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昭和44年度原子力年報について


昭和45年7月
原子力委員会

 原子力委員会は、昭和31年以降、毎年、わが国における原子力開発利用の動向をとりまとめた原子力年報を作成してきたが、このたび44年度を中心とする第14回原子力年報を作成した。
 本年報は14章からなり、第1章総論においては、原子力発電の実用化が本格的にすすめられるにいたり、これにともなって核原料物質、濃縮ウランなどの確保が従来にもまして緊要の課題となってきたこと、また、新型動力炉開発が本格的な実施段階に入ったこと、原子力第1船「むつ」の進水、食品照射、核融合、中性子線によるガンの治療など新たな研究分野の進展、安全対策の充実、活発な国際協力の進展など、わが国における原子力開発利用の動向を総括的に概観した。
 第2章から第14章までの各論では、動力炉開発、原子力発電、核燃料、原子力船、放射線利用、原子力特定総合研究および基礎研究、試験研究用原子炉の整備運転、安全性の確保と関連施策、環境放射能対策、国際協力、原子力関係技術者の養成、その他の活動および原子力関係予算について述べている。
 このうち44年度における重要な動きを述べると次のとおりである。


(1)昭和41年4月から建設がすすめられていた、日本原子力発電(株)の敦賀発電所の完成をみ、わが国初の軽水型炉による商業発電を開始した。これにより、わが国で運転中の原子力発電所は同社の東海発電所と合わせて2つになり、合計電気出力は49万7000キロワットとなった。このほか、43年度から4基の原子力発電所(合計電気出力208万4000キロワット)の建設がすすめられていたが、現年度においては、更に3基の原子力発電所(合計電気出力207万キロワット)の建設が着手された。これよりわが国の運転、および建設中の原子力発電設備容量は465万1000キロワットに達した。


(2)このような原子力発電開発の急速な進展によって核燃料の確保が従来にもまして緊要の課題となった。海外の核燃料物質の確保については、動力炉・核燃料開発事業団が先行的調査を進めるとともに、鉱山業界、電力業界が外国の企業と共同して米国、カナダ等において探鉱、開発をすすめた。とくに、45年5月にはニジエール政府、フランス原子力庁と共同して、ニジエールのウラン資源を開発する計画が具体化した。また電力業界では長期購入契約によって核原料物質の確保をはかっている。
 ウラン濃縮サービスの確保については、45年3月に東京で開催された日米原子力会議で、従来のとりきめ161トン(U235)を上廻る追加供給についても適切な処置を講ずることについて合意に達した。
 また、ウラン濃縮の研究開発についても、44年8月、これを原子力特定総合研究に指定し、研究体制を整備、拡充し、強力に推進することとした。このほか、使用済燃料再処理工場の建設についても進展がみられ、45年度には、その建設が着手される運びとなった。
 また、核燃料の成形加工等の面においても、民間企業において産業化への体制が整えられつつある。


(3)新型動力炉開発については、動力炉・核燃料開発事業団を中核として積極的にすすめられてきたが、44年度には、高速増殖炉の実験炉の建設が着手されたのをはじめ、新型転換炉についても、その原型炉建設に先立って、建設の当否を事前の研究開発の成果および海外における動力炉技術の動向等をふまえ慎重かつ詳細に検討が行なわれた結果、当初の計画通りすすめることが適当であるとの結論が得られた。同原型炉の建設は45年度に着手される予定である。


(4)原子力船の開発については、原子力第1船「むつ」が44年6月進水し、以降、遮蔽工事を中心にぎ装工事が行なわれ、45年7月、日本原子力船開発事業団に引き渡された。
 「むつ」は、青森県むつ市の定係港に回港され、原子炉ぎ装を行ない、47年前半に完成の予定である。
 一方、原子力船の実用化については、その実現までには、まだかなりの時間を要するものとみられているが、油輸送船、コンテナ船等において大型化、高速化の傾向が著しく、原子力船に対する期待が高まりつつある。このため、原子力委員会は原子力船懇談会を設け、内外海運界の動向、海外の原子力船開発の状況等を調査し、わが国における原子力船開発の考え方について検討をすすめている。


(5)放射線の利用については、逐年その実用化が進展しており、昭和45年3月末の放射性同位元素を利用する事業所数は1835に達している。とくに民間企業における普及が著しい。
 放射線利用の研究開発については、食品照射、放射線化学などの分野で前進がみられ、食品照射については、従来の馬鈴薯、玉ねぎ、米、ウインナーソーセージに引きつづき44年度には小麦、水産ねり製品が新たに追加され、保存性向上のための照射試験が行なわれ良好な成績をおさめている。また、放射線化学の分野では、トリオキサンの固相重合プラスチックの放射線改質等の面で一部工業化への見通しをうるなどかなりの進展をみた。


(6)以上述べた原子力の研究開発分野のほか、原子炉から得られる熱を発電のほか、海水脱塩、工業用プロセスヒート、地域暖房等に利用するいわゆる原子炉の多目的利用、熱中性子線によるガンの治療、人類の夢である核融合などの面で、調査、研究がすすめられており、原子力開発への期待は一層広汎なものになりつつある。これ等のうち、特に熱中性子線のガン治療については放射線医学総合研究所において、45年度から大型サイクロトロンの建設を行なうこととし、44年度にはその準備が行なわれた。


(7)このような原子力開発利用の進展に応じて安全性の確保は特に重要な問題であり、原子力委員会としても常に大きな努力を払ってきたところである。特に近年、軽水炉による原子力発電所の建設が相次いでおり、また新型動力炉の開発が本格化しつつあることにかんがみ、原子力委員会は、43年10月、動力炉安全基準専門部会を設置し、現行の審査指針の検討、整備を行なった。
 また、原子力損害賠償制度について原子力委員会は44年10月、原子力損害賠償制度検討専門部会を設置し、最近の原子力開発状況に対処するため、同制度の改善についての検討をすすめている。
 このほか、原子力発電所の運転に関し、発電所周辺の放射能を評価、検討し、その結果を地元住民に周知させるため、福井県、福島県において、それぞれ県と電気事業者との間でその体制が確立され、地元民の不安感の解消に寄与している。


(8)従来から重要課題の一つであった核兵器不拡散条約が45年3月に発効し、わが国は、これに先立ち同年2月に調印を行なった。調印に際して、政府は声明を発表し、核兵器の拡散を防止するという同条約の精神は世界平和維持に関するわが国の考えと一致するものであるが、同条約によって原子力平和利用が阻害されてはならないなどの点を強調し、同条約についてのわが国の基本的な立場を内外に明らかにした。
 原子力分野における国際協力は、国際原子力機関等の国際機関を通じての多国間協力、米国、英国、カナダ、フランス、西ドイツ等の各国との二国間協力を通じて活発に行なわれている。
 二国間協力については、昭和44年度においては、日英原子力会議、日加原子力会議、日米原子力会議が開催され、原子力発電の開発、新型動力炉の開発、核燃料の確保等の重要な問題が討議され、大きな成果が得られた。
 また、フランスとの間でも原子力協力協定を結ぶ方向で準備がすすめられている。
 このほか、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団などにおいても、米国、英国、フランスなどの原子力機関との間で新型動力炉の開発、放射線化学の研究等の分野で国際協力が積極的にすすめられている。



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