昭和44年10月13日
新型転換炉評価検討専門部会
原子力委員会
委員長 木内 四郎 殿
新型転換炉評価検討専門部会
部会長 福田 節雄
新型転換炉評価検討専門部会は、原子力委員会の下記の諮問事項に関し、昭和44年6月5日の第1回会合以来6回にわたって審議を重ね、また、本部会の下に第1分科会および第2分科会を設置し、それぞれ6回および7回の会議を開催し、動力炉・核燃料開発事業団が開発している新型転換炉原型炉の建設の具体的計画の妥当性を検討してきましたが、このたび、その結論を得たので、ここに報告いたします。
記
諮問事項
動力炉・核燃料開発事業団法第25条第1項の規定に基づいて定められた、動力炉開発業務に関する基本方針および第1次基本計画に従って、動力炉・核燃料開発事業団が開発している新型転換炉に関して、次の諸事項などについて検討を行ない、その原型炉の建設の具体的計画の妥当性を評価する。
(1) 軽水炉と比較した場合における新型転換炉の経済性の見通し、海外で開発中の重水炉との比較
(2) 新型転換炉が核燃料の多様化、核燃料資源の有効利用などエネルギーの安定供給に寄与する度合い
(3) 新型転換炉の原型炉の建設に関する動力炉・核燃料開発事業団の開発計画の技術的見地からみた妥当性
(4) 新型転換炉の自主技術による開発の効果
新型転換炉評価検討専門部会構成
部会長 |
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福田 節雄 |
成蹊大学教授 |
専門委員 |
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青木 成文 |
東京工業大学教授 |
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石原 周大 |
日本開発銀行総裁 |
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大島 恵一 |
東京大学教授 |
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加藤 芳太郎 |
東京都立大学教授 |
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向坂 正男 |
(財)日本エネルギー経済研究所所長 |
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荘村 義雄 |
電気事業連合会副会長 |
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田中 慎次郎 |
評論家 |
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堀越 禎三 |
経済団体連合会副会長 |
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前田 七之進 |
富士電機製造(株)社長 |
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松根 宗一 |
日本原子力産業会議副会長 |
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三島 良績 |
東京大学教授 |
第一分科会構成(○印幹事)
主査 |
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大島 恵一 |
東京大学教授 |
主査 |
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向坂 正男 |
(財)日本エネルギー経済研究所所長 |
構成委員 |
○ |
泉 保 |
住友原子力工業(株)技術部長代理 |
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下川 純一 |
日本原子力研究所プルトニウム燃料研究室長 |
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末田 守 |
日本原子力産業会議事務局次長 |
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○ |
武井 満男 |
(財)日本エネルギー経済研究所主任研究員 |
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竹越 尹 |
工業技術院電気試験所系統技術研究室長 |
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土屋 信人 |
関西電力(株)原子力部次長 |
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永井 純一 |
日本開発銀行営業第一部電力室副長 |
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○ |
松本 静夫 |
電源開発(株)原子力室次長 |
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三宅 申 |
電気事業連合会原子力部長代理 |
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森島 国男 |
(株)日立製作所原子力推進本部次長 |
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山田 恒彦 |
電力中央研究所主査研究員 |
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○ |
脇坂 清一 |
東京電力(株)東電原子力開発研究所嘱託 |
第二分科会構成(○印幹事)
主査 |
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青木 成文 |
東京工業大学教授 |
主査 |
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三島 良績 |
東京大学教授 |
構成委員 |
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天野 昇 |
日本原子力研究所企画室長 |
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○ |
板谷 義郎 |
(株)日立製作所原子力推進本部開発部長 |
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稲葉 栄治 |
東京芝浦電気(株)原子力技術部長 |
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○ |
大塚 益比古 |
電源開発(株)原子力室主査 |
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高市 利夫 |
富士電機製造(株)原子力部長 |
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○ |
竹内 宏 |
日本長期信用銀行調査第二課長 |
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都甲 泰正 |
東京大学教授 |
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長沼 辰二郎 |
三菱原子力工業(株)原子力部長 |
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西原 宏 |
京都大学教授 |
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松下 寛 |
野村総合研究所科学研究部長 |
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水野 勝巳 |
中部電力(株)原子力推進部次長 |
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○ |
湯原 豁 |
日本原子力発電(株)開発計画室次長 |
総論
動力炉・核燃料開発事業団は、現在、内閣総理大臣の定めている動力炉・核燃料開発事業団の動力炉開発業務に関する基本方針および第1次基本計画に基づき、新型転換炉の研究開発を実施しているが、とくにその原型炉建設の具体的計画については、事前の研究開発の成果および海外における技術の動向などを評価検討のうえ決定することとしている。
本専門部会は、原子力委員会の諮問に応じ、現在、動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃事業団」という。)が研究開発を進めている新型転換炉(以下「ATR」という。)に関する上記の評価検討を行なった結果、次の結論を得た。評価検討にあたっては、二つの分科会を設けて審議を行ない、それらの結果に基づいて総合評価を行なった。
(結論)
本専門部会は、審議の結果、動燃事業団のATR原型炉に関する具体的計画は妥当であり、その計画どおりにATR原型炉の建設を行なうことが適当であると認める。
(審議結果の概要)
(1) エネルギーの安定供給からみたATR開発の意義エネルギーの安定供給からみたATR開発の意義については、核燃料の需給状況、ATRが核燃料資源の有効利用に寄与する度合い、さらにATRが核燃料の多様化に資する態様について検討した。
(ⅰ) わが国の電力需要の伸びは、今後とも著しいものがあると予想され、電力供給の中に占める原子力の比重は急速に増大し、核燃料の安定供給の重要性は、ますます高まるものと考えられる。一方、核燃料の供給面においては、ウラン埋蔵量は、探鉱開発の努力によって、今後相当増大しうるであろうが、廉価なウランの確保は、必ずしも楽観を許さないものがある。
また、濃縮ウランについても、現在、その主たる供給源である米国においては、1980年以降は、現在の濃縮プラントに設備改良を行ない、かつ見込み生産を行なったとしても、その供給能力に不足が生ずるとみられ、また欧州各国においても、ウラン濃縮の研究開発の努力が払われており、その企業化への意欲がみられるが、その実現の見通しは、いまだ明確でない。このような状況から、需要の著しい増加に対応して、廉価な濃縮ウランの供給源が多角化される見通しは、いまだ十分でない状況にある。
(ⅱ) ATRが核燃料資源の有効利用に寄与する度合いについては、科学技術庁が行なった試算の結果によれば、ATRはウラン所要量、ウラン濃縮分離作業量の節減に大きく寄与するものであり、また、高速増殖炉の実用化が本格的となるまでの間においては、プルトニウムの蓄積に伴う経済的負担を低減することが期待される。さらにATRは、高速増殖炉の実用化後においては、天然ウラン専焼方式を採用することにより、高速増殖炉へのプルトニウムの効果的な供給源となり、ウラン所要量の節減に寄与できるものと考えられる。
(ⅲ) 核燃料の多様化については、ATRは、(イ)供給源がきわめて限られている濃縮ウランに依存せず、世界に広く供給源のある天燃ウランのみを補給することによって運転できる。(ロ)プルトニウム富化天燃ウランを燃料とする炉心と同一炉心で、微濃縮ウランを使用することができるために、核燃料の供給源の弾力的選択を行ないうるという利点を有している。
以上のとおり、核燃料資源の有効利用、核燃料の多様化など、エネルギーの安定供給からみたATR開発の意義は、昭和41年の原子力委員会の計画策定時と同様に大きいものと認められる。
(2) 炉型の選定
わが国で開発する新型転換炉として、重水減速沸騰軽水冷却型が選ばれた基準は、昭和41年の原子力委員会の内定などに示されているように、(ⅰ)核燃料の効率的利用および多様化の観点から、天然ウランをも使用しうること、(ⅱ)早期の実用化が可能であること、(ⅲ)自主開発の観点から、ブルーブンでないことの三つであった。最近の内外の動向を勘案して、検討を行なった結果、現時点においても、この基準によってわが国で開発すべき炉型を評価してさしつかえないと判断した。
この基準により、海外で開発中の新型転換炉の炉型について評価を行なった結果、重水減速沸騰軽水冷却型以外の炉型は、上記基準に適合していないと判断される。たとえば、黒鉛減速高温ガス炉は、天然ウランを使用することが困難であり、また重水減速炭酸ガス冷却型は、被覆材の問題から早期の実用化が困難であり、さらに黒鉛減速改良炭酸ガス冷却型は、すでに実用化されつつある。わが国で開発している重水減速沸騰軽水冷却型は、基準に適合した有望な炉型であり、現時点でこの炉型を変更すべき理由は見当らない。
ATRと同炉型である英国のSGHWRは濃縮ウラン使用型である。カナダのCANDUBLWは、天然ウラン専焼炉であるが、正のボイド係数が大きく、当面のわが国の開発目標としては、適当でない。一方、わが国のATRは、早期実用化が容易であり、ブルトニウム富化天然ウランを燃料として使用できるもので、濃縮ウランのみへの依存状態から脱却することが期待できる。またさらにATRは、高速増殖炉の実用化以降においては、そのプルトニウム供給源のひとつとして、天然ウラン専焼炉に発展することが可能である。
これらの理由により、ATRはわが国の開発目標として適当であると考える。
(3) 原型炉開発計画
ATR原型炉は、まず重水減速沸騰軽水冷却型動力炉プラントとしての機能を技術的に実現するとともにPuSS(注参照)を含む炉特性を確認することを主眼として設計されているが、その技術は、軽水炉技術をベースとしているので、技術的に困難なあるいは基礎的に解明を要する問題は少い。原型炉の開発にあたっては、設計データの精度の向上および確認、PuSSの実証、プラントシステム全体としてのとりまとめ、その他はじめての大型炉の開発において、必然的に付随する問題をみずから経験し、解明することが開発の大きな部分を占めている。
比較的未経験で、技術的開発要素の多いものとして、圧力管、クラスター型燃料集合体、燃料交換装置などがある。これらについては、実規模の試作試験などを行なうことになっており、その計画の実施にあたっては、燃料集合体および圧力管の完全性を高めることにとくに留意することが望まれる。しかし、原型炉の建設にあたって、技術的に大きな困難が予想されるものはない。
また、原型炉より実用炉への発屋、たとえば、原子炉冷却系の合理化、燃料燃焼度の向上などについては、今後行なわれる大型熱ループその他の研究施設による研究開発、原型炉の建設運転経験などにより、これを実現できる見通しがあるものと考えられる。なお、原型炉の開発スケジュールについては、研究開発との関連も含め、その遂行には、技術的に著しい困難はないと認められる。
(注) ATRは、プルトニウム富化天然ウランを燃料として使用できるが、その使用済燃料から回収されるプルトニウムの量が、装荷した燃料のプルトニウムの量と同量であるような燃焼方式が可能であるので、回収されるプルトニウムを天然ウランに附加することによって、必要な量の取替え燃料をつくることができる。したがって、ATRは天然ウランのみを補給することによって、炉の運転を維持できる。このような方式をプルトニウムセルフサステイン方式(puss方式)という。
(4) 経済性
(ⅰ) 発電原価の見通し
発電原価については、動燃事業団が行なった試算を資料として、評価をすすめた。
この試算に用いられた前提および諸元には、多少の変動要因および不確定要素もあるが、検討の結果、これらを試算の基礎として使用することは妥当と考えた。
評価にあたっては、ATRについては、実用規模で比較的資料の多い500MWeを選び、同規模の軽水炉と比較することとし、ATR実用炉の実現の可能性、軽水炉の最近の建設費の動向、両炉型の技術的進歩等を検討し、両炉の建設費を推算した。また、燃料コストに影響の大きい成型加工費の低減の見通し、低廉な重水の入手の見通しなどについて検討するとともに、puss、0.8%プルトニウム富化天然ウランおよび1.5%微濃縮ウランを用いる場合について発電原価を試算した。
以上の検討の結果、ATRの発電原価は、軽水炉のそれと比較して同等ないしそれ以下になしうる見通しがあると判断される。
(ⅱ) 経済上の特質 ATRは、上記発電原価の試算に含まれない次のような経済上の特質を有している。
(イ) 核燃料価格の変動が発電原価に及ぼす影響は、軽水炉に比し小さい。
(ロ) 高速増殖炉の実用化以前において、ATRは、プルトニウム富化天然ウランを燃料として使用することにより、プルトニウム蓄積に伴なう金利負担を軽減することもできる。
(ハ) 核燃料の選択の自由度が大きく、輸出相手国側の核燃料政策あるいは核燃料の需給事情などに対応しうるので、自主開発による特許、ノウハウなどの蓄積とあいまって、輸出に対する適応性が大きい。
(ニ) 軽水炉のみの場合に比してATRを投入する場合は、外貨が節減できる。
(ホ) ATRは、軽水炉と技術的類似性があるので、技術的進歩を相互に活用することも可能である。またATRの投入は、軽水炉に対して経済上の競争相手としての効果がある。
(ヘ) ATRは、多量の重水インベントリーを要するので、ATRを大量に投入する場合、長期にわたり低廉な重水が必要である。
以上のとおり、ATRの発電原価は、軽水炉と同等ないしそれ以下になしうる見通しがあり、これに上述のような経済上の特質をあわせ考慮すると、その経済性は軽水炉に比し同程度以上なしうるものと考えられる。
(5) 自主開発の効果
ATRは、これを自主開発することによって、動力炉の海外技術への依存状態より脱却するとともに、国内における核燃料サイクルの確立に資することができるほか、次のような副次的効果が期待できる。
(イ) ATR開発の技術的波及効果について調査した結果、軽水炉技術の発展、高速炉開発技術の進歩、化学プラントなどの性能向上、遠隔操作装置の他分野への応用、プロジェクト管理技法の普及など、相当の波及効果が期待できる。
(ロ) ATRは、これを自主開発することによって、輸出産業としての発展が期待されるとともに、技術開発能力が蓄積される。結果クロスライセンスなどに関する利点が大きいと判断される。
(むすび)
以上に述べたとおり、動燃事業団のATR原型炉開発計画を技術的経済的観点から評価検討した結果、ATR開発の必要性は従前のとおり大であり、また原型炉開発計画は、開発スケジュールとの関連を含め妥当であると考えられる。さらに、原型炉に続くATR実用炉は、これを技術的に達成することが可能であり、その経済性は、軽水炉と同程度以上になしうる見通しがある。
また、核燃料サイクル、海外における新型転換炉の開発の動向のいずれの観点からしても、ATR原型炉の建設を計画どおり早急にすすめることが適当であると考える。
(附帯意見)
本専門部会は、ATR原型炉建設の具体的計画について評価検討を行ない、計画どおり推進することが妥当であるとの結論を得たが、ATRの実用化を円滑に達成するためには、次の事項について留意する必要があると考える。
(1) 原型炉に引き続く実用炉を機を失しないように実現するための方策については、所要の時期までに別途検討されるべきである。
(2) ATRが実用化する時期までに、低廉な重水の確保について、海外の動向をも勘案し所要の方策を講ずるとともに、プルトニウム燃料の成型加工についても条件整備が必要であり、別途検討されるべきである。
(3) なおATR開発プロジェクトを今後とも円滑にすすめるためには、技術者の確保およびプロジェクトの適切な運営管理に一層の配慮が望ましい。
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