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東京電力株式会社福島原子力発電所の原子炉の
設置変更(2号および3号原子炉施設の変更)について
                      (答申)



46原委第88号
昭和46年3月25日


     内閣総理大臣  殿

原子力委員会委員長


東京電力株式会社福島原子力発電所の原子炉の設置変更
(2号および3号原子炉施設の変更)について(答申)


 昭和46年3月11日付け46原第1640号で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。


 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に掲げる許可の基準に、適合しているものと認める。
 なお、本設置変更に係る安全性に関する原子炉安全専門審査会の報告は別添の通りである。




東京電力株式会社福島原子力発電所の原子炉の
設置変更(2号炉および3号原子炉施設の変更)に係る
安全性について


昭和46年3月17日
原子炉安全専門審査会


  原子力委員会
     委員長 西田 信一 殿

原子炉安全専門審査会  
会長 内田 秀雄


東京電力株式会社福島原子力発電所の原子炉の設置変更
(2号および3号原子炉施設の変更)に係る安全性について


 当審査会は、昭和46年3月11日付け46原委第70号をもって審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

Ⅰ 審査結果


 東京電力株式会社福島原子力発電所の原子炉の設置変更(2号および3号原子炉施設の変更)に関し、同社が提出した「福島原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(2号および3号原子炉施設の変更)」(昭和46年3月2日付け申請)に基づいて審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 変更事項


 本変更は、福島原子力発電所の2号および3号原子炉施設を変更しようとするもので、次のとおりである。

 1 炉心および燃料体


 3号原子炉の第1炉心の燃料体として平均濃縮度は変らないが、約1.10w/oと約2.50w/oの2種類濃縮度を採用し、後者には可燃性毒物であるガドリニア(Gd2O3)を含む燃料棒(以下「ガドリニア入り燃料棒」という)を数本組み込む。また、ポイズン・カーテンを廃止する。

 2 安全保護回路

 3号原子炉の制御棒引抜き阻止インタロックから「2つのスクラム・アキュムレータの圧力低または水位の警報」の条件を除く。

 3 一次冷甚設置

 2号および3号原子炉の主蒸気隔離弁の漏えい率を両原子炉とも1個あたり約10%/日(逃がし弁最低設定圧力において原子炉圧力容器蒸気相の体積に対し飽和蒸気で)とする。

Ⅲ 審査内容

 1 安全設計および安全対策

 以下に示すように、本変更により原子炉の安全性を損うことはない。

(1)炉心および燃料体の変更(3号原子炉)

 1)ガドリニア入り燃料棒
 
 ガドリニア入り燃料棒はVo2中に少量のガドリニアが固溶体の形で均一に分布したペレットを使用するもので、燃料集合体の周辺部を除く領域に数本入れられる。
 燃料棒及び燃料集合体の機械的構造は従来と変らなく、さらに、ガドリニアの混入による熱伝導度及び融点の低下を考慮しても、燃料中心溶融に対する余裕が普通のVo2燃料の場合に比べて下まわることはないように設計される。
 また、ガドリニア入り燃料棒は、若干燃焼度が低くなることと、ガドリニウム自身は他元素に変換せず、かつ、気体元素を生じないことから考えて、内圧やスウェリングに対する問題はないものと認められる。
 
 2)核熱設計

 2種類の燃料集合体を使用する本炉心においては、集合体間の出力ミスマッチが若干大きくなり、このため、最大出力燃料集合体のチャンネル流量が減少し、MCHFRの制限の方が最大線出力密度の制限より若干きびしくなると予想される。しかし、それらの値は、従来の熱的制限値を越えないので安全上なんら支障ない。

(2)安全保護回路の変更(3号原子炉)

 このインターロックは、隣接した制御棒のアキュムレータが故障した場合、スクラム能力がおちる可能性を考慮して設けられたが、アキュムレータが故障した場合でも、原子炉圧力または制御棒駆動用ポンプでスクラムすることができる。また、隣接した制御棒のアキュムレータが故障した場合には、中央制御室の表示灯から位置を識別し、いづれか一方の制御棒を手動で全挿入し、挿入、引抜き弁を閉止する等適切な処置をとれるので、特にインタロックを設ける必要はない。

(3)一次冷却設備の変更(2号および3号原子炉)

 本変更により、主蒸気隔離弁の作動が必要とされる主蒸気管破断事故時には、弁が閉鎖しても漏えい率に従い、一次冷却材の漏えいが続くことになるが、炉内圧力の急速な低下および逃がし弁等によるサプレッション・プールへの移行により、その漏えい量はきわめて少ないので安全性は確保される。

2 災害評価

 本変更に係る原子炉は、以上のように安全性を確保しうると認めるが、さらに本変更に関連ある主蒸気管破断事故について「原子炉立地審査指針」(以下「立地指針」という)に基づき重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は、立地指針に十分適合していると認める。

(1)重大事故

 ドライウェル外で主蒸気管1本が瞬時に完全破断し、一次冷却材の気水混合物が大気中に放出されると仮定する。
 隔離弁の閉鎖時間は5秒、放出流量は流量制限器によって定格流量の約200%に制限されるものとして解析すると、蒸気約9.3t、水約8.2tが放出されることになるが、炉心は露出しない。隔離弁の閉鎖後は、隔離弁からの漏えいにより気相中の核分裂生成物が大気中へ放出されるものとする。
 そこで、次の仮定を用いて被ばく線量を計算する。

①事故前の一次冷却材中の核分裂生成物の濃度は、原子炉運転中の冷却材放射能濃度の最高限度である64μCi/cm3(うち、131Iで1.4μCi/cm3)とする。

②事故発生後の原子炉圧力の減少に伴い、破損燃料から核分裂生成物が冷却材中に放出されるが、その量は、全よう素が131I換算(以下同様)で、約75,000Ci(うち、131I約40,000Ci)、よう素以外のハロゲンが約1.06×105Ci(γ線エネルギー0.5MeV相当、以下同様)、希ガスが約8.99×105Ci(γ線エネルギー0.5MeV相当、以下同様)とする。
 なお、隔離弁閉鎖以前に冷却材中に放出される量の1%が破断口からタービン建家を通じて大気中へ放出されるとする。

③原子炉圧力は、隔離弁閉鎖後24時間一定割合で大気圧まで減圧されるとする。

④隔離弁は、8個あるうち1個が閉じないとする。隔離弁閉鎖後の炉内から漏えい率は、逃がし弁作動圧力(約75.9kg/cm2G)において原子炉容器蒸気相体積に対して60%/日一定とする。

⑤燃料から放出されるよう素のうち、90%は無機よう素、10%は有機よう素とする。
 無機よう素については、原子炉容器内の液相-気相間の分配係数を100とする。また、タービン建屋の壁面等への吸着および疑縮される割合を50%とする。有機よう素については、その低減率を1/10とする。

⑥放出された冷却材は、気温33℃、相対湿度40%の大気中に全部蒸発し、半径約88mの半球状放射性雲となる。この雲は、風速1m/secで移動するものとする。

⑦隔離弁閉鎖後、隔離弁から漏えいした放射性物質の大気中での拡散に用いる気象条件は、「原子炉安全解析のための気象手引」(以下「気象手引」という)を参考にして、地上放散、大気安定度F型、拡散巾30°、風速1m/secとする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、内部被ばくに関するものとして、全よう素約121Ci、外部被ばくに関するものとして、ハロゲン約2080Ci、希ガス約3020Ciである。
 敷地外で被ばく線量が最大となるのは、敷地境界(2号原子炉から約1km、3号原子炉から約800m)であって、その地点における被ばく線量は、2号原子炉の場合は、甲状腺(小児)に対し約35rem、全身に対してγ線約38mrem(β線約51mrem)となり、3号原子炉の場合は、甲状腺(小児)に対し約39rem、全身に対してγ線約40mrem(β線約60mrem)となる。
 この被ばく線量は、「立地指針」にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150rem、全身25remより十分小さい。

(2)仮想事故

 重大事故の場合と同じ事故について、冷却系の効果を無視し、原子炉容器から核分裂生成物の漏えいが長時間続くものとする。
 そこで、長大事故の場合と同じ仮定を用いて被ばく線量を計算する。ただし、次の仮定は重大事故の場合と異なる。

①破損燃料から放出される核分裂生成物は、隔離弁閉鎖直後に、すべて冷却材中に放出されるものとする。

②原子炉圧力は逃がし弁作動圧力範囲に長時間保たれ隔離弁からの漏洩が無限時間続くものとする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、内部被ばくに関するものとして、全よう素約173Ci、外部被ばくに関するものとしてハロゲン約2620Ci、希ガス約5040Ciである。
 敷地外で被ばく線量が最大となるのは、敷地境界(2号原子炉から約1km、3号原子炉から約800m)であって、その地点における被ばく線量は、2号原子炉の場合は、甲状腺(成人)に対して約11rem、全身に対してγ線約53mrem(β線約64mrem)となり、3号原子炉の場合は、甲状腺(小児)に対して約12rem全身に対してγ線約58mrem(β線約80mrem)となる。
 この被ばく線量は、「立地指針」に仮想事故時のめやす線量として示されている甲状腺(成人)300rem、全身25remより十分小さい。
 なお、全身被ばく線量の積算値は、約1,700人remであり、国民遺伝線量の見地から示されているめやす線量の200万人remより十分小さい。

Ⅳ 審査経過


 本審査会は、昭和46年3月17日の第89回審査会において審査の結果、本報告書を決定した。


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