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原子力船の運航基準の指針について



原子力船運航指針およびその適用に関する判断のめやすについて

昭和45年11月12日
原子力委員会


 本委員会は、昭和39年7月原子力安全基準専門部会を設け、原子力船の港湾等における運航の安全性に関する技術的基準について検討をすすめてきたが、昭和45年11月6日同部会から原子力船の運航指針に関する報告書の提出を受けた。
 本委員会は、同報告書を検討のうえ、別紙1のとおり原子力船運航指針を定めるとともに、当該指針を適用する際の放射線量等に関する暫定的な判断のめやすを別紙2のとおり定める。

別紙 原子力船運航指針


 この指針は原子力船の港湾等における運航の安全性に関し、万一の事故の際に、公衆からの原子力船の離隔状態の適否を判断するためのものであって、原子力船の原子炉の設置許可、(外国原子力船にあっては、本邦水域立入り許可)に先だって、原子炉安全専門審査会が行なう安全審査の際の基準ならびに関係行政機関の行なう規制、指導および原子力船運航者の原子力船運航の基本となるものである。

1 原子力船の基本的運航条件


 原子力船は、事故を起さないように設計、建造、運航および保守が行なわれなければならないことは当然であるが、なお、万一の事故に備えて公衆の安全を確保するためには、原子力船の存在場所は、次のような条件を満足していることが必要である。

(1)存在場所周辺の事象、原子炉の特性、安全防護施設、運航管理上の措置等を考慮し、技術的見地からみて、最悪の場合には起るかも知れないと考えられる重大な事故(以下「重大事故」という。)の発生を仮定しても、周辺の公衆に放射線障害を与えないこと。

(2)さらに、重大事故を超えるような技術的見地からは起るとは考えられない事故(以下「仮想事故」という。)(例えば、重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうちのいくつかが動作しないと仮想し、それに相当する放射性物質の放散を仮想するもの)の発生を仮想しても、周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと。

(3)なお、仮想事故の場合には、国民遺伝線量に対する影響が十分に小さいこと。

(4)必要に応じ、自船の退去および公衆に対する適切な措置を講じうる環境にあること。

2 原子力船運航の指針


 原子力船は、前記の基本的条件を達成させるために、次の条件を満たすように運航しなければならない。

2.1 港内停泊
 原子力船の港内における停泊場所は、次の条件を満たしていなければならない。

2.1.1 原子力船の周囲は、原子炉からある範囲までは、管理地帯内にあること。
 ここにいう「ある範囲」としては、重大事故の場合、たんらの措置も講じなければ、その範囲内にいる公衆に、被ばく継続時間における被ばくまたは吸入により、放射線障害を与えるかもしれないと判断される範囲をとるものとする。
 また「管理地帯」とは、公衆が原則として居住しない地帯(以下「非居住地帯」という。)であって、かつ、港長、港湾管理者等の港湾関係行政機関の管理下にある地帯をいう。
 さらに、「被ばく継続時間」とは、ある地点について事故により外部放射線量率または放射性物質の濃度が増加し始めてから事故船が移動することなどによって、これらが事実上無視できる程度に減少するまでの時間をいう。

2.1.2 原子力船の周囲は、原子炉からある範囲までは非居住地帯内にあること。
 ここにいう「ある範囲」としては、仮想事故の場合、なんらの措置も講じなければ、その範囲内にいる公衆に、被ばく継続時間における被ばくまたは吸入により、著しい放射線災害を与えるかもしれないと判断される範囲をとるものとする。

2.1.3 原子力船の停泊場所は、仮想事故の場合、事故船が遠隔びょう地まで移動することを考慮して算出した全身被ばく総量の積算値が、国民遺伝線量の見地から受け入れられる程度に十分小さい値となるような場所であること。

2.2 港外停泊
 原子力船の港外における停泊場所は、次の条件を満たしていなければならない。

2.2.1 原子力船は、陸岸からある距離以上離れて停泊すること。
 ここにいう「ある距離」としては、重大事故の場合、なんらの措置も講じなければ、その距離の範囲内にいる公衆に、被ばく継続時間における被ばくまたは吸入により、放射線障害を与えるかもしれないと判断される距離をとるものとする。

2.2.2 原子力船の周囲は、原子炉からある範囲までは非居住地帯内にあること。
 ここにいう「ある範囲」としては、仮想事故の場合、なんらの措置も講じなければ、その範囲内にいる公衆に、被ばく継続時間における被ばくまたは吸入により、著しい放射線災害を与えるかもしれないと判断される範囲をとるものとする。

2.2.3 原子力船の停泊場所は、仮想事故の場合、事故船が遠隔びょう地まで移動することを考慮して算出した全身被ばく線量の積算値が、国民遺伝線量の見地から受け入れられる程度に十分小さい値となるような場所であること。

2.3 遠隔びょう地
 原子力船は、停泊する場所ごとに、遠隔びょう地を選定しなければならない。遠隔びょう地は、万一の事故の際に、停泊場所から事故船をすみやかに移動させる場所であって、次の条件を満たしていなければならない。

2.3.1 遠隔びょう地の周囲は、ある距離の範囲までは、非居住地帯内にあること。
 ここにいう「ある距離の範囲」としては、重大事故の場合、なんらの措置も講じなければ、その範囲内にいる公衆に、被ばく継続時間(この場合事故船の移動性は考慮しない。)における被ばくまたは吸入により、放射線障害を与えるかも知れないと判断される距離までの範囲をとるものとする。

2.3.2 遠隔びょう地からある距離の範囲内であって、非居住地帯の外側は、低人口地帯内にあること。
 ここにいう「ある距離の範囲」としては、仮想事故の場合、なんらの措置も講じなければ、その範囲内にいる公衆に被ばく継続時間(この場合、事故船の移動性は考慮しない。)における被ばくまたは吸入により、著しい放射線災害を与えるかも知れないと判断される距離までの範囲をとるものとする。
 また、「低人口地帯」とは、著しい放射線災害を与えないために、適切な措置を講じうる環境にある地帯(例えば、人口密度の低い地帯)をいう。

2.3.3 遠隔びょう地は、仮想事故の場合、全身被ばく線量の積算値が、国民遺伝線量の見地から受け入れられる程度に十分小さい値となるような場所であること。

2.4 港内航行
 原子力船は、港内を航行する場合、次の条件を満たしていなければならない。

2.4.1 原子力船の周囲は、原子炉からある範囲までは、管理地帯内にあること。
 ここにいう「ある範囲」としては、重大事故の場合、なんらの措置も講じなければ、その範囲内にいる公衆に、被ばく継続時間における被ばくまたは吸入により、放射線障害を与えるかもしれないと判断される範囲をとるものとする。

2.4.2 原子力船の周囲は、原子炉からある範囲までは非居住地帯内にあること。
 ここにいう「ある範囲」としては、仮想事故の場合、なんらの措置も講じなければ、その範囲内にいる公衆に、被ばく継続時間における被ばくまたは吸入により、著しい放射線障害を与えるかもしれないと判断される範囲をとるものとする。

2.4.3 原子力船の航路は、仮想事故の場合、事故船が遠隔びょう地まで移動することを考慮して算出した全身被ばく線量の積算値が、国民遺伝線量の見地から受け入れられる程度に十分小さい値となるような航路であること。

2.5 沿岸航行
 原子力船は、沿岸を航行する場合、次の条件を満たしていなければならない。

2.5.1 原子力船は、陸岸からある距離以上離れて航行すること。
 ここにいう「ある距離」としては、仮想事故の場合、なんらの措置も講じなければ、その距離の範囲内にいる公衆に、被ばく継続時間における被ばくまたは吸入により、著しい放射線災害を与えるかもしれないと判断される距離をとるものとする。

2.5.2 原子力船は、仮想事故の場合、全身被ばく線量の積算値が、国民遺伝線量の見地から受け入れられる程度に十分小さい値となるように航行すること。

別紙2

原子力船運航指針を適用する際に必要な暫定的な判断のめやす


 この判断のめやすは、原子力船運航指針を適用する際に使用するためのものである。
 なお、昭和39年5月27日に原子力委員会が決定した原子炉立地審査指針の別紙2の付記を、この判断のめやすにも準用するものとする。

1 指針2.1.1および2.4.1にいう「ある範囲」2.2.1にいう「ある距離」ならびに2.3.1にいう「ある距離の範囲」を判断するためのめやすとして、次の線量を用いること

甲状腺(小児)に対して 150レム
全身に対して 25レム

2 指針2.1.2、2.2.2および2.4.2にいう「ある範囲」2.3.2にいう「ある距離の範囲」ならびに2.5.1にいう「ある距離」を判断するためのおよそのめやすとして、次の線量を用いること。

甲状腺(成人)に対して 300レム
全身に対して 25レム

3 指針2.1.3、2.2.3、2.3.3、2.4.3および2.5.2にいう全身被ばく線量の積算値が、国民遺伝線量の見地から受け入れられる程度に十分小さい値であることを判断するためのめやすとして、外国の例(例えば200万人レム)を参考とすること。


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