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日本の原子力開発(山田太三郎原子力委員)



 日本の原子力開発
 (Integrated Atomic Power Programs)

原子力委員会委員
山田 太三郎

 国際原子力機関第14回総会に際しIntegrated Atomic Power Programsについて講演の機会を得まして光栄に存じます。
 本講演のタイトル“Integreted Atomic Power Program”は一般論的な響を有しておりますが、実際の講演の内容は主として日本の状況の報告に限定されておりますことをお断りしたいと思います。
 国毎に政治的、経済的、技術的、地理的、資源的等々の面で異なっており、各国の有している条件のもとにoptimyationを行なうとすれば今日のNuclear Power Programについては力点が変るのは必然と思われますが、しかし、反面原子力を扱うという意味では相当の共通点を有することになるのも当然といえます。この意味でこの席の皆様にも日本の状況は何等かの参考になれば幸甚に思う次第であります。
 原子力の開発、利用は人類の発展に新天地を与えるものであることは申すまでもありません。放射線の利用につきましては、広範多岐にわたって、利用されており、また、原子力発電につきましても、先進国のみならず、発展途上国におきましても、その開発が進められつつあります。さらに、船用炉、放射線化学、食品照射等の研究開発が進められているほか海水脱塩、製鉄および化学工業のプロセスヒートとしての利用分野が開発されようとしています。
 このように原子炉のエネルギーおよび放射線をわれわれの産業活動、生活環境の改善に、広範に利用しうる可能性が増大しつつありますことは、原子力の開発に対する期待を大きくさせますと同時に、原子力の開発に従事する者の責務を一層重大なものとしております。
 原子力の開発、利用、とくに動力炉に関連する事項は長期的エネルギー需給の見通し、長期的核燃料サイクル等の観点から長期にわたって、計画的に推進することが最も重要であります。このためには、種々の困難はありますが経済、社会の発展についての想定に基づき、原子力の利用についての長期的目標を設定し、それを達成するための技術開発、人材養成等についての長期計画を策定し、国の内外における環境条件の変化に応じて、計画を修正しつつ開発を進める必要があります。
 日本は、原子力先進国におくれて、1950年代のなかばに、原子力の開発に本格的に着手することとなったのでありますが、その際原子力基本法を制定し、海外の開発成果を取り入れるのみならず、進んで国際協力に資するとともに、平和目的に限って、原子力の開発利用をすすめることとし、原子力委員会を設置して、原子力の研究、開発及び利用に関する国の施策を計画的に遂行することとしたのであります。
 原子力委員会としましては、この基本法にのっとり、1961年に最初の「原子力開発利用長期計画」を策定し、その後、1967年に現在の長期計画に改定したのであります。
 この長期計画におきましては、20年の展望にもとづき、10年の期間を対象として、原子力発電、原子力船、放射線利用等について一応の目標を定め、その達成のための研究開発、核燃料の確保、原子力産業の育成、安全確保、国際協力、人材養成等についての国の施策を示してあります。
 わが国では、経済社会の活動が国民全般の自由な創意に基づき運営されており、原子力の開発利用も、この基本原則に基づくことは言うまでもありません。したがって、原子力委員会が策定しております長期計画は、原子力の開発利用についての長期的な目標とその達成のための国の長期的施策を示しておりまして、政府の予算編成等についてはこの長期計画にそって行なわれますが、民間産業界、学会、国民一般に対してはガイドポストの役割を果たすものであります。民間産業界は、長期計画の線に沿って自主的に原子力事業の産業化を進め、政府は、それを支援する施策を講じております。
 以下、わが国における「原子力開発利用長期計画」の背景、内容、現計画の内容と実勢との関係について御紹介したいと考えます。




日本のエネルギー事情と原子力の役割

 日本における経済発展は近年、世界の注目の的となっております。過去、10数年にわたり年平均約12%という著るしい経済成長をとげております。
 こういった経済活動を支えるものはいうまでもなくエネルギーの安定、かつ低廉なる供給であります。日本では前述の経済成長にともないエネルギー消費量も例えば1955〜1967年の間、年平均11.6%の伸びを示しました。そして1968年におけるエネルギーの消費実績は2,350兆キロカロリーに達しました。この内訳をみますと石油が1,560兆キロカロリーで全体の67%を占め、つづいて石炭が550兆キロカロリーで24%、水力が180兆キロカロリーで8%となっております。日本において産出するエネルギー資源には水力、石炭がありますが、その量は全体のエネルギー消費量に比較するときわめてわずかであり、1968年の使用実績におきましても23%を国内産のエネルギー資源によって賄っているにすぎません。この国内資源については12%が石炭、8%が水力であって、エネルギー消費量の67%を占める石油はそのほとんどを諸外国からの供給に依存しております。
 現在の「原子力開発利用長期計画」を策定した1967年において想定したわが国の総エネルギー需要見通しは、1975年で3,400兆キロカロリー、1985年では5,980兆キロカロリーに達するものとみこんでいました。これが最近の予想ですと1975年には36%増で4,640兆キロカロリー、1985年では67〜83%増で9,980〜10,940兆キロカロリーに達するものとみられています。第1図は1967年の総エネルギー需要見通しと最近の見通しとのちがいを円の大きさによって示しています。
 このような総エネルギー需要の増加予想に対しまして、原子力への期待も、ますます大きくなっています。現在の原子力開発利用長期計画では1975年の原子力発電設備を600万KWとしていますが、これが866万KWに、1985年では3,000〜4,000万KWが6,000万KWにと大幅に増加させることが期待されています。この新たな予想によりますと原子力は、1968年の総エネルギー消費実績中0.1%の割合を占めるにすぎませんが1975年には2%、1985年には第1図に示されますように約10%を占めるようになるものと想定しています。この結果、年々の原子力発電設備の容量は第2図のようになります。さらに、電子供給力に占める割合となりますと第3図の電力需給構造にみられますように1969年では0.3%であったものが1975年には83%、1985年には33〜36%も占めることとなります。
 わが国ではウラン資源は後に述べますようにもともと少なく、原子力発電の開発によって必要となる核燃料はその大分部を石油と同じく海外に依存しなければなりませんが、石油に比較すると炉内外のインベントリがあることと輸送と備蓄が容易であり、さらに、将来は新型動力炉の開発によって核燃料の一層の有効利用がはかれることと、とりわけ高速増殖炉によってウラン資源のうち大分部を占めるウラン238をプルトニウムとして使用が可能となるので、原子力を準国内エネルギー源として考えられます。また原子力発電の経済性は在来発電に比較して研究開発の進展にともない一層有利となる可能性をもっていますので、積極的にその開発をすすめております。原子力発電の導入はエネルギー供給の多様化となり供給の安定化に貢献する効果も見落すことの出来ない事柄であります。



第1図 一次エネルギー供給構成(昭和60年)




第2図 原子力発電開発見通し



第3図 電力供給構成の長期見通し




 このため、エネルギー供給に占める原子力の割合は今後急速に増大させねばなりません。
 最近におきましては在来火力発電所による大気汚染が社会問題化しておりますが、原子力発電所の導入は とくに大気汚染防止に極めて有効であると考えます。また、従来、原子力の開発は発電を主目的にすすめられてきたといえましょう。しかしながら、実用化がはかられ、経済性の見通しが明らかになってくるにしたがって、原子力エネルギーの有利性に着目してエネルギー多消費産業への利用について検討がすすめられ、これら産業プロセスに積極的に原子力を導入しようとする要請が高まってきています。
 さきに述べたエネルギー需給見通しには将来の技術革新等の影響が考えられていませんが上述のようなことを考慮するとエネルギー供給に占める原子力の役割は一段と大きなものとなります。
 以上、概観したように、原子力発電を大規模に発電系に導入するとともに、原子力発電以外の分野にもその利用をはかるべき新たな段階にいたったと考えられます。
 これにともない、原子力開発利用上の課題として、原子力発電を推進するための核燃料サイクルの確立と新しい利用分野への利用の実用化の研究開発という2つがより肝要な問題となってまいりました。
 このように、予想以上のエネルギー需要の増加を見通し、進展した原子力発電の現状、さらに新たな利用分野への拡大の要請を考慮し、新たな観点より「原子力開発利用長期計画」を改訂する必要があるものと考えています。
 なお、エネルギー需要の見通しについては、同じ年代例えば、1985年のエネルギー所製量が1967年の見通しと1970年の見通しでは大幅な差があります。1970年の見通しは1967年以降の実情を入れて修正したもので、この方がより真実に近いものと考えられます。
 しかし、反論としては1970年代に入ってとみに問題になった公害に対する社会的反響およびその防止費用等を因子として考えた場合、1967年代の伸び率の延長上に将来を予想してよいかと云う反論のあることも事実です。
 ここで反論を許容しますとエネルギー総需要の増加は最近の見通しよりも小さくなる事になりますが、その場合、減少するのは石油の方であって、原子力は影響を受けないのではないかと云う強気の予想も有力です。それは大気汚染防止問題が石油の場合極めて深刻で原子力に移行する方が多かろうという予想であります。
 これらのことを考慮に入れて今後は原子力に新しい見通しの数字を使っていくこととしております。

(注)最近のエネルギー需給見通しについては

(1)電源開発調整審議会では1980年にいたる電力需給とその構成について想定された。

(2)総合エネルギー調査会需給部会では1985年にいたる総エネルギー需要とその需給構成について想定された。

(3)日本原子力産業会議では1990年までの電力需給とその構成について想定された。



日本の動力炉の利用見通し

 第4図にわが国における原子力発電所の位置を示してありますが、日本では1967年に運転開始したマグノックス型出力16万6,000KWの東海発電所と本年3月に予定通り46ヵ月の工期をもって運転開始しましたBWR出力33万1,000KWの敦賀発電所があり、さらに本年10月にはBWR出力40万KWの福島原子力発電所およびPWR出力34万KWの美浜発電所がそれぞれ予定通り運転開始する予定であります。このほかLWRが5基で合計出力335万KWが建設中であります。
 さきに述べましたように、原子力発電の開発規模は1985年には6,000万KWに達するものと見込まれています。このような積極的な原子力発電の開発を将来進めますと、必要とする天然ウラン量、濃縮分離作業量等は莫大なものになります。このため、海外に核燃料資源を依存する日本としては、これらの有効利用をはかるため、新型転換炉と高速増殖炉を発電炉として実用化することがとくに望まれ、これらの開発を国のプロジェクトとして推進しております。
 日本における動力炉開発、なかでも将来の動力炉の本命と考えられているFBRについて、現在の計画では1980年代の後半に実用化することを目標としています。したがって今より15〜20年先のことになります。このため、在来の原子炉の技術をもって開発が早期に可能と考えられ、核燃料の一層の有効利用に資することと所要濃縮ウラン量の軽減が期待される新型転換炉、−重水減速沸騰軽水冷却天然ウラン燃料(プルトニウムリサイクル)の熱中性子炉−を第2図にもみられましたように1970年代の後半に実用化することを目標に開発を推進しています。



第4図 原子力発電所の立地図


 これら新型動力炉の発電系への導入によって第5図にみられますように軽水炉のみで2,000年まで原子力発電を行なった場合に予想される累積天然ウラン所要量45万トンを新型転換炉のみの導入によって20〜40%、高速増殖炉のみの導入によって30%、新型転換炉と高速増殖炉の導入によっては40〜50%の節減をはかることができると期待されます。新型転換炉による効果の割合はおおよそ2,000年までのウラン所要量に大きく影響し、2,000年以降にいたると高速増殖炉による効果の割合が大きくなります。
 第5図はウラン濃縮分離作業量について試算したものでウラン所要量と同様に大幅に所要ウラン濃縮分離作業量を低減させうることが期待できます。



第5図 新型転換炉、高速増殖炉によるウラン累積所要量の節減効果




第6図 新型転換炉、高速増殖炉による濃縮分離作業量の低減効果





核燃料の確保

 現在の見通しでは、1975年までに866万KW、1985年までに6,000万KWの原子力発電が開発されることになりますが、このために必要な天然ウラン量は第7図に示しますように1975年までに1万8,000ST、1985年までは11万6,000STの多きに達します。これに対し、日本におけるウラン埋蔵量として平均品位0.05%程度で7,000STを把握しているにすぎません。このため、必要とするウランをどのように確保するかはきわめて重要な問題であります。このようなことから、海外ウラン資源の確保については長期購入契約、短期購入契約および探鉱開発の3方式を適宜組み合せて運用し長期にわたり安定して確保することにしています。この方針のもとに、すでに長期購入契約として民間電力会社では合計約32,000STを、短期購入契約として合計約2,000STをそれぞれ確保しています。また、探鉱開発としては、外国民間企業と共同して探鉱開発を行なっています。しかしながら、前述のウラン所要量に比較しましてもわかりますように、さらに、多くのウラン資源を確保する必要があります。
 現在、日本で建設中の原子炉はすべてLWRで、計画中のものも殆んどLWRになるものとみこまれています。一方、新型炉の研究開発を推進していますが、FBRの実用化はまだ当分先であり、ATRについては1970年代の後半に実用化することを目標にしていますが、当然のことながら、その時まで開発したLWRの寿命期間中は濃縮ウランを必要とし、さらにATRが実用化の場合直ちに建設、運転等について多くの実績や経験を有するLWRに代って、以後建設する発電炉がすべてATRになると考えることはむずかしいでしょう。今後の濃縮ウランの需要の増大を考えるとき、将来とも、その供給を海外のみに依存することは、安定性の面からみても望ましいとはいえません。
 したがって濃縮ウランを必要としない新型炉の開発とあわせてウラン濃縮について研究開発をすすめる必要があります。
 ウラン濃縮技術については、米国はじめ、その他の諸国でガス拡散法によるウラン濃縮が実用化していますが、その技術は未公開であります。
 このような状況から日本では1969年ウラン濃縮の研究を原子力特定総合研究として、ガス拡散法および遠心分離法の両方式について技術的諸問題の解明の見通しを、ここ1〜2年の間に得ることを目標に研究開発をすすめています。
 将来、ウラン濃縮を事業化することになるならば、プラントのスケールはメリットとの関連で濃縮ウランの供給源の多様化の観点から必要とする濃縮ウランの一部を賄なうことにとどめるか、もしくは必要な濃縮ウラン全部を賄なうか、さらには外国への供給サービスをも考慮することが適切なのかが検討課題となるでしょう。




使用済燃料の再処理

 日本ではかねてより核燃料の安定・低廉なる供給をはかる観点より、国内において核燃料サイクルの確立をはかることを方針としてきました。このため、原子力発電の実用化のテンポと合せ使用済燃料の再処理工場を建設することとし、まず、年間処理能力210トンの第一号プラントを動力炉・核燃料開発事業団によって1973年ごろに稼動せしめることを目標に本年着手することにしています。
 前述のような原子力発電の開発見通しによると第7図にみられますように1980年には660トン、1985年には約1,500トンの使用済燃料が取り出される見込みであります。このため、ひきつづき第2号プラントの建設の具体化をはかる必要があります。この第2号プラントについては、民間の手によってすすめられることが期待されていますが、海外への再処理サービスの提供も考えられます。日本は国土が狭隘で人口が稠密なため、特に環境問題については使用済燃料の再処理方式の検討にあたって考慮しなければなりません。このため、再処理プラントからの液体廃棄物を少なくするため、乾式についての研究開発および気体廃棄物を少なくするための研究開発の検討が必要であります。


第7図 累積ウラン所要量分離作業量および再処理所要量の見通し




放射性廃棄物の処理

 原子力発電の実用化をむかえ原子力発電所使用済燃料再処理プラント等から放射性廃棄物が発生しますのでこれらの放射性廃棄物について十分なる調査研究をすすめる必要があります。
 日本における原子力発電の開発見通しにもとづいて試算しますと1980年には原子力発電所からの低中レベルの液体および固体廃棄物発生量は5,000立方メートルその放射能は28キロキュリーに達し、再処理プラントからは中レベルの液体および固体廃棄物が3,000立方メートルで1.0キロキュリー、高、極高レベルの液体および固体廃棄物が700立方メートルで270メガキュリーのものが発生する見込みであります。
 このような莫大な放射性廃棄物をどのように処理処分するか重大な問題であり、日本ではこれら処理処分に関する研究をすすめる一方、1969年から、処理、処分のやり方、今後進めねばならない研究開発課題の検計を重ねております。
 この問題につきましては、低中レベル廃棄物の海洋投棄について、海洋環境の保全、海洋の開発利用との関連において、国際的に検討を要します。高レベル以上の廃棄物の長期貯蔵につきまして、1,000年以上に及ぶ長期にわたって責任を持って貯蔵管理する体制の確立が必要であります。


(注)ここに記述している廃棄物の放射レベルで固体については
低レベルとは比放射能で
         10-3〜1Mci/mlのもの

中レベルとは比放射能で
         1〜103Mci/mlのもの

高レベルとは、中レベル以上の比放射能のものをいう


液体廃棄物については

低レベルとは比放射能で
         10-6〜10-3Mci/mlのもの

中レベルとは比放射能で
         10-3〜103Mci/mlのもの

高レベルとは比放射能で
         103〜105Mci/mlのもの

極高レベルとは高レベル以上の比放射能をもつもの


原子力産業の現況

 わが国の原子力開発利用が、原子力先進国に比し、遅れて着手されたため、わが国の原子力発電所建設技術は著しくたち遅れていました。したがって、発電炉については、民間企業が研究開発をすすめる一方海外から製造技術を導入し、その国産化をすすめ政府はこれを援助する方針をとっています。現在、わが国で建設中の原子力発電所は、米国で開発された軽水冷却炉が中心となっており、これらの発電所の建設は、海外から導入した技術をもととし行なわれています。
 わが国の産業界では重電機メーカーが中心となって核燃料メーカー、関連機器メーカー、材料メーカー、商社、銀行などからなる5グループがあり、グループ内の重電機メーカーもしくは核燃料メーカー等が海外原子力メーカーから技術導入する一方研究開発の共同化、関係業務の調整分担を行なって原子力事業をすすめています。
 このような民間産業界の活動に対して、わが国原子力産業の健全なる育成をはかるため金融、税制上の優遇措置を講じているほか、政府関係研究機関における研究成果の開放研究開発の助成等を行なって民間企業の技術基盤の向上をはかっています。
 このような民間産業界の努力と政府の助成によって、原子力先進国におけるように、軍需を背景に尨大な研究開発を実施し、その成果を平和利用面に活用するといういわゆる軍事利用のスピン・オフを期待できないという困難な条件を克服して、発電炉を国産する体制は一応整ってきました。
 わが国における発電炉の国産化の状況をみますと、第1表に示す通りであり、原子力発電の開発初期においては、海外のメーカーが主契約者となり、国内メーカーはその下請業者として参画する形をとっていましたが、現在では、軽水冷却炉の製造を行なう三メーカーとも主契約者となって原子力発電所の建設を行なうにいたっており、発電所機器の国産化率も90%に達するものも現れています。
 核燃料については、民間企業による外国技術の導入は外国企業との共同事業として核燃料加工工場が、今年に入って完成され、現在約140トン/年の処理能力を持っており、核燃料国産化の体制はかたまりつつあります。この核燃料加工事業については、政府が原子炉等規制法によって事業許可する制度をとって安全性を確保することはもとより原子力産業の健全なる発達をはかっている。
 このように、わが国における原子力産業は、発電炉コンポーネントの一部を輸入に依存しながらも、その大部分を国産化し、圧力容器などについては輸出も行なうにいたっています。しかし、軍事利用に関連して蓄積した技術経験と原子力発電所の建設についての多くの経験を有している原子力先進国の原子力産業と十分競争できる輸出産業として発展させるためにはさらに育成をはかる必要があると考えています。

第1表 原子力発電プラントとその主契約者




第9図 原子力第1船の建造運航のスケジュール



原子力プラントの立地

 原子力発電の推進にあたり、政府は原子力発電施設の安全確保について万全の措置を講ずるため、安全基準の整備、安全性に関する研究、原子力発電所の用地確保のための調査、合理的な規制の実施をはかることを長期計画において明かにしています。原子炉の立地に関しては、その安全審査に際しての指針を定めていますが、その基本的考え方は、

(1)大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことはもちろんであるが、将来においてもあるとは考えられないこと。また、災害を拡大するような事象も少ないこと。

(2)原子炉は、その安全防護施設との関連において、十分に公衆から離れていること。

(3)原子炉の敷地は、その周辺も含め、必要に応じ公衆に対して適切な措置を講じうる環境にあること。

を原則的な立地条件とし、

(1)原子炉の周囲は、原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること。

(2)原子炉からある距離の範囲内であって、非居住区域の外側の地帯は、低人口地帯であること。

(3)原子炉敷地は、人口密集地帯からある距離だけ離れていること。

を立地審査の指針としています。
 この指針は、熱出力1万キロワット以上の原子炉の立地審査に適用されています。
 また、施設については、安全設計に関する審査指針を定めている。
 この立地審査指針および設計に関する審査指針に基づいて、わが国の原子力発電所は電力需要地より遠隔の地で、地震国としての特質から強固な地盤に恵まれた海岸に立地されている。前述のように1985年に6,000万KWの原子力発電所を建設するためには約42平方キロメートルの敷地を要すると計算されています。このような広大な敷地を国土が狭く人口密度が高く、海岸および近海が高度に開発利用されているわが国において確保することは、地域的になり困難な問題となりつつあります。このような自然的条件による困難さに加えて、わが国では原子力に対する不安感が強いという社会的条件や発電所からの温排水と放射能によって漁場が失なわれるとする漁業関係者の反対が強く立地確保をむずかしいものにしています。第4図に日本における原子力発電所の位置を示しておりますが、一つの地点あるいは一つの地帯に多くの原子炉を集中して設置している状況で、現在すでに、1地点に800万KWの原子炉を設置する計画があります。
 したがって、原子力発電所の適地の拡大をはかる必要があり、開削立地、軟弱地盤立地、内陸地、オフ・ランド立地、地下立地などを可能にするため、研究開発を重点的に進める必要があり、また、安全防護施設の改善によって、立地選択の自由度を高めねばなりません。
 わが国のように、国土の利用度の高い国においては、特に原子力施設と環境との調和が重大な問題であります。周辺居住者を放射能の汚染から保護することは必須の条件であります。この点についても、単に科学的な安全性を確保するだけでなく、地域住民の不安感を解消する必要があり、地域の代表者が参加して、発電所周辺における放射能の評価、検討を行ない、その結果を地元住民に周知させる体制が既にとられています。
 また、再処理工場の建設が予定されている東海村地帯については海洋および海洋生物中における放射性物質の挙動について詳細な調査研究を行ない、安全性を確認する努力をはらっています。
 また、沿岸漁業の発達したわが国においては、原子力発電所から排出される温排水についても環境との調和が必要であり、既に魚の養殖に利用するための利用を推進するとともに、発電所の海水脱温、地域暖房などへ多目的利用を進め、海域に放出される熱を少くすることについても環境との調和をはかるために配慮する必要がありましょう。
 わが国としては、原子力発電所の適地拡大、安全防護施設の改善、環境保全等をはかるため、多岐にわたって研究開発を行なっておりますが、さらに一層の努力が必要とされます。
 これらの問題は何れも深刻さの程度の差こそあれ、国際的に共通した課題であるので、この面における国際協力体制が整備されることが望ましいと考えます。




研究開発

 わが国の原子力開発は、原子力先進国に比し遅れて着手されたため、今日までその技術基礎を確立するため海外からの技術導入により、その推進をはかってきました。しかしながら、今後とも技術導入のみに安易に頼ることは、長期的にみた場合、わが国原子力開発利用全般における自主性を損うおそれがあり、加えて、原子力の開発が広い分野における科学技術水準の向上と産業基盤の強化に資し、産業構造高度化の支柱となることを考えれば、可能なかぎり自主的にこれを推進しなければならないというのが長期計画の基本的考え方であります。
 この考え方はもちろん原子力の研究開発面での国際協力を排除するものではなく、新型動力炉の開発、核燃料の研究、放射線化学の研究等広範にわたって国際協力を行なっております。
 この考え方に基づき、長期計画においては、基礎的研究を一層充実するとともに、基礎研究から応用研究にわたる各分野で調和のとれた研究開発を効率的かつ重点的にすすめることにしています。
 また、原子力の研究開発は、科学技術の広い分野にわたっており、その進展に先駆的な役割をはたすとともに、産業経済に大きな影響を及ぼすものであること、さらにその推進には、長期にわたって多額の研究投資を必要とすることなどの理由から、国の果すべき役割はきわめて大きく、とくに、国の資金をできるだけ投入することとしています。
 このため、広汎な原子力開発利用の各分野における多くの研究開発課題のうち、とくに重要性と緊急性が高く、国として重点的かつ組織的にすすめる必要があるもので大規模な資金と多方面の協力ならびに長期間の研究開発を必要とし、かつ、開発により将来国全体として多大の効果の期待される課題については、これを「原子力特別研究開発計画(国のプロジェクト)」として、国が開発の目標および期間を明確に定め、体制を整備し、広汎な分野にわたる研究開発を系統的、計画的かつ総合的に行ない、関係各機関の適切な分担と協力によって、効率的にその推進をはかることとしております。現在、この国のプロジェクトとして、高速増殖および新型転換炉の開発計画ならびに原子力第1船の建造計画を官民協力のもとに民間資金をも導入して推進しています。
 新型動力炉の開発計画は、核燃料の有効利用をはかるとともに、自主的な動力炉技術を開発し、原子力産業基盤の強化を目的として進めておりますが、その計画の概要は第8図に示す通りであります。
 新型転換炉につきましては、早期の実用化を可能とするため、実験炉段階の技術は海外から導入し、電気出力約20万KWの原型炉の建設から着手することとし、今年度から建設を開始して1974年に臨界を予定しております。
 この原型炉の建設着手にあたりましては、建設が妥当かどうか評価検討したところ、新型転換炉の発電原価は軽水炉のそれと同等ないしそれ以下になし得る見通しがあること、わが国の新型転換炉の炉型選定は海外で開発中の重水炉と比較して適当であること、新型転換炉の開発はエネルギーの安定供給からみて意義の大きいこと、動力炉・核燃料開発事業団の原子炉開発計画の遂行には技術的に著しい困難がないこと、新型転換炉の自主開発を進めることは動力炉の海外技術への依存状態より脱却すること等に資するとの結論を得ました。


第8図 新型転換炉高速増殖炉の開発計画



 高速増殖炉の開発につきましては、第8図にみられますように実験炉の建設から進めることにしており、初期の熱出力5万キロワット(目標出力10万キロワット)のものを1973年末に臨界にいたらせる予定で建設を進めております。原型炉につきましては、電気出力30万キロワット程度のものを1977年に臨界にいたらせる予定で、現在概念設計を行なっております。
 また、わが国は世界をリードする造船国として、また世界有数の海運国として、将来における商船の原子力化に備え、原子力船の建造、運航経験を畜積するため、総トン数8,350トンの特殊貨物船として原子力第1船の建造計画を進めています。
 原子力第1船の建造スケジュールは第9図に示す通りで、昨年6月に進水した後船体艤装をおえ、現在定係港において原子炉艤装を行なっています。
 なお、第2船については、その建造運航を民間に期待し、国は適切な助成策を講ずることにしていますが、原子力船の経済性の見通しがたたない現状においては、船用炉の研究開発を進め、その結果と第1船の成果、内外海運の動向各国における舶用炉開発の進展などからみて第2船の建造計画について改めて検討することとしています。原子力船の実用化のためには、原子力船の入出港航行の自由が在来船と同様に十分に保証されなければなりませんが、現在ではその保証を全面的に得ることは相当困難なことを予想されますので国際的国内的にその解決のための努力が必要と考えています。
 これらの国のプロジェクトは、日本としては初めての巨大な研究開発計画であり、種々の困難を克服しつつ進めています。これらの計画の成果としては、計画毎の直接的な効果のほかに、技術的なスピン・オフ、計画の管理、運用についての経験などの間接的効果も期待されています。
 これらの国のプロジェクトとならんでわが国では、関連する分野が広く、これらの分野を総合してすすめることにより、大きな効果が期待される研究課題、または、わが国の原子力開発利用を一段と進展せしめうる開発課題については、これを「原子力特定総合研究」として、政府の調整または計画のもに関係各機関あるいは民間企業が協力し、分担を明確にして推進することにしており、現在ウラン濃縮の研究、核融合の研究、食品照射の実用化研究が実施されています。
 ウラン濃縮の研究については前述のとおりでありますが核融合については、1968年に制御された核融合の実現をめざし原子力特定総合研究に指定するとともに、その研究開発基本計画を策定しました。この基本計画は1969年度より6年間を第1段階としトーラス計画を主計画にしています。この計画にしたがって1969年には日本原子力研究所が低ベータ軸対称性トーラス磁場装置を完成させ、さらにこの装置を使っての実験結果をふまえて中間ベータトーラス磁場装置の設計をすすめています。また、理研ではプラズマの生成、加熱技術等についての研究が、電子技術総合研究所においては、高ベータプラズマの研究がすすめられています。このほか大学等においてもプラズマに関する基礎研究がすすめられています。
 また、わが国は今年2月に核兵器不拡散条約に調和しましたが、IAEAが同条約に基づいて実施する保障措置の手続きは、可能なかぎり簡素化すべきであるという考えに基づき、このための研究開発を積極的に進めるとともに、この面における国際協力を強化すべきであると考えております。
 さらに、エネルギー多消費産業の原子力化を推進し、原子炉の熱を発電のみならず、製鉄、化学工業、海水脱塩、地域暖冷房等に多目的に利用することを実現するためには、種々解決すべき問題がありますが、まず製鉄に直接利用可能な冷却材温度が得られる高温ガス炉の技術的実現性について見通しを得る必要があり、その開発上の技術的諸問題とその解決の見通し等について検討を進めております。
 原子力の研究開発を進めるにあたって、長期計画においては、大学には研究者の創意工夫を生かした自由にして広汎な基礎研究を実施し、研究開発の基礎を広め、かつ深化させることを期待し、日本原子力研究所にはわが国の原子力研究活動の中心的役割を果たすべきものとし原子力特定総合研究および国のプロジェクト等において重要な役割を果たすこととしています。また、動力炉・核燃料開発事業団には高速増殖炉および新型転換炉の開発に必要な研究開発を行なわしめるとともに使用済燃料の再処理、核燃料の生産、ウラン資源の探鉱等の事業を行なわしめ、日本原子力船開発事業団には原子力第1船の建造運航とこれに必要な調査研究を行なわしめています。さらに、理化学研究所には原子力開発利用の基礎分野で特色を生かした研究開発を、科学技術庁放射線医学総合研究所には放射線医学に関する基礎研究を、その他の国立試験研究機関にはそれぞれの特色を生かした基礎ないし応用研究を行なわしめ、わが国における自主開発に資することとしています。このように、「原子力開発利用長期計画」においては、大学、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、日本原子力船開発事業団、理化学研究所、放射線医学総合研究所、その他国公立試験研究機関について原子力研究開発をすすめるに当っての役割を明らかにするとともに、民間企業に対しては、実用段階に達した技術の実証と企業化およびその改善に関する研究開発を、また、国のプロジェクトおよび原子力特定総合研究に対して、積極的に参加すること、さらに、自己の技術基盤の確立と向上をはかることとしています。
 このように、わが国においては、「国のプロジェクト」、「原子力特定総合研究」などの研究を計画的に進めるとともに、広範な分野にわたって、基礎的研究、応用研究を実施していますが、原子力発電の大規模な実用化が見込まれるとともに、発電、船舶の推進のみならず高温ガス炉等によるエネルギー多消費産業のプロセスに原子力エネルギーを積極的に導入することに対する要請が高まりつつある今日、1990年頃の時点における原子力の利用の状況を想定し、それを達成するための研究開発上の新たな重要課題を明らかにして、その計画的な解決をはかるという観点から、現在の「原子力開発利用長期計画」の改訂を進めたいと考えています。
 米、英などの先進国に遅れて、原子力の開発に着手した日本が、国家繁栄の基本であるエネルギー供給の確保をはかるため、平和の目的に限って、原子力の開発に努力している姿を世界における原子力開発の面で指導的立場におられる皆様に御理解頂けたとすれば、まことに幸甚であり、この機会に恵まれましたことを深く感謝致します。
 御静聴有難うございました。



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