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関西電力株式会社高浜発電所の
原子炉設置に係る安全性について




昭和44年11月24日
原子炉安全専門審査会

原子力委員会委員長
 木内 四郎 殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄

関西電力株式会社高浜発電所の原子炉設置に係る安全性について


 昭和44年5月26日付け44原委第158号(昭和44年10月16日付け44原委第387号をもって一部訂正)をもって審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。


Ⅰ 審査結果


 関西電力株式会社が商業発電を目的として、福井県高浜町に設置しようとする低濃縮ウラン、軽水減速、軽水冷却、加圧水型原子炉に関し、同社が提出した「高浜発電所の原子炉設置許可申請書」(昭和44年5月24日付け申請および昭和44年10月16日付け一部訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉の設置に係る安全性は十分確保し得るものと認める。



Ⅱ 審査内容


1 設置計画の概要

 本発電所の立地条件および施設の概要は、次のとおりである。

1.1 立地条件

(1) 敷地および周辺環境
 発電所の敷地は、若狭湾内にあって内浦湾を形成する音海半島の根元にあり、東は若狭湾に直接面し、西は内浦湾に面している。南北は山に狭まれ、中央は平地となっている。敷地はほとんど山林で人家はない。
 敷地全体の面積は、約2,500,000m2である。
 原子炉は敷地北部の山麓に設置する。原子炉施設の中心から敷地境界までの最短直線距離は約800mである。また、敷地内には、原子炉施設の北側に一般道路のトンネルがあり、原子炉施設中心から、トンネルの出入口までの最短距離は、約200mである。
 音海半島の大部分は山地であるため、海岸沿いに若干の部落があるだけで人口密度は稀薄である。
 敷地周辺には、南約1.3kmに小黒飯、西約1.3kmに神野浦、西南西約1.4kmに神野、北約1.8kmに音海の部落があり、人口は1km以内で0人、5km以内で約5,100人、10km以内で約20,000人、15km以内で約75,500人である。

(2) 地質
 敷地の地質は変質安山岩、石英粗面岩質疑灰岩、角礫質粘板岩である。石英粗面岩質凝灰岩は、角礫質粘板岩の上に不整合に分布し、境界は密着している。その岩質は、中硬質で節理の発達は少ない。原子炉の基礎は、十分耐力を有する石英粗面岩質凝灰岩上に置くことにしている。

(3) 海象
 内浦湾内は四季を通じて静穏であり、潮の干満の差は少ない。敷地では過去において津波等の高潮による被害を受けた例はない。

(4) 気象
 敷地および周辺の風については、舞鶴海洋気象台の過去の記録によれば全年を通じて北および南東寄りの風が卓越する。敷地内および周辺の1年間の観測結果によれば、中秋から春先にかけては西寄りの風が、その他の季節においては北寄りの風が卓越し、敦賀測侯所の過去の風何分布とよく一致する。
 年間の平均風速は約2.5m/secであり、静穏(0.4m/sec以下の風速)の出現頻度は約4%(超音波風速計による)である。大気の安定状態(英国気象局法によるE.F.G型)の出現頻度は、年間約18%であり、このときの風向出現頻度は北西が多くなっている。逆転層は、年間を通じて約40%発生しているが、その大部分は100m以下である。

(5) 地震
 過去の記録によると、福井県近辺では被害を及ぼすような大きい地震がたびたび起っているが、高浜附近での被害はほとんどなかった。このうちで同地区に僅かながら被害をもたらした北丹後地震のときでも、敷地附近の被害はほとんどない。敷地附近は地盤条件がよく、今後この地方に大きい地震がおこっても、敷地附近の震度は比較的小さいものと推定される。

(6) 水利
 淡水源としては、敷地から4~5kmの地点を流れる関屋川およびその流域の地下水があり水量は豊富である。この地点に貯水槽を設け、敷地内の原水タンクへ送水される。復水器冷却用水は若狭湾から取水し、内浦湾へ排水される。


1.2 原子炉施設
 本発電所の原子炉は、熱出力約2,440MW(電気出力約826MW)の加圧水型である。
 炉心部は、円筒型鋼製圧力容器に収められ、燃料としては、低濃縮二酸化ウランペレットをジルカロイ-4被覆管に詰めた有効長約3.7mの燃料要素を集合体に組みたてたものが使用される。この装荷量は、ウラン量約71トンである。
 制御棒はボロンカーバイトをステンレス鋼被覆管に収めたもので、その20本をクラスタ状にして燃料集合体の中に挿入する。作動に際しては、原子炉の上から磁気ジャック式駆動装置により駆動され、緊急時には自然落下させる。出力分布調整用制御棒は、ローラ・ナット式駆動装置により駆動され、緊急時にも落下しない。
 さらに、ほう素濃度を調整して、反応度制御を行なう化学、体積制御設備が設けられる。なお、この設備は、非常用制御設備としての役目を果たすようになっている。
 バーナブル・ポイズンは、ほうけい酸ガラス管をステンレス綱で被覆し、クラスタ状に成型され炉心内の制御棒クラスタの入っていない燃料集合体の制御棒案内シンブルに挿入される。
 冷却系としては、原子炉から蒸気発生器への1次系3回路およびタービンへの2次系1回路が設けられる。
 原子炉格納施設としては、原子炉本体および1次冷却系を収容する鋼製格納容器が設けられるほか、その外周にコンクリート壁が設けられ、これらの間の下半部を二重格納構造のアニュラス部としている。
 そのほか、原子炉施設として必要な放射性廃棄物処理施設、放射線管理施設等が設けられる。


2 安全設計および安全対策

 本原子炉は、以下のような種々の安全設計および安全対策が構じられることになっており、十分な安全性を有するものであると認める。

2.1 核、熱設計および動特性
 加圧水型の原子炉は、我が国においても2基が建設中であり、諸外国においては、すでにいくつか建設され、運転経験も得られている。実証的な資料および解析結果から、核、熱設計および動特性についての計画値は、信頼し得るものと考える。
 本原子炉は、減速材温度係数は、制御棒だけで制御する原子炉にくらべて負の絶対値は小さくなるが、燃料のドップラ効果に基づく負の反応度出力係数を持つので、早い過渡現象の反応度外乱に対して自己制御性が高い。また、本原子炉は、バーナブル・ポイズンを採用しており、炉心寿命の初期においても運転温度における減速材温度係数は負となり、安全制御上の問題はない。
 炉内でのXeによる出力分布の空間振動の可能性は予測されるが、解析の結果、振動は発散性でなく、また周期も長いので、出力分布調整用制御棒により抑制でき、十分安全に対処しうる。
 1次冷却材の圧力および温度は、定格出力運転時において、それぞれ約157kg/cm2gおよび約322℃であり、燃料の最高被履温度および最高中心温度は、それぞれ約347℃および約2360℃で、このときの最小限界熱流束比(DNB比)は約1.86である。仮に設計退出力(112%)の場合でも、燃料の最高中心温度は約2,570℃で、溶融点よりかなり低く保たれ、DNB比は1.3以上である。

2.2 燃料
 本原子炉の燃料としては、ジルカロイ-4被覆管に二酸化ウランペレットを封入した燃料要素を制御棒案内管および計測管とともに15×15に組み立てた無側板型の集合体が使用される。燃料要素は支持格子によって横方向に支持され、軸方向には自由に膨脹を許し、変形および振動を防止するような設計となっている。
 被覆管には、表面温度がかなり高いこと、冷却水中に水素が多くなることを考え、水素吸収率の小さいジルカロイ-4が使用される。その肉厚は、燃料の使用寿命中の腐食に対し妥当と考えられ、管内の自由体積も、燃料集合体の最高燃焼度約48,000MWD/Tに応じ得るように配慮されている。
 しかし、線出力密度および燃料中心温度がかなり大きいので類似の先行原子炉に於ける使用実績を参考とするとともに使用中の破損燃料の検出も十分配慮することになっている。

2.3 計測および制御系

(1) 核計測系
 中性子束は、圧力容器外周に設置された検出装置により測定され、また、炉内に置かれた可動小型中性子束検出器により、必要に応じて中性子束分布が測定される。

(2) 安全保護系
 安全保護系は、多重チャンネル構成で中性子束、原子炉圧力等重要な測定に対して、“2 out of 3”方式などの論理回路を形成して信頼度を高め、さらに、電源喪失、回路の断線等に対してフェイルセイフの機能をもたせて、安全性を高めるよう配慮されている。

(3) 反応度制御系
① 反応度制御の方法
 反応度制御系は、制御棒クラスタおよび化学・体積制御設備よりなる。前者はその位置調整により、原子炉の出力変化および高温停止に必要な反応度制御を行なうとともに、スクラム操作にも使用される。後者は、1次冷却材中のほう素濃度調整により、燃料の燃焼核分裂生成物の毒作用による比較的緩慢な反応度変化に対する補償と低温停止時における余剰反応度の吸収に使用されるほか、非常用制御設備の機能も有する。
 初装荷炉心の実効余剰増倍率は0.207(ΔK)以下で、最も反応度効果の大きい制御棒クラスタ1本が炉心に挿入できない場合でも、制御系の反応度抑制効果は、実効増倍率の変化にして0.22(ΔK)以上であり、常に炉心の実効増倍率を0.99ΔK以下に抑えるだけの停止余裕があるよう設計される。
 さらに、運転中常に必要停止余裕を確保するため、制御棒クラスタが挿入位置交界値に近づいたとき、停止余裕監視装置により、警報を発するよう設計される。

② 制御棒クラスタ
 制御棒クラスタの位置調整は、磁気ジャッキ式駆動装置により上方から駆動されるが、スクラム動作は、制御棒クラスタが自重で炉心内に落下することにより行なわれる。

③ 化学、体積制御設備
 ほう素濃度調整は、化学、体積制御設備により、1次冷却材の注入、抽出およびイオン交換によって行なうが、いずれの場合も、濃度の変化に基づく原子炉の反応度変化は緩慢で、原子炉の運転制御に支障を与えることはない。
(4) 出力制御系
 原子炉の出力は、蒸気発生器入口および出口における1次冷却材温度の中均値が負荷に応じた値をとるように制御棒クラスタの位置を調整することにより自動制御される。

(5) 1次冷却材圧力制御系
 1次冷却材の圧力制御は加圧器によって行なわれ、加圧器は±5%/分のランプ状、±10%のステップ状負荷変化に対しても1次冷却材圧力を許容範囲内に制御する機能を有する。また、加圧器上部には、安全弁および逃し弁を設けて1次冷却系に発生する異常圧力上昇を制限する。

(6) 中央制御室
 中央制御室には、原子炉施設の運転に重要なすべての計画制御装置が設備されており、事故時においても運転員が安全に所要の措置をとり得るように、遮蔽、換気等の放射線防護上の配慮がなされている。

2.4 圧力容器および原子炉冷却系

(1) 圧力容器および1次冷却系配管
 圧力容器および配管は、わが国の法令を満足するように設計、製作される。また、材料の疲労および応力集中などについて解析を行ない、これらに十分耐えることを確認することになっている。
 さらに、圧力容器は、圧力を受けている間容器の温度をNDT+33℃以上に保つようになっている。なお、中性子照射によるNDT値の上昇については、圧力容器内に照射試料を挿入し、定期的に監視することになっている。

(2) 安全注入設備等
 安全注入設備は、高圧注入、蓄圧注入および低圧注入の三つの系統からなり、1次冷却材喪失事故時にほう酸水を圧力容器に注入し、燃料温度の過度の上昇を防止して、燃料の損傷、溶融、燃料被覆管のジルコニウム水反応を防止する機能を有する。ポンプおよび配管は多量性を持たせた設計とし、ポンプの電力は非常用電源から供給される。
 また、余熱除去設備により原子炉停止後の崩壊熱除去を行なうほか、2次冷却系には蒸気ダンプ設備を設けている。

2.5 燃料取扱系
 燃料取替は、原子炉上部のキャビティにほう酸水を水張りし、水中で燃料取扱設備を用いて行なわれる。燃料取替中は、仮りに制御棒クラスタが全部取り出されたとしても、原子炉を末臨界に保てるようほう素濃度が調整される。
 使用済燃料貯蔵水槽は、原子炉補助建家内に設けられ、4/3炉心相当以上の貯蔵容量を有し、使用済燃料を鉛直に保持して水中貯蔵するようになっている。

2.6 廃棄物処理設備

(1) 気体廃棄物
 本原子炉から発生する気体廃棄物の大部分は、1次冷却材中のほう素濃度を変更する際の排水とともに出てくるもので、ガス減衰タンク4基およびフィルタを通し、放射能レベルの連続測定後、原子炉格納容器端の高さ約85mの排気筒から放出される。

(2) 液体廃棄物
 液体廃棄物は、液体廃棄物処理施設で処理されるが、汚染された廃水は、ごく低レベルのものを除き、放出されない。
 ごく低レベルのものは、復水器冷却水で希釈して放出される。その濃度は、わが国の法令に定める許容値以下にすることとしている。

(3) 固体廃棄物
 使用済樹脂、蒸発濃縮器廃液等は、放射能を減衰させたのち、ドラム罐詰めにして一時貯蔵保管される。なお、これらを海洋投棄する場合は、関係官庁の承認を受けることとしている。

2.7 放射線管理

(1) 放射線遮蔽等
 遮蔽については、従業員の作業を考慮して、その被ばく線量が法規に規定された許容値を十分下まわるように設計される。
 換気系は、主要な場所ごとに別系統となっており、事故時における放射能汚染の拡大防止等についても十分配慮されることになっている。

(2) 放射線監視
 発電所敷地内における放射線監視は、固定モニタによる中央制御室での連続監視、移動モニタによる定期監視、サンプリング測定等によって行なわれる。また、個人の被ばく管理に必要な機器も備えられる。
 敷地外の放射線監視については、敷地境界付近および周辺の適当な場所に設置したモニタリングポストでの空間線量等の測定および排水モニタによる連続監視が行なわれ、さらに、放射線観測事も備えられる。これらにより、周辺一般公衆の被ばく線量が法令に定める許容値を越えないことを常に確認することになっている。

2.8 放射性物質の放出防止
 事故時においても周辺環境に大量の放射性物質が放散されないように、次のような配慮がなされている。

(1) 原子炉格納施設
 原子炉格納施設は、鋼製格納容器およびその外周コンクリート壁からなり、両者の間は密閉格納構造のアニュラス部を構成し、原子炉施設の主要部分は、この原子炉格納容器内に収容される。また、格納容器を貫通する配管および配線はアニュラス部に集められる。

(2) アニュラス空気再循環設備
 アニュラス空気再循環設備は、フィルタ装置および排風機からなり、この設備により原子炉格納容器内に放射物質が放出されるような事故時には、アニュラス部の空気をフィルタで濾過し循環するとともにアニュラス部を負圧にする。負圧にするための排気は、排気筒から放出される。

(3) 隔離弁
 原子炉格納容器を貫通する重要な配管には隔離弁を設け、事故時に放射性物質が外部に漏浅しないよう設計されている。

(4) 原子炉格納容器スプレイ設備
 原子炉格納容器内部にはスプレイ設備を設け、1次冷却材喪失事故時に、原子炉格納容器内圧の減少をはかるとともに、浮遊する核分裂生成物(とくによう素)の除去を行なうようになっている。

2.9 安全防護設備の機能確保

(1) 非常用電源
 本原子炉施設に必要な電力は、主発電機または、275KV、母線から供給されたが、予備電源として77KV送電線からも受電できる。これらの電源がすべて喪失しても、原子炉施設の安全確保に必要な電力は、ディーゼル発電機および所内蓄電池系から供給できるようになっている。

(2) 保守点検
 原子炉安全保護回路、安全注入設備、原子炉格納容器スプレイ設備および原子炉格納容器の気密を保持するに必要な隔離弁等は、原子炉施設の耐用期間を通じて、その機能を確認するため、運転中あるいは停止中に点検または試験ができるようになっている。また、原子炉格納容器の漏洩率は定期的に測定されることになっており、かつ、配管配線貫通部は、漏洩検出のための試験ができるようになっている。

2.10 耐震上の考慮
 原子炉施設は、原則として剛構造とし、重要な建物、構造物は直接岩盤に支持される。すべての施設は、安全上の重要度に従って、A、BおよびCの3種のクラスに分類され、それに応じて耐震設計が行なわれる。
 原子炉・原子炉格納施設等のように、その機能喪失が原子炉事故をひきおこすおそれのある施設および周辺公衆の災害を防止するために緊要な施設は、Aクラスとする。
 Aクラスの建物、構造物の耐震設計は、基盤における最大加速度が少なくとも270ガルの地震波により動的解析を行なって求められる水平震度ならびに建築基準法に示された水平震度(この場合地域による低減は行なわない)の3倍を下回らない値によって行なわれる。
 垂直震度は、建物、構築物の高さ方向に一定とし、それらの基礎底面における水中震度の1/2を下回わらない値とする。
 この場合、水平および垂直方向の地震力は、同時に作用するものとする。Aクラスの機器、配管類については、運転時の応力と地震力による応力を加え合わせた場合について、応力集中および材料の弾、そ性挙動等を考慮した解析により、耐震設計が行なわれる。この場合の水平震度は、前記の地震波に対する動的解析によって求められる値とし、かつ、据付位置における支持構築物に関し、建築基準法に示された水平震度の3.6倍を下まわらない値を用いることにより解析する。垂直震度は、建物、構築物に対する値の1.2倍を下廻らない値とし、水平および垂直方向の地震力は同時に、作用するものとする。また、機器、配管類の振動によって生ずる変位、変形は機能の保持に支障のないものとする。
 さらに、原子炉、格納容器、原子炉停止装置、ほう素制御系等のように安全対策上特に緊要な施設については、Aクラスの扱いのほかに、その機能が保持されることを確認するため基盤における最大加速度が少なくとも360ガルの地震度による動的解析を行なう。特に、原子炉格納容器については、設計用地震時応力と事故時の内圧、温度条件との組合せに対してもその機能を保持することが確認される。
 また、原子炉補助建屋、廃棄物処理系等のように高放射性物質に関する施設はBクラス、その他の施設はCクラスとし、それぞれ建築基準法に定められた震度の1.5倍および1倍の値によって耐震設計が行なわれることになっている。
 なお、地震の際には、原子炉を自動的に停止することができるようになっている。


3 平常運転時の被ばく評価

 平常運転時、おける被ばく評価は、次のとおりであり、敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認める。

3.1 気体廃棄物
 気体廃棄物の放出に当っては、周辺監視区域外における年間被ばく線量が法規に定めた値をこえないようにすることはもちろんのこと、気象条件を考慮して放出管理を十分に行ない、できるだけ被ばく線量を少なくすることにしている。平常運転時の最悪条件として、燃料被覆の破損率を5%と仮定し、このような条件が1年間継続して、ガス減衰タンクで45日間減衰したのち大気中の放出された場合の放射性物質の星を計算すると、希ガスで年間約17,600ciとなる。仮りに、これが同一方向に放散されたとし、年間の気象データ、排気筒の高さと風の吹きおろし効果を考慮して、敷地境界の年間積算量を計算すると、最大値約13mremであり、許容値(500mrem/年)の数十分の一となる。また、敷地内を通る一般道路においても、その値は、同上の条件で約15mremとなる。
 なお、敷地内外における放射線監視設備を設け十分な監視を行なうこととしている。

3.2 液体および固体廃棄物
 安全設計および安全対策の項で述べたように、液体廃棄物および固体廃棄物の廃棄について十分な安全対策を講じることになっている。


4 各種事故の検討

 本発電所の原子炉において発生する可能性のある反応度事故および機械的事故について検討した結果それぞれ次のような対策が講じられており、本原子炉は、十分安全性を確保し得るものであると認める。

4.1 反応度事故

(1) 制御棒クラスタ引抜事故
 運転員の誤操作または機器の誤動作により、最大反応度効果を有する制御棒クラスタ1本を最大速度で連続的に引き抜いても、核的逸走は負の出力係数でおさえられ、かつ、中性子束高スクラムにより原子炉は停止するので、燃料被覆が破損することはない。

(2) ほう素希辞事故
 運転員の誤操作または化学、体積制御系機器の誤動作による炉心内のほう素濃度の減少に基ずく反応度付加率は、制御棒クラスタの連続引抜きによる反応度付加率より小さい。

(3) 制御棒クラスタ落下事故
 運転中に最大反応度効果を有する制御棒クラスタ1本が落下し、中性子束分布に歪みが生じても、制御棒の落下を検出して「自動制御棒引抜き阻止インターロック」で制御棒の引き抜きを阻止し、タービン負荷の自動切下げを行ない安全に原子炉の運転を継続できる。

(4) 制御棒クラスタ逸出事故
 制御棒クラスタ駆動機構の圧力ハウジングが破損し、制御棒クラスタ1本が瞬時に抜け出しても、運転中は制御棒クラスタがほぼ引き抜かれた状態にあるため、それによる反応度付加量は小さく、他の制御棒クラスタにより、原子炉は停止できる。

(5) 燃料取替事故
 燃料取替中、運転員の誤操作もしくは機器の誤動作により燃料集合体が炉心に落下しても、水中のほう素濃度が高いので臨界に達することはない。

4.2 機械的事故

(1) 1次冷却材流量喪失事故
 原子炉運転中、1次冷却材ポンプが機械的故障、電源喪失あるいは、運転員の誤操作により3台同時に停止しても、1次冷却材流量低スクラムまたは1次冷却材ポンプ電源喪失スクラムにより原子炉は停止し、系の慣性により1次冷却材流量は急激に減少しないので、燃料被覆が破損することはない。

(2) 1次冷却喪失事故
 1次冷却系配管が破断し、充てんポンプによる加圧器水位の維持が困難となれは、原子炉圧力の低下により蓄圧タンクが作動し、また、加圧水位低と原子炉圧力低の両信号により高圧および低圧安全注入系が作動するとともに、スクラムにより原子炉は停止し、燃料の過熱をおさえる。
 この事故により燃料被覆の一部が破損しても、燃料から放出される核分裂生成物は、その量は、僅かで原子炉格納容器内に保留され、放射性物質除去薬品が添加された格納容器スプレイにより除去される。希ガス等原子炉格納容器から漏洩したものは、アニュラス空気再循環設備を経て排気筒へ導かれる。

(3) 蒸気発生器細管破損事故
 蒸気発生器の細管破損により、1次冷却材が2次系へ流出すると、蒸気発生器のブローダウン配管と復水器エゼクタの2箇所に設けた放射線モニタより事故を検出し、原子炉を停止するとともに、復水器エゼクタを停止し、かつ、細管が破損している蒸気発生器を2次側蒸気隔離弁により分離することになっている。

(4) 主蒸気管破断事故
 主蒸気管が破断すると、蒸気発生器での熱交換量が急増し、運転時においては原子炉出力が異常に増加するが中性子高スクラム、あるいは1次冷却材可変温度高スクラムにより原子炉は停止する。このときの熱流束は、限界熱流束比の制限値を十分下廻る。
 温態待期時に主蒸気管が破断し、かつ、最大の反応度効果を有する制御棒1本が挿入不能の場合には、原子炉は再臨界に達し、その最大出力は定格出力の約50%になる。このとき、燃料被覆材の約10%がDNBに達し、被覆が損傷する可能性があるが、核分裂生成物が1次系から2次系へ漏えいすることはないので、炉外に放出されることはない。

(5) 燃料取扱事故
 燃料取扱中、使用済燃料が装置の故障で落下し、一部が破損しても、操作はすべて原子炉格納容器内または、原子炉補助建屋内の水中で実施されるので、水中から放出される核分裂生成物の量は僅かであり、さらに換気設備により濾過した後、排気筒から放出される。

(6) 気体排気物処理設備の破損事故
 気体排気物処理設備の配管やタンク等が破損しても、放射性気体は、換気設備により濾過されたのち、排気筒を経て放出される。この場合敷地周辺の公衆に対する被ばく線量は低いので支障がない。

(7) その他の事故
 制御棒クラスタ駆動装置、主要弁類、蒸気発生器2次側給水設備等の故障または誤動作、復水器真空度の低下、電源の喪失等があっても、いずれも十分な対策がなされている。


5 災害評価

 本原子炉は、すでにのべたように、種々の安全対策が講じられることになっており、かつ、各種事故に対しても検討の結果安全を確保し得るものと認めるが、さらに、「原子炉立地審査指針」に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで、解析に用いた仮定は妥当なものであり、その結果は立地指針に十分適合しているものと認める。

5.1 重大事故
 重大事故として、1次冷却材喪失事故および蒸気発生器細管破損事故の二つの場合を想定する。

(1) 1次冷却材喪失事故
 圧力容器に接続している最大口径の配管である1次冷却系配管(内径約70cm)1本が原子炉出口ノズル付近で瞬時に破断し、破断口両端から1次冷却材が放出される事故を想定する。解析の結果では、二酸化ウランの溶融温度に達することはなく、また燃料被覆がジルカロイの溶融温度に達することはない。ただし、一部は被覆管の破損を起こすと予想される温度をこし、さらに、炉心内のジルコニウムの数%は水と反応する。原子炉格納容器内の圧力は、1次冷却材の放出により急上昇するが、原子炉格納容器スプレイ設備により冷却され、設計圧力をこえることなく、事故後約30分以内に内圧はほぼ大気圧近くまで減少する。
 そこで核分裂生成物の放散過程に従って、次の仮定を用いて計算する。
① 燃料ペレットは溶融温度に達することはないが、全部の燃料棒の被覆に破損があったとし、全炉心に内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス2%、よう素1%、固体核分裂生成物0.02%相当分の放出があるものとする。なお、燃料外に放出されたよう素のうち10%は有機よう素であり、また残りの無機よう素の50%は格納容器壁面等に吸着されるものとする。

② 原子炉格納器内に浮遊するよう素は、よう素除去用添加薬品を含むスプレイ水により大部分が除去されるが、その除去効率は無機よう素に対して等価半減期100秒とする。

③ 原子炉格納容器からの漏洩率は事故後24時間まで0.3%日、その後3日間は0.135%日とする。

④ 原子炉格納容器からの漏洩は、97%がアニュラス部に生じ、3%は原子炉格納容器のドーム部で生ずるものとする。なお、アニュラス部に漏洩したものはアニュラス空気再循環系を経て再循環し、その一部はアニュラス部の負圧維持のため排気筒から放出される。このアニュラス空気再循環系に設置されるよう素フィルタの除去効率は90%とする。
 なお、事故発生後アニュラス部の負圧の達成までに5分間を要し、この間は、アニュラス空気再循環設備のフィルタは有効でなく、格納容器からアニュラス部に漏洩してきた気体は、そのままアニュラス上部より放出されるものとする。

⑤ 大気中への拡散に用いる気象条件は、排気筒の高さ、現地の気象データをもとに「原子炉安全解析のための気象の手引」(以下「気象手引」という)を参考にして、高さ80m以下均、分布、拡散巾30°有効拡散風速15m/secとする。
解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、よう素が約29ci(Ⅰ-131換算。以下同様)、希ガス約8,600ci(0.5Mev換算以下同様)である。
 敷地外で線量が最大となるのは敷地境界(原子炉中心から約800m)であって、その地点における線量は甲状腺線量(小児)に対して約14rem、全身に対して約0.15remである。
(2) 蒸気発生器細管破損事故
 蒸気発生器細管の1本が破断し、1次冷却材が2次側へ流出して、その中に含まれる核分裂生成物が復水器エゼクタを経てタービン建屋内に放出される事故を想定する。
 事故を検知してから原子炉を停止し、1次側の除熱と減圧を行なった後2次側蒸気隔離弁を閉止する。それまでに約30分を要するが、1次冷却材の2次側への流出は、全保有量の約1/5である。
 そこで、次の仮定を用いて線量を計算する。
① 1次却材中のよう素-131の濃度は85μci/cc(被覆に欠陥のある燃料が全数の5%である状態で定格出力運転を行なっているときの平衡濃度に相当)とする。

② 2次側へ流出した1次冷却材中に含まれる核分裂生成物のうち希ガスの全部が、またよう素の一部が(液相一気相間の分配係数を100とする)復水器エゼクタを経てタービン建屋から放散されるものとする。
(3) 大気中の拡散に用いる気象条件は、現地の気象データをもとに気象手引を参考にして地上拡散、大気安定度F型、拡散布20°、有効拡散風速1m/secとする。解析の結果、大気中に放出きれる放射能は、よう素が約6.7ci、希ガスが約14,900ciである。
 敷地外で線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉中心から約800m)であって、その地点における線量は、甲状腺(小児)に対して約3.7rem、全身に対して約1remとなる。
 上記各重大事故時の被ばく線量は立地指針にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150rem、全身25remより十分小さい。

5.2 仮想事故
 仮想事故としても、重大事故と同様、二つの事故の場合を想定する。

(1) 1次冷却材喪失事故
 仮想事故としては、重大事故と同じ事故について安全注入設備の炉心の冷却効果を無視して炉心内の全燃料が溶融したと想定する。また、原子炉格納容器スプレイ設備およびアニュラス空気再循環設備の効果については重大事故と同じとし、次の点については重大事故の場合と異なる仮定をして線量を計算する。
① 炉心の100%溶融により、内蔵されている核分裂生成物のうち希ガス100%、よう素50%、固体核分裂生成物1%、相当分が原子炉格納容器内に放出される。

② 国民遺伝線量の評価における大気中での拡散に用いる気象条件は、気象手引を参考にして安定度F型、拡散幅30°、有効拡散風速1.5m/secとする。
 解析の結果、大気中に放出されるものは、よう素が約1.430ci、希ガス約432,000ciとなる。
 敷地外で線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉中心から800m)であって、その地点における線量は、甲状腺(成人)に対して約17rem、全身に対して約7.2remである。
 また、全身被ばく線量の積算値は5.9万メーremである。

(2) 蒸気発生器細管破損事故
 重大事故と同じ事故について、2次側蒸気隔離弁が閉止されず、1次冷却材中の核分裂生成物の全量が2次側へ流出すると想定する。そこで重大事故と同じ仮定を用いて線量を計算する。ただし、次の仮定は重大事故の場合と異なっている。
 大気中への拡散に用いる気象条件は、現地の気象データをもとに気象手引を参考にして、地上放散、安定度F型、拡散幅30°、有効拡散風速1.5m/secとする。
 解析の結果、大気中に放出される放射能は、よう素が約34ci、希ガスが約74,600ciである。
 敷地外で線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉中心から約800m)であって、その地点における線量は甲状腺(成人)に対して約2.1rem全身に対して約3.1remである。
 上記各仮想事故時の被ばく線量は、立地指針にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300remおよび全身25remより十分小さい。また、全身被ばく線量の積算値は、国民遺伝線量の見地から定めためやす線量の200万人remより十分小さい。


6 技術的能力

 申請者は、長年にわたり原子力発電に関する調査および原子力発電所の建設準備を行なってきており、現在美浜発電所1号炉および2号炉の建設を行なっている。
 本発電所の運転開始予定年度(昭和49年度)には、本発電所の建設ならびに運転に必要な約160名含めて、申請者全体で約500名の原子力関係技術者が必要であるとされている。これらの技術者については、現在美浜発電所の建設に従事している者に加えて、さらに国内の諸機関を活用して養成訓練を行なうほか、海外の原子力関係諸施設への派遣などによってその確保をはかる計画である。また、本発電所の運転要員については、試運転開始時までに主要技術者を米国に派遣して教育訓練を受けさせるとともに、美浜発電所等において関係者全員の教育訓練を実施するよう計画している。
 なお、本発電所の建設については、美浜発電所で経験を有するウエスチンクハウス社および三菱原子力工業株式会社が行なうことになっており、完成後の運転、保守、燃料取替計画等については、ウエスチングハウス社の指導訓練を受けることにしている。
 これらの点から、本発電所を設置するために必要な技術的能力および運転を適確に遂行するに足りる技術的能力を有するものと認める。




Ⅲ 審査経過


 本審査会は、昭和44年6月4日第70回審査会において、次の委員からなる第51部会を設置した。

審査委員
大山 彰 動力炉・核燃料開発事業団
植田 辰洋 東京大学
大崎 順彦 建築研究所(昭和44年9月9日就任)
斉藤 錬一 気象庁
左合 正雄 東京都立大学
吹田 徳雄 大阪大学
竹越 尹 電気試験所
久田 俊彦 建築研究所(昭和44年9月9日辞任)
牧野 直文 日本原子力研究所
三島 良績 東京大学
調査委員
伊藤 直次 日本原子力研究所
大崎 順彦 建築研究所(昭和44年9月9日辞任)
藤村 理人 日本原子力研究所

 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行ない、昭和44年6月20日第1回会合を開き審査方針を検討するとともに、A(炉関係)、B(装置・プラント関係)C、(環境関係)の各グループを設置して、審査を開始した。
 以後、部会および審査会においては、次表のように審査を行なってきたが、昭和44年度11月24日の部会において部会報告書を決定し、同年11月24日第75回審査会において本報告を決定した。



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