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新型転換炉評価検討専門部会報告書(各論)



§1 エネルギーの安定供給からみたATR開発の意義

 エネルギーの安定供給からみたATR(わが国で開発している新型転換炉をいう。)の開発の意義については、まず核燃料の安定供給の意義を再確認するため、核燃料の需給をめぐる諸情勢について検討し、またATRが核燃料資源の有効利用に寄与する度合いについて、長期核燃料サイクルの試算によって定量的評価を行ない、さらにATRが核燃料の多様化に資する態様についても検討した。


1.1 核燃料の需給

 世界における電力需要は今後とも着実に伸びてゆくものと考えられているが、その中に占める原子力発電の割合は急速に増大するものと予想されており、これに伴って核燃料の需要を著しく増大し、その安定供給の重要性は、ますます大きくなるものと考えられる。

(1)天然ウラン需給の見通し
 自由世界におけるウランの確定的埋蔵量(Reasonably Assured Resources)は、1965年および1967年のENEA(欧州原子力機関)のレポート(表1-1)などに見られるように、この間において$10/1b以下の安価なU3O8も、$10~15/1bの比較的高いU3O8も、ともに約70~80万tで、探鉱開発による埋蔵量の増加はほとんどみられない。
 一方USAEC(米国原子委員会)などが推定した自由世界における1980年までのウランの累積需要量は50万~70万t程度で、上記の$10/1b以下の確定的埋蔵量にかなり近い値であり、さらにその後も需要は急増するものとみられる。
 ウランの埋蔵量は、探鉱開発の努力によって今後相当増大しうるものであろうが、世界における原子力発電の顕著な伸びを考えるとき、廉価なウランの需給関係は、必ずしも楽観を許さないものがある。

(2)濃縮ウランの需給の見通し
 USAECの予測によれば、自由世界の濃縮ウランの需要は、1980年頃に約4万tSWU(分離作業単位)に達し、米国の現在の濃縮プラントに 設備改良を行ない、かつ見込み生産を行なったとしても、1980年以降はその供給能力に不足が生ずると見られる。
 米国の濃縮プラントは、従来の政府所有の形態を変更する動きがあり、その供給条件が変化することが予想される。
 一方欧州では、英国、フランスの拡散法プラントに加えて遠心分離法など新しい方式によるウラン濃縮技術の開発が進められており、その企業化への意欲が見られるが、その濃縮サービス代は米国のそれより高くなるものと予想されており、またその実現の見通しはまだ明確なものとはいえない状況にある。
 わが国においても、ウラン濃縮の研究開発の努力が払われているが、その実用化までにかなりの年月を必要とすると考えられる。
 以上のとおり、濃縮ウランについても需要の著しい増加に対応してその廉価な供給源が多角化される見通しは、まだ十分ではない状況にある。

(3)その他
 欧米先進諸国において、核燃料資源の有効利用を図る最良の手段である高速増殖炉の開発について鋭意努力が払われており、わが国においても、昭和60年代初めにこれを実用化するよう計画が進められている。
 しかし、これは高度の技術開発を必要とし、その達成に長時間を要するものであり、現に各国の研究開発スケジュールは、当初計画から遅延しつつある状況にある。
 トリウムの確定的埋蔵量は、$10/1b以下のもので約50万tと推定されており、その核燃料への利用が成効すれば、核燃料資源の供給はある程度緩和されるが、その利用技術については、高温ガス炉を中心として数ケ国で開発が進められている段階である。
 以上のとおり、核燃料の需要は急増が予想され、その供給について種々の努力が払われているが、以前に比してその需給バランスについて楽観すべき状況になったとはいいがたい。


1.2 核燃料資源の有効利用

 科学技術庁原子力局の核燃料サイクル調査研究会の長期核燃料サイクルの試算結果により、

  (イ) PuSS方式によるATR(APu)   
  (ロ) 微濃縮ウランを核燃料とするATR(AEU)
  (ハ) 将来の開発目標としている天然ウランを燃料とするATR(ANU)

 と、LWR(軽水炉)およびFBR(高速増殖炉)を組み合わせたいくつかの開発パターンについて、それぞれ2000年までの天然ウラン所要量、ウラン濃縮分離作業量、プルトニウム蓄積量の推移および所要外貨について検討した。その試算の概要は、別記のとおりである。
 試算結果により、将来予想されるLWR、ATR、FBRの炉型構成においては、核燃料サイクルの観点からATRについて次のように評価することができる。

(ⅰ)ATRは、将来FBRの導入が相当遅延した場合はもとより、所期のとおり導入された場合においても、原子力発電体系の中でウラン所要量、ウラン濃縮分離作業量およびこれらに必要とされる外貨量の節減に大きく寄与することが期待できる。
 これらの効果は、AEUの場合よりAPuの場合の方が大きい。

(ⅱ)FBRの実用化が本格的となる1980年代末頃に至る間においては、APuの投入によってプルトニウム蓄積量の増大を低減し、蓄積に伴う経済的負担を低減することが期待される。

(ⅲ)FBRの実用化の初期までに建設されるATRは、(1)および(2)の観点からAPuが有効である。
 高速増殖炉の実用化後においては、APuに代わって天然ウランのみを燃料としプルトニウムを生産するANUを投入することが、ウラン所要量の節減に効果的なFBRの投入を促進するうえに、きわめて有効な手段と考えられる。

(別記)
長期核燃料サイクル試算の概要

(1)試算条件

(ⅰ)原子力発電の開発規模は、1985年において5,000万kWとし、以後2000年まで年平均9.9%の伸び率で増加するものとした。

(ⅱ)ATRは1978年、FBRは1986年に実用化されるものとしたが、開発初期においては開発規模を制限した。なおFBRは、ATRの投入効果をみるため、投入されない場合についても試算した。

(ⅲ)炉型別の開発規模は(ⅰ)、(ⅱ)の条件によるほか、FBRについては、利用できるプルトニウムの炉外存在量に応じて開発できるものとした。(ⅰ)の原子力発電規模からFBR開発規模を差し引いた不足分はLWRとATRによって充足するものとし、LWRとATRの開発の割合はインプットとして与えた。
 (なお、これらの開発割合は、各種の燃料を使用するATRについて核燃料サイクルの観点から評価するために設定されたものであって、実際の割合は、FBRの開発時期、核燃料の価格、核燃料の安定供給に対する要請などの各種の要因によって左右される性格のものである。)

(ⅳ)LWR、AEUおよびAPuの炉特性は、実用炉を対象として次のとおりとした。


(2)試算結果の概要
 試算結果の概要は表1-2に示すとおりであり、また仮定された炉型構成の例は図1-1(1)~(3)に見られるとおりである。

(ⅰ)LWR-APuの組み合わせの場合
 LWRのみで原子力発電開発規模をまかなう場合に比較し、新規原子力開発規模の50%(100%)をAPuとした  場合は次のような結果が得られる。
  (イ)天然ウラン所要量 節減量86千t(161千t)節減率0.23(0.43)
  (ロ)年間最大分離作業量 節減量15千t(26千t)節減率0.50(0.87)
  (ハ)累積所要外貨 節減量52億ドル(98億ドル)節減率0.33(0.63)
(ⅱ)LWR-APu-FBRの組み合わせの場合
 原子力発電規模をLWR-FBRでまかなう場合に比較し、LWR-APu-FBRの組み合わせでLWRとAPuの新規開発規模 の割合(LWR/APu)が5/5(0/10)で開発された場合は次のような結果が得られる。
  (イ)天然ウラン所要量 節減量32千t(72千t)節減率0.12(0.27)
  (ロ)年間最大分離作業量 節減量7千t(13千t)節減率0.41(0.76)
  (ハ)累積所要外貨 節減量27億ドル(58億ドル)節減率0.25(0.53) 
(ⅲ)なお、きわめて長期的にみると、FBRの開発量の増加を図るため、FBRの実用化の頃より、APuに代わりANUを開発すると天然ウラン所要量などが著しく減少する。

1.3 核燃料の多様化

 核燃料の安定供給を図る一つの手段は、供給源がきわめて限定的である濃縮ウラン依存を離れて、世界に広くその供給源を求めうる天然ウランを燃料とする動力炉を採用することである。
 ATRは、まさにこの要請にこたえるものであって、将来目標である天然ウランのみを燃料とするもの、当面の開発目標であるPuSS方式を採用するもの、いずれも系外から天然ウランのみを補給することによって運転しうるものである。
 またATRは、同一炉心プルトニウム富化天然ウランと微濃縮ウランのいづれもを燃料として使用することが可能であり、価格その他の事情に対処して核燃料の供給源の弾力的選択を行ないうるという利点を有している。
 さらに、ATRは、プルトニウム富化天然ウラン燃料使用の場合、天然ウラン燃料のみを使用する場合のいずれについても、その加工、再処理を一貫して国内で行ないうるので、いわゆる核燃料サイクルの国内確立の達成に資するものである。


表1-1 自由世界のウラン資源の推定


表1-2 核燃料サイクル試算結果


図Ⅰ-1 炉型別発電規模
(1) LWR-FBR 組み合わせの場合


(2) LWR-APu-FBR 組み合わせの場合(LWR/APu:5/5)


(3) LWR-APu→ANU-FBR 組み合わせの場合(LWR/ATR:5/5)





§2 炉型の選定

 今日まで世界各国が種々の新型転換炉の開発に努力が払われてきたが、これらのうち現在経済性を達成しうるという見通しで開発が進められている炉型について、最近の動向を中心に技術的見地から開発状況の調査を行ない、あわせてわが国で開発すべき炉型の検討を行なった。


2.1 海外における新型転換炉の開発状況

 表に現在世界で開発中の新型転換炉の概要を示す。

第2-1表 世界の新型転換炉結果一覧





(1)重水減速炉
 重水減速炉は、中性子吸収の少ないジルコニウム合金圧力管が開発されて以来、この圧力管内に燃料を収め、減速材の重水と冷却材とを分離して用いる型が開発されてきた。どのような冷却材を用いるかは、それぞれの国の原子力に関する開発基盤や歴史あるいは評価により異なっている。
(ⅰ)重水減速沸騰軽水冷却炉
  現在、英国、カナダ、イタリーおよびわが国で開発が進められている。
  英国においては1967年9月にSGHWRの原型炉(100MWe)が臨界になり、ついで1968年初め全出力運転に成功し、さらに最近この型炉の(450MWe)をギリシャに輸出する動きがあった。
 カナダは、一貫して天然ウラン専焼の圧力管型重水減速炉を開発しており、従来は重水冷却型を主としていたが、最近は重水漏れが少なく、かつ直接サイクルの長所をもつ沸騰軽水冷却型(CANDU-BLW)の開発にも力を注いでおり、原型炉(Gentilly,250MWe)を1971年に運開させるべく開発を進めている。
 一方、イタリーは独自の霧冷却研究に端を発したCIRENE計画を進めており、実験炉(35MWe)を1971年に稼動させることとしている。

(ⅱ)重水減速有機材冷却炉
 米国、カナダおよびユーラトムで開発が進められてきたが、米国は1967年に行なった動力炉開発計画の検討の結果、この炉型は実用化までにはなお相当多くの開発が必要であるなどの理由で、基礎研究を除いて重水減速有機材冷却炉(HWOCR)開発計画を中止した。
 カナダは、開発の主流を水冷却型においており、本炉型については基礎的なものないしは米国の開発(HWOCR開発計画)に協力する形で行なってきた。
 一方、ユーラトムでは、1960年以来、イスプラ研究所を中心に、その開発が進められてきたが、現在燃料試験炉(ESSOR)は稼動しているものの、原型炉計画(ORGEL)は資金などの理由により中止されている。

(ⅲ)重水減速炭酸ガス冷却炉
 フランス、西ドイツ、スイスなどで開発が進められており、1967年にはEL-4(73MWe、フランス)、1968年にはLucens(7.5MWe、スイス)が稼動を開始した。また西ドイツのNiederaichbach(1.00MWe)も来年稼動の予定で ある。しかし、本炉型では、被覆管として使用に耐えるベリリウムあるいはジルコニウム合金の開発に成功しないため、フランスは、大型炉計画を具体化するに至らず、またスイスも開発路線よりはずした。

(ⅳ)重水減速重水冷却炉(圧力管型)
 本炉型の開発は主にカナダで行なわれ、実験炉NPD(20MWe)、原型炉Douglas Point(200MWe)は、すでに運転に入っている。そして商用炉Pickering(500MWe×4基)は建設中であり、インド、パキスタンにも輸出され、またBruce(750MWe×4基)計画も具体化している。

(ⅴ)重水減速重水冷却炉(圧力容器型)
 西ドイツならびにスェーデンで開発が進められ、西ドイツでは天然ウラン専焼のみでなく、将来トリウムを用いた熱中性子増殖をねらっている。本炉型の将来は、重水漏れを少なくすること、大型化および燃料交換の諸問題に対処するため、プレストレストコンクリート圧力容器を用い、燃料交換機や一次冷却系を圧力容器に内蔵するインテグラル・タイプが実用化されるかどうかにかかっている。
 西ドイツでは実験炉MZFR(50MWe)を稼動しており、最近アルゼンチンにAtucha(340MWe)の輸出に成功した。一方、スェーデンは実験炉Ågesta(10MWe+55MWt)を1963年臨界にし、近く重水蒸気直接サイクルの原型炉Marviken(200MWe)を完成するが、これに続く実用炉の開発計画は具体化していない。

(2)黒鉛減速炉

(ⅰ)改良炭酸ガス冷却炉(AGR)
 英国がコールダーホールより一貫して開発を進めてきた黒鉛減速炭酸ガス冷却炉の改良型で、現在、Dungeness-B(600MWe×2基)をはじめ、多くの商用炉が建設中または計画中である。

(ⅱ)高温ガス炉
 ENEA、米国および西ドイツで開発が進められ、実験炉はDragon(20MWt、ENEA)、Peach Bottom(40MWe 米国)、AVR(15MWe 西ドイツ)が1964年から1966年にかけ、あいついで運転を開始した。
 米国では、ガルフ・ゼネラル・アトミックス社(GGA)を中心に開発が進められており、1971年に稼動予定で実証炉Fort St Vrain(330MWe)の建設が進められている。英国もこの炉型に関心を示しており、実用炉の設計発表を行なうなどしている。一方西ドイツは、ユーリッヒ研究所、BBC/クルップを主体にAVRに続く独特のタドン型燃料を用いたTHTR(Thorium High Temperature Reactor) プロジェクトを進めており、最近その原型炉(300MWe)の敷地が決定された。なお、最近この炉型については、その経済性を高め、プラントを合理化する観点から、ガスタービンを用いる直接サイクルの採用や、低濃縮ウランを用いる構想、あるいはこの炉を製鉄に利用する構想が出されている。

(3)均質炉
 本炉型は、燃料が液体状なので燃料交換および 核分裂生成物の除去が連続的に行なえること、熱中性子増殖炉にすることができ、燃料装荷量が少ないことなどの長所がある。現在溶融塩炉および水均質炉の開発が、それぞれ米国およびオランダで進められているが、実用化にはまだほど遠い感がある。
 以上海外における新型転換炉に関する最近の動向について概観したが、その情勢変化を要約すれば次のとおりである。

(ⅰ)重水減速沸騰軽水冷却炉については、英国において、SGHWRの原型炉が運転を開始し、この原型炉をベースとした商用炉がギリシャへ輸出される動きが出たこと、カナダにおいて、CANDU-BLWの原型炉Gentilly の建設が進展しているなど、順調な発展がみられた。

(ⅱ)重水減速炭酸ガス冷却炉については、被覆材(ベリリウムまたはジルコニウム合金)の開発が非常に難行しており、本炉型の開発は停滞している。

(ⅲ)重水減速重水冷却炉(圧力容器型)については、西独が実用炉としてアルゼンチンへ輸出するなど、実用化の域に達しつつある。

(ⅳ)黒鉛減速高温ガス炉については、米国において実証炉の建設が行なわれているが、西ドイツ、英国でも経済性のある炉として開発が進展している。

第2-1表 世界の新型転換炉一覧表


2.2 わが国で開発すべき炉型

(1)選定基準の検討
 わが国で自主開発すべき新型転換炉(ATR)として、重水減速沸騰軽水冷却炉が選ばれた主たる理由は、昭和41年5月の原子力委員会の内定「動力炉開発の基本方針について」およびそれ以前の動力炉開発懇談会などの審議によれば、(ⅰ)来在炉型に比し、核燃料の効率的利用および多様化の観点から、天然ウランをも使用しうるものであること、(ⅱ)早期の実用化が考えられること、(ⅲ)プルーブンでないことの三つである。
 最近の内外の動向を勘案して、上記基準の評価検討を行なった結果は、§1においても述べたように、(ⅰ)に関しては、核燃料の需給バランスが楽観すべき状況になったとはいいがたく、(ⅱ)に関しては、高速増殖炉の実用化時期を考慮し、また海外における新型転換炉の開発状況をも勘案して、できるだけ早期実用化を達成することが望ましいので、わが国のATRとして、天然ウランが使用できるものであることおよび早期開発が行なえるものであることの必要性は、現時点においても変っていないと考えられる。
 なお、(ⅲ)のプルーブンでないことに関しては、動力炉開発計画検討の初期より、海外において商品化されているもの(プルーブンであるもの)は自主開発の対象からはずされており、現段階においてもこの方針を変える必要はないと考えられる。

(2)開発すべき炉型
 世界で開発中の新型転換炉の炉型について、主として技術的見地から前記(ⅰ)、(ⅱ)、(ⅲ)の基準によ り評価を行なった結果を表2-2に示す。
 黒鉛減速改良炭酸ガス冷却型および高温ガス炉は、天然ウランを使用するシステムとなっておらず、また重水減速炭酸ガス冷却型については、2.1でも述べたように、被覆材の開発が進まないために、天然ウランを用いての早期実用化が困難である。
 早期開発が困難なものとしては、重水減速有機材冷却型、重水減速炭酸ガス冷却型などがあげられるが、その理由は表2-2の右欄に概略示されている。なお、重水減速重水冷却型(圧力管型)および黒鉛減速改良炭酸ガス型は、プルーブンである点から自主開発する炉型としては対象外である。
 以上の検討の結果、わが国で開発している重水減速沸騰軽水冷却型は、新型転換炉として上記の基準に適合した有望な炉型であり、現時点でこの炉型を変更すべき理由は見当たらない。

(3)わが国のATRとCANDU-BLWおよびSGHWRとの比較
 わが国で開発中のATRとCANDU-BLWおよびSGHWRは、いずれも重水減速沸騰軽水冷却型に属する炉であるが、そのおのおのの原型炉の主要仕様を表2-3に示す。
 各炉の主な相違点は、燃料使用方式、燃料交換方式および制御方式にあり、これらはそれぞれの国のエネルギー事情、これまでの開発基盤、安全性に対する考え方などの国情に由来するものである。
 燃料使用方式に関しては、CANDU-BLWは天然ウラン専焼方式であり、SGHWRは低濃縮ウラン使用方式であるのに対して、ATRは近い将来の目標としてPuSSを採っている。これに関してCANDU-BLWは、正のボイド係数が大きく、SGHWRでは、この問題を解決するため、および経済性の概点から、燃料に低濃縮ウランが用いられている。これに対し、わが国のATRは、安全性を確保しつつ、経済性を達成し、あわせて核燃料の安定供給と有効利用を図る観点から、プルトニウムを天然ウランに富化して用い、いわゆるPuSS方式を一つのねらいとしている。またこの炉では、プルトニウム富化天然ウラン燃料(PuSS方式の場合を含む。)の炉心と同じ炉心で微濃縮ウランを用いることも可能である。


第2-2表 世界で開発中の新型転換炉の評価


第2-3表 わが国のATRと海外の重水減速沸騰軽水冷却炉の比較



§3 原型炉開発計画


 動燃事業団のATR開発計画は、昭和50年代の前半にこれを実用化することを目標に、原型炉を49年度頃臨界を目途として建設することとしているが、この開発計画に関し、これまでに行なわれた設計研究、開発試験など原型炉の建設を行なうに必要な技術的見通し、研究開発計画との関連も含めた原型炉の開発スケジュールの妥当性およびATR実用化の技術的見通しについて検討した。


3.1 原子炉開発計画の概要

 動燃事業団の計画などによる原型炉建設計画の概要は、次のとおりである。

 (1)原型炉の概要

発電所電気出力 定格 165MWe
目標最大 200MWe
原子炉形式 重水減速沸騰軽水冷却型
設置場所(候補地点)敦賀市


  原型炉の主要仕様は表3-1のとおりで、その主要事項についての設計上の考え方および特徴は次のとおりである。

 (ⅰ)規模:実用炉の炉心などをモック・アップする観点から約20万kWeとした。

 (ⅱ)燃料:実用炉としては将来目標を天然ウラン専焼炉としているが、あとに述べるように現段階では正のボイド係数の問題が解決されていないので、当面PuSS方式の炉を開発することとし、原型炉においては、初装荷燃料として1.5%微濃縮ウランを用いるとともに、プルトニウム富化天然ウラン燃料を約20本挿入して、PuSSを実証することとしている。

 (ⅲ)炉心設計:500MWe級の実用炉プルトニウム炉心について最適設計を行ない、原型炉炉心はこれをモック・アップしている。

 (ⅳ)構造:原子炉本体はカランドリア・タンク、圧力管、燃料、遮蔽体などで構成されている。カランドリア・タンクには減速材である重水が満たされており、圧力管は正方形格子に配置されたカランドリア管にそれぞれ挿入されている。燃料集合体はその圧力管内にあり、炉心下部より流入する軽水冷却材によって冷却される。冷却材は炉内で沸騰し、上昇管を通って、ドラムで気水分離され、蒸気はタービン系へ、水は下降母管を通り再循環ポンプにより再び炉内に送り込まれる。
 燃料は、二酸化ウラン・ペレット、ジルカロイ被覆の燃料棒28本を束にしたクラスター型で、燃料サイクルの特徴を生かし、経済性を達成するため、運転中下方より燃料交換を行なう方式としている。
 原子炉系は、このほか減速材の重水系、重水のカバー・ガスであるヘリウムの系統、カランドリア管と圧力管の間の熱絶縁のための炭酸ガスを循環する炭酸ガス系、原子炉冷却水の純度保持のための冷却材浄化系、原子炉系補機の冷却を行なう補機冷却系などがある。安全上の対策としては、炉心出力密度に余裕を持たせ、炉心全体を安全な設計とするとともに、大口径配管破断時のいわゆる冷却材喪失事故時にボイド反応度が過大なることを避けるため、冷却系は独立4ループとしている。また、格納容器は加圧水型軽水炉(PWR)ですでに使用されているものと同一の円筒型ドライ・コンテナーである。


(2)原型炉開発スケジュール
 原型炉は、現在第二次概念設計を進めるとともに日本原子力発電株式会社の敦賀発電所敷地を建設候補地とし、建設に必要な現地調査を行なっている。原型炉の建設スケジュールは、表3-2のとおりで、昭和45年6月着工、昭和49年9月頃臨界の予定である。

(3)研究開発の成果と今後の計画
 原型炉の設計、製作などに必要なものとして実施または計画中の研究開発の今までの実績、今後の予定およびこれらと原型炉建設計画との関連は、表3-3および表3-4(省略)のとおりである。


3.2 原型炉開発計画の妥当性

(1) 原型炉計画
 ATR原型炉は、まず重水減速沸騰軽水冷却型動力炉プラントとしての機能を技術的に実現するとともに、PuSSを含む重水減速沸騰軽水冷却型炉の炉特性を確認することを主眼として設計されている。したがって、経済性を考慮した実用炉に比し若干保守的な設計となっており、原型炉による建設、運転の実績などの積み上げにより、経済性のある実用炉への発展を考えることとしている。

(2)原型炉の開発計画にかかわる技術的問題の解明の見通し
 ATR原型炉は、軽水炉技術をベースとしており、とくに技術的に困難なあるいは基礎的に解明すべき問題は少なく、プラント・システム全体としての開発が主となるものであるが、初めての重水減速沸騰軽水冷却型動力炉として開発すべき個々の技術的問題としては、

(ⅰ)PuSS方式の実証

(ⅱ)設計データの精度の向上および実験的確認

(ⅲ)比較的未経験な圧力管、燃料集合体、燃料交換装置などの開発

などがあげられる。
 これらについての動燃事業団の開発状況および今後の見通しは、次のとおりである。

(ⅰ)PuSSの実証
 原型炉の炉心は(ⅱ)に述べる設計コードを用いて設計されているが、二領域臨界実験および重水臨界実験により原型炉の炉心設計データの確認を行なうこととしており、最終的には原型炉に装荷する約20本のプルトニウム燃料の燃焼過程の追跡などから、これを確認することとしている。

(ⅱ)炉心設計データ精度の向上および実験的確認
 原型炉の第二次概念設計に先だち、わが国で開発したコードおよび英国より導入した設計コードを英国の臨界実験と対比して、設計に使用するコードを決定している。また、43年度より二領域臨界実験を行なって重水・軽水領域における一応のデータを得ており、今後さらに重水臨界実験により製作設計までにその精度を確認することとしている。また、流動伝熱特性についても、大型熱ループによる実規模実験を44年末より行なうこととして、この結果を設計に反映することとしている。

(ⅲ)圧力管、燃料集合体、燃料交換装置などの開発
 圧力管については、カナダから技術情報を入手し、これを参考として異種金属との接合技術、その他試作による事前確認を行なうこととなっている。また、圧力管の照射効果、水素ぜい化、不安定破壊試験などの問題に対しては、各種炉外試験や日本原子力研究所材料試験炉(JMTR)を用い、カプセルおよび圧力管照射試験、腐食試験などを行なうが圧力管の長期にわたる変化については、原型炉運転後定期検査の際モニタリングを行ない、またサーベランス・テストを行なって材料の特性劣化をチェックしていくよう計画している。
 燃料棒については、軽水炉の設計基準に準拠することで十分であり、開発の重点はアセンブリ関係にあると考えられる。アセンブリングの開発については、構造上の強さ、振動特性、フレツテング腐食、熱・水力学的な問題および照射とフレツテングとの相互作用が重点となる。これらのうち機械的あるいは熱的な問題は、大型熱ループおよびコンポーネント・テスト・ループで実寸模擬燃料集合体について行なう試験などにより、燃料製作開始前に必要なデータの確認を行なうよう計画している。照射とフレツテングとの相互作用については、ハルデンおよびJMTRにおいて重点的に試験を進め、その結果を燃料設計に反映する計画となっている。
 実用炉に装荷される燃料は、その完全性が実証され、かつ十分な品質管理のもとに製造されていることが必須の条件であるが、完全性に関する統計的に有意なデータは、原型炉の運転実績にまたざるを得ないと考えられ、ATRの開発においても、原型炉における使用実績のフィード・バック、製造経験の積み重ねなどによる品質管理の確立などにより、はじめて完全性が確保されると考えるべきで、原型炉の初期装荷燃料が現在商用化されている軽水炉の燃料と同程度の完全性を期待することは無理であるが、当面検査設備の整備と検査方法の確立を図るとともに、材料強度その他の特性についての統計的バラツキを明確にし、設計に反映させることとしている。
 燃料交換装置については、その製作設計前に第二次概念設計に基づく実規模の試作を行ない、その機能の確認を行なうこととしている。
 以上は、原型炉に関する技術的問題およびこれらについての動燃事業団の研究開発の概要であるが、これらの技術は、部分的には英国およびカナダにおいてすでに実施ないし計画中のものもあり、動燃事業団の試作開発、研究施設による試験研究などにより、その技術的解決の見通しにおいて大きな困難が予想されるものはないと思われる。
 原型炉の燃料集合体などの炉内での挙動については、完全性に関する統計的に有意なデータは原型炉の運転に期待せざるを得ないと考えられるが、事前の炉外試験および照射試験によりできるだけその完全性を高めることが重要なので、その開発を進めるにあたって、この点にとくに留意することが望ましい。

(3)開発スケジュール
 開発スケジュールについては研究開発との関連も含め、技術的に著しい無理はないと認められるが、今後の計画の遂行にあたっては、動燃事業団およびその業務を受託する機関におけるマンパワーの問題がある。現在、各機関の予想される業務分担において、それぞれ所要の態勢が準備されているが、今後とも動力炉開発を円滑に進めるため技術者の確保には一層の努力を要すると思われる。


3.3 ATR実用炉の技術的見通し

 ATR原型炉は、わが国で初めての経験でもあり、とくに安全に留意するとともに確実な運転をねらって若干保守的な設計となっており、軽水炉と同程度以上の経済性を有する実用炉の開発のためには、表3-5に例示するような設計の合理化が必要である。すなわちATRを実用化するためには、重水ダンプ代替システムの開発、カランドリア管・圧力管などの肉厚の減少、ピーキング係数の減少、冷却系のループ数の削減、燃料棒有効長の増加、燃料棒間隙および被覆管肉厚の減少などを図ることが必要である。
 これらは技術的見地から飛躍的なものではなく、海外においてもすでに採用されようとしているものもあり、今後行なわれる重水臨界実験装置、大型熱ループ、コンポーネント・テスト・ループなどによる試験および安全性実験、その他実用炉につながる研究開発および原型炉の運転実績などによって実現可能であると考えられる。


3.4 天然ウラン専焼炉について

 長期核燃料サイクル計算結果にも見られるように、FBRの実用化の頃(1980年代後半)からプルトニウムの供給源としての天然ウラン専焼炉の必要性が高まってくると思われる。
 ATRの将来の開発目標である天然ウラン専焼炉については、当面正のボイド係数の問題があるが、PuSS炉の開発により重水炉の技術が一応確立された段階において、これを基礎として制御系、安全防護設備などの開発を行なうとともに、PuSS炉においても性能向上の面より考慮されている炉心内軽水量の減少(燃料棒間隙の縮少など)、炉心出口蒸気重量比の上昇にかかわる開発などを進めることにより、その必要とする時期までに技術的には実用化できる可能性があるものと考える。

 第3-1表 ATR原型炉プラント主要仕様

定格電気出力(発電端) 165MWe
目標最大電気出力(発電端) 200MWe
原子炉定格熱出力 532MWt
原子炉目標最大熱出力 630MWt
発電端熱効率(165MWe時) 31%

1.原子炉設備

(1)原子炉本体

(イ) 炉形式 重水減速沸騰軽水冷却型
(ロ) 燃料
濃縮度 1.5w/o U235
装荷量(U) 36.3t
ペレット外径 14.80mm
燃料被覆管材質 ジルカロイ-2
燃料有効長 3,700mm
燃料棒本数 28本(燃料集合体当り)
燃料集合体数 224本(予備含まず)
平均燃焼度(U) 約22,700MWD/tU
   〃   (Pu) 約11,100MWD/tU
(ハ) 炉心
有効直径 4,060mm(圧力管ピッチ240mm)
有効高さ 3,700mm
圧力管材質 ジルコニウム-ニオブ合金(2.5%)
圧力管内径 117.8mm
圧力管厚さ 4.30mm
カランドリア管材質 ジルカロイ-2
(ニ) 制御棒およびブースター
制御棒材質 不銹鋳鋼およびボロン・カーバイド
本数
調整棒 5本
シム安全棒 48本
ブースター材質 濃縮ウランおよびアルミニウム
ブースター本数 16本

(2)原子炉冷却系設備

運転圧力 69kg/cm2g
運転温度 284.5℃
ループ数 4
再循環流量 9.2×106kg/h
蒸気流量
(ドラム1基あたり最大)
268,900kg/h

(3)原子炉補助系設備
   (イ)重水系統
   (ロ)ヘリウム系統

(4)工学的安全防護設備
   (イ)高圧注入系
   (ロ)急速注入系
   (ハ)低圧注入系
   (ニ)格納容器ポンプ再循環系
   (ホ)隔離冷却系
   (ヘ)余熱除去系

(5)原子炉格納施設
   格納容器形状 上下部半だ円形鏡円筒形
   格納容器材質 炭素鋼
   概略寸法 (H×64m×36mφD)

(6)放射性廃棄物処理設備
   (イ)気体廃棄物処理系統
   (ロ)液体廃棄物系統

(7)燃料取扱貯蔵設備
   (イ)燃料交換装置
   (ロ)燃料貯蔵設備
     (ⅰ)燃料移送機
     (ⅱ)燃料貯蔵プール


2.タービン発電機設備

(1)蒸気タービン
    定格出力    165MWe
    最大可能出力 200MWe

(2)発電機
    容量 223MVA


第3-2表 新型転換炉原型炉建設工程法





第3表-3 研究開発の概要



第3-4表 開発事項とスケジュールの関係













第3-5表 ATR実用炉の技術的見通し






§4 経済性


 ATRの経済性については、わが国で現在原子力発電の主流を占めている軽水炉と比較した場合の発電原価の見通しおよび各種変動要因が発電原価に及ぼす影響について検討を行ない、また、ATRのもつ経済的特徴について審議を行なった。

4.1 発電原価の見通し

 ATR実用炉の経済性については、わが国において現在実用規模で開発されている軽水炉との比較において評価することとし、動燃事業団の提出した「新型転換炉実用炉の経済性評価」その他の資料について検討した。

(1)発電原価試算の概要
 上記「新型転換炉実用炉の経済性評価」における発電原価の試算の概要は、次のとおりである。
(ⅰ)規模
 発電原価の試算は、500MWeの発電所について行なった。

(ⅱ)建設費

(イ)軽水炉の建設費
  軽水炉の建設費については、昭和41年日本原子力産業会議開発計画委員会(以下「吉村部会」という。)で試算した軽水炉建設費を参考とし、最近の米国およびわが国における建設費とくに機械代の上昇傾向を勘案して、吉村部会の値の120%と見込み、364.5億円(72,900円/kW)とした。(同部会においては機械装置等に約10%の巾をもたせているが、本試算においてはこの中央値を建設費の代表値として採用した。)

(ロ)ATR実用炉の建設費
  ATR実用炉の建設費については、次に述べる差額法と積算法の二方法により試算した
  (表4-1参照)。


(a)差額法
  ATRと軽水炉との相違する設備について、その価格を推定し、軽水炉建設費との差額を求めてATR実用炉の建設費を415億円と試算した。
  差額法でATRと軽水炉において、差違のあるものとしてとりあげた主要なものは、ATRについてはカランドリア・タンク(鉄水遮蔽含む。)、カランドリア管、圧力管、原子炉冷却系設備、燃料交換設備、原子炉補助系設備および重水であり、軽水炉については圧力容器と機械設備に対する技術料である。

(b)積算法
 英国のSGHWR実用炉の設計、建設費に関する公表資料等を参考として、これとATR実用炉との差異を考慮してその建設費を試算した結果、384億円となった。

(ⅲ)発電原価
 発電原価(燃料費を含む。)の計算は、吉村部会方式によった。
 ATRについては、その燃料選択上の特質を考慮し、PuSS方式の場合について発電原価を試算するとともに、プルトニウムを約0.8%富化した天然ウランを使用する場合および1.5%微濃縮ウランを使用する場合についても燃料サイクル費の試算を行ない、それぞれ発電原価を算出した。
  建設費以外の主な諸元は、下記のとおり(詳細は、表4-2参照)で、軽水炉については最近の技術進歩その他の情勢変化を折り込み、最新のBWRベースの技術水準にあるものとし、ATRについても§3に述べたような実現可能とみられる技術進歩を想定した。
 なお、燃料費については、濃縮ウラン、プルトニウムともに現行のUSAEC価格を採用したが、各種の不確定要素を考慮して軽水炉、ATRのいづれの場合にも積算値にその25%を加算することとした。また、燃料の成型加工費は、軽水炉については実勢価格として$100/kgUとし、ATRについては軽水炉燃料との仕様上の差異からプルトニウムの取り扱い上のむずかしさを考慮してウランの場合の20%増とし、一方、燃料棒が太くなることから20%減として求められる$96/kgU-Puと、最近の各種情報より実現できる見込みがある思われる$48/kgU-Puの2ケースについて計算した。
 上記による発電原価の試験結果は、次のとおりである。
(表4-3、表4-4、表4-5、図4-1参照)


 なお、ATRで1.5%微濃縮ウランを使用する場合は、PuSSの場合に比し、kWh当たり約10銭(燃料加工費が$96/kgU-Puの場合は、約20銭)発電原価が安くなる。

(2)発電原価の見通し
 以上の動燃事業団の行なった発電原価の試算により、軽水炉との比較におけるATR実用炉の発電原価の見通しについて考察した結果は、次のとおりである。

(ⅰ)計算条件について
 (イ)出力規模
 発電原価の試算において、比較の対象として500MWeを採用したことは、現時点においてATRについてのデータが500MWe級に多く、またATR軽水炉のスケール・メリットに明らかな差があるとは認めがたいことを勘案すれば妥当と考えられる。

 (ロ)建設費
 軽水炉の建設費は、最近の米国およびわが国における動向をみると、3~4年以前の見通しに比し、若干高くなっており、500MWe級の発電所の建設費について$200/kWe程度と推定して発電原価試算の基礎とすることは妥当と考えられる。一方ATR実用炉については、市場価格および建設実績がなく、軽水炉と同様の算定が困難であるので当面考えうる差額法および積算法によって建設費の想定を行なったが、独立して行なったこれら2方法による建設費の差が約9%程度であることを考慮すれば、これらの建設費の想定は妥当であろう。

 (ハ)技術進歩
 ATRおよび軽水炉については、線出力密度上昇を図る炉心設計の改良その他設備の改良、合理化、工事技術の改善などの技術進歩が予想される。軽水炉の主たる技術進歩と考えられる線出力密度の上昇については、ATRも享受できるものであり、またATRはまだ発展段階にあるので、設計、工作法その他について合理化の余地が大きいと考えられる。また、ATRと軽水炉の設備の相違する部分で、いずれかに仮に大きな技術的進歩があったとしても、その部分は建設費の十数%程度であるので、全建設費に影響する度合は少ない。これらのことを考慮すれば、経済性の評価において、軽水炉について最新の技術レベルを、ATRについて当面想定される実用炉の技術レベルをとって発電原価を比較したことは、さしつかえないものといえる。

 (ニ)燃料成型加工費
 BWR燃料の成型加工費は、現在約$100/kgUであるが、ATR燃料の成型加工費は、最近の情報によれば、英国SGHWRの$46~50/kgU、カナダAECLの約$30/kgU、動燃事業団の委託した米国コンサルタントの$37/kgU-Puなどであり、ATR燃料について試算に採用した$48/kgU-Puは実現できる可能性があるものと考えられる。しかし、このことは、技術的に大きな差のない軽水炉用燃料成型加工費についても将来ある程度の低減が期待できることを示唆するものと見るべきであろう。なおこの軽水炉の燃料成型加工費が、発電原価に及ぼす影響は表4-5に示すように$10/kgU当たり2.5銭/kWhである。

 (ホ)重水価格
 米国における重水の現行価格は、$28.5/1bであるが、各種情報によれば今後のすう勢として重水価格は相当に低減し、$15~20/1b程度になるものと予想されている。したがって、試算において重水価格を$15~20/1bとしたことは妥当と考えられる。

(ⅱ)ATR発電原価について
 上記の発電原価の試算結果および試算条件についての考察により、ATR実用炉の発電原価は、軽水炉のそれに比し同等ないしそれ以下となしうる見通しがある。
 すなわち、ATRの発電原価はPuSSの場合は軽水炉と同等ないしそれ以下となしうる見通しがある。またプルトニウムの富化率を高めることによりその経済性は向上し、1.5%(U2350.71%、Pu0.8%)の場合には、PuSSの場合に比し、燃料サイクル・コストは8銭/kWh(成型加工費$48/kgU-Puの場合)ないし16銭/kWh(成型加工費$96/kgU-Puの場合)低減する。なお、1.5%微濃縮ウランを使用する場合は、PuSSの場合に比し、10銭/kWhないし、20銭/kWh安くなる。これらは、いずれも濃縮ウランおよびプルトニウムについてUSAECの現行の価格体系をベースとするものであるが、将来プルトニウムが相当量蓄積し、その価格が低下する場合には、さらにその発電原価は相当低減することが期待できる。
 なお、米国においてHWOCRの評価にあたって行なった各種炉型の発電原価の試算においても、わが国のATRと同じ炉型が軽水炉と同程度以下の発電原価を実現すると評価している。


4.2 ATRの経済上の特徴

(1)核燃料価格の変動に対する適応性
 ATRは、同一炉心格子でプルトニウム富化天然ウランと濃縮ウランが使用可能であり、したがって、その使用時における核燃料の価格動向に対応して発電原価が最も廉価となる核燃料を選択できるので、運転期間を通じて核燃料の価格変動にも対応しうる余地がある。
 ウラン精鉱代およびウラン濃縮サービス料の変動が発電原価に及ばす影響は、試算結果によれば、ATRは軽水炉に比し核燃料の価格変動による影響を受ける度合いが少なく、とくにこれらについて上昇が懸念される場合には有利である。


(2)輸出への期待
 ATRは1.3で述べたように、燃料の選択に大きい自由度を有し、相手国側の核燃料政策あるいは核燃料の需給などに対応しうるので、輸出に対する適応性が大きい。

(3)外貨節減
 わが国の将来の原子力発電体系として予想される(イ)軽水炉と高速炉との組み合わせのみの場合と、(ロ)これにATRを投入した場合を比較すると、(ロ)の場合には天然ウラン精鉱代、ウラン濃縮サービス料、導入炉におけるローヤリティなどについて所要外貨の節減が期待できる。

 核燃料にかかわる所要外貨節減額(2000年までの累積額)


(4)プルトニウム蓄積量の減少
 プルトニウム富化天然ウラン燃料を採用すれば、FBRの実用化が本格的になる1980年代末頃に至る間で、軽水炉のみの場合に比しプルトニウム蓄積量が減少し、金利負担が低減する。
 なお、プルトニウムの蓄積による負担を軽減するためにプルトニウムを軽水炉で使用することも考えられているが、ATRが実用化されれば、定性的にはプルトニウムを軽水炉で使用するよりもATRで使用する方が有利である。

(5)軽水炉の競争相手としての効果
 わが国の将来の炉型構成において、軽水炉のみの場合に比し、ATRを投入することにより軽水炉にかかわるウラン濃縮サービス料、原子炉価格、燃料成型加工費などに競争相手としての効果が期待できる。

(6)電力供給設備としての軽水炉との比較
 ATRは、軽水炉に比して建設単価が若干高く(約105~114%)運転費が安い等の傾向があるが、建設工期および保守運転についてはとくに大きな差は認められず電力系統に投入した場合、総合的にみて差はないとみられる。

(7)低廉な重水の確保
 ATRは多量の重水インベントリーを必要とするので、ATRを大量に投入する場合、長期にわたる低廉な重水の確保のための対策が必要となる。
 以上のとおり、ATRは、軽水炉に比して重水確保の必要はあるが、核燃料の特性からいくつかの有利な経済的特質を有することが認められる。


第4-1表 ATR、軽水炉建設費内約(500MWe)


第4-2表 燃料費計算諸元


第4-3表 ATR、軽水炉発電原価比較 (500MWe)



第4-4表 ATR、軽水炉燃料費比較(500MWe)


第4-5表 各種要因による発電原価の変動幅(500MWe)




図4-1 プルトニウム濃縮と燃料サイクル費



§5 ATRの自主技術による開発の意義および効果

 ATRの自主技術による開発の意義および効果については、ATRの自主開発の必要性に関連する最近の内外の情勢を検討し、技術導入と比較した場合の外貨節減の効果、自主開発による技術的波及効果およびATR開発の費用と効果の関係について検討した。

5.1 自主開発の意義

 ATRを自主開発することの意義としては、原子力委員会の基本方針(「動力炉開発の基本方針について」昭和41年5月内定)および動力炉開発懇談会の審議過程において、

(ⅰ)国内における核燃料サイクルの確立る図る上に有効な炉型を選定できること。

(ⅱ)関連技術分野への波及効果の大きいことから、わが国の産業基盤の強化および科学技術水準の向上に資するところが大きいこと。

(ⅲ)動力炉の海外技術への依存状態より脱却できること。

(ⅳ)産業の重工業化への誘導も可能であること。

(ⅴ)わが国の技術水準からみて輸出産業にまで発展しうること。

などがあげられている。
 かかる意義について、最近の国内外の核燃料需給バランスの見通しおよび長期核燃料サイクルの試算結果ならびに波及効果の調査結果などにより検討を行なった結果、(ⅰ)の核燃料サイクルに関する意義については、§1において述べたように、高速増殖炉の実用化前および実用化後においても寄せられる期待は依然として大きなものがある。
 (ⅱ)および(ⅲ)の意義に関しては、ATRプロジェクトは軽水炉の技術と経験を活用し、かつ海外技術を有効に吸収する方針のもとに研究開発が進められているので、次節の波及効果の調査結果にも示されるように、ベースとなっている軽水炉技術の国産化およびその信頼性、安全性の確認の面に加速的な役割を果しうるものと考えられる。
 (ⅳ)の産業構造に関する意義については、ここ数年来質的変化があったことが認識されている。すなわち、わが国の産業構造は、研究開発集約産業中心の構造への発展途上にあり、研究開発要素の多い分野に投資を行なうことの必要性が高まっているといわれている。ATRプロジェクトの研究開発産業としての位置づけを定量的に行なうことは困難であるが、定性的にはこの要請に沿うものであると考えられる。
 (ⅴ)の輸出に関する意義については、§4の「ATRの経済上の特徴」の項に述べたように、ATRは、燃料の選択に大きな自由度を有し、輸出相手国側の核燃料政策などに対応しうるという利点を有するほか、自主開発の結果、ノウハウの蓄積などにより設計面、製作面での弾力性があるので、輸出に対する適応性は大きいと考えられる。この場合、海外の新型転換炉の開発動向をも勘案してATRは極力早期に開発されることが必要である。

5.2 自主開発の効果

 ATRを自主開発することの効果について、(ⅰ)技術導入と比較した場合の直接的メリットの検討、(ⅱ)自主開発に伴う波及効果の調査を行なった。
 (ⅰ)については、ATRを自主開発する場合と導入炉のみに依存する場合との差として外貨の節減額を試算したが、その額はとくに評価する程のものではなく、むしろ自主開発によって蓄積される技術開発能力およびその結果としての外貨に対するカウンター・ベイリング・パワーならびにクロスライセンスに関するメリットが大きいと判断される。
 (ⅱ)については、ATRの開発に伴う軽水炉(高速炉以外の炉型を含む。)技術、高速増殖炉技術、その他の技術部門に対する技術的波及効果を調査するために、製造業者、電気事業者、大学、研究機関などを対象にしてアンケートを行ない、その結果について考案した。その結果は、表5-1および表5-2のとおりで、その概要は次のとおりである。

(イ)ATRは軽水炉などの従来の原子力技術を基礎として進められているが、ATR開発における大規模な実験および試作開発が全般的に軽水炉技術へフィード・バックし、波及効果が大きい。

(ロ)高速炉に対しては、軽水炉に比し技術の類似性は少ないが、主として開発の手法のほか、燃料交換装置などの開発の面に効果が期待されている。

(ハ)一般的部門への波及は、ATRが早期開発をねらいとするもので限界技術の開発的要素は少ないが、わが国初めての大型技術開発プロジェクトであり、その管理技法が今後の大型プロジェクトの効率的遂行に大きい効果が期待されているほか、材料、工作法などの基礎技術の改良が促進されること、原子力以外のプラントの性能が向上されることおよび宇宙開発、海洋開発などこれからの技術に貢献するところが少なくない。


第5-1表 新型転換炉開発に伴う波及効果調査結果のとりまとめ






 



第5-2表 新型転換炉開発に伴う波及効果に関するアンケートの評価集計と主な波及効果



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