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軽水炉についての安全設計に関する審査指針について


昭和45年4月23日
原子力委員会

 原子力委員会は、昭和45年4月18日付けで、動力炉安全基準専門部会から「軽水炉についての安全設計に関する審査指針について」の報告を受けた。
 当委員会は、同報告書の内容は妥当なものであると考える。


軽水炉についての安全設計に関する審査指針について

45原委第103号
昭和45年4月23日

原子炉安全専門審査会会長殿

原子力委員会委員長

 軽水炉についての安全設計に関する審査指針について


 原子力委員会は、昭和45年4月18日付けで動力炉安全基準専門部会から別添1の報告を受け、昭和45年4月23日付けで別添2の原子力委員会決定を行なったので、ご参考までに送付する。


軽水炉についての安全設計に関する審査指針について

昭和45年4月18日
動力炉安全基準専門部会

原子力委員会
委員長 西田 信一殿

動力炉安全基準専門部会
部会長 伏見 康治

 軽水炉についての安全設計に関する審査指針について

 当専門部会における審議事項のうち、安全設計審査指針について、このたび別添のとおり結論を得たので報告する。



Ⅰ まえがき

 本報告書は、原子力委員会よりの諮問に応じ、原子炉安全専門審査会が原子炉設置許可の際に行なう安全設計審査に当たって審査の便となる指針についてその取りまとめを行なったものである。
 米国原子力委員会が1967年7月発表した原子力発電所一般設計指針(General Design Criteria for Nuclear Power plant Construction Permits)は、米国における原子力発電所の基本設計を確立する際の手引きとするとともに、原子力委員会における許認可に際しての指針とすることを意図として作られたものである。
 この一般設計指針は、わが国においても、原子力委員会の原子炉安全専門審査会における安全審査に際しては参考となるところが少なくないと考えられるので、本基準部会は米国の同指針を参考としつつ指針の策定をはかった。



Ⅱ 適用範囲

 本指針は、まえがきに記述したような方針のもとに調査審議して作成したものであり、本指針が適用される範囲は、米国における原子力発電所一般設計指針のそれと異なり、原子力委員会の原子炉安全専門審査会が安全審査をするに際しての指針に限定され、原子炉の設計のための指針を意図したものではない。
 そして、本指針が内容とする全条は、軽水動力炉の安全審査上重要な事項について集約したものであり、本指針を満足すれば安全審査はこれをもってすべて足りるというものではない。また、申請がこれによらない場合があったとしても、理由が正当化されれば不可とされるものでもない。



Ⅲ 安全設計審査指針

1 定義
 本指針において、次の各号に掲げる用語の定義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

(1)「原子炉冷却材圧力バウンダリ」とは、起動停止を含む原子炉の通常運転時に原子炉冷却材の存在する範囲のもののうち、苛酷な事故条件下で弁等により隔離されて圧力障壁を形成する範囲をいう。

(2)「安全保護系」とは、異常状態を検知し、それを防止あるいは抑制するために、安全保護動作を起させるよう設計された設備、および事故状態を検知し、必要な工学的安全施設の作動を開始させるよう設計された設備をいう。

(3)「工学的安全施設」とは、原子炉施設の破損や故障等に起因して、燃料の溶融や大量の放射性物質の放散の可能性がある場合に、これらを抑制もしくは防止するための機能を備えるよう設計された設備をいう。

(4)「原子炉停止系」とは、原子炉の臨界もしくは臨界超過の状態から原子炉に負の反応度を挿入することにより、原子炉を未臨界にして、停止にいたらしめるための機能を備えるよう設計された設備をいう。

(5)「単一故障」とは、単一の事象に起因して、所定の機能が失なわれることをいい、単一の事象に起因して必然的におこる多重故障も含む。

(6)「動的機器」とは、それを含む系が本来の機能を果たす必要があるとき、機械的に動作する部分のあるものをいう。

(7)「燃料許容損傷限界」とは、原子炉の設計と関連して、安全設計上許容される程度の燃料損傷でなおかつ原子炉施設の運転が継続できる限界をいう。



2 原子炉施設全般

2.1 準拠規格ならびに基準
 原子炉施設における事故の防止ならびにその結果の抑制のために、安全上重要かつ必須の系および機器の設計、材料選定、製作ならびに検査については安全上適切と認められる規格ならびに基準によるものであること。

2.2 敷地の自然条件に対する設計上の考慮

(1)当該設備の故障が、安全上重大な事故の直接原因となる可能性のある系および機器は、その敷地および周辺地域において過去の記録を参照にして予測される自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力に耐え得るような設計であること。

(2)安全上重大な事故が発生したとした場合、あるいは確実に原子炉を停止しなければならない場合のごとく、事故による結果を軽減もしくは抑制するために安全上重要かつ必須の系および機器は、その敷地および周辺地域において、過去の記録を参照にして予測される自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力と事故荷重を加えた力に対し、当該設備の機能が保持できるような設計であること。

2.3 耐震設計
 原子炉施設は、その系および機器が地震により機能の喪失や破損を起こした場合の安全上の影響を考慮して重要度により適切に耐震設計上の区分がなされ、それぞれ重要度に応じた適切な設計であること。


3 炉心設計
 原子炉の炉心は、予想される運転上の過渡状態を含む、平常運転時に燃料の許容損傷限界を超えることなくその機能を果たし得る設計であること。


4 計測制御設備

4.1 制御室
 いかなる原子炉事故発生の際にも従業員が制御室内にとどまり、事故対策操作が可能であるような設計であること。

4.2 原子炉停止系

(1)高温待機状態または高温運転状態から燃料の許容損傷限界を超えることなく炉心を未臨界にでき、かつ高温状態で未臨界を維持できる少なくとも2つの独立した原子炉停止系を有する設計であること。

(2)原子炉停止系の少なくとも1つは予想される運転上の過渡状態を含む平常運転時においても燃料の許容損傷限界をこえることなく、炉心を未臨界にでき、かつ高温状態で未臨界を維持できるような設計であること。

(3)原子炉停止系の低温状態における反応度停止余裕は、完全に炉心の外に引き抜かれた時、最も反応度効果の大きい制御棒1本の有する最大価値よりも、大きくなるような設計であること。

(4)原子炉停止系の少なくとも1つは、予想される原子炉事故状態において炉心を未臨界にでき、かつそれを維持できるような設計であること。

(5)原子炉停止系は、不測の制御棒1本の連続引抜き(制御棒の逸出事故ではない)のようないかなる単一誤動作に対しても、燃料の許容損傷限界をこえることなく対処できる設計であること。

(6)制御棒の最大反応度価値および反応度増加の最大速度は予想されるいかなる反応度変化に対しても原子炉冷却材圧力バウンダリを破損せず、また非常用炉心冷却が有効でなくなるほど炉心支持構造物または他の圧力容器内部構造物を破壊しない設計であること。

4.3 安全保護系

(1)安全保護系は、その系を構成するいかなる機器またはチャンネルの単一故障、あるいは使用状態からの単一の取り外しをおこなっても、保護機能を失なう結果にならないような重複性をもつ設計であること。

(2)安全保護系は、その系を構成するチャネル相互が分離され、また計測制御系からも原則として分離されているような独立性をもつ設計であること。

(3)安全保護系は、重複性を実証するため、原子炉の運転中に試験ができるような設計であること。

(4)安全保護系は、駆動源の喪失、系の遮断等の不利な状況になっても最終的に安全な状態に落着くような設計であること。

5 原子炉冷却材圧力バウンダリ

(1)原子炉冷却材圧力バウンダリとなる系および機器の部分は、予想される異常状態に起因する急激な炉心への反応度付加にもとづく荷重に対しても破損することのないような設計であること。

(2)原子炉冷却材圧力バウンダリとなる系および機器の部分は、脆性破壊を防止するためその最低使用温度が、使用される材料の脆性遷移温度にある値を加えた温度以上となるような設計であること。

(3)原子炉冷却材圧力バウンダリとなる系および機器の部分は、その健全性を評価するための試験および検査ができるような設計であること。

6 工学的安全施設

6.1 工学的安全施設全般

(1)工学的安全施設は、単一動的機器の故障を仮定した場合でも、当該施設の所定の安全機能を果たしうるように多重性を有する設計であること。

(2)工学的安全施設の動的機器は、安全性がそこなわれていないことが示されないかぎり共用されない設計であること。

(3)非常用炉心冷却系および原子炉格納容器圧力低減系については、1系統で所要の性能を十分発揮できるものが少なくとも2系統を有する設計であること。

(4)工学的安全施設の重要部分は、物理的検査が可能なよう。また、系統の性能試験が定期的に行なえるような設計であること。

6.2 非常用炉心冷却系
 非常用炉心冷却系は、原子炉冷却材圧力バウンダリ内のいかなる寸法の配管破断による冷却材喪失事故に対しても燃料被覆の溶融を防止できるような設計であること。

6.3 原子炉格納設備

(1)原子炉格納設備は圧力低減系とあいまって原子炉冷却材圧力バウンダリのいかなる寸法の配管破断による冷却材喪失事故に対しても、事故後の最大想定エネルギ放出に起因する圧力と温度に耐え、かつ、所定の漏洩率をこえることのないような設計であること。

(2)原子炉格納設備として、フェライト系鋼材を用いる場合耐圧構造となる主要部分は、脆性破壊を防止するため、原則として、その最低使用温度が使用された材料の脆性遷移温度にある値を加えた温度以上の設計であること。

(3)原子炉格納設備の機能保持のため事故時に閉鎖が要求される貫通部は重複した隔離弁等を有する設計であること。
(4)原子炉格納設備は、その漏洩率を必要な場合試験できるような設計であること。

6.4 非常用空気浄化系
 非常用空気浄化系は、フィルタおよびトラッピング材の性能を確認するための試験検査ができるような設計であること。


7 非常用電源設備
 非常用電源設備は、単一動的機器の故障を仮定しても、工学的安全施設や安全保護系等の安全上重要かつ必須の設備が、所定の機能を果たすに十分な能力を有するもので、独立性および重複性を備えた設計であること。


8 核燃料貯蔵施設

(1)核燃料物質の貯蔵施設は臨界事故を防止できるような設計であること。

(2)使用済燃料貯蔵施設は、その崩壊熱による燃料の損傷が防止できる設計であること。


9 放射性廃棄物処理施設
 放射性廃棄物処理施設は、平常運転時に周辺への放射性物質の放出を管理し必要期間保留できる適切な能力をもつような設計であること。


10 放射線監視施設
 放射線監視施設は、平常運転時および事故時に、発電所の周辺へ放出される放射性物質を、適切に監視できるような設計であること。




<参考>

動力炉安全設計審査指針解説

1 定義

(1)原子炉冷却材圧力バウンダリ

 ①「原子炉冷却材圧力バウンダリ」とは、次の範囲をいう。

(イ)原子炉圧力容器およびその付属物(本体に直接つけられるもの、制御棒駆動機構アダプタ、ハウジング等)

(ロ)原子炉冷却回路を構成する機器、配管(冷却材ポンプ、蒸気発生器水室、管板、管、加圧器配管弁等)。ただし、直接サイクルBWRの主蒸気管および給水管では原子炉側から見て第2隔離弁を含みそこまで。

(ハ)接続配管

 a 通常開、事故時閉のものは、原子炉側から見て、第2隔離弁を含みそこまで。
 b 通常閉、事故時閉のものは、原子炉側から見て、第1隔離弁を含みそこまで。
 c 通常閉、冷却材喪失事故時開の非常用炉心冷却系などもaに準ずる。
 「隔離弁」とは、遠隔操作の可能なものおよび自動作動の電動弁、空気作動弁、逆止弁とする。
 なお、通常運転時に使用される原子炉冷却材補給系によって、外部電源喪失を仮定しても破断時の流量に対して、補給することが十分可能な計測制御用配管のような小口径の配管は圧力バウンダリとは考えない。

 ②「苛酷な事故条件下」とは、制御棒落下あるいは冷水の炉心注入などによるいわゆる反応度事故の場合をいう。



(2)安全保護系
 安全保護系には、次の2つがあり、いずれの場合も検出器から動作装置入力端子までの範囲をいう。

 ①原子炉緊急停止系を作動さすための信号回路
 なお、「原子炉緊急停止系」とは、原子炉の緊急停止(制御棒によるスクラム等)を行なう原子炉反応度制御系をいう。

 ②非常用炉心冷却系、格納容器隔離弁、格納容器圧力低減系、非常用空気浄化系等の工学的安全施設の作動を行なわせるための信号回路。


(3)工学的安全施設
 「工学的安全施設」とは、安全評価において効果を期待した非常用炉心冷却系、格納容器(隔離弁を含む)格納容器圧力低減系および非常用空気浄化系等をいう。


(4)動的機器
 「動的機器」とは、例えば弁、ポンプ、しゃ断器リレー等をいい、これに対して「静的機器」とは、例えば、タンク、配管等をいう。


(5)燃料許容損傷限界

 ①「原子炉の設計と関連して」とは、原子炉自体の熱的、水力学的な設計基礎の設計上の差異等も勘案すべきことをいう。

 ②「安全設計上許容される程度の燃料損傷」とは原則的には燃料被覆の破損を防止でき、かつ燃料材自体も著しい溶融の防止ができることをいう。
 しかし、実際は、完全にこれを満足させることは難しく、設計上および製作の誤差ないしは偏差範囲内を限度にとってよく、炉内での冷却能力が十分確保できる構造、配置の維持ができ、かつ、放出放射能量が極めて少ないものであれば、一部燃料被覆の破損程度までは許容限界内とみなしうる。
 これのめやすとしては、燃料および被覆の最高温度、最大熱流束、最小限界熱流束比(MC-HFRまたはmin DNBR)、最大熱量、最大変形量一次冷却材放射能濃度等に関する設計基礎、予測値が適宜判断の基礎となる。



2 原子炉施設全般


2.1 準拠規格ならびに基準

 ①「事故の防止ならびにその結果の抑制のために安全上重要かつ必須の系および機器」の対象範囲は原子炉施設の設計ごとにそれぞれ異なるものであるので、各設計ごとに対象となる範囲を提示させて確認することが必要である。
 原則的には、原子炉冷却材圧力バウンダリを形成する系の設備、工学的安全施設の構成設備等が対象となる。

 ②「安全上適切と認められる」とは、原則として現行国内法規にもとづく規格基準をたてまえとする。外国の基準による場合あるいは規格基準で一般的でないものを適用する場合には、それらの規格基準の適用の根拠、国内法規にもとずく規格、基準との対比、適用の妥当性等を明らかにする必要がある。

 ③「規格ならびに基準によるものとする」とは、対象となる設備について、設計、材料選定、製作および検査に関して準拠する規格、基準をリストアップすることなどにより、明らかにしておくことを必要条件とする。


2.2 敷地の自然条件に対する設計上の考慮


(1)の規定について

 ①「安全上重大な事故の直接原因となる可能性のある系および機器」とは、重大事故、仮想事故として評価の対象となる原子炉冷却材喪失事故の直接の原因となる冷却材圧力バウンダリに属する機器、配管などをいう。

 ②「予測される自然条件」とは敷地の自然環境をもとに、地震、洪水、津浪、風(または台風)凍結、積雪等から適用されるものをいう。

 ③「自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力」とは、対象となる自然条件に対応して、過去の記録の信頼性を考慮のうえ、少くともこれを下まわらない苛酷なものを選定して設計基礎とすることをいう。

 なお、自然条件のうちのそれぞれのものは、出現頻度、程度、継続時間等に関する過去の記録を参照にして設計上適切な余裕が考慮される場合には、必ずしも異種の自然条件を重畳して設計基礎とする必要はない。


(2)の規定について

 ①「事故による結果を軽減もしくは抑制するために安全上重要かつ必須の系および機器」とは、例えば周辺公衆の安全確保のための最終防壁となる原子炉格納容器等をいう。

 ②「自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力と事故荷重を加えた力」とは、例えば、原子炉格納容器に関して、地震力と原子炉冷却材喪失事故後の内圧による荷重を加算して設計検討を行なうことなどをいう。

 ③事故荷重の継続時間が短い場合には、必ずしも事故荷重と自然条件を重畳して設計基礎とする必要はない。


2.3 耐震設計
 「重要度により適切に耐震設計上の区分がなされ」とは、すなわち

Aクラス-その機能喪失が原子炉事故をひきおこすおそれのあるもの、および原子炉事故の際に放射線障害から公衆をまもるために必要なもの

Bクラス-高放射性物質に関連するものでAクラスに属する以外のもの

Cクラス-AクラスおよびBクラスに属する以外のものにより、建物、機器設備が分類されることをいう。

 なお、Aクラスのうち原子炉格納容器、原子炉停止装置は、Aクラスに適用される地震力を上まわる地震力について機能の維持が出来ることを検討する必要がある。


3 炉心設計

 ①「予測される運転上の過渡状態」とは、比較的起る可能性の大きい運転上の過渡状態であって、単一の動的機器の故障、誤動作および誤操作によってひき起こされる過渡状態まで含むものとする。
 例えば全外部電源喪失、冷却材循環ポンプの電源喪失による停止、タービン発電機トリップ、原子炉冷却系の隔離停止などをいう。

 ②「機能を果し得る設計」には、設備の信頼性が十分証明できるものであれば、非常用給水設備、原子炉停止設備、原子炉冷却設備(自然循環等)崩壊熱除去設備の適切な運転、効果を期持してもよい。
 ただし、原子炉の設計においては、原子炉出力の過度時の変化に対する制御を容易とするため、ドップラ係数減速材温度係数(または密度係数)滅速材ボイド係数、圧力係数などを総合した反応度出力係数が、過渡状態のもとで、抑制効果を持つよう正にならない設計となっていることが原則として必要である。


4 計測制御設備

4.1 制御室
 制御室は、発電所の平常運転時はもちろん、重大事故、仮想事故を含むその発電所で考えられる事故発生時にも、従業員が制御室内にとどまり発電所の安全を維持するための操作および事故対策操作が可能であるような不燃設計、しゃへい設計および換気設計がなされなければならない。
 こゝでいう事故対策操作とは、事故時に原子炉を停止させるとともに、核分裂生成物の発電所外への放出を抑制するために必要な操作をいう。
 なお、何等かの原因で制御室に接近できない場合の対策として制御室外から原子炉の高温停止が出来ることが望ましい。


4.2 原子炉停止系

(1)の規定について
 現在転水炉で採用されている制御棒と可溶性毒物系(BWRの液体毒物注入系、PWRのケミカルシム等)は、その性能から見てこの条項を満足する原子炉停止系と考えられている。
 なお、原子炉停止系自身が独立な複数個の停止機構をもち、その数が高温停止に必要な数に比し十分な余裕をもっている場合には、実質的に幾つかの独立した停止系とみなせる。

(4)の規定について
 「予想される原子炉事故状態」とは、原子炉1次系配管の破断時で工学的安全施設の単一故障を仮定した状態まで含む。

(5)の規定について
 この場合安全保護系としては関連保護系を含めて考えてよい。

(6)の規定について
 反応度事故による圧力バウンダリおよび構造物の機械的破損の程度は、核的逸走により燃料内で発生したエネルギーが燃料から外部へ放出される量およびその速さに関係する。現在のところこのエネルギー放出モードは、燃料の到達したピークエンタルピにより特徴づけられるという実験データが得られているので、これと事故時の燃料エンタルピおよびそのエンタルピに達した燃料の量とから、この項の制限が守られているかどうかを判断する。
 なお、ここでいう制御棒の最大反応度価値とは、この値を制限する装置が設けられている場合には、その作動を考慮してもよい。


4.3 安全保護系

(1)の規定について
 「チャンネル」とは、保護動作に必要な単一の信号(例えば炉心スプレイ系の起動信号)を発生させるために必要な構成要素(抵抗器、コンデンサ、トランジスタ、スイッチ、導線等)およびモジュール(内部連絡された構成要素の集合体)の配列をいう。
 また、「重複性」とは、果たすべき保護機能に対してお互に独立に機能を果たすチャンネル(あるいは系)が2つ以上あることをいう。

(2)の規定について
 ここでいう分離とは、一方のチャンネルにおける不利な条件が他方のチャンネルにおよばないようになっていることをいう。
 ただし、安全保護系と計測制御系との共用については、共用されている機器またはチャンネルの故障、誤動作あるいは保守等のため使用状態からの取り外しがあっても安全保護系の機能が損なわれなければ部分的な共用は許される。

(4)の規定について
 「不利な状況」とは環境条件も含めるが、どのような不利な状況を考慮するかは個々の設計とてらし合わせて判断すべきである。
 「最終的に安全な状態」とは、故障しても安全側に向かういわゆるfail safeの状態および、故障してもそのままの状態にとどまって(fail as is)安全上支障がない状態をいう。


5 原子炉冷却材圧力バウンダリ

(1)の規定について

 ① ここでいう「予想される異常状態」とは、制御棒逸出(積極的な機械的防止手段のない場合)や制御棒落下あるいは冷水の炉心注入をいう。

 ②「破損することのないよう」とは、運転が継続できる程度の塑性変形があっても破損がなければよいという意味である。


(2)の規定について
 本規定は反応度事故の起こる可能性のある場合に適用されるものである。「ある値」としてはさしあたって塑性変形を許す設計となっておれば67degを、また、塑性変形を許さない設計となっておれば34degをとるのが望ましい。


(3)の規定について
 本規定で試験、検査の対象としているものは、機器における主として応力度の高い所および溶接部を考えればよい。
 「試験および検査ができるような設計」とは、肉眼検査、ボアスコープ、水中テレビジョンの使用や超音波などによる非破壊検査などによって試験および検査が出来るように設計方針をとることをいう。


6 工学的安全施設

6.1 工学的安全施設全般

(1)の規定について

 ① 事故後長期間の炉心冷却には動的機器の単一故障および静的機器の単一故障のいずれを仮定しても所定の安全機能を果たしうるように設計されていることが大切である。同時に動的機器と静的機器の故障を仮定する必要はない。

 ② 単一故障は、非常用電源設備を含む設備全体での任意の個所の単一故障を考える。


(3)の規定について
 この場合2系統は異なる方式のものが望ましい。


(4)の規定について
 ① 「物理的検査」としては、観察検査あるいは補助的方法としての各種の非破壊検査を考える。
 ② 「可能なように」とは、例えば接近できるようとか、接近できなくても遠くから検査できるようになっていることをいう。
 ③ 「系統の性能試験」とは、必らずしもノズルからの吐出能力試験を意味するものではなく、たとえばバイパス配管を通しての流動試験でもよい。


6.3 原子炉格納設備

(1)の規定について
 「事故後の最大想定エネルギ放出」とは、仮想事故時に放出されるエネルギを考える。

(2)の規定について
 「ある値」とは、さしあたって17degをとることが望ましい。

(3)の規定について
 ここでいう「隔離弁等」とは、隔離弁、逆止弁など隔離機能を有する装置をいう。
 なお、平常運転時に閉鎖している貫通配管には2重の隔離弁をもうける必要はない。


7 非常用電源設備

 ① 「単一動的機器の故障」の対象には、非常用内部電源設備では、これを構成するしゃ断器、制御回路の操作スイッチ、リレー、非常用発電機等のうちいずれか一つのものの不作動や故障をとるものとする。

 ② 「所定の機能を果たすに十分な能力を有するもの」とは、原子炉緊急停止系、工学的安全施設等の事故時の安全確保に必要な設備を、それぞれが必要な時期に要求される機能が発揮できるように作動させうるような容量を具備することをいう。

 ③ 「独立性および重複性」とは、単一動的機器の故障を仮定した場合にも、要求される安全確保のための機能が害されることのないよう、非常用発電機を2台とするなどにより、十分な能力を有する系を2つ以上とし、かつ、一方が不作動となるような不利な状況下においても、他方に影響をおよぼさないように回路の分離、配置上の隔離などによる独立性の確保が設計基礎とされることをいう。


8 核燃料貯蔵施設

(1)の規定について
 「臨界事故の防止」とは、平常状態はもちろん、予想される外的条件が加わっても臨界に到らないよう防止対策がなされていることをいう。


9 放射性廃棄物処理施設
 「必要期間」とは、原則的には長い期間であるほど好ましいが、実用上、予測される放射性物質の種類、量とのかねあいで、余裕のある仮定のもとでの評価により必要期間をいう。


10 放射線監視施設
 「放射線監視施設」とは、モニタリングポスト、モニタリングステーション、モニタリングカー等をいう。



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