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昭和44年度原子力年報総論


昭和44年7月
原子力委員会

総論

§1 序説

 近年における原子力開発利用の進展の中で特筆すべきは、原子力発電の実用化である。経済の高度成長にともない、エネルギー需要は急速に増大しつつあり、その供給の安定化と低廉化をはかることは、エネルギー供給部門にとって至上の命題である。このため、電力部門においては、火力発電設備の拡充に併行して、大規模な原子力発電所が相次いで建設されるに至った。さらに、10年後には、全電力供給量の約23%が原子力によってまかなわれる見通しである。これは、従来の見通しをはるかに上回るものである。
 かかる急速な原子力発電の拡大にともなって、急激な需要増大が見込まれる核燃料を確保するため、海外ウラン資源の探鉱、開発を積極的に進めるとともに、使用済燃料の再処理施設の整備、ウラン濃縮の研究開発の推進など、核燃料サイクルの確立をはかることが従来にもまして緊要な課題となった。
 同時に、長期にわたって原子力発電の円滑な拡大をはかるためには、国情に適した新型動力炉を開発し、核燃料の有効利用をはかるとともに、発電コストを一層低下させねばならない。この観点から、高速増殖炉、および新型転換炉の開発を「国のプロジェクト」として、推進している。昭和44年度に原型炉の建設を決定した新型転換炉については昭和50年代前半に、また、現在、実験炉の建設を進めている高速増殖炉については、昭和60年代の初期において実用化することをめざし、鋭意開発に努力しているところである。しかしながら、原子力先進諸国に伍して、このわが国初の巨大科学技術開発を計画どおり遂行するためには、国の総力を結集して取り組まねばならない。
 上述の原子力発電とその関連分野以外にも原子力船の開発、放射線の利用、原子炉の多目的利用等多くの重要事項があげられる。原子力船の開発については、「むつ」の建造を進めており、これを通じて得られる技術経験によって、原子力船の実用化についての見通しがえられるものと期待される。
 また、原子炉の熱エネルギーを発電のほか、海水脱塩、工業用プロセス・ヒート等多目的に利用する原子炉の多目的利用や、中性子線照射によるガン治療などの新分野への期待も増大しつつある。
 以上概観したごとく、原子力発電の実用期を迎えその円滑な発展をはかることが要請され、また新型動力炉の本格的開発段階に入るなど、わが国の原子力開発利用は極めて重要な時期にあり、関係各界の一層の努力と国民一般の強力な支援がとくに要請されるところである。原子力委員会としても、企画機能の強化をはかって、原子力の開発利用の推進に一層の努力を重ねることとしている。



§2 躍進する原子力発電所の建設

 昭和44年末の世界における運転中の原子力発電容量は約1,460万キロワットに達し、更に建設・計画中のものを含めると約1億2,300万キロワットにのぼっている。
 このような情況の中でわが国の原子力発電の開発も、昭和42年4月の「原子力開発利用長期計画」(長期計画)の改訂における見通しを上回るペースで順調に進められており、44年10月には、わが国初の軽水炉による敦賀発電所(日本原子力発電(株))が臨界に達し、45年3月から営業運転を開始した。これにより、わが国で運転中の商業用発電炉は同社の東海発電所と合わせ2基となり、電気出力は合計49万7,000キロワットになった。
 更に前年度から引きつづき建設がすすめられていた4基の発電炉のうち2基(電気出力合計80万キロワット)については、45年2月末現在、共にその工事の90%以上を終え、45年10月に運転開始を予定している。他の2基(電気出力合計128万4,000キロワット)の工事進捗率は2月末現在約40%となっている。
 また、44年度においては、3基の発電炉(電気出力合計207万キロワット)の建設が開始された。
 さらに、各電気事業者によって、発電用原子炉の建設計画が積極的に進められており、45年度においても数基の発電炉の建設が開始されるものとみられている。45年5月に策定された電源開発調整審議会の電源開発長期目標によれば、原子力による発電設備容量は昭和50年度に866万キロワット、55年度に2,702万キロワットとしており、原子力発電の開発規模は、原子力委員会の長期計画の昭和50年度末600万キロワットという見通しを上廻り、さらに同計画の昭和60年度末、3,000ないし4,000万キロワットという見通しをも上廻るものと考えられる。
 このように、原子力は将来のエネルギー供給の有力な担い手として、着実にその地歩をすすめつつあり、これと併行して、原子力発電機器の製造、核燃料加工等の産業化が進みつつある。現在、わが国で建設中の原子力発電所の国産化率は大体50パーセントから90パーセントとなっているが、さらに今後、国際的に競争力を持った原子力産業の発展をはかるため、政府は、在来型炉の国産化の助成、核燃料加工事業の育成、使用済燃料再処理工場の建設の促進に努めている。



§3 核燃料サイクル確立への努力

 原子力委員会は42年6月、核燃料懇談会を設け、今後の核燃料政策のあり方について検討を進め、43年6月、その基本的な考え方をとりまとめた。この中で特にわが国の条件にかなった核燃料サイクルを確立するため、核原料の確保、ウラン濃縮の研究、使用済燃料の再処理、プルトニウムの有効利用等の重要事項について基本的な考え方を明らかにし、これにもとずいて、今後の核燃料政策の推進をはかることとした。
 当面、わが国の原子力発電は主として軽水型炉によるものと考えられ、これに必要な濃縮ウランの確保は当面、わが国の核燃料政策上最も重要な要素である。濃縮ウランの安定供給を確保するためには、まず核原料の入手が重要である。原子力発電の進展にともない、わが国のウラン燃料の所要量は大幅に増加することが予想され、現状では、先述の通り控え目なものとなっている長期計画の見通しにおいてさえ、その累積所要量(天然ウラン換算)は、50年度までに約1万3,000トン、60年度までに約9万トンに達している。
 一方、国内のウラン資源の既存量は、44年度末現在、約7,700トンに過ぎず、しかも国際的にみると低品位のため、当面これを採掘、利用することはできない。したがって、海外からのウラン資源の安定供給をはかることが重要である。海外核原料の確保については、44年度においては、民間の活動に先行して、動力炉・核燃料開発事業団(動燃事業団)が海外ウラン資源事情の調査、米国、カナダで探鉱を行なったほか、電力業界、鉱山業界は外国の鉱山会社とウラン鉱の共同探鉱を積極的にすすめている。とくに、45年5月には、鉱山業界、電力業界等によって、海外ウラン資源開発(株)が設立されニジェール政府、フランス原子力庁と共同してニジェールのウラン資源を開発する計画が具体化した。
 また、電力業界ではウランの長期買入契約を結び、核原料の確保に大きな努力を払っており、45年4月現在の確保量は約3万5,000ショートトンとなった。
 一方、ウラン濃縮サービスについては、161トン(U235量)の濃縮ウランの供給について米国政府との間で合意に達しているが、45年3月に東京で開催された第2回日米原子力会議においては、その後のわが国の原子力発電の進展に伴ない必要となった濃縮ウランについても追加供給するための措置を講ずることについて合意に達した。
 しかし、今後一層増大する濃縮ウランの需要を長期的、かつ全面的に米国に依存することは、安定供給の面でも、また将来の日本の原子力産業の発展にとっても好ましいことではない。このため原子力委員会は44年5月、ウラン濃縮研究懇談会を設置し今後のウラン濃縮の研究開発のすすめ方について検討せしめ、その報告に基づき、同年8月、現在すすめられている遠心分離法とガス拡散法についての研究開発を今後も積極的におし進めることとした。すなわち、47年度までの第1段階において、ウラン濃縮に関する技術的諸問題の解明の見通しをえることを目標に、原子力特定総合研究として推進し、第1段階終了時において、各方式の研究開発の成果を評価し、海外の動向を合わせて勘案し、第2段階以後の方針を定めることとしている。
 また、動燃事業団による使用済燃料再処理工場の建設については、原子力委員会は再処理施設安全審査専門部会を設け、その安全性について検討をすすめてきたが、44年3月、同専門部会は再処理施設の安全性は十分確保しうる旨、原子力委員会に報告した。原子力委員会はこれをうけて、44年11月、内閣総理大臣に再処理施設の安全性は確保しうる旨の答申を行なうにいたった。この間、同再処理工場の建設については、水戸射爆場の移転問題とも関連して地元の同意が得られない状況にあったが、44年9月、その返還について閣議決定がなされたのを機に、茨城県議会から設置を了承する旨の意向が表明された。同再処理工場の処理能力は210トン(ウラン)/年で、48年度の操業開始を目途に、45年度に建設に着手することとしている。
 核燃料加工事業についても、44年4月以降、新たに5件の加工事業の許可が行なわれ、この力野での産業化の進展が著じるしい。
 このほか、プルトニウム燃料の有効利用をはかるための研究開発が動燃事業団、原研等を中心にすすめられている。
 このように、44年度においては、総合的な核燃料サイクルの確立をめざし、海外核原料の確保、濃縮ウランの研究開発、核燃料加工の事業化、再処理工場の建設の促進などの面での進展がはかられた。



§4 3年目を迎えた新型動力炉開発

 わが国の原子力発電は軽水炉を主体として実用化がはかられつつあるが、軽水炉は核燃料資源の有効利用という面からみて限度があり、また、わが国の原子力発電が長期間にわたって外国で開発された在来型炉のみに依存することは、エネルギーの定定供給、原子力産業基盤の確立等の観点から必ずしも望ましいことではない。したがって、国情に合致した動力炉を開発し、これを早期に実用化することによって核燃料の有効利用をはかるとともに、動力炉技術の自立および産業基盤の強化をはかることが重要である。
 高速増殖炉は消費した量以上の核分裂性物質を生成するもので、天然ウランのもつエネルギーのほとんどすべての利用を可能にし、将来の原子力発電の主力となるべきものである。しかしながら、高速増殖炉を実用化するにあたっては多くの新技術の開発が必要であり、かなりの期間を要する。
 一方、新型転換炉は高速増殖炉に比較して早期の実用化が可能であり、また、在来型炉に比較して核燃料の有効利用をはかりうるとともに、経済性の点においてもこれと競合しうるものと考えられている。
 このような観点から、高速増殖炉および新型転換炉を開発するための中核的実施機関として、昭和42年10月、動燃事業団が設立され新型動力炉の研究開発をナショナルプロジェクトとして関係各界の総力を結集し、これを推進することとした。43年3月、内閣総理大臣は、高速増殖炉および新型転換炉をそれぞれ昭和60年代の初期おたび50年代の前半に実用化することを目標として動力炉開発業務に関する基本方針を策定し、さらに、43年4月、第1次基本計画を定め、42年度から45年度までの期間を対象とするこれら新型動力炉の研究開発計画を具体的に明らかにした。
 昭和44年度においては、新型動力炉の開発も3年目を迎え、原研および民間企業等の協力のもとに、高速実験炉の建設が開始されるとともに、新型転換炉の原型炉の建設を45年度から開始する態勢が整えられた。また、高速実験炉に続いて建設される高速原型炉についての設計研究も進められた。
 動燃事業団では、動力炉開発のための各種試験研究施設を茨城県大洗に建設していたが、45年3月、大洗工学センターとして発足し、本格的な研究開発が進められることになった。
 一方、原子力委員会は、新型転換炉の研究開発の進展に応じ、その原型炉の建設に先立って新型転換炉評価検討専門部会を設けて、新型転換炉原型炉の建設の当否を、事前の研究開発の成果、および海外における動力炉技術の動向等をふまえ慎重かつ詳細にその評価検討を行なった結果、新型転換炉は軽水炉と比較して発電コストが同等ないしそれ以下になしうる見通しがあり、核燃料資源の有効利用に寄与し、さらに、自主開発による各種の効果も期待できるので、新型転換炉原型炉の建設を計画通りすすめることが適当であるとの結論が得られた。
 この評価検討にもとづき、新型転換炉原型炉の建設は45年度から本格的に着手される運びとなった。
 以上述べたように、昭和44年度においては、高速実験炉の建設が開始され、また、新型転換炉原型炉の建設が決定されるなど、わが国の動力炉開発は本格的な実施段階に入った。



§5 原子力第1船「むつ」の建造

 わが国の原子力第1船は、日本原子力船開発事業団(原船事業団)によって、43年11月、その船体工事が着手され、44年6月、進水式が挙行され「むつ」と命名された。進水後「むつ」は遮へい工事を中心に、原子炉格納容器の搭載、各種機器の設置、試験等が行なわれており、45年7月、船体ぎ装工事を完了し、船体は原船事業団に引き渡され、現在建設工事が進められている青森県むつ市の定係港に回航し、そこで、原子炉ぎ装を行ない、47年前半に完成の見込みである。
 原子力船の実用化については、現在まで世界的にその経済性が実証されておらず、原子力船の航行に必要な国際的環境も十分整備されていないことなどから、その実現までには、まだ可成りの時間を要するものとみられる。
 しかしながら近年、特にコンテナ船、油輸送船等において大型化、高速化の傾向がいちじるしい。このため、原子力船に対する期待が高まりつつある。
 このような状況から、原子力委員会は、44年6月、原子力船懇談会を設け、改めて内外海運界の動向、および海外における原子力船開発に関する動向等を把握し、今後のわが国の原子力船開発の考え方について検討をすすめている。



§6 放射線利用の進展

 放射線利用については、近年医療、農業、工業等広汎な分野で、日常的に行なわれるようになり、放射性同位元素を使用する事業所も逐年増加し、45年3月末現在1835に達しており、このうち民間企業689、医療機関586、研究機関365、教育機関152、その他43となっている。特に民間企業における放射線利用の普及にはいちじるしいものがある。
 一方、放射線利用のための各種照射装置、測定機器の開発、普及も積極的に進められており、特にベータートロン、リニア・アクセラレイター等の高エネルギー照射装置が医療用等の機器として近年大幅に利用されるようになった。
 また、放射線利用に関する研究開発についても、原研高崎研究所、放射線医学総合研究所(放医研)、他の国立試験研究機関および大学や主要な病院等で行なわれているが、特に42年度に、原子力委員会が原子力総合研究に指定して推進している食品照射については、従来の馬鈴薯、玉ねぎ、米、ウイナソーセージ等についての照射試験に引き続き、44年度においては、小麦、水産ねり製品について、その保存性向上のための照射試験が行われ、それぞれ良好な成績を収めている。このうち馬鈴薯の発芽防止については近くその実用化が計画されている。このように食品照射についての研究の進展により、今後食品流通の合理化への寄与が期待される。
 また、放射線化学の分野では、原研高崎研究所および、同大阪研究所等で、安定化ポリマーを得るためのトリオキサンの放射線固相重合、エチレンの放射線気相重合、および最近特に関心をよんでいるプラスチックの放射線改質等の面において一部工業化への見通しを得るなど順調な進展をみている。



§7 新たな研究開発分野への期待

 わが国の原子力開発は、原子力発電、原子力船、核燃料等長期にわたって研究開発努力が続けられてきた分野において、漸次、成果を収めつつある一方、原子炉の多目的利用の調査、検討が行なわれているほか、中性子線の医療への応用、あるいは人類の夢である核融合エネルギーの利用等の面で、新しい展開がみられるなど、国民生活の向上、産業構造の改善への原子力の寄与は、より直接的かつ多面的に期待されるようになりつつある。
 原子炉から得られる熱を発電のほか、海水脱塩、工業用のプロセスヒート、地域暖房等に利用するいわゆる原子炉多目的利用への関心が国際的に高まっており、わが国においても調査研究が進められている。このような原子炉の多目的利用は、将来の産業構造に大きな影響を及ぼし、国民生活への寄与を一層大きくするものと期待されるので、原子力委員会は今後の発展に注目し、多大の関心を寄せているところである。
 また、核融合の分野においても、これまでの基礎研究の段階から一歩進めて制御された核融合の実現を明確な目的とする研究開発を原子力特定総合研究に指定し、その研究を強力に推進してきた。44年度には、原研で、低ベータ軸対称トーラス磁場装置(JFT-1)を用いて、プラズマの安定保持に成功したほか、通商産業省電気試験所においても大型テーター・ビンチ装置による高ベータープラズマの研究が進められた。このほかプラズマに関して理化学研究所においては関連技術の研究が、また、大学においては基礎研究がそれぞれすすめられている。
 このほか、医療分野では、従来の放射線治療に加えて、新たに中性子線利用によるガンの治療に対する関心が高まり、44年度においても原子炉利用による脳しゅようの熱中性子捕獲療法が試みられた。
 このような情勢に鑑み、原子力委員会は44年5月、サイクロトロンによる中性子線医用懇談会を設け、国内外の研究の現状および将来の研究の進め方について審議を重ねた結果、45年度より医療用サイクロトロンを放医研に建設し、関係機関の協力により、強力に研究を推進することとし、44年度においても必要な調査研究が行なわれた。



§8 安全性の確保と関連施策

 昭和45年3月末現在、わが国における運転中の原子炉は、臨界実験装置を含めて、22基に達しており、更に10基の原子炉が建設中である。一方、放射性同位元素を使用する事業所数は1,800をこえ、またおよそ100の事業所において核燃料物質を取り扱っている。これ等の施設において、安全性の確保をはかることは極めて重要である。このため政府は、「核原料物資、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)および「放射性同位元素等による放射線障害防止に関する法律」(放射線障害防止法)にもとづき、必要な措置を講じ定全性の確保をはかってきた。特に最近軽水炉による原水力発電所の設置が相次ぎ、将来さらに多くの発電所の建設が予想されること、および新型動力炉の開発が本格化し、新型動力炉の安全審査指針を確立する必要があることなどから、原子力委員会は43年10月、動力炉安全基準専門部会を設置し、現行の審査指針の検討、整備を進めてきた。このうち軽水炉の安全設計に関する審査指針の策定については、45年4月に結論を得たほか、現行の原子炉立地審査指針の具体的な適用に必要な事項についての検討、整備がすすめられている。また新型動力炉に関しては、その安全審査のすすめ方、および原子炉の立地審査上必要なプルトニウムに関する目安線量の策定等について結論を得た。
 一方、原子力発電所の運転に関し、発電所周辺における放射能の評価、検討を行ない、その結果を地元住民に周知させるための体制が福井県、福島県と電気事業者との間で確立され、地域住民の不安感の解消に寄与している。
 また、原子力の開発、利用の進展に伴い急激に増加しつつある放射性廃棄物の処理処分技術の研究開発が前年度にひきつづき、原研、動燃事業団、放医研などにおいてすすめられ、特に44年度には、放射性固体廃棄物処理処分検討会が科学技術庁原子力局に設置され、この分野での研究開発の具体的な進め方について審議を重ねている。
 このほか、原子力発電所のあいつぐ建設、原子力船の進水等、最近の目ざましい原子力開発利用に対処して、原子力委員会は、44年10月、原子力損害賠償制度検討専門部会を設置し、36年に制定された現行の原子力損害賠償制度の改善について、その検討を行なっている。



§9 国際協力の進展

 原子力開発利用の著しい進展に伴なって、原子力分野における国際協力は、国際原子力機関等の国際機関を通じての多国間協力、米国、英国、カナダ、フランス、西ドイツ等の各国との二国間協力を通じて活発に行なわれている。
 44年度においては、昨年度から重要課題の一つであった核兵器不拡散条約が、45年3月に発効し、わが国はこれに先立ち同年2月に調印を行なった。同条約の調印に際して、政府は声明を発表し、核兵器の拡散を防止することは、世界平和維持に関する日本政府の政策と一致しており、この条約の精神に賛成してきたが、非核兵器国は、この条約によって原子力平和利用の研究開発、利用およびこのための国際協力をいかなる意味においても妨げられてはならず、わが国が国際原子力機関との間に締結する保障措置協定の内容は、他の締約国が個別または他の国と共同して国際原子力機関との間に締結する保障措置協定の内容に比して、わが国にとり、実質的に不利な取扱いとなることがあってはならず、政府としては、この点を十分考慮した上で条約の批准手続をとる考えであること、また保障措置は核燃料サイクルの枢要な箇所において適用されるとの原則に従い、その手続は、可能な限り各国の管理制度を活用し、できる限り簡素なものでなければならない等の考えを明かにした。また原子力委員会においても、同条約調印について閣議決定が行なわれた際、委員長談話を発表し、特に同条約に係る保障措置の適用については、わが国の原子力産業の活動を阻害しない配慮がなされるべきであるなどの点を強調した。これ等の考えにもとづき、原子力平和利用に関する保障措置問題についての検討が、関係各機関によってすすめられている。
 また、2国間協力については44年6月、東京において第1回日英原子力会議が開催され両国の原子力開発利用の現状と将来、動力炉開発、ウラン濃縮、プルトニウム問題等多方面にわたって意見の交換が行なわれた。また同じく44年6月、日加原子力会議がオタワにおいて開かれ、動力炉開発、重水の入手問題等を中心に意見の交換が行なわれ、相互の理解が一層深められた。更に45年3月には第2回日米原子力会議が東京で開催され、将来の原子力発電についての意見交換がなされたほか、特に現在のとりきめを上回る将来の濃縮ウランの追加供給については必要な措置を講ずることが合意された。
 このほか、フランスとの間でも、従来から高速増殖炉開発、放射線化学、ウラン資源の供給等の分野で協力が行なわれていたが、今後さらにこれを強化するため、政府間の協力協定を結ぶ方向で検討が進められている。
 これらの政府間の協力とともに、動燃事業団、原研等において、米国、英国、フランス等の原子力機関との協力協定にもとづき、新型動力炉の開発、放射線化学の研究等について、積極的に国際協力が進められている。



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