目次 |次頁


昭和47年度原子力関係予算見積方針について



昭和46年9月13日
原子力委員会


Ⅰ 基本方針

 わが国の原子力開発利用は原子力発電、放射線利用等の実用化が急速に進展するとともに新型動力炉の開発、原子力第1船の開発、ウラン濃縮、核融合等の研究開発分野でも着実な進展をみせている。また、原子力に係る国際情勢においても、濃縮ウランをめぐる問題等新しい動きがみられている。このような情勢に対応して、昭和47年度においては、近く改訂する「原子力開発利用長期計画」に基づき、国のプロジェクト(動力炉の開発、原子力第1船の建造)の推進をはじめとして、ウラン資源および濃縮ウランの安定確保を中心とする核燃料対策の展開、安全対策の強化、保障措置関連施策の充実、その他の研究開発の促進等原子力開発利用を計画的に推進するために必要な諸施策を講ずる。

 動力炉の開発は、「動力炉開発に関する基本方針」および「動力炉開発に関する第二次基本計画」に基づいてこれを推進する。すなわち、高速増殖炉については、昭和49年臨界を目標に実験炉の建設をすすめるとともに、原型炉建設に必要な研究開発を行なう。また、新型転換炉については、昭和50年臨界を目標に原型炉の建設を行なう。

 核燃料対策としては、原子力発電の本格化にそなえて、核燃料の長期安定確保を図るためウラン濃縮の研究開発を強力に推進するとともに民間による海外ウラン資源の探鉱開発の助成、動力炉・核燃料開発事業団の海外調査の強化等ウラン資源確保対策の積極的推進を図る。また、昭和49年度完成を目標に、使用済燃料再処理施設の建設をすすめる。

 原子力第1船「むつ」の建造については、「原子力第1船開発基本計画」に基づき、原子炉艤装を完了し、完成前諸試験等を実施する。

 最近の諸情勢にかんがみ、とくに安全対策に重点を置き、原子力施設の安全対策、放射線障害の防止、放射性廃棄物の処理、処分に関する研究開発および環境における放射能調査研究の一層の充実を図る。

 また、原子力開発利用の発展に伴う保障措置業務の増大に対処するため、保障措置技術の開発、国内保障措置制度の充実、行政機構の拡充等、所要の措置を講ずる。

 さらに、日本原子力研究所および理化学研究所における研究、国立試験研究機関における研究ならびに民間に対する試験研究の委託についても、従来どおり、その充実を図ることとし、これら各分野の研究開発のうち、食品照射に関する研究、核融合に関する研究等については、ひきつづき原子力特定総合研究としてその強力な推進を図る。

 また製鉄への利用を中心とした多目的高温ガス炉について、日本原子力研究所を中心に研究開発を推進する。

 国際協力、原子力知識の普及啓発、人材の養成等についても、ひきつづきその充実を図る。

 以上の方針に基づき慎重に調整を行なった結果、昭和47年度の原子力予算は高速増殖炉および新型転換炉の研究開発プロジェクトに必要な経費をはじめとし、各省庁行政費までを含めて所要経費の総額は約623億円、(国庫債務負担行為額は約206億円)である。このうちウラン濃縮の研究開発に要する経費として約21億円を計上したが、今後の国際情勢の変化をみきわめたうえ必要な場合は変更を加えるものとする。

 また、行政機関の定員を含め原子力開発機関等に必要な人員は426人である。


Ⅱ 主な事業

1 高速増殖炉および新型転換炉の研究開発

 高速増殖炉については、実験炉の建設をすすめるとともに、実験炉および原型炉に関する炉物理、炉工学、核燃料、材料、安全性等の研究開発および原型炉の設計研究を行なう。このため、燃料交換装置の試作等に着手するほか、原型炉の建設に関する諸準備をすめる。
 新型転換炉については、ひきつづき原型炉の建設をすすめるとともに、各種の研究開発を推進する。
 これら高速増殖炉および新型転換炉については、動力炉・核燃料開発事業団が、日本原子力研究所、国立試験研究機関、大学、民間等の協力のもとにその研究開発を推進する。

2 核燃料に関する対策

(1)濃縮ウランの確保

 ウラン濃縮の研究開発については、将来わが国において必要とする濃縮ウランの一部を国産化することを目標として、日本原子力研究所がガス拡散法を、動力炉・核燃料開発事業団が遠心分離法をそれぞれ関係機関および民間企業の協力のもとに研究開発をすすめる。
 なお、濃縮ウランをめぐる内外情勢は、多国間濃縮工場計画に関する動き等、極めて流動的であるので、これらの研究開発については、今後の情勢変化に即応して所要の調整を行なう。

(2)海外ウラン資源の調査探鉱

 海外ウラン資源の調査探鉱については、ウラン資源確保の重要性にかんがみ、民間による海外ウラン資源の探鉱開発に対する助成を強化するとともに、動力炉・核燃料開発事業団による海外調査業務を強化する。

(3)使用済燃料再処理施設の建設

 再処理施設については、昭和49年度に稼動させることを目標として、建設をすすめるとともに、海域についての所要の調査研究を実施する。
 その建設資金については、一般会計からの出資、民間からの出資および政府保証借入れ等によりこれを確保する。

3 原子力船「むつ」の建造

 原子力船「むつ」については、日本原子力船開発事業団により、原子炉艤装、出力上昇試験、海上公試運転を行なう。また、定係港施設の整備を行なうとともに、乗員の養成訓練等を実施する。

4 安全対策の強化

(1)原子力平和利用に伴う安全対策

 日本原子力研究所、放射線医学総合研究所、民間企業等において原子力施設の安全確保および放射線障害防止に必要な研究ならびに低線量放射線による人体の影響に関する調査研究等を実施する。とくに、日本原子力研究所においては、ひきつづき1次冷却材喪失実験等を行なうとともに、新たに安全性研究施設(NSRR)の建設を開始する。また、放射性廃棄物の処理、処分の重要性にかんがみ、関係機関の協力の下に、固体廃棄物の試験的海洋投棄にそなえ、海洋調査に着手するとともに、所要の研究開発をすすめる。

(2)放射能調査研究の強化

 放射性降下物等の環境に与える影響にかんがみ、放射能調査研究および原子力軍艦の寄港に伴う放射能調査を実施する。なお、沖縄の本土復帰に伴い、沖縄における放射能調査を実施する。

5 原子力特定総合研究の推進

 ウラン濃縮の研究開発のほか、次の研究開発を推進する。

(1)核融合の研究

 核融合については、将来における制御熱核融合反応の実現を目標として、まず第一段階の研究開発を日本原子力研究所、理化学研究所および電子技術総合研究所が、大学、民間企業等の協力のもとに推進するとともに、日本原子力研究所における中間ベータートーラス磁場装置の製作を完了し、実験を開始する。また電子技術総合研究所において高ベータプラズマ実験を開始する。

(2)食品照射の研究開発

 食品照射については、その実用化の見通しを得ることを目標として、国立試験研究機関、日本原子力研究所、理化学研究所等が協力してその研究開発を推進するとともに、日本原子力研究所において食品照射の共同利用施設の建設整備を行なう。

6 原子炉の研究開発および利用

 在来型炉については、その国産化を促進するために、日本原子力研究所において、動力試験炉の高出力運転(90MW)を行なうほか、材料試験炉により各種燃料、材料の本格的照射を実施するとともに、関連諸施設の整備を行なう。さらにプルトニウムの利用については、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団において、研究開発をすすめる。
 また、製鉄への利用を中心とした多目的高温ガス炉については、日本原子力研究所を中心として、実験炉の設計研究、伝熱流動試験、核燃料、耐熱材等の研究開発を行なう。

7 放射線の利用

 日本原子力研究所においては、ひきつづき放射線化学関係の研究をすすめるとともに、ラジオアイソトープの生産および利用開発の充実を図るほか、国立試験研究機関、理化学研究所、民間企業等において、放射線化学をはじめ、医学、工業、農業等の各分野における放射線利用に関する研究を促進する。また、速中性子線によるがん治療研究については、放射線医学総合研究所において、医療用サイクロトロンの建設を完了し、試運転を実施する。

8 保障措置関連施策の強化

 今後の保障措置業務の増大に対処するとともに、その合理化に資するため、保障措置技術の開発、国内保障措置制度の充実、行政機構の強化等所要の措置を講ずる。

9 民間企業に対する研究委託

 原子力平和利用研究委託費については、原子力利用の実用化段階にそなえて、原子力施設の安全対策、保障措置の技術開発、船用炉の研究開発および原子力特定総合研究の推進に関するものに重点を置き、この拡充を図る。

10 国際協力の推進

 日米、日英、日仏、日豪原子力会議の開催等によりこれら諸国との協力を推進するほか、海外諸国および国際原子力機関との協力を推進し、科学技術者の交流、情報の交換、国際的共同事業への参加等をすすめる。さらに、欧州原子力機関に正式加盟し、国際協力の充実を図る。

11 原子力知識の普及啓発

 原子力の平和利用に対する国民の理解を深めるとともに広く国民全般に原子力に関する正しい知識の普及を図るため、出版物等による広報活動、講演会および各種ゼミナーの開催等普及啓発活動を積極的に推進する。

12 人材の養成

 日本原子力研究所の原子炉研修所およびラジオアイソトープ研修所ならびに放射線医学総合研究所養成訓練部における原子力関係科学技術者の養成訓練を強化するとともに、ひきつづき海外に留学生を派遣する。

13 行政機構の整備、拡充

(1)保障措置課の設置

 保障措置に係る新しい情勢および保障措置業務の増大に対処するため保障措置課を新設する。

(2)人員の充足

 原子力委員会の調査機能を強化するとともに保障措置業務および放射能調査業務等の増大に対処するための所要の人員の充足を図る。
 これらのための職員の必要増員は、12名である。

14 東海、大洗地区地帯整備

 建設省の行なう公共事業の一環として、東海、大洗地区における道路の整備事業等に必要な補助措置を講ずる。


Ⅲ 原子力関係機関等に必要な経費

1 日本原子力研究所

 東海研究所、高崎研究所および大洗研究所の研究部門の充実、研究サービス部門の整備等を含め、必要な経費は約139億円(うち政府出資約132億円)、国庫債務負担行為額は約47億円である。また、材料試験炉の運転利用、ウラン濃縮、核融合等の研究開発の推進等のため80名の増員を行なう。

2 動力炉・核燃料開発事業団

 高速増殖炉および新型転換炉の開発プロジェクトを推進するために必要な経費は約397億円(うち政府出資約358億円)、国庫債務負担行為額は約158億円である。また、動力炉開発プロジェクト推進体制の整備を図るため229名の増員を行なう。
 核燃料物資の探鉱、製錬、ウラン濃縮の研究開発、再処理施設の建設等に必要な経費は約126億円(うち政府出資約64億円)、国庫債務負担行為額は約1億円である。また、ウラン濃縮の研究開発、再処理施設の建設のため58名の増員を行なう。
 なお、政府出資の総額は約422億円、国庫債務負担行為は約159億円であり、定員増は総計287名である。また、再処理施設建設のための政府保証借入金等は約61億円である。

3 日本原子力船開発事業団

 原子力船「むつ」の建造、定係港施設の整備、乗員養成訓練等に必要な経費は約19億円(うち政府出資約19億円)である。また、原子力船「むつ」の運航に必要な船員、定係港管理要員等として22名の増員を行なう。

4 放射線医学総合研究所

 速中性子線によるがん治療研究、放射線医学領域における造血器移植に関する調査研究、放射能の海産生物に対する影響の調査研究等をひきつづき行なう。サイクロトロンの建設等を含め、必要な経費は約17億円である。また、このために必要な25名の増員を行なう。

5 国立試験研究機関

 核融合、食品照射、原子力の安全性、がん対策に関するもの等に重点を置いて研究を行なう。このための原子力関係経費は約8億円である。

6 理化学研究所

 核融合、食品照射、サイクロトロンによる研究等を行なう。このための原子力関係経費は約2億円である。


昭和47年度原子力関係予算要求総表




目次 |次頁