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放射線医学総合研究所昭和46年度業務計画



第Ⅰ章 基本方針


 第1節 計画の概要と重点

 本研究所は、設立以来一貫して放射線の人体に及ぼす影響および放射線の医学的利用に関する研究の領域において先駆的役割りを果たしつつ多大の成果をあげるとともに、これらの領域における多数の技術者の養成訓練を行なつてきた。
 昭和46年度はこれらの業務を引きつづき推進するとともに、本研究所に寄せられている期待に応えるため、関係方面との緊密な連けいのもとに業務を効果的に推進する。
 すなわち、研究部門については、本研究所の特色である総合性を発揮しつつ、これまでに築き上げてきた研究基盤にたつて、特別研究等の進展をはかるとともに、研究活動の源である経常研究を推進する。
 また、原子力平和利用の実用化に伴つて本研究所の果たすべき役割はますます重要となつてきたので、新たな観点から長期的な見通しのもとに低線量放射線の影響、海洋調査研究をはじめとする環境放射能に関する研究等の強力な推進をはかる。
 診療部門および養成訓練部門については、関係方面との緊密な協力のもとに業務の充実をはかり、また、技術支援部門については、拡大しつつある研究に対処して施設と専門的業務の充実・整備をはかり、他方施設の面については中性子線等の医学的利用に関する研究を推進するため、サイクロトロン棟の建設を進める。
 以上のような基本方針のもとに、昭和46年度における計画の重点は次のとおりとする。

1 特別研究
 特別研究については「放射線医学領域における造血器移植に関する調査研究」を引き続き実施するとともに、前年度に開始した「中性子線等の医学的利用に関する調査研究」を当初計画に従い推進する。

2 指定研究
 指定研究については、いくつかの分野の緊密な協力のもとに行なうことにより実効が期待され、所の目的に対して適切、有意義であると認められる研究を指定研究とし、本研究の総合性を発揮しつつ、その積極的推進をはかる。

3 経常研究
 本研究所の研究活動の源である経常研究については、研究水準の一層の向上をはかりつつ各研究部の主体性のもとに長期的な研究方針をもつて推進する。

4 海洋調査研究
 海洋調査研究については、当初計画に従つて推進するとともに、今後更に臨海実験場を中心として微量放射性物質の海洋における挙動、海産生物および人体におよぼす影響等に関する研究の充実をはかる。

5 施設、設備の整備
 施設、設備の整備に関しては、サイクロトロン棟の建設に着手するとともに、造血器移植に関する研究の進展に対応して無菌病室の整備をはかる。


 第2節 機構、予算

 昭和46年度は、サイクロトロン施設の建設に対応し、技術部サイクロトロン準備室の強化、拡充を行なうとともに、中性子線等の医学的利用に関する調査研究の進展をはかるため臨床研究部臨床第2研究室を充実する。また実験動物の質の向上をはかるため、技術部動植物管理課を強化する。
 昭和46年度の予算は、1,488,444千円で、前年度の1,097,160千円に比し、391,284千円の増額である。増額分のうちおもなものは、サイクロトロン棟の国庫債務負担行為現金化分220,000千円診療機器新鋭化のためのガンマカメラ27,000千円等である。このほか、放射能調査研究費として18,660千円が計上されている。


第Ⅱ章 研究


 第1節 特別研究

 本年度は特別研究に必要な経費として、試験研究用備品費、消耗器材費など37,513千円を計上する。
 各課題の概要は以下のとおりである。

1-1 放射線医学領域における造血器移植に関する調査研究

 本調査研究は、原子力開発の急速な進展に伴う原子力施設や原子力事業従業員の増大にかんがみ、万一の不測の事態に対し的確な処置をとり得るよう対策を確保し、原子力の健全な開発に資するため、種々の基礎的、臨床的諸問題を解決し、放射線障害者の処置に万全を期するとともに、諸種悪性腫瘍の治療の進展をもはかることを目的として、昭和44年度から特別研究として実施してきた。
 本特別研究発足以来、次の4グループを編成して研究を進めてきたが、昭和46年度も同じ編成のもとに研究を進める。

(1)組織適合性識別機構に関する研究グループ
 移植の成功には組織適合性が重要な因子となる。
 そのために行なう「宿主」と「寄主」の「型合わせ」に関する基礎的研究を行ない、また「免疫寛容」に関する実験も行なう。一方食細胞の非自己認識機構に関する実験を続行する。

(2)造血器移植に伴う続発症の発現機構に関する研究グループ
 続発症発生に及ぼす胸腺の役割についての検討を続行し、異系骨髄移植による免疫能の回復、細胞性免疫能の回復について検討を加え、さらに、続発症と遅延性放射線障害の関係を病理学的に検索する。
 また、リンパ球の続発症発症に及ぼす影響を追求する。

(3)移植造血細胞の動態に関する研究グループ
 同系あるいは異系移植を行なって、照射線量や移植前後の処置等と回復の関係を明らかにして、応用面への基礎資料を得る。また、ヒスタミンや網内系の作用と移植細胞との関係に検討を加えるとともに、引き続き、幹細胞の選択的分別に関する研究を実施する。

(4)造血器移植の臨床的応用と改善に関する研究
 臨床的に用いられる組織適合性試験の検討と、いわゆる免疫抑制剤の効果についてもさらに検討を加える。また、造血細胞の冷凍保存とその使用について研究を続行する。さらに、病院内に無菌病室の設置を行なう。

1-2 中性子線等の医学的利用に関する調査研究

 本調査研究は、わが国における放射線の医学利用における研究開発の促進の一環として、サイクロトロンを利用し、総合的な研究体制のもとに中性子線による悪性腫瘍の治療に関連する諸問題を解明するとともに、サイクロトロンにより生産されるラジオアイソトープの医学的利用についても研究を推進することを目的として昭和45年度から5か年計画で特別研究として実施してきたものである。サイクロトロン装置は昭和48年度末に完成が予定されているので昭和46年度においては本特別研究は45年度にひきつづき次の各研究グループの編成のもとに主としてバンデグラフを利用して実施する。

(1)中性子線等の測定に関する研究グループ
 速中性子の実用的な測定法を確立するため、線量計の開発等吸収線量評価に関する研究および中性子線のエネルギー分布に関する研究を行なう。
 また線質に依存する放射線作用の解明に役立てるため、微視的エネルギー吸収についても研究する。

(2)生物学的効果に関する研究グループ
 中性子線の生物学的効果を解明するため、分子レベルにおいては超遠心法によりDNA切断の検出に関する研究を行ない、細胞レベルにおいては、細胞致死効果、RBE、細胞死初期過程の生化学的、病理学的解析、染色体異常および酸素効果とLET依存性に関する研究を進める。また個体レベルにおいては、再生系、増殖系組織に及ぼす中性子線効果および細胞遺伝的研究ならびに体液因子と腫瘍増殖の相関性に関する研究を行なう。

(3)悪性腫瘍の治療に関する研究グループ
 速中性子線治療治療、技術および治療効果の向上に関して速中性子線による根治症例を得て速中性子線治療の基本型を確立し、さらにエピサーマル中性子線の利用の可能性と有機ホー素化合物の改善とその利用方法に関する調査研究を実施する。

(4)短寿命アイソトープの医学的利用に関する研究グループ
 サイクロトロンによって、医学的に有用なラジオアイソトープが生産されるので、その生産および利用について調査研究を行なう。

(5)医用サイクロトロンの安全管理に関する研究グループ
 患者、作業従事者等に対する障害の防止および管理区域内外における安全管理等についての研究を続行する。


 第2節 指定研究

 指定研究についてはいくつかの研究部が相互に緊密な協力のもとに行なうことにより相乗的成果が期待されるものとして本年度は新たに次の2課題を設定し積極的に推進することとする。
 また前年度指定研究として実施した「プルトニウムによる内部被曝に関する調査研究」等は所期の成果を得たので本年度は更にその発展充実をはかる。

1 ガンマ・カメラのデータ収集と処理に関する研究
 本年度導入される新型ガンマ・カメラの画像の一様性、分解能、直線性、耐計数率性の向上をはかるため、電子計算機へオン・ラインで結合して、ガンマ・カメラの画像処理とデータの収集を行なう。

2 SPFマウスに導入すべき腸内細菌叢についての研究
 特にSPF動物においては、緑膿菌を保有し易く放射線照射関係の実験では緑膿菌の存在が実験結果の解析を困難とすることがあるので、緑膿菌に対して抵抗性のある細菌叢を安定にSPF動物の体内に保有させ、緑膿菌耐性を有するSPF動物を開発する。


 第3節 経常研究

 本年度は経常研究に必要な経費として研究員当積算庁費144,218千円および試験研究用備品費44,818千円をそれぞれ計上する。
 経常研究に関する各研究部の本年度における方針および計画の大要は以下のとおりである。

3-1 物理研究部

 本研究部は、放射線障害の予防および医学利用に必要な放射線の適切な計量と防護方法について研究を進めるとともに、放射線障害の解明に必要な人体組織に対する巨視的、微視的な吸収線量を評価するための物理的基礎資料を得ることを目的としている。
 人体内放射能測定においては測定器の性能向上と情報処理に重点をおき、前年度整備したソフトウェアを活用してヒューマンカウンタおよびRIイメージの電子計算機による情報処理に関する本格的研究に入る。RIイメージのアナログ処理に関しても前年度行なった1次元的処理を2次元に拡張する方法の基礎的研究を開始する。新型シンチカメラの開発研究に関しては、病院部と協力して高分解能ガンマカメラの実用化をはかる。また低エネルギー用RIカメラとして比例計数管型カメラの検討を行なう。
 高エネルギーエックス線・電子線の吸収線量評価については、前年度まで諸種の方法を検討しているが、本年度は高線量率放射線場における電離箱に対する再結合損失の補正および電子線の吸収線量測定に関してみられる電離箱とフリツケ線量計間の差といった実験と理論とのズレについて検討を加える。他方エネルギー損失に関しては、高エネルギーベータ線分析器を改良し、10~30MeV電子線の物質を通過するときのエネルギー損失および通過後の空間角度分布の測定を行なう。
 医学利用による国民線量の推定のうち、エックス線診断による遺伝有意線量と白血病意有線量については終了し、本年度は治療放射線による国民線量の全国調査を行ない、その予備実験を行なう。またRI内部被曝については、前年度に引き続き線量評価の研究を行なう。外部被曝については、エッチピット法による中性子線量測定の基礎的実験を行ない、さらにエクゾエレクトロンの線量計への応用についても検討を始める。また医学生物学用原子炉の調査研究も引き続き行なう。

3-2 化学研究部

 本研究部は、放射線の生体に対する作用機構を主として物理化学的・生化学的観点から基礎的に追求すること、および放射線の影響を推定し評価するうえで重要な元素や放射性核種に関して、無機化学的・分析化学的見地から研究することを目的としている。
 第1の放射線の作用機作に関連する課題に関しては、本年度は以下の研究を行なう。タンパク質-核酸複合系、核酸合成系における核酸の存在状態とその変化を物理化学的手法を用いて研究し、酵素・基質系について放射線の作用を生化学的に追求する。また、放射線感受性が照射後の培養温度により大いに異なる大腸菌の変異株に関する研究を継続するが、この変異株には照射により生成した損傷の修復機構が欠けていることから、温度の影響は損傷が存在してもこれに耐えて増殖するという細胞の能力に関与していることを予想して、この変異株における照射後のDNAの複製あるいは増殖の様相を分子生物学的な方法を用いて解析する。さらに、動物において放射線照射により敏感に影響を受ける抗体産生の仕組みを理解し、かつ臓器税殖における問題点の一つを解明する目的で、食細胞の研究を継続する。
 第2の放射線影響研究の上で重要な元素、放射性核種に関連する研究の本年度の内容は次のとおりである。放射性核種を効率よく吸着し、かつ、核種について選択性のある金属塩-イオン交換樹脂や無機イオン交換体を作製し、その化学的性質放射性核種に対する吸着挙動をしらべ、放射化学的な応用をはかる。また、分析化学的に、および放射化学の実用面でひろく使われているキレート試薬と遷移元素との種々の溶液中での相互作用に関する研究を行なう。

3-3 生物研究部

 本研究部は、生体における放射線障害発現機構の生物学的初期効果から最終効果に至る過程について、それらがどのように関連し、またそれらの多くの階程のどの部位が障害の拡大に最も大きく関与しているかを究明する。このため細胞内微細構造から個体に至る種々のレベルでの一連の研究を引き続き推進する。
 放射線感受性の異なるいくつかの哺乳類細胞を用い、照射による細胞核DNAの障害・照射によって生じるSH反応性活性物質と膜構造との相互作用、およびそれのもたらす代謝との関連を検討し、さらに、被照射細胞のエネルギー代謝阻害と細胞死の関係の実態を把握しようとするものである。一方、細胞のエネルギー生成系の局在するミトコンドリアの電子伝達系およびエネルギー伝達系の各種の段階は、その放射線感受性が異なるので、その1次障害の作用機序を追求し、あわせて感受性を形態的構造との関連において追求する。以上の研究により障害が細胞レベルで進行する筋道を追求し、これらの結果をふまえて、さらに個体レベルで障害が発現する機構を知るための研究を行なう。すなわち、従来行なってきた魚類を用いての細胞集団動力学的解析は一応の知見を得たので、本年は線質の差異による作用を魚類とアルテミアを用いて推進する。
 なお個体レベルの研究をより精密に進めるため、無菌魚飼育の実際的技術の習得に着手する。低線量の放射線による晩発性効果についてのメダカを用いた研究は、本明年度中にデータを集積する予定である。また放射線による発がん、胎児期被曝による分化の異常等についての有力な研究手技の開発につとめる。

3-4 遺伝研究部

 本研究部は、低線量でも問題となる放射線の遺伝的障害について、その機構を解明し、危険度を評価するための資料を得ることを目的として研究を進めている。このために、分子・細胞・個体・集団の各レベルにおける研究を統一的に推し進める必要がある。本年度は、分子レベルについて、細菌ウィールス-コリシン系を用い、遺伝子DNAの複製とその阻害に直接に供与する特異なタンパク質の生成機構について、分子遺伝学的な解明をはかる。また、酵母のダイソーム系を用い、異なる型の遺伝障害の誘発機構に関与する遺伝子系の解析を行ない、その特異性を明らかにして、高等動物の細胞レベルにおけるEikind型回復の機構との関連を明らかにする。集団レベルにおいては、被曝集団に生じた致死的有害遺伝子およびアイソザイム遺伝子の突然変異を指標として、それらの被曝後の頻度変化(特に平衡状態に復帰した後の残存効果)をショウジョウバエの人工集団を用いて実験的、理論的に研究する。人類集団における被曝遺伝子の保有、拡散および発現の頻度を予測するために必要な日本人についてのパラメータすなわち近親婚頻度、夫婦、親子の出生地の地理的分布などを、戸籍資料の調査と電子計算機を用いた統計遺伝学的な解析によって求める。

3-5 生理病理研究部

 本研究部は、人体に対する放射線障害の機構を、生理学・病理学の見地から研究することを任務としている。したがって生体を構成する諸単位、すなわち、器官・組織・細胞のレベルで放射線効果が研究され、二次的には腫瘍に対する放射線治療の生物学的・病理学的基礎にも貢献することを目的とする。なお、障害論および骨髄移殖における深い関与を考えて、とくに各研究室は、免疫生物学に力を注いでいる。
 生理部門では、これまで行なってきた抗体産生細胞に対する放射線抵抗性の研究を終了し、免疫記憶細胞の誘導および、その維持の機序について、きわめて基礎的な免疫生物的研究を行なう。また免疫適格細胞の分化過程における胸線から分泌されるホルモン様物質の役割について試験的なアプローチを企図している。
 また放射線の内分泌障害の研究の発展として、生体膜、とくにミトコンドリアに対する損傷が重視された。今年度は電算機を利用した定量立体学的方法を用い、ミトコンドリアの形態と機能の関係を追求する。
 放射線障害論の根幹としての細胞致死効果の研究は培養細胞系(ヒトがん細胞・マウス白血病細胞)を用いて継続される。第1は主要なターゲットの1つと考えられるDNA分子の損傷、すなわちその切断と修復の研究、第2はDNAの複製過程に対する放射線の効果、第3は致死効果にもつとも強力な修飾因子と考えられるSH物質の役割の研究である。
 病理部門では、放射線の晩発効果の研究を開始する。自然白血病発生の少ないD57BL系マウスを用い、骨髄性白血病の誘発方式の検索、白血病発生のさいのビールスの関与の有無、免疫動態との関連を研究する。
 つぎに急性障害の面でもつとも重要な造血臓器障害の精細な病理像を把握するために、照射後の体液変動、とくにヒスタミンの造血系幹細胞動態に対する効果を研究する。また免疫病理学的発展の基礎としてリンパ球移殖等により免疫適格細胞の動態をしらべる。

3-6 障害基礎研究部

 本研究部は、放射線の人体に対する障害、許容量、障害予防等に関する調査研究を行ない、特に身体的障害の軽減および評価など障害予防対策上重要な問題に関し学問的基礎資料を得ることを目的として以下の諸研究を行なう。
 放射線障害の医学的指標に関しては、照射前の飲水量、尿量、尿中5-HIAA量などにつき多次元解析を行ない、次後の照射による死亡例、残存例等との関係その他を調べ、また障害の修飾の機序について栓球動態および腸上皮細胞動態よりの研究に関連して若干の考察を行なってきたが、本年度はとくに栓球造血系、生体アミン代謝系に関する指標を用いての再検討および晩発障害、加令現象との関連に留意し、精細胞系、肝等にみられる染色体異常と照射線量の相関につき研究を行なう。
 急性放射線障害からみた放射線感受性と生理学的性質の差異に関しては、従来種々の角度より検索し得た結果を基礎とし、急性効果より回復した後の晩発効果について照射後長期観察を行ない、LD50からみた放射線感受性の相違するものが晩発効果の発現においてどのように異なるかをとくに造血系の変化に着目して検討中であり、本年度も引き続き研究を行なう。また中枢神経系におよぼす放射線の影響については、中枢神経系が非再生系組織であること、血管との関連が重要であることなどの特殊性を考慮し、低線量分割照射による放射線効果の蓄積と回復、放射線による脳内血管系への影響、とくに脳血流の変化につき検討を行なってきたが、本年度も引き続き研究を行なう。
 内部被曝に関する研究については、被曝の影響評価の基礎となる生物学的根拠を得る目的で、網内系臓器における粒子処理機構、臓器への放射性核種の沈着の機序、試作小動物スキヤンナーによる体内の放射性核種の線量分布の臓器別線量分布の時間的変化の検討などを行なってきたが、本年度も引き続き研究を行なう。
 またとくに239puにつき吸入投与による呼吸機能、吸入および注射投与による肝機能への影響の研究、239puの生体内除染(網内系に着目)につき引き続き検討を行なう。
 各種照射様式による障害の評価については、各臓器の障害と全身障害との関係に対する定量化の試みを基礎として、全身障害の発現機構に対する検討を試み、部分照射による体重および末稍血液の変化、障害の細織学的検索を行なってきたが、本年度はとくに晩発障害に主眼をおき研究を進める一方、数理的研究として従来の寿命の短縮などのほかに組織学的所見の定量化の問題についても研究を行なう。

3-7 薬学研究部

 本研究部は、放射線障害防護物質の合成、物理化学的および薬理学的諸性質の検討、ならびに生殖腺の放射線障害に関する生化学的な解明などに重点をおき研究を実施してきた。
 放射線防護物質に関する合成化学的研究については、前年度において合成に成功した酸素および窒素原子を含む5、6員環化合物の有機化学的諸性質の検討をほぼ終了したので、これら誘導体の合成と放射線防護効果の検討を行なうとともに、含イオウ環状化合物、含窒素ビシクロ化合物の合成、ならびに合成法の検討を行なう。
 アミノチオール類の放射線防護作用に関する物理化学的研究は、化学構造と反応性・分子構造と反応性・安定性などにつき一応の検討を終え、各種の知見が得られたので、本年度においてはAETなどの構造につき赤外、NMR、熱分析法などを適用し研究を進展させる。
 生殖腺の放射線障害に関する生化学的研究に関しては、前年度の成果に基づき、未成熟時における放射線障害の発現が成熟時における照射の場合と比較し、その差異につき内分泌学的検討と種々の内分泌的状態における動物の脳下垂体ホルモンの生成、分泌について、ラジオイムノアツセイ(放射免疫学的検定法)による定量法を確立し、各種ホルモンの分泌に対する放射線の直接的影響について研究を行なう。
 放射線防護薬物の薬理学的研究としては、前年度にプリン誘導体の防護効果、アミノチオール類の軽口投与による防護作用、これら防護剤の作用機序の解明などについて研究を行ない、多くの知見、成果を得たので、本年度はプリン誘導体による血圧降下と防護効果、チステインエチルエステルの経口投与による消化管系の局所防護、アミノチオール類の化学構造の特異性と培養細胞における放射線防護作用などについてさらに詳細な検討を行ない、放射線防護薬物の開発に努力する。

3-8 環境衛生研究部

 本研究部は、一般環境・職業環境における放射線による被曝に関する調査研究を行なっている。一般環境における放射線被曝は、低線量率の長期被曝を取り上げており、これに関連した線量評価を正しく行なうための諸調査研究を行なっている。特に内部被曝に重点を置き、放射性物質の物理的化学的性質と体内分布蓄積量の関係を自然放射性物質につき測定を継続する。また放射性核種の体内における代謝を幼若令期の動物について測定を継続し、成熟期のものとの相違、各臓器組織ごとの被曝の評価とその抑止のための基礎資料を得る。放射性コバルト・鉄・セシウム並びに炭素・水素の化合物については、これら核種の測定法・環境における分布、食物連鎖における動向について調査研究を継続する。外部被曝については、特に原子力施設周辺の居住者を念頭に置き、問題となる核種による低線量率の放射線被曝による積算線量を求めるための測定に着手する。職業環境における放射線被曝については、内部被曝を重点に取り上げ放射性物質の吸入による被曝評価に関する研究を継続する。なお実態調査については原子力発電施設を対象として、職業環境における放射性エアロゾルの測定並びにバイオアッセィによる調査を行ない放射線安全管理に関する研究のための基礎資料を求める。

3-9 環境汚染研究部

 本研究部は、自然環境における放射能水準の変化に伴って公衆の構成員が受ける放射線被曝を的確に把握し、また推定するための諸因子を究明し、環境の安全管理に寄与することを目的として、ラジオエコロジー(放射生態学)の研究を実施してきた。また放射能水準検出法の精度向上と、実用的簡易モニタリング法についての技術的開発も進めてきい。
 本年度は、放射性核種の表土から河川への移動機構の解明と放射能流亡率の推定、放射性核種の海洋での移動機構と躍層滞留期間の究明、食品汚染と体内被曝の相関について、放射性物質の環境→食品→人体の移行を定量的に把握し得る諸因子を求める研究を進める。これらの研究実施にあたっては、室内のモデル実験結果と野外観測結果とを対比検討して成果の総合化と実用化をはかるため、別途の放射能レベル調査業務による成果も有効に活用することにつとめる。なお、海産生物の汚染機構の解明については臨海実験場と全面的協力を行ない、研究の強力な促進をはかる。これらの一連の研究においては、各種の原子力施設において放出を予想される放射性廃棄物の影響を究明するため、研究対象の放射性核種の選定等に特に留意して行なう。ラジオエコロジー研究および環境放射能モニタリング手法の開発をめざして、放射性核種定量および安定同位元素定量のための試料採集法・試料前処理法および簡易分析測定法の精度向上と簡易化をはかる。このため、定量法に関してヘータ線スペクトロメトリ、ラジオガスクロマトグラフイ、原子吸光分析法の有効な応用法を積極的に開発する。

3-10 臨床研究部

 本研究部は、放射線の医学的利用とくにラジオアイソトープによる疾病の診断治療および代謝系に関する研究、高エネルギー放射線による悪性腫瘍の治療に関する研究等を行なうことを目的としている。
 生体内放射能測定とその臨床的解析に関する研究として、シンチグラムのオイライン・プログラムの開発、統計的動揺の大きい場合のイメージ処理、シンチグラフイにおける臓器の呼吸性移動によるホクの簡便補正法について研究を行なったが、今年度は定量的シンチグラムの臨床的応用と処理について研究する。またヒューマンカウンタなどにより計測したRIの全身代謝をコンパートメントモデルにより解析し、病態生理上の知見を検討するとともに、診断治療への応用の研究として、今年度もデータ処理に必要なプログラムの作製などの研究を行なう。一方甲状腺内の微量元素と甲状腺疾患の関連についての研究を京大原子炉などを使用し、放射化分析法により検討したが、今年度もこれを継続して行なう。また放射性ヨウ素による甲状線の障害の研究は、ラットを用いて核酸代謝の面から検討を加え、今年度も継続して行なう。ラジオアイソトープの試験管内利用については、各種骨疾患患者における生長ホルモンの分泌についてラジオイムノアッセィを用いて検討したが、さらに幼若ラットの肋軟骨による35Sおよび3H-サイミヂン摂取をもちいたバイオアッセィとの関連についてもさらに研究を進める。
 高エネルギー放射線治療に関する研究については、速中性子線の治療利用の検討並びにコンピュータを用いて治療に最も適した線量分布を求める方法の開発を中心に進め、部分照射を受けた骨の障害を85Sr,47Caのトレーサ実験により予知しようとする実験も漸く軌道に乗りつつある。
 速中性子線利用についての実験は、C3H移植乳がんに対する速中性子線の効果をエックス線と比較し、さらにC3Hマウスの皮ふ反応についてのRBEを検討した結果、1回照射の場合、速中性子線の治療効果比を一応推定できる段階まですすみつつある。
 局所照射骨の障害の問題は、放射線治療の際に照射野に含まれた骨の潜在骨壊死とも関連した重要な問題であり、臨床検討も含めて、今後、更に発展させる。
 線量分布のコンピュータ計算は、今後は治療効果とも関連させて、より実用的なものを開発する。

3-11 障害臨床研究部

 本研究部は、放射線による人体の障害の診断および治療に関する調査研究を業務とし、このため臨床的ならびに実験的研究を行なっている。
 まず、ビキニ被災者を中心とする各種被曝者について追跡研究を続行し、生物学的な被曝線量推定に関する資料を求め、さらに、白血病等との関連データを得るように努める。ビキニ被災者について細胞遺伝学的研究を継続して行ない、特に、染色体型とクローンの関係について、より詳細な検討を加える。実験的に、染色体異常細胞の形成と被曝状況との関係やクローンの成立に関する種々の研究を進めて、臨床例における成績の解析を行なう。
 従来から放射線による血液幹細胞障害の回復について実験的に検討を加えてきたが、その結果の臨床的応用をはかる一歩として、中型動物を使用した実験の併用や実験手技の開発を行なって研究を進める。また、放射線による晩発効果についての実験も行なう。
 免疫機能からの放射線障害の観察のために、新たにin vitroの方法により、関係諸細胞の相互関係や放射線感受性について研究する。
 引き続き、胸線細胞の放射線障害からの回復について、酵素学的見地から、アデニン添加による回復状況を追求する。

3-12 東海支所

 東海支所は、原子力諸施設との関係を密にして行なう研究を推進するために、外部関係機関の利用も含め支所利用の万全を期する。特に臨海研究場においては海洋調査研究の次の課題についての研究を効果的に推進するため、環境汚染研究部各研究室との協力の一層の充実をはかり、「ラジオアイソトープトレーサー法による魚貝藻類の放射性核種の濃縮に関する研究」、「安定同位元素定量法による魚貝藻類への放射性核種の濃縮に関する研究」、「沿岸海洋汚染にともなう人体の放射線被曝線量の推定に関する研究」、「海産生物の放射能モニタリング方法の開発に関する研究」を実施する。東海研究室においては臨海研究室に協力して海洋調査研究の推進に資するため、「生物中の安定微量元素の化学形態と定量法に関する研究」を行ない、また「原子力施設周辺における農畜産物および淡水、汽水系生物への放射性物質の移行に関する研究」に着手する。
 なお各研究部が原子炉および支所施設を利用して行なう研究は以下のとおりである。

(1)表土より河川への放射性物質の流亡に関する研究
(2)放射性物質の動向とパイオアッセィによる人体負荷量推定に関する研究
(3)深海投棄された放射性物質の海水中無機物による希釈に関する研究
(4)ラジオアイソトープ・トレーサ法による魚貝藻類への放射性核種の濃縮に関する研究


 第4節 海洋調査研究

 原子力施設から沿岸海域に放出される放射性廃液が海産生物などを通じて、沿岸住民および国民全般に与える被曝線量について調査研究を行なうとともに、放射能モニタリング方法の開発についても調査研究を実施している。特に食用海産魚貝類のストロンチウム-90、セシウム-137、ルテニウム-106、コバルト-60、セリウム-144等の濃縮と排出の機構については、活魚を用いた実験によって多くの新知見が得られた。
 本年度は、臨海実験場において更に多種類の海産生物を用いてラジオアイソトープ・トレーサー法でセリウム-144、コバルト-60などの実験を行ない、さらに鉄-59、亜鉛-65、マンガン-54などについて実験を進め、放射性核種の濃縮係数ならびに生物学的半減期を求める。特に放射性核種の物理的、化学的形態の差、水温の差、エラ吸収と消化管吸収による摂取の差による生物濃縮機構の差に留意しつつ実験を進める。一方、環境汚染研究部、臨海研究室、東海研究室の三者の協力のもとに海水と海産生物の安定同位元素定量法ならびに放射性降下物の放射化学分析法によって、各種の海産生物の濃縮係数を求め、その結果をトレーサー法で得た結果と比較して実地に適用する濃縮係数の決定に努める。
 海産生物の放射能モニタリング法の開発については、環境汚染研究部と臨海研究室との協力によって、放射化学的検討を進め、さらに臨海実験場において、沿岸海域汚染水準を簡易に知るための指標生物の把握に努める。
 放射性核種の海産生物への濃縮に関して得られた知識に加えて、海産食品の流通消費機構に関する統計資料および調査の結果等を活用して最も被曝の大きいと予想される公衆の構成員の全身被曝と器官別被曝の線量推算を実施する。


 第5節 放射能調査研究

 放射能調査研究には、従来から本研究所は積極的に参加し、関係諸機関と協力してその一部を分担してきたが、本年度は、放射能調査研究費として18,660千円を計上し、放射レベル調査、被曝線量調査およびデータセンター業務の3項目について、環境汚染研究部、環境衛生研究部および管理部企画課においてそれぞれ次のとおり実施する。

 (1)わが国における放射能水準調査の一還として、従来にひきつづき放射性降下物の調査を実施するとともに、本年度は特に原子力施設周辺の放射能バックグラウンドの把握に留意しつつ、放射能レベル調査を実施する。すなわち各地から採集した表土、飲料水とその水源の河川水、河底土、食品、人体臓器、人骨、海洋関係諸試料などのストロンチウム-90、セシウム-137その他の放射性核種の定量を行なう。
 また炭素-14、トリチウムの生物環境中における調査を継続実施する。

 (2)自然および核実験による人工放射線源から国民が被曝している線量を明らかにすることは、きわめて重要である。
 このため、線量測定方法に関する研究的調査として、大気中の放射性浮遊塵による内部被曝に関する調査、自然放射性物質および核実験による放射性降下物の地表への蓄積による外聞被曝に関する調査を継続実施し、特に将来原子力施設が計画されている地域については十分念を入れた調査測定を行なう。
 また核爆発実験などによる放射能汚染に関し、航空機によって、わが国の高空における放射能の測定調査をひきつづき行なう

 (3)放射能データセンター業務としては下記の業務を前年度と引き続き行なう。
  1) 内外の放射能調査資料の収集、整理、保存。
  2) 海外との放射能関係情報の交換。
  3) 放射能調査資料の解析。

 また、これらの資料の一部をとりまとめて放射能調査資料として刊行する。


 第6節 実態調査

 本研究所においては、研究に関連する問題のうち必要な事項について実態調査を行ない、その結果を活用して研究の促進をはかっている。本年度における実態調査の概要は以下のとおりであり、これに必要な経費として、608千円を計上する。

(1)ビキニ被災者調査(障害臨床研究部)
 昭和29年3月、南太平洋ビキニ海域において核爆発実験による放射性降下物に被曝した元第5福龍丸乗組員について、従来から体内残留放射能の測定および臨床的諸検査を実施してきたが、本年度においても引き続き被災者を入院させて血液学的検査、皮ふ科的検査、肝機能検査のほか必要に応じて体内放射能の測定および排泄物の放射性物質の測定などを行なう。

(2)ウラン燃料関係作業環境の実態調査(環境衛生研究部)
 原子力開発の急速な進展に伴い、ウラン燃料の加工、成型作業環境におけるウランを含む粉塵の挙動と作業者の粉塵摂取の態様とは放射性粉塵による危害評価に当たりきわめて重要な課題であるため、本年度においても引き続き、作業環境におけるウラン粉塵の粒度、濃縮率、化学形態などの調査、作業のウラン摂取量の個人サンプルおよびハイオアッセイによる調査などを行なう。

(3)医療用放射線による国民線量に関する実態調査(物理研究部)
 本調査は医療用放射線による国民線量(遺伝的有意線量および白血病有意線量)の推定を目的として、全国の医療関係施設における診断用放射線(撮影、透視)および治療用放射線の照射条件と身体各部位の被曝線量との実態を調査してその結果を解折する一方、これとあわせて同一照射条件、照射部位でファントム(人体組織等価物質)による実験を行ない、調査結果との相互比較を行なう。調査に当たっては、全国の医療関係施設のうち1,000個所を抽出して調査表を配付し、男女別、被曝様式別(頭部および頸部、上半身、下半身)年令別のそれぞれ男女を対象とし身体各部位別の照射条件、線量のばらつき等について実測を行なう。なお本年度は治療用放射線について調査を行なう。


 第7節 外来研究員

 外来研究員制度は、本研究所における調査研究に関し、広く所外における関連分野の専門研究者を招き、その協力を得て相互知見の交流と研究成果の一層の向上をはかることを目的としている。本年度はこれに必要な経費として2,346千円を計上し下記の研究課題について、それぞれ該当する研究部に外来研究員を配属し、研究を実施する。

(1)しゅよう細胞に対する速中性子線の致死効果に関する研究。
(2)医用短寿命RIの製造と精製に関する基礎的研究。
(3)組織適合性識別機構に関する研究(組織適合性のin vitro法による検索)
(4)免疫適格細胞の分離法に関する研究。
(5)分離核におけるX線による核酸障害とその修復機構に関する研究。
(6)電子計算機による画像情報処理の研究。
(7)がんの放射線治療における外科手技との併用に関する研究(術前および開創照射について)


第Ⅲ章 技術支援


 技術部では、本年度経常運営費として、38,265千円、廃棄物処理費11,151千円、特定装置費57,290千円を計上し、(ほかにサイクロトロン設備整備費およびサイクロトロン棟新築工事費が、国庫債務負担行為中昭和46年度現金化分としてそれぞれ238,500千円および220,000千円が計上された)共同実験施設の運用管理、実験用動植物の増殖、管理および供給、所内各施設の安全管理および放射性廃棄物の処理など各研究部の調査研究遂行に関連した必須の技術支援を行なう。
 とくに本年度は前年度導入決定をみたサイクロトロンの受入体制の強化をはかるとともに建屋の建設に当たる。また、前年度竣工をみたSPF動物関係各棟の使用体制の強化、整備に努め、データ処理室では電子計算機のより一層の利用体制の拡充を進める。なお、共同実験施設、機器等の効果的運用、実験動物の飼育環境の改善、RI、放射線関連施設における安全管理ならびにその効率的利用に努め、かたがた各係員の現場訓練充実化により、高度の技術支援体制の強化をはかる。

 (1)技術業務関係では、前年度契約をみたサイクロトロンおよび付属機器の各種試験法に関する調査、および建屋の建設に努める。データ処理業務では、計算機の総合的利用体制の拡充および、ソフトウエア体系の充実をはかる。また、ボイラー、変電等の基本施設、各種共用機器、放射線照射装置では、更に効果的な運用を期し、計画的な更新、修理をはかる。

 (2)放射線安全管理業務関係では、危険度に応じた重点的管理方式の活用とともに業務の一層の合理化をはかる。また、老朽化した施設、機械等については、修理、更新を計画的に進め遺漏なきを期する。
 なお、サイクロトロン導入に伴なう施設内外の安全について、技術の充実をはかる。

 (3)研究用動物の管理供給関係については、SPF動物の生産に最大限の努力を払うとともにSPF動物照射実験棟およびSPF動物生産施設の使用開始に伴う体制の強化、とくに衛生面に重点をおいて充実をはかる。
 また、関連機関と密接な連携のもとに専門技術者の育成等により業務の充実をはかる。

 (4)サイクロトロン設備整備関係については、前年度に引き続き装置本体およびビームトランスポート系の建設を進めるほか、本年度から昭和48年度までの3か年にわたって新設工事の認められたサイクロトロン棟の建設に着手する。


第Ⅳ章 養成訓練


 養成訓練部は、昭和34年度から前年度までに下表のとおり、放射線防護短期課程、放射線利用医学短期課程、放射性薬剤短期課程およびRI生物学基礎医学短期程を実施し、各課程修了者の累計は、1,229名に達した。



 本年は、運営経費として、10,584千円を計上して養成訓練内容の整備を進め、関係方面との緊密な関連のもとに効率的な運営による研修効果の向上をはかる。

 本年度は、つぎのとおり6回の課程を開設し、130名余の技術者を養成する予定である。

放射線防護短期課程 2回
 (第24回) 昭和46年5月下旬~7月中旬
 (第25回) 昭和46年10月下旬~12月上旬

放射線利用医学短期課程 2回
 (第20回) (RI診断および放射線治療)昭和46年8月下旬~10月上旬
 (第21回) (RI診断)(2年以上の経験者)昭和47年1月下旬~3月上旬

放射性薬剤短期課程 1回
 (第8回) 昭和46年4月中旬~5月中旬

RI生物学基礎医学短期課程 1回
 (第7回) 昭和47年1月下旬~3月上旬

 なお、内外の養成訓練制度についての調査を進めるとともに研修成果の向上をはかるために必要な研究を行なう。


 

第Ⅴ章 診療


 病院部は本年5月13日をもって開設10周年を迎える。
 このときにあたり、実施する診療業務の内容については、病院部の設置目的ならびに研究所研究5か年計画の線に沿って例年どおり推進するが、一般にたとえいかに近代的設備を誇る病院でも、開記後の運営、設備の改善によほどの努力が払われない限り10年くらい経過すると、そのほとんどが退化し沈滞してしまうのが常であるのにかんがみ、当病院部としては、本年度は再出発の第一歩のためにも運営費として74,294千円を計上し、以下のように運営する。

(1)研究所として重点的に実施している特別研究の2課題ならびにサイクロトロン記置に関し積極的協力態勢を整える。

(2)関係機関との協力を一層密にするため近代的病院医療の高度化の認識に立って、長期的観点から放射線医学領域のみでなく広く医学研究の急速な進歩に対応しうる施設、機器の近代化につとめることによって外部医師団との交流と協力を得るとともに、患者の受け入れ態勢も整えた。とくに医師団の交流については、国内的には大学、国公私立の大病院とはもちろん、熱意ある開業医との連繋も保つように努めるとともに、学会活動をさかんにし国外的にも交流の途を開くよう求める。

(3)本年度はとくに施設面での整備に重点をおき病室の整備等、患者の管理看護部門の充実、環境の整備等を図るとともに過去10年間の患者診療録・エックス線写真・剖検資料などの整理とまとめのための処置を行なう。また、特研課題に関連して無菌病室、病床の試作設置に協力する。

(4)医療機器の整備、近代化については、RI診療部門において新しくガンマ・カメラを設置し、電算機部門をはじめ関連各部と協力して診療研究の一層の向上を期するとともにあわせてサイクロトロン設置後における短寿命RIの利用に関する研究のための準備を進める。

(5)患者および医療従事者に対する安全の保持ならびに診療業務の円滑化による能率の向上のためには診療部門の各分野での人材の確保はきわめて重要である。この点とくに看護婦不足は今日の深刻な問題であるので関係各方面に八方手段をつくして十分な確保をはかる。


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