濃縮ウラン対策懇談会報告
昭和46年12月10日
原子力委員会
まえがき
わが国の今後における原子力発電の進展に伴い大量の濃縮ウランの需要が生ずるものと予想され、この供給源の確保はエネルギーの安定供給のため欠くことのできない条件となっている。
これまでわが国においては、日米原子力協力協定に基づき米国から濃縮ウランの供給を受ける一方、昭和44年8月にはウラン濃縮研究開発を特定総合研究に指定し鋭意その推進をはかって来た。
しかし、濃縮ウランに関する海外の諸情勢は最近急速な進展をみせており、原子力委員会においては、これらの動向を詳細かつ多角的に分析するとともに、国としての濃縮ウランの長期安定確保策等につき検討するため、当懇談会を設け、下記構成員により約一カ年審議を重ね、ここにその結果をとりまとめた。
濃縮ウラン対策懇談会構成員
座長 |
有沢 広已 |
原子力委員 |
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与謝野 秀1) |
〃 |
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北川 一栄 |
〃 |
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武藤俊之助 |
〃 |
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松井 明2) |
〃 |
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武田 栄一 |
〃 |
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山田太三郎 |
〃 |
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石原 周夫 |
日本開発銀行総裁 |
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一本松珠キ |
日本原子力発電(株)会長 |
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伊藤 俊夫3) |
関西電力(株)専務取締役 |
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大島 恵一 |
東京大学教授 |
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大山 義年 |
東京工業大学名誉教授 |
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加藤 博見4) |
関西電力(株)副社長 |
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河内 武雄5) |
中部電力(株)副社長 |
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菊地 正士 |
理化学研究所招聘研究員 |
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向坂 正男 |
日本エネルギー経済研究所長 |
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島村 武久6) |
古河電気工業(株)専務取締役 |
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高島 洋一 |
東京工業大学教授 |
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武山 泰雄 |
日本経済新聞社取締役 |
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田島 敏弘 |
日本興業銀行取締役 |
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田中直治郎 |
東京電力(株)副社長 |
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土屋 清 |
総合政策研究会理事長 |
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永野 治 |
東京芝浦電気(株)専任副社長 |
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法貴 四郎 |
住友電気工業(株)顧問 |
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松根 宗一 |
日本原子力産業会議副会長 |
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村田 義夫 |
三菱原子力工業(株)社長 |
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吉山 博吉 |
(株)日立製作所社長 |
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宗像 英二 |
日本原子力研究所理事長 |
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井上 五郎 |
動力炉・核燃料開発事業団理事長 |
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高橋 淑郎7) |
前通商産業大臣官房長 |
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小松勇五郎8) |
通商産業大臣官房長 |
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梅沢 邦臣9) |
前科学技術庁原子力局長 |
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成田 寿治10) |
科学技術庁原子力局長 |
注)
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1),4)
2),3),5),6)
,7),9) 8),10) |
第3回まで
第5回から
第6回まで 第7回から |
Ⅰ 濃縮ウランに関する海外の動向
自由世界の原子力発電設備容量は年々増加の一途をたどり、ENEA/IAEA報告(1970.9)によれば、1980年(昭和55年)には約3億kWに達し、これに伴い濃縮ウランの需要も同年には年間分離作業量にして約4万トンに達するものと予想されている。
現在、自由世界で商業的に濃縮ウランを供給しているのは米国のみであり、同国は、今後とも現有3工場での予備生産およびその濃縮能力増強計画等により、また、その後は新工場の建設により、この増大する内外の需要に応じていくものとみられている。しかし、米国の供給能力が将来にわたって世界の全ての需要を満たすことは困難であるとみられており、また、最近の2回にわたる濃縮料金の値上げや、近い将来における濃縮施設の民間移管等その供給条件に不安定要素があるので、エネルギーの安定確保の面から、各国は何らかの方法で濃縮ウラン入手先の多様化、安定化を図るべく努力している。
欧州では、1980年頃には米国現有3工場の生産能力をかなり上回る濃縮需要があるものと予想されており、同年頃には欧州濃縮工場が必要になるものとみられている。
このため、イギリス、オランダおよび西ドイツの3国は、遠心分離法による3国共同濃縮協定を締結し、すでにパイロット工場の建設に着手している。また、フランスは、ガス拡散法により1980年頃生産開始を目標に欧州共同濃縮工場を建設するプロジェクトを提案しており、すでにこのための開発試験が実施されている。
また、欧州共同体(EC)は、1980年までに年間5,000~8,000トンの分離能力を有する全欧州規模の濃縮工場を稼動させる必要があり、1973年中にその建設を開始すべきであるとしている。
他方、カナダ、オーストラリア等の資源国は、自国の天然ウランを付加価値の高い濃縮ウランの形で市場に出すべく、もし米国その他の国からガス拡散技術の導入が可能であれば多国間による国際濃縮工場を自国に建設してもよいという立場で計画を検討している。
これらの動きに対し、米国は本年7月、適切な資金上および機密保護上のとりきめに基づき、多国間ベースで行なう濃縮計画に対して同国のガス拡散技術を提供する可能性につき関係国と予備的話合いに応ずる用意があることを表明した。フランスも同様に、前述の欧州共同濃縮工場計画に同国のガス拡散濃縮技術が活用されることを働きかけるとともに、わが国を含むその他の需要国の参加による国際濃縮工場に対しても技術協力の用意があることを表明している。
このように、濃縮ウラン需要国は、1980年頃までは米国の現有3工場に依存する一方、それ以降は一部自給を含めた新しい供給源によりその多様化、安定化を図るよう努めている。
Ⅱ わが国の濃縮ウラン安定確保策
わが国の原子力発電はいよいよ本格的な展開の時期に入り、1985年には、その発電設備容量は6,000万kWに達し、全発電設備容量の中に占める比率も27%に達するものと見込まれている。
これに伴い濃縮ウランの需要は急速に増大する見通しであるが、一方では濃縮ウランのみには依存しない新しい型の動力炉として新型転換炉および高速増殖炉の開発が積極的に進められている。しかし、今後十数年間に建設が予定される原子力発電所は主として軽水炉であり、新しい型の動力炉が採用されても、引続きなお相当量の濃縮ウランが必要であると見込まれる。
濃縮ウランをめぐる国際情勢は極めて流動的であるが、わが国としては、引続き米国からの供給確保に努力するほか、特に1980年頃以降に必要とされる濃縮ウランについては、その供給源の多様化、安定化を図るため、国際濃縮計画への参加を考慮するとともに、1980年代に一部国産化することを目標に研究開発を強力に推進する必要がある。
(1)日米原子力協力協定による供給確保
現在、日米原子力協力協定により確保されている濃縮ウランの供給量は、1971年までに着工が予定された13基の発電用原子炉(出力合計約700万kW)に必要な濃縮ウラン154トン(U235量)である。また、その後新たに1973年までに着工が予定される13基(出力合計約1,000万kW)の発電用原子炉に必要な濃縮ウランの追加供給が事務的には合意されている。
さらにその後については、1980年頃までに運転開始する原子力発電所に必要な濃縮ウランは、世界的にみて米国の現有工場の濃縮能力の増強に期待せざるを得ないものと思われる。
(2)国際濃縮計画への参加
1980年代になると米国の現有工場だけでは自由世界の需要をまかなうことはできなくなる情勢にあり、わが国としても米国の新工場あるいは最近提唱されている各種の国際共同濃縮事業に期待しなければならない。これらの計画は世界の需要に見合って具体化の時期と規模が決められることになるであろうが、かなりの需要をもつわが国としては、その帰すうには重大な関心がもたれるところである。
しかし、米国新工場の建設決定は1975年頃になろうともいわれており、一方共同事業は計画から実現までに長期間を要し、かつ、わが国の態度によって大きく左右されるものであることを勘案すると、米国およびフランスが提案している国際濃縮計画の可能性につき検討し、遅くとも1973年(昭和48年)には参加についてのわが国としての方針を決定することが必要である。
このため、政府としての基本的な方針決定に資することを目途に原子力委員会に新たに「国際濃縮計画懇談会」(仮称)を設置するとともに、政府と協力してウラン濃縮事業に関する総合的調査検討、特に国際濃縮計画への参加の可能性についての検討を行なうことを目的として「ウラン濃縮事業調査会」(仮称)を民間において早急に設置することが必要である。
(3)ウラン濃縮技術の研究開発
国として濃縮ウランの長期安定確保を図るためには、その需要の一部について1980年代に国産化を開始することを目標に研究開発を強力に推進する必要がある。
このため、当面は、大筋において既定の方針に沿いつつ、内外の情勢を勘案のうえ所要の研究開発を行なうものとする。すなわち、遠心分離法については高性能遠心分離機の開発を重点に所要の試験研究を行ない、また、ガス拡散法については、同方式の技術的なかなめである隔膜の高性能化に関する試験研究を重点的に行なうとともに、六フッ化ウラン循環ループの試験研究を継続して行なうものとする。
しかし、ウラン濃縮技術の確立のためにはさらに長期的かつ具体的な計画のもとに強力に研究開発を推進して行く必要があるので、研究開発計画、開発体制、所要資金等の検討を行なうことを目的として原子力委員会に新たに「ウラン濃縮技術開発懇談会」(仮称)を設置するものとする。この場合、将来における諸外国との技術協力の可能性についても十分考慮するとともに、必要があれば前述した当面の研究開発の進め方についても所要の検討を加えるものとする。
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