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昭和46年度原子力関係予算見積方針について


昭和45年8月31日
原子力委員会

Ⅰ 基本方針

 最近の内外における原子力開発利用の発展には著るしいものがあり、わが国の原子力開発利用は急速に実用化段階に向って進展しつつある。また、原子力に係る国際情勢においても、核兵器不拡散条約が発効する等の新しい動きがみられた。このような情勢に対応して、昭和46年度においては、昭和42年4月に改訂した「原子力開発利用長期計画」に基づき、国のプロジェクト(動力炉の開発、原子力第1船の建造)の推進をはじめとして、核燃料対策の展開、安全対策の強化、保障措置関連施策の充実、その他の研究開発の促進、法制の整備等原子力開発利用を計画的に推進するために必要な諸施策を講ずる。
 動力炉の開発は、「動力炉開発に関する基本方針」および近く制定する「動力炉開発に関する第二次基本計画」に基づいてこれを推進する。すなわち、高速増殖炉については、昭和48年度臨界を目標に実験炉の建設をすすめるとともに、原型炉に必要な研究開発を行なう。また、新型転換炉については、昭和49年度臨界を目標に原型炉の建設を行なう。
 原子力第1船「むつ」の建造については、近く改訂する「原子力第一船開発基本計画」に基づき、昭和47年度完成を目標に、原子炉艤装をすすめるとともに、定係港施設の整備、乗員養成訓練等所要の措置を講ずる。
 核燃料対策としては、原子力利用の実用化段階にそなえて、核燃料サイクルの早期確立を図るものとし、使用済燃料再処理施設の建設をすすめる。核燃料に関する研究開発については、原子力特定総合研究としてウラン濃縮の研究開発を推進するほか、プルトニウムの熱中性子炉利用に関する研究等を推進する。ウラン資源の確保対策については、民間による海外ウラン資源の探鉱開発を助成するとともに、動力炉・核燃料開発事業団の海外調査の強化を図る。また、人形峠鉱山の採鉱製錬業務および国内ウラン資源の調査探鉱を実施する。
 最近の諸情勢にかんがみ、とくに安全対策に重点を置き、原子力施設の安全対策、放射線障害の防止、放射性廃棄物の処理、処分に関する調査研究および環境における放射能調査研究の一層の充実を図る。
 また、原子力に係る新しい国際情勢に対処するため、保障措置技術の開発、国内保障措置制度の充実、行政機構の拡充等、所要の措置を講ずる。
 さらに、日本原子力研究所および理化学研究所における研究、国立試験研究機関における研究ならびに民間に対する試験研究の委託についても、従来どおり、その充実を図ることとし、これら各分野の研究開発のうち、食品照射に関する研究、核融合に関する研究等については、ひきつづき原子力特定総合研究としてその強力な推進を図る。
 また、昭和45年度にひきつづき放射線医学総合研究所において速中性子線によるがん治療の研究のため、サイクロトロンの建設をすすめるとともに、製鉄、脱塩、プロセス熱源等多数の利用分野の可能性を有する高温ガス炉について、日本原子力研究所において、調査研究を推進する。
 国際協力、原子力知織の普及啓発、人材の養成等について、ひきつづきその充実を図るとともに最近の原子力開発利用の進展に伴い原子力損害賠償関係法を、および日本原子力船開発事業団の事業の目的を達成するため同事業団法の改正を行なう。
 以上の方針に基づき慎重に調整を行なった結果、 昭和46年度の原子力予算は高速増殖炉および新型転換炉の研究開発プロジェクトに必要な経費をはじめとし、各省庁行政費までを含めて所要経費の総額は約577億円であり、国庫債務負担行為額は約352億円である。
 また、行政機関の定員増を含め原子力開発機関等に必要な人員増は約443人である。



Ⅱ 主な事業

1.高速増殖炉および新型転換炉の研究開発
 高速増殖炉については、実験炉の建設をすすめるとともに、実験炉および原型炉に関する炉物理、炉工学、核燃料、材料、安全性等の研究開発および原型炉の設計研究を行なう。このため、大型蒸気発生器試験施設の建設に着手するほか、原型炉の建設に関する諸準備をすすめる。
 新型転換炉については、昭和45年度に着手した原型炉の建設をすすめるとともに、各種の研究開発を推進する。
 これら高速増殖炉および新型転換炉については、動力炉・核燃料開発事業団が、日本原子力研究所、国立試験研究機関、大学、民間等の協力のもとにその研究開発を推進する。


2.核燃料に関する対策

(1)使用済燃料再処理施設の建設
 再処理施設については、昭和48年度に稼動させることを目標として、建設をすすめるとともに、海域についての所要の調査研究を実施する。
 その建設資金については、一般会計からの出資および政府保証借入れ等によりこれを確保する。

(2)ウラン濃縮の研究開発
 ウラン濃縮については、ガス拡散法および遠心分離法の2方式について、昭和47年度頃にウラン濃縮に関する技術的諸問題の解明の見通しを得ることを目標として、日本原子力研究所がガス拡散法を、動力炉・核燃料開発事業団が遠心分離法を、それぞれ関係機関および民間企業の協力のもとに研究開発をすすめる。
 なお、これらの研究開発については、原子力特定総合研究として総合的かつ効果的に推進する。

(3)海外ウラン資源の調査探鉱
 海外ウラン資源の調査探鉱については、ウラン資源確保の重要性にかんがみ、民間による海外ウラン資源の探鉱開発を助成するとともに、動力炉・核燃料開発事業団による海外調査業務を強化する。


3.原子力船「むつ」の建造
 原子力船「むつ」については、昭和47年度完成を目標に、日本原子力船開発事業団により、原子炉艤装および燃料製作をすすめる。
 また、定係港施設の整備を行なうとともに、乗員の養成訓練等を実施する。


4.原子力特定総合研究の推進
 ウラン濃縮の研究開発のほか、次の研究開発を推進する。

(1)核融合の研究
 核融合については、将来における制御熱核融合反応の実現を目標として、まず第一段階の研究開発を日本原子力研究所、理化学研究所および電子技術総合研究所が、大学、民間企業等の協力のもとに推進するとともに、日本原子力研究所における中間ベータートーラス磁場装置の製作をすすめる。また電子技術総合研究所において高いベータプラズマ研究のための装置の製作に着手する。

(2)食品照射の研究開発
 食品照射については、その実用化の見通しを得ることを目標として、国立試験研究機関、日本原子力研究所、理化学研究所等が協力してその研究開発を推進するとともに、日本原子力研究所において食品照射の共同利用施設の建設整備を行なう。


5.サイクロトロンによるがん治療の研究
 最近内外において、有力ながん対策として注目を浴びている速中性子線によるがん治療の研究については、放射線医学総合研究所において昭和48年度完成を目標として、医療用サイクロトロンの建設をすすめるとともに、所要の予備研究を実施する。


6.原子炉の研究開発および利用
 在来型炉については、その国産化を促進するために、日本原子力研究所において、動力試験炉の出力上昇計画をひきつづき推進する。さらにプルトニウムの利用については、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団等において、研究開発をすすめる。
 また、原子炉の安全性、燃料等に関する研究のため、日本原子力研究所において、安全研究施設の建設に着手するとともに多目的利用のための高温ガス炉に関する調査研究を実施する。
 このほか、材料試験炉により各種燃料、材料の本格的照射を行なうとともに、関連諸施設の整備を行なう。


7.放射線の利用
 日本原子力研究所においては、放射線化学関係の研究強化を図るとともに、ラジオアイソトープの生産および利用開発の充実を図る。また、国立試験研究機関、理化学研究所、民間等において、放射線化学をはじめ、医学、工業、農業等の各分野における放射線利用に関する研究を促進する。


8.安全対策の強化

(1)原子力平和利用に伴う安全対策
 昭和45年度にひきつづき、放射線医学総合研究所、日本原子力研究所等において放射線障害防止および原子力施設の安全確保に必要な研究を実施する。また、放射性廃棄物の処理、処分に必要な調査研究等を行なう。

(2)放射能調査研究の強化
 放射性降下物等の環境に与える影響にかんがみ、放射能調査研究および原子力軍艦の寄港に伴う放射能調査を実施する。


9.保障措置関連施策の強化
 IAEAの行なう保障措置が、わが国の原子力開発利用の妨げとならないよう保障措置を簡素化するため、保障措置技術の開発、国内保障措置制度の充実、行政機構の拡充等所要の措置を講ずる。


10.民間企業に対する研究委託
 原子力開発の進展に伴い、原子力利用の実用化段階にそなえて、原子力平和利用研究委託費を拡充して、保障措置の技術開発に関するもの、舶用炉の研究開発に関するもの、原子力特定総合研究の推進に関するもの、核燃料対策に関するものおよび安全対策に関するものに重点を置き、これを交付する。


11.国際協力の推進
 日米、日英、日加、日仏原子力会議の開催等によりこれら諸国との協力を推進するほか、海外諸国および国際原子力機関、欧州原子力機関等の国際機関との協力を推進し、科学技術者の交流、情報の交換、国際的共同事業への参加、第4回原子力平和利用国際会議等主要国際会議への参加等を積極的に行なう。


12.人材の養成
 日本原子力研究所の原子炉研修所およびラジオアイソトープ研修所ならびに放射線医学総合研究所養成訓練部における原子力関係科学技術者の養成訓練を強化するとともに、ひきつづき海外に留学生を派遣する。


13.原子力知識の普及啓発
 広く国民全般に原子力に関する正しい知識の普及を図るため、各種出版物による広報活動、講演会および行政セミナーの開催等を行なう。


14.行政機構の整備、拡充

(1)保障措置課の設置
 保障措置に係る新しい情勢および保障措置業務の増大に対処するため保障措置課を新設する。

(2)原子力委員会の強化
 原子力委員会の調査機能の強化を図るため、調査資料室の充実を図る。
 これらのための職員の必要増員は、11名である。


15.法制の整備
 現行原子力損害賠償制度発足後の内外の事情の変化に対処し、損害賠償措置の整備拡充等を図るため原子力損害賠償関係法の改正を行なうとともに、原子力船「むつ」の開発業務の進展に伴い事業の目的を達成するため、日本原子力船開発事業団法の改正を行なう。


16.東海地区地帯整備
 昭和45年度にひきつづき、建設省の行なう公共事業の一環として、東海地区における道路の整備事業等に必要な補助措置を講ずる。



Ⅲ 原子力関係機関等に必要な経費

1.日本原子力研究所
 東海研究所、高崎研究所および大洗研究所の研究部門の充実、研究サービス部門の整備等を含め、必要な経費は約134億円(うち政府出資約128億円)、国庫債務負担行為額は約52億円である。
 また、材料試験炉の運転利用、ウラン濃縮、核融合等の研究開発の推進等のため92名の増員を行なう。


2.動力炉・核燃料開発事業団
 高速増殖炉および新型転換炉の開発プロジェクトを推進するために必要な経費は約369億円(うち政府出資約343億円)、国庫債務負担行為額は約284億円である。また、動力炉開発プロジェクト推進体制の整備を図るため287名の増員を行なう。
 核燃料物質の探鉱、製錬、核燃料に関する試験研究、再処理施設の建設等に必要な経費は約92億円(うち政府出資約48億円)、国庫債務負担行為額は約7億円である。
 なお、政府出資の総額は約391億円、国庫債務負担行為額は約291億円であり、定員増は総計302名である。また、再処理施設建設のための政府保証借入金等は約43億円である。


3.日本原子力船開発事業団
 原子力船「むつ」の建造、定係港施設の整備、乗員養成訓練等に必要な経費は約19億円(うち政府出資約17億円)、国庫債務負担行為額は約3億円である。また、原子力船「むつ」の運航準備、定係港管理要員等のために20名(他に常勤3名)の増員を行なう。


4.放射線医学総合研究所
 速中性子線によるがん治療研究、放射線医学領域における造血器移植に関する調査研究、放射能の海産生物に対する影響の調査研究等をひきつづき行なう。サイクロトロンの建設等を含め、必要な経費は約15億円、国庫債務負担行為額は約6億円である。また、このため必要な18名の増員を行なう。


5.国立試験研究機関
 核融合、食品照射に関するもの等に重点を置いて研究を行なう。このための原子力関係経費は約8億円である。


6.理化学研究所
 核融合、食品照射、サイクロトロンによる研究等を行なう。このための原子力関係経費は約2億円である。


昭和46年度原子力関係予算概算要求総表




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