける遺伝有意線量および白血病有意線量を推定することを目的とする。

 そのため、調査は放射線治療を行なっている350施設および非密封線源を使用している180施設を対象にして、治療患者の性別、年令別、線源別、使用方法別、治療回数、治療件数および治療線量を調べる。一方、人体ファントムを使用した治療のシュミレーションから生殖腺線量および骨髄線量を求め、日本人の国民線量を推定する。

第7節 外来研究員

 外来研究員制度は、本研究所における調査研究に関し、広く所外における関連分野の専門研究者を招き、その協力を得て、相互知見の交流と研究成果の一層の向上をはかることを目的としている。

 本年度は、これに必要な経費として2,346千円を計上し、下記の研究課題について、それぞれ該当する研究部に外来研究員を配属し、研究を実施する。

(1)CVH反応の病理学的研究
  とくに細網内皮系に及ぼす影響について
(2)腫瘍細胞に対する速中性子線の致死効果に関する研究
(3)放射線障害の細胞遺伝学的研究
  とくに霊長類に関して
(4)胎仔(実験動物)への放射性核種の移行代謝および内部被ばくの研究
(5)細胞核のエックス線障害とその修復機構
(6)白血病細胞の増殖代謝の調節機構に関する研究


第Ⅲ章 枝術支援

 技術部では、本年度経常運営費として、39,927千円、廃棄物処理費11,359千円、特定装置費58,693千円を計上し(ほかにサイクロトロン設備整備費およびサイクロトン棟新築工事費として、国庫債務負担行為中昭和47年度現金化分、単年度予算分がそれぞれ257,436千円および220,000千円が計上された。)、共同実験施設の運営管理、実験用動植物の増殖、管理および供給、所内各施設の安全管理および放射性廃棄物の処理など、各研究部の調査研究遂行に関連した必須の技術支援を行なう。

  とくに、本年度はサイクロトロン装置の主要部分の導入およびそれの試験に対処し、受入れ体制の充実をはかるとともに、リニアック棟建屋の建設に当る。また、計画的な実験動物の供給体制の強化につとめ、データ処理室では電子計算機のより一層の利用体制の拡充を進める。

 なお、共同実験施設、機器等の効果的運用、実験動物の飼育環境の改善・ラジオアイソトープ、放射線関連施設における安全管理ならびにその効率的利用をはかり、かつ、担当者の内外現場訓練の実施により、高度の技術支援体制の強化につとめる。

(1)技術業務関係では、本年度予算化されたリニアック棟の建屋の建設を行なう。

 データ処理業務では、計算機の総合的利用体制の拡充およびソフトウェア体系の充実をはかる。

 また、サイクロトロン棟建設に係わる特高変電等の増設に伴い、変電施設の充実をはかる。

  なお、ボイラー、空調等の基本施設、各種共用機器、放射線照射装置では、さらに効果的な運用を期し、計画的な更新、修理をはかる。

(2)放射線安全管理業務関係では、危険度に応じた重点的管理方式の活用を行ない、業務の一層の充実をはかる。
  また老朽化した施設、機器等については、修理、更新を計画的に進め、遺漏なきを期する。

 なお、サイクロトロン導入に伴う施設内外の安全について、その安全管理方法の検討を進める。

(3)動植物管理業務では、研究用動物の管理、供給については、前年度に引き続き、SPF動物をはじめ、所要の種、系統の実験動物の円滑な生産、供給をはかり、計画の達成に最大限の努力を傾注する一方、SPF動物照射実験棟の本格的使用に伴う管理体制の万全を期するとともに、実験観察施設の飼育環境の改善につとめる。

 また、関連機関との密接な連けいのもとに専門技術者としての資質の向上につとめ、業務の充実をはかる。

(4)サイクロトロン設備整備関係については、前年度に引き続いて装置本体ビームトランスポート系およびサイクロトロン棟の建設を進める。

 とくに本年度は、サイクロトロン装置主要部分の搬入組立作業の開始に伴い、建屋建設工事の工程との調整、監督、ならびにサイクロトロン装置組立て手帳の検討を行なう。

 さらに、ラジオアイソトープ生産用機器整備計画、サイクロトロン棟安全管理計画の検討を行なう。

第Ⅳ章 養 成 訓 練

 養成訓練部は、昭和34年度から前年度までに、下表のとおり放射線防護短期課程、放射線利用医学短期課程、放射性薬剤短期課程およびRI生物学基礎医学短期課程を実施し、各課程修了者の累計は1,361名に達した。

昭和46年度末

  本年度は、運営経費として、9,529千円を計上して、養成訓練内容の整備を進め、関係方面との緊密な関連のもとに効果的な運営による研修効果の向上をはかる。

 本年度は、つぎのとおり6回の課程を開設し、130名余の技術者を養成する予定である。
放射線防護短期課程     2回
     (第26回)昭和47年5月下旬~7月中旬
     (第27回)昭和47年10月下旬~12月上旬

放射線利用医学短期課程     2回
     (第22回)(RI診断および放射線治療)
        昭和47年8月下旬~10月上旬

      (第23回)(RI診断)(2年以上の経験者)
        昭和48年1月下旬~3月上旬

放射性薬剤短期課程     1回
      (第9回)昭和47年4月中旬~5月中旬

RI生物学基礎医学短期課程     1回
      (第8回)昭和48年1月下旬~3月上旬

なお、内外の養成訓練制度についての調査を進めるとともに、研修成果の向上をはかるために必要な研究を行なう。

第Ⅴ章 診   療

 病院部は、開設以来、研究所の設置目的にそって、所内各部ならびに所外の関係諸機関との連けいのもとに、放射線障害患者の診断と治療、悪性腫瘍患者の放射線治療、とくに高エネルギー放射線治療およびラジオアイソトープを利用した各種疾患患者の診断あるいは悪性腫瘍、その他の疾患の治療などに関する診療業務を分担している。

 前年度は、開設10周年を記念して、施設の整備にとりかかるとともに、診療した患者の総集計と追跡調査も行なった。病院部受診患者数は年々増加の傾向を示し、前年度はこれまでの最高数を数え、診療内容においても逐年向上している。

  本年度は、これらの成果をふまえて、より一層関連研究部と緊密な連けいを保ちながら、さらに積極的に業務の推進をはかり、診療の一層の成果向上を期する。

 このため、重点的に施設、設備の整備、機器の更新を行なうとともに、運営費において77,557千円を計上し、情報処理の具体策も進め、診療体制の強化、診療業務の能率向上をはかり、以下のように運営する。

(1)放射線障害患者の診療に関しては、ビキニ被災者、イリジウム事故被曝者、その他各種の放射線被曝者についての診断のほか、本年度はとくに、造血器移植に関する特別研究において、適応症例があれば、無菌病室を利用しての骨髄移植の安全実施を試みる。

  造血器移植に関する特別研究に関連して、無菌病室を利用しての骨髄移植の安全実施について検討を行なう。

(2)悪性腫瘍の高エネルギー放射線治療に関しては、とくに、リニアックの更新設置により、深部治療面での一層の成績向上をはかるとともに、中性子線等の医学的利用に関する特別研究において、悪性腫瘍の治療部門でその推進に協力する。

 また、サイクロトロン建設工事の進捗に呼応して、病院部としても諸準備を進める。

(3)診断用機器の整備充実に関して、前年度のガンマカメラの設置に続いて本年度は、エックス線テレビ診断装置、その他を設置することにより、エックス線診断部門での機器を整備充実させるとともに、生化学的検査部門では、ダブルビーム分光光度計を導入して、検査部門の強化をはかる。

(4)RIの医学利用に関しては、本年度は動態機能検査装置を並置して、各臓器の機能、病変部位などの診断のほか、各種の代謝異常疾患についても機能的に診断することにより、診断技術の向上と診療の能率化をはかり、治療成績に一層の向上を期する。

 また、サイクロトロン設置完成後に予期される短寿命ラジオアイソトープの利用に伴う核医学的診断技術の大幅の進歩発展を期するため、その診療体制を強化する。
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