前頁 |目次 |次頁

動力炉・核燃料開発事業団敦賀事業所の
原子炉の設置(新型転換炉原型炉の設置)
に係る安全性について


昭和45年11月13日
原子炉安全専門審査会

原子力委員会
委員長 西田 信一殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄

 動力炉・核燃料開発事業団敦賀事業所の原子炉の
設置(新型転換炉原型炉の設置)に係る安全性について


 昭和45年3月5日付け45原委第55号(昭和45年11月12日付け45原委第400号をもって一部訂正)をもって審査の結果を求められた標記の件について,結論を得たので報告します。


Ⅰ 審査結果

 動力炉・核燃料開発事業団敦賀事業所の原子炉の設置(新型転換炉原型炉の設置)に関し、同事業団が提出した「原子炉設置許可申請書」(昭和45年3月2日付け申請および昭和45年11月9日付け訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉の設置に係る安全性は十分確保し得るものと認める。




Ⅱ 審査内容

1 設置計画の概要

 本原子炉施設の立地条件および原子炉施設の概要は次のとおりである。


1.1 立地条件

(1)敷地および周辺環境
 本原子炉施設は、福井県・敦賀半島のほぼ北端に位置する日本原子力発電株式会社敦賀発電所の敷地(以下「敷地」という)の内の約300,000m2の土地を借用して設置される。
 敷地は、西側および東側を山で囲まれ、北側は若狭湾に面し、南側は浦底湾に面しており、総面積約2,200,000m2である。
 この敷地の南側に約40,000m2の地役権設定区域がある。
 原子炉は、日本原子力発電株式会社敦賀発電所(以下「原電敦賀発電所」という。)の原子炉の北側約530mの位置に設置される。原子炉から敷地境界までの直線距離は、東側約500m、北側約540m、西側約460mおよび南側約900mで、南側については地役権設定区域の外側境界まで入れると約1,100mとなる。なお、浦底湾沿いの公道までの原子炉からの直線距離は、約770mである。
 周辺には、立石(北東約0.8Km)、浦底(南南東約2.2Km)および色浜(南南東約3.2Km)の各部落ならびに原電明神寮(南南東約2.1Km)があり、半径5Km以内の人口は約560人、10Km以内は約6,700人である。
 敷地に近い主な都市は、敦賀市(南南東約11Km)、福井市(北約39Km)などである。

(2)地質
 半島一帯は、花崗岩地帯で、花崗岩基盤上部は、中世期洪積世の砂礫層でおおわれている。原子炉建設地点の基盤は、石英粗面岩からなっており、原子炉建物等の基礎岩盤として十分な地耐力を持っている。基盤にはいくかの小破砕帯があるが、この形成時期は第3紀以前と考えられ、今後、活動するとは考えられず、巾も狭いので、十分な対策が講ぜられる。

(3)海象
 浦底湾内は、四季を通じてきわめて静穏であり、潮の干満の差は少ない。湾流は一般に微弱であるが敦賀湾を経て、外海と交流していることが確認されている。若狭湾は、一般に夏期は静穏であるが、冬期は季節風の影響をうけて荒れる。記録によると冬期における最大の有義波は約5.5mである。また過去において津波、高潮等による被害をうけた例はみられない。

(4)気象
 敷地における1年間の観測結果、ならびに敦賀測候所の記録および原電敦賀発電所が行なってきた観測結果によれば、敷地および周辺の風については、年間を通じて南寄りと北寄りの風が卓越している。大気の安定状態(英国気象局方式によるE,FおよびG型)の出現頻度は、年間約17%であり、このときの風向出現頻度は南寄りの風が多くなっている。標高100m(排気筒頂部標高約130m)以上での逆転現象の出現頻度は年間(観測回数)の約5%である。

(5)地震
 過去の記録によると、福井県近辺では大きい地震がたびたび起っているが、敦賀市では被害がほとんどなかった。
 そのうちで同市街地で僅かながら被害のあった越前岬沖地震のときにも、敷地付近は、震央に近いにもかかわらず、被害が全くなかった。
 これは敷地付近が花崗岩帯であるためと考えられる。

(6)水利
 本原子炉施設に必要な淡水量は、最大約1,150m3/dayであり、原電敦賀発電所において必要な量とあわせると約2,300m3/dayがこの敷地で確保すべき淡水量となる。この水源は、敷地内の渓流水によって確保することとし、渇水期には、敷地内の猪ヶ池の水および、余剰渓流水の貯水によって確保する。なお復水器冷却用水は浦底湾から取水し、若狭湾に排水される。



1.2 原子炉施設
 本原子炉は、熱出力約557MW(電気出力約165MW)の重水減速沸騰軽水冷却型である。
 炉心部は、約90tの重水を保有する高さ約4.9m内径約4.9mの縦型円筒型のステンレス鋼製のカランドリアタンクと、これを縦に貫通し、軽水および燃料集合体を収容する圧力管群からなっている。カランドリアタンクには、ジルカロイ-2製内径約150mm、肉厚約1.5mmのカランドリア管が224本正方格子状に取り付けられており、各カランドリア管内に圧力管が貫通している。ジルコニウム-ニオブ合金製内径約118mm、肉厚約4.3mmの圧力管は、その上下部をステンレス鋼製の圧力管延長部に接合され、上部延長部は、全長約10m外径約2mの横置円筒形の蒸気ドラム、下部延長部は全長約5m外径約0.6mの横置円筒形の下部ヘッダに導かれる。圧力管の垂直部下端は燃料交換ができるようにプラグにより封ずる構造となっている。各圧力管には燃料要素28本を3層同心円状に組立てた燃料集合体がそう入される。燃料要素は、約1.5w/o濃縮二酸化ウラン焼結ペレットまたはウラン・プルトニウム混合二酸化物焼結ペレットをジルカロイ-2製の被覆管に封入したものである。燃料の最大装荷量はU-235約540kg、プルトニウム最大約5kgである。
 燃料交換は、燃料交換装置により、原子炉運転中においても、圧力管下端のしゃへいプラグおよびシールプラグを取りはずして行なうことができるようになっている。制御棒は、ボロンカーバイト粉末を充填したステンレス鋼管を2重環状に配列したもので、カランドリアタンクに設けられた53個の制御棒案内管にそう入され、原子炉上部からワイヤ・ドラム電動式駆動装置により駆動される。制御棒案内管は、炉心への重水の流路となり、制御棒はこの案内管の重水によって冷却される。
 一次冷却系は、再循環系、主蒸気系および給水系からなっている。再循環系は、蒸気ドラム、再循環ポンプおよび下部ヘッダ等からなっている。カランドリアタンクは、2重円筒構造であり、外部円筒ダンプスペースおよび内部円筒(炉心タンク)上部には、ヘリウムガスが充填され、両部分のガス圧の差によって、内部円筒部の減速材である重水の水位を保持する。カランドリアタンクはその外周および上下を鉄水しゃへい体およびコンクリートしゃへい体によって囲まれている。
 原子炉格納施設としては、原子炉本体および一次冷却系を収容する鋼製格納容器が設けられる。その外周にコンクリート壁が設けられ、これらの下半部は二重格納構造のアニュラス部となっている。
 そのほか、放射線管理施設、放射性廃棄物処理施設、燃料貯蔵設備等が設けられる。



2. 安全設計及び安全対策

 本原子炉は、次のような種々の安全設計および安全対策が講じられることになっており、かつ、「安全設計審査指針」の考え方にも十分適合していると認められるので十分な安全性を有するものであると認める。


2.1 核・熱設計および動特性
 本原子炉の炉心特性は、冷却材に軽水を、減速材に重水を用いており、冷却材中のみ気泡が発生することからくる種々の現象によって特徴づけられる。
 核特性上の重要因子である減速材対燃料体積比は約8.1にとられており、冷却材ボイド反応度は、初期炉心で正の値を示すが、燃焼の進んだ状態では減少して負になる。

(1)核・熱設計
 本原子炉の実効余剰増倍率は、初装荷炉心において約0.25(ΔK)であるが、液体ポイズンを減速材である重水中に入れることによって最大約0.1(ΔK)に抑えられる。また、平衡炉心においては重水中の液体ポイズンは除去されるが、実効余剰増倍率は最大約0.1(ΔK)に保つことになっている。
 定格出力運転時において、冷却材の圧力および温度は、蒸気ドラムにおいてそれぞれ約69kg/cm2absおよび約284℃である。燃料の最高線出力密度は約0.58Kw/cmで、最高被覆表面温度および最高中心温度はそれぞれ約300℃および約2,400℃である。
 また、このときの最小限界熱流束比(以下MCHFRという。)は、1.9である。タービン発電機トリップ、再循環ポンプ電源喪失などの比較的起る可能性の大きい事故時にも、MCHFRは、1.5を下回らないようになっている。
 なお、ボイド係数、冷却材温度係数、制御棒反応度効果、バーンアウト熱流束などの重要な核熱設計パラメータについては、DCA等を用いて実験により確認することになっている。

(2)動特性
 本原子炉は、初期炉心において、冷却材温度係数および減速材温度係数は正となるが、燃料温度係数によって全体としては出力係数は負となる。また平衡炉心においては、これらの各係数はすべて負となる。従って制御棒の操作等に起因する反応度の外乱に対して自己制御性を有している。
 また、約35%から100%の間の原子炉出力の変化は、再循環流量を変化させることなく、制御棒の操作によってのみ、十分安定に制御が行なわれる。



2.2 燃料
 燃料は、二酸化ウラン燃料およびウラン・プルトニウム混合酸化物燃料がある。二酸化ウラン燃料要素は、平均濃縮度約1.5w/oの二酸化ウラン焼結ペレットを内径約15mm、長さ約4mのジルカロイ-2製の被覆管(肉厚約0.9mm)に入れたものである。
 混合酸化物燃料要素は、平均濃度0.5%の二酸化プルトニウムを加えた混合酸化物ペレットを上記と同様の被覆管に入れたものである。
 燃料被覆管は、ペレットによる内部からの支持がなくても、外圧によって圧壊することのない自立形の設計であり、燃料要素上部に設けられるプレナム体積は、燃料ペレットの両端に設けられる球面ディッシュとともに、最高燃焼度に対応する核分裂生成ガス等の蓄積によって過大な内圧上昇をもたらさないようになっている。また、この球面ディッシュはペレットのスエリングを吸収する効果をかねている。
 燃料集合体は、燃料要素28本を外径約113mmの3層同心円状のクラスタとしたものである。燃料集合体は、上下のタイプレートおよびそれに固定された8本の中間層燃料要素と4本のジルカロイ-2製のスペーサ支持棒で骨格を形成し、外層および内層の燃料要素は、それぞれバネによりタイプレートに連結されている。各燃料要素の横方向の支持は9個のインコネル製のスペーサによって行なわれ、各燃料要素の軸方向には自由膨張を許す構造となっている。
 原子炉出力の120%過出力時においても、被覆管の熱流束が限界熱流束に対し十分な余裕を持つようになっている。
 なお、燃料の照射実験および模擬燃料集合体の伝熱流動試験等を行ない燃料集合体の性能を確認することになっている。


2.3 計測および制御系

(1)計装
 中性子計装は、起動領域系、中間領域系および出力領域系からなっており、出力領域系は、局部出力領域計装、領域平均出力計装および全領域平均出力計装とからなる。これらの検出器は、炉心の全域の適切な位置に配置され安全運転に必要な中性子束検出を行なえるようになっている。
 プロセス計装としては、蒸気ドラムの気相・液相の温度・圧力、蒸気ドラム水位、一次冷却水の各部温度・圧力、重水の流量・温度、ヘリウム圧力・温度等原子炉の安全運転に必要な値を測定することになっている。

(2)安全保護系
 安全保護系は、電源喪失、回路の断線等に対してフェイル・セーフな設計であり、中性子束、蒸気ドラム圧力、蒸気ドラム水位等の重要な検出要素については、独立した検出回路が重複して設けられ、保護動作の確実性を高めるよう配慮されている。

(3)反応度制御および停止系
 反応度制御は、制御棒操作および重水中のポイズン濃度調整によって行なわれる。
 初装荷炉心の実効余剰増倍率は0.25(ΔK)以下で制御系の反応度抑制効果は、実効余剰増倍率の変化にして0.28(ΔK)以上であり0.03(ΔK)の停止余裕を持っている。また平衝炉心においては重水中のポイズンは除去されるが、炉心の実効余剰増倍率は0.1(ΔK)以下となり制御棒の反応度抑制効果は、実効余剰増倍率の変化にして0.13(ΔK)以上であり、0.03(ΔK)の停止余裕を持つように設計される。また最大反応度抑制効果を有する制御棒1本が炉心にそう入できない場合でも原子炉を停止できるように設計されている。
 重水中のポイズン濃度は、重水浄化系ならびにポイズン供給系によって所定の濃度に保たれるよう設計されている。
 また、非常用制御設備として、炉心部減速材の重水をダンプさせ原子炉を停止させる設備がある。

(4)中央制御室
 中央制御室には、原子炉施設の運転に必要なすべての計測制御装置が設備されており、事故時においても運転員が安全に所要の措置をとれるように、しゃへい、換気等の放射線防護上の配慮がなされている。



2.4 原子炉冷却系

(1)圧力管及び圧力管延長部
 圧力管はジルコニウム-ニオブ合金製で、ステンレス鋼製の上下部延長部の配管によって蒸気ドラムおよび下部ヘッダにつながっている。
 圧力管は、供用期間中、検査をすることによって健全性を確認するとともに、長期にわたる中性子照射による材料の破壊じん性及び疲労を監視するため圧力管内に照射試料をそう入することになっている。
 さらに圧力管の原子炉運転中の健全性は、圧力管とカランドリア管との空隙に微速で流す炭酸ガスを検査することによって確められるようになっている。
 なお、圧力管と圧力管延長部については、破壊じん性,および疲労実験ならびに応力解析を行ない安全性を確めることになっている。

(2)再循環系
 再循環系は炉心を4分割した各領域に接続されるたがいに独立した4ループよりなり、各ループは、蒸気ドラム、下降管、再循環ポンプ下部ヘッダなどから構成されている蒸気ドラムには安全弁および逃がし弁が設けられ事故時に原子炉系に生ずる異常な圧力上昇を抑えるようになっている。下部ヘッダの再循環水入口部には、直列2個の逆止弁が設けられ再循環系配管の破断時に冷却材の流出を制限するようになっている。
 なお、逆止弁の性能および構造については、実験により確認することになっている。

(3)主蒸気系
 蒸気ドラムで水と分離された蒸気は、主蒸気ヘッダで集められて主蒸気管を通りタービンに導かれる。蒸気ドラムと主蒸気ヘッダとの間には、流出制限器が設けられ主蒸気管破断事故時の蒸気の流出を定格の200%に制限できるようになっている。また、主蒸気管には、定格蒸気流量の約90%をバイパスして主復水器に導くタービンバイパス系が設けられ原子炉起動時、停止時およびタービン発電機トリップ時の主蒸気圧力の調整を行なうことができるようになっている。

(4)余熱除去系
 余熱除去系を設け原子炉停止後の崩壊熱の除去を行なうことになっている。



2.5 カランドリアおよび重水系
 カランドリアのステンレス鋼製の内部タンクにはジルカロイ-2製のカランドリア管がロールド・ジョイントによって接合される。
 また、減速材であり、かつ、制御棒およびカランドリアの冷却材である重水系については、重水ならびにトリチウムの漏洩の防止のため十分な配慮がされることになっている。


2.6 燃料取扱設備及び貯蔵設備

(1)燃料交換設備
 燃料交換設備は燃料交換機、トランスファ装置などからなる。燃料交換機は、走行台車により移動され、圧力管下部から圧力管と連結し、燃料集合体、シールプラグおよびしゃへいプラグの取出しそう入を行なう。圧力管との結合部は水封を保ち、地震時の変位を許す構造となっている。
 台車は、地震時に加わる力に耐えるよう固定し、転倒を防止できるように設計されている。
 原子炉運転中の燃料交換においては、新燃料のそう入速度を1cm/secとすることになっており、これにより加わる反応度は最大0.003%ΔK/K/secであるので、出力調整用制御棒で十分に出力上昇を抑制できる。また、燃料交換時において異常事態が発生した場合には、種々のインターロックが働き、安全を確保するように設計されている。
 新燃料、使用済燃料などは、トランスファ装置により、格納容器と使用済燃料貯蔵プールの間を移送される。トランスファ装置の両側には、ボール弁が設けられ、燃料移送時にも格納容器を外部から隔離するようになっている。
 燃料交換装置の構造および性能については、実尺模型によりその安全性を確認することになっている。

(2)燃料貯蔵施設
 新燃料は、原子炉補助建屋内に設けられた新燃料貯蔵設備(炉心全装荷量の約10%の貯蔵能力を有する。)に貯蔵されることになっている。
 使用済燃料は、燃料貯蔵プール建屋内に設けられた使用済燃料貯蔵設備(炉心全装荷量の約120%の貯蔵能力を有する。)に水中貯蔵されることになっている。



2.7 廃棄物処理

(1)気体廃棄物
 本原子炉から発生する気体廃棄物のほとんどは、一次冷却系からのものである。このうち空気抽出器からの排気はガス減衰タンク(1日分の貯留容量のもの2基)およびフィルタを通し放射能レベルの連続測定後、標高約85mに設けられた高さ約45mの排気筒から放出される。
 このほか重水系、ヘリウム系などからトリチウムが放出されることが考えられるが、連続的に排気中のトリチウム濃度を測定することになっている。

(2)液体廃棄物
 原子炉冷却系およびタービン系の機器からのドレンはフィルタおよび脱塩装置で処理し、補給水として再使用する。
 各建物の床ドレンは、フィルタを通じてサンプルタンクに貯蔵し放射能レベル測定後、放射能濃度が低い場合は復水器冷却水で希釈して海洋に放出する。放射能濃度が高い場合には、再生廃液とともに処理する。
 各系の脱塩装置の再生廃液は、廃液中和タンクで中和後放射能濃度が高い場合は濃縮固化し放射能濃度が低い場合は、床ドレンとともに処理する。
 なお、廃液中には、トリチウムが混入していることが考えられるので、海洋への放出前にサンプルタンクでトリチウム濃度を測定することになっている。
 重水系機器からの漏水は、劣化重水として処理し、再使用することになっている。

(3)固体廃棄物
 使用済の制御棒、シールプラグ等は、燃料貯蔵プールに貯蔵する。使用済樹脂、フィルタスラッジ、蒸発濃縮廃液および雑固体廃棄物は、それぞれ貯蔵タンクに一定期間貯蔵後、ドラム缶詰にして固体廃棄物置場に貯蔵保管されることになっている。



2.8 原子炉非常冷却系
 原子炉冷却機能が失なわれるような事故時においても、原子炉停止後の炉心崩壊熱を除去し得るように次のような配慮がなされている。

(1)急速注水系
 再循環配管など一次冷却系配管の大破断による急激な冷却材喪失時に蓄圧器の水を急速に下部ヘッダに注入し、燃料の過熱を防止する。
 なお、この系は、100%容量の2系統からなっていて、外部電源を必要としないようになっている。

(2)高圧注水系
 一次冷却系配管の中小破断による冷却材喪失事故時に復水貯蔵タンクの水を蒸気ドラムを経て炉内に注入し、燃料の過熱を防止する。
 なお、この系は100%容量の2系統から成っていて、非常用電源にも接続されている。

(3)低圧注水系
 一次冷却系配管の大破断による冷却材喪失事故時に圧力が低下した後に復水貯蔵タンクの水または蒸気放出プール水を下部ヘッダを経て炉内に注入し燃料の過熱を防止する。
 なお、この系は100%容量の2系統から成っていて非常用電源にも接続される。

(4)隔離冷却系
 主蒸気隔離弁の閉鎖などによって原子炉と主復水器が隔離された場合に、蒸気の一部を利用したタービン駆動ポンプにより、復水貯蔵タンクの水を下部ヘッダを経て炉内に注入し、蒸気ドラム水位を維持する。なお、この系は100%容量の2系統から成っていて外部電源を必要としないようになっている。



2.9 放射性物質の放出防止
 事故時においても周辺環境に大量の放射性物質が放散されないように、次のような配慮がなされている。

(1)原子炉格納施設
 原子炉格納施設は、鋼製格納容器およびその外周コンクリート壁からなり、両者の間の下半部は、密閉構造のアニュラス部を構成し、原子炉施設の主要部分は、この原子炉格納容器内に収容される。
 原子炉格納容器の最低使用温度は、格納容器材料のNDT+17degC以上である

(2)原子炉格納容器空気再循環設備
 原子炉格納容器空気再循環設備は、フィルタ装置、循環送風機、冷却コイルなどから成り、原子炉格納容器内の空気の温度調整および除塵を行なう。

(3)アニュラス排気設備
 アニュラス排気設備は、フィルタ装置および排風機からなりアニュラス部を常に負圧に保つ、原子炉格納容器内に放射性物質が放出される事故時にはアニュラス部の空気をフィルタ装置で処理した後、排気筒から放出する。

(4)隔離弁
 原子炉格納容器を貫通する主蒸気管などの主要な配管には隔離弁を設け、事故時に放射性物質が外部に漏洩しないように設計されている。

(5)原子炉格納容器スプレ設備
 原子炉格納容器内部には、スプレ設備を設け、一次冷却材喪失時に原子炉格納容器内圧の減少をはかる機能を有している。

2.10 電源設備
 本原子炉施設に必要な通常の電力は、主発電機または、275KV母線から供給されるが、さらに予備の77KV系からも受電できる。これらの電源が喪失しても、原子炉施設の安全性確保に必要な電力は、ディーゼル発電機(2台うち1台予備)および所内の蓄電池から供給できるようになっている。


2.11 耐震上の考慮
 原子炉施設は、原則として剛構造とし、重要な建物、構築物は直接岩盤又は、人工岩に支持される。すべての施設は、安全上の重要度に従って、A、BおよびCの3種のクラスに分類され、それらに応じて耐震設計が行なわれる。
 原子炉、原子炉建家等のように、その機能喪失が原子炉事故をひきおこすおそれのある施設および周辺公衆の災害を防止するために緊要な施設はAクラスとする。
 Aクラスの建物、構築物の耐震設計は基盤における最大加速度0.25gの地震波により動的解析を行なって求められる水平震度および建築基準法に示された水平震度(この場合、地域による低減は行なわない。)の3倍のいずれをも下回らない値によって行なわれる。垂直震度は建物構築物の高さ方向に一定とし、建築基準法に示された水平震度の1.5倍を下回らない値とする。この場合、水平および垂直方向の地震力は同時に不利な方向に作用するものとする。
 Aクラスの機器、配管類については、運転時の応力と地震力による応力を加え合せた場合について、応力集中および材料の弾性、塑性等を考慮した解析により耐震設計が行なわれる。この場合の水平震度は、前記の地震波に対する動的解析によって求められる値とし、かつ、据付位置における支持構築物の水平震度の1.2倍を下回らない値とする。垂直震度は、建物、構築物に対する値をとり、水平および垂直方向の地震力は、同時に不利な方向に作用するものとする。
 次に、原子炉格納容器、制御棒駆動機構等のように安全対策上特に緊要な施設は、Aクラスの扱いのほかにその機能が保持されることを確認されるために、基盤における最大加速度が少なくとも0.25gの1.5倍の地震動による動的解析を行なう。特に原子炉格納容器については、設計用地震力と事故時の内圧、温度条件との組合せに対してもその機能を保持することが確認される。
 タービン系、廃棄物処理系等のように高放射性物質に関する施設は、Bクラスとし、建築基準法に示された震度の、建物は1.5倍、機器、配管類は1.8倍の震度に対し安全なよう設計される。その他の施設はCクラスとし、建物、構築物に対しては、建築基準法に示された震度、機器、配管類については、その1.2倍の震度に対し安全なよう設計される。
 本原子炉の一次冷却材圧力バウンダリは、配管群、蒸気ドラムなどにより構成されているが、それらの耐震構造については、解析あるいは、モデル振動試験によりその安全性を確認することになっている。
 また、地震の際には、原子炉を非常停止させるため、地震加速度検出計を設け、自動的に原子炉を停止することができるようになっている。


2.12 放射線管理
 本原子炉は、原電敦賀発電所の敷地内に設置されるので、放射線管理は、同発電所との関連において行なわれることになっている。すなわち、周辺監視区域は同発電所と共通とし、また、気体廃棄物の放出率は、両原子炉の合計値で管理する。このため本原子炉の制御室において、原電敦賀発電所の気体廃棄物放出率がわかるような設備を設けることになっている。
 なお、管理区域は、本原子炉固有のものとすることになっている。

(1)放射線しゃへい等
 放射線しゃへいは従業員の作業時間に応じ、その被ばく線量が現行法規に規定された許容量を十分下回るよう設計されることになっている。
 主要な放射線しゃへいは、カランドリアタンクの上下および外周をとり囲む鉄水しゃへい体ならびにその外周の壁および原子炉建屋外壁である。
 換気系は主要な場所ごとに別系統となっており、事故時における放射能汚染の拡大防止等について十分配慮されている。

(2)廃棄物の放出管理
 気体廃棄物は放出に先立って放射能レベルを連続的に測定する。測定の結果放射能が高い場合には、排気筒からの放出は一時中止してガス減衰タンクに貯留し、減衰後放出される。
 本原子炉から放出される気体廃棄物の量は1日平均50mCi/sec以下とし、原電敦賀発電所から放出される気体廃棄物の量と合せても1日平均で60mCi/sec以下となるよう管理される。
 本原子炉から放出される液体廃棄物は、復水器冷却水で希釈され、その濃度は法令に定める許容値以下にすることになっている。
 固体廃棄物は、これを海洋投棄する場合には関係官庁の承認を受けることになっている。

(3)放射線監視
 発電所の敷地内における放射線監視は、固定モニタによる連続監視、移動モニタによる定期監視、サンプリング測定等によって行なわれる。
 また、個人の被ばく管理に必要な機器も備えられる。
 なお、重水系に生ずる放射性物質としてのトリチウムに対する放射線監視設備も設けられる。
 敷地外に関連する放射線監視については敷地境界周辺と敷地外の集落とにそれぞれ数個所設けられている原電敦賀発電所のモニタリングポストおよびモニタリングステーションに加えて、新たにモニタリングポストおよびモニタリングポイントが数個所設けられる。さらに放射能観測車も備えられる。
 これらにより周辺一般公衆の被ばく線量が法令に定める許容値をこえないことを常に確認することになっている。



3 平常運転時の被ばく評価
 平常運転時における被ばく線量の評価は、次のとおりであり、敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認める。


3.1 気体廃棄物
 気体廃棄物の放出に当っては、周辺監視区域外における年間被ばく線量が法規に定められる値をこえないようにすることはもちろんのこと、放出管理を十分に行なってできるだけ被ばく線量を少なくするようにすることとしている。
 放出率は、1日平均で、本原子炉について最高50mCi/sec,原電敦賀発電所との合計値を60mCi/sec(それぞれγ線エネルギー0.17MeV相当)以下に抑え、これをこえるような運転は行なわないことになっている。
 かりに、両原子炉の放出率の合計値を最大の60mCi/secとし、放出の割合を変化させ、気象条件を考慮し、年間の被ばく線量を計算すると、敷地外での被ばく線量が最大となるのは敷地境界(原子炉から南約680m)であって、その地点における被ばく線量は、γ線約0.13rem(β線約0.02rem)となる。これは、周辺監視区域外の許容被ばく線量(0.5rem/year)を十分下回っている。
 さらに、実際の運転時にはこれより十分下回ることが予想される。
 なお、敷地内外に放射線監視設備を設け十分な監視を行なうこととしている。


3.2 液体および固体廃棄物
 安全設計および安全対策の項で述べたように、液体廃棄物および固体廃棄物の廃棄については、十分な安全対策が講じられることになっている。



4 各種事故の検討
 本原子炉施設において発生する可能性のある反応度事故および機械的事故について検討した結果、それぞれ次のような対策が講じられており、本原子炉は十分安全性を確保しうるものであると認める。


4.1 反応度事故

(1)起動事故
 運転手順ならびに制御棒引き抜きインターロックによって反応度付加は、実効増倍率の変化にして0.015(ΔK)以下に抑えられている。 かりに、原子炉起動時に、運転手順を無視して最大反応度価値を有する制御棒1本を最大引き抜き速度で連続的に引き抜いたとしても、核的逸走は負の出力係数で抑えられ、かつ、中性子束高スクラムで原子炉は停止する。この事故で燃料被覆の破損には至らない。

(2)運転中の制御棒引き抜き事故
 定格出力運転中に誤って制御棒1本を連続的に引き抜くことは、制御棒引き抜き監視装置により阻止されることになっているが、これが動作しない場合でも中性子束高スクラムで原子炉は停止する。この事故によっても、MCHFRは1.5を下回らず、燃料被覆の破損には至らない。

(3)重水レベル変化事故
 定格出力運転中に重水レベル制御系の故障によって重水水位が変動すると出力変動が生ずるが、重水水位低によるスクラム直前の水位から水位が最大の速度で上昇するとしても、中性子束高スクラムで原子炉は停止し燃料被覆の破損には至らない。

(4)重水ポイズン希釈事故
 運転員の誤操作または重水浄化系の誤動作による重水中のボロン濃度の減少に基づく反応度付加率は十分に小さく、自動制御可能範囲内である。

(5)重水ダンプ後再起動事故
 重水ダンプ後に、重水浄化系の誤動作によってポイズンが除去された重水が最大の上昇速度で上昇したとしても、起動領域計装によって、スクラム及び重水ダンプとなり、原子炉は停止し燃料被覆の破損には至らない。

(6)燃料交換時事故
 運転中の新燃料のそう入速度は1cm/sec以下となるように設計されているが、かりに5cm/secの速度で新燃料が炉内にそう入され制御棒が反応度変化に追従しないとしても、中性子束高スクラムで原子炉は停止する。この事故によってもMCHFRは約1.6を下回らず、かつ、燃料被覆の破損には至らない。

(7)冷水注入事故
 冷却材温度係数は平衡炉心において負の最大値を示す。平衡炉心において、給水系の故障によって冷水が炉心に注入されたとしても、これによる反応度付加は小さく、制御棒の自動制御可能範囲内である。

4.2 機械的事故

(1)冷却材流量喪失事故
 原子炉運転中、再循環ポンプ全部が電源喪失によって同時に停止しても、再循環流量は系の慣性によりゆっくりと減少する。また、あるループの1台が軸の破損等によって停止したとしてもいずれの場合も電源喪失の信号あるいは ポンプ流量低の信号によって、スクラムあるいは1部制御棒が急速そう入され、出力は低下し、MCHFRは1.7を下回ることはなく、燃料被覆の破損には至らない。

(2)冷却材喪失事故
 なんらかの原因による一次冷却系配管の破断により、1つのループからの冷却材の漏出ないし喪失があって、炉心の冷却が十分でない場合にも次のような対策が講じられている。
 小破断に対しては、蒸気ドラム水位の低下によって検出し隔離冷却系による給水が行なわれる。これによっても水位がさらに低下する場合には、高圧注水系の動作によって炉心への注水を行なう。
 中破断に対しては、蒸気ドラム水位の低下によって隔離冷却系および高圧注水系が働くが、蒸気ドラム圧力の低下によって低圧注水系も動作して炉心への注水が行なわれる。
 大破断に対しては、蒸気ドラム水位の低下および蒸気ドラム圧力の低下の信号によって急速注水系ならびに低圧注水系による注水が行なわれる。
 いづれの場合も蒸気ドラム水位低の信号でスクラムし原子炉は停止する。
 再循環系の1つのループの最大口径の配管が完全に破断する場合を仮定しても急速注水系および低圧注水系の動作によって燃料被覆の破損は一部に抑えられ、燃料の溶融には至らない。
 圧力管の下部延長部において燃料集合体が落下するような完全破断があったとしても高圧注水系および低圧注水系の動作により、他の圧力管内の水位は確保され、燃料の溶融には至らない。
 また、落下した燃料集合体1体のすべての被覆管が破損するとしても、破損燃料からの核分裂生成物は排気筒に導かれる前に、格納容器空気再循環系、アニュラス排気系のフィルタを通り、大気中に放散される量はごく僅かに抑えられる。
 圧力管およびカランドリア管がカランドリアタンク内で破断する場合を仮定しても、他の圧力管およびカランドリア管を破断させることなく、カランドリアタンク内圧も逃し弁の動作によって設計圧力以上となることはない。

(3)主蒸気管破断事故
 主蒸気管が格納容器外で破断しても、蒸気の放出流量は流出制限器によって制限され、かつ、流量増加信号等によって主蒸気隔離弁が急速に閉止し、放出する蒸気量は短時間に止まり、各ループの炉心が露出することはない。なお、原子炉は主蒸気隔離弁閉スクラムで停止する。炉心部では、破断後の炉心圧力低下によってボイドが増加しMCHFRの減少がみられるが、破断と同時に電源の喪失があって炉心冷却材流量の低下があるとしても、MCHFRが1.4以下になることはない。

(4)燃料取扱事故
 燃料交換中の事故として、燃料交換機の冷却装置の故障が考えられる。電源喪失によって燃料交換機の冷却能力が停止したとしても冷却装置の保有冷却水によって交換機の容器内に収納されている使用済燃料が溶融することはない。燃料交換機から燃料貯蔵プールにいたるまで使用済燃料の取扱いは水中で行なわれることになっているが、取扱系の故障によって使用済燃料集合体1個が落下し、そのすべての燃料棒が破損するような場合でも破損燃料からの核分裂生成物は、排気筒に導かれる前に格納容器空気再循環系あるいは燃料貯蔵プール建家換気系のフィルタを通り、大気中に放散される量はごく僅かに抑えられる。

(5)電源喪失事故
 常用所内電源がすべて喪失した場合には、原子炉は自動的にスクラムによって停止され、停止後の原子炉は、隔離冷却系によって冷却される。安全上重要な機器の非常用電源としては、ディーゼル発電機および所内蓄電池系があり、常用所内電源および外部電源が喪失したとしても、原子炉の安全性が損なわれることはない。

(6)その他の機器類の故障
 制御棒駆動系の故障、主要弁類の故障、給水喪失事故、初圧調整装置の故障等が起った場合でも、原子炉に重大な支障を与えないよう十分な対策がなされている。


5 災害評価
 本原子炉はすでに述べたように、種々の安全対策が講じられており、かつ、各種事故に対しても検討の結果、安全を確保しうるものと認めるが、さらに「原子炉立地審査指針」に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで、解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は「原子炉立地審査指針」に十分適合しているものと認める。


5.1 重大事故
 重大事故として、冷却材喪失事故、主蒸気管破断事故およびガス減衰タンク破損事故の三つの場合を想定する。

(1)冷却材喪失事故
 ある1つのループの再循環系の最大口径の配管である蒸気ドラム-下部ヘッダ間の下降管(直径約320mm)が、瞬時に完全破断し、冷却材が放出されると仮定する。解析の結果では、急速注水系および低圧注水系が動作して炉心水位は回復し燃料の溶融は生じないが、破損ループに対応する1/4炉心の燃料棒本数の約60%は過熱のために被覆の一部に破損がおこる。また、ジルコニウムと水との反応は1/4炉心内燃料被覆管ジルコニウムの約0.04%にとどまる。原子炉格納容器内の圧力は、一次冷却材の放出により上昇するが、原子炉格納容器スプレ設備により冷却され、設計圧力をこえることなく、事故後約11時間で内圧は大気圧近くまで減少する。
 なお、被ばく線量の計算には、核分裂生成物の放散過程に従い、次の仮定を用いる。
① 破損ループに対応する1/4炉心の全部の燃料要素の被覆に破損があったとし、該当する1/4炉心に内蔵されている核分裂生成物のうち、よう素1%、希ガス2%が格納容器内に放出される。この場合よう素のうち、10%が有機状のものとし、残りの無機よう素の50%は格納容器壁面等に吸着されるものとし、液相-気相の分配係数を100とする。

② 格納容器からの漏洩率は事故後24時間0.5%/dayとする。なお、格納容器からの漏洩は97%がアニュラス部に生じ、3%は原子炉格納容器のドーム部に生ずるものとする。

③ アニュラス部に漏洩したものは、換気率100%/dayでアニュラス排気設備を経て排気筒から放出される。アニュラス排気設備に設置されるよう素フィルタの除去効率は90%とする。

④ 大気中での拡散に用いる気象条件は、排気筒の高さ(頂部標高約130m)現地の気象データ等をもとに、「原子炉安全解析のための気象手引」(以下「気象手引」という)を参考にして、大気安定度F型拡散幅20°有効拡散風速1.5m/sec(24時間放出として算出)とする。なお、格納容器上部ドーム部からの放散は地上放散、排気筒からの放出は、放出高さ100m、均一拡散とする。

 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は全よう素が約10Ci(よう素-131換算以下同様)希ガスが約390Ci(γ線エネルギー0.5MeV相当以下同様)である。
 居住可能区域で被ばく線量が最大となるのは、居住可能区域境界(原子炉から南南東約1,100m)であって、その地点における被ばく線量は甲状腺(小児)に対して約0.7remおよび全身に対してγ線約0.02rem(β線約0.0004rem)となる。
(2)主蒸気管破断事故
 格納容器外で主蒸気管1本が瞬時に完全破断し、破断口から飽和蒸気が大気中に放出されると仮定する。
 主蒸気隔離弁は、事故後約5.5秒で閉鎖され、放出流量は流出制限器によって定格流量の約200%に制限されるものとして、放出される蒸気量を解析すると、主蒸気隔離弁の閉鎖迄に約3,400kgとなるが、放出量による冷却材の減少は微少であり、炉心は露出しない。また、主蒸気隔離弁閉鎖後は、隔離弁からの漏洩により気相中の核分裂生成物が大気中に放出されもものとする。
 そこで次の仮定を用いて被ばく線量を計算する。
① 事故前の一次冷却材中の核分裂生成物の濃度は、原子炉運転中の冷却材放射能濃度の最高限度である27μCi/cm3(うち、よう素-131で0.32μCi/cm3)とする。

② 事故発生後の原子炉圧力の減少に伴い、破損燃料から核分裂生成物が冷却材中に放出されるが、その量は、全よう素7,500Ci(うち、よう素-131 4,000Ci)、よう素以外のハロゲンが11,600Ci(γ線エネルギー0.5MeV相当以下同様)、希ガス50,000Ciとする。

③ 原子炉圧力は、主蒸気隔離弁閉鎖後24時間で大気圧まで減圧されるものとする。

④ 主蒸気隔離弁は、8個あるうち1個が閉じないものとする。閉鎖した隔離弁から蒸気が漏洩するものとし、隔離弁閉鎖後、炉圧が大気圧まで減少するまで一次冷却系の蒸気相体積に対して60%/dayの漏洩率で蒸気が漏洩するものとする。

⑤ 燃料から追加放出される核分裂生成物のうち希ガスおよび有機よう素は全て気相部に移行するものとし、無機よう素の液相-気相間の分配係数を100とする。
 なお、よう素中の有機および無機の存在割合はそれぞれ10%および90%とし、有機の低減率を1/10とする。

⑥ 主蒸気隔離弁閉鎖前に放出された冷却材は気温33℃相対湿度40%の大気中に全部蒸発し、半径約71mの飽和蒸気の半球状放射性雲となる。この雲は風速1m/secの風で移動するものとする。

⑦ 主蒸気隔離弁閉鎖後、主蒸気隔離弁から漏洩した放射性物質の大気中での拡散に用いる気象条件は、現地の気象データをもとに「気象手引」を参考にして地上放散、大気安定度F型、拡散幅20°有効拡散風速1.5m/sec(24時間放出として算出)とする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、内部被ばくに関するものとして全よう素約50Ci外部被ばくに関するものとしてハロゲン約225Ci、希ガス約4,260Ciとなる。
 居住可能区域で被ばく線量が最大となるのは、居住可能区域境界(原子炉から南南東約1,100m)であって、その地点における被ばく線量は甲状線(小児)に対し約14rem、全身に対してγ線約0.012rem(β線約0.089rem)となる。

(3)ガス減衰タンク破損事故
 ガス減衰タンクが破損し、貯留されていた放射性気体廃棄物が一時に放出されると仮定する。
 そこで次の仮定を用いて被ばく線量を計算する。
① 事故発生の24時間以上前から原子炉は、24時間減衰後の排気筒放射性気体廃棄物放出率に換算して50mCi/secの状態で運転されていたとする。

② 1日分の貯留容量のあるガス減衰タンク1基が1日分貯留し終った瞬間に破損し、ガスの全量が瞬時に地上に放出されるものとする。

③ 大気中での拡散に用いる気象条件は「気象手引」を参考にして地上放散、大気安定度F型、風速1m/secとする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は希ガス約14,000Ciであり、居住可能区域で被ばく線量が最大となるのは、居住可能区域境界(原子炉から南南東約1,100m)であって、その地点における被ばく線量は全身に対してγ線約0.17rem(β線約0.48rem)となる。
 上記各種重大事故時の被ばく線量は、「原子炉立地審査指針」にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150rem、全身25remより十分小さい。

5.2 仮想事故
 仮想事故として冷却材喪失事故および主蒸気管破断事故の二つの場合を考える。

(1)冷却材喪失事故
 仮想事故として、重大事故と同じ事故について、炉心冷却系の動作にもかかわらず炉心の冷却効果はなく、1/4炉心内の全燃料が溶融したと考えた場合に相当する核分裂生成物の放出があるものとし、1/4炉心内の燃料被覆ジルコニウムの約27%が水と反応するものと仮定する。
 また、格納容器スプレ設備およびアニュラス排気設備の効果については、重大事故と同じとし、次の点については重大事故の場合と異なる仮定をして被ばく線量を計算する。
① 1/4炉心の燃料に内蔵する核分裂生成物のうち、よう素50%、希ガス100%が原子炉格納容器内に放出される。

② 格納容器からの漏洩率は、事故後無限時間0.5%/dayとする。

③ 国民遺伝線量の評価における大気中での拡散に用いる気象条件は、「気象手引」を参考にして大気安定度F型、拡散幅20°、風速1.5m/secとする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、全よう素約6,700Ci、希ガス約51,200Ciとなる。
 居住可能区域において被ばく線量が最大となるのは、居住可能区域境界(原子炉から南南東約1,100m)であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(成人)に対して約95rem、全身に対してγ線約1em(β線約0.15rem)である。
 また、全身被ばく線量の積算値は約1.5万人remである。

(2)主蒸気管破断事故
 仮想事故としては、重大事故と同じ事故を想定するが、隔離弁閉鎖後の仮定は次の点が重大事故と異なる。
 隔離弁の漏洩率は60%/dayとするが、漏洩の継続は無限時間とする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、内部被ばくに関するものとして全よう素約216Ci、外部被ばくに関するものとしてハロゲン約374Ci、希ガス約4,270Ciとなる。
 居住可能区域において被ばく線量が最大となるのは居住可能区域境界(原子炉から南南東約1,100m)であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(成人)に対して約15rem、全身に対してγ線約0.014rem(β線約0.09rem)である。
 また、全身被ばく線量の積算値は、冷却材喪失事故の場合の積算値に比べて十分小さい。
 上記各仮想事故時の被ばく線量は「原子炉立地審査指針」にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300remおよび全身25remより十分小さい。
 また、全身被ばく線量の積算値は、国民遺伝線量の見地から示されているめやす線量の200万人remより十分小さい。

6 技術的能力

 動力炉・核燃料開発事業団は、設立の趣旨に則り、設立以来国内の有能な原子力関係技術者の採用に努め、技術的能力のかん養に努力している。
 新型転換炉関係の業務には、すでに原子炉の設置、運転の経験を有する技術者多数が携つており、今後も新型転換炉の建設、運転計画に合わせて増員されることになっている。
 なお、本新型転換炉の建設および運転に当っては、これまでに原子炉施設の建設および運転に関して十分経験を有する日本原子力発電株式会社、ならびに電源開発株式会社の協力を受けることとしている。
 これらの点から、本新型転換炉を設置するために必要な技術的能力および運転を的確に遂行するに足りる技術的能力を有するものと認める。




Ⅲ 審査経過

 本審査会は、昭和45年3月10日に開かれた第78回審査会において次の委員からなる第63部会を設置した。

審査委員
三島 良績(部会長) 東京大学
安藤 良夫 東京大学
植田 辰洋 東京大学
大崎 順彦 建築研究所
小平 吉男 日本気象協会
村主  進 日本原子力研究所
都甲 泰正 東京大学
浜田 達二 理化学研究所
弘田 実弥 日本原子力研究所
宮永 一郎 日本原子力研究所
渡辺 博信 放射線医学総合研究所
調査委員
飯田 国広 東京大学
西脇 一郎 宇都宮大学
 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行ない、昭和45年3月25日第1回会合を開き、審査方針を検討するとともにA(炉関係)、B(装置、プラント関係)およびC(環境関係)の各グループを設置して、審査を開始した。
 以後、部会および審査会において審査を行なってきたが、昭和45年11月6日の部会において部会報告を決定し、同年11月13日第85回審査会において本報告書を決定した。



前頁 |目次 |次頁